説明

射撃システム

【課題】砲を備えた特殊車両において、砲の曲げ振動を考慮して砲撃の命中精度の改善を図った射撃システムを提供することを目的とする。
【解決手段】砲固有振動モデル部11aにおいて、砲先端振動検出センサ2aからの砲先端振動信号32aに基づき砲1の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として、砲1が真直形状にあるときに有効(Hレベル)となる真直信号33aを生成し、ANDゲート12a(出力手段)により、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ真直信号33aが有効の時に発射信号34aを有効として出力し、該発射信号34aに基づき着火して砲1から砲弾を発射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は砲を備えた特殊車両に関し、特に、砲の曲げ振動を考慮して砲撃の命中精度の改善を図った射撃システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
砲を備えた特殊車両において砲撃の命中精度は重要である。地上の堅固な基礎に設置するようなものとは違い、特殊車両の砲は運動する車両上に設置される。したがって、車両が運転者の操蛇や路面の凹凸、横風または勾配などの外乱によって動揺すると、砲も同じく動揺する。また、砲が動揺すると砲撃の命中精度も劣化する。
従来技術では、サーボ制御を使って砲を動揺しないようにして、命中精度の改善を図っていた。例えば、特許第2882863号公報に開示の「サーボ制御装置」では、車体の動揺の速度信号を砲のサーボ制御のフィードフォワード信号として利用して、砲を車体動揺と逆向きに動かして、車体が動揺しても砲の姿勢が変化しないようにしていた。例えば、車体が下向きに1[deg/sec]で傾いたとすると、砲を上向きに1[deg/sec]傾けて相殺し、砲の姿勢が変化しないようにしていた。
【特許文献1】特許第2882863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、サーボ制御は数[Hz]の周波数帯域まで誤差無く追従するので、車体の動揺が砲に及ぼす影響は従来技術によって良好に相殺できる。しかしながら、さらに精度を改善しようとすると砲の曲げ振動が問題となり、この砲の曲げ振動はより高い固有振動周波数を持つことから、砲の曲げ振動について従来技術では対応できないという事情があった。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、砲を備えた特殊車両において、砲の曲げ振動を考慮して砲撃の命中精度の改善を図った射撃システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、発射信号に基づき着火して砲弾を発射する砲と、前記砲の曲げ振動を検出する振動検出手段と、前記振動検出手段の検出結果に基づき前記砲の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号を生成する砲固有振動モデル部と、砲手による砲手トリガ信号が有効で且つ前記タイミング信号が有効の時に前記発射信号を有効として出力する出力手段とを具備する射撃システムを提供する。
【0006】
本発明によれば、発射のタイミングを砲の固有振動の特定タイミングに限定できるので、発射時の砲の曲がり形状は一定となって着弾ポイントのバラツキが小さくなり、砲撃の命中精度を改善することが可能となる。
【0007】
上記射撃システムにおいて、前記砲固有振動モデル部は、前記タイミング信号として、前記砲の固有振動において該砲が真直形状にあるときに有効となる真直信号を生成することとしてもよい。
【0008】
このようにすることで、発射時の砲の曲がり形状を考慮する必要が無くなり、より射出制御が簡便となって、より砲撃の命中精度を高めることが可能となる。
【0009】
上記射撃システムにおいて、前記振動検出手段は、例えば、前記砲の先端部における振動を検出する砲先端振動検出手段である。
【0010】
このようにすることで、砲の曲げ振動の感度が最も高い位置に振動検出手段を設置しているので、より正確に砲が真直形状となるタイミングを検出することができ、より砲撃の命中精度を高めることが可能となる。
【0011】
上記射撃システムにおいて、前記振動検出手段は、例えば、前記砲の根元部における砲角度を検出する砲根元角度検出手段である。
【0012】
このようにすることで、既設の砲角度検出器を流用できるので、新たな振動検出手段が不要となり、また、砲の根元部は先端部に比べて防護された環境にあるので、振動検出手段の故障リスクを低減してより信頼性の高い射撃システムを実現できる。
【0013】
