室式コークス炉の操業方法
【課題】室式コークス炉の操業において、(i)軟化溶融層の膨張圧を直接制御することにより、膨張圧の上昇に起因する炉壁の損傷及び/又は脱落(破孔)の発生を抑制して、(i-1)炉操業を安定化し、(i-2)高品質のコークスを製造する。
【解決手段】室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、乾留の初期、中期、及び、後期における炭化室炉壁の炉壁温度を調整して、乾留開始時に、左右の炭化室炉壁に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動し、炭化室中央部で合体する軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御する。
【解決手段】室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、乾留の初期、中期、及び、後期における炭化室炉壁の炉壁温度を調整して、乾留開始時に、左右の炭化室炉壁に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動し、炭化室中央部で合体する軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室式コークス炉の炭化室で石炭を乾留する際、炉壁から中央部へ移動する石炭の軟化溶融層の挙動を制御する操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、石炭を加熱すると、石炭は、350〜400℃前後から軟化し始め、石炭の中で発生したガスの内圧で膨張する。この膨張は、400〜500℃で最大となる。
【0003】
室式コークス炉炭化室における石炭は、燃焼室で加熱される炭化室炉壁から炭化室中央に向かう伝熱で乾留が進行するため、石炭が軟化、膨張して生成する350〜500℃の軟化溶融層は、まず、炭化室の左右炉壁で生成した後、それが中央部に移動して合体し、再固化することで、乾留は終了する。
【0004】
この際、石炭の膨張を伴う軟化溶融層の挙動は、コークスの生産性及び品質に、大きく影響する。
【0005】
上記軟化溶融層は、加熱により、石炭粒子の中で発生したガスの内圧で膨張しているので、炉壁側に存在するコークス層を介して、左右の炭化室炉壁を圧迫することになる。この炉壁を圧迫する力を、通常、膨張圧という。
【0006】
石炭の乾留中、炭化室の中央に向かって移動する軟化溶融層の炭化室幅方向の厚さ(以下、単に「幅」ということがある。)が拡大すると、石炭の中で発生するガスの通気抵抗が上昇するため、膨張圧が上昇する。
【0007】
そして、石炭の乾留末期では、左右の軟化溶融層が炭化室中央で合体し、軟化溶融層の幅が最も拡大することになるため、乾留初期及び中期に比べて膨張圧は大きく上昇し、炭化室炉壁を強く圧迫する。
【0008】
炭化室炉壁に作用する圧力(膨張圧)により、左右の燃焼室を介して隣接する炭化室の炉壁は、炉内側に押し出され、コークスの押出時の押出力に対する抵抗となる。このため、炭化室の膨張圧が大きくなると、隣接炭化室のコークス押出力の増大を招き、炉壁に過大な負荷を与えて、炉壁煉瓦の損傷や脱落(破孔)の原因となる。
【0009】
特に、老朽化が進み、炉壁に作用する荷重に耐える力(炉壁耐力)が低下している炭化室炉壁では、炉壁煉瓦の損傷や脱落(破孔)が生じ易い。
【0010】
炉壁煉瓦の大きな損傷や脱落(破孔)が生じると、炭化室のコークス押し詰りや、燃焼室の燃焼不良により、操業不能となるので、損傷領域及び/又は破孔部位を補修しなければならないが、当然に、補修作業負荷の増大や、コークス生産性の低下は避けられない。
【0011】
このため、室式コークス炉の操業において、炭化室内の石炭の膨張圧を制御することは、炉の炉寿命の延長、及び、安定操業の継続の点で重要な課題である。
【0012】
特許文献1には、室式コークス炉の操業において、配合炭を構成する石炭の最大膨張圧の加成平均値、非微粘結炭の配合率、及び、非微粘結炭以外の石炭の全膨張率から、所定の関係式に従って配合炭膨張圧を算出し、この算出値が、コークス炉の許容限界圧未満となるように、石炭種及び配合割合を調整することが提案されている。
【0013】
また、特許文献2には、室式コークス炉の操業において、配合炭を構成する石炭の最大膨張圧の相加平均値、非微粘結炭の配合率、及び、粘結炭のみの配合炭の全膨張率、粘結剤添加率から、所定の関係式に従って配合炭膨張圧を算出し、この算出値が、予め定めた許容限界圧以下になるように、石炭種、配合割合、及び、粘結剤添加率を調整することが提案されている。
【0014】
しかし、これらの提案は、配合炭の膨張圧を、所定の関係式に基づいて推定し、推定値が許容限界値以下になるように、石炭の種類及び/又は配合を調整するものであり、直接、炭化室内の膨張圧を制御するものではない。また、石炭資源の有効活用及び自由度確保の点から、石炭の配合調整により膨張圧を低減する方法には限度がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−302661号公報
【特許文献2】特開2001−214171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1及び2の提案は、室式コークス炉炭化室で乾留する原料炭の配合に、推定値ではあるが、石炭の膨張圧を、石炭配合調整因子として採用した点で有用なものであるが、直接、炭化室内の膨張圧を制御するものではなく、また、膨張圧発生の原因となる軟化溶融層の幅を制御することができない。
【0017】
このため、実操業に適用した場合、石炭以外の操業条件によって、実際の膨張圧が、推定した膨張圧を大きく超える場合がある。
【0018】
実際の膨張圧が、推定値を大きく超えた場合、軟化溶融層の固化後、前述したように、隣接する炭化室のコークス押出時、炭化室炉壁に作用する荷重は増大して、炭化室炉壁の損傷及び/又は脱落(破孔)の発生を促進する。
【0019】
そこで、本発明は、室式コークス炉の操業において、石炭の配合調整を行わずに、(i)軟化溶融層により発生する膨張圧を直接制御することにより、膨張圧の上昇に起因する炉壁の損傷及び/又は脱落(破孔)の発生を抑制して、(i-1)炉操業を安定化し、(i-2)高品質のコークスを製造することを課題とし、(ii)該課題を解決する室式コークス炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するため、室式コークス炉炭化室における石炭の乾留において膨張圧発生の根源となる軟化溶融層に着目し、その挙動を制御する手法について鋭意研究した。
【0021】
その結果、炭化室炉壁の炉壁温度を、乾留期間中、一定に保持するのではなく、乾留初期の炉壁温度を所定の温度に設定し、乾留途中(以下、「乾留中期」ということがある。)で連続的に変えると、軟化溶融層の幅、及び/又は、炭化室中央部に向かう移動速度を調整することができ、その結果、軟化溶融層により発生する膨張圧を制御できることが判明した。
【0022】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0023】
(1)室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、乾留の初期、中期、及び、後期における炭化室炉壁の炉壁温度を調整して、乾留開始時に、左右の炭化室炉壁に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動し、炭化室中央部で合体する軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御することを特徴とする室式コークス炉の操業方法。
【0024】
(2)前記炉壁温度の調整は、(A)乾留初期において、初期炉壁温度を、炉壁標準温度Ts以下に設定するとともに、該初期炉壁温度に保持し、(B)乾留中期において、中期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以上に設定するとともに、前記初期炉壁温度から該中期炉壁温度に昇温し、かつ、該中期炉壁温度に保持し、(C)乾留後期において、後期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以下に設定し、前記中期炉壁温度から該後期炉壁温度に降温することを特徴とする前記(1)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0025】
