説明

密閉型開閉装置

【課題】高電圧導体表面に存在する微細金属粉が高電圧導体表面またはその近傍に滞留、集積することを防ぐと共に、絶縁破壊の発生に必要な高電圧導体表面からの初期電子供給を抑えることにより、絶縁信頼性が高く、且つコンパクトな密閉型開閉装置を提供する。
【解決手段】高電圧導体1表面に抵抗特性を有する抵抗膜12をコーティングしている。抵抗膜12は、抵抗特性を有する材料粉もしくはこれを混入させた樹脂からなり、その体積抵抗率は1E7Ω・cm以上で且つ1E11Ω・cm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、絶縁性能の向上を図った密閉型開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガス絶縁開閉装置などには密閉型開閉装置が採用されている。密閉型開閉装置は、密閉した容器内部に、高電圧導体を収納すると共に、絶縁性ガスを封入することにより構成される。密閉型開閉装置にはコストや環境負荷を低減することが望まれるため、装置の縮小化が指向されている。したがって、絶縁設計の合理化や三相一括化などによる密閉容器のコンパクト化が進められている。
【0003】
ところで、密閉型開閉装置の密閉容器の大きさは、基本的に絶縁及び熱的設計に基づいて決められる。絶縁設計の決定に際しては、万一、密閉容器内に金属粉が存在した場合の絶縁性能への影響度が検討ポイントとなる。この点について、図5、図6を用いて具体的に説明する。
【0004】
図5に示すように、密閉容器4内部には高電圧導体1が絶縁物2により支持されると共に、絶縁ガス3が封入されている。このような密閉型開閉装置を製造する場合、密閉容器4内部に微細金属粉5が存在しないように管理するのはもちろんであるが、万が一微細金属粉5が密閉容器4内に存在した場合を考慮して、絶縁設計を行う必要がある。
【0005】
密閉容器4内部に微細金属粉5が存在すると、密閉容器4への絶縁ガス3の封入に伴って、微細金属粉5は浮遊する。密閉容器4内で浮遊した微細金属粉5の中には、高電圧導体1近傍に相当時間の間、浮遊を続けるものもあれば、高電圧導体1自体に付着するものもある。ここでは、前者を近傍金属粉6、後者を付着金属粉7と呼ぶことにする。
【0006】
これらの近傍金属粉6や付着金属粉7が、絶縁性能に影響を及ぼす要因となる。すなわち、図6(A)に示すように、近傍金属粉6が存在することで、高電圧導体1との間に微小ギャップ10を構成する。この状態で雷インパルス電圧のような高い電圧が印加されると、微小ギャップ10は絶縁破壊し、これを発端として高電圧導体1と密閉容器4との間で絶縁破壊が生じるおそれがある。
【0007】
また、図6(B)に示すように、付着金属粉7は高電圧導体1上に局所電界集中9を生じさせる。局所電界集中9が発生した状態で、雷インパルス電圧のような高い電圧が印加された場合、局所的に集中した電界9が絶縁ガス3の破壊電界を越して、やはり絶縁破壊を生じるおそれがある。
【0008】
以上のように、近傍金属粉6や付着金属粉7は絶縁破壊を発生させる可能性があるため、これら金属粉6、7の存在が、絶縁設計への制約条件となっている。そのため、近傍金属粉6や付着金属粉7が存在しても、耐電圧性能に影響しないように絶縁設計を行うことが要求されている。この要求に応える1つの方法として、高電圧導体1の表面電界8を低く抑えることが考えられる。
【0009】
しかし、表面電界8の強度は、高電圧導体1と密閉容器4内面との距離に依存するので、表面電界8の強度を低くすれば高電圧導体1と密閉容器4内面を離さなくてはならない。つまり、近傍金属粉6や付着金属粉7の存在が、密閉容器4の大型化を招く要因となっていた。
【0010】
そこで、密閉容器4のコンパクト化を実現しつつ(言い換えると高電圧導体1の表面電界8の強度が高くなろうとも)、近傍金属粉6や付着金属粉7による絶縁性能への影響を回避することが求められている。すなわち、金属粉6、7による絶縁設計への制約条件を低減化することが要請されており、具体的な対策として、放電を開始するのに必要な高電圧導体1表面からの初期電子供給を抑制する技術が提案されている。
【0011】
高電圧導体1表面からの初期電子供給を抑制する技術として、高電圧導体への絶縁コーティング技術が提案されている(例えば、特許文献1)。この絶縁コーティング技術について、図7を参照して説明する。図7に示す密閉型開閉装置では、高電圧導体1の外面に、エポキシ等の絶縁膜11がコーティングされている。
【0012】
上記の密閉型開閉装置では、図8に示すように、高電圧導体1表面にはミクロンオーダの尖った凹凸14が形成されるが、この凹凸14を絶縁膜11によって覆っている。これにより、高電圧導体1表面から絶縁ガス3への放電に必要な初期電子供給を抑えることが可能である。
【0013】
したがって、万が一、雷インパルス電圧のような過電圧印加中に、高電圧導体1近くに近傍金属粉6が飛来したとしても、高電圧導体1と浮遊する近傍金属粉6との間の微小ギャップ10の放電を防ぐことができる。また、高電圧導体1上に付着金属粉7が存在しても、高電圧導体1表面からの初期電子供給を抑えることにより、絶縁破壊の発生を防ぐことが可能である。
【0014】
