説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】加圧部材の軸方向において中央領域の圧力を端部領域よりも高い圧力となる圧力分布を持たせた構成としても、中央と端部との摩擦抵抗のバランスが変化しにくく、長期にわたり安定した定着処理が可能なシート状部材を有する定着装置を提供すること。
【解決手段】定着ローラの周面一部に対向して配置された定着ベルトと、定着ベルトの内側であって定着ベルトの外周面一部を前記定着ローラに押圧するための固定パッドと、固定パッド上に設けられた、定着ベルトの内面と摺動的に接触するシート部材と、を有する定着装置において、シート部材の定着ベルトの内面と摺動的に接触する部位には、均一な高さを有する複数の突起が形成されており、かつ、突起の高さ方向における平均的な断面積は、固定パッドの軸方向において、端部領域の突起の平均的な断面積よりも中央領域の突起の平均的な断面積の方が小さくなるように構成した定着装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電子写真法を利用して画像を作製する複写機、プリンタ等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
像担持体としての感光体ドラムの表面に画像データに従ったトナー像を作製し、次いで、トナー像を用紙等の転写材に転写するか、中間転写体に転写した後に転写材に二次転写し、最後に定着装置で定着処理する構成の画像形成装置はよく知られている。
【0003】
斯様な画像形成装置に備えられる定着装置として、ベルトニップ方式からなる定着装置が知られている。定着装置は、例えば、加熱定着ローラと、可回転のエンドレスベルトと、エンドレスベルトの外表面を定着ローラの周方向における所定幅にわたって押圧するようにエンドレスベルトの内側に固定して設けられた加圧部材としての固定パッドを主要素とする。複数の支持ローラに可回転に懸架されているエンドレスベルトは、通常、加熱定着ローラの回転に従動して回転する。このようなベルトニップ式の定着装置は、加熱定着ローラに対して接触しているエンドレスベルトの幅(転写材に対するニップ部である)に対応した時間分だけ未定着のトナー像を担持する転写材に対して熱供給できる利便性を有する。例えば、加熱ローラと圧着ローラとを主要素として構成されるローラ型定着装置に比して十分な定着時間を確保することができるので光沢付与手段としても利用でき、フルカラー画像形成装置用の定着装置として好適に使用することができる。
【0004】
しかしながら、エンドレスベルトを加熱定着ローラに押圧する加圧部材は位置固定であり、エンドレスベルトは加圧部材を擦りながら回転する(以下、この相対的な移動状態を摺動と呼ぶ)ことになる。換言すれば、摺動を介しての摺動抵抗の変化に起因するエンドレスベルトの不安定な移動は、転写材上におけるトナー像のズレや転写材のシワを発生させる等、定着画像の品質に直接影響することになるので、斯様な不具合を除去する工夫が必要である。
【0005】
近年、斯様な不具合を解消するための技術が幾つか提案されている。
【0006】
特許文献1には、表面に大きさが均一な凹凸を有する耐熱性、耐摩耗性のフィルムからなるシート状部材を加圧部材に被覆させ、シート状部材とエンドレスベルトの内面との接触点を減らして両者の摺動時における摺動抵抗を低減した定着装置が示されている。また、転写材のシワ発生防止のために、加圧部材の軸方向における圧力分布を、中央部が高く端部側が低くなるようにする記載がある。
【0007】
また、特許文献2には、特許文献1と同様にエンドレスベルトと加圧部材との摺動抵抗を軽減させるため、加圧部材を被覆するシート状部材の改良に関する技術が開示されている。具体的には、加圧部材の一端部(エンドレスベルトとのニップ部の一方側に相当し、転写材の出口側あたる)に金属製のロッドが設けられ、また、シート状部材の表面にはそれぞれの領域において均一な大きさと形状を有する高凹凸部と低凹凸部とが形成される。そして、加圧部材の加圧面圧が高いロッド部分に対応して低凹凸部が位置するように、また、それ以外の加圧部材の加圧領域には高凹凸部が位置するように構成した定着装置が示されている。
【0008】
また、特許文献3には、加圧部材を被覆する低摩擦のシート状部材に高さの中心値が複数段階に異なる凸部を混在させることにより、耐久寿命の末期まで急激な摩擦抵抗の増加を発生しないように構成した定着装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−148970号公報
