説明

実質的に純粋なヒト網膜前駆細胞培養物、前脳前駆細胞培養物、網膜色素上皮細胞培養物、及び、それらの製造方法

本発明は、ヒト神経網膜前駆細胞、前脳前駆細胞、及び、網膜色素上皮細胞の実質的に純粋な培養物を生成する方法を提供する。また、本発明は、ヒト網膜形成の主要な発達段階を通じてのヒト胚幹細胞及びヒト由来の多能性肝細胞の分化を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2009年8月24日付で出願された米国仮出願第61/274、962号(その全体は参照により本明細書に組み込まれる。)に基づく優先権の利益を享受する。
【0002】
[政府援助研究又は開発に関する声明]
本発明は、以下の機関に授与された米国政府の支援を受けてなされた:国立眼研究所MSN116835。米国政府は、本発明において一定の権利を保有する。
【背景技術】
【0003】
人間の発達(human development)において、網膜組織(retinal tissue)の生成(genesis)及び更なる分化は、良く定義され、かつ保存された発達プログラムをたどる。ここには、網膜形成の主要な段階を区別するのに有用な様々なマーカーがある。網膜形成(retinogenesis)は、人間の発達の最初の数週内に始まり、このときに、プリミティブ前方神経上皮(primitive anterior neuroepithelium)の一部が一対の眼野(paired eye field)をもたらす(Li, H., et al., 1997; Mathers, P.H., et al., 2000; Bailey, T.J., et al., 2004; Zuber, M.E., et al., 2003)。眼野(eye field)は、様々な転写因子(例えば、Pax6, Rx, Otx2, Six3, Six6, Tll、及びLhx2)の発現を特徴とする細胞集団で構成されている。Pax6及びRxは、分化する胚性幹細胞(ESC)培養物において網膜前駆細胞(RPC)を同定するために用いられてきたが(Osakada, F., et al., 2008; Mathers, P.H., et al., 2000)、発達時にPax6 and Rxは眼野、更には前脳(forebrain)を含む前方神経板(anterior neural plate)の広範囲な領域において最初に共発現される(Mathers, P.H., et al., 2000)。その後、Pax6+/RX+細胞は、成長(発達)中のCNS(マザーズ、PHら、2000)、主に、網膜のより特定の領域に限られるようになる(Bailey, T.J., et al., 2004; Furukawa, T., et al., 1997b)。残りの細胞は、主に前脳構造に発達していく。
【0004】
次のインビボ(in vivo)網膜発生相(retinal specification phase)は、一対の眼野(eye field)から眼胞(eye vesicle)の形成に関与する。対をなす眼野(paired eye fields)から眼胞を形成した後、神経網膜(neural retina)または網膜色素上皮(retinal pigment epithelium; RPE)のいずれかを生じさせる全ての細胞は転写因子Mitfを発現する(Chow, R.L., et al., 2001; Bharti, K., et al., 2008)。
【0005】
神経網膜又は神経色素上皮になる運命のMitf+細胞のサブセットは、次に、Chx10(Vsx2とも呼ばれる。)の発現のオンセットに応答して、Mitfを下方制御する(Horsford, D.J., et al., 2005; Rowan, S., et al., 2004)。眼杯(optic cup)の内層となる運命の神経網膜前駆細胞(neural retinal progenitor)は、上部の表面外胚葉(overlying surface ectoderm)によって分泌される線維芽細胞成長因子(FGF)に応答してMitfを下方制御すると共に、Chx10を発現する。したがって、Chx10は、眼杯及び眼胞内における最も早い特異的マーカーである(Rowan, S., et al., 2004)。Chx10+網膜前駆細胞は、神経網膜:錐体視細胞(cone)、桿体視細胞(rod)、神経節細胞(ganglion cell)、アマクリン細胞(amacrine cell)、双極細胞(bipolar cell)、水平細胞(horizontal cell)、及び、ミュラーグリア(Muller glia)の全てのタイプの細胞を生じさせる。逆に、眼杯の外側の層になる運命の細胞は、Mitf+及びChx10-ネガティブを保持し、その後、RPEに分化する。
【0006】
発達中に観察される第1に分化された神経網膜細胞の表現型の中で錐体視細胞光受容体(cone photoreceptor)がある(フィンレイ、BL、2008年Barishak、Y.、2001)。この錐体視細胞光受容体の前駆体は、原始錐体視細胞及び桿体視細胞光受容体特異的転写因子Crxを発現する(Chen, S.ら、1997;。古川、T.ら、1997)。その後、錐体視細胞はリカバリン(recoverin)を発現し、最終的にオプシン(opsin)を発現する。桿体光受容体は、光伝達分子リカバリンとロドプシン(rhodopsin)が続く転写因子NRLを表現する。網膜神経節細胞はまた、早い段階で生成され、そして、βΙΙΙチューブリンとHUC/Dの発現、並びに、それらの長いプロセスによって、発達中の網膜細胞の間で区別される。双極細胞、水平細胞、及び、アマクリン細胞のような他の網膜神経細胞もマーカーを持っている(それぞれPKCa、カルビンジン、及び、カルレチニン)。しかしながら、これらのマーカーは他の中枢神経系で発見されるので、それが発生した集団を神経網膜前駆細胞(Chx10+/Pax6+)として確立するのが不可欠といえる。ここで、上記神経網膜前駆細胞自体は、眼胞及び眼野に由来する。
【0007】
網膜の発達に臨床医及び研究者は高い関心を持っているが、それは、北米人のうち数百万人は、網膜変性疾患(retinal degenerative disease; RDD)の結果として様々な不可逆的な視力低下に遭遇するからである。網膜色素変性症(retinitis pigmentosa; RP)と加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration; AMD)などの遺伝性及び後天的外性RDD(outer RDD)は、治療方法が無いか又は治療の選択肢がほとんど無い進行性視力喪失(失明)の主要原因である。かかる病気において、外側の網膜の桿体、及び、錐体光受容体細胞、並びに、隣接する網膜色素上皮(RPE)細胞が最も影響を受けやすい。内側のRDDSは(inner RDDS)、網膜神経節細胞に影響を及ぼして、主に緑内障やその他の永久的な視力喪失をもたらす病気を引き起こす。RDDの初期と中期の間において、治療はリスクのある細胞を救出し、視覚機能を維持するのに焦点を当てる。RDDが重大なレベルの細胞死をもたらした後、適切な治療方法は、基礎疾患(underlying disease)のプロセスを緩和しながら、失われた細胞を迂回させるか、または交換することに限られる。
【0008】
神経組織は、一般的に自己再生能がないため、正常に任意の神経変性疾患を治療することは困難である。しかしながら、網膜の外側は(outer retina)容易にアクセス可能であり、かつ、短距離の細胞間接続の比較的単純なネットワークを含むため、網膜の外側は、他のほとんどの中枢神経系組織よりも有利な治療標的である。
【0009】
マクラーレンら(Nature、2006、444:203-207)は、桿体視細胞前駆同種移植片(allograft)が、部分的な網膜機能を統合・復元することができることを示すことによって、マウスRPモデルの外側の網膜細胞の治療的交換に挑んだ。かかるマクラーレンの証明は、培養で増殖し、複数の網膜の細胞型に分化する潜在能力を有するヒト細胞源を見つけるための努力に拍車をかけた。しかし、提案された源からの細胞は、しばしば潜在的な臨床使用を相当制限する特性を有する。例えば、ヒト胎児の網膜前駆細胞(RPC)は、培養液中で増殖するが、時間が経つにつれて、細胞は次第にグリア運命が制限されて、神経細胞の種類を生成するためには遺伝子の強制発現が必要となる(Gamm et al, Stem Cells 2008)。同様に、RPEは、虹彩色素上皮(iris pigment epithelium)、非眼幹細胞や前駆細胞は、しばしば網膜細胞を生成する決定的な能力を欠いていて、成人ヒト色素毛様体上皮における多能性網膜幹細胞集団の存在は最近でも疑問視されている(Cicero et al., 2009; Gualdoni et al, 2010)。
【0010】
ヒト胎児前脳前駆細胞が、RDDの齧歯類モデル(自然神経保護因子を分泌する能力に起因する可能性が高い)における網膜下移植後の解剖学的および機能的な光受容体の損失(喪失)及び視力減少を減らすために有効であることが証明されたが(自然神経保護因子を分泌する能力に起因する可能性が高い)、網膜細胞置換に有用なヒト源を見つけることは問題となっている。
【0011】
胚性幹細胞(embryonic stem cell; ESC)及び誘導(人工)多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell; iPSC)の両方を含むヒト多能性幹細胞の成功した培養によって、再生可能性のある細胞の魅力的で、かつ、無尽蔵の供給が可能となる。さらに、ヒトESC及びiPSCは、網膜の細胞型(最も重要なのは、光受容体(錐体及び桿体)、神経節細胞、及び、RPEである。)に至る発達のステップを研究するための研究ツールとして使える可能性がある。これらおよび他の網膜の細胞型の分化に関与するステップの詳細な知識は、それが細胞生産の効率、再現性、及び、細胞の機能を改善するとと考えられるので、基礎科学および臨床研究の両方に有用であろう。
【0012】
また、これらが、インビボでの網膜形成(網膜形成)を成功裏に複製するモデル系を提供するために用いられるとすれば、ヒトESC及びiPSC細胞は、以前にアクセスできなかった段階における早期ヒト網膜と神経細胞の発達を調べるための強力なツールを提供することができる。多能性幹細胞系発達モデル系を評価するための一つの基準は、制御され、かつ、段階的に正常な胚の成熟シーケンスを反復する能力である(Keller, G., 2005; Pera, M.F., et al., 2004)。こうした系は、発達刺激の効果をテストし、望ましくないおよび/または未確認の細胞系統からの汚染を減らす早期の細胞集団を改良する機会を提供する必要がある。また、発達のチェックポイントを順番に基づいて、かつ、予測可能なタイムラインに従って満たしているかどうかが確認できるように、マーカーの発現による細胞の成熟を監視するのも有利であろう。
【0013】
ヒトiPSCは、いくつかの選択遺伝子を一時的に誤って発現する(misexpress)ことによって、皮膚線維芽細胞またはその他の成熟細胞タイプのような体細胞を多能性の状態に再プログラミングすることで生成されたヒト多能性細胞のサブクラスである(Takahashi, K./, et al., 2007; Yu, J., et al., 2007)。初期の研究は、ヒトiPSCが神経上皮細胞、全ての網膜細胞型の前駆細胞を生成できる、広範囲に及ぶ固有の潜在能力を有することを示している(Hu et al., 2010, Yu et al., 2007; Hirami et al., 2009)。iPSC由来の分化細胞は、概してiPSCが由来する成人細胞に遺伝的に同一であるため、iPSCは、特定の治療や研究用途においてESCに対して潜在的な利点を有する。例えば、iPSC技術は、固体の体細胞からiPSCを生産し、そしてiPSCを分化させることで得られた細胞(例えば、網膜系細胞)で同じ固体を治療することが想定されるヒトESC分化の代案を提供する。また、固体特異的多能性iPSC株(individual-specific pluripotent iPSC line)は、人間の疾患のインビトロモデルを開発するために用いられる(Ebert, A. D., et al, 2009; Park, I.H., et al, 2008)。
【0014】
網膜系統(retinal lineage)の中で最も古くから同定された細胞は、不要なまたは汚染の細胞型から実質的に純粋な培養細胞に分離することができれば、ヒトESC及びヒトiPSCの治療及び研究の可能性が向上されるであろう。これは、特に、網膜神経細胞(網膜ニューロン)の場合に当てはまる。網膜神経細胞は、光受容体を除けば、それらが網膜前駆細胞に由来したことが確認されない限り、明確に識別することはできない。同様に、ヒトESC及びiPSC由来の前脳細胞の研究及び使用は、分化の非常に早い段階でこれらの細胞が豊かな集団を生成する方法によって助けられる。
【0015】
多能性細胞を関心のある細胞型へ分化させる現在の方法は、早期の、不要な細胞型からの汚染及び分化細胞の発生に関与する重要なステップに関する情報の不在のために、臨床的および科学的な魅力が限られている。既存の方法は、様々な外因性因子を用いて、RPE(米国特許第7,541,186号及び第7,736,896号; Klimanskaya, I., et al., 2004; Vugler, A, et al., 2008; Clegg et al., 2009)又は光受容体(Osakada, F., et al., 2008)のようなより成熟した細胞又は混合網膜細胞集団を誘導して、分化中のヒトESCの異種の集団における初期網膜細胞型の比率(%)を上げることに焦点が当てられている。例えば、レチノイン酸及びタウリン(taurine)は、ヒトESCから光受容体様細胞への分化を誘導することができる(Osakada、F. et al., 2008)。しかしながら、いずれの文献においても、ヒト多能性細胞を、主要な網膜発達段階に進んで成熟細胞型を生成することができる初期網膜前駆細胞(RPC)が高度に濃縮した、単離された集団へ分化する方法は記載も示唆もされていない。また、それによって得られる網膜細胞型は、正常なヒト網膜形成において観察されたそれに匹敵する分化時間コースを示していなかった。選択された網膜発達段階にある培養物における出現(appearance)のタイミングは公開されたプロトコルの間でもバラツキが大きい(Banin, E., et al., 2006; Lamba, DA., et al., 2006; Osakada, F., et al., 2008; Klassen, H., et al., 2008)。例えば、報告されたCrxマーカーの発現オンセットは、使用されたプロトコルに基づいて、1週間から3週間までである(Lamba, DA., et al., 2006; Osakada, F., et al., 2008)。
【0016】
