説明

家具用引き出し

【課題】取っ手がトレー本体に対して補強部材として機能すると共に、取っ手自体も高い機械的強度を有し、しかもトレー本体を低コストに製造することができる、家具用引き出しを得ること。
【解決手段】前鏡板12a、後板15、側板13,14および底板16からなるトレー本体11と取っ手部材21とを備え、取っ手部材を、ロッド状部材を曲げて形成し、前記前鏡板、後板および側板を囲んでトレー本体と一体化される保持部21bと、該保持部と連続し前記前鏡板から突出した引き手部21aを備えて形成した家具用引き出し。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は家具用引き出しに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、机などの家具の引き出しは、上面が開放された中空箱形のトレー本体を備えている。トレー本体は前鏡板、後板、側板および底板を組み立てたもので、前鏡板には取っ手が設けられている。
【0003】
トレー本体は、前鏡板、後板、側板および底板をねじ結合、ほぞ結合、接着などによって結合されている。そして、取っ手は、平面から見てU字状などをなす引き手を、その引き手の脚となる部分に形成したねじ軸を前鏡板にある貫通孔を貫通させ、ねじ軸における前鏡板の背面に突出した部分にナットをねじ込むことで前鏡板に固定されている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
また、取っ手部材が、その上部に前面側に突出した手掛かり部を備え、引出し前鏡板に前面からねじ等の固定具を介して取付けた取っ手部材本体と、前記固定具を隠蔽する取っ手部材飾りと、取っ手部材本体と取っ手部材飾りの両側端に嵌合した側飾りとからなるものも提供されている(例えば特許文献2を参照)。
【0005】
従来の引き出しでは、トレー本体にかなりの重量物を収納しても、当該トレー本体が歪んだり、壊れたりしないようにトレー本体を形成する各板を強固に結合し、また、取っ手にトレー本体の出し入れに伴う力が掛っても、取っ手が前鏡板から外れたり、前鏡板が取っ手と一緒に側板や底板から外れるおそれがないように設計、製造されている。従って、取っ手はトレー本体とは別体であったり、前鏡板の一部により当該鏡板と一体に形成されたものが大半である。
【0006】
しかし、トレー本体を構成する各板の結合度を高くしなくても済めば、トレー本体の製造手間やコストを削減でき、また、取っ手にトレー本体の補強部材としての機能を持たせれば、前記トレー本体の製造手間やコストの削減に寄与するものと考えられる。
【特許文献1】特開平5−295932号公報
【特許文献2】特開2004−65558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、取っ手がトレー本体に対して補強部材として機能すると共に、取っ手自体も高い機械的強度を有し、しかもトレー本体を低コストに製造することができる、家具用引き出しを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することを目的としてなされた本発明家具用引き出しの構成は、前鏡板、後板、側板および底板からなるトレー本体と取っ手部材とを備えた家具用引き出しにおいて、取っ手部材を、ロッド状部材を曲げて形成し、前記前鏡板、後板および側板を囲んでトレー本体と一体化される保持部と、該保持部と連続し前記前鏡板から突出した引き手部を備えて形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の家具用引き出しは、前鏡板、後板、側板および底板からなるトレー本体と取っ手部材とを備えた家具用引き出しにおいて、取っ手部材を、ロッド状部材を曲げて形成し、前記前鏡板、後板および側板を囲んでトレー本体と一体化される保持部と、該保持部と連続し前記前鏡板から突出した引き手部を備えて形成したので、取っ手自体が高い機械的強度を有する一方、簡単な構造で十分な強度を有するトレー本体を低コストで製造することができる。
【0010】