(3)前記炉壁温度の調整は、
(x)乾留初期において、初期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTlでtl時間保持し、次いで、
(y)昇温して、中期炉壁温度:炉壁標準温度Ts+ΔTmでtm時間保持し、
その後、
(z)後期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTnまで降温する、
ことを特徴とする前記(2)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0026】
(4)前記基準温度Tsが1150〜1250℃の温度であることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0027】
(5)前記ΔTlが50〜150℃であり、tlが3〜8時間であることを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0028】
(6)前記ΔTmが50〜150℃であり、tmが3〜4時間であることを特徴とする前記(3)〜(5)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0029】
(7)前記ΔTnが50〜150℃であることを特徴とする前記(3)〜(6)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0030】
(8)前記昇温の際の昇温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする前記(2)〜(7)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0031】
(9)前記降温の際の降温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする前記(2)〜(8)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0032】
(10)前記原料炭が40〜350℃に予熱されていることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、炭化室における石炭の乾留中、炭化室炉壁面からの伝導熱伝達によって生成した石炭の軟化溶融層が、炭化室中央部に向かって移動する際の軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御して、膨張圧の上昇を抑制するとともに、原料炭に、コークス化に充分な熱量を与えることができるので、炉操業が安定し、高品質のコークスを継続して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】乾留後の炭化室内のコークスの状態を示す図である。
【図2】溶融軟化層の挙動を示す図である。(a)は、乾留中期の炭化室幅方向の温度分布を示し、(b)は、その溶融軟化層の生成態様を、模式的に示す。
【図3】乾留開始から終了までの炉壁温度の調整を示す図である。
【図4】各種装入炭条件(石炭水分及び石炭予熱温度)、及び、炉壁温度パターンでの膨張圧を示す図である。
【図5】実施例1で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図6】実施例1における昇温速度の変化を示す図である。
【図7】実施例1における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【図8】実施例2で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図9】実施例2における昇温速度の変化を示す図である。
【図10】実施例2における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【図11】実施例3で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図12】実施例3における昇温速度の変化を示す図である。
【図13】実施例3における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【図14】実施例4で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図15】実施例4における昇温速度の変化を示す図である。
【図16】実施例4における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、炭化室の炉壁温度を調整して、炭化室炉壁面からの伝導熱伝達によって生成した石炭の軟化溶融層が、炭化室中央部に向かって移動する際の軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御して、膨張圧の上昇を抑制することを基本思想とする。以下、図面を参照して説明する。
【0036】
図1に、乾留後の炭化室内のコークスの状態を示す。炭化室1内に堆積した原料炭は、左右に隣接する燃焼室2における燃料ガスの燃焼で加熱される炉壁3からの伝熱で、左右の炉壁から炭化室中央部に向かって、順次、加熱、乾留され、コークス5が生成する。
【0037】
この石炭乾留過程で、炭化室の左右の炉壁からの伝導熱伝達によって、350〜500℃の温度で、石炭の軟化、膨張により生成した軟化溶融層(図示なし)が、左右の炉壁面から炭化室中央部に向かって移動して乾留が進行する。
【0038】
そして、図1に示すように、軟化溶融層が、炭化室中央部で合体(図中「4」、参照)して再固化し、乾留が終了する。
【0039】
上記軟化溶融層は、石炭粒子の中で発生したガスの内圧で膨張しているので、膨張圧が高く、特に、石炭の乾留末期では、左右の軟化溶融層が炭化室中央部で合体し、軟化溶融層の幅が最も拡大することになるため、乾留初期及び中期に比べて、膨張圧が大きく上昇して炉壁を圧迫する。
【0040】
膨張圧が高いと、左右の燃焼室を介して隣接する炭化室の炉壁は、炉内側に押し出され、炭化室のコークス押出時に、炉壁に大きな圧力を及ぼし、炉壁煉瓦の損傷や脱落(破孔)の原因の一となる。
【0041】
通常、軟化溶融層の幅は、配合炭の嵩密度や石炭配合によっても左右されるが、燃焼室の加熱パターン(炉壁温度パターン)によって大きく変化し、昇温速度が速くなり、石炭軟化溶融層の移動速度が増加するのに伴い拡大し、その結果、膨張圧が増大する。
【0042】
また、前述のとおり、特に、石炭の乾留末期では、左右の軟化溶融層が炭化室中央部で合体し、軟化溶融層の幅が最も拡大するので、乾留初期及び中期に比べて、膨張圧が大きく上昇し増大する。
【0043】
それ故、膨張圧による炭化室炉壁に作用する圧力(荷重)を低減するためには、乾留過程で、特に、石炭の乾留末期の合体時の軟化溶融層の幅の拡大を抑制し、その幅を、極力、小さくする必要がある。なお、膨張圧については、後で詳述する。
【0044】
実際のコークス炉の炭化室内における乾留過程で、軟化溶融層の幅を、直接、観察することはできないので、本発明者らは、炉幅450mmの試験炭化室で、溶融軟化層の挙動を調査した。その結果を、図2に示す。図2(a)に、乾留中期の炭化室幅方向の温度分布を示し、図2(b)に、溶融軟化層の生成、移動態様を、模式的に示す。
【0045】
軟化溶融層の挙動を明確に把握するため、250℃に予熱した原料炭を、上記試験炭化室に装入し、通常の炉壁温度(約1200℃)より低い1000℃で加熱した炉壁からの伝熱で原料炭を乾留した。
【0046】
図2(a)に示す、乾留中期の炉幅方向の温度分布において、400℃(軟化開始温度)〜500℃(再固化温度)の温度域に、“幅wの軟化溶融層”が存在している。
【0047】
即ち、図2(b)に示すように、炭化室の左側室1a内においては、炉壁3からの伝熱で、最初に、左右の炉壁面に沿って、原料炭6の軟化溶融、膨張によって生成した“幅wの軟化溶融層4a”が、中心部に移動して乾留が進行する。
【0048】
