説明

射撃効果判定プログラム、射撃効果判定装置及び射撃効果判定方法

【課題】剤を含む弾丸の射撃の効果を正確に判定することが可能な射撃効果判定プログラム、射撃効果判定装置及び射撃効果判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】コンピュータ11において実行される射撃効果判定プログラムであって、記憶装置は、弾丸に含まれる剤の種類毎に弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルを記憶しており、演算処理装置に、弾丸に含まれる剤の種類に基づき設定パラメータテーブルから弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得ステップと、弾丸に含まれる剤の量及び弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出ステップと、算出した土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定ステップとことにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射撃効果判定プログラム、射撃効果判定装置及び射撃効果判定方法に係り、特に目標(対象)に対する射撃の効果を判定する射撃効果判定プログラム、射撃効果判定装置及び射撃効果判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば射撃訓練を行う為の模擬訓練システムや射撃ゲームを行う為のアミューズメント施設では、仮想的に行った射撃の効果を判定可能な射撃効果判定装置を用いることにより射撃訓練や射撃ゲームのリアリティを高めている。ここでは、曲射火器を用いて化学剤や放射線等の有害汚染発生に対する防護訓練を行う模擬訓練システムの例を説明する。目標としては人が上げられる。
【0003】
なお、曲射火器を用いて化学剤や放射線等の有害汚染発生に対する防護訓練を行う模擬訓練システムは、例えば自衛隊や警察の行う実動訓練用の模擬訓練装置や、コンピュータ上で各種状況を設定し、状況判断、指揮統制訓練を行うシミュレータ等が上げられる。
【0004】
模擬訓練システムは実弾を発射する代わりに射撃(汚染)諸元情報が入力され、その射撃諸元情報をもとに弾丸の破裂点を算出する。模擬訓練システムは、算出された弾丸の破裂点及び射撃諸元情報をもとに模擬的な汚染範囲を算出する。模擬訓練システムは、算出された汚染範囲の位置座標と目標の位置座標とをもとに目標の損耗の程度を判定し、目標の保持する無線機等に通知して状況を表示するものである。
【0005】
このように模擬訓練システムにおいては仮想的に行った射撃(模擬射撃)の効果、例えば有害汚染発生による対象の損耗の程度を正確に判定することで、より実戦的な訓練が可能となる。また、射撃訓練は危険を伴わずに少ない補助員で行う必要がある。特許文献1及び2には、従来の模擬訓練システムの一例が記載されている。
【特許文献1】特開平7−146096号公報
【特許文献2】特開2003−130593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の模擬訓練システムでは、有害汚染発生による対象の損耗の程度(訓練員の擬似的な死傷等の損失)の判定に際し、模擬射撃の効果を精度良く評価するために、訓練員の現場での状況や気象条件などを含めた実環境に、より近い状態での正確な判定が求められている。
【0007】
化学剤や神経剤或いは放射線等による汚染は人間の五感で感知できない。特に化学剤は比較的安価で容易に入手可能な大量殺傷兵器である。また、化学剤は無色,無臭であるために感知され難いが、事前に防護処置を行うことにより被害を完全に防止できる。化学剤の防護の基本は、まず、有害汚染の状況を正しく見極め、速やかに防護マスクの装着などの防護処理を行うことである。このようなことから、化学剤の防護に対する訓練は重要な必須の訓練とされている。
【0008】
従来の模擬訓練システムでは、弾丸の破裂点,弾丸の種類、弾丸に含まれる剤(化学剤など)の種類や量などをもとに汚染範囲を算出しているが、有害汚染発生による対象の損耗の程度を正確に算出することが以下の理由によりできなかった。
【0009】
実弾による汚染範囲は弾丸の破裂により剤が蒸発することにより発生する。なお、剤の蒸発は剤の種類に応じて変わる。したがって、弾丸の破裂により大気中に蒸発する剤の量は弾丸に含まれる剤の量の他、剤の種類によっても異なる。弾丸の破裂の際、大気中に蒸発しなかった剤は、土壌汚染を発生させる。
【0010】
