説明

家畜家禽用飼料および畜産物の生産方法

【課題】本発明は脂肪に脂っぽさがなく、うまみ、こくがあり、しかも脂肪の蓄積を抑えられる畜産物を生産するための飼料および該飼料を給与して生産された畜産物の提供。
【解決手段】飼料に含まれる脂肪の脂肪酸組成についてC6〜C14の割合が8%以上で、しかもC6〜C14の組成についてC12以上が50%以上である家畜家禽飼料を給与することにより、脂肪に脂っぽさがなく、うまみ、こくがあり、しかも脂肪の蓄積を抑えられる豚肉、ブロイラー肉、または鶏卵などの畜産物を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂っぽさがなく、うまみ、こくがあり、しかも脂肪蓄積を抑えることができるヘルシーな畜産物を生産するための家畜家禽用飼料および該飼料で生産された畜産物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肉質を改善しておいしい畜産物を生産する方法としては、酵素を含んだパイナップル粕を飼料に添加して家畜を飼育する方法(特許文献1)、肉質、色調を改善する方法としては、飼料にタンニン、カフェインを配合する方法(特許文献2)が知られている。また大豆、トチュウ、ウコギ科植物、動物胆またはそれらの抽出物あるいは酵素分解物を飼料に添加して肉質を改善する方法(特許文献3)も提案されている。
鳥類の肉質を改善しておいしい肉を生産する方法としては、飼料にフラボノイドを添加したり(特許文献4)、アミロース含量50%以上の澱粉を湿熱処理して得られた難消化素材を飼料に添加して飼育する方法(特許文献5)が知られている。
これらの方法により、肉質や色調が改善された畜産物の生産が可能となったが、消費者からは更においしい肉質が要望されている。
【0003】
さらに、家畜用飼料にC6〜C12の中鎖脂肪酸やその塩、誘導体を配合することも、知られている(特許文献6,7)が、その目的は抗菌性や消化吸収性の向上であり、畜産物の食味や品質を向上させることは知られていなかった。
【特許文献1】特開2001−34625号公報
【特許文献2】特開平6−09720号公報
【特許文献3】特開平7−313070号公報
【特許文献4】特開2005−137217号公報
【特許文献5】特開2004−222647号公報
【特許文献6】特開2003−535894号公報
【特許文献7】WO03/093229パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の技術と異なり一般の油脂の脂肪酸であるC16〜C24でなくそれ以下の炭素数の脂肪酸を含んだ畜産物を生産し、その脂肪酸の作用により脂っぽさがなく、誰もがおいしいと感じる畜産物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
畜産物のおいしさは、脂肪のおいしさに関連していることが昔から言われており、おいしい畜産物を生産することはおいしい脂肪の肉を作出することとの考えから、本発明者は、飼料の脂肪と畜産物の関係を鋭意研究してきた。
その中で特に脂肪酸組成に着目し、飼料の脂肪中の脂肪酸組成と畜産物の脂肪酸組成の関係から飼料中の脂肪酸が畜肉に移行しやすい脂肪酸の研究を行い本発明の知見を得たものである。
【0006】
脂肪とは、主にトリグリセライドといいグリセリンに脂肪酸が三つ付いたものである。脂肪酸には、酪酸(C4:0)、ヘキサン酸(C6:0)、オクタン酸(C8:0)、デカン酸(C10:0)ラウリン酸(C12:0)、ミリスチン酸(C14:0)、ミリストレン酸(C14:1)、ペンタデカン酸(C15:0)、ペンタデセン酸(C15:1)、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレン酸(C16:1)、ヘプタデカン酸(C17:0)、ヘプタデセン酸(C17:1)ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキジン酸(C20:0)、イコセン酸(C20:1)、イコサジエン酸(C20:2)、イコサトリエン酸(C20:3)、アラキドン酸(C20:4)、ベヘン酸(C22:0)、ドコセン酸(C22:1)がある。ここで、脂肪酸名の右の数値、たとえばC18:1は、脂肪酸の炭素の数が18で二重結合が1個であることを示す。
この脂肪酸について一般に飼料、あるいは畜産物に含まれる脂肪の脂肪酸は、C16以上のものがほとんどである。
【0007】