上記射撃システムにおいて、前記振動検出手段は、前記砲の先端部における振動を検出する砲先端振動検出手段と、前記砲の根元部における砲角度を検出する砲根元角度検出手段とを備え、前記砲固有振動モデル部は、前記砲先端振動検出手段が正常動作時には、該砲先端振動検出手段の検出結果を用いて前記タイミング信号または前記真直信号を生成すると共に、該砲先端振動検出手段の検出結果から前記砲根元角度検出手段の調整量を学習し、前記砲先端振動検出手段が故障時には、前記砲根元角度検出手段の検出結果に前記調整量を加味した結果を用いて前記タイミング信号または前記真直信号を生成することとしてもよい。
【0014】
このようにすることで、砲の曲げ振動の振動検出感度を高いまま維持でき、より砲撃の命中精度を高めることができると共に、高い信頼性の射撃システムを実現できる。
【0015】
上記射撃システムにおいて、前記真直信号を、前記真直信号の周期から前記発射信号が有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間だけ遅延した遅延真直信号を生成する遅延手段を更に備え、前記出力手段は、前記砲手トリガ信号が有効で且つ前記遅延真直信号が有効の時に前記発射信号を有効として出力することとしてもよい。
【0016】
このようにすることで、砲が真に真っ直ぐになったタイミングで砲弾が発射されることとなり、砲撃の命中精度をさらに高めることが可能となる。
【0017】
上記射撃システムにおいて、前記真直信号を、前記真直信号の周期から前記発射信号が有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間で且つ該着火に用いる爆薬の種類に応じた時間だけ遅延した遅延真直信号を生成する可変遅延手段を更に備え、前記出力手段は、前記砲手トリガ信号が有効で且つ前記遅延真直信号が有効の時に前記発射信号を有効として出力することとしてもよい。
【0018】
このようにすることで、砲が真に真っ直ぐになったタイミングで砲弾が発射されることとなり、種々の弾薬に対応しつつ砲撃の命中精度をさらに改善することが可能となる。
【0019】
上記射撃システムにおいて、前記タイミング信号または前記真直信号が所定周期内で有効となっているか否かを診断する診断手段を更に備え、前記タイミング信号または前記真直信号が所定周期内で有効となっていないときには、前記砲手トリガ信号を前記発射信号として用いることとしてもよい。
【0020】
このようにすることで、真直信号を発生する機能が故障して生成できないとき、或いは、砲が真に整定していて真直信号が有効とはならないときにも適切に対処することができ、より高い信頼性を持つ射撃システムを実現できる。
【0021】
上記射撃システムにおいて、前記振動検出手段の検出結果に基づき前記砲の曲げ振動度合いを求める演算手段と、前記演算手段による前記砲の曲げ振動度合いを報知する報知手段とを更に備えることとしてもよい。
【0022】
このようにすることで、砲手に対して砲の曲げ振動度合いを報知することができ、無駄な発射を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、発射のタイミングを砲の固有振動の特定タイミングに限定できるので、発射時の砲の曲がり形状は一定となって着弾ポイントのバラツキが小さくなり、砲撃の命中精度を改善できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係る射撃システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
〔第1の実施形態〕
図1は本発明の第1の実施形態に係る射撃システムの構成図である。同図において、本実施形態の射撃システムは特殊車両に設置されるものであって、発射信号34aに基づき着火して砲弾を発射する砲1と、砲1の先端部における振動を検出する砲先端振動検出センサ2aと、砲先端振動検出センサ2aからの砲先端振動信号32aに基づき砲1の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として真直信号33aを生成する砲固有振動モデル部11aと、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ真直信号33aが有効の時に発射信号34aを有効として出力するANDゲート(出力手段)12aとを備えて構成されている。
【0026】
ここで、砲先端振動検出センサ2aは、具体的に例えば、速度センサか、加速度センサ、また、砲1の先端部に設置されている鏡にレーザを照射したときの反射レーザにより位置、速度または加速度を検出するレーザセンサ、或いは、砲1の曲げ歪みを検出する歪みセンサ等々、種々のものを適用できる。つまり、砲先端振動検出センサ2aは砲1の曲げ振動を検出する振動検出手段に該当しており、振動検出手段としては、図2に示すような砲1の固有振動による変形を後述する砲固有振動モデル部11aで推定するための物理量の時間的変化が得られればよく、その物理量として砲1の先端部の位置、速度、加速度または歪み等のいずれでもよい。