従来の模擬訓練システムは、弾丸の破裂点,弾丸の種類、弾丸に含まれる剤の種類や量などをもとに汚染範囲を算出しているが、弾丸の破裂の際、大気中に蒸発しなかった剤を考慮しないため、実弾による汚染範囲を正確に模擬することができない。このため、従来の模擬訓練システムは有害汚染発生による対象の損耗の程度を正確に判定できないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、剤を含む弾丸の射撃の効果を正確に判定することが可能な射撃効果判定プログラム、射撃効果判定装置及び射撃効果判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明は、記憶装置,演算処理装置を含むコンピュータにおいて実行される射撃効果判定プログラムであって、前記記憶装置は、弾丸に含まれる剤の種類毎に前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルを記憶しており、前記演算処理装置に、前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得ステップと、前記弾丸に含まれる剤の量及び前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、前記弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出ステップと、算出した前記土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定ステップとを実行させる射撃効果判定プログラムであることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明の構成要素、表現または構成要素の任意の組合せを、方法、装置、システム、コンピュータプログラム、記録媒体、データ構造などに適用したものも本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
上述の如く、本発明によれば、剤を含む弾丸の射撃の効果を正確に判定することが可能な射撃効果判定プログラム、射撃効果判定装置及び射撃効果判定方法を提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例に基づき図面を参照しつつ説明していく。
【0016】
図1は、本発明による模擬訓練システムの一例の構成図である。図1の模擬訓練システム10は中央局11,1つ以上の曲射火器用無線機12,1つ以上の目標用無線機13が無線ネットワーク14を介してデータ通信可能に接続されている。
【0017】
曲射火器用無線機12は曲射火器の近くに設置されており、その曲射火器の射撃諸元が入力される。曲射火器用無線機12は入力された射撃諸元の内容が含まれる射撃諸元情報を無線ネットワーク14経由で中央局11に通知する。
【0018】
目標用無線機13は目標である人に取り付けられる。目標用無線機13は所定時間毎に位置情報を無線ネットワーク14経由で中央局11に通知する。中央局11は通知された曲射火器の射撃諸元情報と目標の位置情報とに基づき、後述するように曲射火器による剤を含む弾丸の射撃の効果(目標の損耗の程度)を判定する。中央局11は、射撃効果判定装置の一例である。目標用無線機13は無線ネットワーク14経由で中央局11から損耗の程度を通知されると、損耗の程度を表示や音で現示する。
【0019】
図2は、中央局の一例の構成図である。中央局11は、それぞれバスBで相互に接続されている入力装置21,出力装置22,ドライブ装置23,補助記憶装置24,主記憶装置25,演算処理装置26および無線装置27を含む構成である。
【0020】
入力装置21はキーボードやマウスなどで構成され、各種信号を入力するために用いられる。出力装置22はディスプレイ装置などで構成され、各種ウインドウやデータ等を表示するために用いられる。無線装置27は、無線ネットワーク14に接続する為に用いられる。
【0021】
本発明の射撃効果判定プログラムは、中央局11を制御する各種プログラムの少なくとも一部である。射撃効果判定プログラムは記録媒体28の配布によって提供される。射撃効果判定プログラムを記録した記録媒体28は、CD−ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的,電気的或いは磁気的に記録する記録媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記録媒体を用いることができる。
【0022】