そして、左右の軟化溶融層4aが炭化室中央部に達し合体した軟化溶融層4aが再固化することで、炭化室の幅方向全域でコークス5が生成し、乾留は終了する。
【0049】
乾留過程で、軟化溶融層4a内の発生ガスにより生じる膨張圧は、乾留初期及び中期には、未乾留状態の原料炭6の存在で緩和されるが、乾留後期において、左右の軟化溶融層4aが炭化室中央部で合体したときは、未乾留状態の原料炭6が存在しないので、乾留初期及び中期に比べて、膨張圧は大きく上昇し、乾留後のコークス5を介して左右の炉壁に過大な負荷を与えることになる。
【0050】
したがって、乾留後期の膨張圧によって発生する炉壁の負荷を極力低減するためには、特に、乾留後期における左右の軟化溶融層の幅の拡大を、極力、抑制する必要がある。
【0051】
図2(a)に示す炉壁分布において、特に、乾留後期において、400℃(軟化開始温度)〜500℃(再固化温度)の“軟化溶融層”の“幅w”を小さくすることができれば、左右の軟化溶融層が合体したときの膨張圧の上昇を抑制することができる。
【0052】
図2に示すように、従来の炉壁温度(約1200℃)より低い1100℃の低温加熱条件で乾留する場合は、従来の炉壁温度(約1200℃)に比べて、軟化溶融層の幅を狭くすることができる。
【0053】
しかし、予熱した原料炭を装入しても、単位時間当りの石炭への投入熱量が減少し、軟化溶融層が炭化室中央部へ向かう移動速度が遅くなるため、コークス化に必要な時間である乾留時間が長くなり、コークスの生産性が低下する。
【0054】
そこで、本発明においては、乾留の開始から終了までの期間を、初期、中期、及び、後期に分け、各期において炉壁温度を変えて、(x)初期は、低い炉壁温度で一定時間保持し、(y)中期は、高い炉壁温度に昇温後、一定時間保持し、(z)後期は、低い炉壁温度に降温し、かつ、全乾留における石炭への投入熱量を変えずに乾留を行う。この点が、本発明の特徴である。
【0055】
図3に、乾留終了までの炉壁温度の調整を示す。即ち、図3に示すように、
(x)乾留初期には、軟化溶融層の幅の拡大を抑制するため、炉壁温度を、基準とする炉壁温度(炉壁標準温度)Ts以下のTlに設定し、低温の炉壁温度T1で、t1時間、乾留し、
(y)乾留中期には、軟化溶融層の移動を促進するとともに、石炭への投入熱量の増加により、コークス化に必要な熱量を原料炭に与えるため、基準炉壁温度Ts以上の高温の炉壁温度Tmに設定し、上記低温の炉壁温度T1から高温の炉壁温度Tmまで、(t2−t1)時間で昇温し、高温の炉壁温度Tmで、(t3−t2)時間、乾留し、
(z)乾留後期には、炭化室中央部での左右の軟化溶融層の合体、拡大による膨張圧の大きな上昇を抑制するため、基準炉壁温度Ts以下の低温の炉壁温度Tn〜Tn’(≒Tl)に設定し、上記高温の炉壁温度Tmから低温の炉壁温度Tn〜Tn’(≒Tl)まで、(t4−t3)時間で降温する。
【0056】
図3に示す炉壁温度に加熱した炉壁の伝熱で原料炭に与える全熱量は、乾留の開始から終了まで一定の炉壁標準温度の乾留温度条件で乾留する場合の原料炭に与える全熱量と略同じとすることで、コークスに影響するような原料炭の乾留不良は生じない。
【0057】
なお、上記の乾留温度パターンにおける炉壁温度、昇温速度、及び、降温速度の調整、は、燃焼室に供給する燃焼ガスの量を調整して行うことができる。
【0058】
乾留中期に、炉壁温度を、炉壁標準温度以上に昇温する場合、昇温過程で、発生ガスの拡散による軟化溶融層からの排出速度よりも、層内でのガスの発生速度が増大するため、軟化溶融層の幅の拡大、即ち、軟化溶融層の膨張圧の増大が予想される。
【0059】
そこで、本発明者らは、昇温に伴う軟化溶融層の幅及び膨張圧を各種原料炭について調査した。
【0060】
ここで、軟化溶融層の膨張圧P(kPa)について、詳述する。
【0061】
(i)P(kPa)は、下記式で定義する軟化溶融層の最大自由膨張時の比容積S(cm3/g)に比例する。
【0062】
S(cm3/g)=最大膨張時の石炭体積(cm3)/加熱前の石炭質量(g)
(ii)また、P(kPa)は、軟化溶融層の幅L(mm)の2乗に比例する。
【0063】
したがって、P(kPa)は、下記式で表示できる。
【0064】
P(kPa)=m・S・L2(m:定数)
軟化溶融層の最大自由膨張時の比容積S(cm3/g)は、昇温速度A(℃/min)により変化し、実験的に、下記式で表示できることが知られている。
【0065】
S(cm3/g)=n・(0.42+log10・A)(n:定数)
したがって、膨張圧P(kPa)は、下記式(1)で表示できる。
【0066】
P(kPa)=k・(0.42+log10・A)・L2 ・・・(1)
A:昇温速度(℃/min)
L:軟化溶融層の幅(mm)
k:定数
本発明者らが、昇温に伴う軟化溶融層の幅及び膨張圧を各種原料炭について調査した結果を、図4及び図5に示す。
【0067】
図4に、各種原料炭の膨張圧を示す。乾留は、(i)乾留開始から終了まで1200℃(炉壁標準温度)一定の乾留温度で乾留する場合(ベース)と、(ii)乾留初期は、1100℃の低温の炉壁温度で、3〜4時間、乾留し、乾留中期は、前記1100℃の低温の炉壁温度から1300℃の高温の炉壁温度まで、0.5〜1.2℃/分で昇温し、1300℃の高温の炉壁温度で、3〜4時間、乾留し、乾留後期は、1300℃の高温の炉壁温度から、1100℃の低温の炉壁温度に降温する乾留温度パターンで乾留した。
【0068】
図4から、上記(ii)の初期を低温、中期を高温、後期を低温に、炉壁温度を変化させた乾留温度パターンで乾留した場合の膨張圧が、上記(i)で、一定の乾留温度で乾留した場合の膨張圧より小さいことが解る。
【0069】
したがって、本発明における炉壁温度の調整は、具体的には、以下のとおりである(図3、参照)。
【0070】
(x)(炉壁標準温度Ts−ΔTl)(=Tl)で、tl(=t1)時間保持し、次いで、
(y)(t2−t1)時間で、(炉壁標準温度Ts+ΔTm)(=Tm)に昇温して、(炉壁標準温度Ts+ΔTm)(=Tm)で、tm(=t3−t2)時間保持し、その後、
(z)(t4−t3)時間で、(炉壁標準温度Ts−ΔTn)(=Tn〜Tn’)まで降温する。
【0071】
通常、室式コークス炉炭化室で乾留する場合、炉壁温度は、1150〜1250℃であるので、これを踏まえ、炉壁標準温度Tsは、1150〜1250℃の範囲で設定するのが好ましい。
【0072】
乾留初期の低温の炉壁温度Tlは、炉壁標準温度からの低減分ΔTl(=Ts−Tl)を、50〜150℃として設定するのが好ましい。乾留時間tl(=t1)は、3〜8時間が好ましい。
【0073】
炉壁温度Tlを、乾留中期の高温の炉壁温度Tmに昇温する場合、昇温速度0.5〜1.2℃/分で、3〜5時間かけて昇温するのが好ましい。
【0074】
乾留中期の高温の炉壁温度Tmは、炉壁標準温度からの上昇分ΔTm(=Tm−Ts)を、50〜150℃として設定するのが好ましい。乾留時間tm(=t3−t2)は、3〜4時間が好ましい。
【0075】
乾留後期は、低温の乾留終了温度(Ts−ΔTn)まで、降温速度0.5〜1.2℃/分で、(t4−t3)時間かけて降温するのが好ましい。乾留終了温度は、ΔTnを、50〜150℃として設定するのが好ましい。
【0076】
通常、炭化室には、常温の原料炭を装入するが、本発明においては、40〜350℃に予熱した原料炭を装入してもよい。原料炭を予熱することにより、原料炭中の水分を除去し、装入時の嵩密度を向上することができるとともに、炭化室内で、原料炭に与える熱量を低減することができる。原料炭を予熱して装入することで、コークス化までの乾留時間を短縮し、さらに、コークス生産性を向上すことができるので、好ましい。
【0077】
本発明では、炉壁温度を上記の通りに調整するので、乾留初期にて、低温の炉壁温度により、“幅の狭い軟化溶融層”を生成し、乾留中期にて、高温の炉壁温度への昇温により軟化溶融層の移動を加速するので、乾留初期から中期での“軟化溶融層の幅”の拡大を抑制しつつ、原料炭に、コークス化のために充分な熱量を与えることができる。
【0078】
そして、乾留後期にて、低温の炉壁温度に降温することにより、従来に比べて左右の軟化溶融層の幅を小さくして、左右の軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの“軟化溶融層の幅”の拡大による膨張圧の大きな上昇を抑制することができる。
【0079】
