説明

実験動物飼育用ラック装置

【課題】飼育ケージ内の汚染空気を効果的に排気すると共に飼育室内の清浄な空気を飼育ケージ内に確実に入る気流の流れを形成し、更に、飼育ケージのラック装置への出し入れや、飼育ケージ内への餌の提供、飼育ケージからの動物の出し入れなどの作業に煩わしさのない実験動物飼育用ラック装置を提供する。
【解決手段】フレーム構造体11で支持された棚板14上のケージ収納部15に保管される飼育ケージ1の開放上面2aに近接して排気口形成装置16とケージ上部カバー23とが配置されている。排気口形成装置16を構成するボックス状の排気部17の内部には、底板17aの開口部19に進入してケージ収納部15に飛び出す排気口形成体18が旋回可能に取り付けられている。排気口形成体18には排気穴20dが形成され、飼育ケージ1の内部の汚染空気や悪臭を排気穴20dから排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験動物飼育用ラック装置に関し、更に詳細には、例えば医薬品の開発或いは医学的な種々の実験や検証などで使用するマウスなどのような小形の実験動物に対して細菌の侵入や漏出などについての安全管理、並びに実験動物飼育室内での悪臭の拡散防止を図りながら飼育する実験動物飼育用ラック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医学的な種々の実験や検証などで使用するマウス、ラット、モルモット、ハムスターなど実験用の小動物は、それら実験動物への細菌感染或いはそれら実験動物からの細菌拡散に対して十分な管理を図るように設備の整った実験動物飼育室で飼育されている。
【0003】
従来の実験動物飼育室では、実験動物を細菌などの微生物感染から保護し、或いは実験動物飼育室から細菌などの微生物の外部への拡散を防止するために実験動物飼育用のラック装置によってこれらの実験動物が飼育されている。従来の実験動物飼育用のラック装置としては、特許文献1に開示された発明を挙げることができる。
【0004】
特許文献1に開示された動物飼育ラックは、小動物を入れて飼育するケージを上下の棚板間に配置するものであり、棚板の下面には断面形状がI形をした垂れ壁が側方に並んで設けられ、これら垂れ壁の間における動物飼育ラックの背面には排気チャンバーに連通する排気口が形成されている。飼育ケージは、開放上部周縁部の鍔部をこの垂れ壁の下側係止片に引っかけて吊り下げるか、或いは、鍔部と下側係止片との間を僅かに開けるように棚板上に直接置かれて動物飼育ラックに収納される。
【特許文献1】特開2005−95004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、上面が開放した飼育ケージを動物飼育ラックにおける上下棚板間の棚(飼育ケージ収納部)に配置する方法の一例として、前述したように飼育ケージの開放上部周縁部に形成されている鍔部をI形の垂れ壁における下側係止片の上に乗せ、所定の位置まで押し込んで吊り下げるようにし、これにより、排気チャンバーの空気を排気することにより排気口から動物飼育ラックにおける飼育ケージ収納部内の空気が吸引されることで、動物飼育ラック内が陰圧になり、飼育ケージ内の空気が動物飼育ラックの外(動物飼育ラックが設置されている飼育室内)へ出ることなく排気口から排気チャンバーへ吸引され、同時に、飼育室内に供給されている浄化空気が飼育ケージ内に進入する、と説明している。
【0006】
具体的には、特許文献1の説明では、該文献1の図4や図7に示されるように飼育室内の浄化空気が飼育ケージの中にその正面側開放上部から入り込み、更にこの飼育ケージ内の空気はその背面側開放上部へ向かって上昇しながら外へ出て、背面の排気口に向かって流れる、としている。しかしながら、特許文献1に説明されているような気流の発生は、実際には起こり難い、と考えられる。すなわち、飼育室内の浄化空気は、動物飼育ラックの正面から排気口へ向かって距離の短い直線経路を流れて直接排気口へ吸引されるのが普通であり、かかる気流の発生により飼育ケージ内の空気が付随的に排気口へ引きずられるように吸引されて排気される、と考えるのが一般的である。そのため、飼育ケージ内の汚染された空気と清浄な空気との交換効率は、極めて悪いものである。
【0007】