【0027】
砲1が固有振動で変形するとは、例えば図2に示すような砲1の一次曲げモードをいう。本発明ではこのような一次曲げモードを主に取り扱い、砲固有振動モデル部11aにおいて、砲1が固有振動で変形する形状を推定する。
【0028】
砲1には特殊車両の走行による路面の振動や、エンジンからの振動など、多種多様な振動外乱が作用することから、砲先端振動検出センサ2aで検出した砲先端振動信号32aには、多種多様な周波数成分の雑音が含まれている。つまり、砲1の固有振動に由来する振動はこのような雑音に埋もれており、このままでは利用できない。そこで、本発明では、砲固有振動モデル部11aにより、雑音の中から砲1の固有振動を検出し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として真直信号33aを生成する。ここで、真直信号33aは、砲1の固有振動において該砲1が真直形状にあるときに有効(Hレベル)となる信号であり、逆に、真直信号33aが有効(Hレベル)となるタイミングで砲1が真直形状にあることを示す。なお、真直信号33aを含めて各実施形態で現れる各信号はすべて正論理信号(該信号が有効(真値)のときにHレベルで、無効(偽値)のときにLレベルとなる信号)である。
【0029】
図3に、砲固有振動モデル部11aの基本的な構成図を示す。同図において、砲固有振動モデル部11aは、帯域通過フィルタ101と、位相検出器111、ループフィルタ112およびVCO(電圧制御発振器)113を有するPLL回路102と、信号立ち上がりエッジ検出回路103とを備えて構成されている。
【0030】
砲1の固有振動の振動周波数は、砲1の材質や形状、寸法から算出することができる。また算出不能な場合であっても、砲1を整定状態においてハンマリングして固有振動を発生させるなどして、実験的にも求めることができる。ここでは、固有振動周波数をfn[Hz]と記すことにする。
【0031】
このように砲1の固有振動周波数をfnが予め分かっているので、砲1の先端部で検出した砲先端振動信号32aを入力すると、まず、固有振動周波数をfnを中心とする周波数帯域を通過する帯域通過フィルタ101に通してノイズ成分を取り除く。帯域通過フィルタ101は、例えば伝達関数「4πζfns/{s+4πζfns+(2πζfns)}」で表される。ここに、ζは通過帯域の幅を決める定数である。
【0032】
特定周波数成分のみを精度良く抽出するには、一般にPLL(Phase-Locked Loop;位相同期ループ)回路102が使われる。PLL回路102においては、まず位相検出器111でPLL入力信号とPLL出力信号の位相差を検出して位相差を出力する。位相差出力信号は、Hレベルの時間がPLL入力信号とPLL出力信号の位相差に比例するような矩形波信号である。
【0033】
また、ループフィルタ112は、位相差出力信号Hレベル/Lレベルとなるリップルを平滑化し、最終的に位相差出力信号のHレベルの時間に比例する直流信号を出力する。また、VCO113は、入力する直流信号の電圧に比例して出力周波数が変化する可変周波数発振器である。最終的に、PLL回路102からは、PLL入力信号の振動位相に一致してHレベル/Lレベルに切り替わるPLL出力信号が出力されることとなる。
そしてさらに、砲1の真直タイミングを厳密に検出するために、PLL出力信号を信号立ち上がりエッジ検出回路103に通して真直信号33aを得る。
【0034】
なお、砲固有振動モデル部11aは以上説明したような基本的動作を行うが、真直信号33aが有効(Hレベル)となるべき砲1が真直形状にあるときは、砲1の先端部の位置が振動の中心位置にあるとき、速度の絶対値が最大のとき、加速度がゼロのとき、また歪みがゼロのとき、という具合に検出する物理量によって異なるので、より実際的には、砲固有振動モデル部11aの入力部に検出する物理量に応じたインタフェースが必要となる。また、砲1の固有振動の1周期に砲1が真直形状となる状態は2回あり、2個のパルスが出力されることになるが、信号立ち上がりエッジ検出回路103等で逓倍して1個のパルスが出力されるようにしても良い。
【0035】
次に以上説明したような構成要素を備えた本実施形態の射撃システムにおける動作について、図4のタイムチャートを参照して説明する。