【特許文献2】特開2004−37552号公報
【特許文献3】特開2010−164808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、2、3に開示された技術は、加圧部材に樹脂フィルムからなるシート部材を被覆するとともに、当該シート部材に多数の凹凸を形成して、エンドレスベルトの回転時に発生する摺動抵抗を低減させる有用な技術である。
【0011】
しかしながら、特許文献1のシート状部材に形成される凹凸は加圧部材の軸方向において均一な大きさを持った凹凸の集合体であり、加圧部材の軸方向において中央部の圧力が端部よりも高い圧力分布とした場合、シート状部材の中央部が早く摩耗する。その結果、転写材の中央部と両端部とにおける用紙搬送速度差に起因して、転写材に肋状の変形を発生させ、また、光沢ムラを発生させてしまう危惧がある。
【0012】
また、特許文献2のシート状部材は、エンドレスベルトの回転方向において高凹凸領域と低凹凸領域に二分されているが、加圧部材の軸方向においては、それぞれの領域に対応して、均一な大きさ、形状の凹凸が整列された凹凸の集合体である。
【0013】
また、特許文献3のシート状部材に形成される凹凸は、高さの中心値が異なる凸部を千鳥配置したことからなり、加圧部材の軸方向における凹凸は、高さの中心値が異なる2つの凹凸を1単位として同じ単位の凹凸の集合体である。
【0014】
斯様に、全特許文献におけるシート部材上の凹凸は、加圧部材の軸方向において突起(凸)の断面形状あるいは大きさが均一であり、加圧部材の軸方向において大きさ等を変える態様については考慮されていない。
【0015】
本願発明は上述に鑑みてなされたもので、加圧部材の軸方向において中央領域の圧力を端部領域よりも高い圧力となる圧力分布を持たせた構成としても、中央と端部との摩擦抵抗のバランスが変化しにくく、長期にわたり安定した定着処理が可能なシート状部材を有する定着装置を備えた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明の目的は、下記の構成要件によって達成することができる。
【0017】
1.定着ローラと、
前記定着ローラの周面一部に対向して配置された定着ベルトと、
前記定着ベルトの内側であって前記定着ベルトの幅方向に沿って設けられた、当該定着ベルトの外周面一部を前記定着ローラに押圧するための固定パッドと、
前記固定パッド上に設けられた、前記定着ベルトの内面と摺動的に接触するシート部材と、
を有する定着装置において、
前記シート部材の前記定着ベルトの内面と摺動的に接触する部位には、均一な高さを有する複数の突起が形成されており、かつ、
前記突起の高さ方向における平均的な断面積は、前記固定パッドの軸方向において、端部領域に形成された突起の平均的な断面積よりも中央領域に形成された突起の平均的な断面積の方が小さくなるように構成したことを特徴とする定着装置。
【0018】
2.前記突起は、高さが均一であり底面の前記固定パッドの軸方向の幅が異なるように構成したことを特徴とする前記1に記載の定着装置。
【0019】
3.定着ローラと、
前記定着ローラの周面一部に対向して配置された定着ベルトと、
前記定着ベルトの内側であって前記定着ローラの幅方向に沿って設けられた、当該定着ベルトの外周面一部を前記定着ローラに押圧するための固定パッドと、
前記固定パッド上に設けられた、前記定着ベルトの内面と摺動的に接触するシート部材と、
を有する定着装置において、
前記シート部材の前記定着ベルトの内面と摺動的に接触する部位には、同一の形状及び高さを有する複数の突起が形成されており、かつ、
前記突起は、前記固定パッドの軸方向において、中央領域と端部領域における耐摩耗性の関係が、中央領域>端部領域を満たすように構成したことを特徴とするベルトニップ式定着装置を備えた定着装置。
【0020】
4.前記突起は、同一の形状及び高さであり、中央領域と端部領域とで前記突起を形成する材料を異ならせたことを特徴とする前記3に記載の定着装置。
【0021】
5.前記突起は、同一の形状及び高さであり、中央領域と端部領域とで耐摩耗性を制御するために前記突起に塗布する塗布材料の塗布量を異ならせたことを特徴とする前記3に記載の定着装置。
【0022】
