説明

射出成形方法

【目的】 高いウェルド強度を有するサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法を提供する。
【構成】 金型キャビティー内の複数の溶融樹脂流による合流部に対応して成形体表面にウェルドラインが形成されるサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法において、前記溶融樹脂流の一方が実質的に合流した後に、ウェルドラインおよびゲート近傍に位置しないキャビティー内の分岐点において分岐流を有していることを特徴とするサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、サーモトロピック液晶ポリマーに適したウェルド強度の低下を防止できる射出成形方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】サーモトロピック液晶ポリマーはその樹脂自身の特性に起因してこれを射出成形してなる成形体のウェルド強度は極端に低く、該ポリマーの射出成形技術上、大きな問題となっている。例えば、ウェルド強度が低いことは機械的あるいは熱的衝撃により成形品のウェルド部分から破壊する等の現象によって観察される。
【0003】ここで、一般に射出成形におけるウェルドラインは、多点ゲートの場合は必然的に発生し、一点ゲートであっても偏肉比の大きな射出成形品や押し切りピンを設けた射出成形品を射出成形する場合のように、ゲートから金型キャビティ内に射出された溶融樹脂流が分岐し、これがさらに合流する合流部に対応し成形体表面に発生するものである。すなわち、ウェルドラインは溶融樹脂流が合流して形成される合流界面が成形体表面に表出した通常は直線状の接合部位を示す。なお、ここにおいては特にことわらない限りウェルド強度はウェルドラインにおける成形体強度を示す。
【0004】ここで、本発明者等はサーモトロピック液晶ポリマーを射出成形してなる成形体のウェルド強度が低い理由を考察し、それがサーモトロピック液晶ポリマーは僅かな応力を受けてもそれにより溶融分子自体が極めて配向しやすく、金型キャビティー内を進行する際のファウンテンフロー効果によりウェルド界面と平行に流動先端樹脂が分子配向するためであると考えた。
【0005】液晶ポリマーのように分子それ自体が配向し易い高分子ではない通常の熱可塑性樹脂の場合には、配向し易い充填物、例えば繊維状充填物を充填したときに充填物自体が配向するために結果として同様にウェルド強度の低下現象が生じる。
【0006】しかるに、ウェルド強度の改善のために従来行われているような樹脂温度、金形温度を上げるまたは射出圧力、保持圧力を上げる等のような単なる成形条件の変更では特にサーモトロピック液晶ポリマーの場合には全くと言っていいほどウェルド強度の改善された射出成形体が得られない。
【0007】これは、このような単なる射出成形条件の変更では流動先端樹脂の溶融分子がウェルド界面に平行に分子配向することに変わりはないためであると推測される。
【0008】一方、特開平1−299015号公報に記載されるような少なくとも2つの可塑化、射出装置に連なるスプルーを有する射出成形用金型において、キャビティ充填後2つの可塑化、射出装置によって可塑化された樹脂を往復運動させることによる方法は、ウェルド界面を本質的に存在しない成形体を得ることを目的とする方法である。それ故、特殊な設備を要し一般的な射出成形方法に適する方法ではない。
【0009】その他、ウェルド強度の低下が金型内の空気や溶融樹脂等より発生するガスを溶融樹脂合流部に巻込むために表面に生じるVノッチまたは同じく低温樹脂に起因するスラグの巻込みと考え、空気抜けや樹脂溜をキャビティーに設けることも提案されている。
【0010】これらの改良方法は、本質的に溶融樹脂合流部に対する異物質の巻込みを防止することを目的としているために、例えば空気抜けあるいは樹脂溜の位置はウェルドライン近傍に必然的に位置することになる。しかしながら、本発明者等はこのような位置ではウェルド強度の改善が不十分であることを知見している。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高いウェルド強度を有するサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、金型キャビティー内の複数の溶融樹脂流による合流部に対応して成形体表面にウェルドラインが形成されるサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法において、前記溶融樹脂流の一方が実質的に合流した後に、ウェルドラインおよびゲート近傍に位置しないキャビティー内の分岐点において分岐流を有していることを特徴とするサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法に関する。
