説明

導波路およびそれを用いた電子部品

【課題】送受信素子による無線接続において、混信や不要電磁波の抑制を可能とする熱伝導性の良好な導波路および電子部品を提供する。
【解決手段】基材30に設けられた貫通孔もしくは非貫通孔の内壁表面に導電体層100を有し、該金属層の内壁上に誘電体層200を有し、該誘電体層の内壁上に電磁波吸収層300を有した導波路孔構造の導波路および送受信素子10,11が搭載された半導体チップ間またはチップ自身に該導波路を設けた電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置、特に半導体集積回路チップを多層に積層して形成される3次元実装のチップ間やチップと基板間または基板と基板間における送受信素子であるインダクタやキャパシタのカップリングによる無線接続による導波路および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は、一般に微細化・高集積化が進むにつれて次々と周辺回路を半導体ICチップ内部に組み込まれて、高性能化していく傾向にある。さらなる小型化や高速化の要求から基板と基板間や半導体チップと基板間のみならず、総合的なシステムを一つのパーッケージに集約することが要求されている。
【0003】
近年においては、半導体チップを重ねた三次元集積システムにおいて、複雑なチップ間配線や高度な位置合せが必要であったが、送受信素子であるインダクタやキャパシタ等のカップリングを用いた無線接続方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
その一つであるインダクタによる無線接続では、例えば、半導体チップにスパイラルインダクタを形成し、複数のチップ間における信号伝送をインダクタのカップリングによる無線接続するシステムであり、高速伝送と高集積化が図れるものと期待されている。
【0005】
このシステムには大きく二つのタイプがあり、一つはグローバル接続と称されており、マイクロ波を使って、隣接するチップ間を超えて三次元の送受信素子配置による通信に用いられる。
もう一つは、向かい合う複数のチップ間、基板−チップ間、基板−基板間での多重並列パスを実現する二次元の送受信素子配置によるローカル接続と称されている。すなわち、グローバル接続は、全てのチップや基板へのブロード・キャストやグローバル制御などに利用できる。
一方、ローカル接続は、多重並列構造によりデータ通信バンド幅を大きくすることが可能であり、二次元配置の情報などのデータ通信に利用される。
しかし、このローカル接続においては、隣接するインダクタとの混信や基板の誘電体層を介して不要電磁波(すなわち、ノイズ)の伝播が大きな問題となっている。
【0006】
上記の問題に対して、インダクタへの基板―誘電体層を介した不要電磁波伝播量を低減させるとともにインダクタとの間の寄生容量を小さく抑えてインダクタの特性劣化を防止する方法として、特許文献1では、インダクタの周囲にメタル接地配線と複数の接地スルーホールを複数のチップ間を貫通して配置し、最下層のメタル接地層に接続して、インダクタを囲い込んだシールド構造が知られている。
【0007】
しかし、この場合には接地スルーホール群の配線に要する相応なスペースが必要であり、インダクタ間のピッチが小さくできない。また、シールド構造であるため外部からの不要電磁波の侵入は抑制、防止できるものの、接地スルーホール群で囲い込んだ内部では信号電磁波の自己反射による不要電磁波が発生し、混信する問題を避けられない。
この自己反射による不要電磁波の問題を回避するためには、制御回路等を付設する対応が必須であり高速伝送が望めないものとなっている。
【0008】
さらに、このインダクタ等のカップリングを用いた無線接続方法では、エネルギー消費が大きくなるために発熱問題があり放熱方法なども検討されてきている。
【特許文献1】特開2003−68862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インダクタおよびキャパシタ等の送受信素子による無線接続において、隣接する送受信素子との混信や基板の誘電体層を介して伝播される不要電磁波と、高速な無線接続のための、対向する送受信素子の信号電磁波の自己反射による不要電磁波を抑制する導波路を目的とする。