その結果、炭化室における石炭の乾留中、最初に炭化室炉壁面に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動する軟化溶融層の挙動を制御して、膨張圧の上昇を抑制するとともに、原料炭に、コークス化に充分な熱量を与えることができるので、炉操業が安定し、高品質のコークスを継続して製造することができる。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0081】
(実施例1)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、250℃に予熱した水分量0%の原料炭(SCPE21)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、15時間乾留した。図5に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0082】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図6に、昇温速度の変化を示し、図7に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0083】
図7から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る(12)。
【0084】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
(実施例2)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、60℃に予熱した水分量2%の原料炭(DAPS)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、21時間乾留した。図8に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0087】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図9に、昇温速度の変化を示し、図10に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0088】
図10から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る。
【0089】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例3)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、40℃に予熱した水分量5%の原料炭(CMC)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、21時間乾留した。図11に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0091】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図12に、昇温速度の変化を示し、図13に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0092】
図13から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る。
【0093】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例4)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、25℃に予熱した水分量9%の原料炭(湿炭)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、22時間乾留した。図14に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0095】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図15に、昇温速度の変化を示し、図16に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0096】
図16から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る。
【0097】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0098】
実施例1〜4において、発明例と比較例を対比すると、(i)炭化室中央付近の軟化溶融層の幅が抑制され、それに伴い、(ii)最大膨張圧(乾留後期の膨張圧)も抑制されていることが解る。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、炭化室における石炭の乾留中、炭化室炉壁に沿って生成し、炭化室中央に向かって移動する軟化溶融層の挙動を制御して、膨張圧の上昇を抑制するとともに、原料炭に、コークス化に充分な熱量を与えることができるので、炉操業が安定し、高品質のコークスを継続して製造することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 炭化室
1a 炭化室の左側室
2 燃焼室
3 炉壁
4 軟化溶融層の合体
4a 軟化溶融層
5 コークス
6 原料炭
w 軟化溶融層の幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、室式コークス炉の炭化室で石炭を乾留する際、炉壁から中央部へ移動する石炭の軟化溶融層の挙動を制御する操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、石炭を加熱すると、石炭は、350〜400℃前後から軟化し始め、石炭の中で発生したガスの内圧で膨張する。この膨張は、400〜500℃で最大となる。
【0003】
室式コークス炉炭化室における石炭は、燃焼室で加熱される炭化室炉壁から炭化室中央に向かう伝熱で乾留が進行するため、石炭が軟化、膨張して生成する350〜500℃の軟化溶融層は、まず、炭化室の左右炉壁で生成した後、それが中央部に移動して合体し、再固化することで、乾留は終了する。
【0004】
この際、石炭の膨張を伴う軟化溶融層の挙動は、コークスの生産性及び品質に、大きく影響する。
【0005】
上記軟化溶融層は、加熱により、石炭粒子の中で発生したガスの内圧で膨張しているので、炉壁側に存在するコークス層を介して、左右の炭化室炉壁を圧迫することになる。この炉壁を圧迫する力を、通常、膨張圧という。
【0006】
石炭の乾留中、炭化室の中央に向かって移動する軟化溶融層の炭化室幅方向の厚さ(以下、単に「幅」ということがある。)が拡大すると、石炭の中で発生するガスの通気抵抗が上昇するため、膨張圧が上昇する。
【0007】
そして、石炭の乾留末期では、左右の軟化溶融層が炭化室中央で合体し、軟化溶融層の幅が最も拡大することになるため、乾留初期及び中期に比べて膨張圧は大きく上昇し、炭化室炉壁を強く圧迫する。
【0008】
炭化室炉壁に作用する圧力(膨張圧)により、左右の燃焼室を介して隣接する炭化室の炉壁は、炉内側に押し出され、コークスの押出時の押出力に対する抵抗となる。このため、炭化室の膨張圧が大きくなると、隣接炭化室のコークス押出力の増大を招き、炉壁に過大な負荷を与えて、炉壁煉瓦の損傷や脱落(破孔)の原因となる。
【0009】
特に、老朽化が進み、炉壁に作用する荷重に耐える力(炉壁耐力)が低下している炭化室炉壁では、炉壁煉瓦の損傷や脱落(破孔)が生じ易い。
【0010】
炉壁煉瓦の大きな損傷や脱落(破孔)が生じると、炭化室のコークス押し詰りや、燃焼室の燃焼不良により、操業不能となるので、損傷領域及び/又は破孔部位を補修しなければならないが、当然に、補修作業負荷の増大や、コークス生産性の低下は避けられない。
【0011】
このため、室式コークス炉の操業において、炭化室内の石炭の膨張圧を制御することは、炉の炉寿命の延長、及び、安定操業の継続の点で重要な課題である。
【0012】
