容量性負荷駆動回路、インクジェットプリンター、及び流体噴射装置
【課題】配線で接続された容量性負荷を駆動する際、配線の入力側からの帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止する。
【解決手段】駆動波形信号WCOMと帰還信号Refの差分信号Diffをパルス変調し、その変調信号PWMをデジタル電力増幅回路27で電力増幅し、その電力増幅変調信号APWMを平滑化して、配線35で接続された容量性負荷からなるアクチュエーター19に駆動信号COMを印加する場合に、インダクタLとアクチュエーター19とを配線35で接続して平滑フィルター28とし、インダクタLと配線35との接続部から出力されるインダクタ出力信号SLを、補償器29及び減衰器30に通過させてから減算器25への帰還信号Refとすることにより、帰還信号Ref中の変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰器30で減衰することができる。
【解決手段】駆動波形信号WCOMと帰還信号Refの差分信号Diffをパルス変調し、その変調信号PWMをデジタル電力増幅回路27で電力増幅し、その電力増幅変調信号APWMを平滑化して、配線35で接続された容量性負荷からなるアクチュエーター19に駆動信号COMを印加する場合に、インダクタLとアクチュエーター19とを配線35で接続して平滑フィルター28とし、インダクタLと配線35との接続部から出力されるインダクタ出力信号SLを、補償器29及び減衰器30に通過させてから減算器25への帰還信号Refとすることにより、帰還信号Ref中の変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰器30で減衰することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子などの容量性負荷に駆動信号を印加して駆動する容量性負荷駆動回路に関し、容量性負荷をアクチュエーターとし、当該アクチュエーターに駆動信号を印加してインクを噴射することで印刷を行うインクジェットプリンターや、容量性負荷からなるアクチュエーターをダイヤフラムに接合し、当該アクチュエーターに駆動信号を印加して流体を噴射する液体噴射装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば所定の電圧波形からなる駆動波形信号をデジタル電力増幅回路で電力増幅して容量性負荷からなるアクチュエーターへの駆動信号とする場合、駆動波形信号を変調回路でパルス変調して変調信号とし、その変調信号をデジタル電力増幅回路で電力増幅して電力増幅変調信号とし、その電力増幅変調信号を平滑フィルターで平滑化して駆動信号としている。
【0003】
駆動信号の波形が重要な場合、当該駆動信号の位相を進めて帰還信号とし、減算器で得られた帰還信号と駆動波形信号との差分値を変調回路への入力信号とすることがある。例えば下記特許文献1では、駆動信号の帰還回路に位相進みの補償器を介装することで、平滑フィルターの前後にダンピング抵抗を介装することなく、駆動信号の波形を補償しようとしている。なお、変調回路によるパルス変調の周波数を変調周波数、或いはキャリア周波数と呼んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−96364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、デジタル電力増幅回路と容量性負荷からなるアクチュエーターが離間している場合、基板配線を含め、アクチュエーターとデジタル電力増幅回路との間に配線が必要となる。このような場合、実際にアクチュエーターに印加される駆動信号を帰還するのは、個別の配線を必要とするなど、現実的でないから、例えばデジタル電力増幅回路の出力端にインダクタを設け、このインダクタと配線との接続点の信号を帰還する。しかしながら、この配線の入力信号を帰還する場合、単に位相進みの補償器を帰還回路に介装しただけでは、減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が帰還信号に残ってしまう場合があり、このような場合、駆動信号を正確に補償することができないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、これらの諸問題に着目して開発されたものであり、帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することが可能な容量性負荷駆動回路、インクジェットプリンター、及び流体噴射装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記諸問題を解決するため、本発明の容量性負荷駆動回路は、駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、インダクタと容量性負荷とを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記容量性負荷の駆動信号とする平滑フィルターと、前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、少なくとも前記変調信号の変調周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするものである。
【0008】
この容量性負荷駆動回路によれば、例えばアクチュエーターを構成する容量性負荷とデジタル電力増幅回路との間に配線が必要な場合、インダクタと容量性負荷とを配線で接続して平滑フィルターとし、インダクタと配線との接続部から出力される信号を、補償器及び減衰器に通過させてから減算器への帰還信号とするため、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号中の変調周波数帯域の信号振幅を減衰器で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができる。
【0009】
また、前記補償器は、コンデンサーと抵抗とを備え、前記減衰器は、前記補償器の前記抵抗を含んで構成されていることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、回路を簡素化できると共に、減衰器の減衰特性を種々に設定することが可能となる。
また、前記減衰器は、前記減算器及び前記変調回路の少なくとも一方で信号振幅が動作可能範囲を超えないように減衰するものであることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのをより確実に防止することができる。
【0010】
また、前記減衰器は、位相遅れ特性を有することを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、位相遅れ特性が持つ積分機能によって帰還信号の歪みを除去することができる。
また、前記減衰器は、1つ以上の抵抗で構成されることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、より簡素な構成で、帰還信号の歪みを除去することができる。
また、前記減衰器は、複数の減衰器で構成されることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、より大きな帰還信号の歪みを除去することができる。
【0011】
また、本発明のインクジェットプリンターは、容量性負荷からなるアクチュエーターをインクジェットヘッドに複数備え、前記アクチュエーターに駆動信号を印加すると圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射し、その噴射されたインクで印刷媒体に印刷を行うインクジェットプリンターであって、駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、単体又は前記補償器との組合せで、少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするものである。
【0012】
このインクジェットプリンターによれば、容量性負荷からなるアクチュエーターに駆動信号を印加するとインクジェットヘッドの圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射し、その噴射されたインクで印刷媒体に印刷を行うにあたり、インダクタと容量性負荷からなるアクチュエーターとを配線で接続して平滑フィルターとし、インダクタと配線との接続部から出力される信号を、補償器及び減衰器に通過させてから減算器への帰還信号とするため、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号中の変調周波数帯域の信号振幅を減衰器で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な印刷が可能となる。
【0013】
また、本発明の流体噴射装置は、容量性負荷からなるアクチュエーターをダイヤフラムに接合し、前記アクチュエーターに駆動信号を印加するとダイヤフラムを介して流体室の容積が縮小されて当該流体室内の流体を噴射する流体噴射装置であって、駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、単体又は前記補償器との組合せで、少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするものである。
【0014】
この流体噴射装置によれば、容量性負荷からなるアクチュエーターに駆動信号を印加するとダイヤフラムを介して流体室の容積が縮小されて当該流体室内の流体を噴射するにあたり、インダクタと容量性負荷からなるアクチュエーターとを配線で接続して平滑フィルターとし、インダクタと配線との接続部から出力される信号を、補償器及び減衰器に通過させてから減算器への帰還信号とするため、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号中の変調周波数帯域の信号振幅を減衰器で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な流体噴射が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の容量性負荷駆動回路を用いたインクジェットプリンターの第1実施形態を示す概略構成正面図である。
【図2】図1のインクジェットプリンターに用いられるインクジェットヘッド近傍の平面図である。
【図3】図1のインクジェットプリンターの制御装置のブロック図である。
【図4】容量性負荷からなるアクチュエーターの駆動信号の説明図である。
【図5】スイッチングコントローラーのブロック図である。
【図6】アクチュエーターの駆動回路の一例を示すブロック図である。
【図7】図6の変調回路のブロック図である。
【図8】図6のデジタル電力増幅器のブロック図である。
【図9】図6の帰還回路の説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図10】図6の減算器の入出力信号の説明図である。
【図11】一般的なアクチュエーター駆動回路及び帰還回路のブロック図である。
【図12】図11の帰還回路の説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図13】図11の減算器の入出力信号の説明図である。
【図14】図6のアクチュエーター駆動回路の等価回路図である。
【図15】図14の周波数特性図である。
【図16】図14の周波数特性図である。
【図17】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた帰還回路の一例を示す説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図18】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた帰還回路の他の例を示す説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図19】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた減算器の入出力信号の説明図である。
【図20】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた帰還回路を示す説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図21】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた減算器の入出力信号の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の容量性負荷駆動回路の第1実施形態として、インクジェットプリンターに適用されたものについて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェットプリンターの概略構成図であり、図1において、印刷媒体1は、図の左から右に向けて矢印方向に搬送され、その搬送途中の印刷領域で印刷される、ラインヘッド型インクジェットプリンターである。
【0017】
図1中の符号2は、印刷媒体1の搬送ライン上方に設けられた複数のインクジェットヘッドであり、印刷媒体搬送方向に2列になるように且つ印刷媒体搬送方向と交差する方向に並べて配設されて、夫々、ヘッド固定プレート7に固定されている。各インクジェットヘッド2の最下面には、多数のノズルが形成されており、この面がノズル面と呼ばれている。ノズルは、図2に示すように、噴射するインクの色毎に、印刷媒体搬送方向と交差する方向に列状に配設されており、その列をノズル列と呼んだり、その列方向をノズル列方向と呼んだりする。そして、印刷媒体搬送方向と交差する方向に配設された全てのインクジェットヘッド2のノズル列によって、印刷媒体1の搬送方向と交差する方向の幅全長に及ぶラインヘッドが形成されている。
【0018】
