説明

寿命推定方法及び寿命推定システム

【課題】寿命推定に用いる関数を単一にして演算処理を簡素化し、機器の社会的寿命も出力させてメンテナンス計画の立案を容易にした寿命推定方法及び推定システムを供給する。
【解決手段】コンピュータシステムにより、プリント基板の配線パターンを構成する銅の腐食性ガスによる腐食量が予め設定された腐食量しきい値に達する時点を求めてプリント基板の寿命を推定する寿命推定方法に関する。銅の腐食量を、周囲環境の腐食性ガス濃度、湿度、及び、腐食性ガスに対する暴露時間の関数として表した腐食劣化式を記憶するステップと、前記腐食劣化式と腐食性ガス濃度及び湿度の実測値とを用いて、暴露時間と腐食量との関係を示す劣化特性を作成し、記憶するステップと、前記劣化特性と腐食量しきい値との交点に対応する暴露時間から、プリント基板の寿命を推定して出力するステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板の配線パターンを構成する銅が腐食性ガスによって腐食する量からプリント基板の寿命、ひいてはそのプリント基板が内蔵された機器の寿命を推定する方法、及び、この方法を実施するための推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータ等の電気機器や各種測定機器は、工場やプラントの操業を支える重要な機器であるが、これらの機器が設置される周囲環境条件は一般に生産現場に近く、比較的悪い環境にあるといえる。
特に、工場内では、HS(硫化水素)ガスやCl(塩素)ガス等の腐食性ガスが検出されることも多く、これらの腐食性ガスが、機器内部のプリント基板の配線パターンとして使用されている銅を化学反応により腐食させ、最悪の場合には配線パターンを断線させるおそれもある。
【0003】
上記の点に鑑み、電子回路基板の周囲環境に基づいて基板の劣化状態や寿命を診断するようにした従来技術として、例えば特許文献1が公知となっている。
すなわち、特許文献1には、ユーザに提供された測定試料により電子回路基板(電気機器)が設置されている環境の汚損度(測定試料の表面に付着している汚損物質中のイオン性成分を塩化ナトリウムの量に換算した値)を測定して環境有害度の指標値とし、診断者が、この指標値に基づいて電子回路基板の導体間の絶縁抵抗を推定することにより劣化状態を診断するようにした電子回路基板の劣化寿命診断法が記載されている。
この従来技術によれば、導体間の絶縁抵抗と共に電子回路基板の余寿命を推定して表示出力することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−71666号公報(段落[0041]〜[0045]、図1,図9〜図11等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1に係る従来技術では、環境の温度・湿度の組み合わせ別に複数の劣化寿命診断関数をデータベースとして備えており、温度・湿度の組み合わせに応じて前記データベースから所定の劣化寿命診断関数を選択し、この劣化寿命診断関数に汚損度を代入して絶縁抵抗を推定しているので、データベースの容量が多くなり、絶縁抵抗の演算処理が複雑である等の問題がある。
【0006】
また、一般に電気機器や測定機器では、廃型によって構成部品の入手が困難になる結果、部品交換によるメンテナンスができなくなる時期(社会的寿命という)があり、この社会的寿命は、機器の製造者によって機器ごとに独自に設定されるものである。
特許文献1に係る従来技術は、単に電子回路基板を有する機器自体の寿命を推定するのみであり、上述した社会的寿命までは考慮していないため、メンテナンス上の有用性に劣るという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の解決課題は、寿命診断に用いる関数を簡素化して演算処理の簡略化を図り、更に、機器の社会的寿命を考慮したメンテナンスを可能にした寿命推定方法及び寿命推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る寿命推定方法は、コンピュータシステムにより、プリント基板の配線パターンを構成する銅の腐食性ガスによる腐食量が予め設定された腐食量しきい値に達する時点を求めて前記プリント基板の寿命を推定する寿命推定方法において、
銅の腐食量を、前記プリント基板の周囲環境の腐食性ガス濃度、湿度、及び、腐食性ガスに対する暴露時間の関数として表した腐食劣化式を記憶するステップと、
