説明

室内環境調整システム

【課題】エネルギー効率に優れた室内環境調整システムを提供すること。
【解決手段】本発明の室内環境調整システムは、遠赤外線を放射・吸収し遠赤外線の放射率が0.6以上である遠赤外線放射物質を含む材料で構成された室内面構成部材300、400と、室内面構成部材の遠赤外線放射物質と同一の遠赤外線放射物質を含む材料で構成された冷却及び/又は加熱面を有する冷却及び/又は加熱源200、301とを具備し、冷却源301の冷却面が冷却されると、その冷却面の遠赤外線放射物質が室内面構成部材300、400の遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線62を吸収し、及び/又は、加熱源200の加熱面が加熱されると、その加熱面の遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を室内面構成部材300、400の遠赤外線放射物質が吸収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石材や無機材料粒子等が有する遠赤外線の放射および吸収の性質を利用して、室内を快適な環境に調整する室内環境調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
室内の温度を調整する方法としては、加熱または冷却した空気を室内で対流させる所謂対流方式が主流である。また、床暖房システムのように床面を加熱し、足下から温めるシステムや、セラミックスヒータのように放射(輻射)を利用した暖房のシステムが知られている。また、冷房装置により冷却した空気で壁面や天井を冷やし、2次的に室内の冷房効果を得る仕組みが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献2には、遠赤外線の熱放射によって、室内の人間が温熱を得る技術として、遠赤外線を放射する床暖房を用いる構成が記載されている。
【0004】
特許文献3には、冷放射を用いた冷房、熱放射を用いた暖房を行う放射冷暖房装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−356364号公報
【特許文献2】特開2007−307243号公報
【特許文献3】特開2007−127292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した対流方式では、室内における垂直方向の温度分布の差が大きく、エネルギー損失が大きいという問題がある。また、空気を加熱または冷却し、この空気から人間を加熱または冷却する2段階の熱交換を経ることもエネルギー損失が大きくなる要因となる。また、対流方式では、気流が直接肌に当たることによる不快感の発生や健康への悪影響が問題となる。床暖房システムやセラミックスヒータを用いた暖房装置は、気流の問題は解消されるが、エネルギー利用効率が高いとはいえない。また、床暖房システムやセラミックスヒータを用いた暖房装置には、冷房機能はなく、冷房は、対流方式の冷房装置に頼る必要がある。
【0007】
また、特許文献1に記載されたような空気を冷却し、それを壁面等に当てて壁面等を冷却し、さらにこの冷却された壁面により放射熱を吸収する方法は、気流の問題は発生しないが、効率が著しく低く、やはりエネルギー利用効率が低い。
【0008】
同様に、特許文献2に記載された遠赤外線を放射する床暖房を用いる構成や、特許文献3に記載された冷放射と熱放射を用いた放射冷暖房装置も、効率の面で対流方式に及ばず、実用には適していない。
【0009】
本発明は、このような従来技術における問題を解決して、エネルギー効率がよく、しかも室内の垂直方向における温度分布の差が小さく、気流が肌に当たることによる問題が発生しない室内環境調整システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の室内環境調整システムは、その好ましい実施形態を含めて、次のとおり要約される。
〔1〕遠赤外線を放射・吸収し遠赤外線の放射率が0.6以上である遠赤外線放射物質を含む材料で構成された室内面構成部材と、
前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質と同一の遠赤外線放射物質を含む材料で構成された冷却及び/又は加熱面を有する冷却及び/又は加熱源とを具備し、
前記冷却源の前記冷却面が冷却されると、その冷却面の前記遠赤外線放射物質が前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を吸収し、及び/又は、
前記加熱源の前記加熱面が加熱されると、その加熱面の前記遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質が吸収することを特徴とする室内環境調整システム。
〔2〕前記室内面構成部材が前記遠赤外線放射物質からなる石材で構成されるか、前記遠赤外線放射物質を混入した材料で構成されるか、又は前記遠赤外線放射物質からなる皮膜を有するものであり、前記冷却及び/又は加熱源の前記冷却及び/又は加熱面が前記遠赤外線放射物質からなる石材で構成されるか、前記遠赤外線放射物質を混入した材料で構成されるか、又は前記遠赤外線放射物質からなる皮膜で構成される、上記〔1〕に記載の室内環境調整システム。
〔3〕前記室内面構成部材と前記冷却及び/又は加熱源が同一の部屋に存在する、上記〔1〕または〔2〕に記載の室内環境調整システム。
〔4〕隣接し合う又は互いに連通する第1の部屋と第2の部屋が存在し、前記冷却及び/又は加熱源が前記第1の部屋に配置され、前記室内面構成部材が前記第1の部屋と前記第2の部屋の一方又は両方に配置されている、上記〔1〕または〔2〕に記載の室内環境調整システム。
〔5〕前記室内面構成部材が、環境調整する室内の壁面、天井面及び床面のうちのいずれかのものの少なくとも一部を構成している、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔6〕前記室内面構成部材が前記遠赤外線放射物質を1重量%以上含む、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔7〕前記室内面構成部材が前記遠赤外線放射物質を3重量%以上含む、上記〔6〕に記載の室内環境調整システム。
〔8〕前記冷却及び/又は加熱源の前記冷却及び/又は加熱面が、前記遠赤外線放射物質を1重量%以上含む被覆層で構成される、上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔9〕前記被覆層が前記遠赤外線放射物質を3重量%以上含む、上記〔8〕に記載の室内環境調整システム。
〔10〕前記被覆層が前記前記遠赤外線放射物質を20重量%以上含む、上記〔8〕に記載の室内環境調整システム。
〔11〕前記冷却及び/又は加熱源が、内部に形成した流路に媒体を流すことにより、前記冷却及び/又は加熱面を冷却及び/又は加熱する装置である、上記〔8〕〜〔10〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔12〕前記被覆層が金属材料の熱交換フィンの表面に形成されている、上記〔8〕〜〔11〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔13〕前記冷却面が結露による除湿を行う、上記〔1〕〜〔12〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔14〕前記冷却面で結露した水を集める手段をさらに含む、上記〔13〕に記載の室内環境調整システム。
〔15〕前記室内面構成部材及び/又は前記冷却及び/又は加熱源が石材床板パネルである、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔16〕前記加熱源が前記遠赤外線放射物質を含むホットカーペットである、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔17〕前記遠赤外線放射物質の遠赤外線の放射率が0.8以上である、上記〔1〕〜〔16〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔18〕前記遠赤外線放射物質の遠赤外線の放射率が0.9以上である、上記〔17〕に記載の室内環境調整システム。
〔19〕前記遠赤外線放射物質を含む前記室内面構成部材は、その表面積の合計が、前記室内面構成部材が配置された部屋の内面積の25%以上を占める、上記〔1〕〜〔18〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔20〕前記第1の部屋と前記第2の部屋とを仕切る手段が存在する場合、前記仕切り手段が前記遠赤外線放射物質を含む、上記〔4〕に記載の室内環境調整システム。
〔21〕前記仕切り手段が開閉手段である、上記〔20〕に記載の室内環境調整システム。
〔22〕室内に存在する物品の少なくとも一つが、前記遠赤外線放射物質を含む、上記〔1〕〜〔21〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔23〕前記物品が、家具、寝具、衣類、室内備品、室内装飾品、又は収納扉である、上記〔22〕に記載の室内環境調整システム。
〔24〕前記物品が、椅子、ソファー、テーブル、机、ベッド、布団、毛布、寝依、枕、クッション、敷物、パーティション、カーテン、テーブルクロス、又はベッドカバーである、上記〔23〕に記載の室内環境調整システム。
〔25〕人間が活動又は生活する密閉空間、物品を保管又は陳列する密閉空間、動物の飼育用の密閉空間、あるいは輸送用移動体の密閉空間の環境調整に用いられる、上記〔1〕〜〔24〕のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
〔26〕前記人間が活動又は生活する密閉空間が、個別もしくは集合住宅、オフィス、教育施設、スポーツ施設、図書館、又は店舗における密閉空間である、上記〔25〕に記載の環境調整システム。
〔27〕前記物品を保管又は陳列する密閉空間が、倉庫、ショーケース又は展示ケースにおける密閉空間である、上記〔25〕に記載の環境調整システム。
〔28〕前記輸送用移動体が、自動車、鉄道車両、船舶、又は航空機である、上記〔25〕に記載の環境調整システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エネルギー効率がよく、しかも室内の垂直方向における温度分布の差が小さく、気流が肌に当たることによる問題が発生しない室内環境調整システムが提供される。
【0012】
本発明によれば、衣料等を構成する布の熱放射を利用して生活環境の調整を行う技術も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】ZrO2+CaO皮膜の波長に対する放射率特性を示すグラフである。
【図1B】Al23+TiO2皮膜の波長に対する放射率特性を示すグラフである。
【図2】本発明の室内環境調整システムの一つの実施形態を説明する図である。
【図3】図2の実施形態における床の構造を説明する図である。
【図4A】図2の実施形態における冷却除湿装置を説明する図である。
【図4B】図4Aの冷却除湿装置のフィンの構造を説明する図である。
【図5】図2の実施形態における壁の構造を説明する図である。
【図6】図2の実施形態における天井の構造を説明する図である。
【図7A】図2の実施形態において暖房効果が得られる原理を説明する図である。
【図7B】図2の実施形態において暖房効果が得られる原理を説明する図である。
【図8A】図2の実施形態において冷房効果が得られる原理を説明する図である。
【図8B】図2の実施形態において冷房効果が得られる原理を説明する図である。
【図9】本発明の効果を実証する計測を行った環境を説明する図である。
【図10】計測の結果を示すグラフである。
【図11】遠赤外線を部屋の内面構成部材に吸収させることによる冷房効果のデータを示すグラフである。
【図12】本発明の室内環境調整システムのもう一つの実施形態を説明する図である。
【図13A】冷熱放射装置の上面図である。
【図13B】冷熱放射装置の正面図である。
【図14】冷熱放射装置のフィンの構造を説明する図である。
【図15A】図12の実施形態における床の構造を説明する図である。
【図15B】図12の実施形態における壁の構造を説明する図である。
【図15C】図12の実施形態における天井の構造を説明する図である。
【図15D】図12の実施形態における収納用襖の構造を説明する図である。
【図15E】図12の実施形態における収納扉の構造を説明する図である。
【図15F】図12の実施形態において使用可能な仕切り用襖の構造を説明する図である。
【図15G】図12の実施形態において使用可能なロールカーテンの構造を説明する図である。
【図15H】図12の実施形態において使用可能な壁紙が貼られた壁の構造を説明する図である。
【図16A】図12の実施形態において冷房効果が得られる原理を説明する図である。
【図16B】図12の実施形態において冷房効果が得られる原理を説明する図である。
【図17A】図12の実施形態における冷房作用を説明する図である。
【図17B】図12の実施形態における冷房作用を説明する図である。
【図18】図12の実施形態において冷熱放射装置が見通せない場所にも冷房効果が及ぶ原理を説明する図である。
【図19】図12の実施形態における冷熱放射装置のフィン温度と5つの壁部分の熱放射量との関係を示すグラフである。
【図20】本発明を利用して生活環境の調整を行う実施形態を示す図である。
【図21A】図20の実施形態における冷房効果を説明する図である。
【図21B】図20の実施形態における冷房効果を説明する図である。
【図22A】図20の実施形態における暖房効果を説明する図である。
【図22B】図20の実施形態における暖房効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の室内環境調整システムは、
遠赤外線を放射・吸収し遠赤外線の放射率が0.6以上である遠赤外線放射物質を含む材料で構成された室内面構成部材と、
前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質と同一の遠赤外線放射物質を含む材料で構成された冷却及び/又は加熱面を有する冷却及び/又は加熱源とを具備し、
前記冷却源の前記冷却面が冷却されると、その冷却面の前記遠赤外線放射物質が前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を吸収し、及び/又は、
前記加熱源の前記加熱面が加熱されると、その加熱面の前記遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質が吸収することを特徴とする。
【0015】
室内面構成部材は、遠赤外線放射物質(下記で詳述する)からなる石材で構成されるか、遠赤外線放射物質を混入した材料で構成されるか、又は遠赤外線放射物質からなる皮膜を有する。前記冷却及び/又は加熱源の前記冷却及び/又は加熱面は、遠赤外線放射物質からなる石材で構成されるか、遠赤外線放射物質を混入した材料で構成されるか、又は遠赤外線放射物質からなる皮膜で構成される。
【0016】
本発明において、「室内面構成部材」とは、環境調整の対称となる密閉空間に露出した面を構成している部材を指す。密閉空間は、その内部と外部との連絡を可能にするドアや窓などのような開閉手段を備えることができる。密閉空間の代表例は、人間が生活・活動する建物の部屋や廊下などであり、このほかに、物品を保管あるいは陳列する空間(例えば倉庫内の部屋や、商品のショーケース又は美術品などの展示ケース)、家畜を含めた動物の飼育用の部屋、人間や貨物の輸送用の移動体(自動車、鉄道車両、船舶、航空機など)が備える部屋、などを挙げることができる。人間が居住する住宅を例に挙げれば、室内面構成部材の典型例は、壁面、天井面、および床面を構成している部材(建材)である。壁の一部に取り付けられて部屋の内部と外部とを仕切るために設けられる開閉可能な建具(戸、障子、襖など)も、室内面構成部材に含められる。部屋に付属して設置された収納のための扉や襖なども、室内面構成部材に含められる。環境調整の対象となる部屋に付属する収納のための区画が、扉や襖などで部屋から完全に仕切られない構造の場合、収納区画の部屋に露出した面を構成している部材も、室内面構成部材に含められる。
【0017】
室内面構成部材の少なくとも一部は、本発明における室内環境の調整に必要な遠赤外線を放射・吸収する遠赤外線放射物質で構成されるか、遠赤外線放射物質を混入した材料で構成されるか、又は遠赤外線放射物質からなる皮膜を有する。遠赤外線の放射および吸収を効率よく行うため、室内面構成部材に混入される遠赤外線放射物質は、室内空間に露出していることが好ましい。とは言え、室内面構成部材中の遠赤外線放射物質は、室内空間に直接露出されずに、遠赤外線放射物質の遠赤外線の放射・吸収を有意に妨げない程度の保護層(例えば、1mm程度以下の厚さの塗装膜、ニス層、壁紙等)などで覆われていてもよい。
【0018】
「遠赤外線放射物質」は遠赤外線を放射・吸収する物質を言うが、本発明で用いる遠赤外線放射物質は、遠赤外線の放射率が0.6以上、好ましくは0.8以上の遠赤外線放射物質である。
このような遠赤外線放射物質は、通常、いわゆる無機材料であり、天然及び人工の鉱物、金属及び半金属の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、水酸化物等、炭酸塩などの塩やそれらの複合物(複塩)、炭などのほか、貝殻などの天然素材なども含まれる。また、本発明の遠赤外線放射物質の殆どは広義のセラミックス材料(金属以外の無機材料をいう。)であるが、有機物や有機物由来の物質であっても上記放射率の条件を満たすならば用いることができる。
本発明において、遠赤外線放射物質を含む部材中における遠赤外線放射物質の形態は、遠赤外線放射物質を含む部材が遠赤外線を放射・吸収できれば格別に制約はなく、代表的には、遠赤外線放射物質からなる一体物(石材)、遠赤外線放射物質の粒子、粉末、骨材等(これらをもまとめて粒子ともいう。)を含む部材、遠赤外線放射物質の皮膜を有する部材などの形態であることができる。
【0019】
本発明において、「遠赤外線放射物質からなる石材」とは、天然又は人工の無機材料からなる固体一体物のことであって、通常はパネルまたはタイル状の建材等として用いられる。天然の石材の例としては、花崗岩、玄武岩、などを挙げることができる。人工的に製造した石材でもよいことはいうまでもない。人造パネル等の建材やその他の一体物部材は、石材と考えることができる。
【0020】
本発明において、「遠赤外線放射物質を混入した材料」とは、構成成分の一部として遠赤外線放射物質を含む材料をいう。この場合の遠赤外線放射物質は、典型的には天然又は人工の無機材料の粒子として、室内面構成部材の製造材料や冷却源及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面の製造材料中に混入される。
【0021】
本発明において、「遠赤外線放射物質からなる皮膜」とは、室内面構成部材や冷却及び/又は加熱源の表面に形成した遠赤外線放射物質の皮膜をいう。この皮膜は、適当な皮膜形成技術、例えば熔射、蒸着などのPVD技術、あるいはCVD技術により、遠赤外線放射物質を対象表面にコーティングして形成することができる。
【0022】
本発明では、室内面構成部材の遠赤外線放射物質と、冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面の遠赤外線放射物質とは、同一である。後に詳しく説明するように、本発明の室内環境調整システムは、同一分子種間における熱放射を介した熱移動が、同一分子種間でない場合に比較して高い効率で行われる現象を利用して、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面との間で熱放射を介し熱移動を高い効率で行わせることにより、室内環境の調整を実現するものである。よって、本発明のシステムが所期の機能を発揮するためには、それらの間で熱放射を介した熱移動が行われる室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面とに、同一分子種の物質が存在する必要がある。本発明では、同一分子種で構成されている、室内面構成部材の遠赤外線放射物質と冷却及び/又は加熱源の遠赤外線放射物質のことを、同一物質であると称する。ここで「同一分子種」とは、遠赤外線を放射・吸収する性質を示し、遠赤外線の放射率が0.6以上、好ましくは0.8以上である一方の物質(例えば、室内面構成部材において使用する遠赤外線放射物質)と、遠赤外線を放射・吸収する性質を示し、遠赤外線の放射率が0.6以上、好ましくは0.8以上であるもう一方の物質(冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面で使用する遠赤外線放射物質)とが、分子レベルで同一であることをいう。ここでの「分子」とは、化学結合により結合された原子の集団を意味する。したがって、ここでいう「分子」には、例えば天然石材を構成する鉱物の結晶なども含まれる。類似元素が置換あるいは固溶した同一鉱物は同一分子種の物質と看做されている。天然の鉱物の場合、複数の化合物で構成されるのが普通であり、しかも巨視的レベルでは鉱物中の部位によりそれらの化合物の結晶構造に違いが見られることもある。とは言え、この場合は、同じ原産地から切り出した鉱物は、実質的に同じ分子種の物質の実質的に同じ組成の集合体であり、全体として「同一分子種の物質」と同様に考えてよい。
【0023】
室内面構成部材、あるいは冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面において、上述の「遠赤外線放射物質」として無機材料粒子を使用する場合、そこには、「遠赤外線放射物質」としての無機材料粒子以外の物質が共存するのが普通である。例えば、遠赤外線放射物質としての無機材料粒子を含む漆喰により室内面構成部材を形成した場合や、遠赤外線放射物質としての無機材料粒子を含む塗料を冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面に塗布した場合、上述の「遠赤外線放射物質」としての無機材料粒子は、漆喰中の骨材あるいは塗料中のバインダー成分などと共存する。このような場合、上述の「遠赤外線放射物質」としての無機材料粒子以外の物質も、遠赤外線を多かれ少なかれ放射・吸収する性質を持つ。しかし、本発明では、同一分子種間における熱放射を介した熱移動が同一分子種間でない場合に比較して顕著に高い効率で行われる現象を利用しているので、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面の両者に共通に存在しない物質が本発明において果たす役割は、きわめて少ないか、または無視できる程度である。したがって、以下における本発明の説明において「遠赤外線放射物質」に言及する場合、それは室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面の両者に共通に存在する、遠赤外線放射率0.6以上、好ましくは0.8以上の同一の物質(下記で説明する、電磁波を介した同一分子間における分子振動の共鳴現象を引き起こす物質)を指す。但し、遠赤外線を放射・吸収する物質に言及していて、上述の「遠赤外線放射物質」以外の物質を指すことを明示している場合や、文脈上からそれ以外の物質を指すことが明らかな場合は、この限りでない。
【0024】
