説明

害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具

【課題】フィザルム属真性粘菌由来の物質を有効成分とする害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、フィザルム属真性粘菌由来の物質を有効成分とすることにより、強力な害虫誘因効果を発揮することができると共に、単剤で使用しても複数種の害虫を広範に誘引することができる。このフィザルム属真性粘菌がフィザルムポリセファルムである場合は一層強力な害虫誘因効果を発揮することができ、複数種の害虫をより広範に誘引することができる。また、生活環が変形体又は菌核の状態であることで運搬等の取り扱いが容易となる。さらに、有効成分に殺虫成分を配合することで誘引された害虫を殺虫成分により駆除することができ、効率的な害虫の誘引・駆除が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィザルム属真性粘菌由来の物質を有効成分とする害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具、詳細には、(A)フィザルム属真性粘菌本体、(B)フィザルム属真性粘菌の破砕物、(C)フィザルム属真性粘菌の本体又は破砕物と溶媒との混合物の、(A)から(C)の群より選択される物質を有効成分とする害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
害虫とは、ヒト、家畜、農産物等にとって有害な作用をもたらす昆虫類等をいう。例えば、ゴキブリやハエ等の衛生害虫は病原菌を機械的に運搬するものであり、またナメクジ等の農業害虫は様々な種類の植物の葉や果実を食い荒らすものである。
【0003】
従来より、これらの害虫を捕獲・駆除するため、害虫誘引物質により害虫を引き寄せて捕獲・駆除する方法が提供されている。この害虫誘引物質を利用して害虫を捕獲・駆除する方法は、害虫を追跡する必要がなく、また害虫誘引物質に殺虫剤を配合すると殺虫剤を害虫に直接投与する必要もないため、簡便かつ効果的な方法として知られている。
【0004】
今日では、様々な種類の害虫誘引物質が知られている。このような害虫誘引物質としては、例えば、ゴキブリ等に対してはジャガイモ、タマネギ、オカラ、米ヌカ及び各種脂肪酸等が知られており、コオロギ、バッタ、カマキリ、カマドウマ等の直翅目に対してはバニリン、ピペロール等が知られている。
【0005】
しかしながら、上記従来の害虫誘引剤は、(a)害虫誘因効果が不十分な場合がある、(b)一種類の害虫誘引剤に対し、複数種の害虫を広範に誘引することができない場合があるという不都合がある。さらに、近年では、害虫誘引物質を分離・抽出し、その化学物質をある程度特定する技術が知られているが(例えば、特開平6−24923号公報、特開平6−172104号公報、特開平9−169611号公報等)、(c)誘引作用を有する化学物質の特定及び分離・抽出が困難であり、生産コストの負担が大きいという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−24923号公報
【特許文献2】特開平6−172104号公報
【特許文献3】特開平9−169611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、強力な害虫誘引作用を有し、複数種の害虫を広範に誘引でき、かつ低コストで生産可能な害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、フィザルム(Physarum)属真性粘菌由来の物質を有効成分とする害虫誘引剤である。具体的には、
(A)フィザルム属真性粘菌本体
(B)フィザルム属真性粘菌の破砕物
(C)フィザルム属真性粘菌の本体又は破砕物と溶媒との混合物の(A)から(C)の群より選択される物質を有効成分とする害虫誘引剤である。
【0009】
このように、フィザルム属真性粘菌由来の物質を有効成分とすることにより、強力な害虫誘引効果を発揮することができると共に、当該害虫誘引剤を単剤で使用しても、複数種の害虫を広範に誘引することができる。また、このフィザルム属真性粘菌は、フィザルムポリセファルム(Physarum Polycephalum)であると良い。これにより、一層強力な害虫誘因効果を発揮することができ、複数種の害虫をより広範に誘引することができる。
【0010】
また、上記フィザルム属真性粘菌が、生活環における変形体又は菌核の状態で用いられていることにより、フィザルム属真性粘菌の運搬、破砕作業、保管等の取り扱いが容易となる。さらに、上記有効成分に殺虫成分を配合することにより、誘引された害虫を殺虫成分により駆除することができ、効率的な害虫の誘引・駆除が可能となる。
【0011】
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、当該害虫誘引剤を有する害虫捕獲具である。この害虫捕獲具は、当該害虫誘引剤と同様に、害虫誘引作用を有する化学物質を特定及び分離・抽出する必要がなく、強力な害虫誘因効果を発揮し、かつ複数種の害虫を広範に誘引・捕獲することができる。
【0012】
