説明

家畜肉質改善剤、家畜肉質改善方法及び家畜

【課題】短期間で簡便かつ安価に、食肉の硬さや肉粒感を制御することができる家畜肉質改善剤、家畜肉質改善方法及び家畜の提供。
【解決手段】本発明の家畜肉質改善剤は、アセチルヒドロキシプロリンを含有し、家畜の筋肉における剪断応力(SFV)、切断応力(SAC)、及び不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜肉質の改善に好適な家畜肉質改善剤及び家畜肉質改善方法、並びにこれらを用いて飼育される家畜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、畜産業において、食肉の呈味、香り、硬さ、肉粒感等の物性を制御することにより、嗜好性の追求が試みられており、食肉の美味しさに影響を与える割合が最も大きい物性として、食肉の硬さ、肉粒感等が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一般に、食肉の硬さ、肉粒感等の物性は、加齢に伴う家畜の筋肉中に含まれる不溶性コラーゲン量に大きく影響されることが報告されているが、所望の食肉の硬さなどを得るためには、飼育に長期間を要し、コストがかかるという問題がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
また、現在、食肉の硬さや肉粒感等の物性は、交配による品種改良、加工熟成等により制御されているが、そのような技術を用いると、コストが高く、市場ニーズに応じた食肉の硬さ、肉粒感を提供するまでに長期間を要するだけでなく、制御に際して高度な技術が必要とされているという問題がある。
【0005】
したがって、簡便かつ安価に、家畜の筋肉中における不溶性コラーゲン量を短期間のうちに制御することができ、市場ニーズに応じた食肉の硬さや肉粒感を有する食肉を提供することができる技術が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Szczesniak AS and Kleyn DH.1963.Food Technology,17:74−77.
【非特許文献2】Nakamura R,Sekoguchi S and Sato Y.1975.Poultry Science,54:1604−1612
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、短期間で簡便かつ安価に、食肉の硬さや肉粒感を制御することができる家畜肉質改善剤及び家畜肉質改善方法、並びにこれらを用いて飼育される家畜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、アセチルヒドロキシプロリンを含有する家畜肉質改善剤を用いることにより、短期間で簡便かつ安価に、食肉の硬さや肉粒感を制御することができることを見出した。
本願発明の家畜肉質改善剤を用いることにより、地鶏様の歯ごたえのある、しっかりとした肉質を提供することができるだけでなく、鍋料理や煮物料理に対して、煮崩れしない食肉を提供することができる。また、近年、育種(遺伝的)改良や飼育方法の改良等により、成長速度の改善が進行し、これにより出荷日齢が早期化されて、食肉の物性がより柔らかくなる傾向にある。本願発明の家畜肉質改善剤は、このような改良を行った家畜に対し、十分な歯ごたえや食感を付与することができる大変有効な技術である。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> アセチルヒドロキシプロリンを有効成分として含有することを特徴とする家畜肉質改善剤である。
<2> アセチルヒドロキシプロリンの含有量が、2質量%以上である前記<1>に記載の家畜肉質改善剤である。
<3> 肉質改善が、家畜の筋肉における剪断応力(SFV)の増加である前記<1>から<2>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤である。
<4> 肉質改善が、家畜の筋肉における切断応力(SAC)の増加である前記<1>から<2>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤。
<5> 肉質改善が、家畜の筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)の増加である前記<1>から<2>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を家畜に給与することを特徴とする家畜肉質改善方法である。
<7> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を家畜に給与することを特徴とする家畜の飼育方法である。
<8> 前記<7>に記載の家畜の飼育方法により飼育されることを特徴とする家畜である。
<9> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における剪断応力(SFV)と比較して、筋肉における剪断応力(SFV)が増加する前記<8>に記載の家畜である。