したがって、網膜前駆細胞、前脳前駆細胞(forebrain progenitor cell)、網膜色素上皮細胞を含む特定のヒト神経系細胞の実質的に純粋な培養物(これは、インビトロにおいて分化及び発達を正確にモデルする。)、及び、かかる培養物を製造するためのより簡単な方法に対するニーズは依然として存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、ヒト多能性幹細胞(human pluripotent cell)から神経(neural)RPC、RPE、及び脳前前駆細胞(この全ては、前方神経上皮由来のものである。)の集団(population)の製造方法、ならびに、前記方法を用いて作製され得る実質的的に精製された細胞集団に関する。有利には、本発明に係る集団の製造方法は、分化している細胞の遺伝子集団に依存することもなければ、所望の細胞を分離するためにリポーター遺伝子構造体又はその他の分子ツールに依存することもない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様において、本発明は、ヒト神経上皮系細胞(neuroepithelial lineage cell)の実施的に純粋な培養物であって、(a)ヒト網膜前駆細胞、ヒト前脳前駆細胞、及び、ヒト網膜色素上皮細胞からなる群から選択された1以上のヒト神経上皮系細胞と、(b)前記ヒト神経上皮系細胞の生存力を維持するために必要な培地と、を含み培養物を提供する。前記選択された1以上のヒト神経上皮系細胞は、前記培養物に存在する細胞の90%以上を占める。
【0019】
前記選択された神経上皮系細胞は、前記培養物に存在する細胞の95%以上を占めることが好ましい。
【0020】
前記ヒト神経上皮系細胞は、胚幹細胞に由来することが好ましい。
【0021】
前記ヒト神経上皮系細胞は、ヒト網膜前駆細胞又はヒト前脳前駆細胞であることが好ましい。
【0022】
前記ヒト網膜上皮系細胞が、ニューロスフェアの形態であることが好ましい。
【0023】
前記ニューロスフェアが、前記培養物に懸濁されているが、表面に付着していない状態で維持されていることが好ましい。
【0024】
前記ニューロスフェアは、表面上にプレートされた状態で維持されていることが好ましい。
【0025】
前記ヒト網膜系細胞が、Chx10‐陽性ヒト網膜前駆細胞であることが好ましい。
【0026】
前記ヒト網膜系細胞が、Otx2陽性のヒト前脳前駆細胞であることが好ましい。
【0027】
前記培養物が、無血清培養物であることが好ましい。
【0028】
前記ヒト神経上皮系細胞が、非胎児細胞由来の細胞であることが好ましい。
【0029】
前記ヒト神経上皮系細胞が、胚幹細胞、又は、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)に由来することが好ましい。
【0030】
前記ヒト神経上皮系細胞が、ヒト誘導多能性幹細胞に由来するヒト網膜色素上皮細胞であることが好ましい。
【0031】
第二の態様において、本発明は、前駆細胞型によって神経上皮系細胞を分離する方法であって、(a)少なくとも2つの異なる前駆細胞型のニューロスフェアが形成されるまでに、懸濁液において2以上の分離した(detached)、非胎児細胞由来のヒト神経上皮ロゼットを培養するステップと、(b)前記ニューロスフェアの1以上の形態学的特徴を観察して、前記ニューロスフェアの前駆細胞型を同定するステップと、(c)前記前駆細胞型によって前記ニューロスフェアを機械的に分離するステップと、を含む、方法を提供する。
【0032】
前記分離したヒト神経上皮ロゼットは、ヒト多能性細胞に由来することが好ましい。
【0033】
前記ヒト多能性細胞は、胚幹細胞及び誘導多能性幹細胞からなる群から選択されることが好ましい。
【0034】
前記ヒト多能性細胞は、個体の体細胞を多能性に再プログラム化することによって得た誘導多能性幹細胞であることが好ましい。
【0035】
前記ヒト多能性細胞は、IMR90細胞を多能性に再プログラム化することによって得た誘導多能性幹細胞であることが好ましい。
【0036】
前記ヒト多能性細胞は、HI系細胞及びH9系細胞からなる群から選択される胚幹細胞であることが好ましい。
【0037】
前記前駆細胞型によって前記ニューロスフェアを機械的に分離するステップは、前記2以上の前駆細胞型のニューロスフェアが互いに凝集し始める前に行うことが好ましい。
【0038】
前記異なる前駆細胞型は、網膜前駆細胞及び前脳前駆細胞であることが好ましい。
【0039】
小胞性層状形態を有すると観察された前記ニューロスフェアは、網膜前駆細胞として同定され、そして、均一な形態を有すると観察された前記ニューロスフェアは、前脳前駆細胞として同定されることが好ましい。
【0040】
前記ニューロスフェアの形態学的特徴は、明視野顕微鏡を使用して観察することが好ましい。
【0041】
前記2以上の分離したヒト神経上皮ロゼットを培養するステップは、網膜分化培地において行うことが好ましい。
【0042】
前記網膜前駆細胞ニューロスフェアを前記前脳前駆細胞ニューロスフェアから機械的に分離して、網膜前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物を形成することが好ましい。
【0043】
前記方法は、前記網膜前駆細胞ニューロスフェアが光受容体、神経節細胞、及び、その他の神経網膜細胞型に分化するまでに、前記実施的に純粋な培養物において前記神経網膜前駆細胞ニューロスフェアを培養するステップを更に含んでも良い。
【0044】
前記方法は、網膜色素上皮細胞ニューロスフェアが形成されるまでに、網膜分化培地を用いて、前記実質的に純粋な培養物において前記網膜前駆細胞ニューロスフェアを培養するステップを更に含んでも良い。
【0045】
前記分離したヒト神経上皮ロゼットは誘導多能性幹細胞由来であり、そして、前記網膜前駆細胞ニューロスフェアを培養するステップをアクチビン(intivin)の存在下で行うことが好ましい。
【0046】
前記ヒト誘導多能性幹細胞は、個体の体細胞を多能性に再プログラム化することによって得ることが好ましい。
【0047】
前記培養物から前記網膜色素上皮細胞ニューロスフェアを機械的に分離して、網膜色の性上皮細胞の実質的に純粋な培養物を形成することが好ましい。
【0048】
前記方法は、ラミニン被覆培養皿上に前記網膜色素上皮細胞ニューロスフェアを培養するステップを更に含んでも良い。
【0049】
前記網膜前駆細胞ニューロスフェアから前記前脳前駆細胞ニューロスフェアを分離して、前脳前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物を形成することが好ましい。
【0050】
また、本発明は、前述した方法によって生成される網膜前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物、前脳前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物、及び、網膜色素上皮細胞の実施的に純粋な培養物を含む。
【発明の効果】
【0051】
本発明は、 網膜前駆細胞、前脳前駆細胞、網膜色素上皮細胞等の特定のヒト神経系細胞の実質的に純粋な培養物(これは、インビトロにおいて分化及び発達を正確にモデルする。)、及び、かかる培養物を製造するためのより簡単な方法を提供する。本発明の方法及び細胞培養物の詳細については後述する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1A】図1A〜1Fは、前方神経上皮内眼野の確立から始まる、網膜系統(retinal lineage)に向かっての段階的な発達を示す。図1A〜1Fにおけるスケールバー(scale bar)は200μmである。図1Aは、網膜形成(retinogenesis)の各主要段階が、部分的に様々な転写因子の発現に基づいて区別され得ることを示す。
【図1B】網膜系細胞を生成するために用いられる分化プロトコルの概略である。
【図1C】分化の最初16日間を通じて眼野に向かっての遺伝子発現における変化を示すRP−PCR分析結果である。
【図1D】分化後10日における典型的なヒトESC凝集体の免疫細胞化学であって、眼野転写因子Otx2の発現を示す。
【図1E】分化後10日における典型的なヒトESC凝集体の免疫細胞化学であって、眼野転写因子Lhx2の発現を示す。
【図1F】分化後10日における典型的なヒトESC凝集体の免疫細胞化学であって、決定的な神経転写因子Sox1の発現を示す。
【図2A】図2A〜2Iは、ヒトESCから眼野の非常に効果的な誘導(derivation)を示す。スケールバーは40μmである。図2Aは、Pax6及びRx遺伝子発現のオンセットと、それと同時に起こるPct4の喪失を示すRT−PCR分析結果である。
【図2B】図2Bは、Oct4遺伝子発現のqPCR分析結果を示す。数値は、未分化ヒトESCに対する相対倍率変化(fold change relativ)を示す。
【図2C】Pax及びRx遺伝子発現のqPCR分析結果を示す。 数値は、未分化ヒトESCに対する相対倍率変化(fold change relativ)を示す。
【図2D】10日目における細胞の免疫細胞化学分析結果であって、Pax及びRxの均一な共発現を示す。
【図2E】FACS分析によって、Pax6及びRxタンパク質発現の両方のオンセット及びOxt4の迅速な喪失が確認された。FACS分析用のネガティブ対照群(control)は、白色のヒストグラムで表す。
【図2F】FACS分析の定量化を示す。
【図2G】BMPおよびWnt拮抗剤Noggin及びDkk−1の内因性発現を示すqPCR分析である。
【図2H】BMPおよびWnt拮抗剤Noggin及びDkk−1の内因性発現を示すウエスタン分析である。
【図2I】BMP4及びWnt3Aで処理した細胞におけるPax6及びRx遺伝子発現のほぼ完璧な喪失を示すqPCRである。
【図3A】図3A及び図3Bは、BMP4及びWnt3Aによる神経及び眼野運命発生の抑制を示す。図3Aは、外因性Wnt及びBMPアンタゴニスト(拮抗剤)の不在下で、分化10日目の典型的なヒトESC神経上皮コロニー中の細胞が互いに密集して、個々の細胞がほぼ区別できなくなっている。
【図3B】図3Bは、BMP4及びWnt3Aによる神経及び眼野運命発生の抑制を示す。分化オンセットの時点において100ng/mlのBMP4及びWnt3aを添加すると、ヒトESCは10日の時点で変化された非神経上皮形態を採用した。
【図4】図4は、眼野発生のFGFシグナル伝達の依存性を示す。RT−PCRによれば、10μΜSU5402の存在下で分化10日目の時点でRxおよびPax6遺伝子発現が完全に喪失された。
【図5A】図5A〜5Nは、眼胞及び眼杯細胞の表現型の獲得を示す。qPCR値は、分化16日目(5B及び5F)又は10日目(5N)における培養物に対する相対倍率変化(relative fold change)として表したものである。スケールバーは、5A及び5Gにおいては500μmであり、5C,5D,5E,5L,及び、5Mにおいては50μmであり、そして、5Kにおいては75μmである。図5Aは、分化30日後のニューロスフェアにおけるMitfタンパク質の発現を示す。
【図5B】分化の最初の80日間にわたってのMitf遺伝子発現の定量PCR分析を示す。
【図5C】分化30日のニューロスフェアにおけるMitf及びChx10タンパク質発現のタイムコースを免疫細胞化学分析した結果である
【図5D】分化40日のニューロスフェアにおけるMitf及びChx10タンパク質発現のタイムコースを免疫細胞化学分析した結果である。
【図5E】分化50日のニューロスフェアにおけるMitf及びChx10タンパク質発現のタイムコースを免疫細胞化学分析した結果である。
【図5F】図5Fは、分化80日間にわたってのChx10遺伝子発現のqPCR分析結果を示す。
【図5G】40日までニューロスフェアのサブセットを通じての均一なChx10発現を示す。
【図5H】分化20日から50日までのChx10+スフェアの比率を示す免疫細胞化学データの定量化である。
【図5I】分化20日から50日までのそのスフェア内のChx10+細胞の比率を示す免疫細胞化学データの定量化である。
【図5J】FACS分析は、40日目においてChx10を発現するすべての細胞の比率を示す。
【図5K】免疫細胞化学分析は、40日目においてPax6と共発現されたすべてのChx10+細胞を示す。
【図5L】Chx10発現細胞のロゼットは、そのコア内に密着結合タンパク質ZO−1を発現した。
【図5M】40日目においてChx10+細胞は、まれにβIIIチューブリン((III tubulin)を共発現した。
【図5N】qPCRによって、FGF阻害剤SU5402で処理した培養物におけるMitf発現の増加及びそれに相応するChx10の発現減少が確認された。
【図6A】図6A〜図6Dは、RPEの発生を示す。スケールバーは100μmである。図6Aは、着色した、6角形のRPE様細胞を示す付着培養物の顕微鏡写真である。
【図6B】免疫染色によって、40日目における密着結合たんぱく質ZO−1及びRPE様細胞内のMitf発現を調べた。
【図6C】FACS分析に基づいて、分化40日目の時点でMitf及びPax6を発現する全ての付着細胞の比率(%)を示す。
【図6D】RT−PCR分析結果は、RPE運命にかかわる遺伝子の発現を示す。
【図7A】図7A〜7Eは、初期光受容体の表現型の生成を示す。スケールバーは50μmである。図7Aは、分化80日目の時点において光受容体特異的転写因子Crxを発現する細胞を免疫細胞化学に基づいて検出した結果を示す。
【図7B】図7Bは、80日目の時点において、Crxを発現する細胞の中での光受容体特異的たんぱく質recoverinの発現を示す。
【図7C】図7Cは、80日目の時点において、Crxを発現する細胞の中での錐体光受容体特異的たんぱく質レッド‐グリーンオプシン(red-green opsin)の発現を示す。
【図7D】RT−PCR分析結果は、眼野集団から錐体光受容体運命の段階的な獲得を示す。
【図7E】図7Eは、正常なヒト網膜発達に比べた、ヒトESC分化時の網膜系統マーカー発現の時点を概略的に示す(Barishak, Y., 2001; Finlay, B.L., 2008)。
【図8】図8は、分化中のヒトESC由来ニューロスフェアにおける総Pax6メッセージに対するPax6(+5a)発現の定量的RT−PCR分析結果を示す。数値は、分化4日目の時点における培養物に対する倍率変化(fold change)として表す。
【図9】図9は、ヒトiPSCから網膜系細胞を生成するために使用される分化プロトコルの概要である。
【図10A】図10A〜10Kは、ヒトiPSCから段階的な網膜発生を示す。スケールバーは、50μmである。図10Aは、10日までにPax6+/Rx+眼野細胞から始まり、IMR90−4iPSCにおいて網膜分化の様々な段階が観察された。
【図10B】Mitf+及びChx10+細胞(眼胞及び眼胚段階を示す)が40日までに明らかになった。
【図10C】Mitf+及びChx10+細胞(眼胞及び眼胚段階を示す)が40日までに明らかになった。
【図10D】Mitf+及びChx10+細胞(眼胞及び眼胚段階を示す)が40日までに明らかになった。
【図10E】80日までに、Ch10+網膜前駆細胞及びCrx+光受容体前駆体細胞を含んだクラスターが存在していた。
【図10F】Crxを発現する細胞の多くは、光受容体特異的たんぱく質recoverinの発現に関与していた。