ここで、「害虫」とは、ヒト、家畜、農産物等にとって有害な作用をもたらす生物をいう。具体的には、農業害虫、貯穀害虫、衛生害虫、食品害虫、財産害虫、家畜害虫及び不快害虫などをいう。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具は、(A)フィザルム属真性粘菌本体、(B)フィザルム属真性粘菌の破砕物、(C)フィザルム属真性粘菌の本体又は破砕物と溶媒との混合物の3群より選択される物質を有効成分とすることにより、誘引作用を有する化学物質の具体的な特定及び分離・抽出が不要であり、生産コストの負担を軽減することができる。なお、このフィザルム属真性粘菌がフィザルムポリセファルムであっても、同様の低コスト化を実現することができる。
【0014】
また、フィザルム属真性粘菌を生活環における変形体又は菌核の状態で用いることにより、上記有効成分の運搬、破砕作業、保管等の取り扱いが容易となる。さらに、殺虫成分を配合することにより、誘引された害虫を殺虫成分により駆除することができ、効率的な害虫の誘引・駆除が可能となる。
【0015】
その結果、当該害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具によれば、従来の害虫誘引剤における、(a)害虫誘因効果が不十分な場合がある、(b)一種類の害虫誘引剤に対し、複数種の害虫を広範に誘引することができない場合がある、(c)誘引作用を有する化学物質の特定及び分離・抽出が困難であり、生産コストの負担が大きいという不都合を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における実験1の結果を表す図
【図2】実施例における実験2の結果を表す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0018】
本発明の害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具は、フィザルム属真性粘菌由来の物質を有効成分とするものである。具体的には、(A)フィザルム属真性粘菌本体、(B)フィザルム属真性粘菌の破砕物、(C)フィザルム属真性粘菌の本体又は破砕物と溶媒との混合物の3群より選択される物質である。
【0019】
フィザルム属真性粘菌は、特有の生活環を有する。具体的には、子実体から放出された胞子は朽ち木等の好適な場所で発芽し、単層(n)のアメーバ状細胞として放出される。このアメーバ状細胞は微生物を補食して2分裂により増殖する一方、配偶子としても機能し、異なる性の細胞と接合して複層(2n)のアメーバとなる。この複層のアメーバは微生物を補食して、細胞分裂を伴わない核分裂と細胞の成長とを繰り返し、無数の核を持つ多核体の変形体に成長する。
【0020】
この変形体は微生物の補食により成長するが、核が分裂しても変形体そのものは分裂せず、次第に多数の核を含む大きな一つの細胞の塊となる。このような変形体は朽ち木や土壌中などに潜り込んでいることが多く、乾燥時には菌核を形成して休眠を行う。そして、適当な時期になると地表に出てきて、数mm程度の部分に分かれ、それぞれが小さな子実体となる。この子実体の形成に際して変形体の核は減数分裂を起こし、この核を中心に原形質が分割されて単層の胞子を生じる。
【0021】
フィザルム属真性粘菌は、上述の生活環の全サイクルにおいて、特有の芳香を有することが知られている。このような特有の芳香は、ゴキブリやハエ等の害虫を強力に誘引するという性質を有すると共に、複数種の害虫を広範に誘引するという性質を有する。即ち、当該害虫誘引剤は、具体的に特定はされていないが、このようなフィザルム属真性粘菌が有する特有の成分を利用したものである。
【0022】
ここで、上記害虫としては、例えば、ハエ、カ、ゴキブリ、ダニ、ノミのような衛生害虫;アブラムシ、ナメクジ、コナヒョウヒダニ、アザミウマなどの農業害虫;バクガ、コクゾウムシ、ノシメマダラメイガ、コナナガシンクイムシなどの貯穀害虫;カツオブシムシ、コイガ、イガなどの衣類害虫等が挙げられる。
【0023】
フィザルム属真性粘菌本体は、生存している状態のみならず、乾燥又は冷凍保存された状態でも上述の効果を十分に有する。また、この破砕物は、ホモジナイザーやミキサー等により効率的に得ることができ、この破砕物を溶媒に溶かした混合物でも上述の効果を十分に有する。
【0024】
上記溶媒としては、例えば、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、エチルエーテル、プロピルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、エチルメチルケトン等が挙げられる。
【0025】
フィザルム属真性粘菌は、フィザルムポリセファルムであると良い。このフィザルムポリセファルムは、スペルミン又は植物由来のフィトンチッドに似た芳香を有し、強力な害虫誘引作用を発揮することができると共に、複数種の害虫をより広範に誘引することができる。また、様々な細胞生物学的実験において広く用いられており、容易に入手が可能であることから、低コスト化を実現することができる。
【0026】
