説明

実環境シミュレート大気腐食試験装置とその装置を用いる実環境シミュレート大気腐食試験法

【課題】 実環境で、直径数μmから数十μmの飛来海塩粒子が付着し、結露により凝縮して腐食が加速する機構を再現可能にするとともに湿度を任意に調整可能とすることにより実環境に近い大気腐食試験をシミュレートできる装置と方法を提供する。
【解決手段】 エアーバブル発生装置を制御するプログラマブルコンセントと、エアーポンプにより海塩粒子を含む空気を試験片のある腐食槽に送る海水槽とからなる海塩粒子発生機構と、海塩粒子発生機構から送られた海塩粒子を含む空気から試験片の表面に海塩粒子を付着するとともに試験片の温度と湿度を制御するプログラマブル恒温・恒湿プレートとからなる腐食機構と、海塩分離機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は金属材料の破壊の主要な原因とされている大気腐食に関するものである。さらに詳しくは、構造用金属材料の応力腐食割れ(SCC)試験を実環境に近い状態で再現することができる実環境シミュレート大気腐食試験装置とその装置を用いる実環境シミュレート大気腐食試験法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の材料破壊は一般に材料の表面や内部に小さな割れが発生し、そこに何らかの力が集中して亀裂が大きくなることにより発生するがこのような材料破壊の多くは材料の腐食または疲労による亀裂が主な原因であるとされている。
【0003】
たとえば、構造材として汎用されているステンレス鋼も高温の水中で引張応力を付与しつづけると応力腐食割れを起こすことが知られており、そのため金属材料、特に構造材として用いる金属材料の応力腐食割れについては従来から大きな関心が払われてきている。とりわけ、海浜地域で金属材料を使用する場合は海から飛来する海塩粒子が金属材料の腐食に対して大きな影響を与えることから金属材料と海塩粒子による腐食に関する研究が数多くなされている。
【0004】
最近では海塩粒子と銀の反応により液膜の動きが防止されることを利用して、湿度の増加に伴う水晶マイクロバランス法による周波数の増加から飛来海塩粒子量を推定する飛来海塩測定装置などが特許出願されている(特許文献1〜3)。
【0005】
また、構造用金属材料の応力腐食割れ(SCC)試験において、数十μmの微小な飛来海塩粒子を発生させることにより実環境に近い状態で試験片の表面に付着することができる飛来海塩測定装置については、この出願の発明者等も実環境シミュレート大気腐食試験装置として特許出願している(特許文献4)。
【特許文献1】特開平11−326019号公報
【特許文献2】特開平11−326020号公報
【特許文献3】特開2004−309248号公報
【特許文献4】特開2004−132752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまで知られている実環境シミュレート大気腐食試験装置は実環境と同じ程度の数十μmの微小な飛来海塩粒子を発生させて試験片の表面に付着させることは可能であるが、海水槽をエアーポンプの加圧空気でバブルさせて海塩粒子を加圧空気とともに搬送しているため腐食漕内での湿度を任意に調整することができなかった。そこで、この出願の発明は腐食漕内に水槽を設けて湿度を調整することを可能にするものであり、さらに実環境に近い状態で腐食が加速する機構を再現できる実環境シミュレート大気腐食試験装置と実環境シミュレート大気腐食試験法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この出願の発明は上記の課題を解決するためのものであって、第1には、エアーポンプからの空気の供給によって海水槽にてエアーバルブを発生させるエアーバブル発生機構の制御を行うプログラマブルコンセントと、海水槽にてエアーバブルにより海塩粒子を生成させ、海塩粒子を含む空気を腐食槽に送る海塩粒子発生機構と、海塩粒子発生機構から送
られた海塩粒子を含む空気を導入するとともに試験片と水槽が設けらた腐食槽と、腐食機構から排出される空気から海塩粒子を分離して排気する排気槽を備え、腐食槽内の試験片の温度と湿度を制御するプログラマブル恒温・恒湿プレートを有していることを特徴とする実環境シミュレート大気腐食試験装置を提供する。
【0008】
第2には、プログラマブル恒温・恒湿プレートが水槽を加熱する手段と試験片を加熱する手段が独立して設けられている上記の実環境シミュレート大気腐食試験装置を提供する。