室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面とで遠赤外線放射物質としてともに無機材料粒子を使用する場合には、双方の粒子の粒径や形状は同一でも異なっていてもよい。室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面の双方に含まれる無機材料粒子の配合量も、同じである必要はない。また、例えば、室内面構成部材が壁面と天井面を形成していて、遠赤外線放射物質として無機材料粒子を使用する場合、壁面と天井面の遠赤外線放射物質の粒子の粒径や形状は、同一でも異なっていてもよい。この場合、無機材料粒子は、室内面構成部材(ここでの例では、壁面及び天井面を形成する建材)中に、本発明による同一分子種間での熱放射を介した所期の熱移動を可能にする含有量で配合される。このとき、壁面を形成する建材と天井面を形成する建材とで、無機材料粒子の配合量は同一でも異なっていてもよい。これらは、2以上の壁面のそれぞれにおける遠赤外線放射物質の無機材料粒子についても言える。
【0025】
室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面において、遠赤外線放射物質は複数種を用いてもよい。遠赤外線放射物質が石材の場合は、室内面構成部材あるいは冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面のために、2種以上の石材を組み合わせて用いることができる。遠赤外線放射物質が無機材料粒子の場合は、2種以上の無機材料粒子の混合物を用いることができる。どちらの場合も、室内面構成部材における無機材料粒子の組み合わせと冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面における無機材料粒子の組み合わせが同じであれば(同じ組み合わせが含まれていれば)、それらは「同一物質」であると見なされる。
【0026】
室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面に含まれる遠赤外線放射物質としての無機材料粒子は、同一分子種間での熱放射を介した所期の熱移動を可能にする量でそれらに存在する。通常、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面は、異なる業者により、建設現場以外で製作して建設現場に搬入されるか又は建設現場において施工されることが多いと考えられる。従って、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱面には、遠赤外線放射物質としての共通の無機材料粒子が、それぞれの製造業者又は施工業者により混入されることが多いと考えられる。このような場合、遠赤外線放射物質としての無機材料粒子の含有量は、それぞれの業者により室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面の各製造材料に含められる共通の無機材料粒子の量をいう。室内面構成部材中及び冷却及び/又は加熱面形成材料中の無機材料粒子含有量は、本発明による熱放射を介した熱移動を実効あるものにする量として決定することができる。その量は、所期の冷房及び/又は加熱のために必要とされる熱移動量、熱放射を介した熱移動に利用可能な室内面構成部材と冷却及び/又は加熱面の面積、使用する遠赤外線放射物質の熱放射特性などに依存する。下記で説明する計測実験では、遠赤外線放射物質としての無機材料粒子は、室内面構成部材材料中、あるいは冷却及び/又は加熱面を形成している材料中に1重量%以上存在する場合に、有効な効果が認められ、3重量%以上存在する場合により好ましい効果が得られた。一方、遠赤外線放射物質として無機材料粒子を用いる場合のその含有量の上限は、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面を形成する材料中に実際上含ませることができる無機材料粒子の最大量によって決まり、特に制約はない(理論的には、例えば90重量%でもよい)。しかし、実用上のその最大量は、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面を形成する材料の取り扱い性や、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱面の製造方法などによって決めればよい。
【0027】
本発明では、遠赤外線放射物質の無機材料粒子として、複数種の物質を使用(上述の「分子レベルで同一」である物質を複数種使用)してもよい。この場合には、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面とで同じ無機材料粒子の混合物を用いることができる。この場合の室内面構成部材材料と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面を形成している材料における無機材料粒子の含有量は、混合物中の複数種の同じ物質の合計量でもって表される。
【0028】
特殊な例として、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面とで、同じ無機材料粒子を1種以上含むならば、異なる混合物を使用してもよい。例えば、第1の壁面(室内面構成部材)では第1の種類の無機材料粒子のみを使用し、第2の壁面(室内面構成部材)では第2の種類の無機材料粒子のみを使用する一方で、冷却及び/又は加熱面で2種類の無機材料粒子の混合物を使用することも可能である。
【0029】
遠赤外線の放射および吸収を効率よく行うためには、遠赤外線放射物質は極力、環境調整する室内空間に露出していることが好ましい。とは言え、遠赤外線放射物質が室内空間に直接露出していなくても、1mm程度以下の保護層(例えば塗装の層、ニスの層、壁紙等)で覆われているのであれば、大きな問題はない。
【0030】
室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面における遠赤外線放射物質は、それらの表面に露出しているもの又はその近くのものが主に、本発明による同一分子種間における熱放射を介した熱移動に寄与する。従って、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面が遠赤外線放射物質を混入した材料で構成される場合、室内面構成部材と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面における遠赤外線放射物質の必要含有量は、本発明における熱移動に寄与する、それらの表面又はその近傍(上述のとおり、室内空間に直接露出していないが表面から1mm程度までの深さに存在する遠赤外線放射物質も、本発明による同一分子種間の熱放射を介した熱移動に寄与することができる)に存在する遠赤外線放射物質の量で表すことが適切である。言い換えれば、本発明における遠赤外線放射物質の含有量は、室内面構成部材の表面と冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱用の表面、及びそれらから1mmまでの深さに存在する遠赤外線放射物質の含有量として表すのが適切である。とは言え、室内面構成部材(上述のとおり、環境調整の対象となる部屋や廊下などの空間(室内空間)に露出した面を構成している部材として定義される)が、紙(例えば壁紙)や塗装した塗膜などの薄いフィルム又はシート状材料で構成されようと、漆喰などから形成した有意の厚さの層状材料で構成されようと、あるいはコンクリートなどから成形された、構造部材を兼ねる一体物の材料で構成されようと、それらの材料が均一混合物である限り、それらの表面とその近傍(例えば1mmの深さまで)における遠赤外線放射物質の含有量(ここでは、室内面構成部材材料中に占める遠赤外線放射物質の重量割合として表される)は、室内面構成部材材料の全体に占める遠赤外線放射物質の重量割合として表される含有量と同じであると見なすことができる。よって、本発明の室内面構成部材における遠赤外線放射物質の含有量は、室内面構成部材が均一混合物(構成成分の分布が部材の全体にわたり一定である混合物)からなると見なせる場合、その材料の全体に占める遠赤外線放射物質の重量割合として表される含有量でもって表すこととする。室内面構成部材が均一混合物からなると見なせない場合(例えば、部材の厚さ方向において構成成分の分布に偏り(濃度分布)がある場合)には、室内面構成部材における遠赤外線放射物質の含有量は、室内空間に露出した面から1mmまでの深さに存在する遠赤外線放射物質の平均の含有量(重量割合として表される)で表される。これらは、遠赤外線放射物質を混入した材料で構成された冷却及び/又は加熱源の冷却及び/又は加熱面についても当てはまる。
【0031】
本発明で使用する遠赤外線放射物質の遠赤外線の放射率は、0.6以上であり、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上である。遠赤外線は、波長が3μm〜1000μmの電磁波のことをいう。材料の放射率は、同一条件における理想的な黒体の遠赤外線の放射エネルギーをW0とし、当該材料の遠赤外線の放射エネルギーをWとした場合に、W/W0によって定義される。放射率の値は、本発明のシステムの実際の使用温度に近い室温(例えば25℃)におけるものが好ましく、例えば、人体に対する熱的な作用の大きい10μm付近における値を採用する。
【0032】
本発明において、「冷却及び/又は加熱面」とは、室内面構成部材との間の熱放射を介した熱移動によって室内面構成部材の冷却及び/又は加熱を行う冷却及び/又は加熱源の、当該熱移動に関与する「面」を指す。言い換えれば、「冷却及び/又は加熱面」とは、冷却及び/又は加熱源のうちの、室内面構成部材の遠赤外線放射物質と同じ遠赤外線放射物質が存在する部分の表面を指す。上述のとおり、遠赤外線放射物質は、この表面に露出していることが好ましいとは言え、1mm程度以下の保護層で覆われていても差し支えない。冷却源の冷却面が冷却されると、その冷却面の遠赤外線放射物質が室内面構成部材の遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を吸収し、加熱源の加熱面が加熱されると、その加熱面の遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を室内面構成部材の遠赤外線放射物質が吸収する。
【0033】
本発明は、同一分子種間における熱放射を介した伝熱(熱移動)が、同一分子種間でない場合に比較して高い効率で行われる現象を利用したもので、冷却される面と部屋の内面の少なくとも一部とに、同一の遠赤外線放射物質を存在させることで、部屋の内面(例えば壁面)を人体からの遠赤外線の吸収部材(2次的な冷放射源)として機能させ、人体を冷やす冷房効果を得る点を基本的な発明思想としている。また、この原理と逆の原理として、上記冷却される面を逆に加熱し、熱の供給源とすることで、部屋の内面を遠赤外線の放射部材(2次的な熱放射源)とし、部屋の内面が、人体から吸収する遠赤外線の量を減らし、それにより人間が寒いと感じる感覚を和らげる暖房効果を得る点を基本的な発明思想としている。
【0034】
例えば、部屋の内面の全体を冷水による冷却面または温水による加熱面とするのは、コストやインテリア性の点から困難である。しかしながら、部屋の内面の一部である、壁や天井(あるいは床)であれば、広い面積を確保できるので、それを冷放射源または熱放射源として利用できれば、吸収あるいは放射される熱放射の総量は、その面積で稼ぐことができる。また、部屋の内面を利用することで、冷房時には、人体を囲む多方向への人体からの熱放射を周囲に吸収させ、暖房時には、人体を囲む多方向への人体からの熱放射を減少させることができる。そのため、冷却面または加熱面の面積が制限され、またその設置場所が制限されていても、部屋内面全体を使った熱放射を利用した冷房または暖房を行える。
【0035】
以下、同一分子種間における熱放射を介した熱交換が高い効率で行われる原理について説明する。同一分子種間における熱放射を介した熱交換が高い効率で行われるのは、同一分子種の物質(同一組成および同一分子構造を持った物質)であれば、電磁波を介した同一分子間における分子振動の共鳴現象が起こるからである。これは、同じ固有振動周波数の音叉間における音波エネルギーの伝搬現象、あるいは同じ同調周波数の同調回路間における電気信号の伝達や電磁波の伝搬現象において、エネルギーの伝達が高い効率で行われるのと類似な現象として理解できる。
【0036】
以下、データに基づいて、この原理について説明する。図1Aと図1Bは、遠赤外放射材料の電磁波の波長に対する放射率のデータとして、それぞれZrO2+CaOとAl23+TiO2の熔射皮膜(厚さ400μm)を600℃に加熱した場合における放射特性を示している。なお、ZrO2とCaOの成分比、およびAl23とTiO2の成分比はそれぞれ1:1(重量比)である。
【0037】
図1Aと図1Bには、ZrO2+CaO皮膜とAl23+TiO2皮膜とで、波長に対する放射率の特性が異なることが示されている。これは、遠赤外線放射物質の組成が異なれば(つまり分子種が異なれば)、波長に対する放射率の特性が異なることを示している。
【0038】
ここで、両皮膜間に温度差を与え、ZrO2+CaO皮膜を相対的に高温、Al23+TiO2皮膜を相対的に低温とし、ZrO2+CaO皮膜から放射される遠赤外線をAl23+TiO2皮膜に吸収させる場合を考える。キルヒホッフの法則より、放射率は、その材料の吸収率と同じあるから、理想的な条件を考えた場合、放射率が一致する波長において、ZrO2+CaO皮膜から放射され、Al23+TiO2皮膜に向かう遠赤外線は、Al23+TiO2皮膜に100%吸収される。つまり、エネルギーの輸送効率という観点で見ると、損失がない放射エネルギーのやり取りが行われる。
【0039】
一方、ZrO2+CaO皮膜の放射率がAl23+TiO2皮膜の放射率よりも大きな値となる波長では、この放射率(吸収率)の差に起因して、ZrO2+CaO皮膜から放射された遠赤外線の一部は、Al23+TiO2皮膜に吸収されない。これは、放射率=吸収率であるから、その波長において(物質Aの放射率>物質Bの放射率=物質Bの吸収率)であれば、物質Aから放射された放射エネルギーの一部が物質Bに吸収されないからである。例えば、ある波長において、物質Aの放射率が0.9であり、物質Bの放射率が0.1である場合、物質Aから放射された当該波長の遠赤外線は、物質Bで僅かしか吸収されず、そのほとんどは反射される。これは、エネルギーの輸送効率という観点で見ると、損失を伴う放射エネルギーのやり取りであるといえる。
【0040】
また、温度差の関係を逆とし、ZrO2+CaO皮膜に、Al23+TiO2皮膜から放射される遠赤外線を吸収させる場合を考えると、同様な理屈により、放射率が一致する波長において、ZrO2+CaO皮膜に向かって、Al23+TiO2皮膜から放射される遠赤外線は、ZrO2+CaOに100%吸収される(理想的な条件の場合)。しかしながら、ZrO2+CaOの放射率がAl23+TiO2の放射率よりも小さい波長では、Al23+TiO2から放射された当該波長の遠赤外線の一部は、ZrO2+CaOに吸収されず、損失が発生する。
【0041】
つまり、波長に対する放射率の特性の異なる材料間(すなわち、異なる分子種間)では、理想的な場合であっても、熱放射のやり取りにおいて損失が発生する。一方、波長に対する放射率の特性の同じ材料間(すなわち、同一の分子種間)では、理想的な状況において、熱放射のやり取りにおいて損失が発生しない。本発明は、同一分子種間における熱放射を介した熱交換が高い効率で行われる上述の原理に基づく室内環境調整システムを提供するものである。
【0042】
図面を参照して本発明の実施形態を説明することにする。以下の説明では、多くの場合、冷却源における冷却面を「冷却除湿面」と称している。これに関連して注釈すると、本発明のシステムでは、同一分子種間における熱放射を介した伝熱が同一分子種間でない場合に比較して高い効率で行われる現象を利用して、室内面構成部材と冷却源の冷却面との間で熱放射を介した伝熱を高い効率で行わせることにより、冷房効果を得ている。このシステムにおいて、冷却面での除湿は、副次的な効果に過ぎない。冷却面は、冷媒などにより冷却されることで、冷房効果を発揮する。その際に、冷やされた冷却面の温度が室内環境中に存在する湿分の露点以下に低下した場合に、冷却面で結露が生じ、その結果実質的に除湿がなされることになる。空気中の湿分は遠赤外線の吸収物質であるので、壁面などの室内面構成材料の遠赤外線吸収機能や、人体から室内面構成部材への遠赤外線吸収を阻害する傾向を有する。したがって、冷却面での結露の結果として室内環境の除湿がなされると、本発明のシステムによる放射を利用した冷房効果の効率を高めることができる。さらに、除湿の結果、不快指数が下げられるので、この点でも冷房効果を高めることができる。このように、本発明のシステムにおいて、除湿は有利ではあるが、不可欠なわけではなく、除湿が行われるかどうかは、本発明のシステムを適用した室内環境の湿度と、冷媒などで冷やされた冷却面の温度とに依存する。とは言え、冷却面での結露による除湿が不利に働くことはないこと、また、本発明のシステムが活用される高温の環境では湿度が高いことがよくあることを念頭に置いて、以下の説明では、冷却源における冷却面を「冷却除湿面」と称している。
【0043】
図2は、本発明の一つの実施形態として、本発明の室内環境調整システムを備えた部屋の概要を示す概念図である。図2には、部屋100が示されている。ここで部屋100は、一戸建てや集合住宅等の住居用の部屋である。部屋100は、6面体形状の室内空間101を備えている。室内空間101の内側は、床面200、壁面300および天井面400により構成されている。
【0044】
床面200は、表面が自然石を成形加工して得た床板パネルで構成されており、ヒータ制御装置204によって制御される電熱ヒータによって温められる。床面200は温められることで、自然石の遠赤外線放射効果により、遠赤外線を室内101に放射する加熱面として機能する。床板パネルと同様の機能を有するものとして、遠赤外線放射物質(例えば自然石の粉末粒子など)を含むホットカーペットなどを利用することも可能である。
【0045】
壁面300は、床面200を構成する自然石を粉砕した粉砕物を混ぜた漆喰により構成されている。壁面300の一部には、冷却除湿面301が設けられている。冷却除湿面301は、最表面に床面200を構成する自然石を粉砕した粉砕物を含んでいる。冷却除湿面301は、冷媒冷却装置302によって冷却された冷媒によって冷却される。また、後述するように、冷却除湿面301を利用した除湿装置が構成されている。冷却除湿面301の設置面積は、壁面300の5%とされている。
【0046】
図示省略するが、壁面300には、窓とドアが設けられている。この例では、壁面300に対する窓とドアの面積は、30%とされている。天井面400は、床面200を構成する自然石を粉砕した粉砕物を含んだ石膏ボードによって構成されている。
【0047】
この例では、室内空間101を占める空気(温度20℃、湿度50%で計算)の熱容量に比較して、床面200に含まれる上記自然石の総熱容量が、約3倍となるように設計されている。また、床面200の石床の裏面側、壁面300および天井面400の当該自然石を含んだ層の裏面側には、遠赤外線を室内方向に反射するように(つまり、遠赤外線が室外に逃げないように)、金属箔シートによる反射層が設けられている。
【0048】
図3は、床の断面構造を示す概念図である。図3には、部屋101の下地構造体201が示されている。下地構造体201は、床の下地となる構造体である。この例では、下地構造体201の上に断熱材202が配置され、その上に電気加熱ヒータを用いた発熱層203が設けられている。発熱層203には、ヒータ制御装置204から駆動電流が供給される。発熱層203の下面側には、図示省略した金属箔シートが敷かれ、石材床板パネル205の方向に遠赤外線を反射する構造とされている。
【0049】
発熱層203の上には、天然石を厚さ30mmの厚さの板状に加工した石材床板パネル205が敷き詰められている。石材床板パネル205を構成する天然石は、花崗岩であり、遠赤外線の放射率が、概略0.9程度ものが選択されている。この例では、床面200の全てが図3に示す構造とされている。
【0050】
発熱層203に通電が行われ、発熱層203が発熱すると、その熱が石材床板パネル205に伝わり、石材床板パネル205が温められる。石材床板パネル205の温め具合は、ヒータ制御装置204によって調整される。温められた石材床板パネル205は、遠赤外線を室内101に向かって放射する。
【0051】
発熱層203は、温水を循環させることで、熱を石材床板パネルに伝える構成としてもよい。この際、太陽光を用いて温水を得る構成とすることで、使用コストを抑えることができる。石材床板パネル205は、遠赤外線の放射率が0.6以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上である他の天然石やセラミックス材料であってもよい。
【0052】
図4Aに冷却除湿装置の概略を示す概念図を示し、図4Bにその一部断面図を示す。図4Aに示すように、冷却除湿装置は、冷却除湿面301を備えている。冷却除湿面301は、表面を後述するコーティング加工したアルミニウム製のフィン304を複数備えている。このフィン304は、薄手の板状であり、上下に延在している。フィン304は、熱伝導の良好な他の金属または合金材料、例えば鉄や銅、それらの合金など、で製作することもできる。
【0053】
図4Bに示すように、フィン304の表面は、遠赤外線吸収層304aによって覆われている。遠赤外線吸収層304aは、石材床板パネル205を構成する自然石を粉砕した粉砕物とバインダーとを混合し、それを層状にフィン304の表面に塗り、乾燥させることで得ている。
【0054】
以下、フィン304表面の遠赤外線吸収層304aの形成方法の一例を簡単に説明する。まず、床面200を構成する自然石を平均粒径が5〜100μm(ここで説明する事例では、50μm程度)となるように粉砕し、それを40重量部用意する。次にバインダーとして機能するコーティング材を60重量部用意し、それを溶剤(分量外)と共に先の自然石を粉砕したものと混合する。この混合物をフィン304の表面に厚さ500μmの厚さで塗り、乾燥させることで、遠赤外線吸収層304aを形成する。こうして形成した遠赤外線吸収層304aにおける、床面200を構成する自然石を粉砕した粉砕物の含有量は、この例の場合40重量%となる。本発明では同一分子種間における熱放射を介した伝熱(放射伝熱)を利用しているので、遠赤外線吸収層304aが含有すべき粉砕物の含有量は、熱放射により移動すべき熱量に依存するとともに、遠赤外線吸収層304aの総面積にも依存する。一般には、遠赤外線吸収層304は、1重量%以上の粉砕物を含有することができ、あるいは10重量%以上又は20重量%以上の粉砕物を含有することができる。
【0055】
フィン304は、アルミニウム製の支持板303と一体形成されている。支持板303の裏面側は、冷媒通路305に露出している。また、支持板303の表面側(室内側)には、上記遠赤外線吸収層304aと同じ層が設けられている。冷媒通路305には、冷媒として冷水が循環する。この冷媒は、冷媒冷却装置302により冷却される。冷媒冷却装置302の冷却機構は、一般的な空調装置や冷蔵庫に利用されているものと同じである。
【0056】
冷却除湿面301の下方には、排水溝307が設けられている。冷媒通路305内を冷却水が循環すると、フィン304が冷却され、フィン304の表面の遠赤外線吸収層304aも冷却される。遠赤外線吸収層304aが冷却されることで、遠赤外線吸収層304aに含まれた粉砕物が、床面200、壁面300、天井面400から放射された遠赤外線を吸収して、部屋100内の環境の冷却が行われる。また、遠赤外線吸収層304aの表面に室内空間101の空気中に含まれる水分が結露する。この結露した水滴は、排水溝307に滴下する。排水溝307の下部には、集水タンク308が着脱自在な状態で取り付けられており、排水溝307に滴下した水は、集水タンク308に溜まる構成とされている。この結露した水分を回収する構成により、除湿装置が構成されている。
【0057】