上述したように、図7に示した密閉型開閉装置では、高電圧導体1表面に絶縁膜11をコーティングしたことで、高電圧導体1表面からの初期電子の電界放射を抑制可能である。これにより、高電圧導体1の表面電界8を高くし、密閉容器4のコンパクト化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−40970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来技術である、高電圧導体への絶縁コーティング技術に関しては、次のような課題が指摘されていた。すなわち、絶縁膜11の表面が帯電した場合、膜11自体が絶縁性であるため、帯電電荷が高電圧導体1側へ漏洩して消失するのに、非常に長い時間を要する。帯電電荷は直流電界を生じるので、絶縁膜11は集塵性が高くなる。したがって、絶縁膜11が帯電していると、微細金属粉5は絶縁膜11表面に付着し易い。
【0017】
また、微細金属粉5が帯電した場合にも同様な懸念が生じる。そもそも微細金属粉5は絶縁ガス3等との摩擦で容易に帯電し、しかも軽量なので、AC電圧の印加に伴って生じる電界によっても動き易い。したがって、微細金属粉5が高電圧導体1近くを浮遊するとき、AC電圧によって動くことで、高電圧導体1に到達、付着する可能性は高い。
【0018】
微細金属粉5が高電圧導体1表面に付着したとしても、微細金属粉5の電荷極性が高電圧導体1へのAC印加電圧の極性と同じであれば、微細金属粉5は絶縁膜11表面に留まることはない。なぜなら、この場合は微細金属粉5に対し高電圧導体1から離脱する方向の静電気力が作用するからである。
【0019】
しかし、絶縁膜11の場合には、微細金属粉5の電荷極性が帯電電荷であるため、長い時間一定に保たれることになる。その結果、微細金属粉5の電荷極性と、高電圧導体1へのAC印加電圧の極性とは異なることが多く、微細金属粉5には絶縁膜11表面に吸着する方向に静電作用が働く。したがって、絶縁膜11表面には微細金属粉5が滞留し、集積し易い。
【0020】
つまり、微細金属粉5の多くが、密閉容器4の大型化の要因となる近傍金属粉6や付着金属粉7となってしまうことになる。先に説明したように、近傍金属粉6や付着金属粉7は、絶縁設計への制約条件となるので、これらの金属粉6、7の発生を回避することが望ましい。そこで、密閉型開閉装置にて優れた絶縁信頼性と縮小化を確保するためには、高電圧導体1表面から放射される初期電子を抑制することに加え、高電圧導体1表面への微細金属粉5の滞留、集積を確実に防ぐことが課題となっていた。
【0021】
本発明の実施形態は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高電圧導体表面に存在する微細金属粉が高電圧導体表面またはその近傍に滞留、集積することを防ぐと共に、絶縁破壊の発生に必要な高電圧導体表面からの初期電子供給を抑えることにより、絶縁信頼性が高く、且つコンパクトな密閉型開閉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態は、絶縁性ガスを封入した容器内部に絶縁物で支持した高電圧導体を密閉してなる密閉型開閉装置において、高電圧導体の表面に、抵抗特性を有する抵抗膜を設けたことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の断面図。
【図2】第1の実施形態の作用効果を説明するための要部断面図。
【図3】第1の実施形態の作用効果を説明するための要部断面図。
【図4】本発明に係る第2の実施形態の断面図。
【図5】従来の密閉型開閉装置の断面図。
【図6】(A)は近傍金属粉が存在する場合の説明図、(B)は付着金属粉が存在する場合の説明図。
【図7】絶縁膜を備えた密閉型開閉装置の断面図。
【図8】絶縁膜を備えた密閉型開閉装置の要部断面図。
【発明の実施の形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態の一例について、図面を参照して説明する。なお、図5および図7に示した従来例と同一の部材に関しては同一符号を付して説明は省略する。
【0025】
(第1の実施形態)
[構成]
図1〜図3を用いて、本発明に係る第1の実施形態について説明する。図1に示すように、本発明に係る第1の実施形態は、高電圧導体1表面に、抵抗特性を有する抵抗膜12がコーティングされている。抵抗膜12は、抵抗特性を有する材料粉もしくはこれを混入させた樹脂から構成されている。また、抵抗膜12の体積抵抗率は1E7Ω・cm以上で且つ1E11Ω・cm以下に設定されている。
【0026】
[作用・効果]
以上のような構成を有する第1の実施形態では、図2に示すように、仮に抵抗膜12が帯電した場合でも、帯電電荷17を抵抗膜12の漏れ抵抗RLを通して比較的短時間で漏洩させることができる。つまり、抵抗膜12は直流電界を短時間で減衰させることが可能であり、集塵性を低減させることができる。したがって、抵抗膜12はその表面に微細金属粉5を集め難く、仮に抵抗膜12付近に微細金属粉5が浮遊、飛来していても、微細金属粉5が抵抗膜12表面に付着することがない。
【0027】
また、上記の体積抵抗率を有する抵抗膜12は、時定数がAC電圧の極性変化の時間よりも短いため、図3に示すように、万一、微細金属粉5が抵抗膜12に付着したとしても、金属粉5の電荷極性を、高電圧導体1へのAC印加電圧の極性と同じにし易い。したがって、金属粉5に作用する静電気力16を、金属粉5が高電圧導体1周辺から離脱する方向(図3の上方向)とすることができ、たとえ微細金属粉5が抵抗膜12に付着したとしても、金属粉5は高電圧導体1から離脱し易い。