前記腐食劣化式と、前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値とを用いて、前記暴露時間と前記腐食量との関係を示す劣化特性作成し、記憶するステップと、
前記劣化特性と前記腐食量しきい値との交点に対応する前記暴露時間から、前記プリント基板の寿命を推定し、出力するステップと、を有するものである。
ここで、寿命には、いわゆる余寿命を含めても良い。
【0009】
請求項2に係る寿命推定方法は、請求項1において、前記プリント基板を内蔵した機器の構成部品の交換によるメンテナンスが困難になる社会的寿命を、前記プリント基板の寿命と共に出力するものである。
【0010】
請求項3に係る寿命推定システムは、コンピュータシステムにより、プリント基板の配線パターンを構成する銅の腐食性ガスによる腐食量が予め設定された腐食量しきい値に達する時点を求めて前記プリント基板の寿命を推定する寿命推定システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、
前記プリント基板の腐食性ガスに対する暴露開始時点が少なくとも記憶されているデータベースと、
銅の腐食量を、腐食性ガス濃度、湿度、及び、前記プリント基板の腐食性ガスに対する暴露時間の関数として表した腐食劣化式と、前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値と、が記憶された記憶手段と、
前記腐食劣化式と前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値とを用いて、前記暴露時間と前記腐食量との関係を示す劣化特性を作成し、この劣化特性と前記腐食量しきい値との交点に対応する前記暴露時間から、前記プリント基板の寿命を推定する寿命演算手段と、
推定した前記プリント基板の寿命を出力する出力手段と、を備えたものである。
【0011】
請求項4に係る寿命推定システムは、請求項3において、
前記プリント基板の周囲環境の腐食性ガス濃度及び湿度を測定する環境測定手段を備え、前記環境測定手段により測定した値を前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値として前記記憶手段に記憶するものである。
【0012】
請求項5に係る寿命推定システムは、請求項3または4において、
データベースに、前記プリント基板を内蔵した機器の構成部品の交換によるメンテナンスが困難になる社会的寿命を予め記憶させておき、
前記出力手段は、前記社会的寿命を前記プリント基板の寿命と共に出力するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プリント基板の寿命推定に用いる関数が比較的簡単な腐食劣化式のみであるため、演算の簡素化、当該関数の記憶容量の節減が可能である。
更に、プリント基板の寿命だけでなく機器の社会的寿命をディスプレイ等に表示出力することにより、機器のメンテナンス計画の立案等に極めて有益な寿命推定方法及び寿命推定システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る寿命推定手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態におけるディスプレイ上の表示画面を示す図である。
【図3】本発明の実施形態におけるディスプレイ上の表示画面を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る寿命推定システムの第1実施例を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係る寿命推定システムの第2実施例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、発明者は、鋭意研究の結果、銅が腐食性ガスとしてのHSガスやClガスに暴露されている状態では、相対湿度や腐食性ガス濃度が銅の腐食を加速し、銅の腐食量(腐食膜厚さ)は相対湿度のべき乗、腐食性ガス濃度のべき乗、及び暴露時間のべき乗にそれぞれ比例するという知見を得た。また、周囲温度は腐食反応を助長させるものの、例えば40℃程度までの温度領域では腐食速度に及ぼす影響は少ないという知見を得た。
そこで、本実施形態では、HSガスやClガスが銅の腐食に影響を与える主要な因子が相対湿度、腐食性ガス濃度及び暴露時間であることに着目し、銅の腐食劣化式を、上記の相対湿度、腐食性ガス濃度、暴露時間の関数として予め定式化することとした。