【0013】以下、本発明をさらに詳述する。
【0014】金型キャビティー内に1点ゲートから射出された溶融樹脂は複数の樹脂流に分岐し、多点ゲートの場合は、その後分岐するかまたはそのまま分岐せずに複数の樹脂流となりキャビティー内に充填されていく。これら複数の樹脂流は金型キャビティー内の適宜の位置に位置する合流部で合流し、その結果、冷却固化後、成形体表面にウェルドラインが表出する。
【0015】本発明の成形方法においては金型キャビティー内で合流する複数の樹脂流のうち、一方の樹脂流が適宜の分岐点における分岐流を有しているようにすることが必要である。該分岐流を生じさせる原因は特に限定されない。例えば金型キャビティー内に設けられた樹脂溜により派生するものであることもできる。また、適宜に、例えば足と称するような枝状突起を有する成形品等の目的とする成形品それ自体の構造に起因する分岐流であっても良い。なお、いわゆる多数個取りと称して金型内ランナーに本発明の条件に従うキャビティーが複数設置されていても良い。
【0016】上記分岐流が存在するためにゲートから合流部に向かった樹脂流が合流部において一旦合流した後においても、一方の樹脂流は分岐点から前述の樹脂溜または枝状突起部分へと流入することにより流動を続け、該一方の樹脂流の再流動化が生じる。
【0017】さらに、本発明においてはウェルドラインおよび何れのゲートもキャビティー内に位置する分岐点の近傍に位置しないことが肝要である。一点ゲートはもちろん多点ゲートの場合もいずれのゲート位置も前記分岐点の近傍に位置しないものである。
【0018】分岐点の位置あるいはその近傍にウェルドラインが位置する場合、複数の樹脂流の合流により形成されたウェルド界面は前述の再流動化によって分岐点から分岐流へと再流動し、ウェルド界面に沿う配向状態が実質的に変化しないことが多い。ウェルドラインと分岐点との好ましい距離は後において定義される式から成形体厚みを用いて計算される値以上の長さであることが好ましい。
【0019】また、分岐点の位置あるいはその近傍にゲートが位置する場合は、射出されて金型キャビティー内に流入した溶融樹脂は分岐点に近いために先に分岐点から分岐流側へ流入し易い。そのため前述の溶融樹脂の再流動化が生じ難いために好ましくない。
【0020】分岐流を設けまた上記の位置にゲート位置を設定することによりウェルド強度の改善が達成できる理由は以下の通りと考察される。
【0021】すなわち、合流部において合流する任意の二つの溶融樹脂流をA、Bとすると、一方の溶融樹脂流Aは、他の同じく合流部へ向かう溶融樹脂流Bは合流部において合流する。この合流時にキャビティー内に射出された溶融樹脂の未充填部分が実質的に存在しない場合、すなわち樹脂流AまたはBの何れかが分岐流を有していないときは両樹脂流は合流して直ちに合流界面が形成され、これはそのまま固定化される。
【0022】しかるに、この合流時にキャビティー内において射出された溶融樹脂の未充填部分が実質的な容量をもって存在する場合、すなわち二つの樹脂流の何れか、例えば樹脂流Aが分岐流を有するならば、合流した後において樹脂流Aの分岐流側へ分岐点から溶融樹脂が流入し、その結果樹脂流A側の圧力が低下する。相対的に樹脂流Bの圧力が高まり、その結果樹脂流Aは逆流し再流動が生じる。
【0023】従って、該分岐流がキャビティー内の分岐点から樹脂溜あるいは成形品それ自体の突起状箇所等へ誘導される場合には、再流動化を生じさせるべく樹脂溜あるいは突起状箇所のキャビティー容積は十分あることが必要である。
【0024】また、合流部に合流する以前に分岐点を経てこれら樹脂溜や突起状箇所が充填されるならば当然再流動は生じない。従って、合流する以前に分岐点を経て樹脂溜りや突起状箇所への充填が完了されないように、この分岐流を流れる樹脂流Aには合流部へ向かう樹脂流Aが受ける流動抵抗よりも高い流動抵抗を付与するようにすることが好ましい。ゲート位置と分岐点との好ましい距離は後において定義される式から成形体厚みを用いて計算される値以上の長さであることが好ましい。
【0025】ここで、樹脂流の再流動化は得られた成形品を切断しその切断面を精査することにより容易に観察することが出来る。
【0026】すなわち、後述のように得られた射出成形体を切断し、その切断面を検査することにより再流動した樹脂の先端の位置を求め、この位置から成形体表面に表出したウェルドラインまでの距離を求めれば、これが再流動長Yとなる。なお、樹脂が再流動しても成形体表面に表出したウェルドラインの位置は、通常はじめの合流により生じた位置を示し特に移動等することはない。
