説明

家庭用歯肉溝洗浄システム

【課題】塩素化合物を含んだ水を電気分解して生じる電解水を用いた歯肉溝内の洗浄において、殺菌性電解水の殺菌力の維持と口腔内組織の保護、並びに非殺菌性電解水の即時処理等の条件を同時に満たす、家庭用歯肉溝洗浄システムを提供する。
【解決手段】塩素化合物を含んだ水を2室3電極型電気分解槽1、2で電気分解して、連続的に生成される弱酸性〜弱アルカリ性のpH値の異なる2種類の電解水20を、電気分解槽と接続し、水柱流を生じるメインノズル25とシャワー流を生じるサブノズル24の、2種類の独立したノズルを有するハンドピース21によって、それぞれ別々に、同時に放水することを手段とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、塩素化合物を含んだ水を電気分解して生じる電解水を用いて歯肉溝内の洗浄を行うことを目的とした、家庭用の歯肉溝洗浄システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食塩等の塩素を含む物質を電解質とし、その水溶液を電気分解して得られる電解水を殺菌消毒に用いる一般的な装置が、様々な分野で利用されている。しかしながら、電解水を家庭での口腔内洗浄に用いる場合には、殺菌力ばかりでなく、組織を損傷する恐れのない酸アルカリ性度である必要がある他、使用と使用後の管理が容易である必要があった。
このため、陽電極を設置した電解室と陰電極を設置した電解室が隔膜で仕切られた、2室2電極型電解槽で、希食塩水を電気分解して生成される電解水は、陽極側では強酸性水が、陰極側では強アルカリ性水が生成され、強酸性水は大きな殺菌力を有していたが、酸性度の高さのため、そのまま口腔内で使用することはできなかった。また、連続的に生成される強酸性水と強アルカリ水をそのまま、連続的に混合しても、殺菌力が著しく低下して、実用的ではなかった。
一方、隔膜を設置せず、一つの電解室内に陰・陽二つの電極を設置した、1室2電極型電解槽による、濃度0.1%以下の食塩水の、白金電極を用いた電気分解では、陰極側と陽極側の電解生成物が電解槽の中で混和する他、白金電極の触媒能によって、混和した水溶液中での水酸イオンの方が水素イオンよりも多く存在することから、全体として、組織に安全な弱アルカリ性(pH8〜9)の電解次亜水が生成される方法であったが、電解水のpH値が中性域を越えるアルカリ性であったため、残留塩素濃度が低く、殺菌力が小さい欠点を有していた。
これに対し、従来の1室2電極型電解槽を用い、2〜6%の塩酸水を被電解水として、電解水のpH値が5〜6.5となるように設定した電気分解で生成する電解水は、微酸性電界水と呼ばれ、一般的な使用に十分な殺菌消毒力を有していたが、酸性度が高いため、口腔内での使用には不適当であった。
一般的に、電解水の殺菌消毒力は電解水中の残留塩素濃度にほぼ相関していることから、酸性の電解水ほど残留塩素濃度が高く殺菌力も大きい性質を有していて、pHが7.5を超えるアルカリ性領域では、残留塩素濃度が低く、殺菌力も低い性質を呈していた。このため、従来の2室2電極型電解槽の陽極側で生じた強酸性水に陰極側で生じた強アルカリ水を適当量加えて、そのpH値を中性に近く調整することや、pH調整剤を用いて、従来の1室2電極形型電解槽で生じる電解水のpH値を中性に近く調整する等の様々な方法によって、中性域の電解水を生成し、殺菌力と組織に対する安全性を両立させて、生体の洗浄に用いようとする模索が行われていた。
その様な中、殺菌力のある中性域の電解水を電気的に生成する2室3電極型電解槽の装置が提案され、中性電解水を連続的に生成することが容易になったが、殺菌力のある中性電解水と同時に生成するpH値の異なる非殺菌性電解水の取り扱い方は、従来の一般的なアルカリ性水の処理や利用方法の域を越えるものではなかった。
従来から、隔膜を有した2室型電解槽による、塩素化合物を含んだ水の電気分解は、酸性水とアルカリ性水のpH値の異なる2種類の電解水が同時に生成される方法であったため、酸性水が殺菌消毒用として用いられる一方で、アルカリ性水は、一般的には、その一部を酸性水と混合してpH調整剤として利用する方法、別途貯留して廃棄する方法、有機物の溶解洗浄に用いる方法、あるいは、それらを組み合わせた方法等によって、処理あるいは利用されていたが、家庭での口腔内洗浄に十分適した方法には到っていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明は、塩素化合物を含んだ水を電気分解して生じる電解水を用いた歯肉溝内の洗浄において、殺菌性電解水の殺菌力の維持と口腔内組織の保護、並びに非殺菌性電解水の即時処理等の条件を同時に満たす、家庭用歯肉溝洗浄システムの開発を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