しかも、特許文献1に開示された発明の動物飼育ラックでは、飼育ケージの上面が開放されたままであるので、空調の不具合などで停止した場合には、飼育ケージ内の汚染空気が、飼育室内に出やすく、その結果、飼育室内には悪臭が漂うだけではなく、病原菌を含む汚染空気が滞留恐れもある。さらに、特許文献1に記載された動物飼育ラックでは、飼育ケージを吊り下げるために、断面I形の垂れ壁を用いていることから、I形垂れ壁の下側係止片には病原体などを含む塵埃が溜まり易く、しかも清掃し難い部分でもあることから、飼育ケージを棚である飼育ケージ収納部に配置するとき、或いは棚から引き出すときに鍔部と下側係止片との摺接により、下側係止片に溜まった塵埃が鍔部によって垂れ壁の奥に押し込まれて固形化したり、或いは棚板上に落下したりして、それが飼育室内に拡散する恐れもあり、衛生上好ましい構造ではない。
【0008】
また、飼育ケージを直接棚板上に置く場合でも、I形垂れ壁の下側係止片上に溜まった病原体などを含む塵埃が周囲の気流で拡散したり、棚板上に落ちたりして不衛生となる心配がある。そのため、特許文献1に記載された動物飼育ラックでは、頻繁な清掃が必要で、このような動物飼育ラックを適正に維持管理するのに多大な労力と費用が掛かる、という問題がある。そこで、結局は、従来の実験動物飼育ラックのように、棚板間の飼育ケージ収納部における前面に開閉扉を設置したものが安全である、と考えられ、そのような動物飼育ラックが継続的に使用されている。しかし、このような動物飼育ラックでは、飼育ケージ収納部から飼育ケージを出したり、或いは飼育ケージ収納部に飼育ケージを収めたりする度に、更には、飼育ケージ内の動物に餌をやるとき、動物を飼育ケージから出すとき、或いは飼育ケージから取り出した動物を戻すときなどにも扉を開け閉めしなければならないことから、非常に煩わしく、飼育作業全般において作業能率の低下を招く、という大きな問題があった。
【0009】
本発明の目的は、かかる従来の動物飼育ラックの問題点を解決するためになされたもので、飼育ケージ内の汚染空気が効果的に排気されると共に飼育室内の清浄な空気が飼育ケージ内に確実に入る気流の流れを形成でき、しかも、飼育ケージのラック装置への出し入れや、飼育ケージ内への餌の提供、飼育ケージからの動物の出し入れなどの作業に煩わしさのない実験動物飼育用ラック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、開放した上面を有する箱状のケージ本体からなる飼育ケージを正面側から出し入れし、且つ該正面側とは反対側の背面側に前記飼育ケージ内の空気を排気する排気ボックス装置が設置されている実験動物飼育用ラック装置であり、その特徴とするところは、前記実験動物飼育用ラック装置が、フレーム構造体で支持された少なくとも1つの棚板と、この棚板上に前記飼育ケージを乗せて保管可能なケージ収納部と、前記ケージ収納部に収納される前記飼育ケージの前記ケージ本体における前記開放上面との間に給気可能な間隙を形成可能に前記開放上面に近接するように前記フレーム構造体に取り付けられたケージ上部カバーと、前記ケージ本体の前記開放上面における残りの開放部を覆う排気口形成装置とを備え、前記排気口形成装置が、前記飼育ケージ収納部の直上に配置され、前記ケージ本体の前記開放上面に近接して配置された支持プレートと、この支持プレートに取り付けられ、該支持プレートに形成された開口部から前記飼育ケージ収納部に進入離脱する排気口形成体と、この排気口形成体に形成された排気穴とから構成され、前記排気口形成装置の前記支持プレートに形成された前記開口部に前記排気口形成体が嵌合するとき、該排気口形成体の前記排気穴が前記排気ボックス装置に連通していることにある。
【0011】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の一実施形態では、前記排気口形成装置が、前記ケージ収納部の前記背面側寄りに設置されている。
【0012】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記排気口形成体が、容器状部分と、この容器状部分の上縁部に形成され、前記容器状部分が前記支持プレートの前記開口部に嵌合するとき、前記開口部の周縁部に密着するフランジとにより形成され、前記容器状部分の少なくとも前記正面側及び前記背面側の両側面が、前記ケージ収納部に向かって収斂するように傾斜した傾斜面で形成され、前記排気穴が、前記容器状部分の底部に形成されている。
【0013】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記排気口形成体が、前記支持プレートに枢着されると共に、前記排気口形成体には、前記容器状部分を前記支持プレートの前記開口部に常時嵌合する付勢力が与えられ、前記ケージ収納部に前記飼育ケージが前記正面側から収納されるとき、前記ケージ本体の背面側上縁部が前記排気口形成体の前記容器状部分における前記正面側の前記傾斜面に当接して前記排気口形成体を前記付勢力に抗して旋回させて前記支持プレートの前記開口部から離脱させる。