6.前記突起の高さは、40μm以上、300μm以下であることを特徴とする前記1乃至5に記載の定着装置。
【0023】
7.トナー画像を形成する画像形成部と、前記画像形成部において形成されたトナー画像を記録媒体に転写する転写部と、前記転写部において転写されたトナー画像を定着するための前記1乃至6に記載の定着装置と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係わる発明は、シート部材に形成された突起(凹凸)は、固定パッドの軸方向において、端部領域に形成された突起の高さ方向における平均的な断面積に比して中央領域に形成された突起の高さ方向における平均的な断面積を小さくした構成からなる。そのために、例えば、固定パッドの軸方向において中央領域の圧力が端部領域よりも高い圧力となる圧力分布を持たせて転写材のシワ発生を防止できる構成と組み合わせることができる。また、その場合、中央領域の凹凸は端部領域における凹凸に比して摩耗が早くなるが、接触面積が小さいので端部領域に対して摩擦抵抗が大きくなりにくく、中央領域と端部領域との摩擦抵抗のバランスが変化しにくく、長期にわたって安定した定着処理が可能である。
【0025】
また、請求項3に係わる発明は、固定パッドの軸方向において、シート部材の中央領域と端部領域とを異なる材料で、かつ、中央領域と端部領域における耐摩耗性の関係が、中央領域>端部領域を満たす構成からなる。また、少なくとも前記定着ベルトの内面と摺動的に接触するシート部材の部位には、同じ形状、高さの多数の凹凸が形成されている構成を有する。そのために、中央部が摩耗しにくいので、固定パッドの軸方向において中央領域の圧力を端部領域よりも高い圧力となる圧力分布を持たせた構成としても、中央と端部との摩擦抵抗のバランスが変化しにくく、長期にわたり安定した定着処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】デジタル画像形成装置の主要部を示す概念図である。
【図2】定着装置の構成を説明するための概念図である。
【図3】固定パッドの斜視図である。
【図4】固定パッドの軸方向における圧力分布を示す説明用の図である。
【図5】すべりシートに形成される凹凸断面について第1の実施の形態を示す概念図である。
【図6】転写材の移動方向と凹凸を表面に有するすべりシートの定着処理時における位置関係を示す図である。
【図7】すべりシートに形成される凹凸断面について第2の実施の形態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明に係わる一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はデジタル画像形成装置の主要部を示す概念図である。
【0028】
図1において、1は感光体ドラムからなる像担持体で、スタート釦が押されると矢示の時計方向に回転される。2はコロナワイヤ電極を備えた帯電手段で、画像形成プロセスに従って付勢され、像担持体1の表面に一様な帯電を施す。
【0029】
3は露光手段で像担持体表面にドット露光を行い、静電潜像(以下、単に潜像という)を形成する。換言すれば、露光手段3は、図示しない走査露光手段により照射された原稿からの反射光がライン状のCCD上に結像され、適宜の画像処理が施されて得られた画像データに基づいて制御され、変調されたレーザ光を像担持体1に照射する。上述のレーザ光による像担持体1に対する主走査方向の走査と、像担持体1の副走査方向の回転に伴って像担持体1の表面に潜像が形成されることになるが、斯様な構成は公知であるので詳細な説明は省略する。露光手段3で形成された潜像は現像装置4により顕像化されてトナー画像(以下、トナー像という場合が有る)とされる。
【0030】
4は現像剤担持体(スリーブ)40、現像剤撹拌部材(本図では省略)等を内蔵する容器から形成される現像手段としての現像装置であり、容器内には、例えば、磁性キャリアと、負帯電特性を示す非磁性のトナーとを主要素とする二成分系の現像剤が備えられる。また、現像剤担持体40は円筒状としたアルミニウム等の非磁性金属からなり、その内部には、現像剤担持体の内壁面に沿って磁界発生手段としての磁石が位置固定で配設されている。磁石の配列は、現像剤担持体40の周面に現像剤を担持させ、現像剤担持体40の独立した回転を介して、現像剤を現像処理位置まで搬送させ、更に、現像処理を終えた現像剤を自動的に現像剤担持体40の周面から除去する機能を果たす。斯様な構成はよく知られているので図面では割愛してある。