また、射撃効果判定プログラムを記録した記録媒体28がドライブ装置23にセットされると、射撃効果判定プログラムは記録媒体28からドライブ装置23を介して補助記憶装置24にインストールされる。補助記憶装置24は、インストールされた射撃効果判定プログラムを格納すると共に、必要なファイル,データ等を格納する。後述する汚染範囲テーブル,設定パラメータテーブル,濃度区分テーブル,累積ポイントテーブル,損耗程度テーブルは例えば補助記憶装置24に格納されている。
【0023】
主記憶装置25は、起動時に補助記憶装置24から射撃効果判定プログラムを読み出して格納する。そして、演算処理装置26は主記憶装置25に格納された射撃効果判定プログラムに従って、後述するような各種処理を実現している。
【0024】
図3は曲射火器用無線機の一例の構成図である。図3の曲射火器用無線機12は、制御部31,メモリ32,入力部33,表示部34,位置標定部35および無線部36を含む構成である。
【0025】
入力部33はキーボードやマウスなどで構成され、例えば操作者による曲射火器の射撃諸元の入力に利用される。表示部34はディスプレイ装置などで構成され、例えば操作者によって入力された曲射火器の射撃諸元の表示に利用される。位置標定部35は自機の位置情報を測位する。位置標定部35は例えばGPS受信器等が上げられる。無線部36は無線ネットワーク14に接続する為に用いられる。メモリ32は操作者によって入力された曲射火器の射撃諸元,位置標定部35によって測位された位置情報を記憶する。以下では操作者によって入力された曲射火器の射撃諸元及び位置標定部35によって測位された位置情報を合わせて曲射火器の射撃諸元情報と呼ぶ。
【0026】
制御部31は曲射火器用無線機12の全体制御を行うものである。制御部31は無線部36を制御し、メモリ32に記憶されている曲射火器の射撃諸元情報を中央局11に送信する。なお、図3の曲射火器用無線機12は外部から位置情報を受信できれば、位置標定部35が無い構成も可能である。
【0027】
また、図4は目標用無線機の一例の構成図である。図4の目標用無線機13は、制御部41,メモリ42,現示部43,位置標定部44および無線部45を含む構成である。
【0028】
位置標定部44は自機の位置情報を測位する。位置標定部44は例えばGPS受信器等が上げられる。メモリ42は、位置標定部44によって測位された自機の位置情報を記憶する。無線部45は無線ネットワーク14に接続する為に用いられる。制御部41は無線部45を制御し、メモリ42に記憶されている自機の位置情報を所定時間毎に中央局11へ送信する。
【0029】
また、制御部41は無線部45を介して、中央局11から剤を含む弾丸の射撃による損耗の程度を通知される。メモリ42は、中央局11から通知された剤を含む弾丸の射撃による損耗の程度を記憶する。
【0030】
制御部41はメモリ42に記憶されている損耗の程度を現示するため、現示部43へ指示する。現示部43はLEDやスピーカ等で構成され、制御部41からの指示に応じて損耗の程度等を現示する。現示部43が行う現示とは、LEDによる発光、スピーカによる発音等を指す。なお、図4の目標用無線機13は外部から位置情報を受信できれば、位置標定部44が無い構成も可能である。また、現示部43を外部接続できるような構成としてもよい。
【0031】
図5は本発明による模擬訓練システムの使用例を表したイメージ図である。曲射火器用無線機12は操作者によって曲射火器51の射撃諸元が入力される。曲射火器用無線機12は操作者によって入力された曲射火器51の射撃諸元及び位置標定部35によって測位された位置情報を射撃諸元情報として中央局11へ送信する。射撃諸元情報には、砲の位置,方位,仰角,曲射火器の種類,弾丸の種類,剤の種類,弾丸の質量,破裂高度,発射時刻及び位置情報等が含まれる。目標用無線機13は目標52である人に取り付けられる。目標用無線機13は位置標定部44によって測位された自機の位置情報を所定時間毎に中央局11へ送信する。
【0032】
中央局11は本発明による射撃効果判定プログラムを実装している。中央局11は受信した射撃諸元情報に基づき、模擬射撃の弾道53と破裂点54とを算出する。射撃諸元情報に含まれる弾丸の種類が「化学弾丸」であれば、中央局11は弾丸が破裂した際の模擬的な汚染範囲を後述するように算出する。なお、剤の種類は射撃諸元情報に含まれるようにしてもよいし、弾丸の種類に対応付けて中央局11で記憶しておいてもよい。
【0033】