インクジェットヘッド2には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクが、図示しないインクタンクからインク供給チューブを介して供給される。そして、インクジェットヘッド2に形成されているノズルから同時に必要箇所に必要量のインクを噴射することにより、印刷媒体1上に微小なドットを形成する。これを各色毎に行うことにより、搬送部4で搬送される印刷媒体1を一度通過させるだけで、1パスによる印刷を行うことができる。本実施形態では、インクジェットヘッド2のノズルからインクを噴射する方法としてピエゾ方式を用いた。ピエゾ方式は、アクチュエーターである圧電素子に駆動信号を与えると、圧力室内の振動板が変位して圧力室内の容積が変化し、そのときに生じる圧力変化によって圧力室内のインクがノズルから噴射されるというものである。そして、駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することでインクの噴射量を調整することが可能となる。なお、本発明は、ピエゾ方式以外のインク噴射方法にも、同様に適用可能である。
【0019】
インクジェットヘッド2の下方には、印刷媒体1を搬送方向に搬送するための搬送部4が設けられている。搬送部4は、駆動ローラー8及び従動ローラー9に搬送ベルト6を巻回して構成され、駆動ローラー8には図示しない電動モーターが接続されている。また、搬送ベルト6の内側には、当該搬送ベルト6の表面に印刷媒体1を吸着するための図示しない吸着装置が設けられている。この吸着装置には、例えば負圧によって印刷媒体1を搬送ベルト6に吸着する空気吸引装置や、静電気力で印刷媒体1を搬送ベルト6に吸着する静電吸着装置などが用いられる。従って、給紙ローラー5によって給紙部3から印刷媒体1を一枚だけ搬送ベルト6上に送給し、電動モーターによって駆動ローラー8を回転駆動すると、搬送ベルト6が印刷媒体搬送方向に回転され、吸着装置によって搬送ベルト6に印刷媒体1が吸着されて搬送される。この印刷媒体1の搬送中に、インクジェットヘッド2からインクを噴射して印刷を行う。印刷の終了した印刷媒体1は、搬送方向下流側の排紙部10に排紙される。なお、前記搬送ベルト6には、例えばリニアエンコーダーなどで構成される印刷基準信号出力装置が取付けられており、この印刷基準信号出力装置から出力される要求解像度相当のパルス信号に応じて、後述する駆動回路から駆動信号をアクチュエーターに出力することで印刷媒体1上の所定位置に所定の色のインクを噴射し、そのドットによって印刷媒体1上に所定の画像を描画する。
【0020】
本実施形態のインクジェットプリンター内には、インクジェットプリンターを制御するための制御装置11が設けられている。この制御装置11を、図3に示す。まず、ホストコンピューター12から入力された印刷データを読込む。その印刷データに基づいて印刷処理等の演算処理を実行するコンピューターシステムで構成される制御部13と、前記給紙ローラー5に接続されている給紙ローラーモーター14を駆動制御する給紙ローラーモータードライバー15と、インクジェットヘッド2を駆動制御するヘッドドライバー16と、前記駆動ローラー8に接続されている電動モーター17を駆動制御する電動モータードライバー18とを備えて構成される。
【0021】
制御部13は、CPU(Central Processing Unit)13aと、RAM(Random Access Memory)13bと、ROM(Read Only Memory)13cを備えている。CPU13aが印刷処理等の各種処理を実行すると、RAM13bは入力された印刷データ或いは当該印刷データ印刷処理等を実行する際の各種データを一時的に格納し、或いは印刷処理等のプログラムを一時的に展開する。そして、ROM13cはCPU13aで実行する制御プログラム等を格納する不揮発性半導体メモリーで構成されている。この制御部13は、ホストコンピューター12から印刷データ(画像データ)を入手すると、CPU13aが、この印刷データに所定の処理を実行して、何れのノズルからインクを噴射するか或いはどの程度のインクを噴射するかというノズル選択データ(駆動パルス選択データ)を算出する。そして、この印刷データや駆動パルス選択データ及び各種センサーからの入力データに基づいて、給紙ローラーモータードライバー15、ヘッドドライバー16、電動モータードライバー18に制御信号及び駆動信号を出力する。これらの制御信号及び駆動信号により、給紙ローラーモーター14、電動モーター17、インクジェットヘッド2内のアクチュエーターなどが夫々作動して、印刷媒体1の給紙及び搬送及び排紙、並びに印刷媒体1への印刷処理が実行される。なお、制御部13内の各構成要素は、図示しないバスを介して電気的に接続されている。
【0022】
図4には、前記制御装置11内のヘッドドライバー16からインクジェットヘッド2に供給され、圧電素子からなるアクチュエーターを駆動するための駆動信号COMの一例を示す。本実施形態では、中間電圧を中心に電圧が変化する信号とした。この駆動信号COMは、アクチュエーターを駆動してインクを噴射する単位駆動信号としての駆動パルスPCOMを時系列的に接続したものであり、駆動パルスPCOMの立上がり部分がノズルに連通する圧力室の容積を拡大してインクを引込む段階であり、駆動パルスPCOMの立下がり部分が圧力室の容積を縮小してインクを押出す段階であり、インクを押出した結果、インクがノズルから噴射される。
【0023】
この電圧台形波からなる駆動パルスPCOMの電圧増減傾きや波高値を種々に変更することにより、インクの引込量や引込速度、インクの押出量や押出速度を変化させることができ、これによりインクの噴射量を変化させて異なる大きさのドットを得ることができる。従って、複数の駆動パルスPCOMを時系列的に連結する場合でも、そのうちから単独の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエーター19に供給し、インクを噴射したり、複数の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエーター19に供給し、インクを複数回噴射したりすることで種々の大きさのドットを得ることができる。即ち、インクが乾かないうちに複数のインクを同じ位置に着弾すると、実質的に大きなインクを噴射するのと同じことになり、ドットの大きさを大きくすることができるのである。このような技術の組合せによって多階調化を図ることが可能となる。なお、図4の左端の駆動パルスPCOM1は、インクを引込むだけで押出していない。これは、微振動と呼ばれ、インクを噴射せずに、ノズルの増粘を抑制防止したりするのに用いられる。
【0024】
インクジェットヘッド2には、前記駆動信号COMの他、前記図3の制御装置から制御信号として、駆動パルス選択特定データSIと、ラッチ信号LAT及びチャンネル信号CHと、駆動パルス選択特定データSIをシリアル信号としてインクジェットヘッド2に送信するためのクロック信号SCKとが入力されている。駆動パルス選択特定データSIは、印刷データに基づいて駆動パルスPCOMのうちどの駆動パルスPCOMを選択するかを示すデータである。また、ラッチ信号LAT及びチャンネル信号CHは、全ノズルにノズル選択データが入力された後に、駆動パルス選択特定データSIに基づいて駆動信号COMとインクジェットヘッド2のアクチュエーターとを接続させる。なお、これ以後、アクチュエーター19を駆動する駆動信号の最小単位を駆動パルスPCOMとし、駆動パルスPCOMが時系列的に連結された信号全体を駆動信号COMと記す。即ち、ラッチ信号LATで一連の駆動信号COMが出力され始め、チャンネル信号CH毎に駆動パルスPCOMが出力されることになる。
【0025】
図5には、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をアクチュエーター19に供給するためにインクジェットヘッド2内に構築されたスイッチングコントローラーの具体的な構成を示す。このスイッチングコントローラーは、レジスター20と、レジスター20のデータを一時的に保存するラッチ回路21と、ラッチ回路21の出力をレベル変換して選択スイッチ23に供給することにより、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を圧電素子からなるアクチュエーター19に接続するレベルシフター22とを備えて構成されている。なお、レジスター20は、インクを噴射させるノズルに対応した圧電素子などのアクチュエーター19を指定するための駆動パルス選択特定データSIを保存する。
【0026】
レベルシフター22は選択スイッチ23をオンオフできる電圧レベルに変換する。これは、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)が、ラッチ回路21の出力電圧に比べて高い電圧であり、これに合わせて選択スイッチ23の動作電圧範囲も高く設定されているためである。従って、レベルシフター22によって選択スイッチ23が閉じられるアクチュエーター19は、駆動パルス選択特定データSIに基づき所定の接続タイミングで駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に接続される。また、レジスター20の駆動パルス選択特定データSIがラッチ回路21に保存された後、次の印刷情報をレジスター20に入力し、インクの噴射タイミングに合わせてラッチ回路21の保存データを順次更新する。なお、図中の符号HGNDは、圧電素子などのアクチュエーター19のグランド端である。また、この選択スイッチ23により、圧電素子などのアクチュエーター19を駆動信号COM(駆動パルスPCOM)から切り離した後(選択スイッチ23がオフ)も、当該アクチュエーター19の入力電圧は、切り離す直前の電圧に維持される。すなわち、前記圧電素子からなるアクチュエーター19は、容量性負荷である。
【0027】
図6には、アクチュエーター19の駆動回路の概略構成を示す。このアクチュエーター駆動回路は、前記制御装置11のヘッドドライバー16内に構築されている。本実施形態の駆動回路は、駆動波形信号発生回路24と、減算器25と、変調回路26と、デジタル電力増幅回路27と、平滑フィルター28と、前記減算器25への帰還回路に介装された補償器29及び減衰器30とを備えて構成される。ここで、駆動波形信号発生回路24は、予め記憶されている駆動波形データDWCOMに基づいて、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の元、つまりアクチュエーター19の駆動を制御する信号の基準となる駆動波形信号WCOMを生成する。そして、減算器25は駆動波形信号発生回路24で生成された駆動波形信号WCOMから帰還信号Refを減じて差分信号Diffを出力し、変調回路26は減算器25から出力された差分信号Diffをパルス変調する。デジタル電力増幅回路27は、変調回路26でパルス変調された変調信号PWMを電力増幅する。また、平滑フィルター28は、デジタル電力増幅回路27で電力増幅された電力増幅変調信号APWMを平滑化して、圧電素子からなるアクチュエーター19に駆動信号COMとして出力する。
【0028】
駆動波形信号発生回路24は、デジタルデータからなる駆動波形データDWCOMを電圧信号に変換して所定サンプリング周期分ホールド出力する。減算器25は、比例定数用の抵抗を介装した一般的なアナログ減算回路である。変調回路26には、図7に示すように、周知のパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)回路を用いた。パルス幅変調は、所定周波数の三角波信号を出力する三角波発振器31と、三角波信号と差分信号Diffを比較し、例えば差分信号Diffが三角波信号より大きいときにオンデューティーとなるパルスデューティーの変調信号PWMを出力する比較器32とを備えて構成される。なお、変調回路26には、この他にパルス密度変調(PDM)回路などの周知のパルス変調回路を用いることができる。また、本実施形態では、前記アナログ減算回路からなる減算器25の動作電圧範囲は0〜5Vである。
【0029】
デジタル電力増幅回路27は、図8に示すように、実質的に電力を増幅するためのハイサイド側スイッチング素子Q1及びローサイド側スイッチング素子Q2からなるハーフブリッジ出力段33と、変調回路26からの変調信号PWMに基づいて、ハイサイド側スイッチング素子Q1、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GH、GLを調整するためのゲートドライブ回路34とを備えて構成されている。デジタル電力増幅回路27では、変調信号がハイレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1のゲート−ソース間信号GHはハイレベルとなり、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GLはローレベルとなるので、ハイサイド側スイッチング素子Q1はオン状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はオフ状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段33の出力電圧Vaは、供給電圧VDDとなる。一方、変調信号がローレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1のゲート−ソース間信号GHはローレベルとなり、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GLはハイレベルとなるので、ハイサイド側スイッチング素子Q1はオフ状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はオン状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段33の出力電圧Vaは0となる。
【0030】
このようにハイサイド側スイッチング素子Q1及びローサイド側スイッチング素子Q2がデジタル駆動される場合には、オン状態のスイッチング素子に電流が流れるが、ドレイン−ソース間の抵抗値は非常に小さく、損失は殆ど発生しない。また、オフ状態のスイッチング素子には電流が流れないので損失は発生しない。従って、このデジタル電力増幅回路27の損失そのものは極めて小さく、小型のMOSFET等のスイッチング素子を使用することができる。
【0031】