【0014】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記排気口形成装置が、前記ケージ収納部の上部に設置され、内部が排気室に形成されたボックス状の排気部を含み、該排気部の背面側が開放して前記排気ボックス装置の前記排気チャンバーに連通し、前記支持プレートが、前記排気部を形成している底板で構成され、前記排気口形成体が前記排気室内に枢着されている。
【0015】
本発明に係る実験動物飼育用ラック装置の他の実施形態では、前記実験動物飼育用ラック装置が、前記ケージ収納部において前記飼育ケージの両側及び前記背面側の三方向における少なくとも上部を囲うように前記支持プレートの前記開口部周辺に立ち下り板で形成された排気口周囲フードを備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実験動物飼育用ラック装置によると、フレームに取り付けられたケージ上部カバーが、ケージ収納部に配置されたケージ本体の開放上面に対して給気可能な間隙を形成するように近接し、また、排気口形成装置の支持プレートが、ケージ上部カバーと同様にケージ本体の開放上面における残りの開放部を覆い、さらに、支持プレートに取り付けられた排気口形成体が、支持プレートの開口部からケージ本体に進入離脱するように構成されているので、飼育ケージが実験動物飼育用ラック装置のケージ収納部に正面側から入れられるとき、排気口形成体が支持プレートの開口部から離脱し、ケージ本体がケージ収納部の所定位置に収められるとケージ本体内に進入する。その結果、飼育ケージが、ケージ収納部に収められているとき、排気口形成体は、ケージ本体内に進入した位置にあるので、この排気口形成体の排気穴からケージ本体内の汚染空気が排気ボックス装置の排気チャンバーへ向かって効率よく吸引され排気される。また、これによりケージ本体内が陰圧になると、ケージ本体の開放上面とケージ上部カバーとの間の給気可能な僅かな間隙から実験動物飼育室内の清浄な空気が入るため、ケージ内の空気の換気も効率よくなされ、しかもケージ上部カバーが、ケージ本体の開放上面に対して給気可能な間隙を形成するように近接配置されているためケージ本体内の空気が外に出て実験動物飼育室内に漂うこともなく、実験動物飼育室内での悪臭の拡散も防げ、さらには、開閉扉を取り付ける必要もないので、飼育ケージ収納部への飼育ケージの出し入れも非常に容易で作業能率を格段に向上することができる。
【0017】
また、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、排気口形成装置がケージ収納部の背面側寄りに設置されているので、排気口形成体の排気穴と排気チャンバー装置との距離が短く、排気ボックス装置からの吸引力が低下することなく飼育ケージ内に及び、これによりケージ本体内の汚染空気を効果的に排気することができる。
【0018】
さらに、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、排気口形成体は、ケージ収納部に飼育ケージを収納するとき、ケージ本体の背面側上縁部が容器状部分の傾斜した正面側の端面に当接することにより持ち上げられて支持プレートの開口部から離脱させられるので、飼育ケージをケージ収納部に出し入れするだけで排気口形成体を作動位置から回避位置へ移動させることができる。
【0019】
さらに、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、排気口形成体が支持プレートにヒンジにより旋回可能に枢着され、しかも排気口形成体には、バネなどにより容器状部分を支持プレートの開口部に常時嵌合させる方向への付勢力が付与されているので、飼育ケージがケージ収納部に収まったときには、排気口形成体の容器状部分が、自動的に支持プレート開口部からケージ本体内に進入する。このように、排気口形成体のセットが自動でなされるため、飼育ケージをケージ収納部に出し入れするだけでケージ本体内の換気動作を開始することができる。
【0020】
また、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、排気口形成装置が、このラック装置の背面側におけるケージ収納部の真上に設置したボックス状の排気部
と、この排気部を形成する底板を支持プレートとして該底板に形成された開口部に嵌合する排気口形成体とから形成されているので、排気ボックス装置の一部を正面側に膨出させるようにしてケージ収納部の上部に突出させて排気口形成装置を形成できるので、排気口形成装置を排気ボックス装置の一部として容易に製作することができる。