また、本発明は、送受信素子の配置ピッチの微小化と高密度実装および高速伝送を目的とし、また、送受信素子による無線接続の消費電力の増大に伴う熱膨張率の差による接続ピッチづれやシステム内部の蓄熱の放熱を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の導波路は、貫通孔または非貫通孔(以下、これらを導波路孔とも記す)が形成された誘電体基材と、該貫通孔または非貫通孔の内壁上に設けられた導電体層と、該導電体層の内壁上に設けられた誘電体層と、
該誘電体層の内壁上に設けられた電磁波吸収層とを有することを特徴とする。
本発明の導波路は、貫通孔が形成された導電体基材と、該貫通孔(以下、導波路孔とも記す)の内壁上に設けられた誘電体層と、該誘電体層の内壁上に設けられた電磁波吸収層とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の導波路においては、導電体は、非磁性金属であることが好ましい。
電磁波吸収層は、金属材料または導電性セラミックスを含む、厚さ5〜200nmの層であることが好ましい。
基材の表面に被覆層を有し、前記被覆層が、粘着剤または接着剤またはゲル状物質からなることが好ましい。
【0012】
本発明の導波路を用いた電子部品は、導波路が、送受信素子の搭載された複数の半導体チップ間または回路基板間に配置されていることが好ましい。
本発明の導波路を用いた電子部品は、導波路が、送受信素子の搭載された半導体チップまたは回路基板の基材に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
半導体チップ間、基板間、チップと基板間での電磁的なカップリングによる無線接続において、本発明の導波路が、複数の対向する送受信素子の間隙に配置されることで、ローカル接続の送受信素子間の中心付近を直進通過する信号となる電磁波は、抑制、吸収されることなく、隣接あるいは他の部位の送信素子から全方位に発せられる不要電磁波およびチップや基板の誘電体層や誘電体層等を介して伝播される不要電磁波を抑制、減衰させることで混信を防止する効果が発現される。
【0014】
すなわち、導波路孔の内壁上に設けられたグランド層と誘電体層と電磁波吸収層の3層構成において、電磁波吸収層に入射する不要電磁波を抑制、減衰させるものであり、外部からの不要電磁波および自己の反射による不要電磁波が受信素子に到達してしまうことによる混信の防止や不要な伝播される電磁波を抑制、減衰させる効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の導波路およびそれを用いた電子部品の実施形態例を説明する。
【0016】
図1は、本発明の導波路の導波路孔が誘電体基材に設けられたものを示す。誘電体基材30に設けられる導波路孔20は、その内壁上に導電体層100と、その内壁上に誘電体層200を有し、該誘電体層200の内壁上の少なくとも一部に電磁波吸収層300を有する。電磁波吸収層300は誘電体層200を介して浮遊された構造となっている。導電体層100は、誘電体基材30に設けられた回路配線40に接続され回路グランドに配線されている。導波路は、対向する送受信素子(以下、これらを送信インダクタ、受信インダクタと示すこともある)10,11の間隙に1対1で配置されている。
【0017】
図2に、本発明の導波路の導波路孔が導電体基材に設けられたものを示す。導電体基材35に設けられる導波路孔20は、その内壁上に誘電体層200を有し、該誘電体層200の内壁上に電磁波吸収層300を有する。送受信素子10、11は、該導波路孔20を挟持するように配置されている。電磁波吸収層300は誘電体層200を介して導電体基材35から電気的に浮遊された構造となっている。導電体基材35は、回路のグランドに接続されている。
【0018】
図3に、本発明の導波路の一例の断面模式図を示す。
導波路孔20は、貫通孔であっても、非貫通孔であってもよく、(3−a)は、導波路孔が貫通孔であり、基材が誘電体基材30のものである。(3−b)は、導波路孔20が貫通孔であり、基材が導電体基材35のものである。(3−c)は、導波路孔20が非貫通孔であり、基材が誘電体基材30のものである。導波路孔の内面に、グランド接続した導電体層100または導電体基材35とその内壁上に誘電体層200を介して電磁波吸収層300が形成されていれば、上記の構成に限定されるものではない。
【0019】
図4に、導波路孔が基材に対して垂直孔でないものを例示した。
すなわち、導電体層100、誘電体層200、電磁波吸収層300が設けられた導波路孔20は対向する送受信素子間に置かれればよく、送受信素子の位置関係に対応した傾斜のある導波路孔であってもよい。また不要電磁波の抑制、減衰効果を高めるために、送信側と受信側の孔径や形状が異なったり、導波路孔20の内壁上に凹凸形状を持った不定形状であっても良い。