平滑フィルター28は、図6に示すように、1つのインダクタLと、容量性負荷である圧電素子からなるアクチュエーター19と、配線35とで2次のローパスフィルターを構成する。本実施形態では、1つの制御装置11に対して、アクチュエーター19を含むインクジェットヘッド2は複数であり、しかも分離して離間しているので、制御装置11とインクジェットヘッド2との間には、基板配線である場合を含めて配線35が必要となる。配線35は、一般的に抵抗成分とインダクタ成分を有するので、本実施形態の平滑フィルター28は、インダクタLのインダクタ成分、配線の抵抗成分及びインダクタ成分、アクチュエーター19の容量成分を備えた2次のローパスフィルターが構成されることになる。この平滑フィルター28によって、前記変調回路26で生じた変調周波数、即ちパルス変調の周波数成分の信号振幅を減衰して除去し、アクチュエーター19に駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を出力する。
【0032】
帰還信号は、最終的に出力される駆動信号を帰還するのが理想であるが、本実施形態のように制御装置11とアクチュエーター19の間に配線35が必要な場合、アクチュエーター19への駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を帰還するには個別の配線が必要となり、現実的でない。そこで、本実施形態では、平滑フィルター28のインダクタLと配線35との接続部のインダクタ出力信号SLを取出し、これを帰還回路に帰還する。この帰還回路には、前述したように補償器29と減衰器30が介装されている。本実施形態では、図9aに示すように、補償器29にはコンデンサーC1及び抵抗R1からなる1次のハイパスフィルターを適用し、減衰器30には抵抗R2及びコンデンサーC2からなる1次のローパスフィルターを適用した。周知のようにハイパスフィルターには位相進み特性があり、この特性を生かして帰還信号Refの位相進めて補償することができる。位相進み特性は微分特性とも呼ばれる。一方、ローパスフィルターには位相遅れ特性がある。位相遅れ特性は積分特性とも呼ばれる。
【0033】
このハイパスフィルターからなる補償器29とローパスフィルターからなる減衰器30の組合せからなる帰還回路は図9bに示すような周波数特性を有し、特に減衰器30によって変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yAが得られる。即ち、アクチュエーター19の容量成分で構成される平滑フィルター28によって、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動パルスPCOM)中の変調周波数又は変調周波数帯域の信号振幅が十分に減衰されるように設計しても、インダクタLと配線35の接続部の信号、即ちインダクタ出力信号SLには変調周波数又は変調周波数帯域の信号振幅が残存している恐れがある。なお、アクチュエーター19は、インダクタLのインダクタ成分、配線35のインダクタ成分及び抵抗成分、圧電素子(容量性負荷)からなる。しかしながら、帰還回路中の減衰器30の周波数特性を調整することにより、インダクタ出力信号SL中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰することができ、ひいては減算器25の出力信号である差分信号Diffや変調回路26の出力信号である変調信号PWMを適正なものとすることができる。ちなみに、デジタル電力増幅回路27の出力信号であるAPWMは変調周波数帯域が減衰されていない信号が出てくるので、この信号を帰還しようとすると、伝達関数の共振ピークを抑えるための設計が難しい。一方、インダクタ出力信号SLは減算器25の出力信号Diffや変調回路26の出力信号PWMの動作範囲にするには十分な減衰量ではないが変調周波数成分が減衰される形となるので、帰還するときに共振ピークを抑えるための設計がしやすい。このため、本発明ではインダクタ出力信号SLを帰還する。
【0034】
図10には減算器25に入力される帰還信号Ref及び減算器25から出力される差分信号Diffの一例を示す(図は、前述した台形波電圧信号からなる駆動波形信号ではなく、一般的な駆動波形信号で説明してある)。同図から明らかなように、帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅はよく減衰されており、その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもない。このように差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲を超えなければ、当然ながら、変調回路26でも動作電圧範囲を超えることがなく、ひいてはデジタル電力増幅回路27の出力信号である電力増幅変調信号APWMも、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動波形信号PCOM)も適正なものとなり、帰還回路による補償が成立する。
【0035】
図11は、前記特許文献1のように帰還回路に補償器29だけを介装した一般的な駆動回路及び帰還回路の一例である。平滑フィルター28として、インダクタのインダクタ成分及びコンデンサーの容量成分を有する2次のローパスフィルターを必要とする場合、系の安定性を考慮すると、図のインダクタLの出力側でコンデンサーを接地し、且つインダクタの前後にダンピング抵抗を介装するのが理想的であるが、コンデンサーを接地したり、ダンピング抵抗を介装したりすると電力消費が大きくなる。そこで、コンデンサーの代わりにアクチュエーター19の容量成分Cを用い、出力信号を帰還することでダンピング抵抗を不要とすると、図11の駆動回路及び帰還回路が考えられる。
【0036】
平滑フィルター28では、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動パルスPCOM)が重要なので、アクチュエーター19と配線35の接続部における周波数特性が、変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yとなるように設計する。しかしながら、平滑フィルター28のインダクタLと配線35の接続部では、平滑フィルター28としての機能が十分に発揮されておらず、変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yが得られていない。そのため、インダクタ出力信号SLには変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅が残存する場合がある。
【0037】
図12aは、図11の帰還回路であり、前記図9と同様に、補償器29がコンデンサーC1及び抵抗R1からなる1次のハイパスフィルターであるとすると、帰還回路の周波数特性(この場合は補償器29の周波数特性に等しい)は変調周波数又は変調周波数帯域fcarでゲインが0、即ち全く減衰しないから帰還信号Refにも前記変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅が残存する。例えば図13に示すように帰還信号Refに前記変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅が残存すると、例えば減算器25から出力される差分信号Diffが当該減算器25の動作電圧範囲0〜5Vを超え、本来、二点鎖線のように表れる差分信号Diffが実線で示すように動作電圧上限値である5Vでカットされ、歪みが生じる。このように差分信号Diffに歪みが生じると、当然ながら、変調信号PWMにも、電力増幅変調信号APWMにも歪みが生じ、結果として駆動信号COM(駆動パルスPCOM)にも歪みが生じるので、帰還回路による補償が成立しない。
【0038】
これに対し、本実施形態の帰還回路では、位相を進める補償器29と変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰する減衰器30の組合せによって補償を成立させることができ、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の精度を確保することができる。前述のように、ハイパスフィルターには位相進み特性があり、一方、ローパスフィルターには位相遅れ特性がある。補償器29をハイパスフィルター、減衰器30をローパスフィルターで構成すると、定数の設定によって両者の伝達特性を設定することが可能となり、周波数特性を細かく調整することができる。
【0039】
図14aは、前記図6のアクチュエーター駆動回路の等価回路である。図14aでは、入力信号xが駆動波形信号WCOM、出力信号y1が駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に相当する。また、出力信号y2はインダクタ出力信号SL、出力信号y3は帰還信号Refである。平滑フィルター28の伝達関数をH2とし、変調回路26からデジタル電力増幅回路27までのゲインをAとし、補償器29の伝達関数をβ、減衰器30の伝達関数をγとした。また、図14bは、配線35からアクチュエーター19までの等価回路であり、この等価回路の伝達関数をH1とした。
入力信号xに対する出力信号y1、即ち駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数をGy1、入力信号xに対する出力信号y2、即ちインダクタ出力信号SLの伝達関数をGy2とすると、下記1式及び2式から下記3式が得られる。
【0040】
【数1】
【0041】
また、出力信号y2と出力信号y3は下記4式の関係にあるから、出力信号y2を前記伝達関数Gy2で表すことで下記5式が得られ、入力信号xに対する出力信号y3、即ち帰還信号Refの伝達関数Gy3は下記6式で表れる。
【0042】
【数2】
【0043】
また、出力信号y2については、下記7式から8式が得られ、その結果、入力信号xに対する出力信号y2の伝達関数Gy2は下記9式で表れる。
【0044】
【数3】
【0045】
図15には、入力信号xに対する出力信号y1、即ち駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1及び配線35からアクチュエーター19までの伝達関数H1の一例を示す。伝達関数Gy1は目標値であり、設計値でもある。一方、伝達関数H1は既定値である。従って、入力信号xに対する出力信号y2、即ちインダクタ出力信号SLの伝達関数Gy2は図に破線で示すように表れる。
【0046】
前述のように二次のローパスフィルターで構成される平滑フィルター28に対し、帰還を行うのは、前記入力信号xに対する出力信号y1、即ち駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1の特性から共振ピークをなくすのが目的である。従って、その伝達関数Gy1の特性から共振ピークがなくなるように補償器29の伝達特性(ゲイン)βを設定する。その場合、まずは減衰器30の伝達特性(ゲイン)γを1とするとよい。例えば、前記3式で表れる伝達関数Gy1から共振ピークをなくすには、図16aに示すように、共振特性を持つA・H1・H2の逆数の伝達関数に対し、γ・β/H1を加えて1/Gy1の共振ピークがなくなるように補償器29の伝達特性(ゲイン)βを設定する。
【0047】
ここで、変調周波数成分はデジタル電力増幅回路の出力から発生する為、変調周波数成分の振幅減衰量は、デジタル電力増幅回路の出力を基準として考える。例えば、図16bの場合、入力xから見た変調周波数成分のゲインはデジタル電力増幅回路の出力A(dB)であり、入力xから見た減衰器30の後の変調周波数成分のゲインは−ys(dB)となる。すなわち、変調周波数成分のゲインはA(dB)から−ys(dB)に変化したことになり、変調周波数又は変調周波数帯域fcarの振幅減衰量は(A+ys)(dB)となる。
【0048】
次に、図16bに示すように、減算器25や変調回路26、所謂アナログ信号系の動作電圧範囲(本実施形態では0〜5V)を超えないように帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅減衰量A+ys(dB)を設定する。そして、入力信号xに対する出力信号y3、即ち帰還信号Refの伝達関数Gy3の変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅減衰量がA+ys(dB)以下となるように減衰器30の伝達特性(ゲイン)γを設定する。このとき、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1の特性が大きく変わらないようにする必要があるから、減衰器30の伝達特性(ゲイン)γによる帰還信号Refの伝達関数Gy3の調整は、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1の特性変化も同時に確認しながら行うべきである。
【0049】
本実施形態の容量性負荷駆動回路及びインクジェットプリンターでは、容量性負荷からなるアクチュエーター19に駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を印加するとインクジェットヘッド2の圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射する。そして、その噴射されたインクで印刷媒体1に印刷を行う場合に、インダクタLと容量性負荷からなるアクチュエーター19とを配線35で接続して平滑フィルター28とし、インダクタLと配線35との接続部から出力されるインダクタ出力信号SLを、補償器29及び減衰器30に通過させてから減算器25への帰還信号Refとする。これにより、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号Ref中の変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰器30で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号Refに減算器25や変調回路26の動作範囲を超える変調周波数帯域fcarの信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な印刷が可能となる。
【0050】
また、減算器25及び変調回路26の少なくとも一方で信号振幅が動作電圧範囲を超えないように帰還信号Refを減衰するように減衰器30を設定することにより、帰還信号Refに減算器25や変調回路26の動作電圧範囲を超える変調周波数帯域fcarの信号振幅が残るのを確実に防止することができる。