塩素化合物を含んだ水を2室3電極型電気分解槽で電気分解して、連続的に生成される弱酸性〜弱アルカリ性のpH値の異なる2種類の電解水を、電気分解槽と接続し、水柱流を生じるメインノズルとシャワー流を生じるサブノズルの、2種類の独立したノズルを有するハンドピースによって、それぞれ別々に、同時に放水することを手段とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本願発明の実施例を図面にもとづいて説明する。
【0006】
図1は、2室3電極型電気分解槽に送水系装置を接続して成る流水型電解水生成装置の、構成を示す模式図である。
隔膜3によって二つの電解室に分けられた電解槽の、一方の電解室に陰電極I6と陽電極5を設置して主電解室1とし、他方の電解室に陰電極II7を設置して副電解室2とする。
主電解室1と副電解室2とから成る電解槽は、その基底部において、送水用加圧ポンプ13からの給水を受けて電解槽に配水する配水槽4と接続している。
一つの可動端子と二つの固定端子を持つ可変抵抗器8の、可動端子をバッテリー9の陰極側と接続し、二つの固定端子の内の一つを、主電解室1内の陰電極I6に接続し、他の固定端子を、副電解室2内の陰電極II7に接続して、陽電極5とバッテリー9の陽極側とを電気分解回路スイッチ10を介して接続する。
電極はすべて白金電極、またはチタンに白金メッキを施す等の処置をした、電極表面が白金である白金代替電極を用いるものであり、3端子を有する可変抵抗器8の可動端子は、両端にある固定端子間をスライドできるものである。そして、その可動端子の位置が可変抵抗器8の一方の端に位置する場合には、一方の陰電極が負う電気抵抗が実効値的に0となると共に、他方の陰電極が負う電気抵抗が実効値的に無限大となるものである。また、その可動端子の位置が可変抵抗器8の、他方の端に位置する場合には、その逆となるものである。そして、この間では、可動端子をスライドさせることによって、陰電極I6と陰電極II7から、バッテリー9の陰極側に到るそれぞれの電気抵抗が、連続して無段階的に相反的に変化するものであり、これによって回路に流れる電流を、陰電極I6と陰電極II7に相反的に分流制御するものである。
本図面では、可動端子が可変抵抗器8の左端に位置する時には、主電解室1にある陰電極I6が負う電気抵抗が、実効的に0となるものであり、副電解室2にある陰電極II7が負う電気抵抗は、実効的に無限大となるものである。また、可動端子が可変抵抗器8の右端に位置する時には、各陰電極が負う電気抵抗が上記と逆の状態になるものである。そして、可変抵抗器8の可動端子をスライドさせることによって、各陰電極からバッテリーの陰極側に到る電気抵抗を、無段階的に可逆的に相反的に制御して、主電解室1と副電解室2の中で生じる陰電極反応を制御するものである。
送水系装置と接続した電解槽では、送水用加圧ポンプ13によって貯水槽16から送られてきた、濃度0.1%以下の食塩水20を、配水槽4を経て、陰電極I6と陽電極5を設置してある主電解室1内と、陰電極II7を設置してある副電解室2に給水してこれを通過させ、この間に、各白金電極の極性と通電量に応じた電気分解反応によって電解水を生成し、各室の流出口I11、流出口II12から流出させるものである。
【0007】
図2は、歯肉溝洗浄システムに用いる流水型の2室3電極型電気分解槽とハンドピースとの接続を示すものであり、主電解室1と副電解室2で生成されたpH値の異なるそれぞれの電解水を、送水チューブI26、送水チューブII27を経由して、ハンドル部21、ネック部22、ヘッド部23とから構成されるハンドピースに導き、ヘッド部23に設置した円錐型のメインノズル25の先端から、主電解室1で生成された電解水を一本の水柱流28として前方に放水すると共に、同じく、別途ヘッド部22に設置したサブノズル24から、副電解室2で生成された電解水をシャワー流29として、メインノズルからの放水と同時に放水するものである。
【0008】
図3は、ハンドル部、ネック部、ヘッド部とから構成され、主電解室1の流出口I11と、水柱状放水を行うメインノズル25が送水チューブI26で接続され、副電解室2の流出口II12と、環状シャワー放水を行うサブノズル24が送水チューブII27で接続されて成るハンドピースから、電解槽で生成されたpH値の異なる二種類の電解水を、別々に同時に放水する様子を示す模式図である。
【0009】
その他の実施例として、
a.システムの稼動に際して、食塩水の濃度、バッテリー電圧、被電解水の流量等を規定することにより、可変抵抗器を用いずに、それぞれの陰電極をそれぞれの固有抵抗器に接続してバッテリーの陰極側に並列に接続する、固定抵抗式電気回路の構成が可能である。
b.円錐形ヘッド部の基底部に集束性超音波振動子を設置して、メインノズルの先端から放水する電解水に超音波を載せて照射し、物理的洗浄力を高めることが可能である。
c.配水槽から各電解室の流出口まで、バルブの付いた送水用のバイパスを設けて、貯水タンクの水を各電解水に混合することにより、酸塩基度の調整と口腔内での中和反応を緩和する予備機構とすることができる。