中央局11は受信した目標52の位置情報に基づき、汚染範囲内に存在する目標52を検索し、その汚染範囲における汚染の濃度及び滞在時間に応じて、汚染範囲内に存在する目標52の損耗の程度を算出する。中央局11は、算出した損耗の程度を損耗指示情報として損耗する目標52に取り付けられている目標用無線機13へ送信する。損耗指示情報を受信した目標用無線機13は、その損耗指示情報に基づき、損耗の程度を現示部43により発光や発音等で現示する。
【0034】
図5の模擬訓練システム10では、中央局11,曲射火器用無線機12,目標用無線機13からなる構成を示したが、中央局11及び曲射火器用無線機12を統合した構成も可能である。また、図5の模擬訓練システム10では中央局11,曲射火器用無線機12及び目標用無線機13を統合して、1台のコンピュータにてシミュレーションを行い、指揮統制訓練に使用することも可能である。
【0035】
図6は射撃効果判定プログラムが実装された中央局の処理手順を表したフローチャートである。図7は弾丸の破裂点と汚染範囲との関係を示したイメージ図である。
【0036】
中央局11はステップS1に進み、模擬射撃の弾道53及び破裂点54を弾道計算により算出する。例えば中央局11は射撃諸元情報として入手した砲の位置,方位,仰角,曲射火器の種類,弾丸70の種類,弾丸70の質量,破裂高度等を参照し、放物線式または修正質点弾道等の物理式で弾道53及び破裂点54を計算する。なお、計算を省略する為、中央局11は射撃諸元情報として破裂点54の位置座標を入手しても構わない。
【0037】
ステップS2に進み、中央局11は破裂点54を含むメッシュを特定し、破裂点54を含むメッシュの周囲3×3のメッシュを土壌汚染範囲71とする。ここでは一例として1メッシュあたりの広さを5m×5mとし、3×3のメッシュ(15m四方)の範囲を土壌汚染範囲71としている。
【0038】
メッシュの広さは判定を行いたい分解能とコンピュータにおける処理負荷とのトレードオフに応じて決定する。なお、土壌汚染範囲71は破裂した弾丸の種類、破裂高度に応じて予め設定した算出式やテーブルにより可変とすることも可能である。
【0039】
図8は汚染範囲テーブルの一例の構成図である。図8の汚染範囲テーブルは、破裂した弾丸70の種類毎に、剤の量,弾丸70が破裂した際の土壌汚染範囲71及び大気汚染範囲72が設定された例を表している。
【0040】
ステップS3に進み、中央局11は破裂点54を含むメッシュの周囲9×9のメッシュを大気汚染範囲72とする。ここでは一例として1メッシュあたりの広さを5m×5mとし、9×9のメッシュ(45m四方)の範囲を大気汚染範囲72としている。
【0041】
メッシュの広さは判定を行いたい分解能とコンピュータにおける処理負荷とのトレードオフに応じて決定する。なお、大気汚染範囲72は破裂した弾丸の種類、破裂高度に応じて予め設定した算出式やテーブル(例えば図8の汚染範囲テーブル)により可変とすることも可能である。
【0042】
ステップS4に進み、中央局11は、弾丸70に含まれていた剤の量及び蒸発率により土壌汚染として残る剤の量(土壌中の剤の量)及び大気汚染として大気中に拡散する剤の量(大気中の剤の量)を算出する。
【0043】
弾丸70に含まれていた剤の量は図8の汚染範囲テーブルから取得する。弾丸70に含まれていた剤の蒸発率は図9の設定パラメータテーブルから取得できる。図9は、設定パラメータテーブルの一例の構成図である。図9の設定パラメータテーブルは、破裂した弾丸70に含まれていた剤の種類毎に、剤の蒸発率,半数致死量,自然蒸発率が設定された例を表している。例えば剤の蒸発率は、剤の種類毎に、0〜1(0%〜100%)の範囲で0.01(1%)刻みで設定される。中央局11は、土壌汚染として残る剤の量及び大気中の剤の量を以下の式(1),(2)により算出する。
【0044】
土壌汚染として残る剤の量=弾丸に含まれる剤の量×(1−蒸発率)・・・(1)
大気中の剤の量=弾丸に含まれる剤の量×蒸発率・・・(2)
ステップS5に進み、中央局11は、大気中の剤の量,大気汚染範囲72及び半数致死量により大気汚染の濃度を算出し、大気汚染の濃度区分を特定する。弾丸70に含まれていた剤の半数致死量は図9の設定パラメータテーブルから取得できる。
【0045】
なお、図9の設定パラメータテーブルでは半数致死量を剤の種類毎に、例えば0〜500mg/mの範囲で1mg/m刻みで予め設定している。中央局11は、大気汚染の濃度を以下の式(3)により算出する。
【0046】
大気汚染の濃度=大気中の剤の量/大気汚染範囲/半数致死量・・・(3)
大気汚染範囲72は大気汚染範囲面積とする。メッシュで大気汚染範囲を管理している場合はメッシュ面積×メッシュ数となる。大気汚染の濃度を5区分とする場合、大気汚染の濃度区分は例えば図10に示すように定義される。図10は濃度区分テーブルの一例の構成図である。図10の濃度区分テーブルは、大気汚染の濃度ごとに、5つの濃度区分が設定された例を表している。