また、位相遅れ特性を有する減衰器30を用いることにより、位相遅れ特性が持つ積分機能によって帰還信号Refの歪みを除去することができる。さらに、減衰器30の位相遅れ特性の調整により帰還回路の周波数特性を調整することで、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の周波数特性を調整することが可能となる。
なお、前記実施形態では、本発明の容量性負荷駆動回路をラインヘッド型のインクジェットプリンターに用いた場合についてのみ詳述したが、本発明の容量性負荷駆動回路は、マルチパス型のインクジェットプリンターにも同様に適用可能である。
【0051】
次に、本発明の容量性負荷駆動回路の第2実施形態について説明する。本実施形態の説明にあたっては、前述した実施形態1と同様の構成部分については、先に説明した実施形態と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
本実施形態では、前記アクチュエーター駆動回路に併設された帰還回路の構成が異なる。また、帰還回路には、第1実施形態と同様に、補償器29及び減衰器30が設けられているのであるが、それらの構成の実体が異なる。図17aは、本実施形態の帰還回路に設けられた補償器29及び減衰器30の一例を示すブロック図である。この例に示す補償器29の構成は、前記第1実施形態の補償器と同様に、1つのコンデンサーC1と1つの抵抗R1で構成される1次のハイパスフィルターであるが、減衰器30は、回路中に介装した1つの抵抗R3と、その出力側で接地された抵抗R4で構成される分圧器からなる。従って、図17aの帰還回路の周波数特性は図17bのように表れる。この実施例では、前記第1実施形態のような位相遅れ特性がないので、例えば変調周波数又は変調周波数帯域fcarの高周波数帯域での積極的な減衰は望めないが、2つの抵抗の組合せという単純な構成でも、当該変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yBが得られ、これにより変調周波数帯域の減衰が期待できる。
【0052】
また、図18aは、本実施形態の帰還回路に設けられた補償器29及び減衰器30の他の例を示すブロック図である。この例に示す補償器29の構成は、前記第1実施形態の補償器と同様に、1つのコンデンサーC1と1つの抵抗R1で構成される1次のハイパスフィルターであるが、減衰器30は、回路中に介装した1つの抵抗R5と、前記補償器29内の接地抵抗R1で構成される分圧器からなる。つまり、補償器29との組合せで減衰器30が構成されている。この図18aの帰還回路の周波数特性は図18bのように表れる。この実施例でも、前記前記図17と同様に、2つの抵抗の組合せという単純な構成でも、当該変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yCが得られ、これにより変調周波数帯域の減衰が期待でき、更には使用される抵抗の数を低減できる。本実施形態のアクチュエーター駆動回路では、帰還回路を簡素化することができる。
【0053】
図19には減算器25に入力される本実施形態の帰還信号Ref及び減算器25から出力される差分信号Diffの一例を示す(図は、前述した台形波電圧信号からなる駆動波形信号ではなく、一般的な駆動波形信号で説明してある)。同図から明らかなように、帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅はよく減衰されており、その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもない。このように差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲を超えなければ、当然ながら、変調回路26でも動作電圧範囲を超えることがなく、ひいてはデジタル電力増幅回路27の出力信号である電力増幅変調信号APWMも、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動波形信号PCOM)も適正なものとなり、帰還回路による補償が成立する。
【0054】
このように、本実施形態の容量性負荷駆動回路を用いた場合でも、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅を減衰することができる。その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもないことから、帰還回路による補償を成立可能とすると共に、減衰器を1つ以上の抵抗で構成することにより、より簡素な構成で帰還信号Refの歪みを除去することができる。
【0055】
次に、本発明の容量性負荷駆動回路の第3実施形態について説明する。本実施形態の説明にあたっては、前述した実施形態1と同様の構成部分については、先に説明した実施形態と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
本実施形態では、前記アクチュエーター駆動回路に併設された帰還回路の構成が第1実施形態および第2実施形態とさらに異なる。また、帰還回路には、第1実施形態および第2実施形態と同様に、補償器29及び減衰器30が設けられているのであるが、それらの構成の実体が異なる。
【0056】
図20aは、本実施形態の帰還回路に設けられた補償器29及び減衰器30を示すブロック図である。同図に示す補償器29及び減衰器30は、前記第1実施形態の補償器及び減衰器と同様に、1つのコンデンサーC1と1つの抵抗R1で構成される1次のハイパスフィルターと、1つの抵抗R2と1つのコンデンサーC2で構成される1次のローパスフィルターを備えている。更に、本実施形態では、補償器29を構成するハイパスフィルターの入力側に1つの抵抗R6を介装し、この抵抗R6と補償器29中の接地抵抗R1とで分圧器からなる減衰器30を構成する。従って、図20aの帰還回路の周波数特性は図20bのように表れ、前記第1実施形態の図9の帰還回路に対し、例えば変調周波数又は変調周波数帯域fcarのゲインを更に小さな負の所定ゲイン−y4とすることができる。本実施形態のアクチュエーター駆動回路では、減衰器30の減衰特性を種々に設定することが可能となる。
【0057】
図21には減算器25に入力される本実施形態の帰還信号Ref及び減算器25から出力される差分信号Diffの一例を示す(図は、前述した台形波電圧信号からなる駆動波形信号ではなく、一般的な駆動波形信号で説明してある)。同図から明らかなように、帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅はよく減衰されており、その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもない。このように差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲を超えなければ、当然ながら、変調回路26でも動作電圧範囲を超えることがなく、ひいてはデジタル電力増幅回路27の出力信号である電力増幅変調信号APWMも、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動波形信号PCOM)も適正なものとなり、帰還回路による補償が成立する。
【0058】
このように、本実施形態の容量性負荷駆動回路を用いた場合でも、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅を減衰することができる。その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもないことから、帰還回路による補償を成立可能とすると共に、複数の減衰器を備えることにより、より大きな帰還信号Refの歪みを除去することができる。
【0059】
なお、前述の実施形態では、本発明の容量性負荷駆動回路をインクジェットプリンターの容量性負荷であるアクチュエーターの駆動に適用した場合についてのみ詳述したが、その他の流体噴射を行う装置に用いる容量性負荷の駆動にも同様に適用可能である。 例えば、容量性負荷を用いた流体噴射装置として、血管内に挿入し、血栓などを除去する目的で用いるカテーテルの先端に設置することに適したウォーターパルスメス、或いは生体組織を切開又は切除することに好適なウォーターパルスメスが挙げられる。これらのウォーターパルスメスにて用いる流体は、水又は生理食塩水であり、以降、これらを総称して液体と表す。
【0060】
上記のウォーターパルスメスでは、ポンプから供給される高圧の液体をパルス流として噴射する。そして、パルス流を噴射するにあたっては、容量性負荷である圧電素子を駆動させることによって流体室を構成するダイヤフラムを変位させ、パルス流を生成する。ウォーターパルスメスにおいても、容量性負荷である圧電素子と圧電素子を制御する流体噴射制御部とは、分離・離間して設けられる。従って、本発明の容量性負荷回路を上記のウォーターパルスメスに適用することによって、容量性負荷の駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な流体噴射が可能になる。
【0061】
なお、本発明の容量性負荷駆動回路を用いた流体噴射装置は、前記インクや生理食塩水以外の他の液体(液体以外にも、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルなどの流状体を含む)や液体以外の流体(流体として流して噴射できる固体など)を噴射する流体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッサンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解の形態で含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられて試料となる液体を噴射する流体噴射装置であってもよい。更に、時計やカメラなどの精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子などに用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するための紫外線硬化樹脂などの透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置であってもよい。更に、基板などをエッチングするために酸又はアルカリなどのエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射する流体噴射式記録装置であってもよい。そして、これらのうち何れか一種の噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1は印刷媒体、2はインクジェットヘッド、3は給紙部、4は搬送部、5は給紙ローラー、6は搬送ベルト、7はヘッド固定プレート、8は駆動ローラー、9は従動ローラー、10は排紙部、11は制御装置、13は制御部、16はヘッドドライバー、19はアクチュエーター(容量性負荷)、24は駆動波形信号発生回路、25は減算器、26は変調回路、27はデジタル電力増幅回路、28は平滑フィルター、29は補償器、30は減衰器、31は三角波発振器、32は比較器、33はハーフブリッジ出力段、34はゲートドライブ回路、35は配線
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子などの容量性負荷に駆動信号を印加して駆動する容量性負荷駆動回路に関し、容量性負荷をアクチュエーターとし、当該アクチュエーターに駆動信号を印加してインクを噴射することで印刷を行うインクジェットプリンターや、容量性負荷からなるアクチュエーターをダイヤフラムに接合し、当該アクチュエーターに駆動信号を印加して流体を噴射する液体噴射装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば所定の電圧波形からなる駆動波形信号をデジタル電力増幅回路で電力増幅して容量性負荷からなるアクチュエーターへの駆動信号とする場合、駆動波形信号を変調回路でパルス変調して変調信号とし、その変調信号をデジタル電力増幅回路で電力増幅して電力増幅変調信号とし、その電力増幅変調信号を平滑フィルターで平滑化して駆動信号としている。
【0003】
駆動信号の波形が重要な場合、当該駆動信号の位相を進めて帰還信号とし、減算器で得られた帰還信号と駆動波形信号との差分値を変調回路への入力信号とすることがある。例えば下記特許文献1では、駆動信号の帰還回路に位相進みの補償器を介装することで、平滑フィルターの前後にダンピング抵抗を介装することなく、駆動信号の波形を補償しようとしている。なお、変調回路によるパルス変調の周波数を変調周波数、或いはキャリア周波数と呼んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−96364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、デジタル電力増幅回路と容量性負荷からなるアクチュエーターが離間している場合、基板配線を含め、アクチュエーターとデジタル電力増幅回路との間に配線が必要となる。このような場合、実際にアクチュエーターに印加される駆動信号を帰還するのは、個別の配線を必要とするなど、現実的でないから、例えばデジタル電力増幅回路の出力端にインダクタを設け、このインダクタと配線との接続点の信号を帰還する。しかしながら、この配線の入力信号を帰還する場合、単に位相進みの補償器を帰還回路に介装しただけでは、減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が帰還信号に残ってしまう場合があり、このような場合、駆動信号を正確に補償することができないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、これらの諸問題に着目して開発されたものであり、帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することが可能な容量性負荷駆動回路、インクジェットプリンター、及び流体噴射装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記諸問題を解決するため、本発明の容量性負荷駆動回路は、駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、インダクタと容量性負荷とを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記容量性負荷の駆動信号とする平滑フィルターと、前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、少なくとも前記変調信号の変調周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするものである。