(4−a)(4−a’)は、導波路孔20が傾斜している構成である。(4−b)(4−b’)は、導波路孔が錐形状のものである。(4−c)(4−c’)は、導波路孔が不定形状のものである。
【0020】
図5には、導波路孔20の平面形状が円形状、矩形形状やその他の任意形状の構成を例示した。(5−a)は誘電体基材30に設けられる導波路孔が円形状である。(5−a’)は導電体基材35に設けられる導波路孔20が円形状である。(5−b)は誘電体基材30に四角形状の導波路孔20、(5−b’)は導電体基材35に四角形状の導波路孔20である。(5−c)は絶縁基材30に不定形状の導波路孔20、(5−c’)は導電体基材35に不定形状の導波路孔20の構成である。
導波路孔の形状は、送受信素子の形状に対応した任意形状でよいが、不要電磁波の抑制、減衰の効率の良い形状とすることが好ましい。電磁波吸収層300が信号層受信の中心から等距離にある円形状の導波路孔は好ましい形状である。また、加工技術の面からも経済的な形状としては、円形状の導波路孔が好ましい。送受信素子の配列や不要電磁波抑制効果や経済的な製造方法によってその形状を設計すればよい。
【0021】
図6には、基材の表面に導電体層100、誘電体層200、電磁波吸収層300が設けられたものを例示する。
電磁波吸収層300は導電体層100や導電体基材35とは誘電体層200を介して絶縁性が確保され、浮遊状態の配置である。
(6−a)は、誘電体基材30に導波路孔20があり、導波路孔および誘電体基材30の表面においても導電体層100、誘電体層200、電磁波吸収層300が順次形成されたものである。(6−a’)は、基材が導電体基材35であって、導波路孔および基材表面にも誘電体層200、電磁波吸収層300が順次形成されたものである。(6−b)は、(6−a)の構成で誘電体基材30の表裏両面に導電体層100、誘電体層200、電磁波吸収層300が順次形成されたものである。(6−b’)は、(6−b)の構成で表裏両面に誘電体層200、電磁波吸収層300が順次形成されたものである。
基材表面においてもグランドに接続された導電体層100または導電体基材35とその内壁上に誘電体層200を介して電磁波吸収層300が形成されているものでは、その構成に基材表面においても、不要電磁波の抑制効果が発揮させるものとなる。
本発明の導波路の構成は、導波路孔において上記の構成がなされ、基材表面においても上記の構成であれば上記の例示に限定されるものではない。
【0022】
図7には、導波路孔20の中心内部に誘電体50を設けた構成を例示する。
中心部位に設けられる誘電体50は、導波路孔の少なくとも一部に設けられるものであれば良い。この誘電体50は、電磁波吸収層300の表面を保護するものとして有効であるとともに、送受信素子間に配置する場合に空隙をなくすことで、空気断熱の防止や結露空隙を埋設する等の効果が期待できる。
【0023】
図8には、本発明の導波路の基材の表面の少なくとも一部に被覆層400が設けられたものを例示する。被覆層400は、送受信素子が搭載された半導体チップや基板と導波路孔の設けられた基材とを積層挟持して固定する中間部材である。導波路が設けられた基材を固定する被覆層400は、誘電体であることが好ましく、導波路孔を設けた基材の表面の回路配線や送受信素子が搭載されたチップや基板の回路配線などとの絶縁性を確保する。この被覆層400は、一面にあっても、点在する構成であっても良く、さらには、固定する半導体チップのリペアが可能となるように可撓性や粘着性を有するものであっても良い。
また、導波路孔が設けられた基材と送受信素子が搭載された半導体チップや回路基板との間で密着性を良好とするゲル状物質を被覆層400とすることも好ましい。
【0024】
本発明の導波路を用いた電子部品は、導波路が送受信素子の搭載された複数の半導体チップ間または回路基板間に配置されていることが好ましい。
本発明の導波路を用いた電子部品の一例を図9に示す。
上段目半導体チップ14には半導体回路群13aと送受信素子10が配列形成され、その下層に導波路25群が形成された誘電体基材30が被覆層400である粘着剤層を介して、中段の半導体回路群13bと送受信素子11が形成された半導体チップ15が配置され、その下層に導波路25群が形成された誘電体基材30が被覆層400である粘着剤層を介して下段の半導体回路群13cと送受信素子12が形成された半導体チップ16が配置されていることが好ましい。このとき、送受信素子10、11、12間を伝搬する電磁波の進行方向に、導波路25群の軸方向が沿うように配置されることが好ましい。送受信素子によって、3枚の半導体チップにおいて無線接続によるローカル接続が可能な電子部品となっている。