【0009】
第3には、プログラマブル恒温・恒湿プレートにより試験片の温度を海塩粒子を含む空気の送風温度より低くするとともに湿度を高くして試験片の表面に海塩粒子を結露した後、乾燥させる実環境シミュレート大気腐食試験方法を提供する。
【0010】
第4には、プログラマブル恒温・恒湿プレートによる試験片の温度と湿度の調整および海塩粒子を含む送風空気の温度と湿度を選択して組み合わせた後で付着海塩粒子の結露と乾燥を繰り返す実環境シミュレート大気腐食試験法を提供する。
【0011】
第5には、試験片の表面に30〜40℃で海塩粒子を付着後10〜15℃で結露した後、試験片の温度を50〜70℃に上昇して湿度を25〜35%程度に保持する操作を繰り返す実環境シミュレート大気腐食試験法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
この出願の第1の実環境シミュレート大気腐食試験装置の発明によれば、構造用金属材料の大気腐食試験を実験室内においても実環境に近い状態で簡単にシミュレートすることができる。
【0013】
第2の実環境シミュレート大気腐食試験装置の発明によれば、腐食室内の温度と湿度を独立して設けて制御することにより試験片表面の湿度を任意に調整することができる。
【0014】
第3の実環境シミュレート大気腐食試験方法の発明によれば、プログラマブル恒温・恒湿プレートによる試験片の温度を海塩粒子を含んだ空気の温度より低くするとともに湿度を高くすることにより試験片に海塩粒子を効率的に結露させて実環境に近い状態で大気腐食試験法をシミュレート提供できる。
【0015】
第4の実環境シミュレート大気腐食試験方法の発明によれば、試験片の温度と湿度および海塩粒子を含む送風空気の温度と湿度を調整した後、試験片の表面に海塩粒子の結露、乾燥を繰り返すことにより実環境に近い状態で大気腐食試験法を連続してシミュレートできる。
【0016】
第5の実環境シミュレート大気腐食試験方法の発明によれば、試験片の温度を特定の温度範囲に保持することにより実環境に近い状態で大気腐食試験をシミュレートすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この出願の発明を図1〜図4にしたがって具体的に説明すると、この出願の発明の実環境シミュレート大気腐食試験装置はエアーバブル発生装置の定期的な制御を行うプログラマブルコンセント(1)と、エアーポンプ(2)により海水に空気を吹き込んで海水槽(3)から細かい泡をバブルすることにより生成される海塩粒子を含む空気を試験片(6)のある腐食槽(7)に送ることができる海塩粒子発生機構と、海塩粒子発生機構から送られた海塩粒子を含む空気を内部に受け入れ、内部の試験片(6)表面に海塩粒子を捕獲可
能とした腐食槽(7)と、腐食槽(7)内で試験片(6)と水槽(5)と、腐食槽(7)内の温度と湿度を制御することができるプログラマブル恒温・恒湿プレート(4)とからなる機構と、腐食槽(7)から排出された海塩粒子を含む空気から海塩粒子を分離して排気する排気槽(8)を含む海塩分離機構を備えている。図2はエアーポンプ(2)により海水に空気を吹き込んで海水槽(3)から細かい泡をバブルさせて海塩粒子の生成する機構を示している。この出願の発明の実環境シミュレート大気腐食試験装置は上記のような構造を有しているが、この実環境シミュレート大気腐食試験装置における温度と湿度の調整については、水槽(5)を加熱するヒーターと試験片(6)を加熱するヒーターが独立して設けられたプログラマブル恒温・恒湿プレート(4)を制御することにより達成される。また、生成される飛来海塩粒子の大きさは、海水槽(3)内に収容される海水の濃度で調製することができる。
【0018】
この場合試験を行う前に塩濃度の異なる種々の人工海水を予め作っておき、再現したい模擬試験環境に応じて選択して使用することにより任意の環境条件を再現することができる。
【0019】
以下この出願の発明について、実施例によりさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0020】
<実施例1> 腐食槽の温度を30℃に保ながら試験片としてSUS304鋼のU-b
endを用いて海塩粒子付着速度2mddで11時間温度保持する。1時間かけて15℃に降下して結露をさせつつ海塩粒子を付着させる。その後、送風を止め1時間70℃で保持した。この時の湿度は28%であった。