【0021】
さらに、本発明の実験動物飼育用ラック装置によれば、支持プレートの開口部に嵌合する排気口形成体が、ケージ収納部の背面側近くに位置しているので、飼育ケージの背面側周囲の清浄空気を吸い込むことが予想され、そうするとケージ本体内の換気効果が低下するおそれがあるところ、飼育ケージの両側及び背面側における三方向の少なくとも上部を排気口周囲フードで囲っているため、飼育ケージの背面側周囲の清浄な空気が排気口に短絡して吸い込まれるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る実験動物飼育用ラック装置(以下、単に「ラック装置」と称する)を、その好適な実施形態について示す添付図面を参照しながら更に詳細に説明する。図1は、本発明の好適な実施形態に係るラック装置10を実験動物飼育室R内に設置した状態で概略的に示す説明図、及び図2は、図1に示されたラック装置10の一部を拡大して示す断面図である。
【0023】
この実施形態に係るラック装置10は、実験動物飼育室R内に設置され、実験動物を飼育する管理者は、通常、この実験動物飼育室R内で飼育の作業を行う。この実験動物飼育室Rの天井には、空調用の室内吹出口Aが設けられ、この室内吹出口からは、室外に設置された空気調和機(図示せず)で所定の温湿度に管理され、また空気清浄機(図示せず)などで除塵殺菌された清浄な所定温湿度の空気が供給されている。
【0024】
このラック装置10は、図2に示されるようにラック装置10の所定格納位置に飼育ケージ1を出し入れする正面側(図2で見て右側)と、この正面側とは反対側の背面側(図2で見て左側)とにおいてそれぞれ左右に配置された垂直方向(縦方向)に延びる柱11aと、少なくとも正面側及び背面側それぞれにおける左右の柱11aに架け渡された水平方向(横方向)に延びる複数の横梁11bとから主に構成されるフレーム構造体11を備えている。また、ラック装置10の背面には、排気チャンバー4aを形成した排気ボックス装置4がフレーム構造体11に密着して取り付けられている。排気ボックス装置4の排気チャンバー4aは、その上方部分において排気ダクトBにより室外に設置された排気ファンに接続され、排気ボックス装置4の排気チャンバー4a内に吸引された空気は、排気ファンにより実験動物飼育室Rの外に排出される。
【0025】
飼育ケージ1は、開放した上面2aを備える箱形のケージ本体2から主に構成されている。すなわち、ケージ本体2は、四角い底板2bと、この底板2bの正面側及び背面側の各縁部から立ち上がる前後壁2cと、底板2bの両側縁部から立ち上がる側壁2dとから形成されている。ケージ本体2における開放上面2aの外周囲には、各壁部の上端を外側に折り曲げて形成された折り返し縁部2eが形成され、この折り返し縁部2eは、ケージ本体2全体の補強部として機能すると共に飼育ケージ1を運ぶ際の把持部としても利用される。このケージ本体2は、合成樹脂材料などから形成することができる。
【0026】
ラック装置10は、4本の柱11aで囲まれた領域においてこれらの柱11aに連結するなどして最下部に設けられた底部13と、前述した正面側の横梁11bと背面側の横梁11bとに渡された棚板14とを備えている。棚板14は、底部13から飼育ケージ1の高さ寸法より高い寸法を開けて上方に複数段設置されている。このようにして、底部13と棚板14との間、及び棚板14とその上の棚板14との間には、飼育ケージ1を置くスペース(空間)が確保され、この空間がケージ収納部15である。ラック装置10をその正面側から見たときのラック装置10の横幅は、複数の飼育ケージ1を所定の間隔をあけて並べることができる大きさであり、従って、ケージ収納部15は、底部13の上、及び各棚板14の上における左右方向にも所定の間隔をあけて形成されている。
【0027】
このようにしてラック装置10に形成された各ケージ収納部15には、その背面側に水飲み用の給水パイプ12が設置され、これらの給水パイプ12は、適当な水供給源(図示せず)に接続されている。各給水パイプ12は、飼育ケージ1のケージ本体2内で飼育されている動物に飲み水を提供するもので、ケージ本体2の後壁2cには、この給水パイプ12が嵌入する受け口(図示せず)が設けられている。これにより、飼育ケージ1が、ケージ収納部15に収められたとき、ケージ本体2の後壁2cに形成されている受け口に水飲みパイプ12が挿入し、ケージ本体2内に突出する。ケージ本体2内の動物は、給水パイプ12の先端出口に設けられている給水バルブ(図示せず)を舐めることによって出た水を口に含む。
