説明

寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法および装置

【課題】寿命試験の設計や解釈を行うためにワイブルスロープの実績値を求めるにつき、試験回数が少なくても、安全で適切な範囲のワイブルスロープを提供。
【解決手段】コンピュータ1に、試験結果のワイブルスロープの値と、ワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得るワイブルスロープのばらつきの範囲との関係を定めた比較データ群72を記憶させておく。試験個数とワイブルスロープの値を比較データ群と比較する。比較データ群72から、試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る(手段75)。ワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込む(手段76)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品の寿命試験において、試験の解釈または設計に実績値として用いるワイブルスロープの範囲を、同一仕様の試験対象品の試験結果から見積もる方法、装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
寿命試験は、軸受等の機械部品の性能を評価するために欠かせない試験の1つである。寿命試験には、大きく分けて(1) 実機の使用環境に近い条件で試験を行う実機試験と、(2) 比較的過酷な条件で寿命試験を行う加速試験がある。前者は、製品が有限時間内に破損するケースが極めて少ないため、ある目標時間まで破損することなく試験が継続すれば、寿命は問題ないと判断する試験である(以下、このような試験を「打切り試験」と呼ぶ)。一方、後者は、比較的短時間で破損が発生するので、ワイブルプロットで寿命が算出でき(例えば非特許文献1)、その算出寿命から性能の優劣を判定する試験である(以下、このような試験を「加速試験」と呼ぶ)。
【0003】
従来より、寿命試験は経験を積んだ熟練者が行っており、試験条件や試験個数を決める寿命試験の設計と寿命試験結果の解釈に対して経験的に確からしい判断ができたと考えられる。
図18に、従来から行われてきた寿命試験の設計と寿命試験結果の解釈の手順を、打切り試験と加速試験ごとに示す。
また、現在、寿命試験において経験的に判断されているものの詳細を、表1に示す。
【0004】
【表1】

【0005】
なお、ワイブル分布を機械部品の寿命判断に用いるものは、種々の特許文献,非特許文献に提案されている。
【特許文献1】特開2006−040203号公報
【特許文献2】特開2002−277382号公報
【特許文献3】特開2005−226829号公報
【非特許文献1】真壁肇著、信頼性工学入門79、1991年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来は、寿命試験は経験を積んだ熟練者が行っており、試験条件や試験個数を決める寿命試験の設計と寿命試験結果の解釈に対して経験的に判断している。
しかし、寿命試験の設計や判断は、時間がかかるうえ、熟練を要する。そのため、軸受等の寿命分布とされるワイブル分布を用い、打ち切り試験における打切り時間の設計や、試験結果からの寿命の判断、あるいは加速試験における試験個数の設計や、試験結果からの有為性の判断を、コンピュータによる乱数シミュレーションで行うものを試みた。これによると、迅速に、かつ熟練を要することなく各種の判断が行える。
【0007】
上記乱数シミュレーションには、試験のワイブルスロープの値として実績値の入力を行う。実績値を求めるには、少なくとも数十の試験結果が必要である。実績が無い試験や実績の少ない試験では、ワイブルスロープの実績値が無いため、比較的小さなワイブルスロープを仮定して(全く初めての試験ではワイブルスロープを一般の軸受の実績値10/9程度に設定)、設計や解釈を行うことになる。これは、寿命データのバラツキが大きい試験であると仮定することであり、設計と解釈では安全目の設定になる。
【0008】
しかし、安全目の設定は、(1) 必要試験個数が多めに見積もられること、(2) 必要試験時間が長めに見積もられること、(2) 有意差がつかないないこと等、試験の迅速化と試験結果の判定にとって望ましくない方向になる。
そこで、試験の実績を積むに連れて、試験のワイブルスロープを絞り込んでいく方法が必要になる。このようなワイブルスロープを見積もる方法は、従来に提案例がない。
【0009】
この発明の目的は、寿命試験の設計や解釈を行うためにワイブルスロープの実績値を求めるにつき、試験回数が少なくても、安全で適切な範囲のワイブルスロープを求めることができ、かつ試験の実績の積み重ねに従って、より適切な範囲のワイブルスロープに絞り込んで行くことができる寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法、装置、およびコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品の寿命試験において、試験の解釈または設計に実績値として用いるワイブルスロープの範囲を、同一仕様の試験対象品の試験結果から見積もる方法であり、 コンピュータに対し、入力情報として、各回の試験毎の試験個数とワイブルスロープの値を入力する過程(P1)と、
上記コンピュータに、上記実績値とするワイブルスロープを演算させ演算結果を表示装置の画面に表示させるコンピュータ演算処理過程(P2)とを含む。
【0011】
上記コンピュータは、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データの集まりである比較データ群(72)を記憶したものとする。
【0012】
上記コンピュータ演算処理過程(P1)は、
上記入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群と比較して、試験個数に対応する比較データから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る、ばらつき読み取り手順(Q21)と、
