説明

導波管フィルタ

【課題】大電力に対しても対応することができて、不要な帯域の電磁波を除去することができる導波管フィルタを提供する。
【解決手段】広壁部と狭壁部とからなる矩形導波路断面形状をなす方形導波管からなり、その中央部16に、その導波路断面を塞ぐようにして、管軸方向に対して垂直に複数の誘電体板24、26、28、30が間隔をあけて配置され、該複数の誘電体板によって阻止帯域のTEm0モード(m≧1)の通過を阻止するようにすると共に、中央部16は、その狭壁部の寸法が他の部分の狭壁部の寸法よりも小さくなった導波路断面形状を有し管軸方向に所定長さを持ったカットオフ部となっており、カットオフ部は、前記阻止帯域のTEmnモード及びTMmnモード(m≧1、n≧1)を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方形導波管回路において、不要な帯域の電磁波を除去する導波管フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な導波管フィルタとしては、コルゲート型、ワッフルアイアン型等の高調波を抑制するフィルタが知られている。
【0003】
コルゲート型フィルタとしては、例えば特許文献1に記載され、または図9に示す構成をしており、方形導波管の上下の内面にそれぞれ、互いに接近するように突出し、管軸に直交する方向に延びる凸部が形成されており、管軸方向に隣り合う凸部同士の間に複数のコルゲート溝が周期的に形成されている。
【0004】
また、ワッフルアイアン型フィルタとしては、例えば特許文献2または非特許文献1に記載され、または図10に示す構成をしており、方形導波管の上下の内面に複数の四角柱状の凸部が互いに接近するように突出して形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−78601号公報
【特許文献2】実開昭61−68502号公報
【非特許文献1】E.D.Sharp."A High-Power Wide-Band Waffle-Iron Filter" IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques (Mar. 1963), p.111-116
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のコルゲート型フィルタやワッフルアイアン型フィルタにおいては、導波管の上下の内面に形成された金属の凸部が互いに接近するために、基本モードであるTE10モードの電界強度が大きくなり易い。そのためにレーダの導波管に用いられる場合のように大電力を通過させる場合には、放電が発生するという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、大電力に対しても対応することができて、不要な帯域の電磁波を除去することができる導波管フィルタを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明のうち、請求項1記載の発明は、広壁部と狭壁部とからなる矩形導波路断面形状をなす方形導波管からなり、所定の阻止帯域の電磁波の通過を阻止する導波管フィルタであって、
導波路断面を塞ぐようにして、管軸方向に対して垂直に複数の誘電体板が間隔をあけて配置され、該複数の誘電体板で前記阻止帯域のTEm0モード(m≧1)の通過を阻止すると共に、
狭壁部の寸法が他の部分の狭壁部の寸法よりも小さくなった導波路断面形状を有し管軸方向に所定長さを持ち、前記阻止帯域のTEmnモード及びTMmnモード(m≧1、n≧1)を遮断するカットオフ部が設けられることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の前記カットオフ部におけるTEmnモード及びTMmnモード(m≧1、n≧1)の遮断周波数が、前記阻止帯域の上限周波数よりも高いことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記誘電体板が3個以上配置され、その隣合う2つの誘電体板の間隔のうちの少なくともいずれか2つの間隔は異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘電体板を挿入することによりステップインピーダンス型ローパスフィルタを構成することにより、所定の阻止帯域のTEm0モードの電磁波の通過を阻止することができると共に、カットオフ部によって、TEmnモード及びTMmnモード(m≧1、n≧1)の通過を遮断することができる。
【0012】
カットオフ部の狭壁部の寸法は、放電の発生のない程度に大きくすることができ、且つカットオフ部は、管軸方向の所定長さに亘り且つ広壁部方向に亘り、寸法を均一にすることができるので、大電力通過時においても、放電の発生を抑えることができ、耐電力性を向上させることができる。
【0013】
誘電体板の間隔を全て同一とせずに、適宜異ならしめることにより、阻止帯域に亘り適合したものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1及び図2は、本発明の導波管フィルタの構成を表す図である。
【0015】
図において、導波管フィルタ10は、方形導波管回路に適用可能なように方形導波管となっており、その両端に位置する入出力部12、12と、入出力部12,12にそれぞれ連続するテーパー部14、14と、テーパー部14、14の間に位置しカットオフ部でもありローパス部でもある中央部16、16とからなる。
【0016】
入出力部12、12は、その導波路断面形状が広壁部と狭壁部とからなる矩形形状を成し、その寸法は、導波管フィルタ10が接続される方形導波管の内幅寸法(a×b)に一致している。
