説明

対震錠止機構

【課題】 地震や機械振動等から加振力を受けても解錠されてしまわない対震錠止機構を提供する。
【解決手段】 合鍵を解錠方向に回すことにより反時計方向に回動するセクターギア11によりラック12を解錠方向である右方に移動させ、錠止レバー7のカム溝8に係合した制御ピン16により錠止レバーを時計方向に少し回動させて解錠するタイプのホテル錠において、駆動板13の近傍にハンマーレバーを設け、錠箱に振動が加わらない常態において、その一端部に植設されたプロテクターピン25を駆動板の後端隅部に形成された傾斜縁に弾接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気錠や所謂ホテル錠の対震錠止機構に係り、特に、地震や機械振動等から加振力を受けても不具合が生じない対震錠止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に、後記特許文献1を以て、デッドボルトを兼ねるラッチボルトを備え、ラッチヘッドの段部に先端を係合させるように付勢された錠止レバーを有する錠止機構において、地震や振動によって解錠してしまうことがない対震錠止機構を提案した。
【0003】
特許文献1の請求項1に係る対震錠止機構は、錠箱内においてフロント板に垂直な前後方向に移動可能に案内されると共に、フロント板から突出する方向の前方に付勢され、前端に斜面を形成したラッチヘッドを装着したラッチボルトと、このラッチボルトの近傍で、フロント板に近い錠箱内に配設され、錠箱の側板に平行な平面内において第1支軸の回りを回動自在に支承され、前端がラッチヘッドの段部と係合する方向に付勢された錠止レバーとを有するものにおいて、上記第1支軸の近傍で、第1支軸に関しラッチボルトとは反対側に第2支軸を設け、この第2支軸に、制動レバーを錠箱の側板に平行な平面内で回動自在に支承させると共に、その前端がラッチボルトから離間する方向に付勢し、一方、制動レバーの重心がその後端部に位置するように制動レバーの形状及び寸法を設定して、錠箱に加振力が印加されたときの錠止レバーの前端の動きと制動レバーのそれとを反対にし、錠止レバーの前端のラッチヘッドの段部から離間する方向への移動を、制動レバーの前端部の動きにより抑止するようにしたことを特徴とするものである。
【0004】
また、特許文献1の請求項2に係る対震錠止機構は、錠箱内においてフロント板に垂直な前後方向に移動可能に案内されると共に、フロント板から突出する方向の前方に付勢され、前端に斜面を形成したラッチヘッドを装着したラッチボルトと、このラッチボルトの近傍で、フロント板に近い錠箱内に配設され、錠箱の側板に平行な平面内において第1支軸の回りを回動自在に支承され、前端がラッチヘッドの段部と係合する方向に付勢された錠止レバーとを有するものにおいて、上記第1支軸の近傍で、第1支軸に関しラッチボルトとは反対側に第2支軸を設け、この第2支軸に、ばねで付勢されない制動レバーを錠箱の側板に平行な平面内で回動自在に支承させると共に、制動レバーの重心位置を第2支軸より後方に配設し、その先端が錠止レバーの前端部に弾接するようにしたことを特徴とするものである。
【特許文献1】特開2006−097456
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の請求項1に係る対震錠止機構は、加振力が加わらない常態において、制動レバー21の先端が錠止レバー8から離間しており、加振時制動レバーの作動に遅れが生じる恐れがある、等未だ改良の余地がある。
【0006】
また、上記特許文献1の請求項2に係る対震錠止機構は、加振力が加わらない常態において、制動レバー21の先端が錠止レバー8に弾接しているが、制動レバーの先端と錠止レバーとの反発係数が大きくないものと推定されるので、矢張り充分な対震機能を期待し得ない、等未だ改良の余地がある。
【0007】