この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込み手順(Q22)と、
上記絞り込み手順で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置の画面に出力する結果出力手順(Q23)と、を実行する過程である
【0013】
上記寿命は、例えばL10寿命(90%の信頼度の寿命)や、L50寿命(50%の信頼度の寿命)等の所定信頼度の寿命ある。
ワイブル分布は、次式、
【0014】
【数1】

【0015】
ただし、m:ワイブルスロープ、α:尺度因子、γ:最小寿命、
によって特定される。
【0016】
軸受等の機械部品の寿命は、ワイブル分布に従うとされている。ワイブル分布は、ワイブルスロープm、尺度因子α、最小寿命γの3つのパラメータを持っており、ワイブルスロープmによって指数分布、対数正規分布、正規分布を表現できる万能分布として知られている。最小寿命γは、種々の規格、例えばISO等によって計算方法が定められており、そのように定められたいずれかの計算方法を用いることが好ましい。尺度因子αは、ワイブルスロープの値、要求寿命の信頼度、要求寿命の値、および上記最小寿命γから一義的に決定される演算式があり、その演算式を用いて特定しても良い。
【0017】
ワイブルスロープは、量産される軸受等では、実績値が既知である場合が多いが、実績値ない場合があり、また過去の試験回数が僅かな場合がある。この発明は、このような場合に、ワイブルスロープを求める方法である。
【0018】
この発明方法によると、予め、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データ群をコンピュータに記憶させておき、実際に行った試験の試験個数とワイブル分布とを、上記比較データ群と比較し、読み取ったばらつきの上限値おきび下限値を、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定めるため、簡単、かつ迅速に、適切なワイブル分布を見積もることができる。
この場合に、読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定めるため、試験回数が増えるに従ってワイブルスロープのばらつきの範囲を絞り込むとができ、より適切なワイブルスロープの範囲を見積もることができる。
【0019】
予めコンピュータに記憶させるワイブルスロープのばらつきの範囲、つまり比較データ群は、次の方法で計算により求めることができる。
この方法は、上記比較データ群を作成する過程として、
設定ワイブルスロープを持つ設定寿命のワイブル分布を求め、このワイブル分布に従った乱数を仮の試験個数分だけ発生させる乱数発生手順(R1)と、
この発生させた乱数をワイブルプロットとしてワイブルスロープを求めるワイブルスロープ算出手順(R2)と、
上記乱数発生手順およびワイブルスロープ算出手順を設定回数繰り返し、各繰り返し過程で得られたワイブルスロープの確率分布と累積確率分布を作成し、その作成された累積確率分布から所定の信頼区間のワイブルスロープの上限値および下限値を読み取るワイブルスロープ範囲算出手順(R3)と、
上記仮の試験個数および設定ワイブルスロープを順次変化させて、上記乱数発生手順、ワイブルスロープ算出手順、およびワイブルスロープ範囲算出手順を繰り返し、試験個数毎に、ワイブルスロープ別に所定の確率で起こり得る可能性があるワイブルスロープの範囲を求めるばらつき範囲演算手順(R4)と、
このばらつき範囲演算手順(R4)で得られた計算結果を使って、試験個数毎に、横軸を乱数を発生したワイブル分布のワイブルスロープ、縦軸をワイブルスロープのばらつきとして、上記所定の確率で起こり得る可能性があるワイブルスロープの範囲の上限値および下限値のグラフを作成し、このグラフにおける縦軸の値を、上記比較データにおける試験結果のワイブルスロープの値、横軸の値を、所定の確率で取り得る可能性があるワイブルスロープの値とするグラフ作成手順(R5)と、を含む。
【0020】
具体例を挙げて説明すると、今、ワイブルスロープが4である試験で10個の試験を行った場合、ワイブルスロープがどのくらいの範囲でばらつくかを見積もる。まず初めに、ワイブルスロープが4として、L10寿命を適当に設定した寿命分布から乱数を10個発生させ、ワイブルプロットによりワイブルスロープを求める。次に、この作業を設定回数(例えば1000回)繰り返し、ワイブルスロープの確率分布と累積確率分布を作成する。次に、累積確率分布からワイブルスロープのばらつきを、所定の信頼区間(例えば5%と95%の区間(90%信頼区間)で読み取る。これは、ワイブルスロープが4の寿命分布から寿命データを10個得た時、ワイブルスロープがどの程度ばらつくかを示したものである。この累積分布から、ワイブルスロープが4の寿命分布からは、ワイブルスロープがある下限値以下,ある上限値以上になる確率はそれぞれ5%であるので、この領域以外のワイブルスロープが試験個数10で得られた場合、その試験はワイブルスロープが4の試験ではない確率が90%以上という判断ができる。これら一連の作業を試験個数とワイブルスロープを変化させて計算すれば、横軸が乱数を発生した分布のワイブルスロープ、縦軸をワイブルスロープのばらつきとしてグラフを作図できる。この図を用いれば、実績からワイブルスロープの範囲を絞り込むことができる。したがって、この図を、上記比較データ群として用いることができる。
【0021】
この発明の寿命試験のワイブルスロープ見積もり装置は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品の寿命試験において、試験の解釈または設計に実績値として用いるワイブルスロープの範囲を、同一仕様の試験対象品の試験結果から見積もる装置であり、 演算処理装置(1)と、この演算処理装置(1)の出力を画面に表示する表示装置(2)と、上記演算処理装置(1)に入力を行う入力手段(3)とを備える。