【0028】
一方、高電圧導体1に対し雷インパルス電圧のような高い電圧が印加された場合には、抵抗膜12の時定数は雷インパルスの継続時間に対して長いので、抵抗膜12は絶縁膜として作用することになる。したがって、高電圧導体1表面からの初期電子の電界放射を抑制することができ、高電圧導体1表面から絶縁ガス3への放電を防いで、絶縁破壊の発生を確実に防止することが可能である。
【0029】
また、第1の実施形態では、図8にて示した従来例の絶縁膜11に代わり、抵抗膜12が、高電圧導体1表面のミクロンオーダの凹凸14を覆うことになる。そのため、高電圧導体1表面からの初期電子供給を抑えることができる。したがって、高電圧導体1と浮遊する金属粉5との間の微小ギャップ10の放電を確実に防ぐことができる。
【0030】
以上述べたように、第1の実施形態においては、抵抗膜12のコーティングにより高電圧導体1表面からの初期電子供給を抑制すると同時に、万が一抵抗膜12や微細金属粉5が帯電したとしても、抵抗膜12であるが故に、その表面に微細金属粉5が滞留、集積することを防ぐことができる。
【0031】
このため、仮に密閉容器4内に微細金属粉5が存在したとしても、この金属粉5が近傍金属粉6や付着金属粉7になることは稀であり、金属粉6、7による絶縁性能への影響を回避することが可能である。その結果、高電圧導体1の表面電界8を高くして、密閉容器4のコンパクト化を十分に進めることができる。
【0032】
すなわち、金属粉6、7などによる絶縁設計への制約条件の低減化を図ることが可能であり、高電圧導体1表面の設計電界を高く設定することができる。これにより、絶縁設計の合理化並びに装置の縮小化を実現可能であり、絶縁信頼性の向上に寄与することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
[構成]
続いて、図4を用いて第2の実施形態を説明する。図4に示すように、第2の実施形態は、図1に示した抵抗膜12を、ダイヤモンドライクカーボン膜(以下、DLC膜)13から構成したことを特徴とするものである。
【0034】
[作用・効果]
以上の構成を有する第2の実施形態では、上記第1の実施形態の持つ作用効果に加えて、次のような独自の作用効果を有している。すなわち、第2の実施形態において、抵抗膜12として用いたDLC膜13は、膜表面の潤滑性や剥離性が極めて良好である。
【0035】
したがって、高電圧導体1付近に飛来する微細金属粉5が、DLC膜13に付着したとしても、DLC膜13上から滑り落ちて留まることがない。このため、DLC膜13への微細金属粉5の滞留時間を大幅に短縮化することができ、微細金属粉5による絶縁性能への影響を確実に回避することが可能である。
【0036】
また、DLC膜13は、その体積抵抗率を容易に変化させることができるので、所望の体積抵抗率を容易に得ることができる。その結果、抵抗膜12に付着した金属粉5の電荷極性を、高電圧導体1へのAC印加電圧の極性と同じにすることが簡単にでき、高電圧導体1周辺から金属粉5を排除することが可能である。つまり、高電圧導体1表面に微細金属粉5が付着したり、周辺に滞留したりすることがなく、高電圧導体1の表面電界8をより高くして、さらなるコンパクト化と絶縁信頼性の向上を図ることができる。
【0037】
(他の実施形態)
なお、本明細書はおいては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されるこが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
1…高電圧導体
2…絶縁物
3…絶縁ガス
4…容器
5…微細金属粉
6…近傍金属粉
7…付着金属粉
8…表面電界
9…局所電界集中
10…微小ギャップ
11…絶縁膜
12…抵抗膜
13…DLC膜
14…高電圧導体上の凹凸
15…高電圧導体からの電荷
16…静電気力
17…帯電電荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性ガスを封入した容器内部に、絶縁物で支持した高電圧導体を密閉してなる密閉型開閉装置において、
前記高電圧導体表面に、抵抗特性を有する材料もしくはこれを混入させた樹脂からなる抵抗膜を設けたことを特徴とする密閉型開閉装置。
【請求項2】
前記抵抗膜は、その体積抵抗率を1E7Ω・cm以上で且つ1E11Ω・cm以下としたことを特徴とする請求項1に記載の密閉型開閉装置。
【請求項3】
前記抵抗膜をダイヤモンドライクカーボンから構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の密閉型開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−217308(P2012−217308A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82295(P2011−82295)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】