本発明は、豚肉、ブロイラー肉、鶏卵には一般に含有していない脂肪酸であるC14以下の脂肪酸に着目して研究を重ねた。C6〜C14の脂肪酸は、摂取すると体内で分解されやすく体内に蓄積しにくい脂肪酸で体脂肪増加を抑制すると言われている。
豚、ブロイラー、採卵鶏をC14以下の脂肪酸の割合が多い脂肪を含んだ飼料で飼育すると豚肉、ブロイラー肉、鶏卵で有意にC14以下の脂肪酸が増加することが認められた。
そして、これらC6〜C14の脂肪酸を多く含む畜産物は、旨味が強く、こくがあり、しかも脂っこさがない好ましい味を呈することが判明した。
【0008】
したがって、本発明では、飼料に含まれる脂肪の脂肪酸組成についてC6〜C14の割合が8%以上で、しかもC6〜C14の組成についてC12以上が50%以上である家畜家禽飼料を用いて家畜家禽を生産し、肉や卵に含まれる脂肪酸組成中のC6〜C14の割合が4%以上の畜産物を提供するものである。
なお、本発明が対象とする家畜用飼料に含まれる脂肪の量は、通常2〜9%程度である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、家畜家禽用の飼料中の脂肪酸の割合を調整し、こられの飼料を給与するだけで、脂っぽさがなく、うまみ、こくがあり、しかも脂肪蓄積を抑えることができるヘルシーな畜産物を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
C6〜C14の脂肪酸が多い飼料原料としては、パーム核油、やし油、バターがあげられる。
パーム核油の脂肪酸組成中のC6〜C14の割合は69%、やし油の脂肪酸組成中のC6〜C14の割合は80%、バターの脂肪酸組成中のC6〜C14の割合は26%である。
これらに着目し飼料原料として、パーム核油、やし油、やし胚乳皮の検討をおこなった。ここで、やし胚乳皮とは、やし胚乳の周りの皮部分のことをいい脂肪含量が50%程度である。
【0011】
パーム核油、やし油、やし胚乳皮を肉豚用飼料、ブロイラー飼料、成鶏用飼料に配合して飼料を作成し、豚、ブロイラー、採卵鶏に給与した。
給与した畜産物について脂肪を分析した結果有意にC6〜C14の脂肪酸が増加していた。
【0012】
本発明者の調査によれば、飼料中のC6〜C14が畜産物に移行する割合は、豚について飼料中の脂肪のC6〜C14の脂肪酸割合に対してその飼料で飼育された豚肉の脂肪中のC6〜C14脂肪酸割合は40%〜50%であった。
ブロイラーについても飼料中脂肪のC6〜C14の脂肪酸に対してその飼料で飼育されたブロイラー肉の脂肪中のC6〜C14の脂肪酸割合は40%〜50%であった。
採卵鶏についても飼料中脂肪のC6〜C14の脂肪酸割合に対してその飼料で生産された鶏卵の脂肪中のC6〜C14の脂肪酸割合は40%〜50%であった。
【0013】
C6〜C14の脂肪酸の脂を含んだ、豚肉、ブロイラー肉、鶏卵について食味テストを実施したところ、含まないものに較べて明らかに味、風味が良く、また脂っこさが無いことを発見した。特にC6〜C14の脂肪酸のなかでも、C12以上の脂肪酸の割合が50%以上であるものが風味に優れていた。これは、C6〜C10の脂肪酸の割合が50%を超えると脂肪の融点が下がり脂肪は口の中でべたつき、味が悪くなるためと考えられる。
【0014】
食味テストの実施により豚肉、ブロイラー肉、鶏卵について各脂肪の脂肪酸中のC6〜C14の割合が4%以上である場合は味、風味が優れ、脂っこさがない結果が得られた。ちなみに一般の飼料で飼育した豚肉の脂肪酸C6〜C14の割合は1.3〜1.7%でブロイラー肉では0.9%〜1.2%、鶏卵については0.2〜0.5%である。
本発明の具体例を以下の実施例で詳しく説明する。
【実施例1】
【0015】
≪豚肉での実施例≫
表1に肉豚用飼料配合及び飼料中脂肪の脂肪酸のC6〜C14割合と生産された豚肉の脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合を示す。
表1に示す配合割合からなるA〜Hの飼料を作成し60kgの豚に対して出荷まで給与した。出荷した豚肉について脂肪酸を分析して脂肪中の脂肪酸組成を出した。
飼料中脂肪酸のC6〜C14の割合に対して生産された豚肉の脂肪酸のC6〜C14の割合は40%〜50%であった。
【0016】
(表1)肉豚用飼料配合割合及び飼料中脂肪の脂肪酸のC6〜C14割合と生産された豚肉の脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合(%)