演算処理装置(1)は、比較データ群(72)と演算処理部(73)とを有する。
【0022】
上記比較データ群(72)は、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データの集まりである。
【0023】
上記演算処理部は、促し画面表示手段(74)、ばらつき読み取り手段(75)、絞り込み手段(76)、および結果出力手段(77)を含む。
促し画面表示手段(74)は、表示装置(2)の画面に、入力情報として、各回の試験毎の試験個数とワイブルスロープの値を入力することを促す表示を行う手段てある。
ばらつき読み取り手段(75)は、上記入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群(72)と比較して、試験個数に対応する比較データ(72a)から試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る手段である。
絞り込み手段(76)は、この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める手段である。
結果出力手段(77)は、上記絞り込み手段(76)で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置(2)の画面に出力する手段である。
【0024】
この構成の寿命試験のワイブルスロープ見積もり装置によると、この発明の寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法で説明したと同様に、試験回数が少なくても、安全で適切な範囲のワイブルスロープを求めることができ、かつ試験の実績の積み重ねに従って、より適切な範囲のワイブルスロープに絞り込んで行くことができる。
【0025】
この発明の寿命試験のワイブルスロープ見積もりプログラムは、コンピュータで実行可能なプログラムであって、比較データ群(72)と、促し画面出力手順(Q1)と、ワイブルスロープ見積もり手順(Q2)とを含む。上記促し画面出力手順(Q1)は、表示装置の画面に、入力情報として、各回の試験毎の試験個数とワイブルスロープの値を入力することを促す表示を行う手順である。
【0026】
上記比較データ群(72)は、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データの集まりである。
【0027】
上記ワイブルスロープ見積もり手順(Q2)は、
上記入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群と比較して、試験個数に対応する比較データから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る、ばらつき読み取り手順(Q21)と、
この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込み手順(Q22)と、
上記絞り込み手順(Q22)で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置の画面に出力する結果出力手順(Q23)と、を含む。
【0028】
この構成の寿命試験のワイブルスロープ見積もりプログラムによると、この発明の寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法で説明したと同様に、試験回数が少なくても、安全で適切な範囲のワイブルスロープを求めることができ、かつ試験の実績の積み重ねに従って、より適切な範囲のワイブルスロープに絞り込んで行くことができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明の寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法、装置、およびプログラムは、コンピュータに、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの範囲を定めた比較データの集まりである比較データ群を記憶させておき、入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群と比較して、試験個数に対応する比較データから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取り、この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込むため、寿命試験の設計や解釈を行うためにワイブルスロープの実績値を求めるにつき、試験回数が少なくても、安全で適切な範囲のワイブルスロープを求めることができ、かつ試験の実績の積み重ねに従って、より適切な範囲のワイブルスロープに絞り込んで行くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明の実施形態を説明する。この寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品の寿命試験において、試験の解釈または設計に実績値として用いるワイブルスロープの範囲を、同一仕様の試験対象品の試験結果から見積もる方法である。
【0031】
以下、この実施形態を図面と共に説明する。この寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法は、図1に示すコンピュータ1に、乱数シミュレーションプログラムである寿命試験のワイブルスロープ見積もりプログラム71を実行させることで行う。コンピュータ1はパーソナルコンピュータ等からなり、中央処理装置4およびメモリ5を有し、所定のオペレーションシステムによって動作するものである。コンピュータ1には、液晶表示装置等の画面によって表示可能な表示装置2と、キーボードやマウス等の入力装置3が接続され、あるいは付属して設けられている。コンピュータ1、表示装置2、入力装置3、およびワイブルスロープ見積もりプログラム71により、図2に各機能達成手段をブロックで示した寿命試験のワイブルスロープ見積もり装置が構成される。同図のワイブルスロープ見積もり装置の構成については、後に説明する。
