説明

封着材料

【目的】 有毒物質を含有せず、しかも荷重をかけることなく330℃以下の温度でパッケージを封着することが可能な封着材料を得る。
【構成】 ガラス又は結晶物の粉末45〜90体積%と、耐火性物質粉末10〜55体積%を混合してなる。該ガラス又は結晶物の粉末はモル%で、 酸化銀、ハロゲン化銀、又はこれらの組み合わせ 15〜85%、 P25 、GeO2 、WO3 、MoO3 、又はこれらの組み合わせ 5〜50%、 Pb、Ba、Sr、Ca、Zn、Cu、Mn、Biの酸化物若しくは ハロゲン化物、又はこれらの組み合わせ 0〜40%、 TeO2 、V25 、B23 、Nb25 、Ta25 、Fe23 、 SiO2 、Al23 、又はこれらの組み合わせ 0〜25%の組成を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は封着材料に関し、より具体的には半導体集積回路、水晶振動子等の熱に弱い素子を搭載したパッケージの気密封着に好適な封着材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体集積回路や水晶振動子等の素子を搭載した高信頼性のパッケージの気密封着には、低融点ガラスを用いた封着材料が使用される。
【0003】従来、封着材料としてPbO−B23 系ガラス粉末に、チタン酸鉛、ウイレマイト等の低膨張耐火性物質粉末を添加したものが広く知られているが、この系のガラスを用いた封着材料は、封着温度を400℃以下にすることが困難であるため、素子によっては特性が劣化してしまう場合がある。
【0004】近年このような事情から、より低い温度で封着できる封着材料の開発が進められている。例えば特表昭63−502583号には、PbO−V25 −Bi23 系ガラスを使用した封着材料が開示され、また特開昭63−315536号には、PbO−Tl2 O−B23 系ガラスを使用した封着材料が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記特表昭63−502583号に開示の封着材料は、封着温度を330℃程度にまで低下させることが可能である。しかしながらこのような低い温度で封着するためには、封着時に金属クリップ等によって相当の荷重をかけなければならない。一方特開昭63−315536号の封着材料についても、封着温度を330℃程度にすることが可能であるが、毒性の強いTl2 Oを多量含有するため、製造時や封着作業時に粉塵の飛散を防ぐ設備を必要とする等、実用上問題がある。
【0006】本発明の目的は、有毒物質を含有せず、しかも荷重をかけることなく330℃以下の温度でパッケージを封着することが可能な封着材料を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の封着材料は、低融点組成物粉末45〜90体積%と、耐火性物質粉末10〜55体積%を混合してなり、該低融点組成物粉末はモル%で、 酸化銀、ハロゲン化銀、又はこれらの組み合わせ 15〜85%、 P25 、GeO2 、WO3 、MoO3 、又はこれらの組み合わせ 5〜50%、 Pb、Ba、Sr、Ca、Zn、Cu、Mn、Biの酸化物若しくは ハロゲン化物、又はこれらの組み合わせ 0〜40%、 TeO2 、V25 、B23 、Nb25 、Ta25 、Fe23 、 SiO2 、Al23 、又はこれらの組み合わせ 0〜25%の組成を有してなることを特徴とする。
【0008】
【作用】本発明の封着材料において、低融点組成物は非晶質ガラス、結晶性ガラス及び結晶物の何れかの形態をとる。非晶質ガラス及び結晶性ガラスは転移点が150〜230℃と非常に低く、300〜330℃の加熱で十分流動する。また結晶物は融点が非常に低く、300〜330℃の加熱で再溶融して粘性の低い液体となる。なお結晶物は、原料を一旦融液化し、次いで冷却して結晶を析出させた後、これを粉砕したものである。
【0009】本発明の封着材料において、低融点組成物の組成範囲を上記のように限定した理由を以下に述べる。