【0016】
すなわち、腐食性ガスとしてのHSガスやClガスによる銅の腐食劣化式(一般式)を、数式1のように定式化する。
[数1]
Cuf=A・(Gas)・(RH)・t
ただし、
Cuf:銅の腐食膜厚さ(予測値)[μm],
Gas:腐食性ガス濃度(実測値)[ppm],
RH:相対湿度(実測値)[%]
t:暴露時間(実測値)[hour]
A,B,C,D:決定すべき定数
【0017】
なお、銅の腐食膜厚さとは、腐食により消失した銅箔の膜厚であり、本明細書では腐食量ともいう。
この実施形態では、非線形最小二乗法を用いて、銅の腐食膜厚さの予測値と実測値との平方残差の合計値が最小となるように、HSガスとClガスとのそれぞれにつき、数式1における定数A,B,C,Dを決定して腐食劣化式を決定する。ここで、上記平方残差は、数式2によって定義される。
[数2]
ε=(XCuf−XCua
ただし、
Cua:銅の腐食膜厚さ(実測値)[μm]
【0018】
一例として、HSガスによる銅の腐食実験の結果を表1に示す。
この表1は、銅の配線パターンを有する任意のn(表1ではn=28)個の試験片(プリント基板)を用いて、HSガス濃度、相対湿度及び暴露時間を各種設定した場合の腐食膜厚さ(実測値)、腐食膜厚さ(予測値)、数式2に示した平方誤差、及び誤差を表したものである。
【0019】
【表1】

【0020】
表1における「腐食膜厚さ(予測値)」は、数式1において決定すべき定数であるA,B,C,Dに任意の値を設定し、実測値である「HSガス濃度」、「相対湿度」、「暴露時間」を代入して計算される。「誤差」は、{腐食膜厚さ(予測値)−腐食膜厚さ(実測値)}/腐食膜厚さ(実測値)を百分率に換算した値である。
この表1における「腐食膜厚さ(予測値)」、「腐食膜厚さ(実測値)」を数式2に代入して求めた平方残差εの合計値Eが最小となるように、定数A,B,C,Dを決定する。なお、平方残差の合計値Eは数式3によって表される。
【0021】
【数3】

【0022】
数式3において、XCufn,XCuanは、それぞれ、各試験片の番号nに対応する腐食膜厚さ(予測値)、腐食膜厚さ(実測値)である。
このようにして定数A,B,C,Dを決定したら(表1の例では、A=2.44×10−3,B=0.68,C=0.94,D=0.51となる)、数式1に基づくHSガスによる銅の腐食劣化式として、数式4を得る。
[数4]
Cuf=2.44×10−3・(HS)0.68・(RH)0.94・t0.51
ただし、
S:HSのガス濃度(実測値)[ppm]
【0023】
同様にして、Clガスについても、n個の試験片を用いて、Clガス濃度、相対湿度及び暴露時間を各種設定した場合の腐食膜厚さ(実測値)、腐食膜厚さ(予測値)、平方誤差及び誤差に基づき、数式2による平方残差εの合計値Eが最小となるように定数A,B,C,D(例えば、A=0.11,B=0.86,C=0.02,D=0.78)を決定することにより、Clガスによる銅の腐食劣化式として、数式5を得る。
[数5]
Cuf=0.11・(Cl0.86・(RH)0.02・t0.78
ただし、
Cl:Clのガス濃度(実測値)[ppm]
【0024】
本実施形態では、上記の如く、各腐食性ガス(HSガス,Clガス)について数式4,数式5に示したような腐食劣化式を予め作成して記憶しておき、診断対象であるプリント基板(そのプリント基板を内蔵した機器)の周囲環境に存在する腐食性ガスに応じて選択した腐食劣化式を用いてプリント基板の寿命を推定し、更に現在からの余寿命を推定する。
なお、周囲環境にHSガスとClガスとが混在している場合には、数式6に示すような腐食劣化式を想定し、前記同様の腐食実験を行って定数A,α,β,γ,δを決定することにより、腐食劣化式を定式化しても良い。この数式6において、HSガスまたはClガスが単独で存在する場合には、それ以外のガスの項を定数(=1)とおくことにより、数式6は実質的に数式4または数式5と同一になる。
[数6]
Cuf=A・(HS)α・(Clβ・(RH)γ・tδ
ただし、
A,α,β,γ,δ:決定すべき定数
【0025】
以下、周囲環境に単一種類の腐食性ガスが存在するものと仮定して、本実施形態による寿命推定手順を図1のフローチャートに沿って説明する。ここでは、ある顧客の事業所に設置された複数の機器を対象として、各機器に内蔵されたプリント基板の寿命、ひいては機器の寿命を推定する場合を想定している。
【0026】