【0047】
ステップS6に進み、中央局11は一定時間毎に、土壌汚染として残る剤の自然蒸発率に基づき、新たに大気中に拡散する剤の量を含めた大気中の剤の量を算出する。例えば剤の自然蒸発率は、剤の種類毎に、0〜1(0%〜100%)の範囲で0.01(1%)刻みで設定される。中央局11は、新たに大気中に拡散する剤の量を含めた大気中の剤の量を以下の式(4)により算出する。
【0048】
大気中の剤の量=前回の大気中の剤の量+(土壌汚染として残る剤の量×自然蒸発率)・・・(4)
ステップS7に進み、中央局11は風向,風速,大気の安定度に基づき、大気汚染の拡散範囲を含めた大気汚染範囲72を算出する。大気の安定度は順転,中立,逆転の3区分とする。大気の安定度は、順転,中立,逆転の順に大気汚染が拡散しやすい。例えば大気の安定度は、逆転で風速を1.5倍、中立で1.0倍、順転で0.5倍となるように予め係数が設定されている。中央局11は、大気汚染の拡散距離を以下の式(5)により算出する。
【0049】
大気汚染の拡散距離=風速×経過時間×大気の安定度の係数・・・(5)
中央局11は、式(5)により算出された大気汚染の拡散距離に応じて、大気汚染の拡散範囲を算出する。図11は大気汚染の拡散範囲を表したイメージ図である。例えば図11では初期の大気汚染範囲を円110で表す。
【0050】
中央局11は、円110の中心111から風向方向に、大気汚染の拡散距離だけ進んだ地点を中心112とする円113を算出する。なお、円113の半径は大気汚染の拡散距離×A倍(Aは予め設定されている定数)等とすればよい。中央局11は、円110,円113,円110及び111の接線114,115に囲まれた範囲を、大気汚染の拡散範囲を含めた大気汚染範囲72として算出する。ステップS5〜S7の処理は一定周期で繰り返し行われる。
【0051】
図6に示した処理手順により、中央局11は大気汚染範囲72が広がるのに比例して大気汚染の濃度が低下し、いずれ消滅することを模擬できる。また、中央局11は土壌汚染として残った剤も時間経過と自然蒸発率とに応じて、大気汚染として大気中に拡散することを模擬できる。
【0052】
図12は目標の損耗の程度を算出する処理手順を表したフローチャートである。中央局11はステップS11に進み、受信した目標52の位置情報に基づき、大気汚染範囲72内に存在する目標(対象)52を一定時間毎に検索する。
【0053】
ステップS12に進み、中央局11は大気汚染範囲72の濃度区分に応じて目標52へ累積ポイントを加算する。例えば中央局11は図13に示す累積ポイントテーブルから濃度区分に応じた累積ポイントを取得できる。図13は累積ポイントテーブルの一例の構成図である。図13の累積ポイントテーブルには濃度区分と累積ポイントとが対応付けられている。
【0054】
ステップS13に進み、中央局11は目標52の累積ポイントに応じて目標52の損耗の程度を判定する。例えば中央局11は図14に示す損耗程度テーブルから目標52の累積ポイントに応じた損耗の程度(健在、軽度、中度、重度)を判定できる。図14は損耗程度テーブルの一例の構成図である。図14の損耗程度テーブルには、累積ポイントと損耗の程度とが対応付けられている。ステップS11〜S13の処理は一定周期で繰り返し行われる。
【0055】
図12に示した処理手順により、中央局11は大気汚染範囲72の濃度及び滞在時間に応じた損耗の程度の判定を模擬できる。また、中央局11は大気汚染範囲72をメッシュにて管理することで、大気汚染範囲72内に存在する目標52の検索が容易となり、コンピュータの処理負荷が軽減される。
【0056】
なお、土壌汚染範囲71にて除染活動が行われた場合、除染活動が行われた座標が入力されると、中央局11は、その座標を含むメッシュを土壌汚染範囲71から除く。除染活動が行われた座標の入力は、目標用無線機13から入力するようにしてもよいし、中央局11から入力するようにしてもよい。
【0057】
除染活動が行われた場合、土壌汚染として残る剤の量は、以下の式(6),(7)により算出する。式(7)は土壌汚染範囲71をメッシュで管理している場合に利用される。以下の式(6),(7)を利用することにより、中央局11は土壌汚染範囲71に対する除染活動の効果を模擬できる。
【0058】
土壌汚染として残る剤の量=前回の土壌中の剤の量×(除染後の土壌汚染範囲/前回の土壌汚染範囲)・・・(6)
土壌汚染として残る剤の量=前回の土壌中の剤の量×(除染後の土壌汚染範囲を構成するメッシュ数/前回の土壌汚染範囲を構成するメッシュ数)・・・(7)