【0032】
ワイブルスロープ見積もりプログラム71は、図6に示す比較データ群72、および図4,図5に流れ図で示す手順を備えるものである。これら図4〜図6の内容は、後に説明する。
【0033】
このワイブルスロープ見積もり方法は、図3に示すように、コンピュータ1に対して所定の情報を入力する入力過程P1と、コンピュータ1で演算処理を行って演算結果を出力するコンピュータ演算処理過程P2とからなる。
【0034】
入力過程P1では、図7に示すように所定の入力情報の入力を促す入力画面2aが、コンピュータ1の出力によって表示装置2に表示され、入力画面2a中に、所定の入力を促す表示が行われる。
この入力画面2aでは、図7(A)のように、何回目(図では試験水準○○と称す)の試験であるかの入力を行う画面と、その試験毎の試験個数およびワイブルスロープの値を入力する画面(図7(B))とが表示される。
ここで、ワイブルスロープは、最小寿命を考慮してワイブルプロットした結果を入力することが好ましい。
【0035】
ワイブルプロットによりワイブルスロープを得るには、例えば次の方法を採用する。
(1) 寿命試験を実施する。
(2) 得られたデータ(破損した時間あるいは破損した負荷回数)を昇順に並び替える。
(3) これらデータを図17のグラフ(ワイブル確率紙)にプロットする(縦軸:累積破損確率、横軸:寿命)。
(4) 図17の紙にプロットしたデータの最適直線を最小二乗法で引く。このとき、L10 寿命以下の位置に最小寿命があるということになるので、L10 寿命の値を10分割し(何分割でも良いがフィッティングでの計算時間が妥当な時間になるように設定する)、累積確率0 %の位置にプロットを加える。10通りの最適曲線で最もデータがフィットする最適直線を採用する。
(5) そうすると、ワイブルスロープがこの線の傾き、最小寿命は、L10 寿命の値を10分割のいずれかの値、L10 寿命(ワイブルスロープが累積確率10%交わる寿命)と尺度因子αの関係からαを決定できる。
【0036】
オペレータは、以上の点に注意して、上記試験回数、試験毎の試験個数およびワイブルスロープの値を入力し、入力画面上の計算開始ボタン(図示せず)を指定することなどで実行命令を入力すると、ワイブルスロープ見積もりプログラム71の実行による計算が開始される。
【0037】
図3のコンピュータ演算処理過程P2では、入力された各値を比較データ群72と比較し、実績値として用いることのでるワイブルスロープの範囲を計算する。計算が終了すると、図8に示す出力画面に結果が表示される。
【0038】
図1のワイブルスロープ見積もりプログラム71は、コンピュータ1で実行可能なプログラムであって、図6に示す比較データ群72と、図4,図5に流れ図で示すワイブルスロープ見積もり手順Q2とでなる。
【0039】
比較データ群72は、図6に具体例を示すように、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープと、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データ72aの集まりである。比較データ72aは、試験個数毎に設けられる。
比較データ72aは、後に図10,図11と共に説明するデータ作成方法で得たデータである。図6の横軸は、上記データ作成方法における乱数を発生させたワイブル分布であり、縦軸がワイブルスロープのばらつきである。この比較データ72aは、対比に用いる場合、縦軸が実際の試験結果のワイブルスロープの値を対応させる値を示し、横軸がその試験結果のワイブルスロープの場合のばらつきの範囲を示すことになる。
【0040】
ワイブルスロープ見積もり手順Q2は、図5に示すように、ばらつき読み取り手順Q21と、絞り込み手順Q22と、結果出力手順Q23とを含む。
ワイブルスロープ見積もり手順Q2は、入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群72と比較して、試験個数に対応する比較データから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る手順である。
絞り込み手順Q22は、この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込む手順である。
結果出力手順Q23は、上記絞り込み手順Q22で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置2の画面に、図8のように出力する手順である。
【0041】
図5に示すワイブルスロープ見積もり手順Q2を、具体的数値例を用いて説明する。
今、実績が少ない試験を行い、図9(A)の図表のような試験結果が得られたとする。図表中の結果1は、試験個数が8個でワイブルスロープが2であったという結果であるが、この結果から、試験個数が8個でワイブルスロープが2であったという結果から得られるワイブルスロープの範囲を絞り込むことができる。
【0042】
図6の比較データ72aにおけるグラフは、試験個数8個で得られたワイブルスロープと、そのバラツキの関係(ただし、90%の確率の信頼区間)を示す。図から、図9(A)の結果1(ワイブルスロープ2)の場合に、90%の確率であり得るワイブルスロープの範囲は0.74〜3.24であると判断できる。これは同様にして、図9(A)中の結果2、3・・に対しても、同様の絞込みを行う。
図9(B)に、ワイブルスロープの各試験結果毎の絞込みの結果を示す。ここまでの手順が、図5のばらつき読み取り手順である。
【0043】
ここで、ワイブルスロープが試験によって決まっているという立場にたてば、図9の試験1〜5の結果から得られるワイブルスロープの範囲は、ワイブルスロープの範囲が重なる範囲を選択すればいいということになるので、さらに絞り込むことができて、1.48〜2.54になる。