【0028】
ところで、このラック装置10では、ケージ収納部15の直上に、排気口形成装置16と、ケージ上部カバー23とが設けられている。排気口形成装置16は、図3から明らかなようにラック装置10の背面側寄りに位置し、かつ横方向に並んでいる各ケージ収納部15の直上を通過するようにラック装置10の幅方向に延びるボックス状の排気部17と、後述する排気口形成体18とから構成されている。排気部17は、ケージ収納部15の直上に位置する底板17a、その上部に配置された天板17b、対向する側板17c、及び正面側を閉鎖する端板17dなどの壁板で構成され、これら壁板で形成されるボックス状の排気部17は、その背面側に向いた開放部が、排気チャンバー4aを構成しているケーシングに開けられた開口部に整合する状態で結合され、これにより、排気口形成装置16における排気部17の排気室17eと排気チャンバー4aとが連通している。
【0029】
このようなボックス状の排気部17は、ラック装置10の背面側に設置した排気ボックス装置4の排気チャンバー4aを形成するケーシングの一部を正面側に向かって膨出させるようにしてケージ収納部15の上部に突出させることによって排気ボックス装置4と一体に形成することができるので、そのようにすれば排気部17の製造が非常に容易となり、生産性を高めることができるばかりではなく、製造コストも低下させることができる。なお、前述の説明から明らかなように、かかるボックス状の排気部17は、ケージ収納部15ごとに形成されているのではなく、ラック装置10の幅全体に形成されており、従って、排気部17の側方を塞いでいる側板17cは、ラック装置10の幅方向両側部にのみ存在している。
【0030】
排気口形成装置16を構成するボックス状の排気部17における底板17aは、ケージ収納部15に飼育ケージ1が収納されたとき、そのケージ本体2の開放上面2aに近接、言い換えれば開放上面2aすれすれの位置に配置されている。従って、ラック装置10のケージ収納部15に正面側から飼育ケージ1を入れるとき、排気部17の底板17aがケージ本体2の開放上面2aに当接したり、接触したりして飼育ケージ1のケージ収納部15への収納を阻害するようなことは起こらないが、排気部17の底板17aは、ケージ本体2の開放上面2aにすれすれであるため、実質的にケージ本体2における開放上面2aの一部を閉鎖しているのとほとんど同じ状態となる。この底板17aには、図2〜図4に示されるように各ケージ収納部15に配置されたケージ本体2の真上に位置する部分に四角形の開口部19が形成されている。
【0031】
この開口部19には、排気口形成体18が配置される。この排気口形成体18の構成及び取付け状態を具体的に説明すると、排気口形成体18は、図3に明瞭に示されているように、平面形状が四角形をした容器状部分20を備えている。すなわち、この容器状部分20は、四角形の底板20aと、この底板20aの背面側及び正面側の前後縁部からそれぞれ立ち上がった対向する端壁20bと、底板20aの側縁部から立ち上がった対向する側壁20cとから構成され、該容器状部分20の上部は開放されている。この容器状部分20における開放上部の大きさは、排気部17の底板17aに形成された開口部19より若干小さく、また、その開放上部の周囲縁部には全周に亘りフランジ21が形成されている。
【0032】
この排気口形成体18は、容器状部分20を排気部17の底板17aにおける開口部19に落とし込むように配置される。しかし、排気口形成体18は、フランジ21が開口部19の周囲部に乗るので、容器状部分20が開口部19からケージ収納部15に向かって飛び出した状態で排気部17の底板17aに配置される。さらに、この排気口形成体18の容器状部分20における正面側と背面側の各端壁20bは、図3から明らかなように底板20aに向かって収斂するように傾斜した傾斜面とされている。この排気口形成体18は、フランジ21における正面側の部分にヒンジ22の一方の羽根(プレート)が取り付けられ、このヒンジ22の他方の羽根(プレート)は、排気部17の正面側端板17dに固定されている。
【0033】
排気口形成体18の容器状部分20における底板20aの中央には排気穴20dが形成されている。このように、排気口形成体18は、ヒンジ22によって旋回可能であり、その結果、容器状部分20が、排気部17の底板17aに形成された開口部19からケージ収納部15に進入離脱可能となる。また、ヒンジ22には、容器状部分20が開口部19に嵌合する方向へ排気口形成体18を旋回させるような付勢力を付与するバネ(図示せず)が取り付けられ、これにより排気口形成体18の容器状部分20は、開口部19からケージ収納部15に向かって常に突出するように嵌合させられている。言い換えれば、排気口形成体18は、通常では、排気部17の底板17aに形成されている開口部19を塞ぎ、この開口部19からケージ収納部15に飛び出している容器状部分20の底板20aに形成された排気穴20dによってのみケージ収納部15と排気室17eとを連通している。