【0017】
テーパー部14、14は、入出力部12、12と中央部16とを連続的に接続するために設けられており、その導波路断面形状が広壁部と狭壁部とからなる矩形形状を成し、その広壁部の幅寸法は入出力部12と同じaであるが、狭壁部の幅寸法が、bからcへと、入出力部12側から中央部16側に向かって漸次小さくなるようになっている(b>c)。但し、漸次変化するテーパー部とする代わりに、段階的に変化するステップ部とすることも可能である。
【0018】
中央部16は、その導波路断面形状が広壁部と狭壁部とからなる矩形形状を成し、その広壁部の幅寸法は入出力部12及びテーパー部14の幅寸法aと同じであるのに対して、狭壁部の幅寸法cは、入出力部12の幅寸法bよりも小さいものとなっている。
【0019】
中央部16は、一端が対応するテーパー部14に繋がりフランジ16aが他端に形成された両側部分と、該両側部分のフランジ16a、16aの間で管軸方向に重ね合わされた複数の枠状の導体部品18、20、22とを有しており、フランジ16a、導体部品18、20、22の間に複数の誘電体板24、26、28、30が支持される。
【0020】
各誘電体板24〜30は、管内の断面を塞ぐようにして管軸に対して垂直に配置されており、その外形形状は、中央部16の管内形状にほぼ一致した広幅部と狭幅部とからなる矩形状となっている。そして、各誘電体板24〜30は、後述のTEm0モードに影響のないように、その狭幅部において前記フランジ16a、導体部品18〜22のいずれか2つに挟まれたサンドイッチ構造となっている。
【0021】
ここで、誘電体板の数は任意であり、4枚に限るものではない。また、誘電体板の間隔は全て同一としてもよいが、この例では、誘電体板24、26の間隔d1と、誘電体板28、30との間隔d1とが等しく、誘電体板26、28の間隔d2は間隔d1と異なるように設定されている。また、誘電体板の厚みも全て同一としてもよいが、少なくとも2つの誘電体板で異なるものとすることができ、誘電体板の比誘電率も全て同一としてもよいが、少なくとも2つの誘電体板で異なるものとすることができる。
【0022】
今、基本周波数f0のマイクロ波を発生するパルスマグネトロンのようなマイクロ波発生源からのマイクロ波を方形導波管で伝搬させるのに際して、その高調波、例えば2倍波、及び高調波以外の基本周波数f0から高調波までの間に発生するスプリアスを導波管フィルタ10によって抑圧することを考える。
【0023】
TEm0モードについては、導波管フィルタ10の誘電体板24〜30によってステップインピーダンス型ローパスフィルタの考え方に基づき、スプリアスを除去する。ステップインピーダンス型ローパスフィルタは、一般的な直列接続されたインダクタと並列接続されたキャパシタによって構成されるローパスフィルタを、伝送線路で置き換えたものである。誘電体板24〜30を間隔をあけて配置することにより、誘電体板で構成される低インピーダンス線路と無垢の導波管部分の高インピーダンス線路とが交互に縦列接続することと等価になり、ローパス特性を得ることができる。導波管の場合、周波数と位相定数が非線形の関係になるため、計算式で最適な設計を行うのは困難であるので、間隔等の構造値は、シミュレータを用いて最適化するとよい。この際、間隔を一律としないことにより、阻止帯域に亘り適合したものとすることができる。
【0024】
また、誘電体板24〜30の厚みは、間隔d1とd2に比べて小さくするとよい。
【0025】
一方、TEm1モード以上またはTMm1モード以上の高次モードについては、中央部16において、狭壁部の寸法cをbよりも小さくして、遮断周波数を上げることで、遮断周波数を阻止帯域の上限周波数よりも高くする。この狭壁部の寸法が小さくなった中央部16の管軸方向長さは、基本周波数の管内波長をλg0とすると、λg0以上、好ましくは、誘電体板の両側にそれぞれ1/2・λg0程度の長さがあると好ましいので、{平均誘電体間隔×(誘電体枚数−1)}+λg0程度またはそれ以上とするとよい。
【0026】
以上の中央部16における主にTEm0モードに対するローパスフィルタ機能と、高次モードに対するカットオフ機能とを組み合わせることによって、阻止帯域の通過を効果的に阻止することができるようになる。また、中央部16の狭壁部の寸法cは、放電の発生のない程度に大きくすることができ、且つ中央部16はその広壁部方向及び管軸方向において寸法が均一となっているために、放電が発生しにくい構成とすることができる。
【0027】
以下、比較例と実施例を挙げて、その作用・効果を説明する。
【0028】
(比較例1)
基本周波数13.75GHz、50kWのパルスマグネトロンからのマイクロ波に対して、WRJ140規格寸法(a×b=15.8mm×7.9mm)の導波管を用い、導波管フィルタ10を全く設けない場合の通過特性を実測した。通過特性は、図5に示すようになり、基本周波数13.75GHzからその2倍波27.5GHzまでの間において、20GHzから26GHzの間にスプリアスが発生していることが分かる。この20GHzから26GHzを阻止帯域とする。
【0029】
(比較例2)
基本周波数13.75GHz、50kWのパルスマグネトロンからのマイクロ波に対して、WRJ140規格寸法(a×b=15.8mm×7.9mm)の導波管を用い、比較の導波管フィルタとして、図6に示すように、狭壁部の幅寸法bを変化させずに、複数の誘電体板24〜30だけを設けた導波管フィルタを用いた。
【0030】
この場合、誘電体板24、30の比誘電率を6.15とし、誘電体板26、28の比誘電率を10.2とし、その厚みは0.6mmとした。また、誘電体板24と26の間隔、26と28の間隔、28と30の間隔をそれぞれ4.3mm、4.7mm、4.3mmとした。