【0008】
この容量性負荷駆動回路によれば、例えばアクチュエーターを構成する容量性負荷とデジタル電力増幅回路との間に配線が必要な場合、インダクタと容量性負荷とを配線で接続して平滑フィルターとし、インダクタと配線との接続部から出力される信号を、補償器及び減衰器に通過させてから減算器への帰還信号とするため、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号中の変調周波数帯域の信号振幅を減衰器で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができる。
【0009】
また、前記補償器は、コンデンサーと抵抗とを備え、前記減衰器は、前記補償器の前記抵抗を含んで構成されていることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、回路を簡素化できると共に、減衰器の減衰特性を種々に設定することが可能となる。
また、前記減衰器は、前記減算器及び前記変調回路の少なくとも一方で信号振幅が動作可能範囲を超えないように減衰するものであることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのをより確実に防止することができる。
【0010】
また、前記減衰器は、位相遅れ特性を有することを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、位相遅れ特性が持つ積分機能によって帰還信号の歪みを除去することができる。
また、前記減衰器は、1つ以上の抵抗で構成されることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、より簡素な構成で、帰還信号の歪みを除去することができる。
また、前記減衰器は、複数の減衰器で構成されることを特徴とするものである。
この容量性負荷駆動回路によれば、より大きな帰還信号の歪みを除去することができる。
【0011】
また、本発明のインクジェットプリンターは、容量性負荷からなるアクチュエーターをインクジェットヘッドに複数備え、前記アクチュエーターに駆動信号を印加すると圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射し、その噴射されたインクで印刷媒体に印刷を行うインクジェットプリンターであって、駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、単体又は前記補償器との組合せで、少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするものである。
【0012】
このインクジェットプリンターによれば、容量性負荷からなるアクチュエーターに駆動信号を印加するとインクジェットヘッドの圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射し、その噴射されたインクで印刷媒体に印刷を行うにあたり、インダクタと容量性負荷からなるアクチュエーターとを配線で接続して平滑フィルターとし、インダクタと配線との接続部から出力される信号を、補償器及び減衰器に通過させてから減算器への帰還信号とするため、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号中の変調周波数帯域の信号振幅を減衰器で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な印刷が可能となる。
【0013】
また、本発明の流体噴射装置は、容量性負荷からなるアクチュエーターをダイヤフラムに接合し、前記アクチュエーターに駆動信号を印加するとダイヤフラムを介して流体室の容積が縮小されて当該流体室内の流体を噴射する流体噴射装置であって、駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、単体又は前記補償器との組合せで、少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするものである。
【0014】
この流体噴射装置によれば、容量性負荷からなるアクチュエーターに駆動信号を印加するとダイヤフラムを介して流体室の容積が縮小されて当該流体室内の流体を噴射するにあたり、インダクタと容量性負荷からなるアクチュエーターとを配線で接続して平滑フィルターとし、インダクタと配線との接続部から出力される信号を、補償器及び減衰器に通過させてから減算器への帰還信号とするため、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号中の変調周波数帯域の信号振幅を減衰器で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号に減算器や変調回路の動作範囲を超える変調周波数帯域の信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な流体噴射が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の容量性負荷駆動回路を用いたインクジェットプリンターの第1実施形態を示す概略構成正面図である。
【図2】図1のインクジェットプリンターに用いられるインクジェットヘッド近傍の平面図である。
【図3】図1のインクジェットプリンターの制御装置のブロック図である。
【図4】容量性負荷からなるアクチュエーターの駆動信号の説明図である。
【図5】スイッチングコントローラーのブロック図である。
【図6】アクチュエーターの駆動回路の一例を示すブロック図である。
【図7】図6の変調回路のブロック図である。
【図8】図6のデジタル電力増幅器のブロック図である。
【図9】図6の帰還回路の説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図10】図6の減算器の入出力信号の説明図である。
【図11】一般的なアクチュエーター駆動回路及び帰還回路のブロック図である。
【図12】図11の帰還回路の説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図13】図11の減算器の入出力信号の説明図である。
【図14】図6のアクチュエーター駆動回路の等価回路図である。
【図15】図14の周波数特性図である。
【図16】図14の周波数特性図である。
【図17】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた帰還回路の一例を示す説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図18】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた帰還回路の他の例を示す説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図19】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた減算器の入出力信号の説明図である。
【図20】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた帰還回路を示す説明図であり、(a)はブロック図、(b)は周波数特性図である。
【図21】図3のアクチュエータードライバー内に設けられた減算器の入出力信号の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の容量性負荷駆動回路の第1実施形態として、インクジェットプリンターに適用されたものについて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェットプリンターの概略構成図であり、図1において、印刷媒体1は、図の左から右に向けて矢印方向に搬送され、その搬送途中の印刷領域で印刷される、ラインヘッド型インクジェットプリンターである。
【0017】
図1中の符号2は、印刷媒体1の搬送ライン上方に設けられた複数のインクジェットヘッドであり、印刷媒体搬送方向に2列になるように且つ印刷媒体搬送方向と交差する方向に並べて配設されて、夫々、ヘッド固定プレート7に固定されている。各インクジェットヘッド2の最下面には、多数のノズルが形成されており、この面がノズル面と呼ばれている。ノズルは、図2に示すように、噴射するインクの色毎に、印刷媒体搬送方向と交差する方向に列状に配設されており、その列をノズル列と呼んだり、その列方向をノズル列方向と呼んだりする。そして、印刷媒体搬送方向と交差する方向に配設された全てのインクジェットヘッド2のノズル列によって、印刷媒体1の搬送方向と交差する方向の幅全長に及ぶラインヘッドが形成されている。
【0018】
インクジェットヘッド2には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクが、図示しないインクタンクからインク供給チューブを介して供給される。そして、インクジェットヘッド2に形成されているノズルから同時に必要箇所に必要量のインクを噴射することにより、印刷媒体1上に微小なドットを形成する。これを各色毎に行うことにより、搬送部4で搬送される印刷媒体1を一度通過させるだけで、1パスによる印刷を行うことができる。本実施形態では、インクジェットヘッド2のノズルからインクを噴射する方法としてピエゾ方式を用いた。ピエゾ方式は、アクチュエーターである圧電素子に駆動信号を与えると、圧力室内の振動板が変位して圧力室内の容積が変化し、そのときに生じる圧力変化によって圧力室内のインクがノズルから噴射されるというものである。そして、駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することでインクの噴射量を調整することが可能となる。なお、本発明は、ピエゾ方式以外のインク噴射方法にも、同様に適用可能である。
【0019】
インクジェットヘッド2の下方には、印刷媒体1を搬送方向に搬送するための搬送部4が設けられている。搬送部4は、駆動ローラー8及び従動ローラー9に搬送ベルト6を巻回して構成され、駆動ローラー8には図示しない電動モーターが接続されている。また、搬送ベルト6の内側には、当該搬送ベルト6の表面に印刷媒体1を吸着するための図示しない吸着装置が設けられている。この吸着装置には、例えば負圧によって印刷媒体1を搬送ベルト6に吸着する空気吸引装置や、静電気力で印刷媒体1を搬送ベルト6に吸着する静電吸着装置などが用いられる。従って、給紙ローラー5によって給紙部3から印刷媒体1を一枚だけ搬送ベルト6上に送給し、電動モーターによって駆動ローラー8を回転駆動すると、搬送ベルト6が印刷媒体搬送方向に回転され、吸着装置によって搬送ベルト6に印刷媒体1が吸着されて搬送される。この印刷媒体1の搬送中に、インクジェットヘッド2からインクを噴射して印刷を行う。印刷の終了した印刷媒体1は、搬送方向下流側の排紙部10に排紙される。なお、前記搬送ベルト6には、例えばリニアエンコーダーなどで構成される印刷基準信号出力装置が取付けられており、この印刷基準信号出力装置から出力される要求解像度相当のパルス信号に応じて、後述する駆動回路から駆動信号をアクチュエーターに出力することで印刷媒体1上の所定位置に所定の色のインクを噴射し、そのドットによって印刷媒体1上に所定の画像を描画する。
【0020】
本実施形態のインクジェットプリンター内には、インクジェットプリンターを制御するための制御装置11が設けられている。この制御装置11を、図3に示す。まず、ホストコンピューター12から入力された印刷データを読込む。その印刷データに基づいて印刷処理等の演算処理を実行するコンピューターシステムで構成される制御部13と、前記給紙ローラー5に接続されている給紙ローラーモーター14を駆動制御する給紙ローラーモータードライバー15と、インクジェットヘッド2を駆動制御するヘッドドライバー16と、前記駆動ローラー8に接続されている電動モーター17を駆動制御する電動モータードライバー18とを備えて構成される。
【0021】
制御部13は、CPU(Central Processing Unit)13aと、RAM(Random Access Memory)13bと、ROM(Read Only Memory)13cを備えている。CPU13aが印刷処理等の各種処理を実行すると、RAM13bは入力された印刷データ或いは当該印刷データ印刷処理等を実行する際の各種データを一時的に格納し、或いは印刷処理等のプログラムを一時的に展開する。そして、ROM13cはCPU13aで実行する制御プログラム等を格納する不揮発性半導体メモリーで構成されている。この制御部13は、ホストコンピューター12から印刷データ(画像データ)を入手すると、CPU13aが、この印刷データに所定の処理を実行して、何れのノズルからインクを噴射するか或いはどの程度のインクを噴射するかというノズル選択データ(駆動パルス選択データ)を算出する。そして、この印刷データや駆動パルス選択データ及び各種センサーからの入力データに基づいて、給紙ローラーモータードライバー15、ヘッドドライバー16、電動モータードライバー18に制御信号及び駆動信号を出力する。これらの制御信号及び駆動信号により、給紙ローラーモーター14、電動モーター17、インクジェットヘッド2内のアクチュエーターなどが夫々作動して、印刷媒体1の給紙及び搬送及び排紙、並びに印刷媒体1への印刷処理が実行される。なお、制御部13内の各構成要素は、図示しないバスを介して電気的に接続されている。
【0022】
図4には、前記制御装置11内のヘッドドライバー16からインクジェットヘッド2に供給され、圧電素子からなるアクチュエーターを駆動するための駆動信号COMの一例を示す。本実施形態では、中間電圧を中心に電圧が変化する信号とした。この駆動信号COMは、アクチュエーターを駆動してインクを噴射する単位駆動信号としての駆動パルスPCOMを時系列的に接続したものであり、駆動パルスPCOMの立上がり部分がノズルに連通する圧力室の容積を拡大してインクを引込む段階であり、駆動パルスPCOMの立下がり部分が圧力室の容積を縮小してインクを押出す段階であり、インクを押出した結果、インクがノズルから噴射される。