【0027】従来の液晶ポリマーの射出成形体は樹脂の再流動を生じていないために樹脂合流界面は実質的に単なる平面あるいは曲面を構成し、成形体表面に表出したウェルドラインを含む面を構成する。
【0028】本発明においては測定された再流動長Yが、下記式(I)によりウェルドラインにおける成形体厚みから計算された値以上の値を取ることが肝要である。その値よりも低い値ではウェルド強度の低下が著しく実用性のある射出成形体が得られず好ましくない。ここにおいて、X(mm)は成形体の厚みである。
【0029】
Y>(2.69)X・0.26 (I)
(但し、厚みXは0.5mm以上である)
【0030】再流動長の長さは、前記式により計算された以上の値であれば良く、成形金型の形状、成形条件によりかなり大きな値であっても良い。前述のように溶融樹脂の再流動の長さであるから通常の射出成形機、射出条件に従う限りはそれほどには大きな値はとり得ず、通常は長くともせいぜい100mm程度までである。
【0031】また、成形体厚みXはウェルドラインにおける成形体の厚みをいう。成形体断面が矩形の様な偏平な断面形状では厚みとはより薄い辺の長さを意味するが、円形または多角形形状ではその直径を示す。この厚さは、0.5mm以上であることが必要である。0.5mm未満の薄い成形体では本発明の効果が発現しないので好ましくない。従って、本発明の好ましい成形方法は成形体におけるウェルドラインにおける厚さが0.5mm以上の成形体に適用する方法である。
【0032】ここで、液晶ポリマーの射出成形体には通常スキン層とコア層という多層構造が見られる。このような多層構造をなすため液晶ポリマーの強い機械的強度そのほかの優れた物性が発現するとされている。このスキン層は、金型内壁に沿って強く配向した溶融樹脂層が冷却固化した層である。上記溶融樹脂の再流動は主としてコア層の方に相当する樹脂流部分において発生するものである。再流動部分の長さ(再流動長)は得られた射出成形体を切断し、その切断面を検査し、先端流動部位を決定することにより容易に測定することが出来る。
【0033】すなわち、得られた射出成形体を切断し、その切断面を検査することにより溶融樹脂先端の位置を求め、この位置から成形体表面に表出したウェルドラインまでの距離を求めれば、これが再流動長となる。ここで、従来の液晶ポリマーの射出成形体は樹脂の再流動を生じていないために樹脂合流界面は実質的に単なる平面を構成し、成形体表面に表出したウェルドラインを含む面となっている。
【0034】また、成形体厚みX(mm)はウェルドラインにおける成形体の厚みのうち最小の厚みをいう。すなわち、ウェルドラインが成形体厚みの異なる箇所にまたがって表出しているときは、異なる厚みのうち最小の値を本発明における成形体厚みXとして採用し前記式に従い計算する。
【0035】成形体断面が矩形の様な偏平な断面形状では厚みは薄い方の辺の長さを意味するが、円形または多角形形状ではその直径を示す。厚さは、0.5mm以上であることが必要である。0.5mm未満の薄い成形体では本発明の効果が発現しないので好ましくない。厚みXの上限値は、射出成形し得る厚みならば特に限定はない。
【0036】本発明においては測定された再流動長が、前記式(I)を満足する値であることが必要である。すなわち、前記成形体厚みX(mm)から計算された値以上の値を取ることが肝要である。この計算された値よりも低い値ではウェルド強度の低下が著しく実用性のある射出成形体とはなり得ない。
【0037】(再流動長の長さYの測定法)得られた射出成形体をウェルドラインに垂直にそして射出流れに沿って平行に切断する。切断は、鋸、回転刃等による切断よりも適宜にノッチをつけて機械的に割る方が、次に述べる流れ模様が切断面に表出し易いので好ましい。
【0038】このようにして切断された成形体断面には、図9に概略図を示すように流れ方向に対して山形を成すいわゆる流れ模様が多数、連続的に観察される。図9R>9において20,21はウェルドラインの位置を示す。
【0039】同図に示すように、流れ模様はウェルドラインの位置においては山形を成しているが、流れ方向にそってウェルドラインの位置を過ぎてから徐々にこの流れ模様は変形し、22の位置において同様に徐々に変形する反対方向の流れ模様と実質的に平行となるのが観察される。本発明においてはウェルドライン20,21からこの流れ模様が反対方向からの流れ模様と実質的に平行形状となった地点までの長さを測定し、これを再流動長長さY(mm)とする。図において流れ模様が非相似形の山形であるためにウェルドライン20,21の点からのそれぞれの長さが異なるときは、そのうち最も長い長さをYとする。