従来の模擬訓練システムでは、土壌汚染と大気汚染とを区別していなかった為、剤を含んだ弾丸70が破裂した際に、土壌汚染として残る剤の量(土壌中の剤の量)及び大気汚染として大気中に拡散する剤の量(大気中の剤の量)を模擬して、以降の大気汚染の拡散範囲の算出や、濃度の算出を行うことができなかった。また、従来の模擬訓練システムでは土壌汚染に有効な除染の反映が不可能であった。
【0059】
さらに、従来の模擬訓練システムでは、汚染の濃度を考慮していなかった為、汚染範囲における汚染の濃度及び滞在時間に応じた、汚染範囲内に存在する目標52の損耗の程度を判定できなかった。
【0060】
(まとめ)
本願発明による射撃効果判定プログラムは、土壌汚染と大気汚染とを区別し、剤を含んだ弾丸70が破裂した際に、土壌汚染として残る剤の量(土壌中の剤の量)及び大気汚染として大気中に拡散する剤の量(大気中の剤の量)を模擬して、以降の大気汚染の拡散範囲の算出や、濃度の算出を行うことができる。また、本願発明の模擬訓練システムでは土壌汚染に有効な除染の反映が可能である。
【0061】
さらに、本願発明の模擬訓練システムでは、汚染の濃度を考慮している為、汚染範囲における汚染の濃度及び滞在時間に応じた、汚染範囲内に存在する目標52の損耗の程度をより正確に判定できる。従って、模擬訓練システム10やシミュレーションに使用することで、より効果的な実動訓練や指揮統制訓練が可能となる。本願発明によれば、有害汚染発生による対象の損耗の程度を正確に判定することで、剤を含む弾丸70の射撃の効果を正確に判定することができ、より実戦的な訓練が可能となる。
【0062】
本発明は、以下に記載する付記のような構成が考えられる。
(付記1)
記憶装置,演算処理装置を含むコンピュータにおいて実行される射撃効果判定プログラムであって、
前記記憶装置は、弾丸に含まれる剤の種類毎に前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルを記憶しており、
前記演算処理装置に、前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得ステップと、
前記弾丸に含まれる剤の量及び前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、前記弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出ステップと、
算出した前記土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定ステップと
を実行させる射撃効果判定プログラム。
(付記2)
前記記憶装置は、弾丸の種類毎に前記弾丸が破裂した際の土壌及び大気の汚染範囲が設定されている汚染範囲テーブルを記憶しており、
前記演算処理装置に、前記弾丸の種類に基づき前記汚染範囲テーブルから前記弾丸が破裂した際の土壌及び大気の汚染範囲を取得する汚染範囲取得ステップを更に実行させる付記1記載の射撃効果判定プログラム。
(付記3)
前記設定パラメータテーブルは、弾丸に含まれる剤の種類毎に半数致死量が更に設定されており、
前記損耗判定ステップは、前記大気中に拡散する剤の量,前記大気の汚染範囲,前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから取得した前記弾丸に含まれる剤の半数致死量から前記大気の汚染範囲における大気汚染の濃度を算出することを特徴とする付記2記載の射撃効果判定プログラム。
(付記4)
前記損耗判定ステップは、前記大気の汚染範囲における滞在時間及び前記大気汚染の濃度に応じて、前記汚染範囲に存在する対象の損耗の程度を判定することを特徴とする付記3記載の射撃効果判定プログラム。
(付記5)
前記設定パラメータテーブルは、弾丸に含まれる剤の種類毎に、前記土壌に残る剤の自然蒸発率が更に設定されており、
前記損耗判定ステップは、前記土壌に残る剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記自然蒸発率を取得し、前記自然蒸発率を用いて前記土壌に残る剤の量から所定時間毎に大気中へ拡散する剤の量を算出して、前記大気の汚染範囲における大気汚染の濃度を更新することを特徴とする付記3記載の射撃効果判定プログラム。
(付記6)
前記損耗判定ステップは、大気の安定度,風向,風速に基づき、大気汚染の拡散を考慮した前記大気の汚染範囲を算出することを特徴とする付記2記載の射撃効果判定プログラム。
(付記7)
前記損耗判定ステップは、前記汚染範囲をメッシュに区切り、前記メッシュ毎に前記対象の損耗判定を行うことを特徴とする付記1記載の射撃効果判定プログラム。