特許文献1には、室式コークス炉の操業において、配合炭を構成する石炭の最大膨張圧の加成平均値、非微粘結炭の配合率、及び、非微粘結炭以外の石炭の全膨張率から、所定の関係式に従って配合炭膨張圧を算出し、この算出値が、コークス炉の許容限界圧未満となるように、石炭種及び配合割合を調整することが提案されている。
【0013】
また、特許文献2には、室式コークス炉の操業において、配合炭を構成する石炭の最大膨張圧の相加平均値、非微粘結炭の配合率、及び、粘結炭のみの配合炭の全膨張率、粘結剤添加率から、所定の関係式に従って配合炭膨張圧を算出し、この算出値が、予め定めた許容限界圧以下になるように、石炭種、配合割合、及び、粘結剤添加率を調整することが提案されている。
【0014】
しかし、これらの提案は、配合炭の膨張圧を、所定の関係式に基づいて推定し、推定値が許容限界値以下になるように、石炭の種類及び/又は配合を調整するものであり、直接、炭化室内の膨張圧を制御するものではない。また、石炭資源の有効活用及び自由度確保の点から、石炭の配合調整により膨張圧を低減する方法には限度がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−302661号公報
【特許文献2】特開2001−214171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1及び2の提案は、室式コークス炉炭化室で乾留する原料炭の配合に、推定値ではあるが、石炭の膨張圧を、石炭配合調整因子として採用した点で有用なものであるが、直接、炭化室内の膨張圧を制御するものではなく、また、膨張圧発生の原因となる軟化溶融層の幅を制御することができない。
【0017】
このため、実操業に適用した場合、石炭以外の操業条件によって、実際の膨張圧が、推定した膨張圧を大きく超える場合がある。
【0018】
実際の膨張圧が、推定値を大きく超えた場合、軟化溶融層の固化後、前述したように、隣接する炭化室のコークス押出時、炭化室炉壁に作用する荷重は増大して、炭化室炉壁の損傷及び/又は脱落(破孔)の発生を促進する。
【0019】
そこで、本発明は、室式コークス炉の操業において、石炭の配合調整を行わずに、(i)軟化溶融層により発生する膨張圧を直接制御することにより、膨張圧の上昇に起因する炉壁の損傷及び/又は脱落(破孔)の発生を抑制して、(i-1)炉操業を安定化し、(i-2)高品質のコークスを製造することを課題とし、(ii)該課題を解決する室式コークス炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するため、室式コークス炉炭化室における石炭の乾留において膨張圧発生の根源となる軟化溶融層に着目し、その挙動を制御する手法について鋭意研究した。
【0021】
その結果、炭化室炉壁の炉壁温度を、乾留期間中、一定に保持するのではなく、乾留初期の炉壁温度を所定の温度に設定し、乾留途中(以下、「乾留中期」ということがある。)で連続的に変えると、軟化溶融層の幅、及び/又は、炭化室中央部に向かう移動速度を調整することができ、その結果、軟化溶融層により発生する膨張圧を制御できることが判明した。
【0022】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0023】
(1)室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、乾留の初期、中期、及び、後期における炭化室炉壁の炉壁温度を調整して、乾留開始時に、左右の炭化室炉壁に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動し、炭化室中央部で合体する軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御することを特徴とする室式コークス炉の操業方法。
【0024】
(2)前記炉壁温度の調整は、(A)乾留初期において、初期炉壁温度を、炉壁標準温度Ts以下に設定するとともに、該初期炉壁温度に保持し、(B)乾留中期において、中期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以上に設定するとともに、前記初期炉壁温度から該中期炉壁温度に昇温し、かつ、該中期炉壁温度に保持し、(C)乾留後期において、後期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以下に設定し、前記中期炉壁温度から該後期炉壁温度に降温することを特徴とする前記(1)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0025】
(3)前記炉壁温度の調整は、
(x)乾留初期において、初期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTlでtl時間保持し、次いで、
(y)昇温して、中期炉壁温度:炉壁標準温度Ts+ΔTmでtm時間保持し、
その後、
(z)後期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTnまで降温する、
ことを特徴とする前記(2)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0026】
(4)前記基準温度Tsが1150〜1250℃の温度であることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0027】
(5)前記ΔTlが50〜150℃であり、tlが3〜8時間であることを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の室式コークス炉の操業方法。
【0028】
(6)前記ΔTmが50〜150℃であり、tmが3〜4時間であることを特徴とする前記(3)〜(5)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0029】
(7)前記ΔTnが50〜150℃であることを特徴とする前記(3)〜(6)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0030】
(8)前記昇温の際の昇温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする前記(2)〜(7)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0031】
(9)前記降温の際の降温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする前記(2)〜(8)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【0032】
(10)前記原料炭が40〜350℃に予熱されていることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、炭化室における石炭の乾留中、炭化室炉壁面からの伝導熱伝達によって生成した石炭の軟化溶融層が、炭化室中央部に向かって移動する際の軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御して、膨張圧の上昇を抑制するとともに、原料炭に、コークス化に充分な熱量を与えることができるので、炉操業が安定し、高品質のコークスを継続して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】乾留後の炭化室内のコークスの状態を示す図である。
【図2】溶融軟化層の挙動を示す図である。(a)は、乾留中期の炭化室幅方向の温度分布を示し、(b)は、その溶融軟化層の生成態様を、模式的に示す。
【図3】乾留開始から終了までの炉壁温度の調整を示す図である。
【図4】各種装入炭条件(石炭水分及び石炭予熱温度)、及び、炉壁温度パターンでの膨張圧を示す図である。
【図5】実施例1で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図6】実施例1における昇温速度の変化を示す図である。
【図7】実施例1における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【図8】実施例2で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図9】実施例2における昇温速度の変化を示す図である。