【0040】なお、通常は溶融樹脂流は立体的にも相似形状の流れ模様を成して流れるために、前述の切断は成形体幅方向においてほぼ中央の点において行い、この切断面における再流動長を測定すればよい。
【0041】しかしながら、立体的にも相似形状の流れ模様を成していない場合がしばしば存在する。このような場合には、成形体の複数の箇所において射出成形体をウェルドラインに垂直にそして射出流れに沿って平行に切断し、その全ての切断面を観察して再流動長を求め、そのうち最も長いものを本発明における再流動長長さY(mm)として採用する。
【0042】再流動長の長さYは、後述の測定法により測定された値である。この値は、成形体厚みXから前記式により計算された値以上であることが肝要である。本発明の成形方法に適用する樹脂は、サーモトロピック液晶ポリマーである。このサーモトロピック液晶ポリマーとは溶融時に光学的異方性を示す樹脂である。
【0043】このように溶融時に光学的異方性を示すポリマーは、溶融状態でポリマー分子鎖が規則的な平行配列をとる性質を有している。光学的異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法により確認できる。
【0044】サーモトロピック液晶ポリマーは、一般に細長く、偏平な分子構造からなり、分子の長鎖に沿って剛性が高く、同軸または平行のいずれかの関係にある複数の連鎖伸長結合を有しているようなモノマーから製造される。
【0045】本発明で用いるサーモトロピック液晶ポリマーは、上記化合物を溶融アシドリシス法やスラリー重合法等の多様なエステル形成法により製造することができる。
【0046】本発明で用いるサーモトロピック液晶ポリマーには、一つの高分子鎖の一部が異方性溶融相を形成するポリマーのセグメントで構成され、残りの部分が異方性溶融相を形成しない熱可塑性樹脂のセグメントから構成されるポリマーも含まれる。また、複数のサーモトロピック液晶ポリマーを複合したものも含まれる。
【0047】上記のように光学的異方性溶融相を形成するポリマーとしては、例えば全芳香族ポリエステル、ポリエステルエーテル等が例示され、その構成成分としては、(A)芳香族ジカルボン酸系化合物の少なくとも1種、(B)芳香族ヒドロキシカルボン酸系化合物の少なくとも1種、(C)芳香族ジオール系化合物の少なくとも1種、(D)(D1)芳香族ジチオール、(D2)芳香族チオフェノール、(D3)芳香族チオールカルボン酸系化合物の少なくとも1種、(E)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン系化合物の少なくとも1種、等が挙げられる。これ等は単独で構成される場合もあるが、多くは(A)と(C);(A)と(D);(A),(B)と(C);(A),(B)と(E);あるいは(A),(B),(C)と(E)等のように組合せて構成される。
【0048】上記(A)芳香族ジカルボン酸系化合物としては、テレフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェノキシブタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−4,4′−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3′−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−3,3′−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−3,3′−ジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、またはクロロテレフタル酸、ジクロロテレフタル酸、ブロモテレフタル酸、メチルテレフタル酸、ジメチルテレフタル酸、エチルテレフタル酸、メトキシテレフタル酸、エトキシテレフタル酸等で代表される芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体が挙げられる。