このように、試験結果毎のワイブルスロープの範囲が重なる範囲を選択し、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める手順が、図5の絞り込み手順Q22である。
【0044】
結果出力手順Q23では、このように定めた結果であるワイブルスロープの最小値と最大値とを、表示装置2の画面に、図8の出力画面例における第2行目のようにように表示する。なお、図8の値は、図9とは異なる試験例の結果を示している。この出力画面例では、試験回数(試験水準)と、その回数における試験個数およびワイブルスロープの入力値と、各試験回数毎のあり得るワイブルスロープの上限値および下限値を、上記複数回の試験による結果と共に表示される。
【0045】
また、図8の出力画面では、ワイブルスロープは試験方法だけでなく材料によっても変化するという立場にたった場合の結果を併せて示している。この立場に立った場合、複数回の試験の結果により得られた有り得るワイブルスロープの範囲をすべて選択する。したがって、この場合、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲は、0.74〜7.03になる。このワイブルスロープの材料によっても変化するという立場は、より一般的な立場ではあるが、試験を行う毎に範囲が広がり、絞り込みが不可となるため、この発明では、ワイブルスロープが試験によって決まっているという立場に立った場合の処理を行うようにしている。
【0046】
図14(A)に試験個数とワイブルスロープのばらつきの変化を示す。この結果は、ワイブルスロープが4として計算したものである。ワイブルスロープのばらつきは試験個数が多くなるにつれて小さくなっていくことが分かる。また、そのばらつきの変化は、試験個数が20個までが著しいことが分かる。
図14(B)に図14(A)の下限値の値を試験個数で微分し、微分値の最大値で規格化した結果を示す。その微分値は試験片が10個で約80%まで低下し、試験個数が20個で約90%まで低下することが分かる。これは、試験個数を10個以上に増やせば、ワイブルスロープが真の値に近づいていく度合いが小さくなることを示している。したがって、ワイブルスロープを求める必要試験個数はおおよそ10個以上、望ましくは20個以上が目安となる。
この傾向は、ワイブルスロープが小さな試験でも同じであった。参考までに、図14(C)にワイブルスロープを1.85にした場合の図14(B)と同様の図を示す。図14(B)と同様に、微分値は試験片が10個で約80%まで低下し、試験個数が20個で約90%まで低下することが分かる。
【0047】
次に、上記比較データ群72を求める方法を、図10,図11と共に説明する。説明を簡単にするため、具体例を挙げる。今、ワイブルスロープが4である試験で10個の試験を行った場合、ワイブルスロープがどのくらいの範囲でばらつくかを見積もる。まず初めに、ワイブルスロープが4として、L10寿命を適当に設定した寿命分布(図11(A)に示すワイブル分布)から、乱数を10個発生させ(図10手順R1)、ワイブルプロットによりワイブルスロープを求める(手順R2)。
【0048】
次に、この作業(R1,R2)を設定回数(例えば1000回)繰り返し、ワイブルスロープの確率分布(図11(B))と累積確率分布(図11(C))を作成する。次に、累積確率分布からワイブルスロープのばらつきを、所定の信頼区間(5%と95%の区間(90%信頼区間))で読み取る(手順R3)。これは、ワイブルスロープが4の寿命分布から寿命データを10個得た時、ワイブルスロープがどの程度ばらつくかを示したものである。この図から、ワイブルスロープが4の寿命分布からは、ワイブルスロープが2.56以下8.63以上になる確率はそれぞれ5%であるので、この領域以外のワイブルスロープが試験個数10で得られた場合、その試験はワイブルスロープが4の試験ではない確率が90%以上という判断ができる。
【0049】
これら一連の作業(R1〜R4)を、試験個数とワイブルスロープを変化させて計算すする。変化させる試験個数の範囲は、例えば1〜200程度とするが、任意に設定した範囲で良い。変化させるワイブルスロープについても、任意に設定した範囲で良い。上記のように試験個数とワイブルスロープを種々変化させて計算した結果により、横軸が乱数を発生した分布のワイブルスロープ、縦軸をワイブルスロープのばらつきとしてグラフ(図11(D))を作図する(手順R5)。
図11(D)に示したグラフが、図6に示した比較データ群72のグラフであり、このグラフを用いれば、上記のように実績からワイブルスロープの範囲を絞り込むことができる。図10ではこの絞り込み手順をR5で示している。
【0050】
上記の手順R1〜R5が、上記比較データ群72を求める方法である。図11(D)のグラフは、図6につき説明したように、横軸が上記データ作成方法における乱数を発生させたワイブル分布であり、縦軸がワイブルスロープのばらつきであるが、対比に用いる場合、縦軸が実際の試験結果のワイブルスロープの値を対応させる値を示し、横軸がその試験結果のワイブルスロープの場合のばらつきの範囲を示すことになる。
【0051】
上記の説明は、具体的数値例で説明したが、図10,図11の方法を一般的に示すと、次の方法となる。
この方法は、上記比較データ群72を作成する過程として、
設定ワイブルスロープを持つ設定寿命のワイブル分布を求め、このワイブル分布に従った乱数を仮の試験個数分だけ発生させる乱数発生手順(R1)と、
この発生させた乱数をワイブルプロットとしてワイブルスロープを求めるワイブルスロープ算出手順(R2)と、
上記乱数発生手順およびワイブルスロープ算出手順を設定回数繰り返し、各繰り返し過程で得られたワイブルスロープの確率分布と累積確率分布を作成し、その作成された累積確率分布から所定の信頼区間のワイブルスロープの上限値および下限値を読み取るワイブルスロープ範囲算出手順(R3)と、
上記仮の試験個数および設定ワイブルスロープを順次変化させて、上記乱数発生手順、ワイブルスロープ算出手順、およびワイブルスロープ範囲算出手順を繰り返し、試験個数毎に、ワイブルスロープ別に所定の確率で起こり得る可能性があるワイブルスロープの範囲を求めるばらつき範囲演算手順(R4)と、