(付記8)
前記損耗判定ステップは、前記土壌に残る剤を除く除染活動が行われた位置が通知されると、前記除染活動が行われた位置を前記土壌の汚染範囲から除くことを特徴とする付記2記載の射撃効果判定プログラム。
(付記9)
目標に対する射撃の効果を判定する射撃効果判定装置であって、
弾丸に含まれる剤の種類毎に前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルと、
前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得手段と、
前記弾丸に含まれる剤の量及び前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、前記弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出手段と、
算出した前記土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定手段と
を有することを特徴とする射撃効果判定装置。
(付記10)
曲射火器の射撃諸元情報を無線にて通知する曲射火器用無線機と、前記射撃諸元情報に基づき目標に対する射撃の効果を判定する射撃効果判定装置と、前記目標に取り付けられた目標用無線機とを有するシステムにおける射撃効果判定方法であって、
前記射撃効果判定装置が前記曲射火器用無線機から前記曲射火器の射撃諸元情報を受信する射撃諸元情報受信ステップと、
前記射撃効果判定装置が、弾丸に含まれる剤の種類毎に前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルを用いて、前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得ステップと、
前記射撃効果判定装置が、前記弾丸に含まれる剤の量及び前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、前記弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出ステップと、
前記射撃効果判定装置が、算出した前記土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定ステップと、
前記射撃効果判定装置が、前記損耗が発生した目標の前記目標用無線機に前記損耗判定の結果を通知する損耗判定結果通知ステップと、
前記目標用無線機が、前記損耗判定の結果を現示する損耗判定結果現示ステップと
を有することを特徴とする射撃効果判定方法。
【0063】
本発明は、具体的に開示された実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による模擬訓練システムの一例の構成図である。
【図2】中央局の一例の構成図である。
【図3】曲射火器用無線機の一例の構成図である。
【図4】目標用無線機の一例の構成図である。
【図5】本発明による模擬訓練システムの使用例を表したイメージ図である。
【図6】射撃効果判定プログラムが実装された中央局の処理手順を表したフローチャートである。
【図7】弾丸の破裂点と汚染範囲との関係を示したイメージ図である。
【図8】汚染範囲テーブルの一例の構成図である。
【図9】設定パラメータテーブルの一例の構成図である。
【図10】濃度区分テーブルの一例の構成図である。
【図11】大気汚染の拡散範囲を表したイメージ図である。
【図12】目標の損耗の程度を算出する処理手順を表したフローチャートである。
【図13】累積ポイントテーブルの一例の構成図である。
【図14】損耗程度テーブルの一例の構成図である。
【符号の説明】
【0065】
10 模擬訓練システム
11 中央局
12 曲射火器用無線機
13 目標用無線機
14 無線ネットワーク
21 入力装置
22 出力装置
23 ドライブ装置
24 補助記憶装置
25 主記憶装置
26 演算処理装置
27 無線装置
31 制御部
32 メモリ
33 入力部
34 表示部
35 位置標定部
36 無線部
41 制御部
42 メモリ
43 現示部
44 位置標定部
45 無線部
51 曲射火器
52 目標
53 弾道
54 破裂点
70 弾丸
71 土壌汚染範囲
72 大気汚染範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶装置,演算処理装置を含むコンピュータにおいて実行される射撃効果判定プログラムであって、