【0049】(B)芳香族ヒドロキシカルボン酸系化合物としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、または3−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジメチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−メトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−5−メチル−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ナフトエ酸、2−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−ブロモ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−5−クロロ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−7−クロロ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−5,7−ジクロロ−2−ナフトエ酸等で代表される芳香族ヒドロキシカルボン酸のアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体が挙げられる。
【0050】(C)芳香族ジオールとしては、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、3,3′−ジヒドロキシジフェニル、4,4′−ジヒドロキシトリフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ナフタレンジオール、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、3,3′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,6−ナフタレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン等の芳香族ジオール、またはクロロハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、フェノキシハイドロキノン、4−クロロレゾルシン、4−メチルレゾルシン等で代表される芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシまたはハロゲン置換体が挙げられる。
【0051】(D1)芳香族ジチオールとしては、ベンゼン−1,4−ジチオール、ベンゼン−1,3−ジチオール、2,6−ナフタレン−ジチオール等が挙げられる。
【0052】(D2)芳香族チオフェノールとしては、4−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、6−メルカプトフェノール等が挙げられる。
【0053】(D3)芳香族チオールカルボン酸としては、4−メルカプト安息香酸、3−メルカプト安息香酸、6−メルカプト−2−ナフトエ酸、7−メルカプト−2−ナフトエ酸等が挙げられる。
【0054】(E)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン系化合物としては、4−アミノフェノール、N−メチル−4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、N,N′−メチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N′−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、3−アミノフェノール、3−メチル−4−アミノフェノール、2−クロロ−4−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニル、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニルエーテル、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニルメタン、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリン)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、4,4′−エチレンジアニリン、4,4′−ジアミノジフェノキシエタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン(メチレンジアニリン)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(オキシジアニリン)等が挙げられる。
【0055】これら全芳香族ポリエステルの中で好ましくは、少なくとも一般式
【0056】
【化1】