このばらつき範囲演算手順(R4)で得られた計算結果を使って、試験個数毎に、横軸を乱数を発生したワイブル分布のワイブルスロープ、縦軸をワイブルスロープのばらつきとして、上記所定の確率で起こり得る可能性があるワイブルスロープの範囲の上限値および下限値のグラフを作成し、このグラフにおける縦軸の値を、上記比較データにおける試験結果のワイブルスロープの値、横軸の値を、所定の確率で取り得る可能性があるワイブルスロープの値とするグラフ作成手順(R5)と、を含む。
【0052】
乱数発生手順(R1)の詳細について説明する。この手順R1は、ワイブル分布を特定し、その特定したワイブル分布に従ってワイブル乱数を発生させる。
一般に軸受の寿命分布は次式1)のワイブル分布に従うと言われている。
【0053】
【数2】

【0054】
ただし、m:ワイブルスロープ、α:尺度因子、γ:最小寿命、
ワイブル分布は、3つのパラメータを持っており、ワイブルスロープmによって指数分布、対数正規分布、正規分布を表現できる万能分布として知られている。参考として、図12に各種パラメータを変化させた時のワイブル分布の変化を示す。ワイブルスロープmは、分布の形状を支配するパラメータであり、この値が小さいほどばらつきの大きい分布ということができる。尺度因子αは、横軸(寿命)のスケールを変化させるもので、この値が大きいほど寿命は相対的に長くなる。最小寿命γは、寿命分布の横軸(寿命)を単にシフトさせるものである。
【0055】
この実施形態では、ワイブル乱数を発生させるが、この乱数を発生させるためにはワイブル分布の3つのパラメータを決定する必要がある。決め方の手順は、例えば以下のようになる。
1) ワイブルスロープmを実績から決定する。
2) 乱数を発生させたい分布の信頼度(例えばL10寿命であるか、あるいはL50寿 命であるか)を決定する。
3) 信頼度から求めたワイブルスロープmから、最小寿命γを所定の数式を使って決定 する。例えば、L10寿命またはL50寿命から求めた尺度因子αから、
最小寿命γを、例えば、以下の2)式を使って決定する。
この式は、1990年制定のISOの最小寿命であり、実験値からの回帰式である。
【0056】
【数3】

【0057】
これは、R≦10の値で、R=0(L10寿命でのa1)のとき、この式は1になるという式である。過去のISOの最少寿命考慮の式では、L10寿命以下の寿命は、この式にL10寿命を書けた値ということで定義されている。Rは信頼度に対応する値(100−Rが信頼度となる値)である。
なお、最小寿命の定め方については、各種の規格(例えばISO)において、時代と共に変更される場合があるが、規格の変更に伴い、実施時の規格に応じた定め方を採用すれば良い。また、最小寿命は、材料試験条件によっても変化するのでより一般的な式で記述するほうが良いとの主張もあり、適宜の値を用いれば良い。
【0058】
ワイブル乱数の発生につき説明する。乱数とは、定性的にはでたらめな数列であって、発生頻度が均一(等確率)で、その発生に規則性がない(無規則性)というものであるが、完全な乱数を発生させることは不可能である。そこで、コンピュータで発生させることのできる疑似乱数を使う。簡易な乱数発生アルゴリズムでは、例えば10進法で20桁ぐらいの周期性が見られるが、周期性が6千桁以上の周期性となるものもあり、このような周期性の少ない乱数発生アルゴリズムを用いることが好ましい。
【0059】
この実施形態では、一様な乱数ではなく、ワイブル分布に従った乱数であるワイブル乱数を発生させる。このため発生方法には工夫が必要になる。確率密度関数が複雑な場合、その分布に従う乱数を発生するには棄却法と呼ばれる方法を用いればよく、この実施形態においても、棄却法を用いる。
確率密度関数f(x)の変域が図13のように、0からX0 の範囲にあるとみなされるものとし、その変域内でのf(x)の最大値をMとする。RNを区間〔0,1 〕での一様擬似乱数とするとX0 ・RNにより、区間〔0,x0〕での一様擬似乱数xiを発生することができる。同様にして、M・RNにより、区間〔0,M 〕での一様擬似乱数yiを発生することができる。そこで、このようにして発生させた乱数xi,yiがf(xi)> yi となる条件を満足する場合には、乱数xiは与えられた確率密度分布に従うものとして採用し、満足しなければ、その乱数xiを不採用とする。この作業を繰り返し、確率密度分布に従う確率で乱数xiを採用し、確率密度分布に従う乱数の数列を作っていく方法を棄却法という。この方法は、条件に合わない乱数を捨てることになるので乱数発生法としては効率がよくないが、よい一様乱数さえ得られれば原理的に正しい数列が得られる方法である。
【0060】
図10の乱数発生手順R1において、ワイブル分布の特定のための寿命(L10寿命)は、適宜想定した値を用いる。
【0061】
図2と共に寿命試験のワイブルスロープ見積もり装置につき説明する。このワイブルスロープ見積もり装置は、演算処理装置であるコンピュータ1は、このコンピュータ1の出力を画面に表示する表示装置2と、コンピュータにに入力を行う入力装置3とを備える。コンピュータ1は、比較データ群72と演算処理部73とを有する。
【0062】
比較データ群72は、上記のように、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データの集まりである。
【0063】
演算処理部73は、促し画面表示手段74、ばらつき読み取り手段75、絞り込み手段76、および結果出力手段77を含む。
促し画面表示手段74は、表示装置2の画面に、入力情報として、各回の試験毎の試験個数とワイブルスロープの値を入力することを促す表示を行う手段であり、図4の促し画面出力手順Q1につき説明した処理を行う。
ばらつき読み取り手段75は、上記入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群72と比較して、試験個数に対応する比較データ72aから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る手段であり、図5のばらつき読み取り手順Q21につき説明した処理を行う。