まず、砲手がトリガを引くと、砲手トリガ信号31としては図4(a)に示すような波形の信号が現れる。このとき、特殊車両が走行状態等にあるときは、砲1には曲げ振動が発生しており、砲固有振動モデル部11aにより、砲1の固有振動による変形形状が推定され、図4(b)に示すような波形の真直信号33aが得られる。そして、ANDゲート12aでは、これら砲手トリガ信号31および真直信号33aの論理積がとられ、図4(c)に示すような波形の発射信号34aが出力されることになる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の射撃システムでは、砲固有振動モデル部11aにおいて、砲先端振動検出センサ2aからの砲先端振動信号32aに基づき砲1の固有振動による変形形状をリアルタイムで推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として、砲1が真直形状にあるときに有効(Hレベル)となる真直信号33aを生成し、ANDゲート12a(出力手段)により、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ真直信号33aが有効の時に発射信号34aを有効として出力し、該発射信号34aに基づき着火して砲1から砲弾を発射する。
【0037】
なお、砲先端振動検出センサ2aに、砲1が真直形状にあるときに真直信号33aを有効(Hレベル)とするための入力インタフェースを持たせなくても、真直信号33aは、砲1の固有振動の特定タイミング(固有振動における位相)を限定するタイミング信号として機能する。つまり、砲1の固有振動は着弾ポイントのバラツキとして現れるが、発射のタイミングを砲1の固有振動の特定タイミングに限定できるので、発射時の砲1の曲がり形状は一定となって着弾ポイントのバラツキが小さくなり、砲撃の命中精度を改善することができる。また、入力インタフェースを持たせて、砲1が真直形状にあるときに真直信号33aを有効(Hレベル)となるようにした場合には、発射時の砲1の曲がり形状を考慮する必要が無くなり、より射出制御が簡便となって、より砲撃の命中精度を高めることができる。
【0038】
また、本実施形態の射撃システムでは、振動検出手段に、砲1の先端部における振動を検出する砲先端振動検出センサ2aを採用し、砲1の曲げ振動の感度が最も高い位置に振動検出手段を設置しているので、より正確に砲1が真直形状となるタイミングを検出することができ、より砲撃の命中精度を高めることができる。
【0039】
〔第2の実施形態〕
次に、図5は本発明の第2の実施形態に係る射撃システムの構成図である。同図において、本実施形態の射撃システムは特殊車両に設置されるものであって、発射信号34bに基づき着火して砲弾を発射する砲1と、砲1の根元部における砲角度を検出する砲根元角度検出センサ2bと、砲根元角度検出センサ2bからの砲根元角度信号32bに基づき砲1の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として真直信号33bを生成する砲固有振動モデル部11bと、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ真直信号33bが有効の時に発射信号34bを有効として出力するANDゲート(出力手段)12bとを備えて構成されている。
【0040】
ここで、砲根元角度検出センサ2bは、背景技術で述べたような砲1のサーボ制御において必要となる砲角度検出器を流用すればよく、当該射撃システムのために別途用意する必要はない。また、砲固有振動モデル部11bについては、第1の実施形態の砲固有振動モデル部11aと同等であるので、説明を省略する。
【0041】
次に上記構成要素を備えた本実施形態の射撃システムにおける動作について、図6のタイムチャートを参照して説明する。まず、砲手がトリガを引くと、砲手トリガ信号31としては図6(a)に示すような波形の信号が現れる。このとき、特殊車両が走行状態等にあるときは、砲1には曲げ振動が発生しており、砲固有振動モデル部11bにより、砲1の固有振動による変形形状が推定され、図6(b)に示すような波形の真直信号33bが得られる。そして、ANDゲート12bでは、これら砲手トリガ信号31および真直信号33bの論理積がとられ、図6(c)に示すような波形の発射信号34bが出力されることになる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の射撃システムでは、振動検出手段に、砲1の根元部における砲角度を検出する砲根元角度検出センサ2bを採用し、第1の実施形態と比較して砲1の曲げ振動の感度がやや低下するが、既設の砲角度検出器を流用できるので、新たな振動検出手段が不要となる。また、砲1の根元部は先端部に比べて防護された環境にあるので、振動検出手段の故障リスクを低減してより信頼性の高い射撃システムを実現することができる。
【0043】
〔変形例〕
また、第1の実施形態および第2の実施形態の変形として、振動検出手段として、砲1の先端部における振動を検出する砲先端振動検出センサ2aと、砲1の根元部における砲角度を検出する砲根元角度検出センサ2bとを備えた構成としても良い。