すなわち、本発明家具用引き出しでは、取っ手部材が、細目の鋼棒や鋼線のロッド状部材を曲げて形成され、前鏡板、後板および側板を囲んでトレー本体と一体化される保持部と、該保持部と連続し前記前鏡板から突出する引き手部からなっているため、保持部がトレー本体の前鏡板、後板および側板を囲んで、トレー本体の構成部材間の結合を補強する補強部材として作用し、また、引き手部はトレー本体、つまり前鏡板、後板および側板を囲んでそれらと一体化された保持部と連続した一体部材であるから、引き手部自体も大きな機械的強度を備えた引き出しとすることができる。しかも、トレー本体を組み立てた後、取っ手部材の引き手を前鏡板にはめ込むと共に、これに連続する保持部を前鏡板、後板および側板を囲ませて一体化するだけで、取っ手部材をトレー本体に取り付けることができるから、別体の取っ手を改めてトレー本体に組み付ける作業を必要とせず、少ない手間で製造を行うことができる。
【0011】
本発明引き出しにおいては、取っ手部材における保持部と引き手部とを同じ断面形状に形成する、例えば、一本の金属丸棒を曲げ加工することで製造して、製造コストを引き下げているが、トレー本体の構造などに応じて、異なる断面形状に形成したり、異なる外観形状に形成したりするなどしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明家具用引き出しの一実施例を説明する。図において、図1は本発明の家具用引き出しの一実施例を示す背面側から見た斜視図、図2は図1の2−2線に沿う拡大断面図、図3は図1に示す家具用引き出しの分解斜視図である。
【0013】
図1および図3に示すように、この家具用引き出しは、トレー本体11および取っ手部材21を備えている。
【0014】
図示したトレー本体11では、別体前鏡板12と、一枚の板材を切断して切起こした左右の側板13,14、後板15および底板16を備えている。即ち、両側板13,14と後板15および底板16は、例えば、一枚の金属板をプレス成形して、側板13,14、後板15および底板16を形成したあと、側板13,14、後板15を底板16に対して直角に折り曲げることでつくられている。一方、別体前鏡板12が前記両側板13,14と底板16による前部開口にスポット溶接などにより接合されている。図示した例では、側板13,14、後板15および底板16は同じ高さであるが、前鏡板12はこれらよりも高いが、本発明は各板の高さの関係に拘わらず適用可能である。
【0015】
前鏡板12はフラットな前面部12aを備えている。前面部12aの上縁の中央は切り欠かれ、開口12bを形成している。開口12bの両側には係合部12cが設けられている。係合部12cは、図2に示すように、前面部12aの上縁を内面側に向かってチャネル状の断面に折り曲げることによって形成されている。側板13,14は外側面部13a,14aを有し、当該側面部13a,14aには案内部13b,14bが形成されている。案内部13b,14bは、外側面部13a,14aの上部を断面略L字状に曲げ加工することによって形成されている。
【0016】
前記案内部13b,14bの上縁には、そこから外側に向けて曲げ溝状に延びた係合部13c,14cが形成されている。係合部13c,14cは側板13の上縁をチャネル状の断面に折り曲げることによって形成されており、平面から見た幅は案内部13b,14bの深さにほぼ等しい。後板15は背面部15aと係合部15cとを備えている。背面部15aは両側縁が側板13,14の断面形状に従がう輪郭に形成されている。係合部15cは背面部15aの上縁をチャネル断面に折り曲げることによって形成されている。底板16は平板状に形成されている。側板13,14の係合部13c,14cと後板15の係合部15cのチャネル状の断面形状は一致している。
【0017】
取っ手部材21は、例えばばね鋼からなる丸棒などの弾性材によって構成されたロッド状部材を平面から見て略門型をなすように曲げ加工し、平面から見て横向きの引き手部21aとその両側に角度90°曲がって縦向きに連続した保持部21bを具備するように形成されている。ここで、引き手部21aは直線状に形成されているが、その略中央には平面から見て浅い略半月状の引き手21cを備えている。また、左右の保持部21bは、平面から見てこの引き手部21aの両側端から真っ直ぐ後方に向けに延びたように見えるが、前鏡板12の係合部12cと側板13,14の係合部13c,14cとの高さの差に見合う長さの立ち下がり部21dを備え、該部21dの下端から後方へ向け水平に曲がり側板13,14の係合部13c,14cの長さに対応する距離(長さ)を有する左右の水平部21eと、該水平部21eの末端から水平姿勢で内側に向け直角に曲がった、後板15の長さよりも短い左右の押え部21fを備えて形成されている。