【0034】
また、各ケージ収納部15において該ケージ収納部15に配置された飼育ケージ1の両側及び背面側の三方向における少なくとも上部を囲うように排気口周囲フード25が排気部17の底板17aの下面に取り付けられている。すなわち、排気口周囲フード25は、ケージ収納部15に配置された飼育ケージ1の両側及び背面側の三方向を囲うように排気部17の底板17a下面に立ち下り板が取り付けられている。このような排気口周囲フード25を設ける理由は、排気部17の底板17aに形成された開口部19に嵌合する排気口形成体18が、ケージ収納部15の背面側近くあって排気部17の底板17bとケージ本体2の開放上面2aとの間に隙間があるので、そこから飼育ケージ1の背面側周囲の清浄空気を積極的に吸い込んでしまうことが予想される。そうするとケージ本体2内の換気効果が低下する。しかし、上述したように、飼育ケージ1の両側及び背面側における三方向の少なくとも上部が排気口周囲フード25で囲われていれば、飼育ケージ1の背面側周囲の清浄な空気が排気穴に短絡して吸い込まれ難くなり、その結果、主にケージ本体2内の空気が排気口形成体18の排気穴20dへ流れる気流を確立することができる。
【0035】
他方、ケージ収納部15の直上に配置されるケージ上部カバー23は、排気部17の底板17aとほぼ同じ高さ位置に配置された覆い部23aを備えている。従って、ケージ上部カバー23の覆い部23aは、排気部17の底板17aと同様にケージ収納部15に配置された飼育ケージ1のケージ本体2における開放上面2aにすれすれの位置に配置されている。このように、ケージ上部カバー23の覆い部23aは、飼育ケージ1のケージ本体2における開放上面2aにすれすれの位置にあるが、開放上面との僅かな隙間24を開けているので、その隙間24が動物飼育室R内の清浄空気を飼育ケージ1内へ供給する入り口として機能している。
【0036】
ケージ上部カバー23における正面側の端部は、図3に示されるように覆い部23aから幾分持ち上がり、更にその先端部が逆U字型に成形されて下向きの溝部23bに形成され、この下向きの溝部23bは、ラック装置10におけるフレーム構造体11の横梁11bに嵌め込まれている。また、ケージ上部カバー23における背面側の端部は、ボックス状の排気部17の端板17dに沿って折れ曲がり、天板17bの上に重ねられ、更にその先端部23cはラック装置10の背面に設置された排気チャンバー4aのケーシングに当接している。このような構成から明らかなように、ケージ上部カバー23は、ラック装置10のフレーム構造体11と排気口形成装置16とを利用して支持されているだけで、容易にその設置と取り外しが可能となっているので容易に分解清掃が可能である。なお、棚板14は、ケージ上部カバー23における正面側端部である溝部23bの上面と、排気部17の天板17b上に重なっている背面側の端部23cとの間に架け渡されるような状態で配置されている。また、これら棚板14とケージ上部カバー23も排気口形成装置16におけるボックス状の排気部17と同様に、ケージ収納部15ごとに形成されているのではなく、ラック装置10の幅全体に設置されている。
【0037】
次に、前述した実施形態に係る実験動物飼育用ラック装置10の使用方法について説明する。実験動物飼育用ラック装置10のケージ収納部15に飼育ケージ1を収めるとき、飼育管理者がケージ本体2内に実験動物を収容した飼育ケージ1を持ってラック装置10の正面側から押し込むようにして入れる。ケージ収納部15の背面側では、前述したように排気口形成装置16を構成する排気口形成体18の容器状部分20が排気部17の底板17aに形成された開口部19からケージ収納部15に飛び出している。そのため、ケージ収納部15に入れられた飼育ケージ1は、そのケージ本体2の背面側に位置する折り返し縁部2eが排気口形成体18の容器状部分20における正面側の端壁20bに当接する。しかし、この端壁20bは、傾斜面であるので、バネによる付勢力に抗して排気口形成体18を図4に仮想線で示されるように排気室17e内に押し上げられて回避位置に旋回させられ、これにより、容器状部分20が開口部19から離脱させられて飼育ケージ1の通過を可能とする。