【0031】
BLは非磁性金属からなる層厚規制部材(ブレード)であり、現像剤供給手段により供給されて現像剤担持体40の周面に担持される現像剤の厚み(穂立ち長さ)を所定の厚みに規制する。
【0032】
現像剤担持体40には所定極性(ここでは負極性)の電圧を出力する現像バイアス電源(不図示)が電気的に接続されており、現像処理時、現像剤担持体40と像担持体1との間に反転現像のための電界を形成するようになっている。
【0033】
5は転写部を構成する接触転写方式からなる転写手段で、反時計方向に回転される転写部材としてのベルト50(以下、ベルト転写部材50という)と、ベルト転写部材50を像担持体1に可変に押圧する可回転ローラからなる押圧部材55を主要素とする。
【0034】
51および53は、ベルト転写部材50を可回転に懸架する駆動ローラおよび従動ローラである。押圧部材55には転写バイアス電源(不図示)が電気的に接続されている。当該転写バイアス電源は、像担持体1の画像領域上に形成されたトナー画像を用紙等の転写材Pに転写せしめるときの転写バイアス(ここでは正極性)を、押圧部材55を介してベルト転写部材50に印加することができる。
【0035】
57はベルト転写部材50の表面をクリーニングするためのベルトクリーニング手段である。なお、転写手段5の上流側にあるRはレジストローラを示し、画像形成プロセスに応じて回転制御され、転写材Pを転写領域に向けて送り出す。6は像担持体1の表面をクリーニングするクリーニング手段で、像担持体1の回転方向において上流側の位置に設けられた可回転のブラシ60と、下流側の位置において像担持体1の回転方向に対してカウンタ方向に設けられたブレード61とを主要素とする。
【0036】
7はガイド部材で、ベルト転写部材50により搬送される転写、分離後の転写材Pを受けとりガイドするとともに、搬送ローラR1により継続して搬送される転写材Pをベルトニップ式の定着装置8のニップ部に向けてガイドする。定着装置8は図2に示す構成を有するが説明は後述する。R2排紙ローラで、定着処理された転写材Pを画像形成装置GSの外側に設けた排紙トレイ9に排出する。
【0037】
Sは制御手段で、機械作動のプログラムを内蔵し、一連の画像形成プロセスに係わる制御、現像バイアス制御、転写バイアス制御、定着温度制御等、全ての制御を行う。換言すれば、制御手段Sは、演算制御処理を行うCPUと、各種動作プログラムを記憶しているROM、演算結果データを記憶するRAM等を有する。そして、インターフェースを介して各種センサの出力をCPUに取り込むとともにモータ等を駆動制御する。
【0038】
上述の画像形成装置による画像形成動作につき説明する。
【0039】
画像形成開始に伴って回転される像担持体1に対して、制御手段Sの制御の下に帯電手段2、露光手段3等からなるトナー画像形成手段が適宜に作動され、像担持体1上には原稿画像に対応した潜像が形成される。前記潜像は現像装置4により顕像化される。一方、画像形成プロセスに従って給紙トレイKTから給紙手段KRにより送り出された転写材PはレジストローラRに突き当たって停止される。次いで、トナー画像と重畳するタイミングで駆動制御されるレジストローラRの回転により送り出され、ベルト転写部材50で搬送されて転写部に至り、像担持体1に担持されている未定着のトナー画像が転写材P上に転写される。次いで、転写材Pは定着装置8により加熱、加圧処理を施された後、排紙ローラR2により排紙トレイ9に排出される。転写部を通過した像担持体1はブラシ60とブレード61の掻き取り作用によりクリーニングされ、次の画像形成に備えられる。また、ベルト転写部材50の表面は、ベルトクリーニング手段57によりクリーニングされ、新たな転写材Pの搬送、転写の準備がなされる。以上の動作が、一連の画像形成ジョブを終えるまで繰り返されることになる。
【0040】
なお、図1において、現像剤担持体と像担持体とは、両者の近接点で見て、互いに順方向(同一方向)に回転する構成となっているが、回転方向のみについて述べれば、互いに逆方向に回転する構成としてもよい。
【0041】