【図10G】Crxを発現する細胞の多くは、錐体視細胞特異的たんぱく質レッド‐グリーンオプシン(red green opsin)の発現に関与していた。
【図10H】Crxを発現する細胞の多くは、錐体視細胞特異的たんぱく質レッド‐グリーンオプシンの発現に関与していた。
【図10I】RT−PCR分析から、時間の経過とともに分化中のiPS細胞ニューロスフェアにおける網膜及び光受容体関連遺伝子の段階的な発現が明らかになった。
【図10J】iPSC由来のRPE細胞は、典型的な六角形の形状及び色素沈着(着色化)を獲得した。
【図10K】iPSC由来のRPE細胞は、Mitf及びZO−1を発現した。
【図11A】図11A〜11Dは、分化中のIMR90−4iPSCにおける眼野発現特徴を示す。図11Aは、分化10日後、iPSCはLhx2のような眼野転写因子とともにPax6を共発現した。
【図11B】図11Bは、分化10日後、iPSCはOtx2のような眼野転写因子とともにPax6を共発現した。
【図11C】眼野コロニーは、決定的な神経マーカーSox1を発現した。
【図11D】分化16日間にわたってのRT−PCRによって、眼野転写因子及び神経上皮マーカーの完全な相補体(full complement)の発現が確認された。
【図12A】図12A〜図12Mは、FPCニューロスフェアの特徴を示す。分化非網膜細胞は、前方神経表現型を保持していた。挿入部(inset)は、シグナルの核特異性を示す。図12Aによれば、分化40日の時点において、全てのニューロスフェアは、一般的な神経マーカーSox1を発現した。
【図12B】分化40日の時点において、全てのニューロスフェアは、一般的な神経マーカーSox1を発現した。
【図12C】分化40日の時点において、全てのニューロスフェアは、一般的な神経マーカーSox1を発現した。
【図12D】分化40日の時点において、全てのニューロスフェアは、一般的な神経マーカーβIII−チューブリン(βIII-tubulin)を発現した。
【図12E】分化40日の時点において、全てのニューロスフェアは、一般的な神経マーカーβIII−チューブリンを発現した。
【図12F】分化40日の時点において、全てのニューロスフェアは、一般的な神経マーカーβIII−チューブリンを発現した。
【図12G】多くのβIII−チューブリン+細胞は、GABA作動性表現型を有していた。
【図12H】多くのβIII−チューブリン+細胞は、GABA作動性表現型を有していた。
【図12I】多くのβIII−チューブリン+細胞は、GABA作動性表現型を有していた。
【図12J】これらの細胞の前脳運命は、Otx2の広範囲な発現によって決定された。
【図12K】これらの細胞の前脳運命は、Otx2の広範囲な発現によって決定された。
【図12L】これらの細胞の前脳運命は、Otx2の広範囲な発現によって決定された。
【図12M】RT−PCR実験によって、これらの細胞が一般的な及び前方の神経マーカーの両方を発現するが、その他の胚葉、中脳、又は、脊髄のマーカーは発現しないことが確認された。
【図13A】図13Aは、明視野顕微鏡を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。様々な形状を有するニューロスフェアは、2つの区別できる集団に分離することができる。
【図13B】図13Bは、明視野顕微鏡を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。上記2つの集団のうち一つは、相明るい(phyase-bright)小胞性ニューロスフェア(層状細胞境界を有する)である。
【図13C】図13Cは、明視野顕微鏡を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。上記2つの集団のうちもう一つは、より暗くて、ロゼットを含んだ(非小胞性)ニューロスフェアである。
【図13D】図13Dは、免疫細胞化学を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。混合されたニューロスフェアのサブセットにおいて明確な(決定的な)網膜前駆細胞マーカーChx10が同定された。
【図13E】図13Eは、免疫細胞化学を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。明確な(決定的な)網膜前駆細胞マーカーChx10は小胞性ニューロスフェアに限って分布されていた。
【図13F】図13Fは、免疫細胞化学を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。そこには、非小胞性、ロゼット含有ニューロスフェアは存在しなかった。
【図13G】図13Gは、免疫細胞化学を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。また、混合ニューロスフェアのサブセットにおいてIslet-1の発現が同定された。
【図13H】図13Hは、免疫細胞化学を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。Islet-1の発現は相明るい(phase-bright)小胞性ニューロスフェアでは見つからなかった。
【図13I】図13Iは、免疫細胞化学を用いた混合ニューロスフェア集団における網膜細胞の同定を示す。Islet-1の発現は、非小胞性、ロゼット含有ニューロスフェアでは発見されることが分かった。
【図13J】RT−PCR分析によって、これらの集団間において一般に又は差別的に発現される多数の転写因子が同定された。小胞性ニューロスフェアの単離培養物に対する図13Jの結果を「Retina(網膜)」と記載し、そして、非小胞性ニューロスフェアの単離培養物に対する結果を「Forebrain(前脳)」と記載した。
【図14】図14は、小胞性及び非小胞性ニューロスフェアの単離された培養物に対する比較マイクロアレイ発現分析の結果を示す。マイクロアレイ分析によれば、多数の転写因子遺伝子は2つの細胞集団間において差別的に発現された。その差異を、非小胞性ニューロスフェアに対する小胞性ニューロスフェア発現における倍率変化として表す。
【図15A】図15Aは、明視野顕微鏡を使用した、hiPSC(ヒト誘導多能性幹細胞)からの様々な神経/網膜発生を示す。分化条件にさらされたときに、hiPSCは一般的に非神経の上皮様形態(non-neural, epithelial-like morphology)を採用した。
【図15B】図15Bは、免疫細胞化学を使用した、hiPSC(ヒト誘導多能性幹細胞)からの様々な神経/網膜発生を示す。上記非神経、上皮様形態はPax6発現を欠いた。
【図15C】hESC及びhiPSCのいくつかの株を比較したときに、IMR90−4及びOAT hiPSCは、分化2日後に、H9及びH1 hESCに比べて、少量のDkk1及びNogginを発現することが分かった。
【図15D】図15Dにおいて、上記図15Eの結果が、分化10日後のPax6及びRaxの低濃度に相関していることが確認された。
【図15E】図15Eは、明視野顕微鏡を使用した、hiPSC(ヒト誘導多能性幹細胞)からの様々な神経/網膜発生を示す。組換えDkk1及びNogginを分化2〜4日の分化中の細胞に加えると、神経上皮形態が確認された。
【図15F】図15Fは、免疫細胞化学を使用した、hiPSC(ヒト誘導多能性幹細胞)からの様々な神経/網膜発生を示す。組換えDkk1及びNogginを分化2〜4日の分化中の細胞に加えると、Pax6の発現が復元された。
【図15G】図15Gは、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用した、hiPSC(ヒト誘導多能性幹細胞)からの様々な神経/網膜発生を示す。細胞をDkk1及びNogginで処理すると、分化20日後にChx10の発現が増加した(FACS分析によって確認される。)。
【図16A】図16Aは、免疫細胞化学を用いた、非小胞性ニューロスフェアから成熟前方神経運命(mature anterior neural fate)の獲得を示す。分化20日(合計)後、非小胞性ニューロスフェアは神経マーカーである(III-tubulin、及び、神経転写因子Pax6を発現し始めた。
【図16B】図16Bは、免疫細胞化学を用いた、非小胞性ニューロスフェアから成熟前方神経運命の獲得を示す。分化20日(合計)後、非小胞性ニューロスフェアは神経マーカーβIII-tubulin、及び、Sox1を発現し始めた。
【図16C】図16Cは、免疫細胞化学を用いた、非小胞性ニューロスフェアから成熟前方神経運命の獲得を示す。分化20日(合計)後、非小胞性ニューロスフェアは神経マーカーβIII-tubulin、及び、前方神経マーカーOtx2を発現し始めた。
【図16D】図16Dは、免疫細胞化学を用いた、非小胞性ニューロスフェアから成熟前方神経運命(mature anterior neural fate)の獲得を示す。分化70日(合計)後、ほぼずべての細胞が神経形状を有し、GABA作動性ニューロンの特徴を発現した。
【図16E】図16Eは、免疫細胞化学を用いた、非小胞性ニューロスフェアから成熟前方神経運命の獲得を示す。分化70日(合計)後、ほぼずべての細胞が神経形状を有し、TH−陽性ドーパミン性ニューロンの特徴を発現した。
【図16F】図16Fは、免疫細胞化学を用いた、非小胞性ニューロスフェアから成熟前方神経運命の獲得を示す。分化70日(合計)後、ほぼずべての細胞が神経形状を有し、GFAP−陽性星状膠細胞の特徴を発現した。
【図16G】図16Gは、RT−PCRを用いた、非小胞性ニューロスフェアから成熟前方神経運命の獲得を示す。分化20日目及び70日目におけるこれらの細胞のRT−PCRによれば、両方の時点においてその発現が維持された転写因子もあれば、分化20日目又は70日目のいずれかの時点にのみ発現される転写因子もあった。
【図17A】図17Aは、明視野顕微鏡を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。分化20日目の時点において、小胞性ニューロスフェアはほぼ均一にChx10を発現した。
【図17B】図17Bは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティを獲得することを示す。図17AのChx10の多くはKi67を共発現した。
【図17C】図17Cは、明視野顕微鏡を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。分化50日(合計)後、この小胞性形態は失われる傾向がある。
【図17D】図17Dは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。分化50日(合計)後、細胞は依然としてChx10及びKi67の発現を維持した。
【図17E】図17Eは、qPCRを用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティを獲得することを示す。分化20日から120日までの分化プロセスにおけるこれらの細胞のqPCR分析によって、左側から右側へ10日間隔で主要な各網膜細胞型に対するマーカーの発現のオンセットが同定された。
【図17F】図17Fは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティを獲得することを示す。正常な網膜発達の初期に生成されると知られている細胞は、この系において初期生成ニューロン(early-born neuron)として同定した(オレンジからレッドバーによって同定される)。
【図17G】図17Gは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。PKC陽性双極細胞及びNrl陽性桿体光受容体のように後ほど生成されるニューロンは、この系において後半に生成されることが分かった(グリーンからブルーバーによって確認される)。
【図17H】図17Hは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティを獲得することを示す。
【図17I】図17Iは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。
【図17J】図17Jは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。
【図17K】図17Kは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。
【図17L】図17Lは、免疫細胞化学を用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティを獲得することを示す。
【図17M】図17Mは、RT−PCRを用いた、小胞性ニューロスフェアから成熟網膜アイデンティティの獲得を示す。
【図18A】図18Aは、明視野顕微鏡を用いた、小胞性ニューロスフェアからのRPE発生を示す。分化20日の時点で、網膜小胞性ニューロスフェアが豊富になり得る(濃縮状態)。
【図18B】図18Bは、明視野顕微鏡を用いた、小胞性ニューロスフェアからのRPE発生を示す。分化50日(合計)後、RPEの着色(色素沈着)特徴がまれに観察された。
【図18C】図18Cは、明視野顕微鏡を用いた、小胞性ニューロスフェアからのRPE発生を示す。分化2〜50日にアクチビン(Activin)を添加した後、ニューロスフェアのサブセットは色素性(着色した)RPE様形態(形状)を採用した。
【図18D】図18Dは、明視野顕微鏡を用いた、小胞性ニューロスフェアからのRPE発生を示す。これらの色素性スフェアをラミニン上にプレートし、FGF2及びEFGの存在下で拡張させて、RPEの単層を形成した。
【図18E】図18Eは、qPCRを用いた、小胞性ニューロスフェアからのRPE発生を示す。未処理小胞性スフェアに比べて(それぞれのバーの中で最も左側にあるバー)、アクチビンAで処理したスフェア(各対において最も右側にあるバー)は、qPCRによって測定したときに、RPE関連遺伝子をより高濃度に発現した。
【図18F】図18Fは、qPCRを用いた、小胞性ニューロスフェアからのRPE発生を示す。一方で、神経網膜関連遺伝子は、アクチビンAで処理したニューロスフェア(各対において最も右側にあるバー)において低濃度に発現されることが分かった。
【0053】
本発明は、様々な変形及び変更が可能であるが、特定の実施形態は、添付された図面及び明細書に詳細に説明されている。しかしながら、その特定の実施形態の説明によって本発明の技術的範囲又は保護範囲が限定されるものではないと解すべきである。また、本発明は、添付された特許請求の範囲によって定まる本発明の範囲及び思想内に含まれる全ての修正、等価物、および代替例を含むと解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