<10> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における切断応力(SAC)と比較して、筋肉における切断応力(SAC)が増加する前記<8>に記載の家畜である。
<11> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)と比較して、筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)が増加する前記<8>に記載の家畜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、短期間で簡便かつ安価に、食肉の硬さや肉粒感を制御することができる家畜肉質改善剤及び家畜肉質改善方法、並びにこれらを用いて飼育される家畜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例及び比較例のSFVの測定試験の結果を示す図である。
【図2】図2は、実施例及び比較例のSACの測定試験の結果を示す図である。
【図3】図3は、実施例及び比較例の不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(家畜肉質改善剤)
本発明の家畜肉質改善剤は、アセチルヒドロキシプロリンを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0013】
<アセチルヒドロキシプロリン>
前記アセチルヒドロキシプロリンは、コラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンをアセチル化処理して得られる物質であり、下記構造式(1)で表される化合物である。前記アセチルヒドロキシプロリンは、欧州において創傷治療薬として実用化されており、日本でも化粧品等にも利用されている。
【化1】

【0014】
前記アセチルヒドロキシプロリンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、AHYP(協和発酵バイオ株式会社製)などが挙げられる。
【0015】
前記アセチルヒドロキシプロリンの前記家畜肉質改善剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。
前記含有量が、0.5質量%未満であると、物性に影響しないことがある。一方、前記2質量%以上であると、短期間で簡便かつ安価に、食肉の硬さや肉粒感を制御することができる点で有利である。
【0016】
前記アセチルヒドロキシプロリンの前記家畜肉質改善剤を飼料に添加する際の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。
前記含有量が、0.5質量%未満であると、物性に影響しないことがある。一方、前記含有量が、2質量%以上であると、食肉の硬さや肉粒感を制御することができる点で有利である。
【0017】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、飼料が好適に挙げられ、飼料成分、代用乳、代用乳成分、飲料水、動物用医薬製剤用補助剤、崩壊剤、発泡剤、色素、甘味料、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記飼料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、魚粉、フィッシュソルブル、肉粉、肉骨粉、血粉、分解毛、骨粉、家畜用処理副産物、フェザーミール、蚕よう、脱脂粉乳、カゼイン、乾燥ホエー、アルファルファ、ヘイキューブ、アルファルファリーフミール、ニセアカシア粉末、大豆タンパク、コーングルテンミール、コーングルテンフィード、コーンステープリカー、デンプン、酵母、ビールかす、麦芽根、アルコールかす、しょう油かす、柑橘加工かす、豆腐かす、コーヒーかす、ココアかす、キャッサバ、そら豆、グアミール、海藻、オキアミ、スピルリナ、クロレラ、鉱物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
<家畜肉質改善剤の製造方法>
前記家畜肉質改善剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記アセチルヒドロキシプロリンと前記その他の成分とを溶媒に添加して製造されてもよく、前記アセチルヒドロキシプロリンと前記その他の成分とを混合させて製造されてもよく、前記アセチルヒドロキシプロリンそのものを用いてもよい。
【0020】
<家畜肉質改善剤の使用形態>
前記家畜肉質改善剤の使用形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記に記載の投与方法、剤形などが挙げられる。
【0021】
−投与方法−
前記家畜肉質改善剤の家畜に対する投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与、経腸投与、静脈内投与などが挙げられる。
【0022】
−剤形−
前記家畜肉質改善剤の家畜に対する剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などが挙げられる。
【0023】
<家畜肉質改善剤により得られる肉質>