【0023】
この電圧台形波からなる駆動パルスPCOMの電圧増減傾きや波高値を種々に変更することにより、インクの引込量や引込速度、インクの押出量や押出速度を変化させることができ、これによりインクの噴射量を変化させて異なる大きさのドットを得ることができる。従って、複数の駆動パルスPCOMを時系列的に連結する場合でも、そのうちから単独の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエーター19に供給し、インクを噴射したり、複数の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエーター19に供給し、インクを複数回噴射したりすることで種々の大きさのドットを得ることができる。即ち、インクが乾かないうちに複数のインクを同じ位置に着弾すると、実質的に大きなインクを噴射するのと同じことになり、ドットの大きさを大きくすることができるのである。このような技術の組合せによって多階調化を図ることが可能となる。なお、図4の左端の駆動パルスPCOM1は、インクを引込むだけで押出していない。これは、微振動と呼ばれ、インクを噴射せずに、ノズルの増粘を抑制防止したりするのに用いられる。
【0024】
インクジェットヘッド2には、前記駆動信号COMの他、前記図3の制御装置から制御信号として、駆動パルス選択特定データSIと、ラッチ信号LAT及びチャンネル信号CHと、駆動パルス選択特定データSIをシリアル信号としてインクジェットヘッド2に送信するためのクロック信号SCKとが入力されている。駆動パルス選択特定データSIは、印刷データに基づいて駆動パルスPCOMのうちどの駆動パルスPCOMを選択するかを示すデータである。また、ラッチ信号LAT及びチャンネル信号CHは、全ノズルにノズル選択データが入力された後に、駆動パルス選択特定データSIに基づいて駆動信号COMとインクジェットヘッド2のアクチュエーターとを接続させる。なお、これ以後、アクチュエーター19を駆動する駆動信号の最小単位を駆動パルスPCOMとし、駆動パルスPCOMが時系列的に連結された信号全体を駆動信号COMと記す。即ち、ラッチ信号LATで一連の駆動信号COMが出力され始め、チャンネル信号CH毎に駆動パルスPCOMが出力されることになる。
【0025】
図5には、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をアクチュエーター19に供給するためにインクジェットヘッド2内に構築されたスイッチングコントローラーの具体的な構成を示す。このスイッチングコントローラーは、レジスター20と、レジスター20のデータを一時的に保存するラッチ回路21と、ラッチ回路21の出力をレベル変換して選択スイッチ23に供給することにより、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を圧電素子からなるアクチュエーター19に接続するレベルシフター22とを備えて構成されている。なお、レジスター20は、インクを噴射させるノズルに対応した圧電素子などのアクチュエーター19を指定するための駆動パルス選択特定データSIを保存する。
【0026】
レベルシフター22は選択スイッチ23をオンオフできる電圧レベルに変換する。これは、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)が、ラッチ回路21の出力電圧に比べて高い電圧であり、これに合わせて選択スイッチ23の動作電圧範囲も高く設定されているためである。従って、レベルシフター22によって選択スイッチ23が閉じられるアクチュエーター19は、駆動パルス選択特定データSIに基づき所定の接続タイミングで駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に接続される。また、レジスター20の駆動パルス選択特定データSIがラッチ回路21に保存された後、次の印刷情報をレジスター20に入力し、インクの噴射タイミングに合わせてラッチ回路21の保存データを順次更新する。なお、図中の符号HGNDは、圧電素子などのアクチュエーター19のグランド端である。また、この選択スイッチ23により、圧電素子などのアクチュエーター19を駆動信号COM(駆動パルスPCOM)から切り離した後(選択スイッチ23がオフ)も、当該アクチュエーター19の入力電圧は、切り離す直前の電圧に維持される。すなわち、前記圧電素子からなるアクチュエーター19は、容量性負荷である。
【0027】
図6には、アクチュエーター19の駆動回路の概略構成を示す。このアクチュエーター駆動回路は、前記制御装置11のヘッドドライバー16内に構築されている。本実施形態の駆動回路は、駆動波形信号発生回路24と、減算器25と、変調回路26と、デジタル電力増幅回路27と、平滑フィルター28と、前記減算器25への帰還回路に介装された補償器29及び減衰器30とを備えて構成される。ここで、駆動波形信号発生回路24は、予め記憶されている駆動波形データDWCOMに基づいて、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の元、つまりアクチュエーター19の駆動を制御する信号の基準となる駆動波形信号WCOMを生成する。そして、減算器25は駆動波形信号発生回路24で生成された駆動波形信号WCOMから帰還信号Refを減じて差分信号Diffを出力し、変調回路26は減算器25から出力された差分信号Diffをパルス変調する。デジタル電力増幅回路27は、変調回路26でパルス変調された変調信号PWMを電力増幅する。また、平滑フィルター28は、デジタル電力増幅回路27で電力増幅された電力増幅変調信号APWMを平滑化して、圧電素子からなるアクチュエーター19に駆動信号COMとして出力する。
【0028】
駆動波形信号発生回路24は、デジタルデータからなる駆動波形データDWCOMを電圧信号に変換して所定サンプリング周期分ホールド出力する。減算器25は、比例定数用の抵抗を介装した一般的なアナログ減算回路である。変調回路26には、図7に示すように、周知のパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)回路を用いた。パルス幅変調は、所定周波数の三角波信号を出力する三角波発振器31と、三角波信号と差分信号Diffを比較し、例えば差分信号Diffが三角波信号より大きいときにオンデューティーとなるパルスデューティーの変調信号PWMを出力する比較器32とを備えて構成される。なお、変調回路26には、この他にパルス密度変調(PDM)回路などの周知のパルス変調回路を用いることができる。また、本実施形態では、前記アナログ減算回路からなる減算器25の動作電圧範囲は0〜5Vである。
【0029】
デジタル電力増幅回路27は、図8に示すように、実質的に電力を増幅するためのハイサイド側スイッチング素子Q1及びローサイド側スイッチング素子Q2からなるハーフブリッジ出力段33と、変調回路26からの変調信号PWMに基づいて、ハイサイド側スイッチング素子Q1、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GH、GLを調整するためのゲートドライブ回路34とを備えて構成されている。デジタル電力増幅回路27では、変調信号がハイレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1のゲート−ソース間信号GHはハイレベルとなり、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GLはローレベルとなるので、ハイサイド側スイッチング素子Q1はオン状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はオフ状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段33の出力電圧Vaは、供給電圧VDDとなる。一方、変調信号がローレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1のゲート−ソース間信号GHはローレベルとなり、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GLはハイレベルとなるので、ハイサイド側スイッチング素子Q1はオフ状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はオン状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段33の出力電圧Vaは0となる。
【0030】
このようにハイサイド側スイッチング素子Q1及びローサイド側スイッチング素子Q2がデジタル駆動される場合には、オン状態のスイッチング素子に電流が流れるが、ドレイン−ソース間の抵抗値は非常に小さく、損失は殆ど発生しない。また、オフ状態のスイッチング素子には電流が流れないので損失は発生しない。従って、このデジタル電力増幅回路27の損失そのものは極めて小さく、小型のMOSFET等のスイッチング素子を使用することができる。
【0031】
平滑フィルター28は、図6に示すように、1つのインダクタLと、容量性負荷である圧電素子からなるアクチュエーター19と、配線35とで2次のローパスフィルターを構成する。本実施形態では、1つの制御装置11に対して、アクチュエーター19を含むインクジェットヘッド2は複数であり、しかも分離して離間しているので、制御装置11とインクジェットヘッド2との間には、基板配線である場合を含めて配線35が必要となる。配線35は、一般的に抵抗成分とインダクタ成分を有するので、本実施形態の平滑フィルター28は、インダクタLのインダクタ成分、配線の抵抗成分及びインダクタ成分、アクチュエーター19の容量成分を備えた2次のローパスフィルターが構成されることになる。この平滑フィルター28によって、前記変調回路26で生じた変調周波数、即ちパルス変調の周波数成分の信号振幅を減衰して除去し、アクチュエーター19に駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を出力する。
【0032】
帰還信号は、最終的に出力される駆動信号を帰還するのが理想であるが、本実施形態のように制御装置11とアクチュエーター19の間に配線35が必要な場合、アクチュエーター19への駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を帰還するには個別の配線が必要となり、現実的でない。そこで、本実施形態では、平滑フィルター28のインダクタLと配線35との接続部のインダクタ出力信号SLを取出し、これを帰還回路に帰還する。この帰還回路には、前述したように補償器29と減衰器30が介装されている。本実施形態では、図9aに示すように、補償器29にはコンデンサーC1及び抵抗R1からなる1次のハイパスフィルターを適用し、減衰器30には抵抗R2及びコンデンサーC2からなる1次のローパスフィルターを適用した。周知のようにハイパスフィルターには位相進み特性があり、この特性を生かして帰還信号Refの位相進めて補償することができる。位相進み特性は微分特性とも呼ばれる。一方、ローパスフィルターには位相遅れ特性がある。位相遅れ特性は積分特性とも呼ばれる。
【0033】
このハイパスフィルターからなる補償器29とローパスフィルターからなる減衰器30の組合せからなる帰還回路は図9bに示すような周波数特性を有し、特に減衰器30によって変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yAが得られる。即ち、アクチュエーター19の容量成分で構成される平滑フィルター28によって、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動パルスPCOM)中の変調周波数又は変調周波数帯域の信号振幅が十分に減衰されるように設計しても、インダクタLと配線35の接続部の信号、即ちインダクタ出力信号SLには変調周波数又は変調周波数帯域の信号振幅が残存している恐れがある。なお、アクチュエーター19は、インダクタLのインダクタ成分、配線35のインダクタ成分及び抵抗成分、圧電素子(容量性負荷)からなる。しかしながら、帰還回路中の減衰器30の周波数特性を調整することにより、インダクタ出力信号SL中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰することができ、ひいては減算器25の出力信号である差分信号Diffや変調回路26の出力信号である変調信号PWMを適正なものとすることができる。ちなみに、デジタル電力増幅回路27の出力信号であるAPWMは変調周波数帯域が減衰されていない信号が出てくるので、この信号を帰還しようとすると、伝達関数の共振ピークを抑えるための設計が難しい。一方、インダクタ出力信号SLは減算器25の出力信号Diffや変調回路26の出力信号PWMの動作範囲にするには十分な減衰量ではないが変調周波数成分が減衰される形となるので、帰還するときに共振ピークを抑えるための設計がしやすい。このため、本発明ではインダクタ出力信号SLを帰還する。
【0034】
図10には減算器25に入力される帰還信号Ref及び減算器25から出力される差分信号Diffの一例を示す(図は、前述した台形波電圧信号からなる駆動波形信号ではなく、一般的な駆動波形信号で説明してある)。同図から明らかなように、帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅はよく減衰されており、その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもない。このように差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲を超えなければ、当然ながら、変調回路26でも動作電圧範囲を超えることがなく、ひいてはデジタル電力増幅回路27の出力信号である電力増幅変調信号APWMも、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動波形信号PCOM)も適正なものとなり、帰還回路による補償が成立する。