そこで、この発明は、上記特許文献1に記載された対震錠止機構を改良し、確実に作動し得る対震錠止機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、この発明は、錠箱内においてフロント板に垂直な前後方向に移動可能に案内されると共に、フロント板から突出する方向の前方に付勢され、前端に斜面を形成したラッチヘッドを装着したデッドボルトを兼ねるラッチボルトと、このラッチボルトの近傍で、フロント板に近い錠箱内に配設され、錠箱の側板に平行な平面内において第1支軸の回りを回動自在に支承され、前端がラッチヘッドの段部と係合する方向に付勢された錠止レバーと、この錠止レバーの近傍において前後方向に延在し、同方向に移動可能に案内されると共に、その前後方向の移動に連動して錠止レバーの回動を制御する駆動板とを有するものにおいて、一端を第2支軸によって回動自在に支承され、他端部に重心を設定したハンマーレバーを設け、一方、上記駆動板の後端隅部に傾斜縁を形成し、他方、ハンマーレバーの一端部にプロテクターピンを植設し、錠止レバーの前端がラッチヘッドの段部と係合する錠止時、このプロテクターピンが駆動板の傾斜縁に弾接するようにハンマーレバーを付勢し、駆動板が解錠方向に移動するように加振されたとき、ハンマーレバーに印加される回転モーメントにより、プロテクターピンを駆動板の傾斜縁に衝接させ、駆動板の解錠方向への移動を阻止するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成された請求項1に記載の発明は、地震や振動によって錠箱に加振力が加わると、その加振力に起因してハンマーレバーの重心に加速度が加わる。
【0010】
そのため、ハンマーレバーはそのプロテクターピンが駆動板の傾斜縁に衝接する方向に回動し、駆動板を前方に押動する分力が生じる結果、駆動板の後方への移動が阻止され、このようにして地震や振動によって錠止機構が解錠されることを防止できる、と言う所期の効果を奏する。
【0011】
加えて、ハンマーレバーのプロテクターピンは、常時駆動板の後端隅部に形成された傾斜縁に弾接しているので、錠箱に加振力が加わった瞬間に駆動板の後方への移動を阻止するので、その制御に遅れがない。
【0012】
一方、錠箱に加振力が加わらない常態においては、施解錠機構により駆動板を後方に移動させる際、傾斜縁とハンマーレバーのプロテクターピンとの間に生じる楔作用により、プロテクターピンは駆動板から離間する方向に移動し、換言すればハンマーレバーがその付勢方向とは反対方向に回動するだけなので、錠箱の作動に何等支障を来さない、等種々の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
錠止レバーを制御する駆動板の後端隅部に傾斜縁を形成し、一方、一端を第2支軸によって回動自在に支承され、他端部に重心を設定したハンマーレバーを設け、このハンマーレバーの一端部にプロテクターピンを植設し、錠止レバーの前端がラッチヘッドの段部と係合する錠止時、このプロテクターピンが駆動板の傾斜縁に弾接するようにハンマーレバーを付勢し、加振時、ハンマーレバーに印加される回転モーメントにより、プロテクターピンを駆動板の傾斜縁に衝接させ、駆動板の解錠方向への移動を阻止することにより、錠箱に地震や機械振動等から加振力を受けても不具合が生じない対震錠止機構を構成することができた。
【実施例1】
【0014】
以下、この発明の一実施例を図面を参照して説明する。
図1において符号1は錠箱を、符号2はデッドボルトを兼ねるラッチボルトを夫々示す。
【0015】
上記ラッチボルト2は、錠箱1内においてフロント板3に垂直な前後方向(図において左右方向)に移動可能に案内され、前端には斜面4aを形成したラッチヘッド4が装着されている。
【0016】
上記ラッチボルト2は、圧縮コイルばねとしてのラッチボルトばね5の弾力により、前方、即ち図において左方に付勢されている。
【0017】
なお、図示のラッチボルトの施錠時における突出位置は、ラッチボルト2の一部と、フロント板3の付番しないラッチヘッドが出入りする開口との係合により定まる。
【0018】
一方、図1に示すように、ラッチボルト2の下方における錠箱側板1aには第1支軸6が植設されており、この第1支軸6に錠止レバー7が回動可能に支承されている。
【0019】
図示の実施例における錠止レバー7は、図1に示すように、細長い厚板体で、その前端(左端)をラッチヘッド4の段部に係合可能に臨ませており、後端部には斜上方に開口した略U字形のカム溝8が形成されている。
【0020】