【0057】で表される繰り返し単位を含む(共)重合体であって、具体的には
【0058】
【化2】


【0059】
【化3】


【0060】等がある。
【0061】すなわち、本発明の特に好ましい全芳香族コポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸、フタル酸およびビフェノールの3種の化合物からそれぞれ誘導される繰返し単位を有するコポリエステル、またはp−ヒドロキシ安息香酸およびヒドロキシナフトエ酸の2種の化合物からそれぞれ誘導される繰返し単位を有するコポリエステルである。
【0062】このサーモトロピック液晶ポリマーは充填剤の配合割合が高すぎると本発明の成形方法を採用してもウェルド強度の改善を達成することが出来ない。
【0063】従って、余りに多量の充填剤が配合されたサーモトロピック液晶ポリマーでは本発明に従うウェルド強度改善の効果が達成され得ないために好ましくない。このような観点から好ましいサーモトロピック液晶ポリマーの場合、70wt%以下の量の充填剤が配合された液晶ポリマーが好ましい。
【0064】なお、射出成形機それ自体も通常の射出成形機を用いることが出来、何等特殊な成形機による必要がない。またシリンダー温度、金型温度、金型圧力等の射出成形条件も射出すべき樹脂に適した通常の条件により射出することが出来る。
【0065】すなわち、サーモトロピック液晶ポリマーの場合の射出成形条件は、特に限定されないが充填剤の充填、非充填に拘らず押出機シリンダー温度200〜420℃、金型温度30〜200℃、射出圧力100〜2000kg/cm2、射出速度(シリンダー移動速度)5〜500mm/sec、射出成形サイクル5〜120秒の範囲から適宜に選択できる。
【0066】本発明においては再流動化のためには特に保持圧をかける必要はないが、必要ならば100〜1000kg/cm2の保持圧および保持時間を2〜120秒の条件で保圧することもできる。なお、保持圧は金型キャビティー内を溶融樹脂が実質的に全て充填した後に金型にかかる圧力およびそのための時間を示す。
【0067】射出成形後は、適宜の冷却時間、例えば2〜120秒の冷却時間により冷却し、二つ割の金型を解放すれば目的とする成形体が得られる。
【0068】
【発明の効果】キャビティー内に分岐流を設けることによりウェルド強度の改善が達成される。しかもシリンダー温度、金型温度、金型圧力等の射出成形条件それ自体は、サーモトロピック液晶ポリマーのための通常の射出成形条件に従い行なうことが出来る。
【0069】
【実施例】以下、本発明を実施例等により具体的に説明する。
【0070】初めに各実施例および比較例に用いた金型を説明する。
【0071】図1〜3は幅13mmで内部空隙が80mm×50mmの矩形形状の製品を得るための射出成形用金型を示す平面図である。
【0072】図1および図3に示す金型には5mm×15mmで首部分の幅が6mmの樹脂溜4としてのキャビティー部分が具備される。射出成形後は製品から該樹脂溜りは適宜の手段により製品から削除される。
【0073】図1に示す金型はウェルドライン5が樹脂溜り4から十分はずれた位置に位置するようにゲート2′を設けてある。この長さは約10mmである。また、ゲート2′の位置も樹脂溜りの位置から十分離れた位置に位置する。
【0074】一方、図3の金型においては樹脂溜り4がほぼウェルドライン5の位置近傍に位置するようにゲート2′を設けてある。なお、図2の金型は前記樹脂溜りに相当するキャビティー部分を有しない金型である。
【0075】図4〜9は内径80mm、外径90mm、幅10mmのリング状製品を製造するための金型であって、いずれもリング10上のほぼ均等な位置に長さ70mm×幅10mmの三個のいわゆる足11に相当するキャビティーを具備するものである。この足部は製品の一部である。
【0076】なお、図4〜6は、3点ゲート(いずれも×印で示す)のゲート位置を示し、図7〜8は1点ゲート(いずれも×印でゲート位置を示す)の金型である。
【0077】図4と図7の金型は、リング上における足11の位置とウェルドライン(点線で示す)のいずれもがゲートの位置から外れるように位置させた金型である。
【0078】図5の金型はリング上における足11の位置に位置するようにゲート(×印)を設けた金型であり、図6はリング上における足11の位置にウェルドラインが表出するように三個の足の中間の位置にゲート(×印)を設けた金型である。図8も図6と同様リング上における足11の位置にウェルドラインが表出するように足11の中間の位置にゲート(×印)を設けた金型である。