冷媒は、環境温度よりも低ければよいので、冷水に限定されず、冷媒ガスであってもよい。冷媒冷却装置302は、例示したものに限定されず、冷媒を冷却できるものであれば、利用することができる。冷却除湿面は、床面や天井面を利用して構成してもよいが、結露した水滴の処理に工夫が必要となる。また、冷却除湿面を壁面の一部に設けるのではなく、部屋の中に別に配置することもできる。ただし、冷却除湿面が室内に露出し、床面、壁面および天井面との間で放射を介した熱交換が行えるようにすることが重要である。また冷却除湿面の表面を石材そのもので構成してもよい。また、冷媒冷却装置302の電力を太陽電池が発電した電力によって賄うようにすることは好ましい。冷媒除湿装置302を利用した冷房は、一般的な対流式の冷房装置(所謂エアコン)に比較して冷房効率が高いので、太陽電池発電によって十分に電力を賄うことができる。
【0058】
図5は、壁の断面構造を示す概念図である。図2に示す壁面300は、図5に示す断面構造を有している。図5には、壁の下地構造体となる基礎構造310が示されている。基礎構造310の室内側に断熱ボード311が取り付けられている。断熱ボード311の上には、金属箔シート312が張られ、その上に漆喰層313が形成されている。
【0059】
漆喰層313は、通常の漆喰材料に石材床板パネル205を構成する自然石を平均粒径が5〜100μm(ここで説明する事例では、50μm程度)となるように粉砕したものを、通常の漆喰の原料(水を含まない原料)に対して、20重量%混ぜ、それに水を加えて混練したものを原料としている。漆喰層313の厚さは30mmであり、その施工方法は、通常の漆喰壁と同じである。
【0060】
図6は、天井の断面構造を示す概念図である。図2に示す天井面400は、図6に示す断面構造を有している。図6には、天井の下地構造体となる基礎構造401が示されている。この例では、この基礎構造401の下面に金属箔シート402を設置し、さらに厚さ20mmの石膏ボード403が取り付けられている。石膏ボード403は、床面200を構成する自然石を平均粒径が5〜100μm(ここで説明する事例では、50μm程度)となるように粉砕したものを10重量%混合した組成を有している。
【0061】
図2〜6を参照して説明した本発明の実施形態における暖房の原理について説明する。本発明は、室内にいる人間の体に放射熱を吸収させて人間に温かさを感じさせる技術であるので、ここでは、暖房という語を、室内にいる人間が温かさを感じるようにする作用という意味で用いる。図7A、7Bは、暖房効果が得られる原理を説明する概念図である。暖房を行うには、冷媒冷却装置302を動作させず、ヒータ制御装置204を動作させ、床面200を加熱する。すると、床面200を構成する石材床板パネル205(図3参照)が加熱され、石材床板パネル205から遠赤外線が室内空間101に放射される。図7Aには、床面200から放射される遠赤外線が符号51で示す矢印により概念的に示されている。
【0062】
床面200から放射された遠赤外線は、一部が人間52および室内空間101内の空気中の遠赤外線吸収成分に吸収され、他は壁面300および天井面400に吸収される。この際、(1)壁面300および天井面400は加熱されておらず(つまり、床面200よりも温度が低く)、さらに(2)壁面300および天井面400は、床面200からの遠赤外線の発生源となる石材と同一の石材の粉体が含まれているので、床面200が放射した遠赤外線は効率よく壁面300および天井面400に吸収される。
【0063】
床面200からの遠赤外線を吸収した壁面300および天井面400は、遠赤外線を再放射する。図7Bに、再放射された遠赤外線が符号53の破線の矢印により概念的に示されている。この再放射された遠赤外線53は、一部が人間52および室内空間101の空気中の遠赤外線吸収成分に吸収され、その他は、再度壁面300および天井面400に再吸収される。この遠赤外線の再放射の際、壁面300および天井面400の裏面側の金属箔シートにより、室内側に遠赤外線が反射されるので、床面200から放射された遠赤外線の熱エネルギーの散逸が抑えられる。これにより、エネルギーの有効利用を図ることができる。
【0064】
図7A→図7B→図7Aの現象が繰り返されることで、室内にいる人間は、遠赤外線(放射熱)を周囲から受けて暖かさを感じ、また室内の空気中の遠赤外線吸収成分が遠赤外線を吸収して昇温する。こうして暖房効果が得られる。また、床面200が加熱されそれ自体が昇温するので、床暖房と同様な効果が得られ、それによる暖房効果も同時に発生する。
【0065】
上述した本発明による暖房作用によれば、対流や熱伝導による暖房でなく、室内全体に行き渡る放射による暖房が行われるので、室内の特に垂直方向における温度分布の偏差が抑えられる。また、直接加熱されるのは、床面だけであり、その床面から放射される遠赤外線を介して、熱を暖房に利用するので、エネルギーの有効利用を図ることができる。このため、エネルギーの無駄が抑えられる。また、室温の上昇のみではなく、放射熱により人体が暖かさを感じるので、この点においても投入エネルギーの有効利用を図ることができる。更に、気流の流れを利用しないので、温風が肌に当たることによる不快感や健康への悪影響が発生しない。暖房の熱源として太陽熱を利用した温水や太陽電池による自家発電力を利用した場合、ゼロエミッションを実現することができる。
【0066】
次に、本実施形態における冷房の原理について説明する。本発明は、室内にいる人間の体に放射熱を吸収させて人間に温かさを感じさせる技術であるので、ここでは、冷房という語を、室内にいる人間が涼しさを感じるようにする作用という意味で用いる。図8A、8Bは、冷房効果が得られる原理を説明する概念図である。この例において、冷房効果は、(1)ヒータ制御装置204および冷媒冷却装置302を共に動作させない場合の冷房効果と、(2)ヒータ制御装置204を動作させず、冷媒冷却装置302を動作させた場合の冷房効果、の2つがある。まず、(1)の場合の冷房効果について説明する。
【0067】
(1)の場合、ヒータ制御装置204および冷媒冷却装置302を共に動作させない。しかしながら、床面200は、大きな熱容量を有する石材床板パネルが敷き詰められているので、夜間や明け方等の気温が最も低下した時の温度を維持する機能が高い。換言すると、夜間や明け方等の気温が最も低下した時に冷えた床面(石床)200は、その後の気温の上昇に伴い温度が上昇するが、熱容量が大きいので、気温の上昇ほど、その温度は上昇しない。したがって、気温が上昇した昼間でも冷たい感触が得られる。このことは、経験的にも確認できることである。
【0068】
一方、壁面300と天井面400は、床面200に比較すれば石材の含有割合は低く、熱容量は床面に比較すればかなり小さい。したがって、昼間に気温が上昇すると、その影響を受けて、壁面300と天井面400は、その温度が、床面200に比較すれば相対的に高い温度になる。
【0069】
例えば、明け方の最低気温が20℃で、昼間の最高気温が28℃である場合、床面200は、明け方に22〜23℃程度の温度となり、屋内で適切な遮光を行えば、昼間でもその最高温度は、25〜26℃程度となる。一方、低熱容量の壁面300の温度は、床面よりも数度高く、さらに天井面400は、それよりも気温に近い温度となる。
【0070】
この結果、相対的に低温の床面200に向かって、相対的に高温の壁面300や天井面400から遠赤外線が放射され、壁面300と天井面400に含まれる遠赤外線放射物質が冷却される。この冷却は、床面200の熱容量に比較して、壁面300および天井面400の熱容量が小さいので、即効性が高い。壁面300および天井面400は、床面200に遠赤外線の吸収という形で熱気を吸い取られることで、放射した分、遠赤外線を吸収し易い状態となる。この際、床面200は、石材によりその表面が構成され、また壁面300および天井面400は、この石材の粉砕物を含んでいるので、遠赤外線を介した熱量の移動が高い効率で行われる。
【0071】
この結果、図8Bに示すように、人間52が発する遠赤外線が、床面200、壁面300および天井面400に吸収され易い状態となり、人間52は涼しさを感じることになる。また、空気中の主に水分から放射される遠赤外線も床面200、壁面300および天井面400に吸収され易い状態となり、気温が低下する。
【0072】
この(1)の場合の冷房機能は、冷房のための電力エネルギーを必要としないパッシブな機能であり、エネルギー照射や環境に負荷を与えない点で非常に好ましい。しかしながら、この場合、外気温が30℃を超え、さらに湿度が60%を超えるようなときには、冷房効果が十分でなく、暑さの人体に与える負担が増加する。つまり、暑いと感じるようになる。このようなときは、次に説明する(2)の場合の冷房効果により、十分に快適に生活できる冷房を実現することができる。
【0073】
(2)の場合、ヒータ制御装置204を動作させず、冷媒冷却装置302を動作させ、冷却除湿面301を冷却する。冷却除湿面301が冷却されると、冷却除湿面301が、床面200、壁面300および天井面400よりも低温となる。このため、熱平衡状態のバランスの崩れが大きくなり、床面200、壁面300および天井面400から冷却除湿面301に向かって遠赤外線が放射され、それが冷却除湿面301に吸収される。この際、床面200は、冷却除湿面301の表面にコーティングされた粉砕物と同一材料の石材によりその表面が構成され、また壁面300および天井面400は、冷却除湿面301の表面にコーティングされた粉砕物と同じものを含んでいるので、遠赤外線を介した熱量の移動が高い効率で行われる。
【0074】
この様子が図8Aに示されている。図8Aには、実線の矢印61により、床面200、壁面300および天井面400から冷却除湿面301に向かって遠赤外線が放射され、それが冷却除湿面301に吸収される様子が概念的に示されている。この場合の各部の温度は、天井面400>壁面300>床面200>冷却除湿面301の関係となる。
【0075】
床面200、壁面300および天井面400は、冷却除湿面301に遠赤外線の吸収という形で熱気を吸い取られることで、放射した分、遠赤外線を吸収し易い状態となる。これは、床面200、壁面300および天井面400の温度低下として現れるが、冷却除湿面301に放射熱を供給した結果、平衡状態からのズレが大きくなり、放射熱を吸収する能力が高められた状態であると理解することもできる。
【0076】
この結果、人間52が発する遠赤外線が、床面200、壁面300および天井面400に吸収され易い状態となる。この状態が図8Bに示されている。すなわち、図8Bには、破線の矢印62で示す放射熱が、床面200、壁面300および天井面400に吸収されつつある状態が概念的に示されている。
【0077】
人間52が発する遠赤外線が、床面200、壁面300および天井面400に吸収され易い状態となることで、人間52が持つ熱が、熱放射という形で床面200、壁面300および天井面400に吸収される。この結果、人間52の体は熱量が奪われて冷却され、人間52は涼しく感じる。このことは、室内空間101の空気中の遠赤外線吸収成分が持つ熱エネルギーについても同様にいえる。つまり、床面200、壁面300および天井面400が遠赤外線を吸収し易くなることで、室内の空気中の遠赤外線吸収成分の熱エネルギーが放射熱の形で床面200、壁面300および天井面400に吸収される。この結果、室温が低下する。
【0078】
この効果は、室温を1〜2℃程度下げるだけであるが、人体から直接放射熱というかたちで、熱量が床面200、壁面300および天井面400に奪われるので、室温の低下以上に人間52は涼しさを感じることができる。
【0079】
また、冷却除湿面301が冷却されることで、その表面が結露し、その結露した水滴が図4Aに示す仕組みにより捕獲され、回収されるので、除湿機能を得ることができる。空気中の水分は、良好な遠赤外線吸収成分であるので、図8A、8Bの符号61や62で示す遠赤外線の放射を利用した作用を阻害する。したがって、空気中の水分が除去されることで、上述した遠赤外線の放射を利用した床面200、壁面300および天井面400が遠赤外線をより吸収し易くする状態を作り出す作用、さらに人体から床面200、壁面300および天井面400への放射熱の吸収の効率が高まり、放射熱が人体から吸収されることによる冷房効果が高まる。また、除湿機能により不快指数が下げられ、この点でも冷房効果が高まる。これらの理由により、僅か1〜2℃の空気温度の冷却効果であっても、数値以上の涼しさを感じることができる。
【0080】
このように、人体が発生する放射熱の吸収作用を利用することで、室温の温度低下が僅かであっても有意な冷房効果を得ることができる。この際、冷気の流れを利用しないので、冷気が肌に当たることによる弊害の発生を抑えることができる。また、空気中の遠赤外線吸収成分からの放射熱の吸収は、室内において偏りなく行われるので、室内の垂直方向における温度分布の偏りを小さくでき、エネルギーの利用効率を高くすることができる。また、室温の低下が僅かであるので、所謂冷房病の症状の発生を抑えることができる。
【0081】
また、本発明による人体からの放射熱を吸収させる方式の冷房は、冷房効果の立ち上がりが速く、所謂冷房の利きの即効性が高い。このことも、高い快適性と無駄なエネルギーの消費を下げる上で有用となる。特に本実施形態では、人体からの放射熱が床面200、壁面300および天井面400の3面に吸収されるので、人体の冷却効果が高い。
【0082】
また、上述の(1)の冷房効果の場合は、冷媒のために外部からエネルギーを投入する必要がなく、また温暖化ガスも出さないので、ゼロエミッションを実現することができる。また、上述の(2)の冷房効果の場合であっても、必要な電力は、通常の冷房に比較して少なくて済むので、省エネルギーを達成することができる。特に太陽電池を利用して、上述の(2)の冷房効果を得る場合、商用電力を利用せずに効果的に冷房効果を得ることができる。
【0083】
次に、壁に遠赤外線放射物質の粉砕物を混ぜることの効果を実証したデータについて説明する。
【0084】
図9は、計測を行った環境を示す概念図である。図9には、ベニヤ板で作った計測箱501の断面形状が示されている。計測箱501は、厚さ15mm厚のベニヤ板で構成され、一面が開放された、図示する寸法(奥行きも45cmである)の箱構造を有している。計測箱501は、開放された面を図3に示す床面200の上に置く形で配置される。床面200の表面は、図3に関連して説明したように石材床板パネル205(花崗岩を加工した25cm角、厚さ15mmのパネル)が敷き詰められ、このパネルの表面(床面)は電気加熱ヒータによって室温〜45℃の範囲で温度調整して加熱される。この計測では、計測箱501内部中央の床面200から30cmの高さの位置にアルミ箔で包んだ温度センサを配置し、その部分の気温を計測した。
【0085】
計測箱501内部の4つの壁面の上方部分に漆喰パネル502を貼り付けた。この漆喰パネル502は、図5に関連して説明した漆喰層313を厚さ20mmのパネル状にしたもので、図3の石材床板パネル205を構成する石材と同一の石材を平均粒径50μの粉状にしたもの(以下、石粉という)を含んでいる。ここでは、石粉の含有量を0重量%、1重量%、3重量%、5重量%、10重量%および20重量%とした計6サンプルを用意した。
【0086】
計測は次の手順で行った。まず、床面200を約32℃の温度に調整し、10分間の温度変化が0.1℃以下に安定するまで待機した。床面200の温度が安定したら、4つの内壁面の上方部分に漆喰パネル502を固定した計測箱501を、図9に示す状態で床面200上に置き、図示する気温計測位置において空気の温度の計測を開始した。漆喰パネル502の下方は、ベニヤ板が露出した状態とした。
【0087】
温度の計測は、計測開始時、計測開始から1分後、3分後、5分後、7分後および10分後において行った。この作業を、「漆喰のみ」、「漆喰+石粉1重量%」、「漆喰+石粉3重量%」、「漆喰+石粉5重量%」、「漆喰+石粉10重量%」、「漆喰+石粉20重量%」の6サンプルにおいて行った。
【0088】
各サンプルの計測開始時点における計測温度からの増加分をまとめて、下記表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1のデータをグラフ化したものを図10に示す。図10から明らかなように、漆喰のみの場合に比較して、石粉(床面と同じ石材の粉砕物)を混ぜた漆喰壁の方が、温度上昇の立ち上がり、および上昇幅が大きい。この実験では、床面しか加熱しておらず、一次放射は、床面からのみである。したがって、図10のグラフは、壁(漆喰パネル502)に含まれる石粉に起因して、気温の上昇が観測されることを示している。このことから、本発明の原理である室内における加熱面以外の部材からの2次放射を利用しての暖房効果の妥当性が実証される。
【0091】
図10に示されるデータには、石粉を含有させることで、特に加熱開始後3〜7分といった立ち上がり時の温度上昇特性が改善されている点が示されている。物体の加熱による温度上昇は、平衡状態に至るまでの立ち上がり時に多くの熱エネルギーを要する。したがって、図10に示すような立ち上がり時の特性が改善されている現象は、壁(漆喰パネル502)に石粉を添加した有効性を顕著に表しているといえる。そして、この立ち上がり時の特性の改善効果は、石粉1重量%添加で明確に現れ、3重量%添加でさらに明確に現れている。
【0092】
石粉の漆喰への含有量について見ると、含有量が1重量%では、3分後、5分後および7分後で有意な効果の違いが現れているが、1分後と10分後では、違いが見られない。したがって、1重量%で効果が認められ、さらに含有量が3重量%になると、漆喰のみの場合に比較して、顕著に上昇温度の幅が大きくなる。よって、石粉の含有量を1重量%以上、好ましくは3重量%以上とすることで、発明の効果が得られると結論される。特に、含有量が3重量%になると、漆喰のみの場合に比較して、顕著に上昇温度の幅が大きくなる。
【0093】
また、石粉の含有量が5重量%および10重量%の場合は、3重量%の場合とそれ程顕著な差は観察されない。しかしながら、石粉の含有量を20重量%に増やすと、顕著な昇温効果の違いが見られる。なお、図示省略しているが、石粉の含有量を20重量%より増やした場合、昇温効果の増加はやや飽和傾向となる。また、石粉の含有量を20重量%より増やした場合、漆喰壁の施工時における原料のコテへの乗りや、塗った際の伸びの均一性といった点で、施工性が低下する傾向が見られる。このため、漆喰壁の場合、石粉の添加は、20〜30重量%程度で止めておくことが妥当であると考えられる。
【0094】
図10のデータは、加熱面を構成する遠赤外線放射物質と同一の材料を壁面に含ませることで、壁面から2次放射が行われ、その2次放射成分が暖房効果に顕著な作用を及ぼしていることを実証している。よく知られているように、遠赤外線放射物質の遠赤外線の放射と吸収の作用には、可逆性がある。したがって、図9に示す実験において、加熱面(床面)を冷却除湿面とした場合、図10に示すデータと逆の傾向、すなわち冷却除湿面(床面)に壁面(漆喰パネル502)から放射熱が吸い取られ、壁面が放射熱を吸収し易くなり、それにより、計測箱501中の発熱体の熱が放射熱として壁面に吸収される現象(気温の降下)が観察されることが予想される。よって、図10に示すデータは、本発明における冷房効果を間接的にではあるが支持しているといえる。
【0095】
また、図10に示すデータは、同一の遠赤外線放射物質間における熱交換の優位性は、熱交換が行われる材料において、遠赤外線放射物質が1重量%以上あればその効果が確認でき、3重量%以上であれば、その効果が顕著になることを示している。このことから、遠赤外線放射物質を含ませる割合に関する知見は、冷却除湿面(または加熱面)においても同様であり、本発明の冷却除湿面(または加熱面)として機能させるには、その面に遠赤外線放射物質間を1重量%以上含ませる必要があり、好ましくは3重量%以上含ませる必要があることが結論される。また以上説明した図10のデータは、その他の材料(例えば塗料の層や壁紙等)に遠赤外線放射物質を含ませる場合の含有量の範囲を基礎付けるデータでもある。
【0096】
次に、高さ方向における均一な暖房が実現できることを実証するデータを説明する。表2は、上記実施形態で説明した条件を満たす部屋を実際に施工し、そこにおける垂直方向の温度分布を計測した結果である。計測は、外気温が11℃の環境(冬季の昼間)において、床面の温度(表2の石床表面温度)を快適と感じる状態に加熱してから2時間経過後に、床上上方の表2に示す位置の気温を計測することで行った。なお、天井高は最大高部分で床上350cmである。
【0097】
【表2】

【0098】
表2から明らかなように、室内の垂直方向における温度分布は、均一性が高い。通常の対流方式の暖房(所謂エアコン暖房)では、床付近と天井付近とで、温度差が10℃を超えることも珍しくない。また、セラミックスヒータの放射熱を利用した暖房も、放射熱を感じるのは、装置の前だけであり、他は対流による暖房となるので、垂直方向における温度分布は、対流方式の場合と大差ない。表2に示すような垂直方向における温度分布の均一性が得られるのは、床面からだけの遠赤外線の放射に頼らず、壁面や天井面からの遠赤外線の2次放射を利用しているからであると考えられる。
【0099】
次に、遠赤外線を部屋の内面構成部材に吸収させることによる冷房効果の実証データを説明する。図11は、表2に示す実証データを得た部屋において、外気温が34℃〜35℃の夏季に計測を行った結果を示すグラフである。
【0100】
図11の計測データは、図4A、4Bにその概要を示す除湿装置を動作させて、室内の湿度を40%に保った状態で取得した。ここで、気温は、温度センサをアルミ箔で包み、放射の影響を排除した状態で計測した温度である。体感温度は、温度センサを黒体テープ(炭素繊維を配合した黒体と見なせる材質のテープ)で覆い、放射の影響を受けやすくした状態で計測した温度である。また、計測は、午後2時頃の日中の最も高温となる時間に行った。
【0101】
図11に示されるように、床面および床上50cm付近の気温を、外気温に比較して6〜7℃低い温度とすることができる。また、床上100cmの付近でも、外気温よりも4〜5℃低い気温とすることができる。床面から離れるほど、気温および体感温度が上昇するのは、自然対流の影響と、床面に近いほど、放射熱が床面に吸収される割合が高くなるからであると考えられる。
【0102】
図11を見ると、床上50cmまでの範囲では、気温よりも体感温度の方が、0.2〜0.5℃低いことが分かる。上述したように、体感温度は、黒体テープで温度センサを覆うことで、放射の影響を受けやすくした場合の温度である。したがって、上記の事実は、床から床上50cmまでの空間では、熱容量の大きい遠赤外線放射物質である石床に遠赤外線が吸収されることで、物体の温度低下が生じている現象であるといえる。
【0103】
この計測では、温度センサは、発熱体ではなく、それ自体が遠赤外線を放射する物体ではない。それにも係わらず、床に吸収される放射の影響が観察されている。したがって、36℃前後の発熱を常時行い、遠赤外線を放射する物体である人体は、図11に示される以上の体感温度の低下を感じることが推察される。現に、図11で見られる温度差以上の体感温度の低下を感じることが確認されている。また、図11では、気温と体感温度との顕著な差が見られない床上100cm以上の空間でも、涼しさを感じることができることが確認されている。
【0104】
また、図11から明らかなように、この計測結果では、時間経過に伴う温度変動が非常に小さい。これは、対流式の冷房が、頻繁にオン/オフや、出力調整を行って、小刻みな温度変動を示すのと対象的である。冷房時の温度変動は、それに順応するための人体側の対応調整機能の酷使につながり、冷房病の原因の一つとなる。この点で、図11に示す温度変化は、健康に好ましいものといえる。
【0105】
さらに、図11に示すデータでは、人間の足付近(床から50cm付近)と頭付近(床から150cm付近)の温度差が、気温で見て2.5℃程度に収まっている。これも対流式の冷房に比べて大きな優位性である。この点も健康の観点から好ましいものといえる。
【0106】
以上述べたように、図11のデータから、本発明を利用した冷房作用の効果、その優位性が明らかとなる。
【0107】