【図10】実施例2における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【図11】実施例3で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図12】実施例3における昇温速度の変化を示す図である。
【図13】実施例3における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【図14】実施例4で採用した炉壁温度パターンを示す図である。
【図15】実施例4における昇温速度の変化を示す図である。
【図16】実施例4における軟化溶融層の幅の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、炭化室の炉壁温度を調整して、炭化室炉壁面からの伝導熱伝達によって生成した石炭の軟化溶融層が、炭化室中央部に向かって移動する際の軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御して、膨張圧の上昇を抑制することを基本思想とする。以下、図面を参照して説明する。
【0036】
図1に、乾留後の炭化室内のコークスの状態を示す。炭化室1内に堆積した原料炭は、左右に隣接する燃焼室2における燃料ガスの燃焼で加熱される炉壁3からの伝熱で、左右の炉壁から炭化室中央部に向かって、順次、加熱、乾留され、コークス5が生成する。
【0037】
この石炭乾留過程で、炭化室の左右の炉壁からの伝導熱伝達によって、350〜500℃の温度で、石炭の軟化、膨張により生成した軟化溶融層(図示なし)が、左右の炉壁面から炭化室中央部に向かって移動して乾留が進行する。
【0038】
そして、図1に示すように、軟化溶融層が、炭化室中央部で合体(図中「4」、参照)して再固化し、乾留が終了する。
【0039】
上記軟化溶融層は、石炭粒子の中で発生したガスの内圧で膨張しているので、膨張圧が高く、特に、石炭の乾留末期では、左右の軟化溶融層が炭化室中央部で合体し、軟化溶融層の幅が最も拡大することになるため、乾留初期及び中期に比べて、膨張圧が大きく上昇して炉壁を圧迫する。
【0040】
膨張圧が高いと、左右の燃焼室を介して隣接する炭化室の炉壁は、炉内側に押し出され、炭化室のコークス押出時に、炉壁に大きな圧力を及ぼし、炉壁煉瓦の損傷や脱落(破孔)の原因の一となる。
【0041】
通常、軟化溶融層の幅は、配合炭の嵩密度や石炭配合によっても左右されるが、燃焼室の加熱パターン(炉壁温度パターン)によって大きく変化し、昇温速度が速くなり、石炭軟化溶融層の移動速度が増加するのに伴い拡大し、その結果、膨張圧が増大する。
【0042】
また、前述のとおり、特に、石炭の乾留末期では、左右の軟化溶融層が炭化室中央部で合体し、軟化溶融層の幅が最も拡大するので、乾留初期及び中期に比べて、膨張圧が大きく上昇し増大する。
【0043】
それ故、膨張圧による炭化室炉壁に作用する圧力(荷重)を低減するためには、乾留過程で、特に、石炭の乾留末期の合体時の軟化溶融層の幅の拡大を抑制し、その幅を、極力、小さくする必要がある。なお、膨張圧については、後で詳述する。
【0044】
実際のコークス炉の炭化室内における乾留過程で、軟化溶融層の幅を、直接、観察することはできないので、本発明者らは、炉幅450mmの試験炭化室で、溶融軟化層の挙動を調査した。その結果を、図2に示す。図2(a)に、乾留中期の炭化室幅方向の温度分布を示し、図2(b)に、溶融軟化層の生成、移動態様を、模式的に示す。
【0045】
軟化溶融層の挙動を明確に把握するため、250℃に予熱した原料炭を、上記試験炭化室に装入し、通常の炉壁温度(約1200℃)より低い1000℃で加熱した炉壁からの伝熱で原料炭を乾留した。
【0046】
図2(a)に示す、乾留中期の炉幅方向の温度分布において、400℃(軟化開始温度)〜500℃(再固化温度)の温度域に、“幅wの軟化溶融層”が存在している。
【0047】
即ち、図2(b)に示すように、炭化室の左側室1a内においては、炉壁3からの伝熱で、最初に、左右の炉壁面に沿って、原料炭6の軟化溶融、膨張によって生成した“幅wの軟化溶融層4a”が、中心部に移動して乾留が進行する。
【0048】
そして、左右の軟化溶融層4aが炭化室中央部に達し合体した軟化溶融層4aが再固化することで、炭化室の幅方向全域でコークス5が生成し、乾留は終了する。
【0049】
乾留過程で、軟化溶融層4a内の発生ガスにより生じる膨張圧は、乾留初期及び中期には、未乾留状態の原料炭6の存在で緩和されるが、乾留後期において、左右の軟化溶融層4aが炭化室中央部で合体したときは、未乾留状態の原料炭6が存在しないので、乾留初期及び中期に比べて、膨張圧は大きく上昇し、乾留後のコークス5を介して左右の炉壁に過大な負荷を与えることになる。
【0050】
したがって、乾留後期の膨張圧によって発生する炉壁の負荷を極力低減するためには、特に、乾留後期における左右の軟化溶融層の幅の拡大を、極力、抑制する必要がある。
【0051】
図2(a)に示す炉壁分布において、特に、乾留後期において、400℃(軟化開始温度)〜500℃(再固化温度)の“軟化溶融層”の“幅w”を小さくすることができれば、左右の軟化溶融層が合体したときの膨張圧の上昇を抑制することができる。
【0052】
図2に示すように、従来の炉壁温度(約1200℃)より低い1100℃の低温加熱条件で乾留する場合は、従来の炉壁温度(約1200℃)に比べて、軟化溶融層の幅を狭くすることができる。
【0053】
しかし、予熱した原料炭を装入しても、単位時間当りの石炭への投入熱量が減少し、軟化溶融層が炭化室中央部へ向かう移動速度が遅くなるため、コークス化に必要な時間である乾留時間が長くなり、コークスの生産性が低下する。
【0054】
そこで、本発明においては、乾留の開始から終了までの期間を、初期、中期、及び、後期に分け、各期において炉壁温度を変えて、(x)初期は、低い炉壁温度で一定時間保持し、(y)中期は、高い炉壁温度に昇温後、一定時間保持し、(z)後期は、低い炉壁温度に降温し、かつ、全乾留における石炭への投入熱量を変えずに乾留を行う。この点が、本発明の特徴である。
【0055】
図3に、乾留終了までの炉壁温度の調整を示す。即ち、図3に示すように、
(x)乾留初期には、軟化溶融層の幅の拡大を抑制するため、炉壁温度を、基準とする炉壁温度(炉壁標準温度)Ts以下のTlに設定し、低温の炉壁温度T1で、t1時間、乾留し、
(y)乾留中期には、軟化溶融層の移動を促進するとともに、石炭への投入熱量の増加により、コークス化に必要な熱量を原料炭に与えるため、基準炉壁温度Ts以上の高温の炉壁温度Tmに設定し、上記低温の炉壁温度T1から高温の炉壁温度Tmまで、(t2−t1)時間で昇温し、高温の炉壁温度Tmで、(t3−t2)時間、乾留し、
(z)乾留後期には、炭化室中央部での左右の軟化溶融層の合体、拡大による膨張圧の大きな上昇を抑制するため、基準炉壁温度Ts以下の低温の炉壁温度Tn〜Tn’(≒Tl)に設定し、上記高温の炉壁温度Tmから低温の炉壁温度Tn〜Tn’(≒Tl)まで、(t4−t3)時間で降温する。
【0056】
図3に示す炉壁温度に加熱した炉壁の伝熱で原料炭に与える全熱量は、乾留の開始から終了まで一定の炉壁標準温度の乾留温度条件で乾留する場合の原料炭に与える全熱量と略同じとすることで、コークスに影響するような原料炭の乾留不良は生じない。
【0057】
なお、上記の乾留温度パターンにおける炉壁温度、昇温速度、及び、降温速度の調整、は、燃焼室に供給する燃焼ガスの量を調整して行うことができる。
【0058】
乾留中期に、炉壁温度を、炉壁標準温度以上に昇温する場合、昇温過程で、発生ガスの拡散による軟化溶融層からの排出速度よりも、層内でのガスの発生速度が増大するため、軟化溶融層の幅の拡大、即ち、軟化溶融層の膨張圧の増大が予想される。
【0059】
そこで、本発明者らは、昇温に伴う軟化溶融層の幅及び膨張圧を各種原料炭について調査した。
【0060】
ここで、軟化溶融層の膨張圧P(kPa)について、詳述する。
【0061】
(i)P(kPa)は、下記式で定義する軟化溶融層の最大自由膨張時の比容積S(cm3/g)に比例する。
【0062】
S(cm3/g)=最大膨張時の石炭体積(cm3)/加熱前の石炭質量(g)
(ii)また、P(kPa)は、軟化溶融層の幅L(mm)の2乗に比例する。