我々は、ヒト多能性細胞から網膜前駆細胞(retinal progenitor cell; RPC)及び前脳前駆細胞(forebrain progenitor cell; FPC)のニューロスフェア(neurosphere)を産生(生成)および単離する新規の簡素化プロトコルを開発した。このプロトコルを従うヒトESC(例えば、株H1またはH9)およびiPSC(例えば、固体から開発された株、又は、このコンセプトの証明において、IMR90胎児線維芽細胞、ATCC CCL-186などの体細胞株由来の再プログラム化iPSC株)は、正常な発達のタイムラインをたどり、かつ、初期に眼野細胞が非常に豊かな集団を生成する、標的化された、段階的な分化過程を経る。上記集団は、明確に分離した(独立した)、形態的に異なるRPCおよびRPC細胞集団に分離される。これらの細胞集団は、高濃度のニューロスフェア培養物であるか、又は、実質的に純粋なニューロスフェア培養物として互いに機械的に分離(単離)され得る。その後、RPCニューロスフェアは、インビボヒト網膜発達に模倣するタイムコースおよび順序で、RPEニューロスフェアの産生を含めて、進行性網膜分化(advancing retinal differentiation)の特徴を取得する。その結果得られるRPEニューロスフェアは、機械的に分離されて、RPE豊かな培養物股h実質的に純粋なRPEを産生することができる。
【0055】
従って、本発明は、前駆細胞タイプによって神経上皮系細胞を分離する方法、および、かかる方法によって産生され得る、実質的に純粋なヒト神経上皮系細胞の培養物の両方を含む。
【0056】
本発明の方法および実質的に純粋な細胞培養物は、以下の分野で有用であると想定される:
1.移植:非限定的な例としては、治療細胞救援療法(therapeutic cell rescue therapy)におけるFPCの使用、および、以前に失われた視力を回復するために失われた細胞補充療法(replacement therapy)におけるRPC,RPE,FPC、又は、これらのいずれかから分化した細胞の使用を含む。この方法および培養物は、組織全体補充療法(whole tissue replacement therapy)に使用するため組織を開発するために使用することができる。
2.神経節細胞、桿体視細胞、錐体視細胞、RPE、前脳細胞、中脳細胞を含むすべての細胞の機能を保護し、強化する試薬(agent)のための薬剤スクリーニング(drug screening)
3.病態生理学を研究し、薬物スクリーニング又はそれらの幹細胞またはその誘導体を使用したカスタマイズした治療のために使用することができる、多能性細胞(特にiPSC)から網膜疾患モデルの生成
4.ヒト神経発達のユニークなモデル(これは、網膜発達、組織形成、および、シナプス形成などを含む様々なプロセスを研究するための有用なリソースとなり得る。)
【0057】
ヒトESCまたはiPSCから神経上皮性ロゼット(neuroepithelial rosette)を生成するために使用されるプロトコルは次のとおりである。先ず、照射したマウス胚性線維芽細胞(MEF)細胞層から持ち上げられたヒトESCまたはiPSCは、四日間線維芽細胞成長因子2(FGF2)を使用せずに胚性幹細胞培地(ESCM)の懸濁液中の凝集体として成長させる。非限定的な例において、ESCmは、DMEM/F12(1:1)(Gibco社#11330-065)、20%ノックアウト血清代替物(Gibcos社#10828-028)、0.1 mMのβメルカプトエタノール、1mMのL-グルタミン(Gibco社:#25030-081)、1%MEM非必須アミノ酸(Gibco社#11140-050)、および4ng/mL FGF2(Invitrogen社 #13256-029)を含む。多能性細胞は、代わりにマトリゲルのようなマトリックスを用いるTESR培地のような定義された培地を用いて培養されても良く、又は、そのような細胞の培養をサポートするために知られている他の条件の下で培養されても良い。凝集体は、その後二日間化学的に定義された(chemically defined)神経誘導培地(neural induction medium NIM)で培養される。その後、凝集体は、好ましくラミニン(laminin)を加えて、培養皿の表面に付着される。約15日で、しばしば上皮構造を形成する円柱状の細胞が発達する。
【0058】
本発明は、神経上皮ロゼット(neuroepithelial rosette)からRPC、FPC、及び、RPEを含む他の網膜系細胞を産生し、単離する様々な方法に関する。分化の約16日目に、神経上皮ロゼットは、機械的に培地(媒体)の変化に応じて光粉砕して接着性の培養液から分離することができ、非接着性の培養皿内の懸濁培地に配置することができる。次の24〜48時間にわたって、球のような、非常にRPC及びFPCが豊富な細胞凝集体(ニューロスフェア)が形成され。分離後三日から五日以内に、例えば、磨いたパスツールピペット(Pasteur pipette)を使用して、2種類のニューロスフェア(図13-Cを参照すること)間に見られる形態の違いに基づいて、RPCニューロスフェアとFPCニューロスフェアを機械的に分離し、単離することができる。
【0059】
具体的に、RPCニューロスフェアは、明視野顕微鏡の下でリング状、外側嚢胞、層状構造( "小胞"または "層"の形態)を備えた、明るい黄金色に観察され(図13B)、そして、FPCニューロスフェアは、明視野顕微鏡の下で色や密度のより均一に観察される(非小胞又は非層状)(図13C)。この2つのニューロスフェアの集団は、これらの形態の違い(外観)に従うこの短い培養ウィンドウ(culture window)において分離されなければ、それらは互いに付着して、分離できなくなってしまう。
【0060】
RPC及びFPCニューロスフェアは、網膜分化培地(Retinal Difference Medium; RDM)を含むフラスコ中で別々に維持される。非限定的な例では、RDMは2%B27を補充したDMEM/F12(3:1)が含む。これらの形態の違いに基づいて機械的にニューロスフェアを分離することによって、免疫細胞化学的分析(例えば、Chx10)によって分析(評価)されるときに90%を超える純度を有する多能性RPCニューロスフェア培養物(即ち、ニューロスフェア培養物中その細胞が90%より多く存在することを意味する。)を得ることができる。この明細書において使用する用語 "実質的に純粋な(substantially pure)"培養(培養物)は、その細胞の少なくとも90%が、所望の細胞型である培養(培養物)を意味する。培養(培養物)中に残存する他の細胞は、より原始的な眼胞細胞(optic vesicle cell))(Mitfを発現する。)、または、眼野細胞(eye field cell)(Pax6、Rx、及び、Lhx2を発現する。)である。他のフラスコにおけるFPCニューロスフェアは、Otx2、Pax6、Sox1、及び、Sox2などの神経及び前脳マーカーを発現する。
【0061】
RPCニューロスフェアは、RDMにおいて1週間後に、独自の形態学的構造を失い始め、非色素性(non-pigmented)、Chx10+/Pax6の+/Mitf-神経網膜ニューロスフェア集団を生成し始める。次に、これらのニューロスフェアは、正常なヒトetinogenesisを模倣する順序(sequence)及び時間枠(time frame)にてCRX+/リカバリン+/オプシン+、および、NRL+光受容体及びβΙΙΙチューブリン+/Brn3/HuC-D+網膜神経節細胞を生成する。
【0062】
非色素性ニューロスフェア集団に加えて、RPCニューロスフェアは、色素性(pigmented)、Mitf +/Chx10-RPEニューロスフェアを生成する。後者は、全体的な分化の日約30〜50日までに培養(物)において識別することができる。これらは、黒褐色であるために、その後、残りの神経RPCニューロスフェアから機械的に取り除かれて(回収されて)、別のフラスコに移し、RPE増殖培地(RPE Propagation Medium)(2%のB27及び各20ng/mlのFGF2及びEGFを補充したDMEM/F12(3:1))においてへパリン5μg/mlと共に維持される。
【0063】
RPEニューロスフェア集団を拡張させる(expand)ためには、色素性(RPE)ニューロスフェアをラミニン被覆培養皿にプレートし、RPE増殖培地において付着させる。24時間以内に、RPE細胞が増殖し始め、プレートされたRPEニューロスフェアから外側へ拡張し始める。1週間後、RPEニューロスフェアを穏やかに粉砕して、フラスコからそれらを取り除き(回収し)、別のラミニン被覆フラスコに移して、このプロセスを繰り返す(最大3回)。RPEの残りのスカート(remaining skirt)を酵素的に解離し(dissociate)、100,000細胞/cm2の密度で再度プレートし(再播種し)、ヒト胎児RPE(GAMMら、IOVS 49:788、2008;この文献は、全体として、参考のために、本明細書の一部として織り込まれる)に記載されたように3回まで継代される。RPEの成熟を促進するために、FGF2、EGFおよびヘパリンを1-3週間でRPE増殖培地から取り除く。こうして増殖されかつ分化されたRPEは、ベストロフィン(Bestrophin)、RPE65、CRALBP、エズリン(ezrin)、Mitf、および、ZO-1を含めて多数のRPEマーカーを発現する。
【0064】
本発明は、培養(物)に容易にかつ安価に維持することができる便利な球形状の(即ち、ニューロスフェア)RPC及びFPC集団を含めて、主要な神経網膜細胞型及びRPEを生成する。このスフェアは、網膜のより複雑な3次元構造の反復発生(recapitulation)を可能にする。
【0065】
以下の実施例は専ら例示のために設けたものであって、いかなる形でも本願発明の範囲を狭めるものではない。確かに、本願に記載された以外の様々な変形及び変更は、前述した説明及び後述する実施例の記載から当業者にとって明らかであり、特許請求の範囲に含まれる。
【実施例1】
【0066】
ヒトESC及びiPSCを用いた初期網膜発達のモデリング
我々は、以下に、明確(definitive)網膜細胞集団のヒトESCからの細胞運命発生(cell fate specification)及び成熟は、正常な網膜発達を強く連想させる順序及び時間コースを辿るということを検証する。また、網膜の分化は、内因性の発達性シグナル伝達経路を操作することによって変更することができることを証明する。さらに、我々は、株間に変動があり得るものの、発達中の網膜細胞型の同一のコホート(identical cohort)がヒトiPSCから生成され得ることを証明する。眼野(eye field)、RPE、神経網膜前駆細胞、光受容体前駆体および光受容体の形態学的特徴および/またはマーカーを発現する細胞集団は、ヒトESCを使用した結果から予測される時点でヒトiPSCから分化した細胞の培養物において観察された。
【0067】
ここに示す知見は、ヒトES細胞及びヒトiPSCは、ヒト網膜発達の予想されたタイムラインを辿るものの、初期の目及び網膜の発達に関与する特徴を有する細胞にインビトロで分化することができ(Barishak, Y., 2001; Finlay, B.L., 2008)、それによって、個々の網膜細胞型の分化及び網膜発生に関与するヒト網膜形成の検証(調査)メカニズム(investigating mechanism)のための包括的なインビトロモデル系に対する基準(Keller, G., 2005; Pera, M.F., et al., 2004)を満たす。また、本明細書に記載された「高濃度(高濃縮)のニューロスフェア集団(highly enriched neurosphere population)」は、選択的に培養され、かつ、更なる分化、単離、及び、使用のために、相互に、及び、別の細胞集団から単離され得る。
【0068】
結果
ヒトESCの維持(maintenance)
ヒトESC(H9株)を、DMEM/F12 (1:1) ((Gibco #11330-065)、20%ノックアウト血清代替物(Gibco #10828-028)、0.1mM β-メルカプトエタノール、1mM L-グルタミン(Gibco #25030-081)、1%MEM非必須アミノ酸(Gibco #11140-050)、及び、4ng/mL FGF2 (Invitrogen #13256-029)を含有する。)を含んだESCMにおいて照射したMEFのフィーダー層(feeder layer)上に広げた(拡張させた)。細胞は、毎5-6日に継代され(passage)、各継代において形態的に識別可能な分化した細胞を機械的に取り除いた(回収した)。
【0069】
ヒトESCの分化
ヒトESCは、次のように分化された。
【0070】
(1)ヒトESC凝集体の製造:ヒトESCを、照射したMEFの上で6‐ウェルプレートにおいて約80%コンフルエンス(confluence)までに成長させた。80%コンフルエンスに到達したら、ヒトESC培地を吸引し(aspirate off)、ディスパーゼ(dispase)の1ミリリットル(1 mg / ml、Gibco社#17105‐041)溶液を各ウェルに添加した。5分後、細胞をヒトESCコロニーエッジのカーリング(curling)に対して調べたところ、そのコロニーはプレートから持ち上げ始めていた。顕著なカールが現れた場合には、ディスパーゼ溶液を、プレートから吸引し、ウェルあたりDMEM/F12の1ミリリットルに置き換えた。ヒトESCコロニーを、機械的に10mlのピペットで数回ピペッティングして、プレートから機械的に持ち上げた。すべてのコロニーが切り離されたときに(detach)、細胞を15mlコニカルチューブに移し、重力によって沈降させた。凝集体を沈ませた後(〜5分)、上清を吸引し、胚様体(EB)培地10ミリリットル(これは、DMEM/F12(1:1)(Gibco#11330‐065)、20%のノックアウト血清代替物(Gibco#10828‐028)、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、1mM L-グルタミン(Gibco#25030‐081)、及び、1%のMEM非必須アミノ酸(Gibco#11140‐050)を含む)に置き換えられた。それらの解離を最小限に抑えながら、個々の凝集体を分離できるよう、10mlのピペットで2−3回ピペッティングを繰り返すことで、細胞のペレットを再懸濁した。凝集体は、その直径が約400μmであった。これらの凝集体を、その後T25フラスコに移し、インキュベーターに入れた。次の日、その凝集体は、浮遊性の、球状の構造を形成した。(ヒトESCおよび/または残留MEF細胞の有意義な付着が観察されれば、付着されていない凝集体を新しいフラスコに移した。)。これらの細胞には、最初の4日間毎日新鮮なEB培地を供給した。
【0071】