本発明においては、遠赤外線を放射・吸収し遠赤外線の放射率が0.6以上である材料(上で説明した実施形態では、床板パネルの石材と、壁面及び天井面を構成する漆喰に混ぜられた石粉)は、同一材料でなくても、組成が近い材料であれば、同一材料ほどではないが、同様の効果を得ることができる。この点は、遠赤外線材料としてセラミックス材料などを用いた場合でも同様である。加熱面は、床面である方が、床暖房効果を得ることができ有利であるが、床暖房効果を利用しないのであれば、床面でなくてもよい。
【0108】
上述の実施形態では、床面、壁面および天井面の全てに石材又は石粉(遠赤外線放射物質)が含まれる構成としたが、遠赤外線放射物質を含む面は、床面と壁面、壁面と天井面、天井面と床面の3種の組み合わせのいずれかであってもよい。この際、一方の面から放射された遠赤外線が他方の面に到達し易いようにすることが重要である。例えば、床面、壁面および天井面の一面だけに遠赤外線放射物質を含ませても、各面間における放射熱のやり取りが効率良く行えないので、発明の効果は低下する。
【0109】
遠赤外線放射物質を含む面の組み合わせを、床面と壁面、壁面と天井面、天井面と床面の3種の組み合わせのいずれかとした場合、各面の全面に遠赤外線放射物質を含ませなくてもよいが、遠赤外線放射物質を含まない面積が増大する程、遠赤外線放射物質を含まない部分における放射熱の放射と吸収時における損失が増大する。このため、本発明の放射を利用した暖房効果および冷房効果は、低下する。よって、上記の組み合わせにおいて、各面の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上の面積に遠赤外線放射物質を含ませる必要がある。また加熱面および/または冷却除湿面は、複数の場所に分かれて配置されていてもよい。
【0110】
上記の例では、遠赤外線放射物質の粉砕物(石粉)を漆喰壁と天井の石膏ボードに含有させる例を説明したが、当該粉砕物を混ぜることができる建材であれば、上記の例に限定されない。例えば、壁紙等の内装部材に遠赤外線放射物質の粉砕物を含ませ、それを用いることで、本発明の効果を得ることもできる。また粉砕物を建材などの室内面構成部材材料に混ぜるのではなく、セラミックスコーティング技術を利用して、遠赤外線放射物質を室内面構成部材材料の表面にコーティングしてもよい。
【0111】
ここでは、本発明のシステムを住居用の部屋に適用した例を説明したが、教室、オフィス、スポーツ施設、図書館、店舗、その他人間が活動や生活をする部屋全般に本発明は利用することができる。上述の実施形態は例示であり、物件や施工現場に合わせて、各種建材や工法を適宜選択できることはいうまでもない。
【0112】
図2に示す構成において、冷却除湿面301の代わりに(あるいはそれに加えて)、床面200を熱伝導により冷却する冷却手段を設けて、床面200を冷却してもよい。床面200は、石材を整形加工して得た石材床板パネル205(図3参照)から構成されており、その遠赤外線吸収機能は、他の部分よりも大きく、また熱容量も大きい。したがって、冷房時に床面200を冷やすことで、床面200の遠赤外線の吸収能力を高め、室内の遠赤外線を床面200に吸収させることで、より高い冷房効果を得ることができる。ただし、床面200が結露するのは、好ましくないので、結露が生じない程度の冷却にする必要がある。このような冷却を行う冷却手段としては、地下水や水道水を流した配管を石材床板パネル205の裏面側に接触させて配置し、石材床板パネル205を裏面側から冷却する構成を挙げることができる。勿論、この冷却手段は、電気や他のエネルギーを利用した強制冷却手段であってもよい。また上記の床面200を冷却する場合に、床面以外での除湿を併用することで、室内の湿度を下げ、床面200への結露を抑えるようにしてもよい。
【0113】
冷却除湿面を構成するフィンの面が、床面、壁面および天井面にまんべんなく向くように、フィン304(図4A参照)の形状や配置の構造を工夫することで、冷却除湿面における放射熱の吸収効率をより高くすることができる。この構造としては、複数のフィンの面の向きが互いに異なるようにする、複数のフィンを斜めに配置する、フィンを湾曲させる、フィンを屈曲させる等の構造を挙げることができる。
【0114】
図12は、本発明のもう一つの実施形態として、本発明を利用した室内環境調整システムを備えた部屋の概要を示す概念図である。図12には、上方から俯瞰した状態が概念的に示されている。図12には、第1の部屋の一例であるリビング1が示されている。リビング1に隣接して、第2の部屋の一例である和室2が配置されている。リビング1と和室2とは、開け閉めが可能な障子3によって仕切られている。また、和室2には、襖21を介して、収納(押し入れ)22が配置されている。また、リビング1には、戸11を介して、収納12が配置されている。
【0115】
リビング1には、開閉可能なガラス戸4を介して、第2の部屋の他の一例である廊下5が繋がっている。廊下5から出入りが可能な部屋として、トイレ6と脱衣所を兼ねる洗面所7、さらに洗面所に隣接して適当な戸を介した配置された浴室8がある。トイレ6と洗面所7の廊下5側の戸は、通常の木製の戸である。また、トイレ6と洗面所7の内装は、下地の石膏ボードに通常の壁紙を貼った構造である。なお、符号9は、玄関の戸である。また、リビング1には、冷熱放射装置110が配置されている。冷熱放射装置110の詳細については後述する。
【0116】
図12に示す冷熱放射装置110は、冷放射と熱放射を切り換えて行うことができる装置である。冷放射というのは、冷却されることで、周囲からの熱放射を吸収する作用のことをいい、熱放射というのは、加熱されることで、周囲に向かって熱放射を行う作用のことをいう。
【0117】
図12に示すように冷熱放射装置110は、室外機である冷温水発生装置111に接続されている。冷温水発生装置111は、ヒートポンプ機能を備え、冷水または温水を発生する。このヒートポンプ機能は、通常のエアコン等に用いられているものと同じ原理により動作する。なお、冷房効果だけを得るのであれば、冷水の発生機能だけでよい。また、暖房効果だけを得るのであれば、温水の発生機能だけでよい。
【0118】
冷熱放射装置110に、冷温水発生装置111から冷水が供給されると、後述するフィンが冷やされ、結露による除湿が行われる。また冷却されることで、フィンの表面は、冷放射を行う冷却除湿面として機能する。また、冷熱放射装置110に、冷温水発生装置111から温水が供給されると、上記フィンが温められ、このフィンの表面が加熱面(熱放射面)として機能する。なお、冷水というのは、冷温水発生装置111の冷却機能によって冷却された水のことであり、温水というのは、冷温水発生装置111の加熱機能によって加熱された水のことをいう。なお、上記フィンに結露した水滴は、樋に滴下させて集められ、屋外に排水される。
【0119】
図13Aは、冷熱放射装置110を上方から見た上面図であり、図13Bは、図13Aにおいて矢印112の方向から見た正面図である。冷熱放射装置110は、リビング1(図12参照)の床面113と壁面114に固定されている。冷熱放射装置110は、アルミニウムにより構成され、上下方向に延在する2群のフィン115と116を備えている。冷熱放射装置110は、熱伝導の良好な他の金属または合金材料、例えば鉄や銅、それらの合金など、で製作することもできる。フィン115と116は、それぞれ複数が配置され、壁面114に対して斜め(この例では45°)の角度とされている。この角度は、15°〜75°程度の範囲から選択可能である。この例では、フィン115と116の表面が、結露による除湿を行う冷却除湿面、または加熱される加熱面として機能する。つまり、フィン115と116は、冷熱放射源として機能する。図13Aには壁面114に対して斜めにした2群のフィンを含む冷却放射装置110を示しているが、本願発明において冷却放射装置は、壁面114に対して直角に配置した1群のフィン(全てが平行に配列した1群のフィン)を備えることもできる。
【0120】
フィン115と116とは、互いに90°異なる角度されている。フィン115と116とは、縦に細長い板状とされている。図14は、フィン115(116)の断面形状を示す概念図である。図14に示すように、フィン115(116)は、細長い板状のアルミニウム板115aにより構成され、その表面には、遠赤外線の放射率が0.9を超える数値を示す花崗岩を粉砕した粉砕物(以下、石粉という)を混ぜた白い塗料により構成された厚さ約200μmのコーティング層115bが形成されている。コーティング層115b中の石粉の粒径は、50μm以下とされている。この石粉のコーティング層115bにおける含有率は、塗料の硬化状態(乾燥状態)で20重量%とされている。このコーティング層が冷却除湿面および加熱面として機能する。またアルミニウム板115aの内部には、上下方向に延びる水路115cが設けられている。
【0121】
図13Bに示すように、フィン115と116の上部には、給水パイプ117が貫通し、その下部には、排水パイプ118が貫通している。給水パイプ117と排水パイプ118とは、フィン115および116を支持する支持部材としても機能している。給水パイプ117は、各フィンの水路115c(図14参照)の上端に繋がり、排水パイプ118は、各フィンの水路115c(図14参照)の下端に繋がっている。また、給水パイプ117と排水パイプ118のそれぞれは、屋外に配置された冷温水発生装置111(図12参照)に接続されている。
【0122】
図12に示す冷温水発生装置111から供給された冷水または温水は、給水パイプ117からフィン115および116内部の水路115cに供給され、フィン115および116内部の水路115cを下方に向かって流れ、排水パイプ118を介して、冷温水発生装置111に回収される。この回収された冷水または温水は、冷温水発生装置111において、再び冷却または加熱され、給水パイプ117に供給される。この冷水または温水の循環により、フィン115および116の温度調整が行われる。
【0123】
図13Bに示すように、フィン115および116を上下から支持した給水パイプ117と排水パイプ118の両側は、支柱119と120により支えられている。支柱119と120の下端は、床面113に固定され、支柱119と120の上部が壁面114に固定されている。フィン115と116の下方には、断面が上方に向かって凹型またはV型を有する樋121が配置されている。樋121は、結露する水滴を集める水滴収集手段の一例である。樋121は、支柱119および120によって支えられ、図の左方向に傾斜する構造とされている。樋121の左端は、屋外に延長した配水管122に接続されている。この例では、結露によりフィンに付着した水滴は、樋121に滴下し、それにより樋121に集められ、最終的に排水管122から屋外に排水される。
【0124】
図示するように、フィン115と116は、壁面114に対して45°傾いており、リビング1(図12参照)の室内空間に対して、90°異なる斜め2方向にその面が向いている。こうすることで、リビング1内のどの場所から見ても、フィン115および/またはフィン116の面を見ることができる。言い替えると、リビング1内のどの部分からの遠赤外線も、フィン115および/または116の面に効率良く到達する。あるいは、リビング1内のどの部分に対してもフィン115および/または116からの遠赤外線が効率良く到達する。また、フィン115と116のそれぞれは、平行に並べて複数が配置されているので、占有する面積および体積に比較して、フィンの総面積を大きくできる。フィンの総面積を大きくすることは、遠赤外線の吸収量または放射量を大きくする上で、また除湿の効率を高める上で有利となる。
【0125】
図12に示すリビング1の床面は、一般的な材料を用いた板張り(所謂フローリング)である。図15A〜15Hは、本実施形態で用いた建材の構造を示す概念図である。図15Aには、リビング1の床の断面構造が概念的に示されている。図15Aに示すようにリビング1の床は、建物の躯体601の上にアルミ箔603による反射面を備えた断熱パネル602、および板材604を積層した断面構造を有している。
【0126】
板材604の表面は、2層のニス層605と606が表面保護層として形成されている。板材604に接したニス層605は、上述したフィンの表面に付着させたのと同じ石粉を0.5μm以下に更に粉砕したものを乾燥状態において10重量%含んでいる。このニス層605は、ニスの原料に石粉を混ぜ、良く攪拌し、それを通常のニスと同様に塗布し、乾燥させることで得ている。ニス層606は、最表面の保護層であり、ニス層605と同じニスの原料に石粉を混ぜていないものを用いて形成されている。
【0127】
図12に示すリビング1の壁13は、厚さ約3mmの漆喰の壁面を備えている。この漆喰の壁面には、漆喰の原料に上述した石粉(粒径5μm以下)を硬化状態で5重量%となるように混ぜている。図15Bにこの壁13の断面構造を示す。図15Bには、壁13の基礎となる躯体131が示されている。躯体131には、アルミ箔132を躯体131側に備えた石膏ボード133が貼られている。石膏ボード133の室内側には、上述した石粉入りの漆喰が塗られ、厚さ約3mmの漆喰の壁面134が形成されている。
【0128】
リビング1の天井面も壁13と同じ構造の漆喰の面とされている。リビング1の天井部分の断面構造を示す図15Cには、天井の基礎となる躯体141が示されている。躯体141の室内側には、躯体141側にアルミ箔142を備えた石膏ボード143が貼られ、石膏ボード143の室内側に、上述した石粉入りの漆喰が塗られ、厚さ約3mmの漆喰の天井面144が形成されている。
【0129】
図12に示すように、リビング1には、開閉可能なガラス窓14が設けられている。ガラス窓14の室内側には、日除けとして金属製のブラインド15(ベネシャンブラインド(Venetian blind))が配置されている。
【0130】
図12に示す和室2の床面は、普通の畳である。和室2の壁23は、壁13と同様な漆喰の壁を備えている。詳細な構造は、壁13と同じである。また、和室2の図示省略する天井は、図15Cに示す構造とされている。
【0131】
和室2には、開閉可能なガラス窓24が設けられ、ガラス窓24の室内側には、開閉可能な障子25が配置されている。和室2の障子3に対向する面側には、開け閉め可能な襖21を介して収納22が配置されている。なお、障子3と障子25は、木枠に障子紙を貼った一般的な障子である。
【0132】
襖21は、壁23と同様な遠赤外線の放射吸収特性を発揮させるために、上述した石粉と同じものを含んでいる。図15Dは、襖21の断面構造を示す断面図である。襖21は、木製の骨組み151に紙152と153を貼り付けた基本構造を有している。更にこの例では、室内側の紙153の表面に遠赤外線の反射面となるアルミ箔154を貼り付け、その上(室内側)に上記石粉を含んだ化粧紙155を貼り付けている。この化粧紙155は、紙を漉いて形成する際に、原料を含んだ混合液(スラリー)中に上記石粉を混ぜ、通常の方法と同様に紙漉を行うことで形成される。この例では、当該石粉が乾燥状態で5重量%含まれたものが採用されている。襖の表紙に石粉を含ませることで、収納の面積を確保しつつ、当該遠赤外線放射物質を含ませた壁面の有効面積を稼ぐことができる。
【0133】
図12に示す廊下5の床の構造は、図15Aに示す構造と同じである。廊下5の壁の構造は、図15Bに示す構造と同じである。廊下5の天井の構造は、図15Cに示す構造と同じである。
【0134】
図12のリビング1の収納12の戸11の構造について説明する。図15Eには、戸11の断面構造が示されている。戸11の室内側の表面には、上記石粉が含まれている。具体的に説明すると、戸11は、木製の骨組み161の両側に合板162および163を貼った基本構造を有している。合板163は、リビング1の室内側に配置され、そのリビング1側の面には、遠赤外線を反射するアルミ箔164が貼られ、このアルミ箔164の上には、化粧紙155と同じ材質で板目模様の化粧紙165が貼られている。戸11の表面に当該石粉を含ませることで、リビング1における遠赤外線放射物質を含んだ壁面の有効面積を稼ぐことができる。この構成は、戸11の面積が大きい場合に特に有効である。
【0135】
図16A、16Bは、本実施形態における冷房効果の原理を説明する概念図である。図16Aには、図12と同様な平面図が示され、図16Bには、図16AのA−A’で示す線で切った断面図が示されている。冷温水発生装置111において、冷水を生成し、それを冷熱放射装置110に供給することで、冷房が行われる。
【0136】
冷熱放射装置110のフィン115および116(図13A、13B参照)が冷水により冷却されると、フィン表面のコーティング層に含まれる石粉の温度が下がる。この結果、冷熱放射装置110のフィンからの遠赤外線の放射エネルギー密度(放射エネルギー量)は、同一組成の石粉を含んだリビング1の床41、壁13、および天井42からの放射エネルギー密度に比較して低くなる(具体的にいうと、熱放射量計の測定値が小さくなる)。この差に起因して、リビング1の床41、壁13、および天井42から、冷熱放射装置110のフィンに向かって相対的な熱放射が生じる。この時、両方に同じ遠赤外線放射物質(石粉)が含まれているので、リビング1の床41、壁13、および天井42(以下、これらをまとめて内面と表現する)と、冷熱放射装置110のフィンとの間で行われる遠赤外線を介した熱エネルギーの移動は、高い効率で行われる。図16A、16Bには、この際の熱放射(遠赤外線)が矢印により概念的に示されている。
【0137】
この際、同一分子種間における熱放射エネルギーの交換効率が高い原理が作用するので、両者の間で行われる放射エネルギー密度は、同一分子としない場合に比較して大きい。こうして、リビング1の石粉を含んだ内面部分は、冷熱放射装置110に遠赤外線を吸収された分、室内空間に向かって放出する熱放射量が低下した状態となる。この結果、人体が発する熱放射量との差が大きくなり、人体から放射された遠赤外線がリビング1の石粉を含んだ内面部分に吸収され易い状態となる。勿論、リビング1内にいる人間の人体から、冷熱放射装置110に直接吸収される熱放射もある。こうして冷房効果が得られる。
【0138】
図17A、17Bは、冷房作用を説明する概念図である。図17Aは、平面図を示し、図17Bは、図16Bと同様な断面図を示している。上述したように、リビング1の内面が、リビング1内にいる人間の人体からの熱放射を吸収し易い状態とされることで、図17A、17Bの矢印で示されるように、人体43から周囲への熱放射が、壁13や天井42、さらに床41に吸い取られる。これにより、人体43から熱放射の形で熱が奪われ、涼しいと感じる冷房効果が得られる。この冷房効果は、部屋の内面全体から熱放射の形で人体から熱が吸収される形となる。このため、壁等における単位面積当たりの熱吸収能力が、冷熱放射装置110より小さくても、当該部屋内面の面積および人体を囲む角度範囲で効いてくる。人間は、周囲にまんべんなく熱放射を行うので、部屋内面の全体で熱を熱放射の形で吸収するようにすることで、人体43から効率よく熱が吸収され、高い冷房効果(低い体感温度)が得られる。
【0139】
なお、リビング1の内面に含まれる石粉と異なる種類の石粉(組成の異なる石粉)をフィン115および116(図13参照)のコーティング層115bに用いた場合、異なる分子間における放射を介した熱交換になるので、共振周波数がずれた共振回路間における電磁エネルギーの交換作用の場合と同様に、エネルギーの交換効率は、同一材料を用いた場合に比較して低下する。このため、上記の冷房効果は、低下する。
【0140】
上記の冷房作用において、金属製のブライド15(図12参照)が遮蔽面となり、ガラス窓14からの熱放射が、冷熱放射装置110に吸収される現象が抑えられる。このため、屋外からの熱放射を冷熱放射装置110が吸収し、無駄にエネルギーが消費される現象が抑えられる。
【0141】
またこの際、効率が低いが、障子3からも冷熱放射装置110に対する遠赤外線の放射が生じる(障子3は、閉められているものとする)。図16Aには、矢印によりこの様子が概念的に示されている。障子3から冷熱放射装置110に対する遠赤外線の放射が生じることで、障子3の温度が低下する。この結果、障子3からの熱放射量が低下する。この際、障子3は薄いので、障子3の和室2側への熱放射量も低下する。この結果、壁23、襖21、および図示省略した和室2の天井面(以下和室2の内面)から障子3への熱放射量が増大し、和室2の内面の温度が低下する。この様子が、図16Aの和室2内に示した矢印によって概念的に示されている。なお、障子3は薄いので、この現象は、和室2の内面からの熱放射が、障子3を透過し、冷熱放射装置110およびリビング1の内面に吸収される現象として理解することも可能である。
【0142】
上記作用により、和室2の内面の温度が低下すると、和室2の内面から和室2内への熱放射量が低下する。この結果、図17Aにおける矢印で概念的に示されるように、和室2にいる人間の人体44から和室2の内面への熱放射量が増大する。この結果、人体44は上記一連の作用がない場合に比較して、より多くの熱を奪われ、冷房効果が得られる。もちろん、この際、人体44から図示省略した天井面への熱放射もこの冷房効果に寄与する。なお、この冷房効果は、間に障子3が介在するので、リビング1におけるものと比較すれば劣るものとなる。
【0143】
なお、障子3が開け放たれていれば、和室2の内面から直接冷熱放射装置110およびリビング1の内面への熱放射が生じる。この場合、障子3が介在することに起因する損失が減るので、和室2の内面の温度の低下は、障子3を閉めた場合に比較してより顕著なものとなり、冷房効果も高くなる。
【0144】
本実施形態では、冷熱放射装置110が見通せない場所であっても、冷房効果を得ることができる。以下、この原理を説明する。図18には、図12に示す構成における廊下5とリビング1との間のガラス戸4を開けた状態において、冷熱放射装置110を冷却動作させた場合が概念的に示されている。
【0145】
冷熱放射装置110が冷却されると、廊下5の壁面Aの部分から冷熱放射装置110に向かって熱放射が行われ、壁面Aの温度が低下する。壁面Aの温度が低下すると、見通し範囲内にある壁面Bとの間で温度差が生じ、その温度差を解消するように、壁面Bから壁面Aへと熱放射が生じ、壁面Bの温度が低下する。また、同様な理屈により、壁面Cから壁面Bへと熱放射が生じ、壁面Cの温度が低下する。これらの熱エネルギーの移動作用は、同一分子種間における熱放射を介したものであるので、高い効率で行われる。
【0146】
また、冷熱放射装置110が冷却されると、リビング1の壁面Dの部分から冷熱放射装置110に向かって熱放射が行われ、壁面Dの温度が低下する。壁面Dの温度が低下すると、見通し範囲内にある壁面Eとの間で温度差が生じ、その温度差を解消するように、壁面Eから壁面Dへと熱放射が生じ、壁面Eの温度が低下する。また、同様な理屈により、壁面Fから壁面Eへと熱放射が生じ、壁面Fの温度が低下する。また、同様な理屈により、壁面Gから壁面Fへと熱放射が生じ、壁面Gの温度が低下する。
【0147】
以上の作用は、床や天井においても同様に発揮される。このような作用により、廊下5の符号5’の場所においても、人体が放射する遠赤外線が廊下5の床面、壁面および天井面に吸収され易い状態が実現され、その場所における冷房効果が発揮される。すなわち、冷熱放射装置110から見通せる範囲内にない場所であっても、同一の遠赤外線放射物質を含む建材を介した熱放射の冷熱放射装置110への経路が形成され、人体からの熱放射が周囲に吸収され易い環境が作られる。なお、上記の効果は、遠赤外線の散逸や他の材料の影響による損失により、リビング1内における冷房効果よりは低下する。
【0148】
また上記の効果は、リビング1や和室2の内部においても有効に機能する。例えば、リビング1において、図示しない家具により冷熱放射装置110が見通せない場所の壁面からの熱放射は、冷熱放射装置110を見通せる場所の壁面を介して冷熱放射装置110に間接的に吸収される。これにより、冷熱放射装置110が見通せない場所の壁面の遠赤外線を吸収する能力が高まり、当該壁面の部分は冷房機能に寄与する。また、障子3を開けた場合に、和室2内において、冷熱放射装置110から見通せない壁面が存在する場合があるが、その場合でも、冷熱放射装置110を見通せる場所の壁面を介して冷熱放射装置110への熱放射が生じ、和室2内における冷熱放射装置110から見通せない壁面も冷房効果に寄与する。