絞り込み手段76は、この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める手段であり、図5の絞り込み手順Q22につき説明した処理を行う。
結果出力手段77は、上記絞り込み手段76で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置2の画面に出力する手段であり、図5の結果出力手順Q23につき説明した処理を行う。
【0064】
ワイブルスロープの仮定について考察する。この発明方法は、ワイブルスロープを仮定するが、仮定して良いかにつき説明する。この仮定は、レオナード ジー ジョンソン(LEONARD G. JOHNSON)の寿命優位差検定でも行われており、寿命試験結果の設計や検定では不可欠なものであるといえる。従来より、ワイブルスロープは材料によって決まる定数であるとされ、材料の強さの分散を示す尺度とされていた。しかし、本発明者らはワイブル分布のパラメーターの持つ意味について検討し、材料のばらつきは尺度因子によって決まるものであり、ワイブルスロープが試験条件(接触状態)によって変化するものと考えることが合理的であることを見いだした。本発明者等の寿命試験でも、ワイブルスロープは試験方法によって大きく変化することを経験している。図15は、同一の点接触試験機でSUJ2材を評価した結果である。ワイブルスロープは6.01であり、この結果を、図10と共に説明したワイブルスロープの範囲を決定するソフトウェアで解析すると、少なくとも3.4以上のワイブルスロープを持つ試験であることが分かる。この結果は一例であるが、点接触寿命試験結果から得られるワイブルスロープは、実機の寿命試験結果(清浄油潤滑の寿命試験結果では1.85で、統計的検討でも最大2.01)よりもほとんどの場合大きくなるケースが多い。以上のことから、ワイブルスロープが試験条件(接触状態)によって変化すると考えることは、理論的にも経験的にも確からしいものであると考えられる。
【0065】
次に、ワイブルスロープを実績値から判断しなかった場合に生じる不都合の例について考える。図16にワイブルスロープ1.5でL10寿命234 (尺度因子1000)の分布から乱数を10個発生させ、その結果をワイブルプロットした結果を示す。寿命データが少ない場合、たまたま寿命がそろってしまい、ワイブルスロープが大きくなり、寿命のバラツキを示す信頼幅が小さくなってしまうことがある。ここで、このワイブルスロープ3.22は10%以上の確率で有り得る値であり、十分に起こりえる結果である。この結果から推測されるL10寿命の範囲は220〜660になり、真のワイブルスロープの値1.5を仮定した時の範囲60〜630よりも小さい。これは、試験個数が少ない場合ではワイブルスロープがでたらめな値になるため、信頼幅の値が全く信用できなくなる例である。以上のことからも、ワイブルスロープを実績からその値を安全目で見積り(ワイブルスロープを小さめに見積もる)、その値を使って寿命試験の検定や解釈を行うこの発明方法は、現状よりも妥当なものであると考える。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】この発明の一実施形態に係るワイブルスロープ見積もり装置の概略ブロック図である。
【図2】同ワイブルスロープ見積もり装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】同ワイブルスロープ見積もり装置を用いたワイブルスロープ見積もり方法の概略流れ図である。
【図4】同方法を実施するワイブルスロープ見積もりプログラムの概略の流れ図である。
【図5】同プログラムにおけるワイブルスロープ見積もり手順の流れ図である。
【図6】比較データ群の内容例を示す説明図である。
【図7】図2のワイブルスロープ見積もり装置における入力画面例の説明図である。
【図8】図2のワイブルスロープ見積もり装置における出力画面例の説明図である。
【図9】同実施形態の方法,装置による試験結果と絞り込み結果とを対比した説明図である。
【図10】比較データ群を作成する方法の流れ図である。
【図11】(A)はワイブル分布の例のグラフ、(B)は頻度とワイブルスロープの関係例を示す確率分布のグラフ、(C)は累積確率とワイブルスロープの関係例を示すグラフ、(D)は乱数を発生したワイブルスロープとワイブルスロープの上限値,下限値の関係を示すグラフである。
【図12】ワイブル分布の各パラメータの影響例を示すグラフである。
【図13】ワイブル分布の定め方を示すグラフである。
【図14】(A)は試験個数とワイブルスロープのばらつきの変化の関係を示すグラフ、(B)は同図(A)の下限値を試験個数で微分して微分値を規格化し結果を示すグラフ、(C)はワイブルスロープを1.85とし場合の同図(B)と同様の図である。
【図15】同一の点接触試験機でSUJ材を評価した寿命と累積破損確率の関係を示すグラフである。
【図16】乱数発生による寿命と累積破損確率の関係を示すグラフである。
【図17】ワイブル確率紙の説明図である。
【図18】従来の打ち切り試験および加速試験の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1…コンピュータ(演算処理手段)
2…表示装置
3…入力装置
71…ワイブルスロープ見積もり方法プログラム
72…比較データ群
72a…個数毎の比較データ
73…演算処理部
74…促し画面出力手段
75…ばらつき読み取り手段
76…絞り込み手段
77…結果出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品の寿命試験において、試験の解釈または設計に実績値として用いるワイブルスロープの範囲を、同一仕様の試験対象品の試験結果から見積もる方法であって、
コンピュータに対し、入力情報として、各回の試験毎の試験個数とワイブルスロープの値を入力する過程と、