(2)前部神経上皮運命(anterior neuroepithelial fate)への分化:その後凝集体を、15 mlのコニカルチューブに沈降により収集し、10mlのDMEM/F12で1回洗浄した。集合体の再沈降(resettlement)後、上清を除去し、その凝集体を、10mlの神経誘導培地(Neural Induction Medium; NIM)に再懸濁し、新しいT25フラスコに移した。そのNIMは、DMEM/F12(1:1)(Gibco #11330‐065)、1%のN2サプリメント(Gibco #17502‐048)、1%MEM非必須アミノ酸(Gibco #11140‐050)、および2 μg/mlのヘパリン(シグマ #H-3149)を含んでいた。二日後、6ウェルプレートを、ラミニン(DMEMで希釈した20μg/ ml)で被覆し、その被覆したプレートを一晩インキュベーターに放置した。この時点で、凝集体がより明るくなり、明確に区分できる縁部(エッジ)を得た。次の日、約50個の凝集体を、6ウェルプレートの各ウェルにプレートプレートした。追加2mlの新鮮なNIMを各ウェルに添加した。その後、プレートを前後左右に数回穏やかに振って、プレート内に細胞が均一に分布されたことを確かめて、インキュベーターに入れた。しばらくの間(総9日まで)、最も多くの凝集体がラミニン被覆表面に付着した。その後、これらの凝集体は、その業種体の中心部でより3次元の外観を保持しつつも、周囲(periphery)に向かって単層形状に配置された細胞で多少平らになった。これらの培養物には2日毎に定期的に新鮮なNIMを与えた。数日以内に、柱状の細胞が発達され、神経管様構造を形成した。総15日間の分化後(付着後8日)、多くのこれらの凝集体内に柱状ロゼット構造を同定できた。これらのコロニーの周囲上に、柱状ロゼット構造を表さない細胞小集団が見られた。
【0072】
(3)網膜前駆細胞(RPC)ニューロスフェア及び前脳前駆細胞(FPC)ニューロスフェアの生成:網膜の分化を可能にするために、分化16日目に、柱状のロゼット構造を持つこれらのコロニーの中心領域を、1000μlピペット先端を用いて培養プレートから除去した。これは、ウェル内の一部の培地を汲み上げて、その培地をその細胞コロニーに直接噴出することによって行う。これらのコロニーの中心部に位置した柱状ロゼット細胞が周囲に存在するこれらの細胞よりも高密度であったため、これらはピペッティング技術によって容易に除去されて、プレートに付着した非ロゼット細胞を残した。我々は、この段階で、持ち上げられたコロニーを破壊しないように注した。分離されたコロニーを、15 mlのコニカルチューブに回収し、600rpmで1分間遠心分離にかけて、培養培地中の懸濁液内に大部分の単一細胞を残したまま、分離されたコロニーを効率的にピペットした。その後、上清をチューブから吸引し、クラスターは、網膜分化培地(RDM)10mlに再懸濁し、新しいT25フラスコに移した。RDMは、2%B27を補充したDMEM / F 2(3:1)を含んでいた。次の24〜48時間にわたって、これらの分離されたコロニーは、残りの非神経細胞の一部がフラスコに付着した状態で、巻き上げられて球状細胞クラスター(ニューロスフェア)を形成した。ニューロスフェアには、新鮮なRDMを2〜3日毎に供給した。細胞の分離後3〜5日以内に(分化19〜21日)、ニューロスフェアは容易に二つの主要な外見のいずれかを採用した。いくつかのニューロスフェアは、時折その中で神経上皮ロゼットを有するのを除けば、典型的に明確な構造上の特徴を有しない、明視野顕微鏡下での色や密度が均一であった("非小胞性(non-vesicular)"または "層状(non-laminar)"の形状)。細胞の外側のリングは、中心から半径方向外向きに配向された細胞を有するものと観察された。相明るく、金色の、環状のニューロスフェアは、明確な早期の網膜前駆細胞(RPC)で構成されていた。その均一な外観の、非環状ニューロスフェアは、前脳前駆細胞(FPC)で構成されていた。
【0073】
(4)ヒトESC-由来の網膜前駆細胞ニューロスフェア(RPCニューロスフェア)及び前脳前駆細胞ニューロスフェア(FPCニューロスフェア)の単離:FPCニューロスフェアからのRPCニューロスフェアを単離するためには、ニューロスフェアの集団を、分化の約20日(分離後5日)で形態学的特性(上記参照)に基づいて分離した。この時点で、互いにくっつく少数のクラスターも存在するが、大概は形態的な相違を表す。より遅い時点において、細胞凝集体は、その際立った特性を失い、お互いにしっかりと付着し始める。ニューロスフェアを収集するには、フラスコの内容物を15 mlのコニカルチューブに移し、重力(〜2-3分)沈降させた。培地を吸引し、ニューロスフェアは、新鮮なRDM 5 mlで再懸濁し、次いで、この混合物を60ミリメートルのペトリ皿に移した。ペトリ皿を顕微鏡のステージ上に置くとともに、数回旋回して、皿の中心部にニューロスフェアを収集した。P20ピペットを用いて、内部にRDM10mlを備えた15mlコニカルチューブへ、相明るく、金色の層状のRPCニューロスフェアを優しく収集した。このプロセスはRPCニューロスフェアを採取するために繰り返された。RPCニューロスフェアを除去した後、FPCニューロスフェアを、その形態的な特徴に基づいて、10mlRDMを含む別の15 mlコニカルチューブへ収集した。FPCニューロスフェアを単離した後、互いにくっついたクラスターと混合された残りの細胞、又は、明確に同定できないほど少ないもの等は捨てた。
【0074】
(5)網膜色素上皮(RPE)の生成:RPEは二つの方法で生成されました。一つの方法では、上記の単離されたRPCニューロスフェアをRDM中で培養して、さらに成熟させることである。RPCニューロスフェア集団をさらに2週間培養しているうちに、これらのニューロスフェアのサブセットが色素沈着(着色、色素形成)を発達し始める。1か月さらに培養しているうちに(総2ヶ月)、このサブセントのニューロスフェアのすべての細胞が着色された。この着色によって、RPE運命(即ち、bestrophin、RPE65、CRALBP、ezrin、Mitf、ZO-1のような成熟したRPEの複数のマーカーを発現するRPEスフェア(球))を採用したRPCニューロスフェアが同定された。また、神経上皮ロゼット(上記参照)は、RDM中の培地表面に付着した状態を維持し、15日後時間の経過と共にRPEに分化した。さらに、神経上皮ロゼット(上記参照)は、文献[Gamm, Ophthalmol Vis Sci 2008]にあるように、拡張した。
【0075】
(6)FPCのさらなる分化:FPCニューロスフェアは、更なる1週間以内により成熟した前脳ニューロン集団に分化し、GABA、HUC / D、βΙΙΙチューブリン、及び、Sox1のようなマーカーだけでなく、 Otx2、Sox2、及び他の前脳及び神経マーカーをした。
【0076】
ヒト胚性幹細胞からの眼野形成
セクション(1)及び(2)「ヒトESCの分化」に前述したように、そして、図1Bに示すように、ヒトESCは、自由浮遊性(free-floating)ヒトESC凝集体(EBs)として分化され、かつ、培養皿への付着が促されて、神経上皮ロゼット形成を可能にした。分化16日後、ロゼットを含むコロニーを機械的に除去され、ニューロスフェアとして成長された(セクション(3)「網膜前駆細胞ニューロスフェア及び前脳前駆細胞ニューロスフェアの生成」参照)。
【0077】
RT-PCR実験は、遺伝子発現を確認するために、次の通り行われた:RNAeasy(登録商標)キット(Qiagen)を使用して、分化の様々な段階からの細胞培養物から総RNAを分離し、DNase で処理した。逆転写は、 Superscript III RT-PCR kit (Invitrogen)で行われた。PCRは、GoTaq PCRマスターミックス(Promega社)を用いて行い、その後のPCR産物を2%アガロースゲル上でランニングさせた。定量的RT-PCR(qPCR)のために、Sybr Green Supermix(Applied Biosystems社)及びOpticon 2 DNAエンジン及びOpticon Monitor 2.02ソフトウェア(MJリサーチ)を使用して反応を行った。使用されたプライマーセット(順方向プライマー及び逆方向プライマー)を、表1及び表2に記載した。特に断りのない限り、ここに記載したすべてのプライマーは、60℃のアニーリング温度で30サイクルランニングされた。定量的RT-PCRのプライマーは、40サイクルランニングされた。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
このプロセスの中で、ヒトESCは、多能性遺伝子Oct4及びNanogの発現、眼視野にかかわる転写因子(RX、Six3、Six6、Lhx2、Tll、Otx2)及び神経誘導にかかわる転写因子(Pax6、Sox1、Sox2)の後天的な発現を急速に失った(図1 C)。RT-PCR実験では、Pax6は、それぞれにもPax6aとPax6bとして知られている両方のPax6(-5a)およびPax6(+5)アイソフォームの発現を反映して、分化の6日目で二重バンドとして存在していた。この初期の細胞集団の適切なステージング(staging)及び系統は、さらに網膜前駆体転写因子Chx10(またVsx2として知られている)、光受容体特異的転写因子Crx及び脊髄関連転写因子HoxB4の発現の不在によって確認された。
【0081】
タンパク質発現を確認するために次の通り免疫細胞化学を行った。ヒトESC集合体又はニューロスフェアを一晩ポリオルニチン及びラミニン被覆カバースリップ上にプレートして付着させて、4%パラホルムアルデヒドで固定した。その後、細胞に10分間0.2%Triton X-100を浸透させた。Mitfの免疫細胞化学では、さらなる透過ステップ(permeabilization step)として、細胞を10分間氷冷90%メタノール中でインキュベートした。免疫染色は、表3に記載された抗体を用いて0.1%トリトンX-100、5%ロバ血清で実施した。標識細胞はAlexafluor 488、又は、Cy3共役した二次抗体で可視化され、核はヘキスト(Hoechst)またはTo−Pro−3核染料のいずれかで対比染色した。画像は、SPOTカメラ及びソフトウェアを備えたニコンTE600蛍光顕微鏡から、または、ニコンC1レーザー走査型共焦点顕微鏡上で得られたニコンTE600蛍光顕微鏡から得た細胞クラスターのZスタックからから得られた。
【0082】
免疫細胞化学によれば、これらのコロニー内のほぼすべての細胞は、分化10日までに前部神経/眼視野転写因子Otx2(図1 D)及びLhx2(図1 E)だけでなく、明確な神経上皮マーカーSox1(図1 F)を発現した。
【0083】
我々は、明確な網膜細胞集団のヒトESCからの細胞運命発生(cell fate specification)及び成熟が、正常な網膜発達を強く連想させる順序及び時間コースに従うことを以下に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
Pax6及びRxの遺伝子及びタンパク質発現についてはさらに詳細に調べたが、それは、眼野細胞が、しばしばこれらの2つの転写因子の共発現(Osakada, F., et al., 2008; Mathers, P.H., et al., 2000)を特徴とするためである。RT-PCRおよび定量PCR(qPCR)の分析は、上記のように行われ、Oct4発現の喪失と密接に相関していた、分化の最初の数日以内におけるPax6及びRxの両方の発現のオンセット(図2A-C)を明らかにした。免疫細胞化学(図2D)によって測定されたように、タンパク質レベルにおいて、ほぼすべてのH9由来の細胞は分化の10日以内にPax6及びRxの両方を共発現させた。
【0086】
Pax6及びRxの表現を取得する細胞の割合を定量化するために次のように FACS分析を行った。細胞は、トリプシンまたはAccutase(登録商標)(Chemicon社)のいずれかで解離させ、蛍光活性化細胞選別(fluorescence-activated cell sorting;FACS)緩衝液(PBS、0.1%アジ化ナトリウム、2%ロバ血清)で洗浄し、10分間0.1%パラホルムアルデヒドで固定した。次に、細胞を20分間氷冷90%メタノールで透過し、FACSバッファー中で1百万個の細胞当たり抗体1μgの濃度で、一次抗体で一晩インキュベートした。抗体情報については、表2に示す。その後、2時間ロバ抗マウスまたはロバ抗ウサギアレクサ488二次抗体のいずれかで免疫染色を完了させ、その後、細胞をFACS緩衝液で洗浄して、ベクトン・ディキンソンFACSCaliberで選別(ソート)した。その選別(ソーティング)から取得したデータは、CellQuest Proソフトウェア(Becton Dickinson社)で分析した。
【0087】
細胞集団は、分化の最初の16日間にわたってFACSで分析した(図2E-F)。Pax6及びRx発現のオンセット(onset)は、すべての細胞の約25%がこれらの因子を発現した6日目に検出された。Pax6及びRxの発現は、分化10日目で細胞の90%を超え、16日では95%を超えるまで増加した。逆に、Oct4のタンパク質発現は、分化の10日目で検出できないレベルまで減少した。
【0088】
外因性Wnt及びBMPアンタゴニストの不在下での眼視野特性(eye field characteristics)を備えた細胞の高比率の生成は、ヒトESC培養を分化させるのになDkk-1及びNogginの内因性発現への更なる研究を促した。両遺伝子は、定量PCRによって測定されたように、眼視野形成時に上方制御される(図2G)。
【0089】
また、ウエスタン分析は、DKK-1及びNogginの発現を決定するために行われた。細胞溶解物から得られた20μgのタンパク質サンプルは、4〜20%勾配Tris-Clゲル(Bio-Rad社)上で分離され、PVDF膜上に電子ブロットされ、Ponceauレッドで染色されて、移動(transfer)を確認した。膜は、室温で1時間5%脱脂粉乳及びTBST中2.5%のBSAでブロックして、TBST中1次抗体+TBST中BSA及びHRP−共役2次抗体+1%非脂肪乳で室温にて1時間連続してインキュベートした。ウエスタンブロット分析に用いられた一次抗体は、Noggin尾帯Dkk−1に対するものであった(表2参照)。たんぱく質バンドは、化学発光(chemiluminescence)(ECL Plus(登録商標)ウエスタンブロット分析検出キット;GEヘルスケア、チャルフォントセントジャイルズ、英国)によって可視化した。
【0090】
ウエスタン分析では、分化10日目で(図2H)Dkk-1及びNogginたんぱく質の発現が検出された。分化の最初の10日間にわたっての培養物へのWnt3A及びBMP4の添加により、Pax6及びRx(図2I)の両方の発現を無効にした。
【0091】
特異的FGF受容体阻害剤SU5402の添加によって、分化の10日目でPax6及びRx両方の発現の完全な喪失がもたされたため(図4、RT−PCRによってテストされた。)、内因性FGFシグナル伝達はまた、初期眼野特徴(early eye field feature)の取得にもかかわった。
【0092】
眼胞及び眼杯細胞表現型の獲得
網膜発達の眼野ステージに相応する神経上皮ロゼットが持ち上げられ、ニューロスフェアに成長されたときに、免疫細胞化学(図5A)によって示されたように、分化30日目でMitfたんぱく質の非常に均一な発現が全てのスフェアの14.7 ± 2.1%以内で観察された。qPCR分析では、Mitfの遺伝子の発現が分化第16日目から37日目までに増加したことが更に明らかになった(図5B)。
【0093】