【0149】
なお、冷熱放射装置110のフィンのコーティング層115b(図14参照)に含ませた石粉と、壁面Dに含ませた石粉と、壁面Eに含ませた石粉の種類が互いに異なる場合、図18に関連して説明した熱放射のやり取りが行われる際の損失が多段に渡り発生し、有効な冷房効果は得られない。
【0150】
以上が冷房効果の場合の説明であるが、暖房効果の場合は、熱放射の向きが逆となり、遠赤外線放射物質を含んだ壁面等の温度が上昇し、それにより暖房効果が得られる。
【0151】
図12における障子3の代わりに、以下において説明する襖を用いることができる。図15Fには、障子3の代わりに利用可能な襖31が示されている。襖31は、木製の骨組み32の両側に化粧紙33と34を貼った構造とされている。化粧紙33および34は、化粧紙155(図15D参照)と同様な石粉を乾燥状態で5重量%含ませたものとされている。
【0152】
襖31は、両面に上記石粉を含んでいるので、リビング1と和室2との間の遠赤外線を介した熱エネルギーの移動を低損失で行うことができる。以下、冷房時を例に挙げて、襖31の作用を説明する。ここでは、化粧紙33が和室2側であり、化粧紙34がリビング1側であるとする。また、襖31が閉められているものとする。
【0153】
冷房時において、襖31の化粧紙34から放射された遠赤外線がリビング1側の冷熱放射装置110およびリビング1の内面(壁面等)に吸収される。この際、同一分子種間における熱放射のやり取りが高い効率で行われる原理により、障子3の場合よりも、上記の熱放射エネルギーの移動は高い効率で行われる。
【0154】
上記の現象により温度の低下(熱的なエネルギーの状態が低下)した化粧紙34は、化粧紙33からの熱放射を吸収し易くなり、その結果、化粧紙33から放射される遠赤外線が化粧紙34に吸収され、化粧紙33の温度が低下する。この際の熱エネルギーの移動も同一分子種間における熱放射エネルギーの移動が低損失で行われる原理により、低損失で行われる。
【0155】
そして、温度の低下した化粧紙33に和室2の壁23および襖21からの遠赤外線が吸収される。この際の熱エネルギーの移動も同一分子種間で行われるので、低損失で行われる。こうして、和室2の壁23および襖21の温度が低下し、図17Aに示す場合と同様な原理により、和室2に入った人間の人体44から周囲に吸収される熱放射量が増大し、冷房効果が発揮される。
【0156】
障子3の障子紙として、石粉入りのものを用いてもよい。この場合、化粧紙33や34と同様な材質の紙を障子紙として採用する。この障子紙は、当該石粉を含んでいるで、上記襖31と同様な作用が得られる。
【0157】
リビング1や廊下5の床面を、石粉の原料となる花崗岩をパネル状に成形した石材パネルにより構成した石床としてもよい。また、石床に床暖房装置を組み込み、暖房時に床暖房を利用してもよい。この場合、石床から放射される遠赤外線が石床と同一材料の石粉を含む壁面や天井面から2次的に再放射され、部屋全体から遠赤外線が放射される暖房効果を得ることができる。また床面に加えて(あるいは床面はフローリング等の通常の床面で)、壁面や天井面を石材パネルで構成してもよい。勿論、石材は花崗岩に限定されない。
【0158】
本発明における結露による除湿を行う冷却除湿面、または加熱される加熱面の例としては、図13A、13Bに示すフィン115および116のような形態の他に、単なる面であってもよい。この場合、例えば第1の部屋の壁面の一部が、金属面の表面に当該セラミックス材料の粉砕物を混ぜたコーティング層を設けた冷却除湿面となる。この面を冷却することで、結露による除湿を行う冷却除湿面として機能させ、または加熱することで、加熱面として機能させる。この面は、表面積を確保するために凹凸やヒダを設けた構造としてもよい。また、この面には、付着した水滴を集める樋121のような水滴排出手段を設ける。この水滴排出手段の構造としては、この面に溝を形成し、この溝を伝わって水滴が集められて排水が行われるようなデザインが挙げられる。
【0159】
また、板状のフィンの代わりに角柱や円柱の表面を用いて、冷却除湿面や加熱面を構成してもよい。この場合、角柱や円柱の金属パイプの表面に当該遠赤外線放射物質を含んだコーティング層を形成し、この金属パイプ内に冷水や温水を流す構造とすればよい。
【0160】
図12に示す例では、ガラス窓14の室内側に金属製のブラインド15を配置し、冷房時において、ガラス窓14からの熱放射が冷熱放射装置110に吸収されないようにし、また暖房時には、ガラス窓14に冷熱放射装置110からの熱放射が吸収されないようにしている。このブラインド15の室内側の面に、先に説明した板状のフィン115、116の表面に設けたコーティング層115b(図14参照)と同様のコーティング層を形成してもよい。こうすることで、ブラインド15の室内側に、壁13と同様の機能を持たせることができる。
【0161】
ブラインド15の代わりに、ロールカーテンを用いることもできる。このロールカーテンの断面構造の一例を図15Gに示す。図15Gには、ロール状の巻かれた状態から引き出された状態のロールカーテン170の断面構造が示されている。ロールカーテン170は、屋外側(窓側)に化粧シート171が位置し、室内側に石粉入り化粧シート173が配置されて、それらの間に熱放射に対する反射層として機能するアルミ箔172が配置されている。化粧シート171と173は、樹脂材料を基材としている。化粧シート173は、室内側に露出し、石粉が10重量%配合されている。石粉は、フィン115および116のコーティング層115bに含ませたものと同一のものを用いる。この例によれば、ロールカーテン170を壁面134と同様に機能させることができる。
【0162】
壁面に冷却除湿面と同じ遠赤外線放射物質を含ませる構成の一例として、壁紙に遠赤外線放射物質を含ませる例が挙げられる。以下、この例を説明する。図15Hは、壁紙が貼られた壁の断面構造の一例を示す概念図である。図15Hには、壁13’が示されている。壁13’は、図15Bの壁13の代わりに利用できる。
【0163】
図15Hには、躯体131が示され、この躯体131の室内側に、アルミ箔132が貼られた石膏ボード133が取り付けられた状態が示されている。そして、石膏ボード133の室内側の面にさらにアルミ箔181が貼られ、アルミ箔181の室内側の面に壁紙182が貼られている。
【0164】
壁紙182は、図14のフィン115のコーティング層115bに含まれている石粉を3重量%含んでいる。壁紙182は、紙漉による製造時に、原料となる混合物のスラリー中に上記石粉を混ぜたものを用いることで、石粉を含んだものとすることができる。図15Hにおいて、アルミ箔181は、壁紙182から放射される遠赤外線が石膏ボード133側に行かないようにし、且つ、石膏ボード側からの遠赤外線が壁紙182に到達しないようにする反射シートして機能する。石膏ボード133は、壁紙182の熱が躯体131に逃げないように、あるいは躯体131の熱が壁紙182に到達しないようにする断熱層として機能する。
【0165】
この構成では、壁紙182の熱交換容量を大きくできるので、壁面を間接的な冷熱放射源または熱放射源として活用した場合に高い機能を期待できる。また、壁紙を貼った壁の構造であるので、低コストおよび少ない手間で実施することができる。なお、壁紙を樹脂シートにより構成する際は、樹脂シートの原料に石粉を含有させればよい。
【0166】
この例は、遠赤外線放射物質を含む冷却除湿面と、冷却除湿面に含まれる遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む壁紙と、この壁面の裏面側に配置された遠赤外線の反射面(金属シート)と、この反射面の裏面側に配置された断熱材とを含む室内環境調整システムの一例となる。壁紙中における当該物質の含有割合は、1重量%以上、20重量%以下とすることが好ましい。
【0167】
以上の例においては、天然石である花崗岩を遠赤外線放射物質として用いる場合を説明したが、遠赤外線放射物質は、他の天然石(例えば玄武岩等)やセラミックス材料(例えば、炭化珪素、窒化珪素、ガラス等)であってもよい。また、壁面や天井に遠赤外線放射物質をパネル状に加工したものを貼り付けてもよい。勿論、このパネル状に加工した建材は、遠赤外線放射物質以外の成分として、骨材や添加材料を含んでいてもよい。また、遠赤外線の放射および吸収を効率よく行うために、遠赤外線放射物質が極力室内空間に露出するようにすることが好ましい。なお、遠赤外線放射物質が室内空間に直接露出していなくても、1mm程度以下の保護層(例えば塗装の層、ニスの層、壁紙等)で覆われているのであればあれば、大きな問題はない。
【0168】
遠赤外線放射物質は、複数種類混ぜて用いてもよい。この場合、床面、壁面および天井面から選ばれた少なくとも一面と、フィンの表面層とに含まれる遠赤外線放射物質の配合割合を同一とする。
【0169】
また窓や戸などに用いられる一般的なガラスも良好な遠赤外線放射物質であり、本発明の遠赤外線放射物質として用いることができる。例えば、図12に示す構成において、障子3の代わりにガラス板を嵌め込んだ引き戸とし、冷熱放射装置110のフィンにこの引き戸に嵌め込んだガラス板の粉砕物をコーティングする。さらに、この引き戸に嵌め込んだガラスの粉砕物を含んだ漆喰により、リビング1、和室2および廊下5の壁面および天井面を構成する。なお、漆喰における当該ガラスの粉砕物の含有量は、図12〜15Hに関連して説明した場合と同じとする。この構成によれば、障子3の代わりに配置したガラス板を嵌め込んだ引き戸を介した熱エネルギーの移動により、リビング1における冷房効果または暖房効果が和室2に及ぶ。
【0170】
フィン115、116や、あるいはフィン115、116に代えて用いることができるとして先に説明した単なる面を、遠赤外線放射物質の(またそれを含む)一体物で構成してもよい。このような一体物としては、板状にしたセラミックスの焼き物を挙げることができる。また、フィン115および116に付着した水滴を室外に排出せず、集めて排水タンク等に回収してもよい。また、フィンの表面や漆喰の壁面を研磨し、遠赤放射材料の粉砕物を露出させて、熱放射の授受がより効率よく行われるようにしてもよい。
【0171】
上述の実施形態では、住居用の部屋に本発明を適用した例を説明したが、教室、オフィス、スポーツ施設、図書館、店舗、その他人間が活動や生活をする部屋全般に本発明は利用可能である。上記の実施形態は例示であり、物件や施工現場に合わせて、各種建材や工法を適宜選択できることはいうまでもない。
【0172】
上述の実施形態では、部屋の内面に含ませた石粉が一種類の場合を説明したが、例えば壁面の第1の面に第1の種類の石粉を含ませ、壁面の第2の面に第2の種類の石粉を含ませる構成も可能である。この場合、冷熱放射装置110のフィン115および116に、上記第1の種類の石粉と上記第2の種類の石粉とを混ぜたものをコーティングすればよい。
【0173】
図12の冷温水発生装置111では、媒質として水を用いているが、水以外の媒質を用いることもできる。例えば、冷房専用であれば、媒質としてアンモニア等の公知の冷媒を用いることができる。また暖房専用であれば、オイルや蒸気を媒質として用いることができる。
【0174】
また、上述の実施形態は、内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む部屋と、前記部屋に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、冷却されることで、結露による除湿を行う冷却除湿面と、前記部屋に隣接する他の部屋とを備え、前記他の部屋の内面の少なくとも一部が、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む構成の室内環境調整システムとして把握することもできる。また、この構成において、他の部屋の内面に前記冷却除湿面から見通せる第1の部分と見通せない第2の部分とがあり、前記第1の部分と前記第2の部分とには、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質が含まれ、前記第1の部分と前記第2の部分とは互いに見通せる関係にある室内環境調整システムとして把握することもできる。
【0175】
次に、上述の実施形態の種々の応用例を説明する。
例えば、公共施設やホテルのロビー等において、壁面や床面に石材が既に用いられている場合がある。このような既存設備に本発明を適用する例を説明すると、このような場合、既存の室内空間に、当該石材(壁面や床面に用いられた石材)の粉砕物をコーティングしたフィンを備えた冷熱放射装置110(図13A、13Bおよび図14参照)を配置するだけでよい。
【0176】
本発明を利用した冷房効果の原理を応用したもう一つの例として、遠赤外線放射物質を含んだ繊維や織布(または不織布)を用いた衣服を用いる事例を挙げることができる。この場合、冷房動作時において、人体からこの衣服への熱放射が起こり、この衣服から冷熱放射装置のフィンおよび部屋内面への熱放射が起こり、最終的に人体の熱が、冷熱放射装置のフィンに吸収され、冷房効果が発揮される。つまり、図12のリビング1のような構造を備えた室内環境調整システムにおいて、上記の衣服がこのシステムの一部として機能することで、人体の熱を熱放射の形で吸収する。この衣服を着た場合、暖房時には、これとは逆の作用により、人体から周囲の環境に逃げる熱放射量が減り、暖房効果が高まる。
【0177】
例えば、このような衣服の構成を利用した寝衣(ねまき)を用意すれば、図12のリビング1や和室2の構成と同様な構造を寝室に利用した場合に、高温時であれば涼しく、低温時であれば温かい環境で寝ることができる。また、寝具への応用でいえば、枕、布団等に当該遠赤外線放射物質と同一の材料を含ませることで、同様な効果を得ることができる。これは、ソファー、クッション、膝掛け等についても同様にいえることである。なお、当該遠赤外線放射物質を含ませる割合は、壁面等の場合と同じである。
【0178】
この応用例は、内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む第1の部屋と、この第1の部屋に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子により構成される物質を含み、冷却されることで、結露による除湿を行う冷却除湿面とを備えた環境において、前記冷却除湿面を冷却することで、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含んだ衣服を着た人間からの熱放射を、前記衣服に含まれる前記物質に吸収させ、この衣服に含まれる前記物質からの熱放射を前記内面および前記冷却除湿面に吸収させることを特徴とする人体の冷却方法またはシステムの一例となる。またここでは、衣服を寝具に置き換えて発明を把握することも可能である。この応用例については、下記で更に詳しく説明する。
【0179】
上述の実施形態の別の応用例を説明すると、本発明における部屋は、人間が生活で利用する部屋に限定されず、物品を保管する部屋(例えば倉庫の部屋)や陳列する空間(例えばショーケース)であってもよい。食品等の中には、高温を避けなければならないが、冷気に当てては好ましくないものがある。また、高温は避けなければならないが、一方で過度の冷却が好ましくないものがある。このようなものの保管や陳列に、本発明のシステムを適用した部屋や空間を利用することができる。
【0180】
また、動物を飼育する部屋に本発明を利用した冷房システム(または暖房システム)を導入することもできる。例えば、家畜を飼育する部屋に本発明を利用した冷房システムを導入することで、気温が高い季節における家畜への負担を減らすことができる。
【0181】
本発明における部屋は、家やビルといった建築物内の部屋に限定されず、移動体が備える部屋であってもよい。移動体としては、車、バス、鉄道車両、船舶、航空機が挙げられる。本発明を利用した冷房機能は、エアコンの冷房に比較して、低消費電力で動作するので、電源容量が限られている車の冷房への適用に適している。特に小型車や電気自動車に利用するのに適している。
【0182】
また本発明は、冷熱源を見通せない場所であっても、間接的な熱放射を介した熱エネルギーの授受により、そこを2次的な(あるは間接的な)冷熱源として利用できるので、乗用車のようにシートの背もたれ等により室内の見通しが妨げられる構造の室内であっても、冷房効果を効果的に発揮させることができる。なお、乗用車の室内に本発明を適用するのであれば、室内の壁面として、ドアの内側等の面を利用すればよい。また、シートの露出面等に当該遠赤外線放射物質を含ませ、なるべく遠赤外線放射物質を含む面の面積を大きく確保するようにすればよい。
【0183】
本発明をオフィスに適用することもできる。このような場合、部屋の壁面等の内面だけなく、事務スペース等を区切る仕切り(衝立、間仕切り、パーティションとも呼ばれる)の表面に遠赤外線放射物質を含ませることで、仕切りを壁面等と同様な2次冷放射源(あるいは2次熱放射源)として活用することができる。仕切りにこのような機能を与えるには、例えば、仕切りの表面を覆う表面材(例えば織布により構成される表面材)に遠赤外線放射物質の粉砕物を含んだバインダーを含浸させればよい。
【0184】
図12に示す実施形態において、冷熱放射装置110のフィン115(図13A、13B参照)、符号〔1〕〜〔9〕の壁面部分、および人間の熱放射量を熱放射量計で測定した結果を下記表3に示す。ここで、熱放射量計は、OPTEX社製のER−1PS(測定波長範囲:7〜20μm)を用い、被測定部分までの距離は1mとした。また、フィン115に対する測定は、フィン115が並んだ部分の中央部分に対して行った。また測定は、太陽光の影響を避けるために夜間に行った。またフィンの温度は、冷温水発生装置111に付属しているコントローラの設定温度の設定値とした。また人体の測定において、対象となる人間は、成人の男性(体重64kg)であり、服装は、上が綿のTシャツであり、下が綿の半ズボンである。また各測定は、温度設定を行ってから、1時間が経過してから行った。また図12の障子3は閉め、ガラス戸4は開けた状態とし、トイレ6の戸は閉めた状態とした。なお、外気温は約28℃であった。またフィンの総面積とリビング1の(壁面+天井面)との面積比率は、約1:20であった。なお床は、通常のフローリングの床とした。
【0185】
熱放射量計の計測値は、熱放射量計に付属のディスプレイに表示された値であり、放射率に応じた校正がされていない生データである。またその値は、任意値であり、その絶対値が熱放射のエネルギーの値を直接示す訳ではない。しかしながら説明を理解し易くするために、以下において、便宜的に表3に示す熱放射量計の表示を熱放射量と呼ぶ。また、表3の熱放射量は、熱放射量計が測定可能な範囲内(この条件では数十cm平方)からのものであるから、単位面積当たりの熱放射量に対応していると見なせる。
【0186】
【表3】

【0187】
ここで、フィン温度9℃と11℃とが冷房動作をさせた場合に相当し、フィン温度20℃が冷房をかなり弱くした場合に相当し、フィン温度25℃が、夏季に冷熱放射装置110の動作をOFFにした場合に相当する。ここでは、冷温水発生装置111の電源をOFFにしても、冷熱放射装置110内の循環水が室温になるまでの時間が長くかかるので、25℃に設定することで、擬似的に夏季における冷熱放射装置110の動作OFFの状態を作り出している。
【0188】
表3から明らかなように、フィンや壁面の熱放射量に比較して、人間の熱放射量は、その値が大きい。この値の差に起因して、人体からフィンや壁面に相対的に熱放射が生じ、人体から放射される熱放射のエネルギーが、フィンや壁面に吸収される。
【0189】
表3のデータの一部をグラフにまとめたものを図19に示す。図19のプロット点○の遷移は、フィンの温度を下げることで、リビング1内の壁13からの熱放射量が低下する現象を示している。言い換えれば、これは、フィンの温度を下げることで、壁13から冷熱放射装置110に吸収される熱放射エネルギーがより多くなり、それに伴い壁13の温度が低下し、壁13から放射される遠赤外線の量が低下する現象を示している。
【0190】
表3には、リビング中央に立つ人間からの熱放射量の測定値が示されている。表3から明らかなように、フィンの温度を下げると、人間からの熱放射量も少しであるが低下する。これは周囲から吸収される人体からの熱放射の量が、フィンの温度低下に比例して多くなり、そのため人体の持つ熱量が低下し、それが人体からの熱放射量の低下として現れている現象であると理解できる。
【0191】
体感としては、フィン温度9℃や11℃では、涼しすぎ(つまり寒い)、フィン温度20℃では、冷房効果がやや弱く感じた。外気温や屋外の湿度にもよるが、この実施形態の場合、フィン温度15〜17℃程度が快適な冷房環境であった。
【0192】
図19において、プロット点○とプロット点●とを比較すると、障子3のリビング側の面は、フィンの温度低下に対する熱放射量の値が、壁13に比較して大きい。つまり、フィンの温度に追従した冷え具合が壁13に比較して低い。
【0193】
これは、障子3が、フィンのコーティング層に含まれている遠赤外線放射物質である花崗岩を含んでいない普通の障子紙で構成されているために、同一分子種間における熱放射を介した熱放射エネルギーの伝熱効率が最大となる原理が利用できず、それ故に熱放射エネルギーの伝熱時の損失が大きいためであると考えられる。
【0194】
このように、プロット点○とプロット点●とで示されるデータには、同一分子種間における熱放射を介した伝熱が高効率に行われる現象を利用した優位性が顕著に表れているといえる。
【0195】
表3を見ると、フィンの温度を25℃から9℃に低下させると、フィンの熱放射量は、70低下する。よって、フィン温度25℃の環境にいた人間(熱放射量:327)が、フィン温度9℃の環境に移ると、人体とフィンとの間の熱放射量の差は、9から79に増大し、その差70の分、人体からフィンに吸収される熱放射量が増大し、その分涼しさをより感じることになる。
【0196】
一方、表3を見ると、フィンの温度を25℃から9℃に低下させると、リビング1の壁部分〔1〕の熱放射量は、308から298になる。よって、フィン温度25℃の環境にいた人間(熱放射量:327)が、フィン温度9℃の環境に移ると、人体とリビング1の壁〔1〕の部分との間の熱放射量の差は、(327−308)=19から(327−298)=29に増大し、その差10の分、人体からリビング1の壁〔1〕の部分に吸収される熱放射量が増大する。
【0197】
この壁13と人間との間における熱放射量の差の増大の程度(上記数値10)は、フィンと人間との間における熱放射量の差の増大の程度(上記数値70)に比較して、14%程度である。
【0198】
しかしながら、フィンの総面積とリビング1における(壁面+天井面)の面積との面積比は、約1:20であり、熱放射のエネルギーの総量は、熱放射が行われている部分の面積に比例するから、リビング1の壁面と天井面の全てが同じように機能していると仮定すると、壁と天井の全体では、冷熱放射装置110と同程度以上の冷放射作用が働いていることが見積もられる。しかも、壁と天井は、人間を取り囲むように位置しているので、人間が放射する熱放射エネルギーを漏れなく効果的に吸収する。以上のことから、石粉を混ぜた壁や天井の冷房効果への寄与が、冷熱放射装置110と同程度以上であり、有効なものであることが結論される。
【0199】
図19には、フィンの温度低下に伴って、障子3によって仕切られている和室2の壁〔5〕の部分の熱放射量も低下する現象が示されている。図12に示されるこの和室2の壁〔5〕の部分における熱放射量の低下の程度は、リビング1に比較すれば小さいが、図19からは、本発明の熱放射を利用した冷房効果が、閉めきった障子3を介して、リビング1から和室2に及んでいる現象が読み取れる。事実、和室2においても、リビング1ほどではないが、冷房効果が体感できている。図19のデータは、この体感結果と整合する。なお、障子3を開ければ、同一分子種間の熱放射エネルギーの伝熱作用が働くので、和室2における冷房効果は、さらに向上することが予想される。