図2は、本願発明に係わる定着装置の構成を説明するための概念図であり、主要部のみを示す。図2において、7は既出のガイド部材、Pは転写材、80は加熱部材としての定着ローラで加熱源Hを内蔵する。また、定着ローラ80の表面温度を所定温度範囲に保つための温度検知センサ800が、定着ローラ80の表面に対して接触または非接触で設けられている。82はエンドレスベルトからなる定着ベルトで、支持ローラ820、821、822により可回転に支持されて、定着ローラ80の周面一部に対向して配置されている。支持ローラ820は定着ローラ80の周面から離れた位置にあり、転写材Pの進入路を形成している。また、支持ローラ821は定着ベルトを介して定着ローラ80に圧接しており、後述するニップ部Nから排出される転写材Pを自動分離させる分離ローラ手段として機能する。支持ローラ822はステアリングローラとして機能するように、一方の端部が他方の端部を支点として図における上下方向に移動可能になっている。
【0042】
84は定着ベルトの内側空間部に設けられた加圧部材としての固定パッドで、定着ベルト82の外周面一部を常に定着ローラ80の周面に沿って押圧する機能を有する。固定パッド84は、定着ベルト82の移動方向と直交する方向(定着ベルトの幅方向)に設けられており、定着ベルト82の幅よりもやや短い軸方向長さを有するとともに、定着ローラ80の曲率とほぼ同じ曲率の曲面850の弾性層を備えている(図3参照)。曲面850の幅(定着ベルトの移動方向における長さと同義)寸法は固定パッド84の軸方向長さに比して小さく、数十mmである。以後、固定パッドの長さ方向を表す場合に固定パッドの軸方向と表現する場合がある。前記弾性層は、定着ベルトを介して定着ローラ80に対向するものであり、また、前記弾性層の一端部(後述するニップ部の出口側端部を指す)には硬質のロッドLが設けられている(図3参照)。Nはニップあるいはニップ部で、固定パッド84の押圧動作完了状態において定着ベルト82と定着ローラ80とにより形成される。840はバネからなる駆動源であり、前記固定パッド84を位置移動させることにより、定着ローラ80と定着ベルト82との押圧を完成させる。
【0043】
845は耐熱性および耐摩耗性を有する合成樹脂フィルムからなるすべりシートで、少なくとも定着ローラ80と対向する固定パッド84上の範囲を覆う大きさを有し、当該固定パッド84に固定して設けられている(図3参照)。換言すれば、定着ベルト82の走行時に当該定着ベルト82の内面と摺動的に接触する。
【0044】
なお、すべりシート845は、背景技術の欄で述べたシート状部材に対応する。すべりシート845の表面には多数の突起(以下、凸ともいうが、格別に凸という必要が無いと思われる場合には凹凸と呼称する場合がある)846(図5、図6参照)が形成されている。凸の形状は、例えば、四角錐とすることができ、固定パッド84の軸方向(長手方向と同義)における長さの1/3に当たる中央領域と、中央領域を挟んだ左右の端部領域における凸は異なる大きさを有する。具体的には、凸の高さ方向における平均的な断面積の大きさは、固定パッド84上の端部領域に位置づけられる領域は大きく、中央領域に位置づけられる領域は小さく形成される。
【0045】
これは、本実施の形態が、固定パッドの圧力分布を固定パッドの軸方向において中央を高く、端部はそれよりも低くする(図4参照)ことにより、ニップ部における転写材の移動速度が、中央よりも端部が早くなるようにした構成に関係する。斯様な構成は、紙シワやみみず状の画像不良発生を防止できる効果がある。
【0046】
なお、突起の高さは、すべりシートの厚さとの関係で決定される要素はあるが、実用的には40μm以上、300μm以下であることが望ましい。40μm未満であると中央両域の凸の摩耗が早く、端部領域との摩擦抵抗のバランスが変化しやすく、また、300μmを超えると突起の形成が困難になる危惧がある。
【0047】
図5にすべりシートに形成される凹凸断面について第1の実施の形態を示す。図5において、固定パッドの軸方向における中央領域と端部領域に対応して位置づけられる四角錐からなる凸の断面積あるいは形状、大きさを概念図として示す。図において、各領域には1つの凸が代表的に示される。中央領域の凸は端部領域の凸と高さhは同じであるが、軸方向(図の左右方向)における底辺の寸法が小さく形成されている。換言すれば、端部領域の凸の断面積に比して中央領域の凸の断面積は小さく形成される。これら凸はすべりシート845の基準面からの高さが同じである。
【0048】
「断面積」なる語は、1つの凸あるいは異なる大きさの凸を比較する場合などには、「高さ方向における断面積」と表現されるが、例えば、同じ大きさを有する多数の凸の集合を表す場合には、「高さ方向における平均的な断面積」と表現する。但し、説明の便宜上、あえて区別する必要が無い場合には、単に断面積という。