次に、免疫細胞化学を用いて、時間の経過にとともに分化ニューロスフェア培養物におけるMitfとChx10たんぱく質発現間の関係を調べた。Chx10発現は、30日目でたまに観察された(図5C)。Mitf及びChx10の共発現は、40日目では良く見られ(図5D)、その後、Mitf発現がChx10+ニューロスフェア内で減少するにつれて50日目ではChx10及びMitfの相互排他的な発現が続いた(図5E)。qPCR分析によって、Chx10遺伝子発現がMitfに対して遅れることが確認された(図5F)。Mitfと同様、Chx10タンパク質は最終的に、それが発現されたニューロスフェアのサブセットのほぼすべての細胞において免疫細胞化学によって検出された。Chx10タンパク質発現の定量化によって、全てのニューロスフェアの18.0±3.3%が分化40日目でChx10+細胞を含んでいて(図5H)、50日目では、これらのChx10発現ニューロスフェア以内で、90%を超える細胞がChx10を発現したこと(図5H)が証明された。FACSにより、全体の細胞培養集団の26%が40日目でChx10を発現した(図5J)。初期眼野由来の残りのChx10‐ネガティブニューロスフェアは、前部神経アイデンティティ(anterior neural identity)を維持した。
【0094】
Chx10の発現は、まだ成熟したニューロンの表現型を取得していない神経細胞種にかかわる。Chx10を発現したニューロスフェアの中で、99%を越える細胞がPax6の発現を維持したが、これは初期RPCの要求条件である(Belecky-Adams, T., et al., 1997; Toy, J., et al., 2002)、1997)(図5K)。また、ニューロスフェア以内の多くのChx10クラスターは、ロゼット内に配置されていた。その細胞は、密着結合タンパク質Zo−1に対して陽性なこあーから半径方向に離れて配向され(図5L),そして、別の特徴は、前駆細胞集団にかかわっている(Elkabetz, Y., et al., 2008)。(IIIチューブリン(初期有糸分裂後のニューロンのマーカー)の発現を調べたとき、Chx10 +細胞を含んだ一部のクラスターが少数のβΙΙΙチューブリン陽性ニューロンを含んでいるにもかかわらず、Chx10がまれにβΙΙΙチューブリンを共発現することを見出した(図5M)。
【0095】
FGFシグナル伝達は神経網膜の形成に関与すると示唆されているため(Mulier、F.ら、2007)、我々は次に、SU5402、Mitf及びChx10遺伝子の発現に対するFGFR1受容体の強力かつ特異的阻害剤の効果を検証した。眼胞の段階及び分化の眼杯段階におけるヒトESC培養物へのSU5402の添加(16日〜40日目)によって、定量PCR(図5N)により測定されたとき、40日目にMitf遺伝子発現が11.8倍増加した。対照的に、Chx10発現は、この処理の結果として、15.9倍減少した。
【0096】
FPCニューロスフェアは、図12に示したように特徴付けられる。分化した非網膜細胞は前方神経表現型を保持した。分化40日目に、すべてのニューロスフェアは、一般的な神経マーカーSox1(A-C)及びβΙΙΙ-チューブリン(D-F)を発現した。(G-I)多くのblll-チューブリン+細胞はGABA作動性表現型を有していた。(J-L)これらの細胞の前脳運命(forebrain fate)は、Otx2の広範な発現によって決定された。(M)RT-PCR実験では、これらの細胞が一般的な及び前方の神経マーカーの両方を発現するが、他の胚葉、中脳又は脊髄のマーカーを発現しないことが確認された。インセット(inset)は、信号の核の特異性を示す。
【0097】
網膜色素上皮(RPE)の発生
網膜発達の眼野段階に相応する神経上皮ロゼットが、上述のようにRDMにおける接着培養物として維持されして維持されるときに、多角形、色素細胞の異なるパッチが最初にヒトESCの分化の約30日目に観察された。免疫細胞化学によって示すように、これらの細胞は、RPEに関連した密接結合(タイトジャンクション)蛋白質ZO-1を発現しながらも転写因子Mitfの発現を維持した。分化の40日目で、FACS分析では、すべて接着細胞の25%がMitfを発現し、すべての細胞の77%はPax6を発現したことが明らかになった(図6C)。RT-PCR分析では、時間の経過でもこの細胞集団においてPax6の発現が維持され、かつ、より成熟したRPE関連マーカー、例えば、RPE65およびbestrophinが取得されたことが明らかになった(図6D)。
【0098】
ヒトESC由来網膜前駆細胞から生成された網膜細胞種
ヒトESC由来網膜前駆体細胞ニューロスフェアが長時間維持された後、ニューロスフェアは、感光体の表現型に向かって成熟した。分化の3ヶ月(合計)で、無色素性(無着色)神経網膜RPCニューロスフェアは、複数の網膜細胞種類、主に光受容体前駆体(例えば、Crx+)または光受容体類細胞(例えば、オプシン+およびリカバリン+)、及び、HuC/Dを発現し長いβΙΙΙチューブ+プロセスを有する網膜神経節細胞を生成した。
【0099】
ヒトESC由来の網膜前駆細胞から生成された初期光受容体表現型
免疫細胞化学によって示すように、分化の80日の時点で、全てのニューロスフェアの19.4±す3.1%はCRX+光受容体前駆体を含んでいた(図7A)。これらのコロニー内に、全ての細胞の63.0±7.6%がCRXを発現した。さらに、CRX+細胞の大部分は、光受容体特異的タンパク質リカバリンを発現し(図7B)、そして、錐体光受容体特異的タンパク質オプシンを発現した(図7C)。
【0100】
神経網膜に関連した遺伝子、及び、光受容体に関連した遺伝子の発現の時間コース及び逐次獲得(sequential acquisition)を分析するために、前述のとおりRT-PCR分析を行った(図7D)。16日目から80日目までの分化過程を通して、Pax6遺伝子の発現が検出された。Rx遺伝子の発現は分化の初期に存在したが、その後、Chx10、CRX及びオプシンの発現が続いた。全体として、本研究に用いられた遺伝子及びタンパク質マーカーの発現タイミングは、正常なヒト網膜の発達のそれと一致した(Barishak, Y., 2001; Finlay, B.L., 2008)(図7E)。
【0101】
これらの培養物におけるより成熟した網膜の表現型に向かっての進行のさらなる証拠は、RT-PCR法によって時間とともにPax6アイソフォームの発現を監視することによって得られた。本研究から得たRT-PCRの結果によれば、Pax6(+5a)アイソフォームがヒトESCの分化の際により多くなってくる(prevalent)ことが示唆された(図2Aおよび図7D)。この観察を検証するために、総Pax6発現に対するPax6(+5a)の定量PCR(相対的な)を前述の通り行った(図8)。この分析によって、分化4日目から16日目までPax6(+5a)のオンセットが確認され、かつ、60日目から70日目におけるこのアイソフォームの発現が相対的に増加されたことが証明された。これは、培養物における光受容細胞様細胞の出現に相当する。
【0102】
ヒトiPSCから網膜細胞型(網膜細胞種)の分化
ヒトiPSCから網膜細胞型(種)の段階的誘導の可能性を知るために、我々は、4つの異なるヒトiPS細胞株に対し、上記のヒトESCの分化プロトコルを適用した。以前のレポート(Yu, J.、et al., 2007)と一致して、分化10日目においてPax6+神経外胚葉細胞(neuroectodermal cell)を生成するこれらの細胞株の能力においてかなりのばらつきが見られた。その有効性(efficiency)は、総細胞集団の約5〜56%であった。
【0103】
これらの結果に基づいて、我々はm最高Pax6発現株の一つであるIMR90-4細胞株を研究することをした。なぜならば、我々は、ウイルスベクターなしに生成される細胞株を含めて調べた全てのiPSC細胞株から(その有効性にばらつきはあるものの)RPC及びFPCニューロスフェアを得たが、Pax6が網膜発達に必須であるからである。大規模な研究のために選ばれた細胞は、胎児包皮(fetal foreskin)IMR-90(ATCC CCL-186)細胞を再プログラム化することによって、Yuらの記載に基づいて誘導された。分化すると、iPS細胞コロニー、凝集体、神経上皮ロゼット、並びに、RPC及びFPCニューロスフェアの出現は、ヒトESC及びそこから分化した細胞のそれとは区別がつかなかった(図9)。分化の過程で、免疫細胞化学によって、10日目の初期眼野細胞がPax6及びRxを共発現することがわかった(図10A)。これらの細胞はまた、眼野及び神経上皮転写因子の完全な補完を発現した(図11)。Mitf+細胞の個別の集団(discrete polulation)は、ニューロスフェアとしての眼野コロニーのさらなる分化後観察された(図10B)。これらのヒトESC同等のもののように、これらのiPS細胞ニューロスフェアの多くは、ChX10発現に有利なMitf発現を喪失するものと見られ(図10C)、Chx10細胞が非常に豊富なニューロスフェアを生成した。総集団のうち、全てのニューロスフェアの12.9±4.3%は分化40日目においてChx10を発現した。この中で、全ての細胞の90.1±1.2%はChx10を発現した。時間の経過とともに、桿体視細胞及び錐体視細胞特異的転写因子Crxのような光受容体マーカーが現れた。その転写因子は、80日目において、全てのニューロスフェアの14.4±5.1%の比率で存在していた(図10E)。網膜分化の初期マーカーの発現と同様に、CRX+細胞は個々の陽性ニューロスフェア内に多く見られて、細胞の65.5±9.3%を構成した。これらのCRX+細胞は、光受容体特異的タンパク質リカバリン(図10F)及び錐体光受容体特異的タンパク質オプシン(図10G-H)を頻繁に発現した。RT-PCR分析によって、これらのマーカーの遺伝子発現の順序及びタイミングとともに、Oct4発現の初期喪失を確認した(図10I)。RPE細胞は、iPS細胞培養物内でも見られ、その色素沈着(着色)は先ず分化の約35日目において明らかになり、50日目において典型的な単層が生じた(図10J)。ヒトESC由来RPEと同様に、これらの細胞は、成熟したRPEの形態的特徴を有するとともに、Mitf及びZO−1を発現した(図10K)。
【0104】
考察
我々は、Pax6+/RX+細胞の産生が非常に効率的であることを検証した(全ての細胞の95%がこれらの必須転写因子を共発現する)。この有効性(効率性)は、おそらく部分的には内因性BMP及びWntシグナル伝達からの影響が相対的に欠如したことによるが、それは、両方の経路が神経発生(neural specification)を拮抗することが知られているからである(Glinka, A., et al., 1998; Lamb, T.M., et al., 1993)。。 。)この理論を支持して、ヒトESC培養物において、分化後まもなく、BMP及びWntアンタゴニスト(それぞれNoggin及びDkk−1)の発現の増加が観察された。分化中のヒトESCの組換えBMP4及びWnt3aへの早期(初期)暴露は、Pax6及びRxの発現だけでなく、その後の神経上皮ロゼットの形成をも排除した。
【0105】
この研究において誘導されたPax6+/Rx+豊富な細胞集団は、ヒト眼野の原始的段階に非常に似ていて、関係した網膜前駆細胞の出現に先行したが、それは、初期Pax6+/Rx+集団の大部分は、その後、前方神経アイデンティティを保持しつつも、眼胞または眼杯の細胞表現型を採用しなかったことに起因する。
【0106】
我々の結果は、ニューロスフェアにおけるMitf及びChx10の時空間発現によって示されたように、ヒトESCは、初期網膜分化の類似段階を経て進む証拠となる。また、ヒトESC分化の眼胞及び眼杯段階における内因性FGFシグナル伝達の阻害がMift遺伝子発現を有意義に増加させ、かつ、それに応じてChx10遺伝子発現を減少させたので、発達中の網膜における細胞運命の選択を支配するメカニズムは、分化中のヒトESC培養物において働き得る。
【0107】
網膜の運命を受け入れた(採用した)後、個々のニューロスフェアは正常なヒト網膜形成によって予測される時間フレームにおいて光受容体前駆体を形成した。網膜分化の初期段階と同様に、これは特定の外因性試薬(exogenous agent)を添加することなく得られた。
【0108】
分化過程の開始時に存在する全体のヒトESC集団を考慮に入れた場合、網膜分化の次なる各段階において標的細胞産生の減少が観察された。この観察は、初期の細胞型がしばしば同系統の複数の異なる子孫を産生する正常な網膜の発達と一致する。しかし、現時点において、特定の発達段階にある網膜細胞種の生産(産生)を増やすために所定期間外因性因子を導入する機会は存在する。かかる精度は、単一の要因が発達の段階に基づいて細胞運命の選択に多様な効果を及ぼし得ることから、重要となり得る(Esteve, P., et al., 2006)。例えば、我々は、分化中のヒトESCにおける外因性FGFシグナル伝達の初期阻害によって、眼野発生の喪失が起こる一方で、その後の阻害はRPE及び神経網膜前駆細胞の誘導に重要な細胞を特異的に(個別に)調節(制御)した。シグナル伝達因子を用いた培養物環境の操作また、ヒトESCからの網膜細胞分化の時間コースを変える可能性がある。
【0109】
正常なヒト網膜形成を模倣するヒトESCの能力に基づいて、我々は、同様の培養方法を利用して、ヒト多能性幹細胞、iPSCの別のソースが同様の可能性を示すのかどうかを調べ、ヒトiPSC株がPax6の初期発現を異ならせるという以前のレポート(Yu et al., 2007)を確認した。IMR90-4、最もPax6を発現する株の一つは、網膜の細胞集団を生成する時に有効(効率的)であったが、その他のiPSC株は、神経や網膜細胞型(種)を産生する能力に劣った。かかる現象はHiramiら(2009)によって観察されている。したがって、体細胞からiPSCを誘導する本発明の技術は、株間で常に均一な系統能力(lineage competencies)をもたらすものではない。
【0110】
ヒトESC及びiPSCからの網膜分化の時間コース及び段階に関する詳細な知識は、ヒト網膜の発達における根本的な疑問を研究する機会を与えるだけでなく、医薬品の試験及び網膜再生に対して多能性幹細胞誘導体を使用するための努力を助けることができる。非神経細胞型からの汚染のほぼ不在、及び、RPC及びRPE並びにFPCを含んだ個別の網膜細胞型(種)を豊富にする潜在的な能力は、これらの分化中の培養物の臨床的及び科学的有用性を更に増す。多能性RPC、RPE及びFPCの便利な単離ニューロスフェア集団を生成することができ、多数の使用に対して供給することができる。また、複数の網膜の細胞型を生成するiPSCの潜在的な能力は、ヒト網膜変性疾患のインビトロモデルの発達を助け、そして、これらの疾患を患う患者用にカスタマイズされた幹細胞治療に対する研究を刺激する(Ebert, A.D., et al., 2009; Park, I.H., et al., 2008)。
【実施例2】
【0111】
前駆細胞型によって神経上皮系細胞を分離するための実施例1に記載された方法の更なる特徴
導入
これまでの研究では、網膜の系統に向かって分化するhPSCs(hESC及びhiPSCの両方を含むヒト多能性幹細胞)の能力を検証した。しかし、これらの網膜細胞は、しばしば不明又は非網膜系細胞の混合集団内に発見される。。この特徴は、網膜内に網膜細胞型を同定するために通常用いられる特徴がしばしば中央神経系を通して共有されているため、網膜発達につながる細胞運命決定の研究を複雑化してきた。これらの細胞がhESC又はhiPSCのような多能性細胞源から得られた時に(誘導されたときに)、これらの特徴の発現だけでは、決定的な網膜の性質としてこれらを同定するには十分でない。したがって、網膜の発達、及び、それにかかわる異常を適切に研究するために、多能性網膜前駆細胞を同定し、かつ、豊富にする(即ち、濃縮する)ことが求められる。