【0200】
図19には、冷熱放射装置110のフィンから見通せない壁〔8〕の部分の熱放射量が低下するデータが示されている。このデータは、図18に関連して説明したメカニズムが働いているためであると考えられる。事実、廊下5の5’の付近(図18参照)においても、リビング1ほどではないが、冷房効果が体感できている。図19のデータは、この体感結果と整合する。
【0201】
図11を見ると、トイレ6の壁〔9〕の部分からの熱放射量は、フィンの温度を低下させても、有意な変化は示さない。これは、閉めている状態のトイレ6の戸が、両面に合板(合板1枚の厚さは5mm程度と予想され、内部構造は不明)が貼られ、さらにその露出表面に塗装がされた構造であるので、熱放射の影響がトイレ6の内部にまで及ばなかったためであると考えられる。また、トイレ6の壁面が普通の壁紙であったためであると考えられる。
【0202】
フィンの温度が25℃において、各部分の熱放射量が互いに近い値に収束している。これは、フィンによる熱放射の吸収作用(冷放射作用)が有効に機能しなくなっているためであると考えられる。この傾向は、表3にも現れている。すなわち、表3において、フィン温度25℃では、フィン表面の熱放射量が人間を除く他の部分に比較して、大きな値で計測されている。これは、フィンが人間以外の表中の部分に対して、僅かではあるが熱放射源として機能している傾向を示し、冷放射源としては機能していない現象を示しているといえる。
【0203】
図20は、本発明の更なる実施形態として、本発明を利用して生活環境の調整を行う一例を示す概念図である。図20には、部屋700が示されている。部屋700は、フローリングの床面701、漆喰の壁面702、漆喰の天井面703を備えている。床面701は、25℃での放射率が0.9を超える花崗岩を1μm以下に粉砕した石粉を混ぜたニスにより塗装されている。このニスの層における石粉の含有量は、約3重量%とされている。壁面702と天井面703の漆喰は、厚さが約3mmであり、硬化した状態において、上記の石粉を約5重量%含む状態とされている。
【0204】
部屋700の内部には、冷却除湿面兼加熱面704を有する冷却加熱装置705が配置されている。冷却加熱装置705は、冷却除湿面兼加熱面704を表面に備えた複数のフィン(図示せず)を平行に並べた構造を有している。冷却除湿面兼加熱面704は、このフィンの表面に形成された上記石粉をコーティングしたコーティング層により構成されている。フィンは、アルミニウム製であり、その内部には、冷水または温水を流すことができる構造とされている。フィンは、熱伝導の良好な他の金属または合金材料、例えば鉄や銅、それらの合金など、で製作してもよい。フィンの内部に冷水または温水を流すことで、このフィンの表面に設けられた上記石粉のコーティング層が、冷却除湿面または加熱面として機能する。
【0205】
この例では、上記のコーティング層は、フィンの表面に上記石粉を混ぜた塗料を塗り、この塗料が硬化した層(石粉を含んだ塗料の皮膜)により構成されている。乾燥状態における塗料の皮膜中における石粉の含有量は、15重量%とされている。なお、一般に、このコーティング層中における石粉の含有量は、1重量%以上となるようにする。
【0206】
部屋700の外には、室外機として冷温水発発生装置706が配置されている。冷温水発生装置706は、公知のヒートポンプ機能を有し、冷却加熱装置705に冷水または温水を供給する。例えば、冷水の場合、冷却加熱装置705に供給された冷水は、そこで熱交換を行って上記フィンの熱を吸収し、この際に上記フィンを冷却する。熱交換により温度が上昇した冷水(あるいは温度が上昇して冷水ではなくなった水)は、冷温水発生装置706に戻されて再度冷却され、再び冷却加熱装置705に供給される。なお、温水の場合は、温水が冷温水発生装置706から冷却加熱装置705に供給される。
【0207】
また、冷却除湿面兼加熱面704の下部には、結露した水滴を滴下させ集める樋711が配置されている。この樋711に集められた水滴は、屋外に排出される。
【0208】
図20には、衣服707を着用した人間708が枕709に頭を載せて横たわっている状態が示されている。衣服707は、ポリエステル繊維を混合した綿の布地により構成されている。このポリエステル繊維は、上記の石粉を混ぜた原料から紡糸されている。石粉の含有量は、衣服707全体に対して、3重量%とされている。枕709は、衣服707を構成するのと同じ布地により表面が覆われている。
【0209】
図21A、21Bは、本実施形態における冷房効果を説明する概念図である。冷温水発生装置706において冷水を発生させ、それを冷却加熱装置705に供給すると、冷却除湿面兼加熱面704が冷却される。冷却除湿面兼加熱面704が冷却されると、床面701、壁面702および天井面703に対して、冷却除湿面兼加熱面704が相対的に低温となり、ステファン・ボルツマンの法則により、床面701、壁面702および天井面703から冷却除湿面兼加熱面704に対して熱放射が生じる。この様子が図21Aに概念的に示されている。この熱放射は、同一分子種間における熱放射を介したエネルギー交換が高い効率で行われる原理により、高い効率で行われる。
【0210】
冷却除湿面兼加熱面704に熱放射によって熱エネルギーを奪われた床面701、壁面702および天井面703は、熱エネルギーを失うので、その温度が僅かに低下する。この結果、同じ分子種の遠赤外線放射物質を含む衣服707および枕709に対する床面701、壁面702および天井面703の温度が僅かに低下し、衣服707および枕709から放射される遠赤外線が床面701、壁面702および天井面703に吸収される。この際も、同一分子種間における熱放射を介したエネルギー交換が高い効率で行われる原理により、熱交換が高い効率で行われる。
【0211】
こうして、衣服707や枕709が持つ熱エネルギーが、熱放射の形で床面701、壁面702および天井面703を経由して、冷却除湿面兼加熱面704に吸収され、最終的に冷温水発生装置706から屋外に排出される。なお、衣服707や枕709から冷却除湿面兼加熱面704に吸収される熱放射の成分も当然ある。
【0212】
衣服707および枕709から放射される遠赤外線が床面701、壁面702および天井面703に吸収されることで、衣服707および枕709の表面温度が僅かに低下し、人間708からの熱放射をより吸収し易い状態が得られる。
【0213】
具体的にいうと、人間は36.5℃程度で常に発熱している発熱体であるから、絶えず周囲に熱放射を行っている。ここで、上述した現象により、衣服707および枕709からの熱放射が壁面702等を介して、最終的に冷却除湿面兼加熱面704に吸収されると、衣服707および枕709からの熱放射量が減少し(つまりその温度が低下し)、人間708からの熱放射量との差が増大する。この結果、冷却除湿面兼加熱面704を冷却しない場合に比較して、衣服707および枕709から人間708への熱放射量が減少する。言い替えると、人間708の熱が熱放射の形で衣服707および枕709に吸収される傾向が大きくなる。こうして、冷却除湿面兼加熱面704を冷却しない場合に比較して、人間709が失う熱量が増大し、人間708が涼しさを感じる環境が実現される。
【0214】
また冷却除湿面兼加熱面704が冷却されると、冷却除湿面兼加熱面704に結露が生じ、空気中の水分が水滴として冷却除湿面兼加熱面704に付着する。この付着した水滴は、樋711に滴下し、屋外に排出される。この仕組みにより、部屋700内部の除湿が行われる。この除湿も部屋700の内部の快適性を高める上で有効に機能する。
【0215】
上記の例によれば、冷却除湿面704を冷却することで、同一分子間における熱放射を介した熱エネルギーの交換が高い効率で行われる原理により、壁面702および天井面703からの熱放射が冷却除湿面704に吸収され、さらに衣服707および枕709からの熱放射が壁面702および天井面703に吸収される。この結果、衣服707および枕709の熱放射量が減少し、人間708からの熱放射を吸収し易い状態が実現される。そして、人間708からの熱放射が衣服707および枕709に吸収されることで、人間708が失う熱量が増大し、人間708が涼しさを感じる環境が実現される。
【0216】
この原理では、冷気を肌に当てる訳ではないので、通常のエアコン冷房において問題となる冷気に起因する不快な環境とならない。そのため、冷気による冷えや、冷気により呼吸器系を痛めるようなことがない。また、除湿が同時に行われるので湿度低下による爽やかな環境が得られる。また、冷媒によって空気を冷やし、この冷えた空気によって人体を冷やすプロセスを経ず、人体から熱放射される熱エネルギーを冷却された冷却除湿面兼加熱面に吸収させるので、エアコンに比較してエネルギーの利用効率が高い。つまりより少ない消費エネルギーで冷房効果を得ることができる。
【0217】
また、衣服による冷房効果の調整が可能であるので、暑がりの人は、遠赤外線放射物質の含有率の高い衣服を着用し、寒がりの人は、遠赤外線放射物質の含有率の低い衣服を着用する(必要であれば、通常の下着等を重ね着する)といった人それぞれの感覚に合わせた調整が容易に行える。通常のエアコン冷房の場合、寒がりの人が重ね着をしても冷気が顔や手足といった露出部分に当たることによる不快感、さらに冷気を吸い込むことによる呼吸系への負担が生じる。しかしながら、本発明を利用した場合、冷気に起因する問題が発生しないので、上述したように人それぞれの事情に応じた環境の調整を簡単に行える。
【0218】
図22A、22Bは、本実施形態における暖房効果を説明する概念図である。冷温水発生装置706において温水を発生させ、それを冷却加熱装置705に供給すると、冷却除湿面兼加熱面704が加熱される。冷却除湿面兼加熱面704が加熱されると、床面701、壁面702および天井面703に対して、冷却除湿面兼加熱面704が相対的に高い温度となり、ステファン・ボルツマンの法則により、床面701、壁面702および天井面703に対して、冷却除湿面兼加熱面704からの熱放射が生じる。この様子が図22Aに概念的に示されている。この熱放射は、同一分子種間における熱放射を介したエネルギー交換が高い効率で行われる原理により、高い効率で行われる。
【0219】
冷却除湿面兼加熱面704からの熱放射によって熱エネルギーを与えられた床面701、壁面702および天井面703は、熱エネルギーを得るので、その温度が僅かに上昇する。この結果、同じ分子種の遠赤外線放射物質を含む衣服707および枕709に対する床面701、壁面702および天井面703の温度が僅かに高くなり、衣服707および枕709からの熱放射量よりも床面701、壁面702および天井面703からの熱放射量が大きな値となり、床面701、壁面702および天井面703から衣服707および枕709への熱放射が発生する。この際も、同一分子種間における熱放射を介したエネルギー交換が高い効率で行われる原理により、熱交換が高い効率で行われる。なお、衣服707や枕709に対して、冷却除湿面兼加熱面704から直接行われる熱放射の成分もある。
【0220】
衣服707および枕709に対して、床面701、壁面702および天井面703から熱放射が生じることで、衣服707および枕709の表面温度が僅かに上昇し、冷却除湿面兼加熱面704を加熱しない場合に比較して、衣服707および枕709からの熱放射量が増加する。この結果、人間708から衣服707および枕709に逃げる熱放射量が相対的に低下し、人間708から周囲に奪われる熱量が減少し、人間708が感じる寒さが和らぐ暖房効果が得られる。
【0221】
遠赤外線放射物質を含んだ布は、敷物や布団等に適用することもできる。また、当該遠赤外線放射物質を含んだ布をソファー等の家具に利用することもできる。このようにすることで、上述した衣類707や枕709と同様な機能を発揮する敷物、布団、ソファー等を得ることができる。
【0222】
床面を床暖房構造とし、床面を加熱する構成としてもよい。この場合、冷却除湿面兼加熱面704は加熱されなくてもよい(勿論、加熱してもよい)。この場合、床面からの熱が壁面および天井面を介して、布に伝わり、暖房効果が得られる。また、上記の例では、冷房と暖房を選択可能な構成を例示したが、冷房のみ、または暖房のみの構成としてもよい。
【0223】
本発明においては、上で説明した種々の実施形態に限らず、そのほかの実施形態が可能であり、その一例を下記に掲げる。
【0224】
(1)床面、壁面および天井面を備えた室内空間と、
遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を3重量%以上含む材質で構成され、且つ、前記室内空間に露出した加熱面を有する加熱装置と、
前記遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を3重量%以上含む材質で構成され、且つ、前記室内空間に露出した冷却除湿面を有する冷却除湿装置と
を備え、
前記床面と前記壁面、または前記床面と前記天井面は、前記遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を3重量%以上含む、室内環境調整システム。
【0225】
(2)前記遠赤外線の放射率が0.8以上の材料は、天然石材であり、
前記床面は、前記天然石材を加工した石材床板パネルにより構成されており、
前記床面は、前記加熱面である、上記(1)に記載の室内環境調整システム。
【0226】
(3)前記壁面または前記天井面は、前記遠赤外線の放射率が0.8以上の材料の粉砕材を含んでいる、上記(1)又は(2)に記載の室内環境調整システム。
【0227】
(4)前記床面と前記壁面、または前記床面と前記天井面は、その合計の熱容量が、室内空気容積の熱容量の2倍以上である、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【0228】
(5)前記冷却除湿面は、
冷却される金属材料と、
前記金属材料の表面を被覆した前記遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を含む被覆層と
を備える、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【0229】
(6)室内で発生する遠赤外線を吸収する遠赤外線の放射率が0.8以上の第1の材料を含む室内の内面構成部材と、
前記第1の材料を含み、冷却されることで前記第1の材料が放射する遠赤外線を吸収する冷却除湿面と、
前記冷却除湿面を冷却する冷却除湿装置と
を備える室内環境調整システム。
【0230】
(7)内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む第1の部屋と、
前記第1の部屋に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、冷却されることで、結露による除湿を行う冷却除湿面と、
前記冷却除湿面に結露する水滴を集める水滴収集手段と
を備える室内環境調整システム。
【0231】
(8)内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む第1の部屋と、
前記第1の部屋に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、加熱される加熱面と
を備える室内環境調整システム。
【0232】
(9)前記第1の部屋に隣接し、内面の少なくとも一部に前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む第2の部屋を備える、上記(7)又は(8)に記載の室内環境調整システム。
【0233】
(10)前記第1の部屋の壁面は、前記遠赤外線放射物質と同一の材料の粉砕材を1重量%以上含む塗り壁である、上記(7)又は(8)に記載の室内環境調整システム。
【0234】
(11)前記第1の部屋と前記第2の部屋とを仕切る仕切り手段を備え、
前記仕切り手段は、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなら物質を含む、上記(9)に記載の室内環境調整システム。
【0235】
(12)前記第1の部屋および/または前記第2の部屋は、開閉手段を介した収納を備え、
閉鎖状態において前記開閉手段の前記第1または第2の部屋の室内側の面は、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む、上記(9)に記載の室内環境調整システム。
【0236】
(13)前記冷却除湿面は、金属の表面に形成された前記遠赤外線放射物質を含むコーティング層により構成されている、上記(7)に記載の室内環境調整システム。
【0237】
(14)前記加熱面は、金属の表面に形成された前記遠赤外線放射物質を含むコーティング層により構成されている、上記(8)に記載の室内環境調整システム。
【0238】
更に、本発明の室内環境調整システムを応用して生活環境を調整する方法の例として、次のものを挙げることができる。
【0239】
(15)内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む部屋において、
前記部屋内に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、冷却されることで、結露による除湿を行う冷却除湿面を冷却し、
前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む布からの熱放射量を減少させる、生活環境の調整方法。
【0240】
(16)内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む部屋において、
前記部屋内に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、加熱が可能な加熱面を加熱し、
前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む布からの熱放射量を増加させる、生活環境の調整方法。
【0241】
(17)前記加熱面が床面である、上記(16)に記載の生活環境の調整方法。
【0242】
上記(1)のシステムは、床面、壁面および天井面を備えた室内空間と、遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を3重量%以上含む材質で構成され、且つ、前記室内空間に露出した加熱面を有する加熱装置と、前記遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を3重量%以上含む材質で構成され、且つ、前記室内空間に露出した冷却除湿面を有する冷却除湿装置とを備え、前記床面と前記壁面、または前記床面と前記天井面は、前記遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を3重量%以上含むことを特徴とする。
【0243】
上記(1)のシステムによれば、加熱面が加熱されることで、そこに含まれる遠赤外線の放射率が0.8以上の材料(以下、遠赤外線放射物質という)から遠赤外線の放射のかたちで熱放射(熱輻射)が発生する。この際、(a)加熱面が室内空間に対して露出し、(b)同一材料間で赤外線の放射および吸収のやり取りが行われ、(c)床と天井、あるいは床と壁というように、室内に放射された電磁波が必ず当たる組み合わせの部分に遠赤外線放射物質が含まれているので、加熱面から放射された熱エネルギーが、効果的に床もしくは天井、または床もしくは壁に吸収される。
【0244】
加熱面からの放射熱を吸収した他部の遠赤外線放射物質は、吸収した熱を遠赤外線として2次放射する。この作用が繰り返されることで、室内は、多様な方向からの熱放射によって満たされる。こうして、室内の多様な方向から放射熱が放射され、室内の人間がこの放射熱を受けて暖かさを感じる。またそれに加えて、この放射熱が室内の空気中の遠赤外線吸収成分(主に水分と二酸化炭素)に吸収されて、室内の気温が上昇する。
【0245】
この仕組みによれば、加熱面の加熱に要した熱エネルギーは、加熱面から放射熱として、室内に放射される。この放射熱は、床や壁や天井の加熱面に含まれるものと同一材料成分(遠赤外線放射物質)に吸収される。この際の熱エネルギーの放射および吸収は、同一分子間の分子の振動エネルギーの遠赤外線を介した共鳴現象を利用してのエネルギーの交換となる。このため、熱エネルギーの放射および吸収は、高効率であり、低損失で行われる。放射熱を受け取った床や壁や天井は、それを室内に2次放射し、それは、室内にいる人間の人体や室内空間の空気中の遠赤外線吸収成分を放射熱により加熱する。
【0246】
この際、温風による加熱ではないので、温風が肌に当たることによる問題が発生しない。また、温風の流れを利用せず、さらに放射が室内全体に一様に行われるので、室内の垂直方向における温度分布の差を小さくできる。さらに、床や壁から2次放射された放射熱のうち、人体や空気中の遠赤外線吸収成分に吸収されなかった成分は、床や壁の他の部分に再び吸収され、さらに室内に再放射され、同様な作用が繰り返される。この際、人体や空気中の遠赤外線吸収成分に吸収されなかった遠赤外線は、同一分子間の遠赤外線の放射→吸収→再放射のサイクルを繰り返すので、加熱面から供給される熱エネルギーを無駄なく人体や空気中の遠赤外線吸収成分の加熱に利用する(換言すれば使い切る)ことができる。また、部屋全体の空気中の遠赤外線吸収成分が均一に温められ無駄な加熱を避けることができる。これらの理由により、省エネルギー暖房を実現することができる。
【0247】
なお、本発明は、室内にいる人間の体に放射熱を吸収させて人間に温かさを感じさせる技術であるので、ここでは、暖房という語を、「室内にいる人間が温かさを感じるようにする作用」という意味で用いる。同様に、冷房という語は、「室内にいる人間が涼しさを感じるようにする作用」という意味で用いる。
【0248】
上記(1)のシステムにおいて、冷却除湿面が冷却されると、熱平衡のバランスの崩れが大きくなり、そこに含まれる遠赤外線放射物質が、部屋の内側を構成する床や壁や天井からの放射熱を効率良く吸収する状態となる。これは、遠赤外線の放射特性に優れた物体は、遠赤外線の吸収特性も優れているという基本原理を利用している。上記の冷却除湿面における放射熱の吸収において、(a)冷却除湿面が室内空間に対して露出し、(b)同一材料間で赤外線の放射および吸収のやり取りが行われ、(c)床と天井、あるいは床と壁の組み合わせでは、冷却除湿面が直接見える位置から遠赤外線が放射されるので、床もしくは天井、または床もしくは壁からの放射熱を効率良く冷却除湿面に吸収させることができる。冷却除湿面に放射というかたちで熱を吸収させた床や壁や天井は、室内にいる人体や室内の空気中の遠赤外線吸収成分が有する熱エネルギーを放射熱のかたちで吸収する能力が高められる。これにより、室内における人間の発する熱や室内の空気中の遠赤外線吸収成分の熱が、放射熱のかたちで、床や壁や天井に奪われ、人間は、ひんやりとした感覚を感じ、また室内温度が低下する。以上の原理により、冷房効果が得られる。
【0249】
また、上記の作用に伴い、冷却除湿面を利用した除湿機能が働く。冷却除湿面は、冷却されるので、その表面温度を適切に選択することで、室内の水蒸気をそこに結露させることができる。この結露した水滴を滴下させて回収する構造とすることで、室内の除湿を行うことができる。空気中の水分は、遠赤外線の吸収物質であるので、上述した放射を利用した壁面等の遠赤外線の吸収機能を高める作用、および人体からの壁面等への遠赤外線の吸収作用の障害となる。したがって、室内の除湿を行い室内空気中の水分を除去することで、上述した放射を利用した冷房効果の効率を高めることができる。また、除湿を行うと、不快指数が下げられるので、この点でも冷房効果を高めることができる。本発明の室内環境調整システムの冷房機能は、放射熱を冷却除湿面から吸収する方式であるので、通常の対流式の冷房装置のように、室温を5℃以上下げるといった強制冷房効果はない。しかしながら、上述の除湿機能を併用することで、人体から室を構成する建材への放射熱の吸収効率を高め、また夏季における高温多湿を緩和し、快適な住環境を提供することができる。