ここで、上記害虫誘引剤に任意の害虫誘引物質を配合することで、害虫誘引作用を相乗効果により高めることができる。この任意の害虫誘引物質としては、動物性タンパク質、植物性タンパク質、炭水化物、植物性油、動物性油、脂肪酸メチル又はエチルエステル、飽和又は不飽和アルコール、非還元性デンプン加水分解物、シクロヘキシル基を有するカルボン酸エステル、芳香性を有する脂肪酸ケトン、アルコール、アルデヒド、ラクトン、エステル、アロエ又はユーカリ植物、炭素数7から9のケトン、バニリン、エチルバニリン、イソバニリン、ピペロナール、ピペロナールアセトン、2,6−ノナジエーテル等が挙げられる。
【0027】
上記動物性タンパク質としては、例えば、アクチン、アルブミン、カゼイン、フィブリン、フィブリノーゲン、ケラチン、グロブリン(α、β、γ)、ヘモグロビン、ミオシン等が挙げられ、またイナゴ、バッタ、カマキリ、コオロギ、ハチ、アブラムシ、ゴキブリ、チョウ、ガ、ハエ、タマゴ、魚粉、サナギ、オキアミ、エビ、ミルク、チーズ、飼料用酵母、牛肉、馬肉等が挙げられる。
【0028】
上記植物性タンパク質としては、例えば、エデスチン、ゼイン、グリアジン、アラチン、ツェイン、グルテン等が挙げられ、またデンプン粉、小麦粉、米粉、フスマ、大豆、綿実、菜種、ゴマ、粟、ヒエ、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、タマネギ、バナナ、落花生、カボチャ種、ソラマメ等が挙げられる。
【0029】
上記炭水化物としては、例えば、果汁、ハチミツ、廃糖蜜、砂糖きび、パラチノース、α,α−トレハロース、β,β−トレハロース、α,β−トレハロース、ソホロース、ツラノース、ラミナリビオース、ニゲエロース、セルビオース、キシロビオース、ロイクロース、ゲンチオビオース、メルビオース、ルチノース、プリムベロース、ビシアノース、ロビノース、N−アセチルグルコサミン、ガラクツロン酸、マンノース、キシロース、アラビノース、グルクロン酸、グルコサミン、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、黒砂糖、赤砂糖、三温糖、グラニュー糖、アラビノース、ガラクトース、ソルビトール、グリセリン等が挙げられる。
【0030】
上記植物性油としては、例えば、木ロウ、ヤシ油、カカオ油、ヒマシ油、オリーブ油、落花生油、アマニ油、キリ油、麻実油、エノ油糖が挙げられる。また、動物性油としては、例えば、体脂、バター脂、脚脂、鯨油、イルカ油、イワシ油、ニシン油、タラ肝油、サメ肝油、イカ油、ハマグリ油、卵油糖が挙げられる。
【0031】
フィザルム属真性粘菌は、生活環における変形体又は菌核の状態で用いると良い。この変形体は、一般的に数cmから数十cmの大きさと、数mm程度の厚さとを有し、網目状の平たい構造を有する。また、この菌核は乾燥状態で数年以上の生存が可能であり、水分を付与すると変形体に戻る。従って、運搬、破砕作業、保管等の取り扱いが容易となる。
【0032】
上記有効成分には、更に殺虫成分を配合すると良い。これにより、害虫はフィザルム属真性粘菌が有する強力な誘引作用により引き寄せられ、さらに上記有効成分に配合された殺虫成分により誘引された害虫を駆除することとなるため、害虫の誘引・駆除を効率的に行うことができる。このような殺虫成分としては、ピレスロイド系殺虫剤、有機リン系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤、5−メトキシ−3−(O−メトキシフェニル)−1,3,4−オキシジアゾール−2(3H)−オン、1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−N−ニトロイミダゾリジン−2−イリデンアミン等が挙げられる。
【0033】
上記ピレスロイド系殺虫剤としては、例えば、dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル−dl−シス/トランス−クリサンテマート、dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル−d−シス/トランス−クリサンテマート、dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル−d−トランス−クリサンテマート、d−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル−d−トランス−クリサンテマート、(1,3,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−1,3−ジオキソ−2−インドリル)メチル−dl−シス/トランス−クリサンテマート、(1,3,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−1,3−ジオキソ−2−インドリル)メチル−d−シス/トランス−クリサンテマート、(5−ベンジル−3−フリル)メチル−d−シス/トランス−クリサンテマート、3−フェノキシベンジル−dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート、3−フェノキシベンジル−d−シス/トランス−クリサンテマート、α−シアノ−3−フェノキシベンジル−2−(4−クロロフェニル)−3−メチルブチレート、α−シアノ−3−フェノキシベンジル−シス/トランス−2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラート、1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル−dl−シス/トランス−クリサンテマート、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル−dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート、1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル−dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート、1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル−シス/トランス−2,2,3,3−テトラメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート、(+)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテニル(+)−シス/トランス−クリサンテマート、d−トランス−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル−3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート、(±)α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)−シス/トランス−クリサンテマート、dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル−dl−シス/トランス−2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラート、2−(4−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテル等が挙げられる。
【0034】
上記有機リン系殺虫剤としては、例えば、O,O−ジメチル−O−(2,2−ジクロロ)ビニルフォスフェート、O,O−ジメチル−O−(3−メチル−4−ニトロフェニル)チオノフォスフェート、O,O−ジエチル−O−2−イソプロピル−4−メチル−ピリミジル−(6)−チオフォスフェート、O,O−ジメチル−S−(1,2−ジカルボエトキシエチル)−ジチオフォスフェート、O,S−ジメチルアセチルフォスフォロアミドチオエート等が挙げられる。
【0035】
上記カーバメイト系殺虫剤としては、例えば、O−イソプロポキシフェニルメチルカーバメイト、1−ナフチル−N−メチルカーバメイト、エチル・N−〔2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチルベンゾフラン−7−イルオキシカルボニル(メチル)アミノチオ〕−N−イソプロピル−β−アラニナート、エチル−N−ベンジル−N−{〔メチルチオ(1−エチリデン−アミノ−オキシカルボニル)アミノ〕チオ}−β−アラニナート、エチル−2−(4−フェノキシフェノキシ)エチルカーバメイト等が挙げられる。
【0036】
上記害虫誘引剤の剤形については、特に限定されるものではなく、例えば、エアゾール剤、燻煙剤等の剤形で使用することができる。また、害虫の行動範囲と考えられる場所に塗布、噴霧、印刷等をすることもできる。
【0037】
なお、上記害虫誘引剤は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記害虫誘引剤を有する害虫捕獲具を提供することができる。かかる害虫捕獲具の形状等については特に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0039】
<供試害虫>
供試害虫としては、チャバネゴキブリ及びクロゴキブリ(フマキラー株式会社)を使用した。このチャバネゴキブリ及びクロゴキブリは、雌雄の区別はなされていない。
【0040】
[実施例1〜2]
<真性粘菌の培養及び有効成分の調整>
グルコース5g、酵母エキス0.5g、バクトペプトン5g、リン酸二水素カリウム2.3g、リン酸水素二カリウム1.5g、硫酸マグネシウム七水塩0.5g、寒天30gを1リットルの蒸留水で調整し、滅菌後にシャーレに分注し、厚さ0.7cmの寒天培地を作製した。この寒天培地上にフィザルムポリセファルムの変形体を植菌させた後、オートミールを加え、25℃のフラン器の中で3日間培養することにより、変形体を増殖させた。
【0041】
その後、増殖させた変形体をかきとり、それぞれ1g及び2g(全て湿重)に対して1mlの蒸留水を加えてすり潰したものを有効成分とした。そして、変形体1gのものを実施例1とし、変形体2gのものを実施例2とした。
【0042】
[比較例1]
比較例として、牛肉、エビ、ジャガイモ等を成分とするゴキブリ誘引剤(アース製薬)を用意した。
【0043】
[特性の評価]
<実験系の設定>