前記記憶装置は、弾丸に含まれる剤の種類毎に前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルを記憶しており、
前記演算処理装置に、前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得ステップと、
前記弾丸に含まれる剤の量及び前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、前記弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出ステップと、
算出した前記土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定ステップと
を実行させる射撃効果判定プログラム。
【請求項2】
前記記憶装置は、弾丸の種類毎に前記弾丸が破裂した際の土壌及び大気の汚染範囲が設定されている汚染範囲テーブルを記憶しており、
前記演算処理装置に、前記弾丸の種類に基づき前記汚染範囲テーブルから前記弾丸が破裂した際の土壌及び大気の汚染範囲を取得する汚染範囲取得ステップを更に実行させる請求項1記載の射撃効果判定プログラム。
【請求項3】
前記設定パラメータテーブルは、弾丸に含まれる剤の種類毎に半数致死量が更に設定されており、
前記損耗判定ステップは、前記大気中に拡散する剤の量,前記大気の汚染範囲,前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから取得した前記弾丸に含まれる剤の半数致死量から前記大気の汚染範囲における大気汚染の濃度を算出することを特徴とする請求項2記載の射撃効果判定プログラム。
【請求項4】
目標に対する射撃の効果を判定する射撃効果判定装置であって、
弾丸に含まれる剤の種類毎に前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルと、
前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得手段と、
前記弾丸に含まれる剤の量及び前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、前記弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出手段と、
算出した前記土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定手段と
を有することを特徴とする射撃効果判定装置。
【請求項5】
曲射火器の射撃諸元情報を無線にて通知する曲射火器用無線機と、前記射撃諸元情報に基づき目標に対する射撃の効果を判定する射撃効果判定装置と、前記目標に取り付けられた目標用無線機とを有するシステムにおける射撃効果判定方法であって、
前記射撃効果判定装置が前記曲射火器用無線機から前記曲射火器の射撃諸元情報を受信する射撃諸元情報受信ステップと、
前記射撃効果判定装置が、弾丸に含まれる剤の種類毎に前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率が設定されている設定パラメータテーブルを用いて、前記弾丸に含まれる剤の種類に基づき前記設定パラメータテーブルから前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率を取得する蒸発率取得ステップと、
前記射撃効果判定装置が、前記弾丸に含まれる剤の量及び前記弾丸が破裂した際の剤の蒸発率に基づいて、前記弾丸が破裂した際、土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量を算出する剤の量算出ステップと、
前記射撃効果判定装置が、算出した前記土壌に残る剤の量及び大気中に拡散する剤の量に基づいて、汚染範囲に存在する対象について損耗判定を行う損耗判定ステップと、
前記射撃効果判定装置が、前記損耗が発生した目標の前記目標用無線機に前記損耗判定の結果を通知する損耗判定結果通知ステップと、
前記目標用無線機が、前記損耗判定の結果を現示する損耗判定結果現示ステップと
を有することを特徴とする射撃効果判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−267663(P2008−267663A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109360(P2007−109360)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)