【0010】酸化銀及びハロゲン化銀は、低融点組成物の主成分であるとともに、水に非常に溶け難いために組成物の化学耐久性を高める効果があり、その含有量は合量で15〜85%である。酸化銀やハロゲン化銀が合量で15%より少ないと低融点組成物の粘性が高くなり、また化学耐久性が低下し、一方85%より多いと融液化が困難になる。
【0011】P25 、GeO2 、WO3 、及びMoO3 は、酸化銀又はハロゲン化銀とともに低融点組成物の主成分であり、その含有量は合量で5〜50%である。これらの成分が合量で5%より少ないと融液化が困難になり、50%より多いと低融点組成物の粘性が高くなる。
【0012】Pb、Ba、Sr、Ca、Zn、Cu、Mn、及びBiの酸化物又はハロゲン化物は、低融点組成物の安定性の増大、化学耐久性の改善、及び熱膨張係数の低減に効果があり、その含有量は合量で0〜40%である。これらの成分が合量で40%より多いと低融点組成物の粘性が高くなる。
【0013】TeO2 、V25 、B23 、Nb25 、Ta25 、Fe23 、SiO2 、及びAl23 は、上記したP25 、GeO2 、WO3 、及びMoO3の働きを補助する成分であり、その含有量は0〜25%である。これらの成分が合量で25%より多いと低融点組成物の粘性が高くなる。
【0014】なお、本発明でいうハロゲン化物とは、フッ化物、塩化物、臭化物又はヨウ化物のことであり、金属元素が同じ場合、これらを使用することにより、酸化物を使用する場合よりもさらにガラスの粘性を低下させることができる。
【0015】また低融点組成物は、上記した各成分を適宜選択して作製されるが、特に好ましい組成範囲を有する組成物としては、Ag2 O 25〜50%、P25 25〜45%、PbO+ZnO 5〜30%、TeO2 0〜10%からなる組成物、Ag2 O 20〜50%、AgI 5〜30%、P25 20〜50%、PbO+ZnO+CuO 0〜15%からなる組成物、Ag2 O 20〜40%、AgI 0〜20%、P25 20〜45%、PbF2 +ZnF2 +BiF3 2〜25%、PbO+ZnO+CuO 0〜35%からなる組成物(ただしPbF2 +ZnF2 +BiF3 +PbO+ZnO+CuO≦40%)、あるいはAg2 O5〜50%、AgI 30〜80%、P25 +GeO2 +WO3 10〜50%からなる組成物(ただしAg2 O+AgI≦85%)である。
【0016】ところで以上のような組成を有する低融点組成物は、30〜150℃(又は200℃)における熱膨張係数が150〜220×10-7/℃と非常に高く、また機械的強度が不十分である。このため封着の対象となるパッケージに適合するように熱膨張係数を調整したり、機械的強度を増大させる必要がある。
【0017】本発明の封着材料は、上記した低融点組成物の粉末に、耐火性物質粉末を混合してなるために、封着の対象となるパッケージに適した熱膨張係数が得られ、また十分な機械的強度を有する。
【0018】耐火性物質のうち、主に熱膨張係数を低下させるものとしては、NbZr(PO43 やSr0.5 Zr2312等のNaZr2 (PO43 型固溶体、チタン酸鉛及びその固溶体、ウイレマイト、コージエライト、ジルコン、酸化すず、β−ユークリプタイト、リン酸ジルコニウム、五酸化ニオブ、石英ガラス、ムライト、チタン酸アルミニウム等を使用することができる。
【0019】また主に機械的強度を増大させるものとしては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、すず酸亜鉛、マグネシア、石英、スピネル、ガーナイト等を使用することができる。
【0020】なお、上記したような耐火性物質粉末は、2種以上を混合して使用しても良い。
【0021】次に本発明の封着材料において、低融点組成物粉末と耐火性物質粉末の混合割合を先記のように限定した理由を以下に述べる。
【0022】低融点組成物粉末が90体積%より多い場合、即ち耐火性物質粉末が10体積%より少ない場合は上記した効果を得ることができない。一方、低融点組成物粉末が45体積%より少ない場合、即ち耐火性物質粉末が55体積%より多い場合は封着材料が流動しなくなる。
【0023】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明の封着材料を説明する。
【0024】(実施例1)低融点組成物粉末として、次のようにして調製した非晶質のガラス粉末を使用した。
【0025】モル%でAg2 O 45%、P2540%、ZnO 10%、TeO2 5%の組成になるように、酸化銀、正リン酸、リン酸亜鉛、二酸化テルルを混合し、白金坩堝を用いて800℃で2時間溶融し、ガラス化した。次いでこの溶融ガラスを成形後、粉砕し、250メッシュの篩を通過させて、平均粒径が7μmのガラス粉末とした。得られたガラス粉末は転移点が220℃、30〜200℃における熱膨張係数が155×10-7/℃であった。
【0026】また耐火性物質粉末としては、MgOを2重量%添加したNbZr(PO43 セラミック粉末を使用した。
【0027】NbZr(PO43 セラミック粉末は、五酸化ニオブ、低α線ジルコニア、リン酸二水素アンモニウム、マグネシアを混合し、1450℃で16時間焼成した後、粉砕し、平均粒径5μmの粉末としたものを使用した。
【0028】次いでガラス粉末60体積%と、NbZr(PO43 セラミック粉末40体積%を混合して試料を得た。このようにして得られた試料は封着温度が330℃、30〜200℃における熱膨張係数が78×10-7/℃、であった。
【0029】この試料を用いてアルミナ(熱膨張係数 70×10-7/℃)製のICパッケージを封着したところ、気密性の高い封着物が得られた。
【0030】なお転移点及び熱膨張係数は石英押棒式の熱膨張計を用いて求めた。
【0031】(実施例2)低融点組成物粉末として、次のようにして調製した非晶質のガラス粉末を使用した。
【0032】モル%でAg2 O 40%、AgI 20%、P25 35%、CuO 5%の組成になるように、酸化銀、ヨウ化銀、正リン酸、リン酸銅を混合し、白金坩堝を用いて700℃で2時間溶融し、ガラス化した。次いでこの溶融ガラスを成形後、粉砕し、250メッシュの篩を通過させて平均粒径7μmのガラス粉末とした。得られたガラス粉末は転移点が155℃、30〜150℃における熱膨張係数が210×10-7/℃であった。
【0033】また耐火性物質粉末としては、Ca0.3 Pb0.7 TiO3 の組成の有するチタン酸鉛固溶体粉末を使用した。
【0034】チタン酸鉛固溶体粉末は、Ca0.3 Pb0.7TiO3 の組成になるように炭酸カルシウム、リサージ、酸化チタンを混合し、1200℃で5時間焼成した後、粉砕し、平均粒径5μmの粉末としたものを使用した。
【0035】次にガラス粉末55体積%と、チタン酸鉛固溶体粉末45体積%を混合して試料を得た。このようにして得られた試料は封着温度が300℃、30〜150℃における熱膨張係数が75×10-7/℃であった。
【0036】この試料を用いてアルミナ製のリッド型ICパッケージを封着したところ、気密性の高い封着物が得られた。
【0037】(実施例3)低融点組成物粉末として実施例2で作製した非晶質のガラス粉末を、耐火性物質粉末としてβ−ユークリプタイト粉末を使用し、体積%でそれぞれ58%、42%の割合で混合して試料を作製した。
【0038】得られた試料は、封着温度が300℃、30〜150℃における熱膨張係数が110×10-7/℃であった。
【0039】この試料を用いてフォルステライト(2MgO・SiO2 、熱膨張係数 110×10-7/℃)製のパッケージを封着したところ、気密性の高い封着物が得られた。
【0040】なおβ−ユークリプタイト粉末は、炭酸リチウム、アルミナ、シリカをLi2O・Al23 ・2SiO2 の組成になるように混合し、1400℃で10時間焼成した後、粉砕して平均粒径5μmの粉末としたものを使用した。
【0041】(実施例4)低融点組成物粉末として、次のようにして調製した結晶性のガラス粉末を使用した。