本誘引実験では、底面に和紙を敷き詰め、壁面内部に粉末タルクを塗布したプラスチック製衣装箱(縦44cm、横66cm、高さ32cm)を実験系として設定した。この衣装箱の内部中心付近に、水を含んだペーパータオル及び木製シェルターを設置した。そして、誘引実験の前日に、この衣装箱の中に10匹のチャバネゴキブリ(実験1)又は10匹のクロゴキブリ(実験2)が放たれ、飢餓状態で一晩静置された。
【0044】
次に、透明な円筒状のポリカップ(直径13cm、高さ9cm)を用意し、供試害虫の出入り口(高さ5cm、横幅8cm)を切り抜いた。このポリカップの外壁及び内壁には粉末タルクが塗布されている。その後、このポリカップに下記(i)から(iii)の処理を行った。
【0045】
(i)実施例1の有効成分(変形体1g)が浸潤したペーパータオルを、粘着テープによりポリカップ内側上面の中心に貼り付けた。
(ii)実施例2の有効成分(変形体2g)が浸潤したペーパータオルを、粘着テープによりポリカップ内側上面の中心に貼り付けた。
(iii)比較例1のゴキブリ誘引剤を、粘着テープによりポリカップ内側上面の中心に貼り付けた。
【0046】
上記ポリカップを衣装箱の中に設置することで、本誘引実験における害虫の誘引活性を評価した。
【0047】
<評価方法>
上記(i)から(iii)のポリカップを衣装箱の中に配置し、それぞれのポリカップに侵入したゴキブリの侵入回数をカウントすることにより、害虫の誘引活性を評価した。
【0048】
カウントの方法については、ポリカップを配置した時刻を0分とし、15分間にわたって、1分ごとに、それぞれのポリカップに侵入したゴキブリの数をカウントした。同じ1分間のインターバルの間に同じ個体が複数回、同じポリカップに侵入した場合は、侵入個体数を1匹とカウントした。例えば、3分から4分の間に同じ個体が同じポリカップに2回侵入した場合、そのカウントは1回となる。
【0049】
ただし、異なるインターバルにおいて同じ個体が同じポリカップに複数回侵入した場合には、複数回の侵入としてカウントした。例えば、3分から4分のインターバルにおいてポリカップに侵入した個体が、再度4分から5分のインターバルに同じポリカップに侵入した場合、そのカウントは2回となる。
【0050】
<実験1>
10匹のチャバネゴキブリが放たれた衣装箱に、上記ポリカップ(i)及び(iii)を配置し、害虫の誘引活性を評価した。なお、外部からの光は全て遮断され、全ての実験工程は、赤色光照射の下、24℃の条件で行われた。
【0051】
<実験2>
10匹のクロゴキブリが放たれた衣装箱に、上記ポリカップ(ii)及び(iii)を配置し、害虫の誘引活性を評価した。なお、外部からの光は全て遮断され、全ての実験工程は、赤色光照射の下、24℃の条件で行われた。
【0052】
<誘引作用の評価>
実験1の結果を図1に示し、実験2の結果を図2に示す。図1及び図2より、実施例1及び実施例2の害虫誘引剤は、クロゴキブリ及びチャバネゴキブリの種類を問わず、比較例1と比べて強力な害虫誘因効果を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明の害虫誘引剤及びこれを有する害虫捕獲具は、フィザルム属真性粘菌由来の物質を有効成分とするものであり、強力な害虫誘引効果を発揮すると共に、複数種の害虫を広範に誘引することができる。さらに、誘引作用を有する化学物質の特定及び分離・抽出が不要となり、また廃棄穀物等を利用した増殖も容易であることにより低コスト化を実現することができることから、害虫の誘引又は駆除の際に広く用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィザルム(Physarum)属真性粘菌由来の物質を有効成分とする害虫誘引剤。
【請求項2】
上記フィザルム属真性粘菌由来の物質が、
(A)フィザルム属真性粘菌本体
(B)フィザルム属真性粘菌の破砕物
(C)フィザルム属真性粘菌の本体又は破砕物と溶媒との混合物
の(A)から(C)の群より選択される請求項1に記載の害虫誘引剤。
【請求項3】
上記フィザルム属真性粘菌が、フィザルムポリセファルム(Physarum Polycephalum)である請求項1又は請求項2に記載の害虫誘引剤。
【請求項4】
上記フィザルム属真性粘菌が、生活環における変形体又は菌核の状態で用いられている請求項1、請求項2又は請求項3に記載の害虫誘引剤。
【請求項5】
上記有効成分に、更に殺虫成分を配合する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の害虫誘引剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の害虫誘引剤を有する害虫捕獲具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−241738(P2010−241738A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93012(P2009−93012)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(509099833)
【Fターム(参考)】