この場合、砲固有振動モデル部では、砲先端振動検出センサ2aが正常に動作している時には、該砲先端振動検出センサ2a段の検出結果を用いてタイミング信号または真直信号を生成するようにし、同時に、該砲先端振動検出センサ2aの検出結果から砲根元角度検出センサ2bの調整量を学習しておき、砲先端振動検出センサ2aが故障した時には、砲根元角度検出センサ2bの検出結果に学習した調整量を加味した結果を用いてタイミング信号または前記真直信号を生成する。
これにより、砲1の曲げ振動の振動検出感度を高いまま維持でき、より砲撃の命中精度を高めることができると共に、高い信頼性の射撃システムを実現することができる。
【0044】
〔第3の実施形態〕
次に、図7は本発明の第3の実施形態に係る射撃システムの構成図である。同図において、本実施形態の射撃システムは特殊車両に設置されるものである。本実施形態に係る射撃システムは、発射信号34cに基づき着火して砲弾を発射する砲1と、砲1の先端部における振動を検出する砲先端振動検出センサ2cと、砲先端振動検出センサ2cからの砲先端振動信号32cに基づき砲1の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として真直信号33cを生成する砲固有振動モデル部11cと、真直信号33cを、該真直信号33cの周期から発射信号34cが有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間だけ遅延した遅延真直信号35cを生成する遅延タイマ(遅延手段)13cと、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ遅延真直信号35cが有効の時に発射信号34cを有効として出力するANDゲート(出力手段)12cとを備えて構成されている。
【0045】
ここで、砲先端振動検出センサ2cおよび砲固有振動モデル部11cについては、第1の実施形態の砲先端振動検出センサ2aおよび砲固有振動モデル部11aと同等であるので、説明を省略する。また、遅延タイマ13cは一般に電子回路で使用されるものを使用すればよく、特に限定されない。
【0046】
次に、本実施形態の射撃システムにおける動作について図8のタイムチャートを参照して説明する。まず、砲手がトリガを引くと、砲手トリガ信号31としては図8(a)に示すような波形の信号が現れる。このとき、特殊車両が走行状態等にあるときは、砲1には曲げ振動が発生しており、砲固有振動モデル部11cにより、砲1の固有振動による変形形状が推定され、図8(b)に示すような波形の真直信号33cが得られる。また、真直信号33cは、遅延タイマ13cによって真直信号33cの周期から発射信号34cが有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間だけ遅延され、図8(c)に示すような波形の遅延真直信号35cが得られる。そして、ANDゲート12cでは、これら砲手トリガ信号31および遅延真直信号35cの論理積がとられ、図8(d)に示すような波形の発射信号34cが出力されることになる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の射撃システムでは、第1の実施形態の構成に対して、真直信号33cを、該真直信号33cの周期から発射信号34cが有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間だけ遅延した遅延真直信号35cを生成する遅延タイマ(遅延手段)13cをさらに備え、ANDゲート12c(出力手段)により、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ遅延真直信号35cが有効の時に発射信号34cを有効として出力し、該発射信号34cに基づき着火して砲1から砲弾を発射する。
つまり、遅延タイマ13cにより、真直信号33cの立ち上がりタイミングを、発射信号34cが有効となってから着火されるまでの爆発時間遅れの分だけ早めるように位相を調整し、爆発時間遅れの分だけ先行した遅延真直信号35cと論理積をとるので、砲1が真に真っ直ぐになったタイミングで砲弾が発射されることとなり、砲撃の命中精度をさらに高めることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の構成に対して遅延タイマ(遅延手段)13cを付加した構成としたが、第2の実施形態または変形例に遅延タイマ(遅延手段)13cを付加した構成としても、同様の効果を得ることができる。
【0049】
〔第4の実施形態〕
次に、図9は本発明の第4の実施形態に係る射撃システムの構成図である。同図において、本実施形態の射撃システムは特殊車両に設置されるものであって、発射信号34dに基づき着火して砲弾を発射する砲1と、砲1の先端部における振動を検出する砲先端振動検出センサ2dと、砲先端振動検出センサ2dからの砲先端振動信号32dに基づき砲1の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として真直信号33dを生成する砲固有振動モデル部11dと、真直信号33dを、該真直信号33dの周期から発射信号34dが有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間で且つ該着火に用いる爆薬の種類に応じた時間だけ遅延した遅延真直信号35dを生成する可変遅延部(可変遅延手段)と、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ遅延真直信号35dが有効の時に発射信号34dを有効として出力するANDゲート(出力手段)12dとを備えて構成されている。
【0050】
ここで、可変遅延部は、砲弾の着火に用いる弾薬の種類を検出する弾薬種類検出装置14と、弾薬の種類に応じた爆発遅延時間が予め登録されており、弾薬種類検出装置14からの弾薬種類検出信号36に応じた爆発遅延時間T2を出力する爆発遅延時間記憶部15と、真直信号33dの周期T1を求める間隔算出器16と、真直信号33dの周期T1から爆発遅延時間T2を差し引いた遅延時間T3を出力する減算器17と、遅延時間T3だけ真直信号33dを遅延する遅延タイマ13dとを備えた構成である。また、砲先端振動検出センサ2dおよび砲固有振動モデル部11dについては、第1の実施形態の砲先端振動検出センサ2aおよび砲固有振動モデル部11aと同等であるので、説明を省略する。
【0051】
次に、本実施形態の射撃システムにおける動作について図10のタイムチャートを参照して説明する。まず、砲手がトリガを引くと、砲手トリガ信号31としては図10(a)に示すような波形の信号が現れる。このとき、特殊車両が走行状態等にあるときは、砲1には曲げ振動が発生しており、砲固有振動モデル部11dにより、砲1の固有振動による変形形状が推定され、図10(b)に示すような波形の真直信号33dが得られる。
【0052】
また、真直信号33dは、遅延タイマ13dによって真直信号33dの周期T1から発射信号34dが有効となってから着火されるまでの時間T2を差し引いた時間T3だけ遅延され、図10(c)に示すような波形の遅延真直信号35dが得られる。そして、ANDゲート12dでは、これら砲手トリガ信号31および遅延真直信号35dの論理積がとられ、図10(d)に示すような波形の発射信号34dが出力されることになる。こうして、図10(a)および(e)に示すように、砲1が真に真っ直ぐになった(真直信号33dの)タイミングで砲弾を発射することができる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の射撃システムでは、第1の実施形態の構成に対して、真直信号33dを、該真直信号33dの周期から発射信号34dが有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間で且つ該着火に用いる爆薬の種類に応じた時間だけ遅延した遅延真直信号35dを生成する可変遅延部をさらに備え、ANDゲート12d(出力手段)により、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ遅延真直信号35dが有効の時に発射信号34dを有効として出力し、該発射信号34dに基づき着火して砲1から砲弾を発射する。
【0054】
つまり、遅延タイマ13dにより、真直信号33dの立ち上がりタイミングを、発射信号34dが有効となってから着火されるまでの弾薬の種類に応じた爆発時間遅れの分だけ早めるように位相を調整し、該爆発時間遅れの分だけ先行した遅延真直信号35dと論理積をとるので、砲1が真に真っ直ぐになったタイミングで砲弾が発射されることとなり、種々の弾薬に対応しつつ砲撃の命中精度をさらに改善することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の構成に対して可変遅延部を付加した構成としたが、第2の実施形態または変形例に可変遅延部を付加した構成としても、同様の効果を得ることができる。
【0056】
〔第5の実施形態〕