【0025】
図10には、別構成の本発明の導波路を用いた電子部品を模式展開図で示した。
本発明の電子部品は、複数の半導体回路群と送受信素子10が配列された半導体チップ14と半導体チップ15の間隙に、導波路25群が形成された誘電体基材30の表裏に被覆層400を介して挟持されている本発明の導波路を用いることが好ましい。
本発明の導波路を用いた電子部品は、上記の構成形状に限られるものではなく、送受信素子間に本発明の導波路が配置されている電子部品であれば良い。
【0026】
本発明の導波路を用いた電子部品は、導波路が、送受信素子の搭載された半導体チップまたは回路基板の基材に設けられていることが好ましい。図11には、送受信素子10の設けられた半導体チップ14そのものに本発明の導波路が形成された電子部品の例が示されている。送受信素子10の直下に本発明の導電体層100、誘電体層200、電磁波吸収層300が設けられた導波路孔20が設けられた構成である。
送受信素子の搭載された半導体チップに本発明の導波路が一体化されるのが電子部品として好ましい構成である。なぜなら、熱膨張率の違い等によるピッチづれが発生せず、部品数を制限できるからである。
さらに、送受信素子間の距離が縮められることによって、送受信エネルギーを低減するとともに半導体チップの積層厚みを小さくする構成として好ましい。
【0027】
このように、導波路が集積回路と送受信素子が搭載された半導体チップ基材または基板そのものに設けられる場合には、送受信素子10の配列ピッチに対応した導波路となり位置ずれを発生しないものとなる。
【0028】
図12には、一組の送受信素子10に対して、複数の導波路25が配置されたものを例示する。複数の導波路が送受信素子に対して存在することで、送受信素子10と導波路孔の位置あわせが容易となるものとして好ましい。
【0029】
このように、導波路孔が送受信素子の配列に1対多数の構成となるものは、配列ピッチのずれを考慮せずに配置することができる。
【0030】
図13に示すように、導波路が形成される基材が誘電体基材30の場合に、導波路の内壁上に電磁波吸収層300、誘電体層200、グランドに接続される導電体層100を形成してあり、その導電体層100の内壁上に誘電体層200を形成し、その上に電磁波吸収層300を形成した構成の導波路であってもよい。
つまり、導電体層を挟んで、内側と外側の両側で誘電体層と電磁波吸収層が形成されたものであり、導波路の側面から入射される不要な電磁波を反射するのではなく、減衰、吸収させる機能が発揮できる。
誘電体基材30の表裏の両面に導電体層100と誘電体層200と電磁波吸収層300を形成した構成であれば、導波路の側面からの不要な電磁波の進入はないものであるので、両側の電磁波吸収の構成は必要がない。
また、基材が導電体基材であれば、同様に両側の電磁波吸収の構成は必要がない。
【0031】
さらに本発明の導波路を詳しく説明する。
<導波路孔>
導波路孔は、基材を貫通していても貫通していなくてもよく、後述の不要電磁波抑制効果を発揮するためには、送受信の電磁波の進行方向に沿って導波路孔の壁面が好ましくは3μm以上の深さで形成されればよく、電磁波の進行方向の断面形状は、円形状に限定されずに正方形や長方形等の矩形、さらには送受信素子のインダクタの配線形状の相似形状、不定形状であってもよい。また、導波路孔の断面形状が、一定でなくてもよく、徐々に導波路孔の径が拡大されたり、縮小されたり、拡大縮小が繰り返される形状や階段状の段差を有する形状であってもよい。
【0032】
また、導波路孔の内壁は、平滑であっても粗面であっても良い。後述する電磁波吸収層300の表面積を大きくなるような凹凸やジグザグな壁面形状であっても良い。
すなわち、送受信素子の信号伝送の電磁波の進行を妨げずに、その進行方向の周囲にグランドに接続される導電体層100もしくは導電体基材35と誘電体層200と電磁波吸収層300の構成が、導波路孔の内壁に形成される導波路形状であればよい。
【0033】
また、導波路孔の断面の内径距離は、送受信素子の外形寸法よりも小さくても良く、送受信素子のカップリング中心部をほぼ直進して無線接続に寄与する信号伝送部位が存在すればよい。
【0034】
さらに、一組の送受信素子に対して、一つの導波路であっても、複数個の導波路群であってもよい。複数個の導波路であっても、その複数の導波路孔の中心部においては信号伝送の電磁波の進行を妨げずに通過する構成であるため無線接続が可能である。