【0063】
したがって、P(kPa)は、下記式で表示できる。
【0064】
P(kPa)=m・S・L2(m:定数)
軟化溶融層の最大自由膨張時の比容積S(cm3/g)は、昇温速度A(℃/min)により変化し、実験的に、下記式で表示できることが知られている。
【0065】
S(cm3/g)=n・(0.42+log10・A)(n:定数)
したがって、膨張圧P(kPa)は、下記式(1)で表示できる。
【0066】
P(kPa)=k・(0.42+log10・A)・L2 ・・・(1)
A:昇温速度(℃/min)
L:軟化溶融層の幅(mm)
k:定数
本発明者らが、昇温に伴う軟化溶融層の幅及び膨張圧を各種原料炭について調査した結果を、図4及び図5に示す。
【0067】
図4に、各種原料炭の膨張圧を示す。乾留は、(i)乾留開始から終了まで1200℃(炉壁標準温度)一定の乾留温度で乾留する場合(ベース)と、(ii)乾留初期は、1100℃の低温の炉壁温度で、3〜4時間、乾留し、乾留中期は、前記1100℃の低温の炉壁温度から1300℃の高温の炉壁温度まで、0.5〜1.2℃/分で昇温し、1300℃の高温の炉壁温度で、3〜4時間、乾留し、乾留後期は、1300℃の高温の炉壁温度から、1100℃の低温の炉壁温度に降温する乾留温度パターンで乾留した。
【0068】
図4から、上記(ii)の初期を低温、中期を高温、後期を低温に、炉壁温度を変化させた乾留温度パターンで乾留した場合の膨張圧が、上記(i)で、一定の乾留温度で乾留した場合の膨張圧より小さいことが解る。
【0069】
したがって、本発明における炉壁温度の調整は、具体的には、以下のとおりである(図3、参照)。
【0070】
(x)(炉壁標準温度Ts−ΔTl)(=Tl)で、tl(=t1)時間保持し、次いで、
(y)(t2−t1)時間で、(炉壁標準温度Ts+ΔTm)(=Tm)に昇温して、(炉壁標準温度Ts+ΔTm)(=Tm)で、tm(=t3−t2)時間保持し、その後、
(z)(t4−t3)時間で、(炉壁標準温度Ts−ΔTn)(=Tn〜Tn’)まで降温する。
【0071】
通常、室式コークス炉炭化室で乾留する場合、炉壁温度は、1150〜1250℃であるので、これを踏まえ、炉壁標準温度Tsは、1150〜1250℃の範囲で設定するのが好ましい。
【0072】
乾留初期の低温の炉壁温度Tlは、炉壁標準温度からの低減分ΔTl(=Ts−Tl)を、50〜150℃として設定するのが好ましい。乾留時間tl(=t1)は、3〜8時間が好ましい。
【0073】
炉壁温度Tlを、乾留中期の高温の炉壁温度Tmに昇温する場合、昇温速度0.5〜1.2℃/分で、3〜5時間かけて昇温するのが好ましい。
【0074】
乾留中期の高温の炉壁温度Tmは、炉壁標準温度からの上昇分ΔTm(=Tm−Ts)を、50〜150℃として設定するのが好ましい。乾留時間tm(=t3−t2)は、3〜4時間が好ましい。
【0075】
乾留後期は、低温の乾留終了温度(Ts−ΔTn)まで、降温速度0.5〜1.2℃/分で、(t4−t3)時間かけて降温するのが好ましい。乾留終了温度は、ΔTnを、50〜150℃として設定するのが好ましい。
【0076】
通常、炭化室には、常温の原料炭を装入するが、本発明においては、40〜350℃に予熱した原料炭を装入してもよい。原料炭を予熱することにより、原料炭中の水分を除去し、装入時の嵩密度を向上することができるとともに、炭化室内で、原料炭に与える熱量を低減することができる。原料炭を予熱して装入することで、コークス化までの乾留時間を短縮し、さらに、コークス生産性を向上すことができるので、好ましい。
【0077】
本発明では、炉壁温度を上記の通りに調整するので、乾留初期にて、低温の炉壁温度により、“幅の狭い軟化溶融層”を生成し、乾留中期にて、高温の炉壁温度への昇温により軟化溶融層の移動を加速するので、乾留初期から中期での“軟化溶融層の幅”の拡大を抑制しつつ、原料炭に、コークス化のために充分な熱量を与えることができる。
【0078】
そして、乾留後期にて、低温の炉壁温度に降温することにより、従来に比べて左右の軟化溶融層の幅を小さくして、左右の軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの“軟化溶融層の幅”の拡大による膨張圧の大きな上昇を抑制することができる。
【0079】
その結果、炭化室における石炭の乾留中、最初に炭化室炉壁面に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動する軟化溶融層の挙動を制御して、膨張圧の上昇を抑制するとともに、原料炭に、コークス化に充分な熱量を与えることができるので、炉操業が安定し、高品質のコークスを継続して製造することができる。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0081】
(実施例1)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、250℃に予熱した水分量0%の原料炭(SCPE21)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、15時間乾留した。図5に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0082】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図6に、昇温速度の変化を示し、図7に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0083】
図7から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る(12)。
【0084】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
(実施例2)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、60℃に予熱した水分量2%の原料炭(DAPS)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、21時間乾留した。図8に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0087】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図9に、昇温速度の変化を示し、図10に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0088】
図10から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る。
【0089】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例3)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、40℃に予熱した水分量5%の原料炭(CMC)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、21時間乾留した。図11に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0091】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図12に、昇温速度の変化を示し、図13に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0092】
図13から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る。
【0093】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例4)
炉幅450mm、炉壁厚100mmの炭化室に、25℃に予熱した水分量9%の原料炭(湿炭)を装入し、(a)標準温度1200℃(比較例)、(b)乾留初期温度1300℃(初期高温)、乾留中期温度1100℃(比較例)、及び、(c)乾留初期温度1100℃(初期低温)、乾留中期温度1300℃(発明例)の炉壁温度で、22時間乾留した。図14に、昇温及び高温も含めた炉壁温度パターンを示す。