【0250】
この冷房の仕組みによれば、同一分子間の放射による熱エネルギーの移動を利用して、室内の熱エネルギーを冷却除湿面に吸収させるので、熱エネルギーの移動効率が高く、効果的に室内の熱エネルギーを冷却除湿面に吸収させることができる。また、冷却除湿面は、冷却装置で直接冷却することができ、高い冷却効率を得ることができる。このため、冷却除湿面を冷却するのに必要なエネルギーの利用効率を高くすることができる。
【0251】
また、冷やされた空気の移動を利用しないので、対流方式の冷房における気流が肌に直接当たることによる問題が発生しない。また、冷気の移動を利用せず、放射が室内において一様に行われるので、室内の垂直方向における温度分布の差を小さくできる。
【0252】
以上述べたように、本発明では、部屋の内面を構成する部材が発生する遠赤外線の放射を利用した人体への熱量の供給、または放射熱を吸収し易くした部屋の内面を構成する部材への人体からの熱量の吸収を行う。このため、対流式に比較して、エネルギーの損失が小さく、エネルギーの利用効率が高い。対流式の場合、空気を加熱または冷却し、この空気により人体が加熱または冷却される2段階の熱交換を経る必要があり、熱交換時の損失が大きい。これに対して、本発明では、空気中の遠赤外線吸収成分の加熱または冷却も行うが、放射を利用した人体との間の直接の熱交換を行うので、熱交換時の損失を小さくできる。また、床面や壁面を温熱源または冷熱源として利用するので、室内全体に対してまんべんなく放射の影響を及ぼすことができる。このため、効果の均一性が高く、暖房または冷房時におけるエネルギーの利用効率を高くすることができる。
【0253】
上記(1)のシステムにおける遠赤外線放射物質としては、遠赤外線の放射率が0.8以上の材料が好ましい。このような材料としては、天然の石材や各種セラミックス材料の中から遠赤外線の放射率が0.8以上であるものを選択すればよい。なお、放射率は、更に高い方がより好ましく、具体的には、0.9以上であればより高い効果が得られる。ここで、材料の放射率は、同一条件における理想的な黒体の遠赤外線の放射エネルギーをW0とし、当該材料の遠赤外線の放射エネルギーをWとした場合に、(W/W0)によって定義される。なお、遠赤外線は、波長が3μm〜1000μmの電磁波のことをいう。
【0254】
本発明では、同一材料間において放射熱のやり取りが高効率で行われる現象を利用しているので、遠赤外線放射物質の放射率が、上記の値を下回ると、遠赤外線の放射および吸収の際における損失が増大し、暖房および冷房時における投入エネルギーの利用効率が低下する。例えば、金属の場合、放射率が低いので、放射/吸収を利用した熱の交換を行う能力(熱交換容量)が小さく、熱のやり取りが主に対流に依存することになる。この場合、本発明の効果が得られない。なお、木材のように熱容量の小さい材料も、熱交換容量が小さいので、本発明における遠赤外線放射物質としては好ましくない。
【0255】
床面、壁面および天井面における遠赤外線放射物質の含有率は、3重量%以上であるのが好ましい。実験データによれば、この含有率が3重量%以上になると、上述した放射現象を利用した熱交換の顕著な効果が得られることが判明している。一方、この含有率が20重量%を超えると、熱交換の効率の飽和傾向が見られる。したがって、遠赤外線放射物質の含有率の上限は、20〜30重量%程度となる。なお、遠赤外線放射物質をそれ以上の割合で含ませてもよい。また、遠赤外線材料自体で床面や壁面や天井面を構成してもよい。なお、上記(1)のシステムにおいて、壁および天井に遠赤外線放射物質を含ませてもよい。加熱面および冷却除湿面として機能させる部分は、放射/吸収による熱交換容量を確保する観点から、遠赤外線放射物質の含有量を更に増やした方が好ましい。
【0256】
上記(2)のシステムは、遠赤外線の放射率が0.8以上の材料として天然石材を使用し、床面を、この天然石材を加工した石材床板パネルにより構成し、床面を上述した加熱面として使用する上記(1)のシステムに相当する。上記(2)のシステムによれば、床面を遠赤外線の放射特性に優れた石材のパネルで構成することで、床面を大熱容量の蓄熱層として機能させることができ、上述した暖房効果および冷房効果をより効果的に得ることができる。また、床面を加熱面とすることで、暖房時に床暖房効果を得ることができる。
【0257】
上記(3)のシステムは、壁面または天井面が遠赤外線の放射率が0.8以上の材料の粉砕材を含んでいる上記(1)または(2)のシステムに相当する。例えば、遠赤外線の放射率の高い石材を利用する場合、石材自体を壁面や天井面とすることは、材料コストや施工コストの点で困難な場合がある。このような場合、既存の壁面(例えば漆喰壁)や建材(例えば石膏ボード)中に当該石材を粉砕し砂状にしたものを混ぜ、当該建材に遠赤外線放射物質としての機能を付与する。こうすることで、従来からの住宅構造や建築工法を利用して本発明を実現することができる。また、粉砕することで、遠赤外線放射物質の表面積が増加し、遠赤外線の放射率が高くなるという優位性も得られる。
【0258】
特に床面を石材の床板パネルで構成し、壁面や天井面を通常の建材にこの石材を粉砕したものを含ませたもので構成すると、暖房効果および冷房効果の立ち上がりが速い室内環境調整システムを得ることができる。この場合、床面は、石材自体で構成されているので、熱容量が相対的に大きい。これに対して、壁面や天井面は、床面を構成する石材を粉砕したものを含ませた建材であるので、床面に比べれば、相対的に熱容量は小さい。したがって、放射を介した床面の温度変化の影響が壁面と天井面に及びやすい。このため、遠赤外線の放射吸収により、床面の温度に壁や天井の温度が追従する速度は速く、電源ONから暖房または冷房の効果を感じるまでの時間が短くなる。なお、この効果を得るには、壁面や天井面の熱容量が小さいほど有利であるので、この点においても壁面や天井面における石材の粉砕材の含有量の上限は、20〜30重量%程度とすることが望ましい。
【0259】
上記(4)のシステムは、床面と壁面、または床面と天井面は、その合計の熱容量が、室内空気容積の熱容量の2倍以上である上記(1)〜(3)のいずれか一つのシステムに相当する。ここで、室内空気容積の熱容量は、気温20℃、湿度50%の条件で測定した値を用いるものとする。上記(1)〜(3)のシステムでは、部屋を構成する内面の部材に遠赤外線放射物質を含ませることで、当該遠赤外線放射物質からの遠赤外線の放射による暖房、あるいは当該赤外線放射材料の遠赤外線の吸収による冷房が行われる。この際、遠赤外線の放射が行われるか、あるいは遠赤外線の吸収が行われるかは、熱的な平衡状態からのずれ具合、言い替えると熱勾配の向きによって決まる。
【0260】
この熱勾配の向きは、物体Aと物体Bとがある場合に、相対的に高温の物体から相対的に低温の物体への向きとなる。熱力学の原理から、仮に両者の温度が同じであれば、熱の移動は生じない。また、物体Aから物体Bに熱を与え、物体Bを加熱する場合、両者の熱容量が同じ程度であると、すぐに熱平衡に到り、熱の移動が無くなる(つまり加熱の作用が弱い)ので、物体Aの熱容量は、物体Bの熱容量よりも大きな値であることが重要となる。これは、物体Aに熱を吸い取らせて、物体Bを冷却する場合にも同様にいえることである。
【0261】
以上のことから、上記(4)のシステムでは、上述した議論の物体Aに相当する床面と壁面、または床面と天井面の熱容量を、上述した議論の物体Bに相当する室内空気の熱容量の2倍以上とする。こうすることで、室内空気中の遠赤外線吸収成分の加熱または冷却を効果的に行うことができる。
【0262】
上記(5)のシステムは、冷却除湿面は、冷却される金属材料と、この金属材料の表面を被覆した遠赤外線の放射率が0.8以上の材料を含む被覆層とを備える、上記(1)〜(4)のいずれか一つのシステムに相当する。上述したように、ここに開示する発明では、遠赤外線を介した熱のやり取りが同一分子間(同一材料間)において最も効率よく行われるという物理学上の基本原理に基づいている。したがって、室内の熱放射を吸収する冷却除湿面の表面も通常の熱伝導を優先した金属材料では、放射熱の吸収効率が低く(金属面は、遠赤外線の良好な反射面である)、上述した本発明の原理は効果的に機能しない。
【0263】
上記(5)のシステムによれば、冷却除湿面の表面が、床面と壁面、あるいは床面と天井面に含まれる遠赤外線放射物質により被覆されているので、冷却除湿面と床面および壁面との間、または冷却除湿面と床面および天井面との間における放射を介した熱量の移動を高い効率で行うことができる。また、冷却除湿面の下地は、熱伝導性の良好な金属材料(例えば、アルミニウムや銅)により構成されるので、冷却除湿面の表面を効果的に冷却することができる。なお、被覆層中の遠赤外線放射物質の含有量が少ないと、被覆層の放射熱を吸収する機能が低下するので、被覆層中における遠赤外線放射物質の含有量は、3重量%以上、好ましくは10重量%以上とする。
【0264】
上記(6)のシステムは、室内で発生する遠赤外線を吸収する遠赤外線の放射率が0.8以上の第1の材料を含む室内の内面構成部材と、前記第1の材料を含み、冷却されることで前記第1の材料が放射する遠赤外線を吸収する冷却除湿面と、前記冷却除湿面を冷却する冷却除湿装置とを備えることを特徴とする。
【0265】
上記(6)のシステムにおいて、室内の内面構成部材というのは、床、壁および天井を構成する部材の少なくとも一部のことである。上記(6)のシステムによれば、冷却除湿面を冷却することで、冷却除湿面に対する内面構成部材からの熱勾配を意図的に形成し、それにより、内面構成部材から冷却除湿面に対する放射熱の流れを作り、内面構成部材が持っている熱量を低下させ、室内にいる人や室内の空気から内面構成部材への熱勾配を形成する。こうすることで、室内にいる人や室内の空気中の遠赤外線吸収成分からの熱放射を内面構成部材に積極的に吸収させ、冷房効果を得る。
【0266】
上記(6)のシステムによれば、放射を利用した人体の冷却を行うので、冷風を作り、それを室内に供給する対流式の冷房システムに比較して、エネルギーの利用効率を高くすることができる。特に、冷気を肌に当てる方法でないので、冷気が肌に当たることによる不快感の発生や健康への悪影響の発生を抑えることができる。
【0267】
冷気を肌に当てる方式(つまり従来の対流式)の空調システムでは、冷気を作り、それを人間に当てて人間から熱を奪う2段階の熱交換が必要なため、熱交換時のエネルギー損失(変換損失)が大きい。そのため、変換損失分を見込んで過度に空気を冷却しなくてはならず、室内の気温を過度に下げる設定とされる傾向がある。これが所謂冷房病の原因となる。
【0268】
上述した放射を利用した人体の冷却では、上記の変換損失を抑えることができ、また直接人体を冷却するので、上述した過度に室内の空気を冷やす必要がない。そのため、冷房病の発生を抑えることができる。
【0269】
本発明のシステムは、部屋を構成する建材(床、壁および天井を構成する部材)における遠赤外線の放射と吸収の現象を利用している。したがって、この現象を示す建材の使用比率が低いと、その効果も低下する。そこで、床面と壁面、または床面と天井面の全面積における遠赤外線放射物質を含む部分の面積の割合を50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上とする。こうすることで、放射を利用した暖房機能と冷房機能を効果的に得ることができる。
【0270】
上記(7)のシステムは、内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む第1の部屋と、この部屋に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、冷却されることで、結露による除湿を行う冷却除湿面と、前記冷却除湿面に結露する水滴を集めて収集する水滴収集手段とを備えることを特徴とする。
【0271】
また上記(8)のシステムは、内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む第1の部屋と、この部屋に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、加熱される加熱面とを備えることを特徴とする。
【0272】
ここで、当該遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質というのは、当該遠赤外線放射物質と同一分子種の物質(同一組成および同一分子構造を持った物質)のことをいう。
【0273】
上記(7)および(8)のシステムにおいて、部屋内面に占める遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む部分の割合は、25%以上が好ましく、さらには、40%以上が好ましく、より更には60%以上が好ましい。これは、部屋内面の面積を利用して、人体からの熱放射の吸収または人体への熱放射の供給を行うので、熱交換に寄与する部分の面積の割合が大きいほど、冷房効果または暖房効果が高くなるからである。部屋の内面は、部屋の内側の面のことであり、そこには床面、壁面、天井面、さらに廊下や他の部屋との間の戸、収納の戸、窓等の開口部が含まれる。
【0274】
本発明のシステムにおいては、壁面、床面および天井面から選ばれた1または複数の面に同一の遠赤外線放射物質を含ませた構成が可能である。しかしながら、一般的な住居においては、冷却除湿面または加熱面として機能する面に含まれるものと同一の遠赤外線放射物質を含ませる部位として、壁面が最も効果的である。これは、一般的な住居の部屋では、壁面の面積が室内を構成する面の最も大きな面積を占める場合が多く、また人体の姿勢に係わらず人体からの放射を効果的に受ける面であるからである。なお、コストが許すのであれば、床面、壁面、天井面の2面以上、より好ましくは全てに遠赤外線放射物質が含まれるようにすると、最も大きな効果がある。
【0275】
上記(7)のシステムによれば、冷却除湿面が冷却されると、第1の部屋の内面(例えば壁面)に含まれる遠赤外線放射物質に対して、冷却除湿面に含まれる遠赤外線放射物質の温度が相対的に低下する。温度差がある物体間には、相対的に高温の物体から低温の物体への熱放射が行われる。この際に移動する放射エネルギーは、ステファン−ボルツマンの法則から温度の4乗の差に比例する。またこの現象が、同一物質間(同一の分子種間)において働く場合、分子振動が同じであるため、共鳴現象を利用したエネルギー交換の場合と同様に、熱エネルギーの移動が高い効率でもって行われる。
【0276】
この現象により、冷却された冷却除湿面に第1の部屋の内面から熱放射の形で熱エネルギーが移動する。この熱エネルギーは、冷却除湿面を冷却する冷却手段から系外に排出される。熱放射の形で熱エネルギーを失った第1の部屋の内面に含まれる遠赤外線放射物質は、その分、温度が低下する。仮に、冷却除湿面と第1の部屋の内面とに、同一の遠赤外線放射物質が含まれていない場合、上記の同一分子種間の熱放射を介した高い効率のエネルギーの輸送が発生せず、この温度低下の効果は低いものとなる。
【0277】
第1の部屋の内面に含まれる遠赤外線放射物質の温度が低下すると、固体間の熱伝導によりその母材(基材)である壁の表面部分の温度も下がる。この結果、第1の部屋の内面の遠赤外線放射物質を含む部分の人体からの遠赤外線を吸収する機能が高められる。言い替えると、第1の部屋の内面の遠赤外線放射物質を含む部分と人体との温度差が大きくなり、それぞれの温度の4乗の差に比例して、人体からの放射エネルギーが第1の部屋の内面に吸収され易い状態となる。またこの際、冷却除湿面への人体からの直接の熱放射の吸収作用も働く。
【0278】
第1の部屋の内面は、冷却除湿面の面積に比較して大面積が確保できるので、第1の部屋の内面への人体からの熱放射の総量は、第1の部屋の内面の遠赤外線材料が含まれる部分の面積で効いてくる。このため、人体からの熱放射が広い面積の部分で吸収される。この人体からの熱放射は、最終的に冷却除湿面に吸収され、系外に排出される。この人体からの熱放射が、第1の部屋の内面を介して、冷却除湿面に吸収される現象が、本発明における冷房効果の原理である。言い替えると、熱放射を介した熱エネルギーの授受により、部屋の内面を冷却し、そこを間接的(2次的)な冷熱源として機能させることで、冷却除湿面だけではなく、部屋の内面にも人体からの熱放射を積極的に吸収させることが本発明の原理であるといえる。なお、ここでは、人間が涼しさを感じる効果を冷房効果と表現する。また、逆に人間が暖かさを感じる効果を暖房効果と表現する。
【0279】
上述した第1の部屋における冷房効果の原理は、冷却除湿面と遠赤外線放射物質を含んだ部屋内面の部分とが、見通し範囲に存在せず、間に障害物があっても働く。この場合、互いの見通し範囲に遠赤外線放射物質を含んだ壁面や天井面等があれば、そこを経由した熱放射を利用した熱エネルギーの移動が起こり、最終的に冷却除湿面に熱が吸い取られることになる。この場合も部屋内面に含まれる遠赤外線放射物質の温度低下が生じ、人体からの遠赤外線を吸収することによる冷房効果が発揮される。このように、第1の部屋の1次冷熱源(冷却除湿面)を見通せない場所であっても、間接的な熱放射を介した熱エネルギーの授受により、そこ(例えば壁)を間接的な冷熱源として機能させることができる。
【0280】
ここでは、第1の部屋の1次冷熱源(冷却除湿面)を見通せない場所からの、1次冷熱源を見通せる面を経由した間接的な熱放射の利用による冷房効果を説明しているが、1次冷熱源を見通せない場所から1次冷熱源に至る熱エネルギー移動には、遠赤外線材料を含む2以上の面が関与することも可能である。したがって、1次冷熱源を見通せない所定の場所から見通せる範囲に、1次冷熱源を見通せる面がない場合、所定の場所から当該面を経由し、更に1次冷熱源を見通せる別の面を経由して熱エネルギーを移動させること(つまり多段に渡る熱放射の授受)が可能である。
【0281】
この間接的な放射を介した熱エネルギーの移動は、同一分子種間の放射を介したエネルギーの移動が高効率で行われる原理により顕著な現象として機能する。したがって、異なる分子種の材料間では、それらが0.6以上の放射率を有する遠赤外線放射物質であっても、上述した間接的な熱エネルギーの移動は有効なものとはならない。
【0282】
また、冷却除湿面は、結露による除湿を行うので、上記の冷房効果に加えて、除湿による快適性を得ることができる。空気中の水分は、遠赤外線の良好な吸収材料であるので、空気中の水分を除去することで、上述した熱放射を利用した冷房効果を更に効果的に働かせることができる。また、冷却除湿面の基材は、冷却効率(または加熱効率)の点から、熱伝導の良好な金属(アルミ、鉄、銅、その他合金等)から構成することが好ましいが、金属は放射率が低いので、そのままでは、冷却しても結露による除湿効果は十分に発揮されない。これは、金属の放射率の低さに起因して、金属表面近傍の空気中に含まれる水分からの当該金属表面への熱放射の吸収効率が低いために、この水分を結露により当該金属の表面に水滴として付着させる効率が低いためである。これに対して、本発明では、冷却除湿面に放射率の高い遠赤外線放射物質を含ませているので、冷却除湿面の放射率を高めることができ、冷却除湿面近傍の空気中に含まれる水分からの冷却除湿面への熱放射の吸収効率を高くできる。このため、結露により冷却除湿面に空気中の水分を水滴として付着させる効率を高めることができる。つまり、除湿効果を高めることができる。
【0283】
以上が冷房効果の説明であるが、暖房効果は、その逆となる。すなわち冷却除湿面として機能した面を加熱すればそこが加熱面となり、この加熱面の熱が第1の部屋の内面の遠赤外線放射物質に吸収され、その温度が上昇する。そして、第1の部屋の内面の遠赤外線放射物質の温度が上昇することで、そこからの遠赤外線の放射量が増え、それにより第1の部屋内にいる人間から部屋の内面に吸収される熱放射量が減り、それにより暖房効果が働く。なお、この暖房時において、遠赤外線放射物質を含んだ部屋内面の温度が、体温よりも高くなれば、その部分から人体への熱放射が生じ、より高い暖房効果が得られる。
【0284】
以上の冷房効果あるいは暖房効果を得るには、遠赤外線放射物質を含んだ部屋の内面における遠赤外線放射物質の含有量を1重量%以上とするのが好ましく、更に3重量%以上とするとより効果が得られる。このことは、上記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む冷却除湿面や加熱面においても同じである。この含有量の値が、1重量%を下回ると、熱放射の授受が高い効率で行われる効果が低下する。また、その含有量の上限は、部屋の内面(壁面等)であれば、20〜30重量%程度である。なお、冷却除湿面や加熱面は、含ませることができる範囲でより多くの遠赤外線放射物質を含ませることが好ましい。
【0285】
上記(7)のシステムを利用する場合、高効率のエネルギー移動を利用するので、冷却除湿面の占める面積を抑えることができる。このため、施工コストを抑えることができ、またインテリアや室内面積の有効利用の観点からも有利となる。さらに、熱放射を介した熱エネルギーの授受による冷房効果であるので、空気を冷やし、この空気を人に当てて人体を冷やすエアコンによる冷房に比較して、エネルギー形態の変更を伴う熱交換の回数が減り、その分、熱交換時の交換損失が減るので、消費エネルギーも抑えることができる。
【0286】
部屋の用途は限定されず、廊下、通路、洗面所、トイレ、玄関の室内側の空間、物置部屋等であってもよく、また店舗、公共施設の部屋、倉庫、オフィス、動物を飼育する部屋、倉庫、食品等の保管室であってもよい。また部屋は、乗り物の乗員室や荷室であってもよい。
【0287】
遠赤外線放射物質としては、遠赤外線の放射率が0.6以上であれば利用可能であり、0.8以上の材料が好適である。このような材料としては、天然の石材や各種セラミックス材料の中から遠赤外線の放射率が0.6以上であるものを選択すればよい。なお、放射率は、更に高い方がより好ましく、具体的には、0.9以上であればより高い効果が得られる。ここで、材料の放射率は、同一条件における理想的な黒体の遠赤外線の放射エネルギーをW0とし、当該材料の遠赤外線の放射エネルギーをWとした場合に、(W/W0)によって定義される。放射率の値は、実際の使用温度に近い室温(例えば25℃)におけるものが好ましく、例えば、人体に対する熱的な作用の大きい10μm付近における値を採用すればよい。
【0288】
遠赤外線放射物質の放射率が、上記の値を下回ると、投入エネルギーの利用効率が低下する。例えば、金属の場合、放射率が低いので、放射/吸収を利用した熱の交換を行う能力(熱交換容量)が小さく、熱のやり取りが主に対流に依存することになる。この場合、本発明の効果が得られない。また、木材のように熱伝導率の小さい材料は、冷却除湿面の冷却効率、または加熱面における加熱効率の点で不利となる。例えば、木材を冷やして結露による除湿を行うのは効率が低く、現実的ではない。したがって、本発明に利用する遠赤外線放射物質は、天然石やセラミックス材料であることが好適となる。なお、熱交換容量は、その材料の(放射率/熱容量)に比例するパラメータである。
【0289】
なお、遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質の形態は、異なっていてもよい。例えば、同一の分子種であれば、一方が一体物で他方が粉体であってもよい。また、両者共に粉体であるが粒径や粒子の形状が異なっていてもよい。また、基材への配合量が異なっていてもよい。上記(7)の実施形態と上記(8)の実施形態とは、一つのシステムの中で切り換えて利用してもよいし、個別に利用してもよい。
【0290】
上記(9)のシステムは、第1の部屋に隣接し、内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む第2の部屋を備える、上記(7)または(8)のシステムに相当する。
【0291】