【0035】
図11は、前記特許文献1のように帰還回路に補償器29だけを介装した一般的な駆動回路及び帰還回路の一例である。平滑フィルター28として、インダクタのインダクタ成分及びコンデンサーの容量成分を有する2次のローパスフィルターを必要とする場合、系の安定性を考慮すると、図のインダクタLの出力側でコンデンサーを接地し、且つインダクタの前後にダンピング抵抗を介装するのが理想的であるが、コンデンサーを接地したり、ダンピング抵抗を介装したりすると電力消費が大きくなる。そこで、コンデンサーの代わりにアクチュエーター19の容量成分Cを用い、出力信号を帰還することでダンピング抵抗を不要とすると、図11の駆動回路及び帰還回路が考えられる。
【0036】
平滑フィルター28では、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動パルスPCOM)が重要なので、アクチュエーター19と配線35の接続部における周波数特性が、変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yとなるように設計する。しかしながら、平滑フィルター28のインダクタLと配線35の接続部では、平滑フィルター28としての機能が十分に発揮されておらず、変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yが得られていない。そのため、インダクタ出力信号SLには変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅が残存する場合がある。
【0037】
図12aは、図11の帰還回路であり、前記図9と同様に、補償器29がコンデンサーC1及び抵抗R1からなる1次のハイパスフィルターであるとすると、帰還回路の周波数特性(この場合は補償器29の周波数特性に等しい)は変調周波数又は変調周波数帯域fcarでゲインが0、即ち全く減衰しないから帰還信号Refにも前記変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅が残存する。例えば図13に示すように帰還信号Refに前記変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅が残存すると、例えば減算器25から出力される差分信号Diffが当該減算器25の動作電圧範囲0〜5Vを超え、本来、二点鎖線のように表れる差分信号Diffが実線で示すように動作電圧上限値である5Vでカットされ、歪みが生じる。このように差分信号Diffに歪みが生じると、当然ながら、変調信号PWMにも、電力増幅変調信号APWMにも歪みが生じ、結果として駆動信号COM(駆動パルスPCOM)にも歪みが生じるので、帰還回路による補償が成立しない。
【0038】
これに対し、本実施形態の帰還回路では、位相を進める補償器29と変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰する減衰器30の組合せによって補償を成立させることができ、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の精度を確保することができる。前述のように、ハイパスフィルターには位相進み特性があり、一方、ローパスフィルターには位相遅れ特性がある。補償器29をハイパスフィルター、減衰器30をローパスフィルターで構成すると、定数の設定によって両者の伝達特性を設定することが可能となり、周波数特性を細かく調整することができる。
【0039】
図14aは、前記図6のアクチュエーター駆動回路の等価回路である。図14aでは、入力信号xが駆動波形信号WCOM、出力信号y1が駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に相当する。また、出力信号y2はインダクタ出力信号SL、出力信号y3は帰還信号Refである。平滑フィルター28の伝達関数をH2とし、変調回路26からデジタル電力増幅回路27までのゲインをAとし、補償器29の伝達関数をβ、減衰器30の伝達関数をγとした。また、図14bは、配線35からアクチュエーター19までの等価回路であり、この等価回路の伝達関数をH1とした。
入力信号xに対する出力信号y1、即ち駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数をGy1、入力信号xに対する出力信号y2、即ちインダクタ出力信号SLの伝達関数をGy2とすると、下記1式及び2式から下記3式が得られる。
【0040】
【数1】
【0041】
また、出力信号y2と出力信号y3は下記4式の関係にあるから、出力信号y2を前記伝達関数Gy2で表すことで下記5式が得られ、入力信号xに対する出力信号y3、即ち帰還信号Refの伝達関数Gy3は下記6式で表れる。
【0042】
【数2】
【0043】
また、出力信号y2については、下記7式から8式が得られ、その結果、入力信号xに対する出力信号y2の伝達関数Gy2は下記9式で表れる。
【0044】
【数3】
【0045】
図15には、入力信号xに対する出力信号y1、即ち駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1及び配線35からアクチュエーター19までの伝達関数H1の一例を示す。伝達関数Gy1は目標値であり、設計値でもある。一方、伝達関数H1は既定値である。従って、入力信号xに対する出力信号y2、即ちインダクタ出力信号SLの伝達関数Gy2は図に破線で示すように表れる。
【0046】
前述のように二次のローパスフィルターで構成される平滑フィルター28に対し、帰還を行うのは、前記入力信号xに対する出力信号y1、即ち駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1の特性から共振ピークをなくすのが目的である。従って、その伝達関数Gy1の特性から共振ピークがなくなるように補償器29の伝達特性(ゲイン)βを設定する。その場合、まずは減衰器30の伝達特性(ゲイン)γを1とするとよい。例えば、前記3式で表れる伝達関数Gy1から共振ピークをなくすには、図16aに示すように、共振特性を持つA・H1・H2の逆数の伝達関数に対し、γ・β/H1を加えて1/Gy1の共振ピークがなくなるように補償器29の伝達特性(ゲイン)βを設定する。
【0047】
ここで、変調周波数成分はデジタル電力増幅回路の出力から発生する為、変調周波数成分の振幅減衰量は、デジタル電力増幅回路の出力を基準として考える。例えば、図16bの場合、入力xから見た変調周波数成分のゲインはデジタル電力増幅回路の出力A(dB)であり、入力xから見た減衰器30の後の変調周波数成分のゲインは−ys(dB)となる。すなわち、変調周波数成分のゲインはA(dB)から−ys(dB)に変化したことになり、変調周波数又は変調周波数帯域fcarの振幅減衰量は(A+ys)(dB)となる。
【0048】
次に、図16bに示すように、減算器25や変調回路26、所謂アナログ信号系の動作電圧範囲(本実施形態では0〜5V)を超えないように帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅減衰量A+ys(dB)を設定する。そして、入力信号xに対する出力信号y3、即ち帰還信号Refの伝達関数Gy3の変調周波数又は変調周波数帯域fcarの信号振幅減衰量がA+ys(dB)以下となるように減衰器30の伝達特性(ゲイン)γを設定する。このとき、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1の特性が大きく変わらないようにする必要があるから、減衰器30の伝達特性(ゲイン)γによる帰還信号Refの伝達関数Gy3の調整は、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の伝達関数Gy1の特性変化も同時に確認しながら行うべきである。
【0049】
本実施形態の容量性負荷駆動回路及びインクジェットプリンターでは、容量性負荷からなるアクチュエーター19に駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を印加するとインクジェットヘッド2の圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射する。そして、その噴射されたインクで印刷媒体1に印刷を行う場合に、インダクタLと容量性負荷からなるアクチュエーター19とを配線35で接続して平滑フィルター28とし、インダクタLと配線35との接続部から出力されるインダクタ出力信号SLを、補償器29及び減衰器30に通過させてから減算器25への帰還信号Refとする。これにより、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号Ref中の変調周波数帯域fcarの信号振幅を減衰器30で減衰することができる。その結果、駆動信号の波形を補償しながら帰還信号Refに減算器25や変調回路26の動作範囲を超える変調周波数帯域fcarの信号振幅が残るのを防止することができ、駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な印刷が可能となる。
【0050】
また、減算器25及び変調回路26の少なくとも一方で信号振幅が動作電圧範囲を超えないように帰還信号Refを減衰するように減衰器30を設定することにより、帰還信号Refに減算器25や変調回路26の動作電圧範囲を超える変調周波数帯域fcarの信号振幅が残るのを確実に防止することができる。
また、位相遅れ特性を有する減衰器30を用いることにより、位相遅れ特性が持つ積分機能によって帰還信号Refの歪みを除去することができる。さらに、減衰器30の位相遅れ特性の調整により帰還回路の周波数特性を調整することで、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の周波数特性を調整することが可能となる。
なお、前記実施形態では、本発明の容量性負荷駆動回路をラインヘッド型のインクジェットプリンターに用いた場合についてのみ詳述したが、本発明の容量性負荷駆動回路は、マルチパス型のインクジェットプリンターにも同様に適用可能である。
【0051】
次に、本発明の容量性負荷駆動回路の第2実施形態について説明する。本実施形態の説明にあたっては、前述した実施形態1と同様の構成部分については、先に説明した実施形態と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
本実施形態では、前記アクチュエーター駆動回路に併設された帰還回路の構成が異なる。また、帰還回路には、第1実施形態と同様に、補償器29及び減衰器30が設けられているのであるが、それらの構成の実体が異なる。図17aは、本実施形態の帰還回路に設けられた補償器29及び減衰器30の一例を示すブロック図である。この例に示す補償器29の構成は、前記第1実施形態の補償器と同様に、1つのコンデンサーC1と1つの抵抗R1で構成される1次のハイパスフィルターであるが、減衰器30は、回路中に介装した1つの抵抗R3と、その出力側で接地された抵抗R4で構成される分圧器からなる。従って、図17aの帰還回路の周波数特性は図17bのように表れる。この実施例では、前記第1実施形態のような位相遅れ特性がないので、例えば変調周波数又は変調周波数帯域fcarの高周波数帯域での積極的な減衰は望めないが、2つの抵抗の組合せという単純な構成でも、当該変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yBが得られ、これにより変調周波数帯域の減衰が期待できる。
【0052】
また、図18aは、本実施形態の帰還回路に設けられた補償器29及び減衰器30の他の例を示すブロック図である。この例に示す補償器29の構成は、前記第1実施形態の補償器と同様に、1つのコンデンサーC1と1つの抵抗R1で構成される1次のハイパスフィルターであるが、減衰器30は、回路中に介装した1つの抵抗R5と、前記補償器29内の接地抵抗R1で構成される分圧器からなる。つまり、補償器29との組合せで減衰器30が構成されている。この図18aの帰還回路の周波数特性は図18bのように表れる。この実施例でも、前記前記図17と同様に、2つの抵抗の組合せという単純な構成でも、当該変調周波数又は変調周波数帯域fcarで負の所定ゲイン−yCが得られ、これにより変調周波数帯域の減衰が期待でき、更には使用される抵抗の数を低減できる。本実施形態のアクチュエーター駆動回路では、帰還回路を簡素化することができる。
【0053】
図19には減算器25に入力される本実施形態の帰還信号Ref及び減算器25から出力される差分信号Diffの一例を示す(図は、前述した台形波電圧信号からなる駆動波形信号ではなく、一般的な駆動波形信号で説明してある)。同図から明らかなように、帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅はよく減衰されており、その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもない。このように差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲を超えなければ、当然ながら、変調回路26でも動作電圧範囲を超えることがなく、ひいてはデジタル電力増幅回路27の出力信号である電力増幅変調信号APWMも、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動波形信号PCOM)も適正なものとなり、帰還回路による補償が成立する。
【0054】
このように、本実施形態の容量性負荷駆動回路を用いた場合でも、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅を減衰することができる。その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもないことから、帰還回路による補償を成立可能とすると共に、減衰器を1つ以上の抵抗で構成することにより、より簡素な構成で帰還信号Refの歪みを除去することができる。
【0055】
次に、本発明の容量性負荷駆動回路の第3実施形態について説明する。本実施形態の説明にあたっては、前述した実施形態1と同様の構成部分については、先に説明した実施形態と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