【0017】
20人のパネラーで生産されたA〜Hの豚肉のロース肉をスライスして90℃の湯中で1.5分間加熱して食味試験を実施した。
評価法としては以下の方法を採用し、パネルの平均点数を算出した。

【0018】
表2に食味試験結果の集計を示す。表の結果が示すように、飼料Dにおける脂肪酸組成のC6〜C14の割合以上の飼料で生産された豚肉は、明らかに味が良く、脂っぽさがなくなる結果が得られた。
【0019】
(表2)豚肉の食味試験結果

【実施例2】
【0020】
≪ブロイラーでの実施例≫
表3にブロイラー後期用飼料配合及び飼料中脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合と生産されたブロイラーの脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合を示す。
表3に示される配合割合からなるA〜Hの飼料を作成し40日令以降のブロイラーに出荷まで給与した。
生産されたブロイラー肉について脂肪酸を分析して脂肪中の脂肪酸組成を出した。
飼料中脂肪酸のC6〜C14の割合に対して生産されたブロイラー肉の脂肪酸のC6〜C14の割合は40%〜50%であった。
【0021】
(表3)ブロイラー後期用飼料配合及び飼料中脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合と生産されたブロイラーの脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合(%)

【0022】
20人のパネラーで生産されたA〜Hのブロイラーモモ肉をぶつ切にして90℃の湯中で
4分間加熱して食味試験を実施した。
評価法は豚肉と同様の方法で実施した。食味試験結果の集計を表4に示す。表の結果が示すように、飼料Dにおける脂肪酸組成のC6〜C14の割合以上の飼料で生産されたブロイラーモモ肉では、明らかに味が良く、脂っぽさがなくなった結果が得られた。
【0023】
(表4)ブロイラーモモ肉の食味試験結果

【実施例3】
【0024】
≪鶏卵での実施例≫
表5に採卵鶏飼料配合及び飼料中脂肪の脂肪酸のC6〜C14割合と生産された鶏卵の脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合を示す。
表5に示す配合割合からなるA〜Hの飼料を作成し採卵鶏に給与した。生産された鶏卵の脂肪酸を分析して脂肪中の脂肪酸組成を出した。
飼料中脂肪酸のC6〜C14の割合に対して生産された鶏卵の脂肪酸のC6〜C14の割合は40%〜50%であった。
【0025】
(表5)採卵鶏飼料配合及び飼料中脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合と生産された鶏卵の脂肪の脂肪酸のC6〜C14の割合(%)

【0026】
20人のパネラーで生産されたA〜Hの鶏卵を90℃の湯中15分加熱してゆで卵にして食味試験を実施した。
評価法は豚肉と同様の方法で実施した。表6に食味試験結果の集計を示す。食味試験したパネルの平均点数を示す。表の結果が示すように、飼料Dにおける脂肪酸組成のC6〜C14の割合以上の飼料で生産された鶏卵では、明らかに味が良く、脂っぽさがなくなった結果が得られた。
【0027】
(表6)ゆで卵の食味試験結果

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の飼料で飼育生産された豚肉、ブロイラー肉、鶏卵についてこく、旨味があり脂っこくなくさっぱりした畜産物で、身体に付きにくい脂肪を含んだ健康に良い畜産物が生産できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼料に含まれる脂肪の脂肪酸組成についてC6〜C14の割合が8%以上で、しかもC6〜C14の組成についてC12以上が50%以上である家畜家禽用飼料。
【請求項2】
家畜家禽が、豚、ブロイラー、または採卵鶏である請求項1記載の飼料。
【請求項3】
請求項1記載の飼料を給与して生産された生産物において脂肪に含まれる脂肪酸中のC6〜C14の割合が4%以上である畜産物。

【公開番号】特開2008−54537(P2008−54537A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232935(P2006−232935)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000162397)協同飼料株式会社 (10)
【Fターム(参考)】