例えば、HSガスによる銅の腐食を考慮して寿命推定(劣化診断)を行う場合、操作員が、本実施形態の寿命推定システムを構成するコンピュータシステムに対して「HSガスによる劣化診断」を行う旨の入力操作を実行すると、コンピュータシステム内の演算処理装置は、腐食劣化式として前述の数式4を選択する(ステップS1)。
【0027】
次に、データ入力ステップとして、操作員がコンピュータシステムに顧客情報及び機器情報を入力すると、コンピュータシステムのディスプレイにこれらの顧客情報及び機器情報が表示される(ステップS2)。ここで、顧客情報は、例えば、診断対象のプリント基板を内蔵した機器(単に診断対象機器ともいう)が設置されている顧客名、事業所名、診断場所等であり、機器情報は、診断対象機器の型式、納入年月日等である。
これらの顧客情報及び機器情報は、データベースとして記憶しておき、個々の診断対象機器については、プリント基板上の配線パターンが寿命に達したと判断される銅の腐食膜厚さのしきい値(腐食量しきい値)や、前述した社会的寿命(部品交換によるメンテナンスが困難になる時期)もデータベースに記憶しておくことが望ましい。
【0028】
次いで、同じくデータ入力ステップとして、コンピュータシステムに診断対象機器の環境情報が入力されると、この環境情報がディスプレイに表示される(ステップS3)。環境情報は、HSガス濃度及び相対湿度であり、何れも一定期間における実測値の平均値を用いる。
この環境情報は、予め求めた実測値の平均値を操作員がコンピュータシステムに手入力するか、あるいは、診断対象機器側でオンラインにより測定したHSガス濃度及び相対湿度の実測値の移動平均値を逐次更新して記憶手段に記憶しておき、操作員が前記機器情報として診断対象機器の型式を入力した際に上記移動平均値を自動的に読み出して表示させてもよい。
【0029】
上記の各ステップS2,S3により入力された各種データは、図2に示すような形式でディスプレイに表示される。この図2は表示画面の一例であり、入力情報表示部10は、各ステップS2,S3を実行するためのデータ入力画面(図2の表示画面よりも前段階で表示される)と実質的に同一である。
ここで、図2では劣化診断を行った結果として出力情報表示部20及び劣化特性表示部30にも各種データが表示されているが、これらのデータは下記のステップS4以降の処理によって得られるものである。
【0030】
次に、操作員による診断開始の入力操作により、コンピュータシステム内の演算処理装置は、診断対象機器の納入年月日からの経過年と銅の腐食量との関係を示す劣化特性を作成する(ステップS4)。ここで、納入年月日は、プリント基板の腐食性ガスに対する暴露開始時点としての意味を持つ。
従って、前記劣化特性は、前述した数式4における暴露時間tと銅の腐食膜厚さXCufとの関係に相当しており、ステップS3によってHSガス濃度及び相対湿度が入力され、更に、ステップS2により機器情報として入力された納入年月日(つまり暴露時間t=0)と、現在の年月日(診断年月日)とが既知であるから、数式4の暴露時間tに対応する腐食膜厚さXCufを一意に求めることができる。すなわち、図2の劣化特性表示部30に示す如く、納入年月日からの経過年と銅の腐食量との関係を示す劣化特性31を、演算によって作成することが可能である。
【0031】
更に、演算処理装置は、作成した劣化特性31と腐食量しきい値とを用いて、プリント基板ひいては診断対象機器の寿命を推定する(ステップS5)。
具体的には、劣化特性31及び腐食量しきい値から、銅の腐食によりプリント基板が寿命に達するまでの経過年(すなわち推定寿命)を求めることができ、他方、現在の経過年が判っているので、現在から推定寿命までの残存期間(推定余寿命)を求めることができる。同時に、劣化特性31及び現在の経過年から、現在の腐食量も判明する。
図2の例では、腐食量しきい値がThであるため、この腐食量しきい値Thと劣化特性31との交点に基づいてプリント基板の寿命を納入年月日から約24.9年と推定することができ、現在の経過年が9.1年であることから、プリント基板の余寿命を15.8年と推定することができる。そして、劣化特性31及び現在の経過年から、現在の腐食量を〇〇〇[μm]と推定することも可能である。
【0032】
演算処理装置は、診断の結果得られた劣化特性31、診断年月日、現在の経過年、現在の腐食量、推定寿命、推定余寿命、及び、データベース内の当該診断対象機器の社会的寿命を、図2の出力情報表示部20及び劣化特性表示部30に表示出力する(ステップS6)。なお、図1におけるステップS4〜S6は、ひとまとまりの処理としてほぼ同時に実行されるものである。