上記(7)のシステムに関する説明において述べた同一の遠赤外線放射物質間の熱放射の授受を利用した冷房効果は、第1の部屋に隣接した第2の部屋にも及ぶ。例えば、第1の部屋と第2の部屋とが開口を介して繋がっていれば、この開口を介した熱放射の授受が起こり、第2の部屋における遠赤外線放射物質を含んだ部分の温度低下が生じる。この際、両部屋を繋ぐ開口の面積が小さく、第1の部屋内の冷却除湿面が見通せない第2の部屋における遠赤外線放射物質を含む部分があっても、上述した間接的な熱エネルギーの移動現象により、両部屋の内面間の温度差が是正され、第2の部屋における冷房効果が働く。この点は、暖房効果においても同じである。
【0292】
また、第1の部屋と第2の部屋とが、遠赤外線を吸収する材質の仕切り部材により仕切られていても、それが遠赤外線の反射性材料(例えば、金属)でなければ、当該仕切り部材を介した熱放射を介した熱エネルギーの授受が、冷却除湿面および第1の部屋内面と当該仕切り部材との間、更に当該仕切り部材と第2の部屋内面との間で起こる。すなわち、第2の部屋における遠赤外線放射物質を含んだ部分の熱が、熱放射の形で、仕切り部材を介して、最終的に冷却除湿面に吸収される作用が働く。これにより第2の部屋における冷房効果が働く。なお、この効果は、仕切り部材における熱放射の授受の際の損失があるので、当該仕切り部材がない場合に比較すると効果の程度は低くなる。この点は、暖房効果においても同じである。
【0293】
上記(9)では、第1の部屋と第2の部屋との関係しか示されていないが、さらに第1の部屋に隣接して第3の部屋や第4の部屋があってもよい。また、第2の部屋に隣接して第3の部屋があってもよい。後者の場合、第2の部屋を介して、第2の部屋の冷房効果(または暖房効果)が第3の部屋に及ぶので、得られる冷房効果(暖房効果)は、第2の部屋の場合よりも低下する。
【0294】
また、第2の部屋が屈曲している場合であっても、その屈曲した先の部分に遠赤外線放射物質を含んだ内面(例えば壁面等)があり、上述した多段に渡る熱放射の授受が可能であれば、その屈曲した先の部分にまで冷房効果(または暖房効果)を働かせることができる。
【0295】
また、第1の部屋と第2の部屋における遠赤外線放射物質の利用状況は同じであってもよいし、そうでなくてもよい。例えば、第1の部屋では、床面と壁面と天井面の3つに遠赤外線放射物質を含ませ、第2の部屋では、壁面と天井面の2つに遠赤外線放射物質を含ませ、といった構成も可能である。なお、第2の部屋の内面における遠赤外線放射物質の含有量に関する限定は、第1の部屋の場合と同じである。また内面の定義も第1の部屋の場合と同じである。
【0296】
上記(9)のシステムによれば、冷房効果のためのエネルギー消費を必要とする冷却除湿面は、第1の部屋にあればよく、第2の部屋には必要ない。仕切り手段により、第1の部屋と第2の部屋とを物理的に仕切られた状態においても、上述するように冷房効果が発揮される。すなわち、第1の部屋と第2の部屋とを仕切り、プライバシーや独立性を確保した状態であっても、第1の部屋における冷却除湿面を冷却することで、第1の部屋における冷房効果と第2の部屋における冷房効果とを同時に得ることができる。
【0297】
単に冷放射を利用した冷房効果を得たいのであれば、第1の部屋と第2の部屋の内壁全体を冷却し、そこを冷放射面とすれば可能であるが、設備が大規模になり、また施工コストが非常に高くなり、さらに消費エネルギーも膨大なものとなる。また冷却設備を壁の室内側に配置する必要から、部屋の有効利用面積が減少する。この点、上記(9)のシステムは、有利となる。これらの優位性は、暖房効果を得る場合も同じである。
【0298】
上記(10)のシステムは、第1の部屋の壁面が、前記遠赤外線放射物質を構成する材料の粉砕材を1重量%以上含む塗り壁である、上記(7)または(8)のシステムに相当する。上記(10)のシステムによれば、塗り壁の原料に遠赤外線放射物質の粉砕物を混ぜ込めばよいので、施工に従来からの工法を採用でき、施工コストを抑えることができる。また、塗り壁は、従来から一般の住宅等で採用されている壁面であるので、従来の住宅に慣れ親しんだ人に対する親和性が高い優位性がある。
【0299】
塗り壁は、壁を構成する材料を壁の下地の上に塗ることにより形成した壁であり、具体例としては、漆喰壁、珪藻土壁、プラスター壁、繊維壁(京壁や聚楽壁等)、砂壁、土壁等が挙げられる。塗り壁は、壁面に限定されず、天井面であってもよい。
【0300】
遠赤外線放射物質と同一の材料の粉砕材の塗り壁への配合割合は、3重量%以上とするとさらに顕著な効果が出る。この粉砕材の配合割合の上限は、20〜30重量%程度である。これ以上配合割合を増やしても効果が飽和し、また塗り壁の施工性や材質に悪影響が出る。なお、配合割合は、施工後の乾燥状態における値である。
【0301】
遠赤外線放射物質と同一の材料の粉砕材を配合する対象は、塗り壁以外に、石膏パネル等の内装用パネル(内装用ボード)、壁紙に代表される内装用のシート状の建材(材質は樹脂でも可)、塗料の層(塗装面)、障子や襖の紙といった部屋内に露出する面を構成する部材、壁紙等を貼るための接着剤の層、床を覆うシート状の部材、木目調等の印刷が施された化粧シート、ガラス等であってもよい。なお、これらの材料における当該粉砕物の配合割合の下限は、塗り壁の場合と同じである。また、その上限は、各材料によって異なるが、概ね塗り壁の場合と同じである。なお、粉砕物の形状は、粒子状であってもよいし、繊維状であってもよい。また、不定形な形状に粉砕したものであってもよい。
【0302】
上記(11)のシステムは、第1の部屋と第2の部屋とを仕切る仕切り手段を備え、この仕切り手段は、遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む、上記(9)のシステムに相当する。上記(11)のシステムによれば、同一分子種間における熱放射を介した熱エネルギーの移動が高い効率で行われる原理により、仕切り手段を介した第1の部屋と第2の部屋との間における熱放射エネルギーの移動効率が高くなる。このため、第1の部屋と第2の部屋とが仕切られていても、第1の部屋における冷房効果または暖房効果を効果的に第2に部屋に及ぼすことができる。なお、仕切り手段としては、各種の戸、壁、カーテン等が挙げられる。また、仕切り手段における遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質の含有量は、壁面等の場合と同様に、1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。
【0303】
上記(12)のシステムは、第1の部屋および/または第2の部屋は、開閉手段を介した収納を備え、閉鎖状態において開閉手段の第1または第2の部屋の室内側の面は、遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子から構成される物質を含む、上記(9)のシステムに相当する。収納空間を確保した場合、第1および/または第2の部屋の壁面における収納の開口部が占める面積が生じる。この部分の室内側の表面に遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子から構成される物質を含ませることで、この部分を、遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子から構成される物質を含んだ壁面と同様に機能させることができる。なお、当該面における遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子から構成される物質の含有量は、壁面等の場合と同様に、1重量%以上とするのが好ましく、3重量%以上とするのがより好ましい。
【0304】
収納の戸としては、引き戸、ドアのような開き戸、ロール状に巻き取り可能な構造(ロールスクリーン)、折り畳み構造を有する戸が挙げられる。またその材質は、特に限定されない。例えば洋室の収納であれば、木製の戸が挙げられ、和室の収納であれば、障子や襖が挙げられる。
【0305】
本発明では、部屋内面のできるだけ多くの部分に、冷熱源(または温熱源)に含ませた遠赤外線放射物質と同一の材料を含ませ、それにより部屋内面を熱放射の授受を行う面(2次冷放射面または2次熱放射面)として利用し、効果的な冷房効果または暖房効果を得ている。上記(12)のシステムによれば、収納の戸を利用して、効率よくこの熱放射の授受が行われる面を確保できる。
【0306】
上記(13)のシステムは、冷却除湿面が、金属の表面に形成された遠赤外線放射物質を含むコーティング層により構成されている、上記(7)のシステムに相当する。金属の表面に遠赤外線放射物質を含むコーティング層を形成することで、金属の持つ高い冷却効率(冷却し易い性質)を利用するとともに、遠赤外線放射物質間の熱エネルギー移動による効果的な冷放射機能(熱放射を吸収する機能)を得ることができる。また、コーティング層の放射率を高めることができるので、空気中の水分からの熱放射を吸収する能力を高くでき、結露による除湿効率を高くできる。つまり高い除湿効果を得ることができる。
【0307】
上記(14)のシステムは、加熱面が、金属の表面に形成された遠赤外線放射物質を含むコーティング層により構成されている、上記(8)のシステムに相当する。上記(14)のシステムによれば、金属の持つ高い加熱効率(加熱し易い性質)を利用するとともに、遠赤外線放射物質間の熱エネルギー移動による効果的な熱放射機能を得ることができる。
【0308】
上記(13)および(14)におけるコーティング層中の遠赤外線放射物質の含有割合は、1重量%、好ましくは3重量%以上、より好ましくは20重量%以上とする。このコーティング層を構成する遠赤外線放射物質以外の材料としては、塗料、有機バインダー、無機バインダー、各種の接着剤やパテ、各種の充填剤等を用いることができる。例えば、塗料や無機バインダーに遠赤外線放射物質の粉砕物を混ぜ、それを金属面に塗ることで上記コーティング層を得ることができる。この際、硬化状態において、遠赤外線放射物質が、コーティング層中に1重量%、好ましくは3重量%以上、より好ましくは20重量%以上で含まれるように、混合量を調整すればよい。
【0309】
上記(7)〜(14)のいずれかのシステムにおいて、部屋の内面の遠赤外放射材料を含ませた層の外側(室内と反対側)に金属箔等の遠赤外線を反射する反射部材を配置することは好ましい。またこの反射部材の外側にさらに断熱材を配置することは好ましい。また、上記(7)〜(14)のいずれかのシステムにおいて、部屋に窓等の開口部があり、そこに金属製のブラインド等を配置し、外部から部屋内への熱放射を抑える構成とするのは好ましい。また、この窓に、外側に金属箔等の遠赤外線の反射層を備え、内側に遠赤外線放射物質を含ませた層を備えた部材(例えば、そのような構造を有したロールスクリーン)を配置し、窓の開口部に、遠赤外線放射物質を含ませた壁面と同様な機能を与えることは好ましい。
【0310】
上記(15)〜(17)に記載した生活環境の調整方法は、同一分子種間における熱放射を介した伝熱が、同一分子種間でない場合に比較して高い効率で行われる現象を利用したもので、冷却される面と部屋の内面の少なくとも一部とに、同一の遠赤外線放射物質を含ませることで、部屋の内面(例えば壁面)を遠赤外線の吸収部材(2次的な冷放射源)として機能させる。さらに衣料等を構成する布に遠赤外線放射物質を含ませることで、当該布から放射される遠赤外線を前記部屋の内面および冷却される面に吸収させ、それにより当該布からの熱放射量が減少した状態を作り出す。こうすることで、人体からの熱放射が当該布を用いた衣料等に吸収され易い環境を作り出す。また、冷却面を加熱面に変更することで、人体から熱放射の形で失われる熱量を減少させる環境を作り出す。
【0311】
具体的に言うと、上記(15)では、内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む部屋において、前記部屋内に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、冷却されることで、結露による除湿を行う冷却除湿面を冷却し、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む布からの熱放射量を減少させる。
【0312】
上記(16)では、内面の少なくとも一部に遠赤外線放射物質を含む部屋において、前記部屋に配置され、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含み、加熱が可能な加熱面を加熱し、前記遠赤外線放射物質を構成する分子と同一の分子からなる物質を含む布からの熱放射量を増加させる。
【0313】
ここで、内面とは、部屋の内側を構成する床面、壁面、天井面の少なくとも一部である。遠赤外線放射物質は、室温(25℃)における放射率が0.6以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上の物質のことをいう。遠赤外線放射物質としては、セラミックスや天然石材が好ましい。
【0314】
部屋の内面に遠赤外線放射物質を含ませる方法としては、部屋の内面を塗り壁(漆喰壁や砂壁)で構成し、その原料中に遠赤外線放射物質の粉砕材を混ぜる方法、塗料に遠赤外線放射物質の粉砕材を混ぜ、その塗料により塗装面を形成する方法、石膏ボード等の建材を構成する原料中に遠赤外線放射物質の粉砕材を混ぜる方法、壁紙に遠赤外線放射物質の粉砕材を混ぜる方法等が挙げられる。また遠赤外線放射物質をパネル状に加工したもので部屋の内面を構成してもよい。
【0315】
部屋の内面における遠赤外線放射物質の含有量は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、さらにより好ましくは10重量%以上である。この点は、冷却除湿面や加熱面においても同じである。
【0316】
布は、織布であっても不織布であってもよい。また、利用する繊維は、天然繊維であっても合成繊維であってもよく、天然繊維と合成繊維の混ざったものであってもよい。布に遠赤外線放射物質を含ませるには、布あるいは布を構成する繊維に、遠赤外線放射物質を細かく粉砕したものをコーティングする方法、合成繊維の原料に遠赤外線放射物質を細かく粉砕したものを混ぜ、この原料から紡糸することで得た繊維を用いる方法が挙げられる。また、布を染める染料に遠赤外線放射物質を細かく粉砕したものを混ぜる方法もある。布における当該遠赤外線放射物質の含有量も1重量%以上、好ましくは3重量%以上、より好ましくは10重量%以上とする。
【0317】
布は、室内で用いられる衣料、寝具、家具、その他日用品に用いることができる。例えば、当該布を用いたパジャマやシャツ、当該布を用いた敷物や寝具(例えば、布団や枕)、当該布を用いたベッドやソファー等の家具、当該布を用いたクッションや座布団、当該布を用いたベットカバーやテーブルクロス等の各種カバー、当該布を用いたカーテン等が挙げられる。また、本発明では、ニット製品を構成する編み物も布に含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0318】
本発明は、人間が活動や生活を行う各種の部屋や施設、物品を保管する部屋(例えば倉庫の部屋)や陳列する空間(例えばショーケース)などを提供する建築・建設分野において、部屋や空間の環境調整を行うのに広く利用することができる。
【符号の説明】
【0319】
1 リビング
2 和室
3、25 障子
4 ガラス戸
5 廊下
7 洗面所
8 浴室
11 扉
12、22 収納
13、23 壁
14、24 ガラス窓
15 ブラインド
21、31 襖
41 床
42 天井
43、44 人体
51 放射された遠赤外線
52、708 人間
53 再放射された遠赤外線
61 冷却除湿面に向かって放射される遠赤外線
62 人体から吸収される遠赤外線
100、700 部屋
101 室内空間
110 冷熱放射装置
111 冷温水発生装置
115、116、304 フィン
200、701 床面
204 ヒータ制御装置
205 石材床板パネル
300、702 壁面
301 冷却除湿面
302 冷媒冷却装置
304a 遠赤外線吸収層
313 漆喰層
400、703 天井面
403 石膏ボード
704 冷却除湿面兼加熱面
705 冷却加熱装置
707 衣服
709 枕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線を放射・吸収し遠赤外線の放射率が0.6以上である遠赤外線放射物質を含む材料で構成された室内面構成部材と、
前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質と同一の遠赤外線放射物質を含む材料で構成された冷却及び/又は加熱面を有する冷却及び/又は加熱源とを具備し、
前記冷却源の前記冷却面が冷却されると、その冷却面の前記遠赤外線放射物質が前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を吸収し、及び/又は、
前記加熱源の前記加熱面が加熱されると、その加熱面の前記遠赤外線放射物質が放射する遠赤外線を前記室内面構成部材の前記遠赤外線放射物質が吸収することを特徴とする室内環境調整システム。
【請求項2】
前記室内面構成部材が前記遠赤外線放射物質からなる石材で構成されるか、前記遠赤外線放射物質を混入した材料で構成されるか、又は前記遠赤外線放射物質からなる皮膜を有するものであり、前記冷却及び/又は加熱源の前記冷却及び/又は加熱面が前記遠赤外線放射物質からなる石材で構成されるか、前記遠赤外線放射物質を混入した材料で構成されるか、又は前記遠赤外線放射物質からなる皮膜で構成される、請求項1に記載の室内環境調整システム。
【請求項3】
前記室内面構成部材と前記冷却及び/又は加熱源が同一の部屋に存在する、請求項1または2に記載の室内環境調整システム。
【請求項4】
隣接し合う又は互いに連通する第1の部屋と第2の部屋が存在し、前記冷却及び/又は加熱源が前記第1の部屋に配置され、前記室内面構成部材が前記第1の部屋と前記第2の部屋の一方又は両方に配置されている、請求項1または2に記載の室内環境調整システム。
【請求項5】
前記室内面構成部材が、環境調整する室内の壁面、天井面及び床面のうちのいずれかのものの少なくとも一部を構成している、請求項1〜4のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項6】
前記室内面構成部材が前記遠赤外線放射物質を1重量%以上含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項7】
前記室内面構成部材が前記遠赤外線放射物質を3重量%以上含む、請求項6に記載の室内環境調整システム。
【請求項8】
前記冷却及び/又は加熱源の前記冷却及び/又は加熱面が、前記遠赤外線放射物質を1重量%以上含む被覆層で構成される、請求項1〜7のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項9】
前記被覆層が前記遠赤外線放射物質を3重量%以上含む、請求項8に記載の室内環境調整システム。
【請求項10】
前記被覆層が前記前記遠赤外線放射物質を20重量%以上含む、請求項8に記載の室内環境調整システム。
【請求項11】
前記冷却及び/又は加熱源が、内部に形成した流路に媒体を流すことにより、前記冷却及び/又は加熱面を冷却及び/又は加熱する装置である、請求項8〜10のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項12】
前記被覆層が金属材料の熱交換フィンの表面に形成されている、請求項8〜11のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項13】
前記冷却面が結露による除湿を行う、請求項1〜12のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項14】
前記冷却面で結露した水を集める手段をさらに含む、請求項13に記載の室内環境調整システム。
【請求項15】
前記室内面構成部材及び/又は前記冷却及び/又は加熱源が石材床板パネルである、請求項1〜5のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項16】
前記加熱源が前記遠赤外線放射物質を含むホットカーペットである、請求項1〜5のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項17】
前記遠赤外線放射物質の遠赤外線の放射率が0.8以上である、請求項1〜16のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項18】
前記遠赤外線放射物質の遠赤外線の放射率が0.9以上である、請求項17に記載の室内環境調整システム。
【請求項19】
前記遠赤外線放射物質を含む前記室内面構成部材は、その表面積の合計が、前記室内面構成部材が配置された部屋の内面積の25%以上を占める、請求項1〜18のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項20】
前記第1の部屋と前記第2の部屋とを仕切る手段が存在する場合、前記仕切り手段が前記遠赤外線放射物質を含む、請求項4に記載の室内環境調整システム。
【請求項21】
前記仕切り手段が開閉手段である、請求項20に記載の室内環境調整システム。
【請求項22】
室内に存在する物品の少なくとも一つが、前記遠赤外線放射物質を含む、請求項1〜21のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項23】
前記物品が、家具、寝具、衣類、室内備品、室内装飾品、又は収納扉である、請求項22に記載の室内環境調整システム。
【請求項24】
前記物品が、椅子、ソファー、テーブル、机、ベッド、布団、毛布、寝依、枕、クッション、敷物、パーティション、カーテン、テーブルクロス、又はベッドカバーである、請求項23に記載の室内環境調整システム。
【請求項25】
人間が活動又は生活する密閉空間、物品を保管又は陳列する密閉空間、動物の飼育用の密閉空間、あるいは輸送用移動体の密閉空間の環境調整に用いられる、請求項1〜24のいずれか一つに記載の室内環境調整システム。
【請求項26】
前記人間が活動又は生活する密閉空間が、個別もしくは集合住宅、オフィス、教育施設、スポーツ施設、図書館、又は店舗における密閉空間である、請求項25に記載の環境調整システム。
【請求項27】
前記物品を保管又は陳列する密閉空間が、倉庫、ショーケース又は展示ケースにおける密閉空間である、請求項25に記載の環境調整システム。
【請求項28】
前記輸送用移動体が、自動車、鉄道車両、船舶、又は航空機である、請求項25に記載の環境調整システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図15E】
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【図15F】
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【図15G】
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【図15H】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【公開番号】特開2010−96485(P2010−96485A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104398(P2009−104398)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【特許番号】特許第4422783号(P4422783)
【特許公報発行日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(504250897)石の癒株式会社 (6)
【Fターム(参考)】