【0079】成形体厚みと再流動長の測定:以下の実施例および比較例において得られた成形品のウェルドラインの厚みを測定し前記式に従い計算することにより計算値を求めるとともに、得られた成形品を切断し切断面の観察から実際の再流動長を求めた。
【0080】なお、本実施例の成形体は、断面が厚みが数mmの薄い成形体であるので、この薄い方の辺の長さを成形体厚みX(mm)とした。またウェルドラインいずれの箇所における成形体厚みも同じ値であった。さらに切断は成形体のほぼ中央部において切断し、切断面の観察から再流動長の長さY(mm)を求めた。念のため成形体幅方向において流れに平行に複数箇所における再流動長を測定したがいずれもほぼ同一の値であることを確認した。
【0081】但し、図1の金型により成形された成形体については、流れ方向に沿って中央部のほか、該中央部から両側面側の複数の点においても切断し、その全ての切断面から測定した再流動長のうち最も長い値を再流動長として採用した。
【0082】熱衝撃強度の測定:リング状成形品については得られた成形品サンプルを雰囲気温度−40℃の冷凍庫に1時間放置後、雰囲気温度230℃のオーブンに1時間放置することを1サイクルとする熱衝撃試験を10サイクル行った。その後、目視によりウェルド部の割れ等の破壊された状況を観察した。
【0083】その結果は、以下の基準により破壊状況を評価した。
◎:割れ等が全く見られない○:割れ等が僅かに見られる△:割れが見られるがその割れの深さはやや深い程度×:割れが見られしかもその割れの深さが深い
【0084】実施例1図1により示される射出成形用金型を用いてp−ヒドロキシ安息香酸/テレフタール酸/ビフェノール/イソフタール酸の4元系コポリエステルからなるサーモトロピック液晶ポリマー(ガラス繊維30wt%充填、未充填品のDSC測定融点410℃、未充填品は溶融時に光学的異方性を示す)を、東芝機械(株)製の射出成形機IS−80(商品名、型締め圧80トン)により表1に示すシリンダー温度、金型温度、射出圧力、保持圧、射出サイクル時間等の成形条件により成形した。射出速度は100mm/secであった。
【0085】得られた矩形の打ち抜き形状の成形品の曲げ強度および引張強度の測定結果を表1に示す。
【0086】実施例2p−ヒドロキシ安息香酸/テレフタール酸/ビフェノール/の4元系コポリエステルからなるサーモトロピック液晶ポリマー(未充填品、DSC測定融点410℃、溶融時に光学的異方性を示す)を用いた以外は実施例1と同様にして表1に記載の成形条件により成形した。
【0087】得られた矩形の打ち抜き形状の成形品の曲げ強度および引張強度の測定結果を表1に示す。
【0088】比較例1樹脂溜まりを設けないほかは図1のものと同一形状の金型である図2に示す射出成形用金型を用いた以外は実施例1と同様にして表1に記載の成形条件により成形した。
【0089】得られた矩形の打ち抜き形状の成形品の曲げ強度および引張強度の測定結果を表1に示す。
【0090】比較例2実施例2で用いたサーモトロピック液晶ポリマーと同一の樹脂を用いた以外は比較例2と同様にして表1に記載の成形条件により成形した。
【0091】得られた矩形の打ち抜き形状の成形品の曲げ強度および引張強度の測定結果を表1に示す。
【0092】比較例3〜4シリンダー温度で20℃の増加、金型温度で30℃の増加、射出圧力で30%増加させた以外は比較例1〜2と同様にして成形した。
【0093】得られた矩形の打ち抜き形状の成形品の曲げ強度および引張強度の測定結果を表1に示す。この結果から見ると単なる射出成形条件の変更ではウェルド強度の改善は認められず、かえって低下するものすらあった。
【0094】比較例5図3に示す樹脂溜り4を有する金型であって、該樹脂溜り4の位置がウェルドライン(点線で示す)近傍に位置するようにゲート2′が設置された射出成形用金型を用い、実施例1で用いたガラス繊維を充填してなるサーモトロピック液晶ポリマーを表1に記載の成形条件で成形した。
【0095】得られた矩形の打ち抜き形状の成形品の曲げ強度および引張強度の測定結果を表1に示す。
【0096】比較例6実施例2で用いた未充填品であるサーモトロピック液晶ポリマーを用いた以外は比較例5と同様にして図3の金型でもって表1に記載の成形条件により成形した。得られた矩形の打ち抜き形状の成形品の曲げ強度および引張強度の測定結果を表1に示す。
【0097】
【表1】


【0098】実施例3図4は足11を有するリング状成形体を成形するための射出成形用金型の平面図である。
【0099】この金型を用いてp−ヒドロキシ安息香酸/テレフタール酸/ビフェノール/イソフタール酸の4元系コポリエステルからなるサーモトロピック液晶ポリマー(ガラス繊維30wt%充填、未充填品のDSC測定融点410℃、未充填品は溶融時に光学的異方性を示す)を、シリンダー温度390℃、金型温度120℃、射出圧力400kg/cm2で成形した。