本発明の家畜肉質改善剤を用いることにより、短期間で、家畜の筋肉における剪断応力(SFV)、切断応力(SAC)、及び不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)が増加するため、所望の食肉の硬さや肉粒感となるよう制御することができ、家畜肉質を改善することができる。
【0024】
−剪断応力−
前記家畜の筋肉における剪断応力(Shear force value:SFV)は、食肉物性の主要評価項目であり、食肉の硬さを評価する際の指標である。
前記家畜の筋肉におけるSFVの増加率(前記家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉におけるSFVに対する増加率)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、家畜の肉質を改善することができ、所望の食肉の硬さが得られる点で、20%〜100%が好ましい。
【0025】
−切断応力−
前記家畜の筋肉における切断応力(Stress of arc cutting:SAC)は、食肉の肉粒感を評価する際の指標である。
前記家畜の筋肉におけるSACの増加率(前記家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉におけるSACに対する増加率)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、家畜の肉質を改善することができ、所望の肉粒感が得られる点で、20%〜300%が好ましい。
【0026】
−不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比−
前記家畜の筋肉中に含まれるコラーゲンとして、不溶性コラーゲン及び可溶性コラーゲンがある。前記コラーゲンは、加齢に伴い、コラーゲンの加熱溶解性が低下して、前記不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)が増加し、筋肉が硬くなることが知られている。
前記家畜の筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、家畜の肉質を改善することができ、所望の食肉の硬さ及び肉粒感が得られる点で、1.5〜3が好ましい。
【0027】
<家畜肉質改善剤の用途>
本発明の家畜肉質改善剤は、食肉の硬さ及び肉粒感を制御することができるため、家畜の肉質を改善する方法として好適に使用することができ、家畜の飼育栄養による食肉物性を制御することができる。また、本発明の家畜肉質改善剤を給与されて飼育された家畜を用いた食肉は、所望の硬さ及び肉粒感に調整することができるため、硬い肉が好まれる調理や柔らかい肉が好まれる調理のどちらにも好適に利用することができる。
【0028】
(家畜肉質改善方法)
前記家畜肉質改善方法としては、前記家畜肉質改善剤を用いて家畜の肉質を改善する方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記家畜肉質改善剤を家畜に給与して改善する方法が好ましい。
【0029】
(家畜の飼育方法)
前記家畜の飼育方法としては、前記家畜肉質改善剤を家畜に給与する方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、離乳期〜飼育後期、飼育前記〜飼育後期、又は飼育後期のいずれかの時期の家畜に、前記家畜肉質改善剤を混ぜた飼料を給与することにより飼育する方法などが挙げられる。これらの中でも、飼育後期の家畜に、前記家畜肉質改善剤を給与することにより飼育する方法が、短期間で筋肉の硬さと柔らかさを制御することができる点で好ましい。
【0030】
前記家畜の前記家畜肉質改善剤を給与する期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、家畜の肉質を改善することができ、所望の食肉の硬さ及び肉粒感が得られる点で、5日間〜28日間が好ましく、7日間〜14日間が好ましい。
【0031】
(家畜)
前記家畜としては、その肉を利用するために、前記家畜の飼育方法により飼育される動物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、スイギュウなどが挙げられ、ニワトリ(採卵鶏、ブロイラー等、好ましくはブロイラー)、シチメンチョウ、アヒル、ウズラ、カモ、キジ、ダチョウ、ガチョウ等の家禽が好適に挙げられる。
【0032】
前記家畜は、前記家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における剪断応力(SFV)と比較して、筋肉における剪断応力(SFV)が増加する。
前記家畜は、前記家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における切断応力(SAC)と比較して、筋肉における切断応力(SAC)が増加する。
前記家畜は、前記家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)と比較して、筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)が増加する。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(実験例1)