【0049】
図6は転写材の移動方向と凹凸を表面に有するすべりシートの定着処理時における位置関係を示す。図6において黒点で示す847は凸846の頂点を示し、対角線上の凸の頂点間隔(センターピッチ)pは、例えば、1.4mmである。すべりシート845は、互いに隣接する多数の突起846の列が矢印で示す転写材Pの移動方向に対して傾きをもって配置され、千鳥配列となるように関係づけられている。ここで図2に戻って動作説明を簡潔に説明する。上述の如くの凹凸を有するすべりシート845を備えたベルトニップ式の定着装置に未定着のトナー像を担持した転写材Pが搬送されてくると、回転動作中の定着ローラ80と定着ベルト82とで形成されるニップ部Nの入口部に達し、次いで挟持、搬送される。定着ローラ80の表面温度は未定着のトナー像を溶融するに十分な温度に制御されており、転写材P上のトナー画像は定着ローラ80と接触して加熱される。同時に、加圧部材である固定パッド84を介しての加圧作用が加えられ、トナー画像は順次、転写材Pに確実に定着される。その後、転写材Pはニップ部Nの出口側にある支持ローラ821の曲率により定着ローラ80から分離され、既に述べた排紙ローラR2(図1参照)により機外に排出される。定着処理時における定着ベルト82は固定パッド84上に設けられたすべりシート845に対して摺動することになるが、すべりシート845上に形成された凹凸によって接触面積が低減されているので摺動抵抗は適宜の範囲に押さえられ、定着ベルト82の走行移動に支障をきたすことから回避される。また、固定パッド84の軸方向における圧力分布は、中央領域が端部領域に比して高くした構成を有しているので、転写材の安定した搬送を行うことができる。一方、中央領域に対応した領域に位置づけられたすべりシート845上の凸は、ニップ時間あるいは定着処理動作時間の長期化につれて端部領域の凸よりも摩耗開始が早くなる。しかしながら、中央領域に存在する凸の接触面積が小さいので端部領域に対して摩擦抵抗が大きくなりにくい。即ち、中央領域と端部領域との摩擦抵抗のバランスが変化しにくいために、長期にわたって安定した定着処理が可能となる。
【0050】
なお、上記においては、固定パッドに対応して区画される領域を2つの端部領域と1つの中央領域の3つのエリアとし、それぞれの領域を等分としたが、その比率は限定されるものではない。また、領域についても4つ以上とすることができ、あるいは、中央から端部に行くに従って徐々に高さ方向における断面積が大きくなる態様としてもよい。斯様に、すべりシートに形成される凸の形状や大きさ等は実験を介して得られる所期の目的を達成できるものであれば適宜に決定でき、設計の自由度は広い。
【0051】
上記第1の実施の形態における定着装置の各種構成要素は下記の如くである。
【0052】
加熱回転体である定着ローラ80は、外径が80φの中空の芯金上に厚さ1.5mmのシリコンゴムからなる弾性層を設け、更にその外側に、離型層として50μm厚のPFA(フッ素樹脂)チューブを被覆した構成を有する。また、定着ローラの内部空間に設けられた加熱源は1000Wのハロゲンランプである。
【0053】
定着ベルト82は、厚さ70μmのポリイミド樹脂基体上に厚さ200μmのシリコンゴムからなる弾性層を設け、更にその外側に、離型層として30μm厚のPFAチューブを被覆した構成を有する。
【0054】
ニップ部の出口側に位置する支持ローラ821は、SUS製の中実ローラで、外径が20φである。
【0055】
加圧部材である固定パッド84は、SUS製の基体上に定着ローラの曲率に近い曲面形状のシリコンゴムからなる弾性層を有し、パッドニップ幅20mmとする構成を有する。シリコンゴムの硬度はJISA20°である。
【0056】
すべりシート84は、70μm厚のポリイミドフィルムであり、突起の高さは概ね40〜300μmである。
【0057】
次に、すべりシート845に係わる第2の実施の形態について説明する。
【0058】
第1の実施の形態と異なる点は、すべりシートに形成される凹凸の大きさ、形状を同一とするとともに、固定パッド上の軸方向における中央領域と端部領域とに対応した中央領域と端部領域との耐摩耗性の関係を、中央領域>端部領域を満たす構成としたことである。図7は中央領域と端部領域における凹凸が実質的に同じ大きさ、形状であり、あるいは高さ方向における断面積が同一であることを説明するための概略図であり、各領域には1つの凸が代表的に示される。