また、この錠止レバー7は、第1支軸6に巻装された捩りコイルばね9により、図1で反時計方向に、換言すればラッチヘッド4の段部に係合する方向に付勢されている。
【0021】
図示の実施例においては、錠止レバー7の前端はラッチヘッド6の段部に後方から係合するように配設されている。
【0022】
なお、上記錠止レバー7の制御機構、換言すれば図示の実施例におけるホテル錠の施解錠機構はこの発明の要旨ではないが、この発明による対震錠止機構が施解錠機構と干渉しないことを示すために以下簡単にホテル錠の施解錠機構について説明する。
【0023】
すなわち、図1において符号11は図示しないシリンダ錠に連結されたセクターギアを示し、このセクターギア11は、錠箱内で前後方向に案内され、前方に付勢されたラック12と噛み合っている。
【0024】
また、上記ラック12と錠止レバー7との間に駆動板13が挿設されている。
この駆動板13は、図2及び図3に示すように、錠箱側板への投影形状が略L字形(図3参照)の板材で、その一面に植設されたガイドピン14、14を錠箱の側板に形成された水平なガイド穴(図面を明瞭にするため図1では付番しない)に夫々摺動可能に係合させることにより水平方向に移動可能に案内されている。
【0025】
なお、図2及び図3に示すように、駆動板13の前端縁及び後端縁の計3ヵ所は手前側に折り曲げられてガイド片15、15が形成されており、各ガイド片15の先端は図1で手前側の錠箱の側板内面と摺接して駆動板13の倒れを防止している。
【0026】
また、駆動板13のL字形の折曲部には手前側に突出する制御ピン16が植設されており、その先端部は錠止レバー7の前記カム溝8と係合している。
【0027】
更にまた、駆動板03の後端隅部にはラックガイドピン17が植設されており、このラックガイドピン17は、図1に示すように、ラック12の下端縁後端部において下向きに突設された係合片18に後方から係合可能に臨んでいる。
【0028】
加えて、図2及び図3に示すように、駆動板13のラッチボルト2側の下端縁後端部に、一対の突片を手前側に折曲げて二股状の係合部19が形成されており、この係合部19には、ラッチボルト2の後端部に突設された係合ピン21が係合している。
【0029】
上記した構成により、図示しないシリンダ錠の鍵孔に合鍵を挿入し、これを解錠方向(図1で反時計方向)に回動させると、ラック12が図1で右方に移動し、その係合片18が駆動板の上記ラックガイドピン17に当接してこれを後方に押動する。
【0030】
すると、ラック12に従動して駆動板13も後方に移動し始め、その駆動板13の動き始めの所期に制御ピン16(図2及び図3参照)がカム溝8の内に凸の部分を押動して、錠止レバー7を時計方向に回動させる結果、錠止レバーの前端がラッチヘッド4の移動軌跡外に退避してこのホテル錠が解錠される。
【0031】
以降、合鍵を更に回動させれば、ラック12がラッチボルト2と共に後方に移動し、ラッチヘッド4が錠箱内に引込むので扉を開けることができるようになる。
【0032】
開扉後再び扉を閉めるとき、錠止レバー7の前端はラッチヘッド4の上面に乗り上がっているので、その侭扉から手を放すか或いは合鍵を鍵孔から抜くことにより、自動的にラッチヘッドがストライク孔に投入され、図1に示す施錠状態となる。
【0033】
上記した錠止機構はホテル錠の錠止機構としての合目的的な機構であるが、この発明においては、上記したホテル錠の錠止機構に加えて、ハンマーレバー22が付加されている。
【0034】
このハンマーレバー22は、図4に示すように、例えば全体の形状が逆L字形で、その一端(図4で左端)を図1に示すラック7の下側(向う側)の錠箱側板に植設された図示しない第2支軸により、例えば図1に示す回転中心23の回りを回転自在に支承されている。
【0035】
また、ハンマーレバー22の他端部には重錘24がかしめ付けられており、そのため、ハンマーレバー22の重心は他端部に置かれるように設定されている。
【0036】
更にまた、ハンマーレバー22の一端部で図1において手前側にはプロテクターピン25(図3及び図4参照)が植設されている。
【0037】