【0038】
次いで、ケージ本体2における背面側の折り返し縁部2eが排気口形成体18を通過して、飼育ケージ1がケージ収納部15の所定位置に納まると、該排気口形成体18はバネ力により旋回してその容器状部分20が底板17aの開口部19からケージ本体2の内部に進入する。このようにして、飼育ケージ1が、ラック装置10のケージ収納部15に収まっているとき、排気部17の底板17aが飼育ケージ1におけるケージ本体2の開放上面2aにすれすれの位置にあると共に、排気口形成体18の容器状部分20がケージ本体2の内部に入り込んでいることから、ケージ本体2内の開放上面2aより下、即ちケージ本体2の中央部付近に漂う空気が、容器状部分20の底板20aに形成されている排気穴20dから排気部17の排気室17e内に排気され、排気チャンバー4aを介して外部に排出される。
【0039】
これにより、飼育ケージ1のケージ本体2内は陰圧になるので、実験動物飼育室R内の清浄な空気が、ケージ上部カバー23とケージ本体2の開放上面2aとの僅かな隙間24から供給され、ケージ本体2内の換気が行われる。この時、ケージ上部カバー23とケージ本体2の開放上面2aとの隙間24を非常に狭くしているので、この隙間24からケージ本体2内に比較的に速い流速で清浄な空気が流れ込む。この結果、ケージ上部カバー23とケージ本体2の開放上面2aとの隙間24であってケージ本体2の両側と正面側との三方向から動物飼育室R内の清浄な空気を取り込み、三方向の気流がぶつかり合ってケージ本体2の底部2b方向へ流れ、ケージ本体2内の中央付近の汚染空気を排気する気流が確立されるので、飼育ケージ1内の換気が非常に効果的に行われる。また、このラック装置10では、飼育ケージ1がケージ収納部15に収められているときには、排気口形成装置16とケージ上部カバー23とによってケージ本体2の開放上面2aがほとんど閉鎖されているのと同じような状態であるため、ケージ本体2内の汚染空気が隙間24から動物飼育室R内に出る恐れもない。
【0040】
ラック装置10のケージ収納部15に収められている飼育ケージ1により実験動物を飼育しているとき、飼育ケージ1内の飼育動物に餌をやるとき、飼育動物を飼育ケージ1から出すとき、又は飼育ケージ1から取り出した動物を戻すときなどにケージ収納部15から飼育ケージ1を引き出す場合には、ケージ本体2における背面側の開放上面2a内縁部が排気口形成体18における容器状部分20の背面側の傾斜した端壁20bに当接して排気口形成体18を回避位置に旋回させるので、飼育ケージ1のケージ収納部15からの取り出しが、排気口形成体18により邪魔されることはない。
【0041】
これにより、この実施形態に係るラック装置10によると、上面が開放した飼育ケージ1をケージ収納部15に正面側から出し入れするだけで、排気口形成体18のセットが自動でなされてケージ本体2内の換気動作が開始されることから、その操作が非常に簡単であり、実験動物の飼育や管理の労力が従来のラック装置に比較して格段に軽減する。さらに、飼育ケージ1がラック装置10のケージ収納部15に収められているときには、排気口形成装置16及びケージ上部カバー23が、ケージ本体2の開放上面2aとの間に、ケージ本体2内へ給気可能な程度の隙間24を形成するように近接して配置されているので、実験動物飼育室R内の清浄な空気が、ケージ本体2の両側と正面側との三方向における隙間24からケージ本体2内に入り、更には三方向から流入した気流がぶつかり合って加工流となり、次いでケージ本体2内の中央部付近の空気が排気口へ向かう気流を確立でき、その結果、飼育ケージ1内の確実でかつ迅速な換気を行うことができ、しかもケージ本体1内の空気が外に出て実験動物飼育室R内に漂うこともなく、実験動物飼育室R内での悪臭の拡散も防ぐことができる。
【0042】
本発明の実施形態に係る実験動物飼育用ラック装置10では、排気口形成装置16における排気口形成体18を、そのフランジ21の正面側の部分にヒンジ22を取り付けて旋回可能にしたが、フランジ21の背面側の部分にヒンジ22を取り付けて旋回させるようにしてもよい。また、上述した実施形態は、本発明における最適な例を挙げたものであり、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形例を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る実験動物飼育用ラック装置を実験動物飼育室に設置した状態で概略的に示す構成説明図。
【図2】図1に示される実験動物飼育用ラック装置の一部を破断して示す拡大断面図。