【0018】
本発明引き出しは、トレー本体11に対し取っ手部材21における引き手部21aを、引き手21cを前鏡板12の開口12bに対応させた状態で係合部12cに、水平部21eを側板13,14の係合部13c,14cに、押え部21fを後板15の係合部15cにそれぞれに嵌めて固着乃至固定することによって組み立てられる。このようにして取っ手部材21の各部をトレー本体11の対応した各部位(係合部)に嵌め込んで固定すると、取っ手部材21の各部位がトレー本体11を形成している前鏡板12、側板13,14、後板15に結合されて、これら各板12〜15の結合度合を補完増強するから、トレー本体11全体の強度を高めることができる。
【0019】
家具本体への組み込みは、従来の引き出しと同様に、側板13,14にある案内部13b,14b(又はそこに設けた溝状ガイドなど)を家具本体の側板内面に設けられているレール部材などに支持案内させながら家具本体の前面の引き出し用開口に挿入することによって家具本体に装着される。
家具本体からの本発明引き出しの出し入れは、従来の引き出しと同様に、引き手部21aの引き手21cを手でつかみ、手を前後に動かすことで行う。このとき、前鏡板12、側板13,14、後板15は取っ手部材21によって抱持乃至囲撓された形で補強され、底板16と一緒に強固な一つの箱を形成しているため、歪んだり、変形することなく、引き出し全体を机などの家具本体から出し入れすることができる。
【0020】
重量物を本発明引き出しに収納しても、取っ手部材21の全体がトレー本体11を構成する前鏡板12,側板13,14、後板15および底板16を囲む形でこれらと一体化され、かつ、これらの部材と底板16が一体であるから、引き出しを変形させることなく、家具本体から常にスムーズに出し入れすることができる。
【0021】
本発明による家具用引き出しは、上述したように、取っ手部材21の一部を構成する引き手部21aに形成した引き手21cを前鏡板12の開口から出して、残余の左右の保持部21bを前鏡板12、側板13,14および後板15の周囲に嵌め込むなどして一体化するだけで、取っ手付きの引き出しに組み立てることができるので、組み立てを短時間で行うことができる。
【0022】
また、取っ手部材21に上述した機能、作用があることにより、前鏡板12、側板13,14および後板15の接合構造が簡単になるため、組み立て手間が簡単なことと相俟って、引き出しを低コストで製造することができる。そして、前鏡板12の意匠も、従来型取っ手を装着しないので、自由に多様化することができる。
【0023】
なお、以上に説明した実施例において、取っ手部材21の保持部21bは、前鏡板12、側板13,14および後板15の上縁に装着する形態であったが、トレー本体11の形態に応じて、上記例の場合より下方に装着するようにしても、トレー本体11と取っ手自体の機械的強度を確保することができる。また、前鏡板12は開口12bを形成した形態とし、取っ手部材21の引き手21cの挿入を簡単に行えるようにしているが、本発明は、開口21bを設けない前鏡板12に適用できること勿論である。さらに、取っ手部材21の左右の保持部21bの末端部(後端)に、押え部21fに代え、後板15の横幅に見合う長さを有する横バー状押え部材(図示せず)の両端部を保持するための孔や切欠などを設け、取っ手部材21をトレー部材11に装着した後、保持部21bの末端の孔や切欠に前記横バー状押え部材を係合させて保持する形態としてもよい。
【0024】
また、上記実施例において、トレー本体11の外側面を形成する各板12〜15に形成した断面チャネル状の各係合部12c〜15cに、ロッド状部材で形成した取っ手部材21を嵌合保持させることにより、取っ手部材21とトレー本体部材11の一体化を図ったものであるが、トレー本体11、取っ手部材21がスチール製の場合には、各係合部21c〜15cを設けないで、前記取っ手部材21の各部位をトレー本体11の各板12〜15の対応部位にスポット溶接などにより、一体化することもできる。