d.ポンプの出力制御の他、給水系経路の中に調節性バルブを設置して、ノズルからの放水量を調節することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本実施例の効果を下記に示す。
a.弱酸性〜弱アルカリ性の電解水を生成することが可能であるため、弱酸性〜中性域の電解水を殺菌消毒に利用できることから、歯牙の脱灰や補綴金属の酸蝕等を防止し、組織の融解、損傷等を防止できる歯肉溝洗浄システムの開発に資することができる。
b.ウ蝕病原菌や歯周病原菌を殺菌消毒して、口腔疾患の予防を期待することができる。
c.歯ブラシの届かない歯肉溝内部においても、殺菌消毒作用だけではなく、メインノズルから放水される水柱流の洗浄作用によって、歯肉溝内に滞留している菌体毒素や炎症性代謝物の洗い流しが可能であり、歯周病を予防する効果を期待することができる。
同時に放水されるサブノズルからのシャワー流によって、不良タンパクや脂質の溶解、口腔内における電解水の中和等が行われ、口腔内の浄化と電解水の排水に適した無害化が同時に行われる。
d.電解水の殺菌消毒作用が、ウ蝕や歯周病原菌以外の細菌にも及ぶことから、口腔咽頭内の細菌を抑制して、誤嚥性肺炎や、風邪、インフルエンザ等の感染を、間接的に予防する効果を期待することができる。
e.本実施例では、流水型のシステムであり、電解室で生成される電解水をすべて、別々に同時に口腔内に放水して、口腔内で混和し、中和、希釈等の作用を利用して、電解水の無害化をはかり、排水するものである。これによって、電解水による殺菌消毒作用を利用しながら、排水の環境に与える影響を少なくすることができる他、排水のための処理を無用とすることができるため、家庭での使用に便利である。
f.一般的に、次亜塩素酸等の塩素系化合物による殺菌消毒作用は、被洗浄野が脂質や不良タンパク等の有機物で汚染されている場合、大きく低下することが知られている。同時に、塩素系化合物による洗浄の前に、被洗浄野からそれらの汚染物質を洗浄除去しておくことは、塩素系化合物による殺菌消毒の作用効果を大きく高めることも知られている。
本実施例では、可変抵抗器を操作して、主電解室で弱アルカリ性電解水を生成してメインノズルから放水し、歯肉溝内を洗浄浄化した後、中性域、あるいは弱酸性電解水を生成して殺菌洗浄を行うことが容易であり、前処置も含めた効果的な洗浄が可能である。
g.歯牙の脱灰は、pH値が5.5以下で生じるとされており、それ以上のpH値では生じない。
本願発明では、pH値が6.5〜7.5の、歯牙を含む口腔組織に安全な電解水を生成することが容易であり、且つ、電解水を用いた殺菌消毒では耐性菌が生じないことから、口腔感染症の予防を目的として、家庭で永く使用しても安全であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】は、本願発明の実施例で示した、2室3電極型電気分解槽に給水装置を接続して成る電解水生成装置の、構成を示す模式図である。
【図2】は、上記の電解水生成装置と、水柱流を生じるメインノズルとシャワー流を生じるサブノズルの2つの独立したノズルをヘッド部に有するハンドピースを、2本の給水チューブで接続して成る本願発明の、構成を示す模式図である。
【図3】は、ハンドピース先端のヘッド部に設置されたメインノズルとサブノズルから、pH値の異なる2種類の電解水が、それぞれ別々に同時に放水される様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0012】
1.主電解室
2.副電解室
3.隔膜
4.配水槽
5.陽電極
6.陰電極I
7.陰電極II
8.可変抵抗器
9.バッテリー
10.電気分解回路スイッチ
11.流出口I
12.流出口II
13.送水用加圧ポンプ
14.送水用パイプ
15.吸水用パイプ
16.貯水槽
17.送水用加圧ポンプ制御回路
18.送水用加圧ポンプ制御回路バッテリー
19.送水用加圧ポンプスイッチ
20.被電解水(濃度0.1%以下の食塩水)
21.ハンドピースハンドル
22.ハンドピースネック
23.ハンドピースヘッド
24.サブノズル
25.メインノズル
26.送水チューブI
27.送水チューブII
28.水柱流
29.シャワー流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化合物を含んだ水を電気分解して生じるpH値の異なる2種類の電解水を、ハンドピースのヘッド部に設置した、水柱流を生じるメインノズルとシャワー流を生じるサブノズルの2種類のノズルから、それぞれ別々に、同時に放水することを特徴とする、家庭用歯肉溝洗浄システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−75844(P2012−75844A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237969(P2010−237969)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000194413)
【Fターム(参考)】