【図3】図2に示される実験動物飼育用ラック装置の一部を分解して示す部分的な斜視図。
【図4】図2に示される実験動物飼育用ラック装置の一部を更に拡大して示す部分的な拡大断面図。
【符号の説明】
【0044】
R 実験動物飼育室
1 飼育ケージ
2 ケージ本体
2a 開放上面
4 排気ボックス装置
4a 排気チャンバー
10 実験動物飼育用ラック装置
11 フレーム構造体
14 棚板
15 ケージ収納部
16 排気口形成装置
17 排気部
17a 底部(支持プレート)
18 排気口形成体
19 開口部
20 容器状部分
21 フランジ
22 ヒンジ
23 ケージ上部カバー
25 排気口周囲フード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放した上面を有する箱状のケージ本体からなる飼育ケージを正面側から出し入れし、且つ該正面側とは反対側の背面側に前記飼育ケージ内の空気を排気する排気ボックス装置が設置されている実験動物飼育用ラック装置において、
前記実験動物飼育用ラック装置が、フレーム構造体で支持された少なくとも1つの棚板と、この棚板上に前記飼育ケージを乗せて保管可能なケージ収納部と、前記ケージ収納部に収納される前記飼育ケージの前記ケージ本体における前記開放上面との間に給気可能な間隙を形成可能に前記開放上面に近接するように前記フレーム構造体に取り付けられたケージ上部カバーと、前記ケージ本体の前記開放上面における残りの開放部を覆う排気口形成装置とを備え、
前記排気口形成装置が、前記ケージ収納部の直上に配置され、前記ケージ本体の前記開放上面に近接して配置された支持プレートと、この支持プレートに支持され、該支持プレートに形成された開口部から前記ケージ収納部に進入離脱する排気口形成体と、この排気口形成体に形成された排気穴とから構成され、
前記排気口形成装置の前記支持プレートに形成された前記開口部に前記排気口形成体が嵌合するとき、該排気口形成体の前記排気穴が前記排気ボックス装置に連通していることを特徴とする実験動物飼育用ラック装置。
【請求項2】
前記排気口形成装置が、前記ケージ収納部の前記背面側寄りに設置されている請求項1に記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項3】
前記排気口形成体が、容器状部分と、この容器状部分の上縁部に形成され、前記容器状部分が前記支持プレートの前記開口部に嵌合するとき、前記開口部の周縁部に密着するフランジとにより形成され、前記容器状部分の少なくとも前記正面側及び前記背面側の両側面が、前記ケージ収納部に向かって収斂するように傾斜した傾斜面で形成され、前記排気穴が、前記容器状部分の底部に形成されている請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項4】
前記排気口形成体が、前記支持プレートに枢着されると共に、前記排気口形成体には、前記容器状部分を前記支持プレートの前記開口部に常時嵌合する付勢力が与えられ、前記ケージ収納部に前記飼育ケージが前記正面側から収納されるとき、前記ケージ本体の背面側上縁部が前記排気口形成体の前記容器状部分における前記正面側の前記傾斜面に当接して前記排気口形成体を前記付勢力に抗して旋回させて前記支持プレートの前記開口部から離脱させる請求項3に記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項5】
前記排気口形成装置が、前記ケージ収納部の上部に設置され、内部が排気室に形成されたボックス状の排気部を含み、該排気部の背面側が開放して前記排気ボックス装置の前記排気チャンバーに連通し、前記支持プレートが、前記排気部を形成している底板で構成され、前記排気口形成体が前記排気室内に枢着されている請求項4に記載の実験動物飼育用ラック装置。
【請求項6】
前記実験動物飼育用ラック装置が、前記ケージ収納部において前記飼育ケージの両側及び前記背面側の三方向における少なくとも上部を囲うように前記支持プレートの前記開口部周辺に立ち下り板で形成された排気口周囲フードを備えている請求項1に記載の実験動物飼育用ラック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−41978(P2010−41978A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209491(P2008−209491)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(591023479)ダイダン株式会社 (82)
【Fターム(参考)】