【0021】
これを1サイクルとして1週間連続実験を行なった。図3の写真は試験後の試験片の表面写真である。また、図4の写真は試験片の表面を研磨してさびを落とした時の表面の光学顕微鏡写真である。応力腐食割れ試験による亀裂が発生しているのが確認できた。
【0022】
<実施例2> 腐食槽の温度を30℃に保ながら試験片としてSUS304鋼のU-b
endを用いて海塩粒子付着速度2mddで11時間温度保持する。1時間かけて15℃に降下して結露をさせつつ海塩粒子を付着させる。その後、送風を止め1時間60℃で保持した。この時の湿度は32%であった。
【0023】
これを1サイクルとして1週間連続実験を行ない試験片の表面に応力腐食割れ試験による亀裂が発生しているのが確認できた。
【0024】
<実施例3> 腐食槽の温度を30℃に保ながら試験片としてSUS304鋼のU-b
endを用いて海塩粒子付着速度2mddで11時間温度保持する。1時間かけて15℃に降下して結露をさせつつ海塩粒子を付着させる。その後、送風を止め1時間50℃で保持した。この時の湿度は35%であった。
【0025】
これを1サイクルとして1週間連続実験を行ない試験片の表面に応力腐食割れ(SCC)試験による亀裂が発生しているのが確認できた。
【0026】
なお、上記の実施例1〜3の結果から保温温度を50〜70℃にして湿度を25〜35%程度に保持する場合には応力腐食割れ試験に好適な温度範囲であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この出願の実環境シミュレート大気腐食試験装置の概要を示した斜視図である。
【図2】海水槽の断面を示した斜視図である。
【図3】腐食試験直後の海塩粒子が付着したU−bend試験片の拡大写真である。
【図4】腐食試験後の試験片の表面を研磨した後の光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0028】
1 プログラマブルコンセント
2 エアーポンプ
3 海水槽
4 プログラマブル恒温・恒湿プレート
5 水槽
6 試験片
7 腐食槽
8 排気槽
9 連通管
A 海水
B 導入管
C 排気管
D 空隙層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアーポンプからの空気の供給によって海水槽にてエアーバルブを発生させるエアーバブル発生機構の制御を行うプログラマブルコンセントと、エアーバブルにより海水槽にて海塩粒子を生成させ、海塩粒子を含む空気を腐食槽に送る海塩粒子発生機構と、海塩粒子発生機構から送られる海塩粒子を含む空気を導入するとともに内部に試験片と水槽が設けられている腐食槽と、腐食槽から排出される海塩粒子を含む空気から海塩粒子を分離して排気する排気槽を備え、腐食槽内の試験片の温度と湿度を制御するプログラマブル恒温・恒湿プレートを有していることを特徴とする実環境シミュレート大気腐食試験装置。
【請求項2】
プログラマブル恒温・恒湿プレートにおいて、水槽を加熱する手段と試験片を加熱する手段が独立して設けられていることを特徴とする請求項1に記載された実環境シミュレート大気腐食試験装置。
【請求項3】
プログラマブル恒温・恒湿プレートにより試験片の温度を海塩粒子を含む空気の送風温度より低くするとともに湿度を高くすることにより試験片の表面に海塩粒子を付着および結露させることを特徴とする請求項1または2に記載された実環境シミュレート大気腐食試験装置を用いる大気腐食試験法。
【請求項4】
試験片の表面に海塩粒子を付着させた後、結露と乾燥を繰り返すことを特徴とする請求項3に記載された実環境シミュレート大気腐食試験法。
【請求項5】
試験片の表面温度を30〜40℃にして海塩粒子を付着させた後、試験片の温度を10〜15℃に降下して結露し、さらに湿度を25〜35%程度に保持しながら試験片の温度を50〜70℃に上昇する操作を繰り返すことを特徴とする請求項3ないし4のいずれかの実環境シミュレート大気腐食試験法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−258506(P2006−258506A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74038(P2005−74038)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】