【0100】得られた足付きリング状成形品の熱衝撃試験結果を表2に示す。
【0101】実施例4実施例3で用いたと同じ金型を用いてp−ヒドロキシ安息香酸/テレフタール酸/ビフェノール/テレフタール酸の4元系コポリエステルからなるサーモトロピック液晶ポリマー(未充填品、DSC測定融点410℃、溶融時に光学的異方性を示す)を、シリンダー温度390℃、金型温度120℃、射出圧力400kg/cm2で成形した。
【0102】得られた足付きリング状成形品の熱衝撃試験結果を表2に示す。
【0103】比較例7図5はリング10上の足部11の位置近傍にゲート(×印で示す)を設けたリング状製品を成形するための射出成形用金型の平面図を示す。この金型を用いて実施例1において用いたのと同一のガラス繊維を充填してなる液晶ポリマーを、シリンダー温度390℃、金型温度120℃、射出圧力400kg/cm2で成形した。
【0104】得られた足付きリング状成形品の熱衝撃試験結果を表2に示す。
【0105】比較例8比較例7と同じ金型を用い、実施例4において用いたと同一の未充填品である液晶ポリマーを、シリンダー温度390℃、金型温度120℃、射出圧力400kg/cm2で成形した。
【0106】得られた足付きリング状成形品の熱衝撃試験の結果を表2に示す。
【0107】比較例9〜10図6に示すリング10上の足11の位置近傍にウェルドライン(点線で示す)が表出するようにゲート(×印で示す)を設けた金型を用いた以外は比較例1〜2と同様にしてそれぞれ射出成形した。
【0108】得られた足付きリング状成形品の熱衝撃試験の結果を表2に示す。
【0109】実施例5〜6図7に示すリング10上のゲート(×印で示す)位置が足11のリング10上の位置から外れた位置に位置する金型を用いて実施例1〜2と同様にしてそれぞれ射出成形した。
【0110】得られた足付きリング状成形品の熱衝撃試験の結果を表2に示す。
【0111】比較例11〜12図8に示すウェルドライン(点線で示す)の位置がリング10上の足11の位置近傍に位置するようにゲート(X印で示す)を設けた金型を用いて実施例6〜7とそれぞれ同様にして射出成形をした。
【0112】得られた足付きリング状成形品の熱衝撃試験の結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】矩形の射出成形された製品を得るための射出成形用金型を示す平面図。
【図2】矩形の射出成形された製品を得るための射出成形用金型を示す平面図。
【図3】矩形の射出成形された製品を得るための射出成形用金型を示す平面図。
【図4】3個の足付きリング状製品を製造するための金型の平面図。
【図5】3個の足付きリング状製品を製造するための金型の平面図。
【図6】3個の足付きリング状製品を製造するための金型の平面図。
【図7】3個の足付きリング状製品を製造するための金型の平面図。
【図8】3個の足付きリング状製品を製造するための金型の平面図。
【図9】本発明により得らられる射出成形体のウェルドラインにおける切断面の概略図を示す。
【符号の説明】
1 スプルー
2 ランナー
2′または× ゲート
3 キャビティー
4 樹脂溜り
10 リング状キャビティー
11 足
5,20,21 ウェルドライン
22 流れ模様が直線状になった点
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 金型キャビティー内の複数の溶融樹脂流による合流部に対応して成形体表面にウェルドラインが形成されるサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法において、前記溶融樹脂流の一方が実質的に合流した後に、ウェルドラインおよびゲート近傍に位置しないキャビティー内の分岐点において分岐流を有していることを特徴とするサーモトロピック液晶ポリマーの射出成形方法。
【請求項2】 前記液晶ポリマーが全芳香族コポリエステルである請求項1に記載の成形方法。
【請求項3】前記液晶ポリマーが70重量%以下の充填剤を含むものである請求項1に記載の成形方法。

【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【公開番号】特開平5−318516
【公開日】平成5年(1993)12月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−417781
【出願日】平成2年(1990)12月28日
【出願人】(000231682)日本石油化学株式会社 (33)