【0095】
乾留過程における昇温速度、及び、軟化溶融層の幅の変化を測定した。図15に、昇温速度の変化を示し、図16に、軟化溶融層の幅の変化を示す。
【0096】
図16から、初期低温(発明例)の場合、軟化溶融層の幅は、乾留中期、略一定で、炭化室中央部で合体したときの幅も小さいことが解る。
【0097】
また、軟化溶融層が炭化室中央部で合体したときの比容積(cm3/g)を測定した。これらの測定値に基づいて、膨張圧(kPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0098】
実施例1〜4において、発明例と比較例を対比すると、(i)炭化室中央付近の軟化溶融層の幅が抑制され、それに伴い、(ii)最大膨張圧(乾留後期の膨張圧)も抑制されていることが解る。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、炭化室における石炭の乾留中、炭化室炉壁に沿って生成し、炭化室中央に向かって移動する軟化溶融層の挙動を制御して、膨張圧の上昇を抑制するとともに、原料炭に、コークス化に充分な熱量を与えることができるので、炉操業が安定し、高品質のコークスを継続して製造することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 炭化室
1a 炭化室の左側室
2 燃焼室
3 炉壁
4 軟化溶融層の合体
4a 軟化溶融層
5 コークス
6 原料炭
w 軟化溶融層の幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、乾留の初期、中期、及び、後期における炭化室炉壁の炉壁温度を調整して、乾留開始時に、左右の炭化室炉壁に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動し、炭化室中央部で合体する軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御することを特徴とする室式コークス炉の操業方法。
【請求項2】
前記炉壁温度の調整は、(A)乾留初期において、初期炉壁温度を、炉壁標準温度Ts以下に設定するとともに、該初期炉壁温度に保持し、(B)乾留中期において、中期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以上に設定するとともに、前記初期炉壁温度から該中期炉壁温度に昇温し、かつ、該中期炉壁温度に保持し、(C)乾留後期において、後期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以下に設定し、前記中期炉壁温度から該後期炉壁温度に降温することを特徴とする請求項1に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項3】
前記炉壁温度の調整は、
(x)乾留初期において、初期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTlでtl時間保持し、次いで、
(y)昇温して、中期炉壁温度:炉壁標準温度Ts+ΔTmでtm時間保持し、
その後、
(z)後期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTnまで降温する、
ことを特徴とする請求項2に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項4】
前記基準温度Tsが1150〜1250℃の温度であることを特徴とする請求項2又は3に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項5】
前記ΔTlが50〜150℃であり、tlが3〜8時間であることを特徴とする請求項3又は4に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項6】
前記ΔTmが50〜150℃であり、tmが3〜4時間であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項7】
前記ΔTnが50〜150℃であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項8】
前記昇温の際の昇温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項9】
前記降温の際の降温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項10】
前記原料炭が40〜350℃に予熱されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項1】
室式コークス炉炭化室で原料炭を乾留しコークスを製造する室式コークス炉の操業方法において、乾留の初期、中期、及び、後期における炭化室炉壁の炉壁温度を調整して、乾留開始時に、左右の炭化室炉壁に沿って生成し、その後、炭化室中央部に向かって移動し、炭化室中央部で合体する軟化溶融層の幅及び/又は移動速度を制御することを特徴とする室式コークス炉の操業方法。
【請求項2】
前記炉壁温度の調整は、(A)乾留初期において、初期炉壁温度を、炉壁標準温度Ts以下に設定するとともに、該初期炉壁温度に保持し、(B)乾留中期において、中期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以上に設定するとともに、前記初期炉壁温度から該中期炉壁温度に昇温し、かつ、該中期炉壁温度に保持し、(C)乾留後期において、後期炉壁温度を炉壁標準温度Ts以下に設定し、前記中期炉壁温度から該後期炉壁温度に降温することを特徴とする請求項1に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項3】
前記炉壁温度の調整は、
(x)乾留初期において、初期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTlでtl時間保持し、次いで、
(y)昇温して、中期炉壁温度:炉壁標準温度Ts+ΔTmでtm時間保持し、
その後、
(z)後期炉壁温度:炉壁標準温度Ts−ΔTnまで降温する、
ことを特徴とする請求項2に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項4】
前記基準温度Tsが1150〜1250℃の温度であることを特徴とする請求項2又は3に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項5】
前記ΔTlが50〜150℃であり、tlが3〜8時間であることを特徴とする請求項3又は4に記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項6】
前記ΔTmが50〜150℃であり、tmが3〜4時間であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項7】
前記ΔTnが50〜150℃であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項8】
前記昇温の際の昇温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項9】
前記降温の際の降温速度が0.5〜1.2℃/分であることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【請求項10】
前記原料炭が40〜350℃に予熱されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の室式コークス炉の操業方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−219529(P2011−219529A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87001(P2010−87001)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
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