【0035】
導波路孔の中心内部は、中空もしくは、中空の一部が誘電体で埋まっているものであってもよく、送受信素子の信号伝送の電磁波は、誘電体を貫通直進することによって無線接続を可能とするものである。
この誘電体の比誘電率は、高いものほど無線接続の結合に有効であり、比誘電率が2以上のものが好ましい。さらには、2.5以上がより好ましい。
この導波路孔の形成方法は、加工形状、大きさ、材料の種別にあった通常の方法を用いることができる。機械的な掘削であるドリル加工や基材によっては、エッチング加工、レーザー加工などが挙げられる。また、半導体のチップ基材等であれば、シリコンプロセスによるMEMS技術による微細加工が用いられれば良い。その他、記述の方法には限定されず、基材に適合した加工方法を選定すればよいものである。
【0036】
<誘電体基材>
誘電体基材は、導波路孔が形成される基材であり、誘電体材料であれば、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。
無機材料としては、ガラスや酸化アルミニウム、窒化ケイ素などのセラミックス、発泡セラミックス等が挙げられる。
有機材料としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリシラザン、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン等の樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム、ブチル系ゴム、エチレンプロピレンギム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等であってもよく、その未硬化物であってもよい。また上記樹脂、ゴム等の変性物、混合物、共重合体であってもよい。本発明の抑制機能付き導波路の導波路孔を形成することが容易な材料であることが好ましく、加工方法に適した材料を選択すればよい。
【0037】
半導体チップの送受信では、その消費電力が1mWを超えるシステムもあり、放熱対策の必要があるが、有機材料の樹脂中に熱伝導性の窒化ボロン等の熱伝導性物が混練された混合物や酸化アルミニウム(Al)、酸化ベリリウム(BeO)などの熱伝導性セラミックスを基材が好ましい。さらに好ましくは、半導体チップの熱膨張率(Siチップの熱膨張率:4×10−6/℃)とほぼ同等の窒化アルミニウム(AlN)(AlNの熱伝導率:4×10−6/℃)などがよい。窒化アルミニウム(AlN)は、熱伝導性が200W/mKであり、誘電体基材として好ましい材料のひとつである。
また、誘電体基材の一部に金属からなる部位があってもよく、誘電体基材の表面の一部が後述の導電体基材に用いられる金属材料からなるものであってもよい。
【0038】
このように導波路孔を形成する基材が優れた熱伝導性を有するものとすることで、送受信素子による無線接続で発生する熱をシステムの外に放熱する効果が発現される。また、後述するように、基材が導電体基材であり、金属である場合には良好な熱伝導性を示すものであり、さらに放熱効果に優れたものとなる。
【0039】
<導電体基材>
導電体基材の材料には、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、真鍮、ニッケル、錫、鉛、亜鉛等の金属が挙げられる。好ましくは、送受信の電磁波によって磁化の影響を受けない非磁性金属であるアルミニウム、銅、金、銀、錫等が挙げられる。また、これらの合金材料であってもよい。形状としては、板、フォイール、箔等が挙げられる。これらの導電体基材は、一般に他の基材と接着する側に易接着処理を施しておくことが好ましい。易接着処理による凹凸は大きい方が接着強度は高くなる。
【0040】
導電体基材は、誘電体基材の場合に必要であった導電体層とグランドに接続するための回路配線が不要となり、容易にグランド接続を可能な本発明の導波路を形成する基材である。また、金属材料であることから熱伝導性に優れ、送受信素子の発熱をシステム外部に放熱できるものでもある。銅の熱伝導率は約400W/mKであり、アルミニウムは約240/mKである。また、銅箔の熱膨張率は、17×10−6/℃であり、アルミニウムは、23×10−6/℃であり、半導体のSiチップの熱膨張率4×10−6/℃と差が小さく、本発明の導波路孔の基材として好ましい材料である。
【0041】