【0112】
この実施例において、我々は、Chx10陽性網膜前駆細胞が濃縮された細胞のニューロスフェア集団を同定し、単離した。この集団の細胞を使用して、大部分のクラスの網膜細胞型全てを生成する順序及びタイミング、細胞運命決定のメカニズムを含めたヒト網膜発達の原理を研究することができた。旋回萎縮症(gyrate atrophy)患者由来のhiPSC株に我々のアプローチを適用するにあたり、疾患の進行を研究し、かつ、hiPSCを網膜の疾患を薬理学的にスクリーニングするためのツールとして使用できる原則の証拠を得ることができた。これらの知見は、先ず、特異的前駆細胞集団の細胞集団を高度に濃縮する能力を実証するものであり、そして、網膜疾患の研究用のツールとして使えるhiPSCの有用性の最初の証明という意味がある。
【0113】
結果
眼胞様細胞(optic vesicle-like cell)細胞の同定、特徴付け、及び、単離
網膜発達の初期の段階において、眼胞が確立される。原始的な前脳の外転(evagination)として形成されたので、眼胞細胞は、初期の前方神経上皮と多くの特徴を共有するだけでなく、いくつか重要な違いをも有している。前述した実施例1において、我々は、網膜前駆細胞及び前脳前駆細胞の両方を含む細胞集団に向かってESC及びhiPSC含むhPSCsを分化する能力を検証した。これらの培養物におけるChx10陽性網膜前駆細胞が個々のニューロスフェアに分化する一方で、他のニューロスフェアは完全にOtx2陽性前脳前駆細胞となるように見えたのが興味深い。
【0114】
Chx10陽性網膜前駆神経を同定し単離する能力によって、多くの実験的な可能性が広がる。網膜前駆細胞が高濃度に存在する集団は、網膜疾患に対する細胞ベースの治療の可能性を有する。さらに、このような網膜前駆細胞集団は、そうでなければアクセスできないであろう発達段階におけるヒト網膜発生の研究を可能にする。最後に、分化初期の段階において、網膜及び前脳前駆細胞の両方が豊富な集団(濃縮集団)を同定し、単離する能力に基づいて、敵視的な前方神経上皮細胞が網膜細胞又は前脳細胞のいずれかに発達するかを決定することにかかわるメカニズムをよりよく理解できるようになる。
【0115】
このために、先ず、hES細胞由来の(我々の)初期細胞集団内における違いを探した。我々の以前の研究(実施例1参照)に続いて、分化16日後神経ロゼットを含む細胞クラスターを機械的に分離し、懸濁培地においてニューロスフェアとして成長させた。分化の合計20日後に、個々のニューロスフェア間における形態の違いが明確になってきた(図13A)。明視野顕微鏡を用いて観察すると、いくつかのニューロスフェアは、クラスターの周囲に沿って相明るく(phase-bright)見え、小胞又はほぼカップ状の構造("小胞(vesicular)"または "層状(laminar)"の形態)を持っていた。他のクラスターは、外周(periphery)に沿っての相明るい特性を示さず、より均一に見えた)(即ち、"均一"、"非小胞"、または"非層状"の形態)。これらの後者の表現型は、たまにその中に神経ロゼット様構造を示した。これらの形態学的基準に基づいて、ニューロスフェアを機械的にRPC(小胞性)ニューロスフェア(図13B)とFPC(非小胞性)ニューロスフェア(図13C)に単離することができた。
【0116】
Chx10は、網膜前駆細胞の最初の明確なマーカーであることが知られている。混合された、小胞性、および、非小胞性ニューロスフェアの集団において網膜前駆細胞を同定するためにChx10を使用することによって、小胞性クラスター内で免疫反応性細胞(immunoreactive cell)が豊富になり(90%超)(図13E)、そして、非小胞性クラスター内では全く存在しなかった(図13F)。したがって、Chx10陽性網膜前駆細胞は、分化20日後に細胞クラスターの形態学的特徴を用いて、用意に同定することができた。これらの集団における前駆細胞の状態は、両方の集団における増殖マーカーKi-67の発現によってさらに確認することができた(データは示さず)。また、混合された小胞性、及び、非小胞性クラスターの集団における前脳前駆細胞を同定するためにlslet-1を使用した場合、非小胞性クラスター内には免疫反応性細胞が多く存在したが(図13I)、小胞性クラスターでは全く存在しなかった(図13H)。2つの細胞集団間におけるChx10の差別的な発現パターンを考慮に入れて、遺伝子発現における類似点及び相違を同定するためにRT−PCRを行った(図13J)。興味深いことに、小胞性ニューロスフェアは、初期網膜の発達に役割をすると知られている多数の転写因子(RAX、Lhx2及びSix6等)を差別的に発現することで、網膜前駆細胞を含むものとしてのこれらのニューロスフェアのアイデンティティを更に確認することができた。
【0117】
hES細胞由来の小胞性及び非小胞性ニューロスフェアそれぞれの前脳アイデンティティをsらに確立するために、2つの細胞集団に対してマイクロアレイ分析を行った。非小胞性ニューロスフェアと比較したとき、小胞性ニューロスフェアは、網膜発達にかかわる多くの転写因子を差別的に発現した(図14)。これらの転写因子は、眼野の転写因子(Six6及びRAX)だけでなく、網膜発達の眼胞段階に関与することが知られているMitf、Tbx2、TBX5、およびVax2等の転写因子を含んでいた。逆に、非小胞性ニューロスフェアは、Dlx1、Dlx2、Islet-1、及び、FoxG1を含めて前方神経集団(anterior neural polupation)の発達に関与する多数の転写因子を差別的に発現した。
【0118】
ヒト誘導多能性幹細胞(Human induced pluripotent stem cell; hiPSC)は、多能性幹細胞の代替源を表す。既知の重要な転写因子を用いた体細胞の再プログラム化(reprogramming)を通じて誘導されたために、hiPSCは、移植用の多能性幹細胞の自己(自家)源として使える可能性がある。また、既知の遺伝性疾患の患者からhiPSCを誘導する能力を考えれば、hiPSCは、疾患の進行や薬物スクリーニングのためのインビトロモデルとして機能できる。しかしながら、この可能性が実現される前に、hiPSCがそれらのhESC同等のもの(counterpart)と同様に誘導キュー(inductive cue)に応答するかどうかを決定することが役立つ。
【0119】
このために、幾つかのhiPSC株を、分化時(分化後)に前方神経表現型(anterior neural phenotype)を生成する能力についてスクリーニングした。以前の研究では、ほぼデフォルトメカニズム(default mechanism)を介していくつか確立されたhESC株から前方神経表現型の高効率誘導(highly efficient derivation)が証明された(例えば、Elkabetz,2008参照)。hESCに適用された同一の誘導プロトコル(induction protocol)にしたがって、Pax6及びRaxの発現によって決定されたときに、前方神経表現型を採用するhiPSCの能力において有意義なばらつきが見られた。詳細に、一部の株は、神経表現型の生成に劣るが、他の株は、より効率的に神経表現型を生成していた。
【0120】
我々がhiPSCを分化プロトコルに入れたときに、細胞は一般的にPax6の発現を欠いた(図15B)非神経形態を採用した(図15A)。
【0121】
神経表現型を生成しないこの能力にかかわるメカニズムを確立するために、神経発生を阻害すると知られていたシグナル伝達経路を研究した。神経系の発達時に、BMP及びWntシグナル伝達経路は、神経の発生を拮抗することが知られていて、そして、これらの経路の内因性阻害剤、Noggin及びDkk−1は神経細胞の運命獲得に貢献することが実証されている。実施例1において、我々は、それぞれの阻害剤Noggin及びDkk−1とともに、hES細胞の神経分化中におけるBMP及びWnt分子の発現を検証した。Noggin及びDkk−1の内因性発現に焦点を当てたときに、HES及びhiPSCのいくつかの細胞株は、分化2日後にこれらの阻害剤を異なるレベルで発現することが分かった(図15C)。このばらつき(variability)は、分化10日後にRax6−陽性、Rax−陽性前方神経集団を形成する異なる能力と相関性があることが分かった(図15D)。これらの集団は、分化2日においてDkk−1お呼びNogginをより大量に発現し、通常10日後にはより高いレベルのPax6及びRaxを有していた。
【0122】
Dkk−1及びNogginの初期発現と、その後のPax6−陽性、Rax−陽性前方神経運命の獲得間の相関性を考えると、その分化過程の初期にBMP及びWnt信号伝達経路阻害剤を添加することによって、かかる分化能力が減少されたhiPSC株の神経発生を改善することができると考えられた。
【0123】
この仮設を検証するために、BMPシグナル伝達(Noggin又はDorsomorphin)及びWntシグナル伝達(Dkk−1又はXAV-939)阻害剤を、分化2〜4日で培養物に添加した。実施例1日に記載したタイムフレームは、Pax6及びRax発現に基づく神経発生のオンセットに先行するものであった。BMP及びWnt阻害剤への被爆後、分化10日(合計)が経過した時点で、以前に神経運命を獲得する能力の低下が見られた株は、Pax6(図15F)及びRaxをより高いレベルで発現した。これらの観察は、未処理の細胞コロニーが扁平な外観を有し、かつ、BMP及びWntシグナル阻害剤で処理した細胞コロニーがより均一な上皮的外観(epithelial appearance)を有する(図15E)という分化10日後のhiPSC由来のコロニーの形態を通じて確認された。これは、さらに免疫細胞化学を通じて確認されたが、その免疫細胞化学によれば、BMP及びWntシグナル阻害剤で処理した細胞は、神経転写因子Pax6及びSox1だけでなく、眼野転写因子Lhx2及びSix6を発現するより強い傾向があった。培養物を20日間(合計)維持した後、BMP及びWntシグナル阻害剤で処理した細胞は、RPC小胞性ニューロスフェアに類似した形態を有するニューロスフェアのサブセットを示したが、これらの細胞は、主に網膜前駆細胞マーカーChx10(図15G)を発現した。
【0124】
網膜及び前脳集団の分化及び分離
神経網膜は、イベントの正確な順序で、かつ、予測された体うコースにしたがって、発達することが知られている。多能性幹細胞から個々の網膜細胞型への分化に関する研究がなかなか進まないのは、網膜内のいくつかの細胞型を同定するために使用するマーカーの多くが他の中枢神経系で発現されるからである。その理由から、典型的に多くの網膜細胞型(種)を明確に同定することはできない。
【0125】
現在の研究では、非小胞性(FPC)ニューロスフェアは、前方神経運命を維持し、かつ、さらに分化して多様な神経表現型を生成することができた。分化の合計20日後、初期非小胞性ニューロスフェアは、Pax6(図16A)及びSox1(図16B)を含めた神経運命にかかわる多くの転写因子、並びに、Otx2(図16C)のような前方神経運命にかかわる多くの転写因子を発現した。これらの小胞性ニューロスフェアを合計70日間さらに成熟させると、GABA作動性(図16D)及びTH-陽性のドーパミン作動性ニューロン(図16E)、ならびに、GFAP陽性星状膠細胞(図16F)を含む多様な神経表現型が得られた。これらの時点(timepoint)における分化細胞のRT-PCR分析(図16G)によって、一部の遺伝子は両方の時点で発現されるが、初期の時点では発現され、後半の培養物(later culture)では喪失される遺伝子もあれば、初期培養物では発現されないが後半の培養物において明らかに現れる遺伝子もあった。
【0126】
その非小胞性ニューロスフェア同等のもの(counterpart)とは異なり、hiPSC由来の小胞性(RPC)ニューロスフェアは、網膜発達の初期段階にかかわる多数の特徴を有することが分かった。これらのhiPSC由来の小胞性ニューロスフェア(図17A)は、分化20日目でほぼ全的にChx10陽性、Ki-67陽性網膜前駆細胞で構成されている(図17B)。インビトロでのこれらの細胞のさらなる成熟から、小胞形態が失われる傾向にあるものの(図17C)、これらの細胞の多くは少なくとも分化50日までにChx10陽性及びKi-67陽性を維持したが(図17D),その後、Chx10発現はより分化されたマーカーに有利に(好意的に)失われ始めたことが分かった。
【0127】
hiPSC由来の小胞性ニューロスフェア内の網膜前駆細胞の高純度を考えれば、高い確実度をもって分化網膜細胞型(種)を同定することができた。このタスクを達成するために、hiPSC由来の小胞性ニューロスフェアを、分化20日目から120日目まで10日毎にサンプリングした。定量PCR分析によれば(図17E)、個々の網膜細胞型の発現のオンセットが確認された。初期に生成された網膜細胞腫は、Crx陽性錐体光受容体及びBrn3陽性網膜神経節細胞を含んでいた。これは、網膜発達について伝統的なモデルシステムから知られているものと一致することであった。その後生成された網膜ニューロンは、Nrl陽性桿体光受容体及びPKC-α陽性双極細胞を含んでいた。主要なタイプの網膜ニューロンの存在(即ち、異なる網膜細胞種のアイデンティティ)は、さらに網膜神経節細胞(図17F)、アマクリン(amacrine)及び水平細胞(図17G)、双極細胞(図17H)、錐体視細胞前駆体細胞(図17I)、 インビボで見つかった光受容体に類似した形態を有するもの(図17K)を含む錐体光受容体細胞(図17J)、及び、桿体光受容体前駆体(図17L)の周知のマーカーに対する免疫細胞化学(細胞型特異的たんぱく質に対する抗体を用いる。)によって確認された。免疫細胞化学の定量結果から、このシステムで生成された主要な細胞型はCrx陽性錐体(視細胞)及びNrl陽性桿体光受容体、Brn3陽性網膜神経節細胞を含むことが分かった。hiPSC由来の小胞性ニューロスフェアから生成された光受容体様細胞は、RT-PCR(図17M)分析によって、光伝達カスケード(phototransduction cascade)に関与する多数の遺伝子の発現が確認された。
【0128】
これらのhiPSC由来の小胞性ニューロスフェアは、神経網膜の主要な細胞型のすべてに分化することができることが証明された。小胞性ニューロスフェアと非小胞性ニューロスフェアの混合集団に残された場合(存在する場合)、小胞性ニューロスフェアのサブセットはかなり着色され、網膜色素上皮の特性を取得するように見えた。しかし、これらの小胞性ニューロスフェアが分化の最初の3週間(図18A)以内に単離されたとき、RPE運命に向かって分化するこの能力はほぼ存在しなかった(図18B)。RPE運命の取得に必要なシグナル伝達をよりよく理解するために、RPEの発達に影響を与えることが知られている候補因子を探った。これらのhiPSC由来の眼胞ニューロスフェアが本当に眼胞に類似した発達段階を表す場合、それらは神経網膜及びRPEの細胞を生成することができるはずだ。
【0129】