【0042】モル%でAg2 O 27%、AgI 5%、P25 36%、ZnF2 5%、PbO 27%の組成になるように、酸化銀、ヨウ化銀、正リン酸、リン酸鉛、フッ化亜鉛を混合し、白金坩堝を用いて700℃で2時間溶融した後、成形、粉砕し、250メッシュの篩を通過させて平均粒径7μmのガラス粉末とした。このガラス粉末は330℃に加熱すると、流動した後に結晶化し、またその熱膨張係数は205×10-7/℃であった。
【0043】耐火性物質粉末としては、ジルコン粉末を使用した。
【0044】ジルコン粉末は、低α線タイプのジルコニア、シリカ、及び酸化第二鉄をZrO2 65.9%、SiO2 32.2%、Fe23 1.9%の組成になるように混合し、1450℃で16時間焼成した後、粉砕し、平均粒径5μmの粉末としたものを使用した。
【0045】次にガラス粉末80体積%と、ジルコン粉末20体積%を混合して試料を作製した。このようにして得られた試料は封着温度が330℃、30〜200℃における熱膨張係数が170×10-7/℃であった。
【0046】この試料を用いて、銅をベースとする合金(熱膨張係数 180×10-7/℃)からなるパッケージを封着したところ、気密性の高い封着物が得られた。
【0047】(実施例5)低融点組成物粉末として、次のようにして調製した結晶物を使用した。
【0048】モル%でAg2 O 30%、AgI 50%、GeO2 20%の組成を有するように、酸化銀、ヨウ化銀、酸化ゲルマニウムを混合し、白金坩堝を用いて500℃、1時間溶融した。次いで、この融液を金型上に流し出したところ、冷却中に結晶物となった。さらにこの結晶物を粉砕し、250メッシュの篩を通過させて、平均粒径7μmの結晶物粉末を得た。この結晶物は融点が300℃、30〜200℃における熱膨張係数が150×10-7/℃であった。
【0049】また耐火性物質粉末としてはチタン酸鉛粉末を使用した。
【0050】チタン酸鉛粉末は、リサージ及び酸化チタンをPbO・TiO2 の組成になるように配合し、1200℃で5時間焼成した後、粉砕し、平均粒径5μmの粉末としたものを使用した。
【0051】次いで結晶物粉末60体積%と、チタン酸鉛粉末40体積%を混合して試料を得た。このようにして得られた試料は330℃で10分間加熱することにより、結晶物が再溶融し、被封着物を濡らした後、冷却中に再び結晶が析出するものであり、30〜200℃における熱膨張係数が77×10-7/℃であった。
【0052】この試料を用いて、アルミナ製のパッケージを封着したところ、気密性の高い封着物が得られた。
【0053】
【発明の効果】以上説明したように本発明の封着材料は、有毒物質を含まず、また荷重をかけることなく300〜330℃と極めて低い温度で封着することができるため、熱に敏感な半導体集積回路や水晶振動子等を搭載したパッケージの封着に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 低融点組成物粉末45〜90体積%と、耐火性物質粉末10〜55体積%を混合してなり、該低融点組成物粉末はモル%で、 酸化銀、ハロゲン化銀、又はこれらの組み合わせ 15〜85%、 P25 、GeO2 、WO3 、MoO3 、又はこれらの組み合わせ 5〜50%、 Pb、Ba、Sr、Ca、Zn、Cu、Mn、Biの酸化物若しくは ハロゲン化物、又はこれらの組み合わせ 0〜40%、 TeO2 、V25 、B23 、Nb25 、Ta25 、Fe23 、 SiO2 、Al23 、又はこれらの組み合わせ 0〜25%の組成を有してなることを特徴とする封着材料。

【公開番号】特開平5−147974
【公開日】平成5年(1993)6月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−336141
【出願日】平成3年(1991)11月25日
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)