次に、図11は本発明の第5の実施形態に係る射撃システムの構成図である。同図において、本実施形態の射撃システムは、発射信号34eに基づき着火して砲弾を発射する砲1と、砲1の先端部における振動を検出する砲先端振動検出センサ2cと、砲先端振動検出センサ2eからの砲先端振動信号32eに基づき砲1の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号として真直信号33eを生成する砲固有振動モデル部11eと、砲手による砲手トリガ信号31が有効で且つ真直信号33eが有効の時に有効となる信号を出力するANDゲート12eと、真直信号33eが所定周期内で有効となっているか否かを診断するパルス間隔診断器(診断手段)18と、パルス間隔診断器18により真直信号33eが所定周期内で有効となっていないと判断されたときに、ANDゲート12eの出力の代わりに砲手トリガ信号31を発射信号34eとして用いる切替機19とを備えて構成されている。
【0057】
ここで、砲先端振動検出センサ2e、砲固有振動モデル部11eおよびANDゲート12eについては、第1の実施形態の砲先端振動検出センサ2a、砲固有振動モデル部11aおよびANDゲート12aと同等であるので、構成および動作説明を省略する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の射撃システムでは、第1の実施形態において、真直信号33eを発生する機能が故障して真直信号33eを生成できないときの対策、或いは、砲1が真に整定していて真直信号33eが有効(Hレベル)とはならないときの対策として、真直信号33eのチェック機能を備えており、真直信号33eのパルス間隔をパルス間隔診断器18(診断手段)によってモニタし、パルス間隔が所定の値の範囲にない場合には、真直信号33eを使用することなく、砲手トリガ信号31をそのまま発射信号34eとして用いる。これにより、より高い信頼性を持つ射撃システムを実現できる。
【0059】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の構成に対して診断手段を付加した構成としたが、第2の実施形態、変形例、第3の実施形態または第4の実施形態に診断手段を付加した構成としても、同様の効果を得ることができる。
【0060】
〔第6の実施形態〕
図12は本発明の第6の実施形態に係る射撃システムの部分構成図である。同図において、本実施形態の射撃システムは、上述した第1の実施形態、変形例、第3の実施形態、第4の実施形態および第5の実施形態に、砲先端振動検出センサ2fからの砲先端振動信号32fに基づき砲1の曲げ振動度合いを求めるRMS演算器(演算手段)20と、RMS演算器20による砲1の曲げ振動度合いを報知する振動レベル表示灯(報知手段)21とを更に備えて構成されている。
【0061】
ここで、RMS演算器20は、砲先端振動信号32fの二乗の時間平均をとり、これを砲1の曲げ振動度合い信号38として出力する。振動レベル表示灯21は、曲げ振動度合い信号38に応じた振動レベルを段階的に点灯表示する。なお、報知手段としては、他にも音声出力やメッセージ表示出力等々、種々の構成が考えられる。
【0062】
このように、本実施形態の射撃システムでは、砲1の振動レベルの大小を視覚的に表示するディスプレイ機能を備えたので、砲手に対して振動レベルの大小を報知することができ、無駄な発射を抑制することができる。
なお、本実施形態と同様に、第2の実施形態の構成に対してRMS演算器(演算手段)20および振動レベル表示灯(報知手段)21を付加した構成としても、同様の効果を得ることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る射撃システムは、戦車(キャタピラ装備)や装輪戦闘車(キャタピラ無し)等の装甲戦闘車両など、砲を備えた特殊車両に適用することができる。特に、装輪戦闘車の場合には、戦車よりも軽量化が図られており、砲もより細い構造のものが使用されるため、砲の曲げ振動の問題が顕著であることから、本発明による砲の曲げ振動を考慮した砲撃の命中精度の改善効果もより顕著に現れることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る射撃システムの構成図である。
【図2】砲1の一次曲げモードを説明する説明図である。
【図3】砲固有振動モデル部11aの基本的な構成図である。
【図4】第1の実施形態の射撃システムにおける各信号のタイムチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る射撃システムの構成図である。
【図6】第2の実施形態の射撃システムにおける各信号のタイムチャートである。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る射撃システムの構成図である。
【図8】第3の実施形態の射撃システムにおける各信号のタイムチャートである
【図9】本発明の第4の実施形態に係る射撃システムの構成図である。
【図10】第4の実施形態の射撃システムにおける各信号のタイムチャートである。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る射撃システムの構成図である。