【0031】
この比較の導波管フィルタの実測の通過特性を図7、TE10モードの通過及び反射特性のHFSS(high Frequency Structure Simulator)で解析した結果を図8に示す。図8に示すように、阻止帯域においてTE10モードの阻止効果はあり、比較例1に対して、阻止帯域のスプリアスの一部が低減されるものの、完全に除去されていないことが分かる。
【0032】
(実施例)
基本周波数13.75GHz、50kWのパルスマグネトロンからのマイクロ波に対して、WRJ140規格寸法(a×b=15.8mm×7.9mm)の導波管を用い、本発明による導波管フィルタ10の通過特性を実測した。
【0033】
この場合、誘電体板24、30の比誘電率を6.15とし、誘電体板26、28の比誘電率を10.2とし、その厚みは0.6mmとした。また、誘電体板24と26の間隔、26と28の間隔、28と30の間隔をそれぞれ4.3mm、4.7mm、4.3mmとした。
また、中央部16の狭壁部の寸法cは、5mmとした。
【0034】
実測の通過特性を図3に、TE10モード及びTE20モードについてHFSSで解析したシミュレーション結果を図4に示す。阻止帯域である20GHzから26GHzの通過が抑圧されていることが分かる。
また、放電音の発生も無かった。
【0035】
WRJ140規格寸法の導波管における各モードに対する遮断周波数(GHz)は次の通りである。
【0036】
【表1】

【0037】
上記表から明らかなように、前記阻止帯域である20GHzから26GHzに対してTE10モード、TE20モード、TE01モード、TE11モード、TM11モードが伝搬可能となっている。
【0038】
TE10モード及びTE20モードに着目すると、図4に示すように阻止帯域の通過が抑圧されており、これは図8の類推から、誘電体板を挿入したことによるステップインピーダンス型ローパスフィルタの効果によるものと考えられる。
【0039】
残りの高次モードに対しては、中央部16の狭幅部の寸法をc=5mmとすることにより、遮断周波数(GHz)は次表のようになり、TE01モードの遮断周波数=30GHz>阻止帯域の上限周波数(26GHz)となるので、高次モードの通過を阻止することができることが分かる。
【0040】
【表2】

【0041】
以上の構成により、主にTEm0モードに対するローパスフィルタ機能と、高次モードに対するカットオフ機能とを組み合わせることによって、大電力通過に適し、高次モードにも対応した導波管フィルタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の導波管フィルタの斜視図である。
【図2】(a)は本発明の導波管フィルタの正面図、(b)は断面図である。
【図3】本発明による導波管フィルタの実測通過特性を表すグラフである。
【図4】本発明による導波管フィルタのTE10モード及びTE20モードについてのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5】比較例1における実測通過特性を表すグラフである。
【図6】比較例2による導波管フィルタの構成を表す斜視図である。
【図7】比較例2における実測通過特性を表すグラフである。
【図8】比較例2における導波管フィルタのTE10モードについてのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図9】従来のコルゲート型フィルタの構成を表す(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図10】従来のワッフルアイアン型フィルタの構成を表す(a)は正面図、(b)は断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 導波管フィルタ
16 中央部(カットオフ部、ローパス部)
24、26、28、30 誘電体板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広壁部と狭壁部とからなる矩形導波路断面形状をなす方形導波管からなり、所定の阻止帯域の電磁波の通過を阻止する導波管フィルタであって、
導波路断面を塞ぐようにして、管軸方向に対して垂直に複数の誘電体板が間隔をあけて配置され、該複数の誘電体板で前記阻止帯域のTEm0モード(m≧1)の通過を阻止すると共に、
狭壁部の寸法が他の部分の狭壁部の寸法よりも小さくなった導波路断面形状を有し管軸方向に所定長さを持ち、前記阻止帯域のTEmnモード及びTMmnモード(m≧1、n≧1)を遮断するカットオフ部が設けられることを特徴とする導波管フィルタ。
【請求項2】
前記カットオフ部におけるTEmnモード及びTMmnモード(m≧1、n≧1)の遮断周波数が、前記阻止帯域の上限周波数よりも高いことを特徴とする請求項1記載の導波管フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体板は3個以上配置され、その隣合う2つの誘電体板の間隔のうちの少なくともいずれか2つの間隔は異なることを特徴とする請求項1または2記載の導波管フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−267540(P2009−267540A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111853(P2008−111853)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000003388)東京計器株式会社 (103)
【Fターム(参考)】