このようにして、劣化診断を行った結果として図2のような表示画面が作成される。
【0033】
ここで、社会的寿命は出力情報表示部20に数値表示されると共に、劣化特性31の横軸上に適宜なプロット(図示例では☆)を用いて表示されるが、これらの表示を現在の経過年や推定寿命、推定余寿命と比較することにより、部品交換によるメンテナンスが困難になるリスクの判断や、診断対象機器の交換を含めた将来のメンテナンス計画の立案に役立てることができる。
図2の例では現在の経過年が社会的寿命に達していないが、仮に現在の経過年が社会的寿命を超えている場合には、既に部品交換による機器のメンテナンスが困難な時期になっている旨の警報を画面上に表示出力したり、あるいは音声出力させてもよい。
【0034】
なお、図3は、腐食性ガスとしてClガスによる配線の劣化診断を行った場合の表示画面の一例であり、HSガスと同様の処理によって入力情報表示部10、出力情報表示部20及び劣化特性表示部30に各種データが表示されている例である。
【0035】
次に、図4は、この実施形態に係る劣化診断システムの第1実施例を示す構成図である。
この劣化診断システムは、データベース101、統括制御手段102、寿命演算手段104、記憶手段105、入出力インタフェース106、入力手段107及び出力手段108を備え、パソコン等のコンピュータシステムのハードウェア及びソフトウェアにより構成されている。
【0036】
データベース101は、ハードディスク装置や各種のメモリデバイス等の外部記憶装置からなり、前述した顧客情報及び機器情報、更には、後述する寿命の推定結果等が記憶されている。
統括制御手段102及び寿命演算手段104は、主としてCPU等の演算処理装置からなっている。ここで、統括制御手段102は、データベース101を含むシステム全体を統括的に制御する。
【0037】
寿命演算手段104は、記憶手段105から、所定の腐食劣化式と、入力手段107により入力されて記憶されている環境情報としての相対湿度及び腐食性ガス濃度の実測値とを読み出し、データベース101に記憶されている納入年月日から暴露時間(経過年)を求めて前述の劣化特性31を作成すると共に、この劣化特性31とデータベース101内の腐食量しきい値Thとの交点からプリント基板の寿命を推定し、同時に余寿命を演算する。また、これらの情報と診断年月日、現在の経過年及び腐食量、社会的寿命等からなる出力情報を、入力情報及び劣化特性31と共にディスプレイに表示するべく所定の表示データを作成する。
【0038】
記憶手段105は、上述した如く腐食劣化式、相対湿度及び腐食性ガス濃度の実測値が記憶されるものであり、その他、図2、図3における出力情報や劣化特性31等も一時的に記憶される。
入力手段107は、システムに対する起動、停止、演算、出力等の指令や、相対湿度及び腐食性ガス濃度の実測値等の各種データを操作員が入力するためのもので、キーボードやタッチパネル等の入力装置からなり、出力手段108は、図2、図3に示したような表示を行うディスプレイ、プリンタ、データ伝送装置等からなっている。
【0039】
また、図5は、この実施形態に係る劣化診断システムの第2実施例を示す構成図である。図5において、図4と同一の構成要素には同一の参照符号を付してあり、以下では異なる部分を中心に説明する。
この第2実施例では、相対湿度を測定する湿度センサ103aと腐食化ガスの濃度を測定するガスセンサ103bとが診断対象機器ごとに設けられており、これらのセンサ103a,103bが環境測定手段103に接続されている。環境測定手段103は、相対湿度及び腐食性ガス濃度をオンラインにて収集し、これらの実測値(その移動平均値も含む)を記憶手段105に記憶させるように構成されている。
【0040】
本実施例において、寿命演算手段104の処理内容は基本的に第1実施例と同様であるが、第1実施例と比べた場合、操作員が相対湿度及び腐食性ガス濃度の実測値を入力する労力が削減されると共にデータの誤入力を防止することができ、また、環境情報の変化をリアルタイムに反映させた寿命推定を行うことができる。
【0041】
なお、本発明の実施形態では、腐食性ガスが銅の腐食に影響を与える主要な因子として、相対湿度、腐食性ガス濃度及び暴露時間を用いて腐食劣化式を決定しているが、他の因子として周囲温度を加えても良い。
また、腐食性ガスとしては、HSガス,Clガス以外に、SOやNH等を含めてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、配線パターンとして銅を使用したプリント基板を有する各種用途の電気機器、測定機器等に利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