食肉の硬さ及び肉粒感を試験するために、実施例としてアセチルヒドロキシプロリンを含有する家畜肉質改善剤を含む飼料と、比較例として家畜肉質改善剤を含まない飼料とを給与された供試動物の筋肉中におけるSFV(食肉の硬さ)、SAC(肉粒感)、及びコラーゲン比の測定結果を比較した。
【0035】
<飼料の製造>
表1に示した各成分を混合して飼料を製造した。なお、前記飼料は、米国国家研究会議家畜栄養委員会(National Research Council;NRC)(1994)の要求量を満たすように結晶アミノ酸(協和発酵バイオ株式会社製)、ビタミン及びミネラル(BASF社製、Vitamin and mineral premix)を添加して製造した。なお、表1中、各成分の数値は、質量比を表す。
【0036】
【表1】

【0037】
<供試動物の飼育>
供試鶏には、孵化場(株式会社I・ひよこ)より購入したChunky系雌ブロイラーを用いた。初日齢から14日齢までは、電気保温した育離器で、それ以降は、無窓鶏舎で飼育し、温度(22±2℃)及び照射時間(明:14時間、暗:10時間)を管理して飼育した。初日齢〜28日齢(試験日の13時30分前)は、市販飼料(くみあい配合飼料、JA東日本くみあい飼料株式会社)を用いて飼育し、28日齢(試験日の13時30分後)〜38日齢は、前記家畜肉質改善剤含有飼料を用いて飼育した。なお、供試動物の平均体重は、等しくなるように割り当て、試験試料及び水は、共に自由摂取とした。
【0038】
<SFV(食肉硬さ)の測定>
供試動物の頚動脈を切断して放血屠殺を行い、速やかに浅胸筋を摘出した。
この浅胸筋を24時間、4℃で熟成したものを試料として用いた。
前記試料をビニール袋に入れ、−70℃の恒温水浴で1時間加熱後、水道水で室温まで冷却した。次に、試料の厚みが1cmとなるようにスライスし、筋線維と直角方向に剃刀で周囲を切り落とし、1cm×1cm×4cmの肉片を作製してSFV測定用試料とした。測定台の上に筋線維と直角の方向に前記SFV測定用試料を配置し、前記SFV測定用試料をナイフ(ワーナーブラッツラータイプ)で切断した。そして、切断時の負荷値をせん断応力(SFV)として測定した。
測定機器として、レオメーター(FUDOH RHEO METER RT−2005J、レオテック社製)を用い、測定台として、円柱状(0.1cm)のプランジャー及びアロークレイマー型のプレートを用いた。測定条件は、レンジ5kg、スイープ速度30cm/min、SFV測定用試料−プランジャー間距離1cm、及びレコーダー(LABORATORY RECORDER R−112、島津製作所製)チャート速度60cm/minとして測定した。結果を表2及び図1に示す。
【0039】
<SAC(肉粒感)の測定>
供試動物の頚動脈を切断して放血屠殺を行い、速やかに浅胸筋を摘出した。
この浅胸筋を24時間、4℃で熟成したものを試料として用いた。
前記試料をビニール袋に入れ、−70℃の恒温水浴で1時間加熱後、水道水で室温まで冷却した。次に、試料の厚みが1cmとなるようにスライスし、筋線維と直角方向に剃刀で周囲を切り落とし、1cm×1cm×1cmの肉片を作製してSAC測定用試料とした。前記SAC測定用試料の筋線維と垂直にナイフ(ワーナーブラッツラータイプ)を当てて切断した。そして、切断時の負荷値を切断応力(SAC)として測定した。
測定機器として、レオメーター(FUDOH RHEO METER RT−2005J、レオテック社製)を用い、測定台として、円柱状(0.1cm)のプランジャー及びアロークレイマー型のプレートを用いた。測定条件は、レンジ5kg、スイープ速度30cm/min、SAC測定用試料−プランジャー間距離1cm、及びレコーダー(LABORATORY RECORDER R−112、島津製作所製)チャート速度60cm/minとして測定した。結果を表2及び図2に示す。
【0040】
<コラーゲン比の測定>
供試動物の頚動脈を切断して放血屠殺を行い、速やかに浅胸筋を摘出して試料とした。
この試料を粉砕したものを0.5g秤量して試験管に入れ、超純水2mLを加えて4℃で一晩馴染ませた。前記試験管の壁に付いた試料を超純水1mLで洗い落とし、77℃で70分間加熱した。加熱直後に前記試験管ごと遠心分離(条件;3,000rpm、30分間、遠心分離機;CD−50SR、株式会社トミー精工製)を行った。メシスリンダーを用いて上清の容量を測定し、残渣に超純水1mLを加えて、再度、遠心分離(3,000rpm、30分間、遠心分離機;CD−50SR、株式会社トミー精工製)を行った。遠心分離後、上清を回収し、先程測定したものと合わせて合計量を算出した。上清には、12N HClを等量加え、残渣には、6N HClを5mL加え、24時間加水分解した。加水分解終了後、ロータリーエバポレーターを用いてHClを除去した。得られた試料を、酢酸−クエン酸バッファー(酢酸ナトリウム3水和物、クエン酸3ナトリウム2水和物、クエン酸1水和物、及びイソプロパノールの混合物;pH7.4調整)10mLに溶解し、コラーゲン比測定用試料とした。
【0041】