【0025】
さらに、上記実施例の各係合部12c〜15cは、各板12〜15の上端縁に形成したが、各係合部12c〜15cは、それより下方の位置に、断面溝状の連続体で、或いは、適宜ピッチで並ぶ挟持片の形態などで形成することは任意である。同様の趣旨で、スポット溶接などによる一体化位置も、各板12〜15の上端近傍に限られるものではない。
【0026】
以上に説明した本発明引き出しにおいて、トレー本体11の材質はスチール製に限られるものではなく、本発明は他の材質の金属製、或いは、プラスチック製や、木製のトレー本体に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、以上の通りであって、前鏡板、後板、側板および底板からなるトレー本体と取っ手部材とを備えた家具用引き出しにおいて、取っ手部材を、ロッド状部材を曲げて形成し、前記前鏡板、後板および側板を囲んでトレー本体と一体化される保持部と、該保持部と連続し前記前鏡板から突出した引き手部を備えて形成してあるから、取っ手自体が高い機械的強度を有する一方、簡単な構造で十分な強度を有するトレー本体を低コストで製造することができて、産業上きわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の家具用引き出しの一実施例を示す背面側から見た斜視図。
【図2】図1の2−2線に沿う拡大断面図。
【図3】図1に示す家具用引き出しの分解斜視図
【符号の説明】
【0029】
11 トレー本体
12 前鏡板
12a 前面部
12b 開口
12c 係合部
13,14 側板
13a,14a 側面部
13b,14b 案内部
13c,14c 係合部
15 後板
15a 背面部
16 底板
21 取っ手部材
21a 引き手部
21b 保持部
21c 引き手
21d 立ち下がり部
21e 水平部
21f 押え部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前鏡板、後板、側板および底板からなるトレー本体と取っ手部材とを備えた家具用引き出しにおいて、取っ手部材を、ロッド状部材を曲げて形成し、前記前鏡板、後板および側板を囲んでトレー本体と一体化される保持部と、該保持部と連続し前記前鏡板から突出した引き手部を備えて形成したことを特徴とする家具用引き出し。
【請求項2】
トレー本体は、左右の側板、後板および底板が一枚の板材を切断して切起すことによって形成されている共に、前鏡板が両側板と底板によって形成された前部開口に接合された請求項1の引き出し。
【請求項3】
取っ手部材は、弾性材からなるロッドを平面から見て略門型に曲げ加工して形成されており、引き手部が、略中央部に引き手を備えて前鏡板に一体化されるように形成されると共に、保持部が、前記引き手部の両側から延びて前記両側板に一体化される水平部と該水平部の末端から水平姿勢で内側に向け直角に曲がり前記後板に一体化される押え部を備えて形成された請求項1又は請求項2の引き出し。
【請求項4】
ロッドにより形成された取っ手部材と、トレー本体の前鏡板、両側板、後板との一体化は、前記各板に形成した断面チャネル状の係合部に前記取っ手部材の対応部位を保持させて固定した請求項1〜3のいずれかの引き出し。
【請求項5】
取っ手部材のトレー部材本体に対する固定は、取っ手部材を各係合部に嵌合させることなどにより固定した請求項1〜4のいずれかの引き出し。
【請求項6】
取っ手部材は、保持部および引き手部を同じ断面形状に形成した請求項1〜5のいずれかの引き出し。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−141571(P2006−141571A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333771(P2004−333771)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000149491)株式会社大東製作所 (8)
【Fターム(参考)】