加えて、上記図示しない第2支軸に巻装された捩りコイルばねにより、ハンマーレバー22は図1で時計方向に付勢されており、この付勢力により、錠箱に加振力が加わらない常態において、上記プロテクターピン25が駆動板13の後端隅部に形成された傾斜縁26(図3参照)に弾接している(図1参照)。
【0038】
なお、駆動板の傾斜縁26の形成箇所及びハンマーレバーのプロテクターピン25の突設箇所等は、常態において両者が係合するように設定するものとし、図1に示す施錠状態においては、プロテクターピン25は傾斜縁26に弾接していることは上記した通りである。
【0039】
上記のように構成されたこの発明の一実施例による対震錠止機構は、錠箱が加振されない常態においては、解錠操作時傾斜縁26とプロテクターピン25との間に生じる楔作用により、傾斜縁26の後方への移動に伴ってプロテクターピン25が駆動板13の上端縁に乗り上がり、その結果ハンマーレバー22が時計方向に僅かに回動するのみで、施解錠操作において何等支障はない。
【0040】
一方、地震や他の原因による振動が錠箱に加わる加振時には、その加振力の図1で左方に向かう分力が錠箱を同方向に加速する。
【0041】
すると、従来の錠箱では、慣性によって駆動板13やラック12が現位置に留まろうとする一方、錠箱が前方に加速されるので、あたかも鉋の頭を叩いて刃を引っ込めるのと同様な現象により、ラックや駆動板(従来の錠箱にもあるとして)が相対的に解錠方向に移動して錠前が解錠されてしまう。
【0042】
しかしながら、本発明による対震錠止機構においては、駆動板13の解錠方向への移動の原因となる衝撃の発生毎に、ハンマーレバー23のプロテクターピン25が、間髪を入れずに、駆動板の傾斜縁26に施錠方向に衝接するので、地震や振動によって錠前が解錠されてしまうことがない
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の一実施例による対震錠止機構を備えた錠箱の一部断面側面図。
【図2】駆動板の平面図。
【図3】その側面図。
【図4】ハンマーレバーの側面図。
【図5】ハンマーレバーの背面図。
【符号の説明】
【0044】
1 錠箱
2 デッドボルトを兼ねるラッチボルト。
3 フロント板
4 ラッチヘッド
6 第1支軸
7 錠止レバー
8 カム溝
11 セクターギア
12 ラック
13 駆動板
14 ガイドピン
16 制御ピン
17 ラックガイドピン
18 係合片
19 係合部
21 係合ピン
22 ハンマーレバー
24 重錘
25 プロテクターピン
26 傾斜縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠箱内においてフロント板に垂直な前後方向に移動可能に案内されると共に、フロント板から突出する方向の前方に付勢され、前端に斜面を形成したラッチヘッドを装着したデッドボルトを兼ねるラッチボルトと、このラッチボルトの近傍で、フロント板に近い錠箱内に配設され、錠箱の側板に平行な平面内において第1支軸の回りを回動自在に支承され、前端がラッチヘッドの段部と係合する方向に付勢された錠止レバーと、この錠止レバーの近傍において前後方向に延在し、同方向に移動可能に案内されると共に、その前後方向の移動に連動して錠止レバーの回動を制御する駆動板とを有するものにおいて、一端を第2支軸によって回動自在に支承され、他端部に重心を設定したハンマーレバーを設け、一方、上記駆動板の後端隅部に傾斜縁を形成し、他方、ハンマーレバーの一端部にプロテクターピンを植設し、錠止レバーの前端がラッチヘッドの段部と係合する錠止時、このプロテクターピンが駆動板の傾斜縁に弾接するようにハンマーレバーを付勢し、駆動板が解錠方向に移動するように加振されたとき、ハンマーレバーに印加される回転モーメントにより、プロテクターピンを駆動板の傾斜縁に衝接させ、駆動板の解錠方向への移動を阻止するようにしたことを特徴とする対震錠止機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−332648(P2007−332648A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165274(P2006−165274)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)