本実施形態では、前記アクチュエーター駆動回路に併設された帰還回路の構成が第1実施形態および第2実施形態とさらに異なる。また、帰還回路には、第1実施形態および第2実施形態と同様に、補償器29及び減衰器30が設けられているのであるが、それらの構成の実体が異なる。
【0056】
図20aは、本実施形態の帰還回路に設けられた補償器29及び減衰器30を示すブロック図である。同図に示す補償器29及び減衰器30は、前記第1実施形態の補償器及び減衰器と同様に、1つのコンデンサーC1と1つの抵抗R1で構成される1次のハイパスフィルターと、1つの抵抗R2と1つのコンデンサーC2で構成される1次のローパスフィルターを備えている。更に、本実施形態では、補償器29を構成するハイパスフィルターの入力側に1つの抵抗R6を介装し、この抵抗R6と補償器29中の接地抵抗R1とで分圧器からなる減衰器30を構成する。従って、図20aの帰還回路の周波数特性は図20bのように表れ、前記第1実施形態の図9の帰還回路に対し、例えば変調周波数又は変調周波数帯域fcarのゲインを更に小さな負の所定ゲイン−y4とすることができる。本実施形態のアクチュエーター駆動回路では、減衰器30の減衰特性を種々に設定することが可能となる。
【0057】
図21には減算器25に入力される本実施形態の帰還信号Ref及び減算器25から出力される差分信号Diffの一例を示す(図は、前述した台形波電圧信号からなる駆動波形信号ではなく、一般的な駆動波形信号で説明してある)。同図から明らかなように、帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅はよく減衰されており、その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもない。このように差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲を超えなければ、当然ながら、変調回路26でも動作電圧範囲を超えることがなく、ひいてはデジタル電力増幅回路27の出力信号である電力増幅変調信号APWMも、アクチュエーター19に印加される駆動信号COM(駆動波形信号PCOM)も適正なものとなり、帰還回路による補償が成立する。
【0058】
このように、本実施形態の容量性負荷駆動回路を用いた場合でも、駆動信号の伝達関数特性から共振ピークを除去しながら帰還信号Ref中の変調周波数又は変調周波数帯域fcarに相当する高周波の信号振幅を減衰することができる。その結果、差分信号Diffが減算器25の動作電圧範囲である0〜5Vを超えることもないことから、帰還回路による補償を成立可能とすると共に、複数の減衰器を備えることにより、より大きな帰還信号Refの歪みを除去することができる。
【0059】
なお、前述の実施形態では、本発明の容量性負荷駆動回路をインクジェットプリンターの容量性負荷であるアクチュエーターの駆動に適用した場合についてのみ詳述したが、その他の流体噴射を行う装置に用いる容量性負荷の駆動にも同様に適用可能である。 例えば、容量性負荷を用いた流体噴射装置として、血管内に挿入し、血栓などを除去する目的で用いるカテーテルの先端に設置することに適したウォーターパルスメス、或いは生体組織を切開又は切除することに好適なウォーターパルスメスが挙げられる。これらのウォーターパルスメスにて用いる流体は、水又は生理食塩水であり、以降、これらを総称して液体と表す。
【0060】
上記のウォーターパルスメスでは、ポンプから供給される高圧の液体をパルス流として噴射する。そして、パルス流を噴射するにあたっては、容量性負荷である圧電素子を駆動させることによって流体室を構成するダイヤフラムを変位させ、パルス流を生成する。ウォーターパルスメスにおいても、容量性負荷である圧電素子と圧電素子を制御する流体噴射制御部とは、分離・離間して設けられる。従って、本発明の容量性負荷回路を上記のウォーターパルスメスに適用することによって、容量性負荷の駆動信号の精度を確保することができるため、高精度な流体噴射が可能になる。
【0061】
なお、本発明の容量性負荷駆動回路を用いた流体噴射装置は、前記インクや生理食塩水以外の他の液体(液体以外にも、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルなどの流状体を含む)や液体以外の流体(流体として流して噴射できる固体など)を噴射する流体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッサンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解の形態で含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられて試料となる液体を噴射する流体噴射装置であってもよい。更に、時計やカメラなどの精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子などに用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するための紫外線硬化樹脂などの透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置であってもよい。更に、基板などをエッチングするために酸又はアルカリなどのエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射する流体噴射式記録装置であってもよい。そして、これらのうち何れか一種の噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1は印刷媒体、2はインクジェットヘッド、3は給紙部、4は搬送部、5は給紙ローラー、6は搬送ベルト、7はヘッド固定プレート、8は駆動ローラー、9は従動ローラー、10は排紙部、11は制御装置、13は制御部、16はヘッドドライバー、19はアクチュエーター(容量性負荷)、24は駆動波形信号発生回路、25は減算器、26は変調回路、27はデジタル電力増幅回路、28は平滑フィルター、29は補償器、30は減衰器、31は三角波発振器、32は比較器、33はハーフブリッジ出力段、34はゲートドライブ回路、35は配線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、
前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
インダクタと容量性負荷とを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記容量性負荷の駆動信号とする平滑フィルターと、
前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、
少なくとも前記変調信号の変調周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、
前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とする容量性負荷駆動回路。
【請求項2】
前記補償器は、コンデンサーと抵抗とを備え、
前記減衰器は、前記補償器の前記抵抗を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項3】
前記減衰器は、前記減算器及び前記変調回路の少なくとも一方で信号振幅が動作可能範囲を超えないように減衰するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項4】
前記減衰器は、位相遅れ特性を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項5】
前記減衰器は、1つ以上の抵抗で構成されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項6】
前記減衰器は、複数の減衰器で構成されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項7】
容量性負荷からなるアクチュエーターをインクジェットヘッドに複数備え、前記アクチュエーターに駆動信号を印加すると圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射し、その噴射されたインクで印刷媒体に印刷を行うインクジェットプリンターであって、
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、
前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、
前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、
少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、
前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするインクジェットプリンター。
【請求項8】
容量性負荷からなるアクチュエーターをダイヤフラムに接合し、前記アクチュエーターに駆動信号を印加するとダイヤフラムを介して流体室の容積が縮小されて当該流体室内の流体を噴射する流体噴射装置であって、
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、
前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、
前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、
少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、
前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項1】
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、
前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
インダクタと容量性負荷とを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記容量性負荷の駆動信号とする平滑フィルターと、
前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、
少なくとも前記変調信号の変調周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、
前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とする容量性負荷駆動回路。
【請求項2】
前記補償器は、コンデンサーと抵抗とを備え、
前記減衰器は、前記補償器の前記抵抗を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項3】
前記減衰器は、前記減算器及び前記変調回路の少なくとも一方で信号振幅が動作可能範囲を超えないように減衰するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項4】
前記減衰器は、位相遅れ特性を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項5】
前記減衰器は、1つ以上の抵抗で構成されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項6】
前記減衰器は、複数の減衰器で構成されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項7】
容量性負荷からなるアクチュエーターをインクジェットヘッドに複数備え、前記アクチュエーターに駆動信号を印加すると圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射し、その噴射されたインクで印刷媒体に印刷を行うインクジェットプリンターであって、
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、
前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、
前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、
少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、
前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とするインクジェットプリンター。
【請求項8】
容量性負荷からなるアクチュエーターをダイヤフラムに接合し、前記アクチュエーターに駆動信号を印加するとダイヤフラムを介して流体室の容積が縮小されて当該流体室内の流体を噴射する流体噴射装置であって、
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号と帰還信号との差分信号を出力する減算器と、
前記差分信号をパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
インダクタと前記アクチュエーターとを配線で接続して構成され且つ前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、
前記駆動信号よりも位相を進める補償器と、
少なくとも前記変調信号のキャリア周波数を含んだ帯域の信号振幅を減衰する減衰器とを備え、
前記インダクタと前記配線との接続部から出力される信号を、前記補償器及び前記減衰器に通過させた後、前記減算器への帰還信号とすることを特徴とする流体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−207069(P2011−207069A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77496(P2010−77496)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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