前記コラーゲン比測定用試料を0.3mL試験管にとり、イソプロパノールを0.6mL加えて攪拌した。更に、0.3mLの酸化溶液(7質量%クロラミンTを含む酢酸−クエン酸ブッファー)を加えて攪拌し、4分間室温で放置した。Ehrlich’s Reagentを4mLずつ加えて攪拌し、60℃の湯浴で25分間加熱した。流水で冷却して反応を止め、558nmで比色定量を行った。
可溶性コラーゲン含量の計算は、コラーゲン定数(Gross J. and Kirk D.1958.The Journal of Biological Chemistry,233: 355−360、Goll DE,Hoekstra WG and Bray RW. 1964.Journal of Food Science,29: 615−621)により得られたヒドロキシプロリン含量の7.52倍を上清に乗じて可溶性コラーゲン含量とし、7.25倍を残渣に乗じて不溶性コラーゲン含量として算出した。また、下記式(1)により、コラーゲンの加熱溶解性を求めた。コラーゲン比についての結果を表3及び図3に示す。
【数1】

【0042】
【表2】

表中の値は、平均±S.E.(n=6)を表し、は、P<0.05で有意差を有することを示す。
【0043】
【表3】

表中の値は、平均±S.E.(n=6)を表し、は、P<0.01で有意差を有することを示す。
【0044】
表2〜表3及び図1〜図3より、本発明の家畜肉質改善剤を用いることにより、顕著に家畜の筋肉におけるSFV、SAC、及び不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)が増加することが分かった。
また、前記家畜肉質改善剤の投与期間は、10日間という短期間で効果を発揮することができ、飼料に混合するだけで、食肉の硬さや肉粒感を制御できることから、簡便かつ安価に食肉の物性を制御することができることが示唆された。
よって、アセチルヒドロキシプロリンを含有する家畜肉質改善剤が、食肉の高品質化に有効的に利用できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の家畜肉質改善剤は、短期間で簡便かつ安価に、食肉の硬さや肉粒感を制御することができるため、家畜の肉質を改善する際に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチルヒドロキシプロリンを有効成分として含有することを特徴とする家畜肉質改善剤。
【請求項2】
アセチルヒドロキシプロリンの含有量が、2質量%以上である請求項1に記載の家畜肉質改善剤。
【請求項3】
肉質改善が、家畜の筋肉における剪断応力(SFV)の増加である請求項1から2のいずれかに記載の家畜肉質改善剤。
【請求項4】
肉質改善が、家畜の筋肉における切断応力(SAC)の増加である請求項1から2のいずれかに記載の家畜肉質改善剤。
【請求項5】
肉質改善が、家畜の筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)の増加である請求項1から2のいずれかに記載の家畜肉質改善剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を家畜に給与することを特徴とする家畜肉質改善方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を家畜に給与することを特徴とする家畜の飼育方法。
【請求項8】
請求項7に記載の家畜の飼育方法により飼育されることを特徴とする家畜。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における剪断応力(SFV)と比較して、筋肉における剪断応力(SFV)が増加する請求項8に記載の家畜。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における切断応力(SAC)と比較して、筋肉における切断応力(SAC)が増加する請求項8に記載の家畜。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載の家畜肉質改善剤を給与しない家畜の筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)と比較して、筋肉における不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの質量比(不溶性コラーゲン/可溶性コラーゲン)が増加する請求項8に記載の家畜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−39061(P2013−39061A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177146(P2011−177146)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 国立大学法人新潟大学 自然科学研究科 学位論文審査会、「新潟大学大学院 自然科学研究科 生命・食料科学専攻 博士前期課程 植物・微生物ゲノムコントロール/応用バイオサイエンス 修士論文発表会講演要旨集」、平成23年2月14日
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】