【図12】本発明の第6の実施形態に係る射撃システムの部分構成図である。
【符号の説明】
【0066】
1 砲
2a,2c〜2f 砲先端振動検出センサ
2b 砲根元角度検出センサ
11a〜11e 砲固有振動モデル部
12a〜12e ANDゲート(出力手段)
13c,13d 遅延タイマ(遅延手段;可変遅延手段)
14 弾薬種類検出装置(可変遅延手段)
15 爆発遅延時間記憶部(可変遅延手段)
16 間隔算出器(可変遅延手段)
17 減算器(可変遅延手段)
18 パルス間隔診断器(診断手段)
19 切替機
20 RMS演算器(演算手段)
21 振動レベル表示灯(報知手段)
31 砲手トリガ信号
32a,32c〜32f 砲先端振動信号
32b 砲根元角度信号
33a〜33e 真直信号
34a〜34e 発射信号
35c35d,遅延真直信号
36 弾薬種類検出信号
101 帯域通過フィルタ
102 PLL回路
103 信号立ち上がりエッジ検出回路
111 位相検出器
112 ループフィルタ
113 VCO(電圧制御発振器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発射信号に基づき着火して砲弾を発射する砲と、
前記砲の曲げ振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段の検出結果に基づき前記砲の固有振動による変形形状を推定し、該固有振動における所定位相のタイミング信号を生成する砲固有振動モデル部と、
砲手による砲手トリガ信号が有効で且つ前記タイミング信号が有効の時に前記発射信号を有効として出力する出力手段と
を具備する射撃システム。
【請求項2】
前記砲固有振動モデル部は、前記タイミング信号として、前記砲の固有振動において該砲が真直形状にあるときに有効となる真直信号を生成する請求項1に記載の射撃システム。
【請求項3】
前記振動検出手段は、前記砲の先端部における振動を検出する砲先端振動検出手段である請求項1または請求項2に記載の射撃システム。
【請求項4】
前記振動検出手段は、前記砲の根元部における砲角度を検出する砲根元角度検出手段である請求項1または請求項2に記載の射撃システム。
【請求項5】
前記振動検出手段は、
前記砲の先端部における振動を検出する砲先端振動検出手段と、
前記砲の根元部における砲角度を検出する砲根元角度検出手段と
を備え、
前記砲固有振動モデル部は、前記砲先端振動検出手段が正常動作時には、該砲先端振動検出手段の検出結果を用いて前記タイミング信号または前記真直信号を生成すると共に、該砲先端振動検出手段の検出結果から前記砲根元角度検出手段の調整量を学習し、前記砲先端振動検出手段が故障時には、前記砲根元角度検出手段の検出結果に前記調整量を加味した結果を用いて前記タイミング信号または前記真直信号を生成する請求項1または請求項2に記載の射撃システム。
【請求項6】
前記真直信号を、前記真直信号の周期から前記発射信号が有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間だけ遅延した遅延真直信号を生成する遅延手段を更に備え、
前記出力手段は、前記砲手トリガ信号が有効で且つ前記遅延真直信号が有効の時に前記発射信号を有効として出力する請求項2から請求項5のいずれかに記載の射撃システム。
【請求項7】
前記真直信号を、前記真直信号の周期から前記発射信号が有効となってから着火されるまでの時間を差し引いた時間で且つ該着火に用いる爆薬の種類に応じた時間だけ遅延した遅延真直信号を生成する可変遅延手段を更に備え、
前記出力手段は、前記砲手トリガ信号が有効で且つ前記遅延真直信号が有効の時に前記発射信号を有効として出力する請求項2から請求項5のいずれかに記載の射撃システム。
【請求項8】
前記タイミング信号または前記真直信号が所定周期内で有効となっているか否かを診断する診断手段を更に備え、
前記タイミング信号または前記真直信号が所定周期内で有効となっていないときには、前記砲手トリガ信号を前記発射信号として用いる請求項1から請求項7のいずれかに記載の射撃システム。
【請求項9】
前記振動検出手段の検出結果に基づき前記砲の曲げ振動度合いを求める演算手段と、
前記演算手段による前記砲の曲げ振動度合いを報知する報知手段と
を更に備える請求項1から請求項8のいずれかに記載の射撃システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−309375(P2008−309375A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156434(P2007−156434)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】