上記コンピュータに、上記実績値とするワイブルスロープを演算させ演算結果を表示装置の画面に表示させるコンピュータ演算処理過程とを含み、
上記コンピュータは、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データの集まりである比較データ群を記憶したものであり、
上記コンピュータ演算処理過程として、
上記入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群と比較して、試験個数に対応する比較データから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る、ばらつき読み取り手順と、
この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込み手順と、
上記絞り込み手順で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置の画面に出力する結果出力手順と、を実行する
寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法。
【請求項2】
請求項1において、上記比較データ群を作成する過程として、
設定ワイブルスロープを持つ設定寿命のワイブル分布を求め、このワイブル分布に従った乱数を仮の試験個数分だけ発生させる乱数発生手順と、
この発生させた乱数をワイブルプロットとしてワイブルスロープを求めるワイブルスロープ算出手順と、
上記乱数発生手順およびワイブルスロープ算出手順を設定回数繰り返し、各繰り返し過程で得られたワイブルスロープの確率分布と累積確率分布を作成し、その作成された累積確率分布から所定の信頼区間のワイブルスロープの上限値および下限値を読み取るワイブルスロープ範囲算出手順と、
上記仮の試験個数および設定ワイブルスロープを順次変化させて、上記乱数発生手順、ワイブルスロープ算出手順、およびワイブルスロープ範囲算出手順を繰り返し、試験個数毎に、ワイブルスロープ別に所定の確率で起こり得る可能性があるワイブルスロープの範囲を求めるばらつき範囲演算手順と、
このばらつき範囲演算手順で得られた計算結果を使って、試験個数毎に、横軸を乱数を発生したワイブル分布のワイブルスロープ、縦軸をワイブルスロープのばらつきとして、上記所定の確率で起こり得る可能性があるワイブルスロープの範囲の上限値および下限値のグラフを作成し、このグラフにおける縦軸の値を、上記比較データにおける試験結果のワイブルスロープの値、横軸の値を、所定の確率で取り得る可能性があるワイブルスロープの値とするグラフ作成手順と、を含む
寿命試験のワイブルスロープ見積もり方法。
【請求項3】
軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品の寿命試験において、試験の解釈または設計に実績値として用いるワイブルスロープの範囲を、同一仕様の試験対象品の試験結果から見積もる装置であって、
演算処理装置と、この演算処理装置の出力を画面に表示する表示装置と、上記演算処理装置に入力を行う入力手段とを備え、
上記演算処理装置は、比較データ群と演算処理部とを有し、
上記比較データ群は、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データの集まりであり、 上記演算処理部は、
表示装置の画面に、入力情報として、各回の試験毎の試験個数とワイブルスロープの値の入力を促す表示を行う促し画面表示手段と、
上記入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群と比較して、試験個数に対応する比較データから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る、ばらつき読み取り手段と、
この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込み手段と、
上記絞り込み手段で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置の画面に出力する結果出力手段と、を含む
寿命試験のワイブルスロープ見積もり装置。
【請求項4】
コンピュータで実行可能なプログラムであって、
比較データ群と、促し画面出力手順と、ワイブルスロープ見積もり手順とを含み、
上記比較データ群は、試験個数毎に、試験結果のワイブルスロープの値と、この試験結果のワイブルスロープの値に対して、所定の確率で取り得る可能性があるとするワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値との関係を定めた比較データの集まりであり、 上記促し画面出力手順は、
表示装置の画面に、入力情報として、各回の試験毎の試験個数とワイブルスロープの値を入力することを促す表示を行う手順であり、
上記ワイブルスロープ見積もり手順は、
上記入力情報における各回の試験毎の、試験個数とワイブルスロープの値を上記比較データ群と比較して、試験個数に対応する比較データから試験結果のワイブルスロープに対応するワイブルスロープのばらつきの上限値および下限値を読み取る、ばらつき読み取り手順と、
この読み取った試験毎のワイブルスロープのばらつきの上限値と下限値間の重複範囲を求めて、その重複範囲の上限値と下限値とを、試験結果から見積られるワイブルスロープの範囲として定める絞り込み手順と、
上記絞り込み手順で得られたワイブルスロープの範囲を表示装置の画面に出力する結果出力手順と、を含む
寿命試験のワイブルスロープ見積もりプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−128699(P2008−128699A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311168(P2006−311168)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】