アクチビン(Activin)シグナル伝達が、この細胞の運命決定に関与することが以前示唆され、こうして、我々は、アクチビンが、RPE運命を採用することにこれらの細胞に影響を及ぼし得るかどうかを研究した。アクチビンは、非小胞性ニューロスフェアから単離した後、小胞性ニューロスフェア培養物に添加そて。分化40日(合計)まで培養物中に維持された。その時点(砂w地、分化40日)は、実施例1において、混合培養物における色素沈着(着色)の取得に十分な遅い時点であることが判明された。アクチビンの存在下において、ニューロスフェアのサブセットは、RPEの特徴である着色表現型(pigmented phenotype)を発達させることができた(図18C)。この特徴に基づいて、これらの凝集体を手動で単離して、RPEの高濃縮集団を生成することができた。マイトジェン(mitogen)FGF2とEGFの存在下でラミニン被覆基板にプレートされたときに、これらの細胞は、増殖し、凝集体から伸び出すことができた(図18D)。その後のFGF2及びEGFの除去は、色素沈着(着色)の再確立及び特徴的な六角形の採用によって示されたようにRPE細胞の成熟をもたらした。アクチビン処理および未処理眼胞集団の定量PCR分析によって(図18E-F)、RPE及び神経網膜それぞれの発達にかかわる転写因子であるMitfおよびChx10の相対的な発現に影響を与えるアクチビンのシグナル伝達能力が検証された。これらの処理細胞のさらなる成熟によって、アクチビン処理培養物がPRE特異的遺伝子、例えば、RPE54を未処理細胞ようも高濃度で発現したが、未処理細胞はBrn3Aを含めた神経網膜にかかわる遺伝子を高濃度で発現したことから、アクチビンは、神経網膜を犠牲にしてRPEの取得に一定の役割をすることが確認された(図18E及びF)。
【0130】
RPE異常をモデル化するためのhiPSCの使用
視覚系の発達を研究する能力を越えて、ここに記載した研究によって、ヒトの疾患をモデル化するためにhiPSCを使用することが可能になる。旋回萎縮(gyrate atrophy)は、神経網膜細胞の二次的な喪失をもたらす、RPEに特異的に影響を与える視覚系の異常である。この異常は、オルニチンアミノトランスフェラーゼ(OAT)をコードする遺伝子の欠損(欠如)を特徴とする。この病気を研究するとともに薬理学的スクリーニングのためのその適合性を実証するための、独自のヒトRPE系システムを開発するという目的下で、、我々は、旋回萎縮症患者由来の皮膚線維芽細胞からhiPSC株を確立した。これらの細胞は、調べた多能性関連遺伝子のすべてを表現し、これらの細胞は、マウスモデルで奇形腫(teratomas)を形成できることが確認された。
【0131】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、前述の発明の詳細な説明は、非限定的なものである。様々な変更及び変形は、この明細書及び後述する特許請求の範囲を読んだ当業者にとって明確であろう。本発明の全範囲は、そのような変更、変形と共に、その等価物等を含むものと解すべきである。
[参考文献]
(以下の各文献は、その全体として、参考までに本明細書に組み込まれる。)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト神経上皮系細胞の実施的に純粋な培養物であって、
(a)ヒト網膜前駆細胞、ヒト前脳前駆細胞、及び、ヒト網膜色素上皮細胞からなる群から選択された1以上のヒト神経上皮系細胞と、
(b)前記ヒト神経上皮系細胞の生存能力を維持するために必要な培地と、
を含み、前記選択された1以上のヒト神経上皮系細胞が、前記培養物に存在する細胞の90%以上を占める、培養物。
【請求項2】
前記選択された神経上皮系細胞が、前記培養物に存在する細胞の95%以上を占める、請求項1に記載の培養物。
【請求項3】
前記ヒト神経上皮系細胞が、胚幹細胞に由来する、請求項2に記載の培養物。
【請求項4】
前記ヒト神経上皮系細胞が、ヒト網膜前駆細胞又はヒト前脳前駆細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項5】
前記ヒト網膜上皮系細胞が、ニューロスフェアの形態である、請求項1〜4に記載の何れか一項に記載の培養物。
【請求項6】
前記ニューロスフェアが、前記培養物に懸濁されているが、表面に付着していない状態で維持されている、請求項5に記載の培養物。
【請求項7】
前記ニューロスフェアが、表面上にプレートされた状態で維持されている、請求項5に記載の培養物。
【請求項8】
前記ヒト網膜系細胞が、Chx10-陽性ヒト網膜前駆細胞である、請求項4に記載の培養物。
【請求項9】
前記ヒト網膜系細胞が、Otx2-陽性ヒト前脳前駆細胞である、請求項4に記載の培養物。
【請求項10】
前記培養物が、無血清培養物である、請求項1〜9にいずれか一項に記載の培養物。
【請求項11】
前記ヒト神経上皮系細胞が、非胎児細胞由来に由来する、請求項1に記載の培養物。
【請求項12】
前記ヒト神経上皮系細胞が、胚幹細胞、又は、誘導多能性幹細胞に由来する、請求項1に記載の培養物。
【請求項13】
前記ヒト神経上皮系細胞が、ヒト誘導多能性幹細胞に由来するヒト網膜色素上皮細胞である、請求項1に記載の培養物。
【請求項14】
前駆細胞型によって神経上皮系細胞を分離する方法であって、
(a)少なくとも2つの異なる前駆細胞型のニューロスフェアが形成されるまでに、懸濁液において2以上の分離した、非胎児細胞由来のヒト神経上皮ロゼットを培養するステップと、
(b)前記ニューロスフェアの1以上の形態学的特徴を観察して、前記ニューロスフェアの前記前駆細胞型を同定するステップと、
(c)前記前駆細胞型によって前記ニューロスフェアを機械的に分離するステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
前記分離したヒト神経上皮ロゼットが、ヒト多能性細胞に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒト多能性細胞が、胚幹細胞及び誘導多能性幹細胞からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒト多能性細胞が、個体の体細胞を多能性に再プログラム化することによって得た誘導多能性幹細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒト多能性細胞が、IMR90細胞を多能性に再プログラム化することによって得た誘導多能性幹細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒト多能性細胞が、HI系細胞及びH9系細胞からなる群から選択される胚幹細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記前駆細胞型によって前記ニューロスフェアを機械的に分離するステップを、前記2以上の異なる前駆細胞型のニューロスフェアが互いに凝集し始める前に行う、請求項14〜19にいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記異なる前駆細胞型が、網膜前駆細胞及び前脳前駆細胞である、請求項14〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
小胞性層状形態を有すると観察された前記ニューロスフェアが、網膜前駆細胞として同定され、かつ、均一な形態を有すると観察された前記ニューロスフェアが、前脳前駆細胞として同定される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ニューロスフェアの形態学的特徴を、明視野顕微鏡を使用して観察する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記2以上の分離したヒト神経上皮ロゼットを培養するステップを、網膜分化培地において行う、請求項14〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記網膜前駆細胞ニューロスフェアを前記前脳前駆細胞ニューロスフェアから機械的に分離して、網膜前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物を形成する、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記網膜前駆細胞ニューロスフェアが光受容体、神経節細胞、及び、その他の神経網膜細胞型に分化するまでに、前記実質的に純粋な培養物において前記神経網膜前駆細胞ニューロスフェアを培養するステップを更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
網膜色素上皮細胞ニューロスフェアが形成されるまでに、網膜分化培地を用いて、前記実質的に純粋な培養物において前記網膜前駆細胞ニューロスフェアを培養するステップを更に含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記分離したヒト神経上皮ロゼットが誘導多能性幹細胞に由来し、そして、前記網膜前駆細胞ニューロスフェアを培養するステップをアクチビン(Activin)の存在下で行う、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記誘導多能性幹細胞を、個体の体細胞を多能性に再プログラム化することによって得る、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記培養物から前記網膜色素上皮細胞ニューロスフェアを機械的に分離して、網膜色素上皮細胞の実質的に純粋な培養物を形成する、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
ラミニン被覆培養皿上に前記網膜色素上皮細胞ニューロスフェアを培養するステップを更に含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記網膜前駆細胞ニューロスフェアから前記前脳前駆細胞ニューロスフェアを分離して、前脳前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物を形成する、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
請求項25に記載の方法によって生成された、網膜前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物。
【請求項34】
請求項32に記載の方法によって生成された、前脳前駆細胞ニューロスフェアの実質的に純粋な培養物。
【請求項35】
請求項30によって生成された、網膜色素上皮細胞の実施的に純粋な培養物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図2I】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図5I】
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【図5J】
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【図5K】
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【図5L】
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【図5M】
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【図5N】
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【図6A−B】
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【図6C−D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8】
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【図9】
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【図10A−C】
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【図10D−H】
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【図10I−K】
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【図11A−D】
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【図12A−F】
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【図12G−M】
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【図13A−I】
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【図13J】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図15E】
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【図15F】
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【図15G】
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【図16A−F】
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【図16G】
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【図17A−E】
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【図17F−M】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図18E】
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【図18F】
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【公表番号】特表2013−502234(P2013−502234A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526915(P2012−526915)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/046488
【国際公開番号】WO2011/028524
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ ファウンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】