10:入力情報表示部
20:出力情報表示部
30:劣化特性表示部
31:劣化特性
101:データベース
102:統括制御手段
103:環境測定手段
103a:湿度センサ
103b:ガスセンサ
104:寿命演算手段
105:記憶手段
106:入出力インタフェース
107:入力手段
108:出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシステムにより、プリント基板の配線パターンを構成する銅の腐食性ガスによる腐食量が予め設定された腐食量しきい値に達する時点を求めて前記プリント基板の寿命を推定する寿命推定方法において、
銅の腐食量を、前記プリント基板の周囲環境の腐食性ガス濃度、湿度、及び、腐食性ガスに対する暴露時間の関数として表した腐食劣化式を記憶するステップと、
前記腐食劣化式と、前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値とを用いて、前記暴露時間と前記腐食量との関係を示す劣化特性を作成し、記憶するステップと、
前記劣化特性と前記腐食量しきい値との交点に対応する前記暴露時間から、前記プリント基板の寿命を推定し、出力するステップと、
を有することを特徴とする寿命推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載した寿命推定方法において、
前記プリント基板を内蔵した機器の構成部品の交換によるメンテナンスが困難になる社会的寿命を、前記プリント基板の寿命と共に出力することを特徴とする寿命推定方法。
【請求項3】
コンピュータシステムにより、プリント基板の配線パターンを構成する銅の腐食性ガスによる腐食量が予め設定された腐食量しきい値に達する時点を求めて前記プリント基板の寿命を推定する寿命推定システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、
前記プリント基板の腐食性ガスに対する暴露開始時点が少なくとも記憶されているデータベースと、
銅の腐食量を、腐食性ガス濃度、湿度、及び、前記プリント基板の腐食性ガスに対する暴露時間の関数として表した腐食劣化式と、前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値と、が記憶された記憶手段と、
前記腐食劣化式と前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値とを用いて、前記暴露時間と前記腐食量との関係を示す劣化特性を作成し、この劣化特性と前記腐食量しきい値との交点に対応する前記暴露時間から、前記プリント基板の寿命を推定する寿命演算手段と、
推定した前記プリント基板の寿命を出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とする寿命推定システム。
【請求項4】
請求項3に記載した寿命推定システムにおいて、
前記プリント基板の周囲環境の腐食性ガス濃度及び湿度を測定する環境測定手段を備え、前記環境測定手段により測定した値を前記腐食性ガス濃度及び湿度の実測値として前記記憶手段に記憶することを特徴とする寿命推定システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載した寿命推定システムにおいて、
データベースに、前記プリント基板を内蔵した機器の構成部品の交換によるメンテナンスが困難になる社会的寿命を予め記憶させておき、
前記出力手段は、前記社会的寿命を前記プリント基板の寿命と共に出力することを特徴とする寿命推定システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58907(P2011−58907A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207856(P2009−207856)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名:「富士時報」第82巻第2号 (2)発行日:平成21年3月10日 (3)発行者:富士電機ホールディングス株式会社 技術・事業戦略本部 技術戦略室
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】