【0059】
耐摩耗性は、例えば、所定の大きさの凹凸が形成された合成樹脂フィルムの表面にナノ単位のフィラーを含有する塗料をコーティングすることによって得られる。摩耗特性は、フィラーの種類あるいはフィラーの含有量を制御すること等により調整できる。コーティングの場合には、中央から端部に向けて多段階、または実質的に連続的に耐摩耗性が小さくなるように設けることが可能である。
【0060】
また、コーティングの代わりに、例えば、摩耗特性が異なる合成樹脂フィルムに凹凸を形成させたことからなる3枚のすべりシートを固定パッド上の軸方向における中央領域と端部領域とに固定して設ける構成としてもよい。
【0061】
本願発明は上記の実施の形態に拘束されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱することのない応用、変形を包含するものである。
【符号の説明】
【0062】
1 像担持体
2 帯電手段
3 露光手段
4 現像装置
5 転写手段
6 クリーニング手段
7 ガイド部材
8 定着装置
80 定着ローラ(加熱回転体)
82 定着ベルト
820,821,822 支持ローラ
84 固定パッド(加圧部材)
840 駆動源
845 すべりシート(シート状部材)
846 突起(凸)
850 曲面
847 突起(凸)の頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着ローラと、
前記定着ローラの周面一部に対向して配置された定着ベルトと、
前記定着ベルトの内側であって前記定着ベルトの幅方向に沿って設けられた、当該定着ベルトの外周面一部を前記定着ローラに押圧するための固定パッドと、
前記固定パッド上に設けられた、前記定着ベルトの内面と摺動的に接触するシート部材と、
を有する定着装置において、
前記シート部材の前記定着ベルトの内面と摺動的に接触する部位には、均一な高さを有する複数の突起が形成されており、かつ、
前記突起の高さ方向における平均的な断面積は、前記固定パッドの軸方向において、端部領域に形成された突起の平均的な断面積よりも中央領域に形成された突起の平均的な断面積の方が小さくなるように構成したことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記突起は、高さが均一であり底面の前記固定パッドの軸方向の幅が異なるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
定着ローラと、
前記定着ローラの周面一部に対向して配置された定着ベルトと、
前記定着ベルトの内側であって前記定着ローラの幅方向に沿って設けられた、当該定着ベルトの外周面一部を前記定着ローラに押圧するための固定パッドと、
前記固定パッド上に設けられた、前記定着ベルトの内面と摺動的に接触するシート部材と、
を有する定着装置において、
前記シート部材の前記定着ベルトの内面と摺動的に接触する部位には、同一の形状及び高さを有する複数の突起が形成されており、かつ、
前記突起は、前記固定パッドの軸方向において、中央領域と端部領域における耐摩耗性の関係が、中央領域>端部領域を満たすように構成したことを特徴とするベルトニップ式定着装置を備えた定着装置。
【請求項4】
前記突起は、同一の形状及び高さであり、中央領域と端部領域とで前記突起を形成する材料を異ならせたことを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記突起は、同一の形状及び高さであり、中央領域と端部領域とで耐摩耗性を制御するために前記突起に塗布する塗布材料の塗布量を異ならせたことを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項6】
前記突起の高さは、40μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5に記載の定着装置。
【請求項7】
トナー画像を形成する画像形成部と、前記画像形成部において形成されたトナー画像を記録媒体に転写する転写部と、前記転写部において転写されたトナー画像を定着するための請求項1乃至6に記載の定着装置と、を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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