このように、導波路が設けられる基材の熱膨張係数と周辺部材の熱膨張係数との差が小さなものであれば、送受信素子との配列ピッチずれが少なくなり、実装精度が良好となる。
【0042】
また、一般に電子部品等に用いられる金属材料としては、エッチング処理が可能な非磁性金属材料の銅とアルミニウムが多い。箔形状の銅箔には圧延銅箔(精密圧延法を含む)と電解銅箔の2種類がある。圧延銅箔は繰り返しの屈曲に対して機械的強度が良好であり、電解銅箔は圧延銅箔に比較すると耐屈曲性能が悪いが、コストが安い。本発明で用いるものは、電解銅箔であっても十分使用可能である。アルミニウム箔では、銅と比べて延伸性が大きく、又コストも安価であるが、アルミニウムは銅に比較して比抵抗が約1.5倍程度と高くなるため、同じ抵抗値を得ようとすると厚さや回路の幅を太くする必要が生じる。
【0043】
<誘電体層>
誘電体層は、表面抵抗が1×10Ω以上の誘電体からなる層である。誘電体層の材料は、誘電体であれば、無機材料であってもよく、有機材料であっても良い。
【0044】
無機材料としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、発泡セラミックスが挙げられる。なお、誘電体操層がセラミックス等の硬い材料の場合、後述の抑制層を形成するマイクロクラスターが凝集し、均質な薄膜を形成しやすい状態にあるが、金属材料等の質量を低く抑えて薄膜を形成することにより、マイクロクラスターが凝集しにくくなり、欠陥を有する薄膜となる。
【0045】
有機材料としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリシラザン、フェノール樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン等の樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム、ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエンゴムが挙げられる。有機材料は、熱可塑性であっても、熱硬化性であってもよく、その未硬化物、半硬化物であっても良い。また、上記の樹脂、ゴム等の変性物、混合物、共重合体であってもよい。
【0046】
誘電体層が有機材料からなる場合は、有機高分子のモルフォロジーによりナノレベルで複雑な表面構造を有しているため、マイクロクラスターの凝集が抑えられ、不均一なマイクロクラスターの集合体の構造を維持しやすく、不要電磁波抑制効果の大きな電磁波吸収層を得ることができる。
【0047】
誘電体層としては、クラスターとの密着性の点、およびマイクロクラスターの凝集、成長を阻害し、マイクロクラスターの分散安定化される点から、金属との共有結合が可能となる酸素、窒素、硫黄等の元素を含む基を表面に有するもの、表面に紫外線、プラズマ等を照射して表面を活性化したものが好ましい。酸素、窒素、硫黄等の元素を含む基としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、チオール基、スルホン基、カルボニル基、エポキシ基、イソシアネート基、アルコキシ基等の親水性基が挙げられる。
【0048】
この誘電体層は、電磁波吸収層との関係から、厚みは、0.05〜50μmであれば良く、より好ましくは0.1〜10μmが良く、導電体層と電磁波吸収層の絶縁性が確保されれば良く、導電体層と電磁波吸収層とで充分に電磁結合する。
また、誘電体層の比誘電率は、2以上か好ましく、さらには、2.5以上がより好ましい。
【0049】
誘電体層の形成方法は、材料にあった通常の方法を用いることができる。セラミックスの場合は、ゾルゲル法、スパッタ法等のPVD法、CVD法などが挙げられる。有機材料の場合には、樹脂溶液を直接スプレー法やディッピング法などにより形成する方法などが挙げられる。
【0050】
<電磁波吸収層>
電磁波吸収層は、送受信素子間を直進する電磁波を吸収することなく、電磁波吸収層に入射する隣接の送受信素子からの不要な電磁波および誘電体を介在して伝播される不要な電磁波とさらに自己反射によって発生する不要な電磁波(すなわち、ノイズ)を抑制する。
電磁波吸収層は、金属材料または導電性セラミックスを含む5〜200nmの薄膜であることが好ましい。
電磁波吸収層の厚さが5nm以下あれば、充分な不要電磁波抑制効果が得られにくい。電磁波吸収層の厚みが200nm以上であれば、マイクロクラスターが成長して、金属材料等からなる均質な薄膜が形成されやすい。均質な薄膜が形成された場合、表面抵抗が小さくなって、金属反射が強まり、不要電磁波抑制効果も小さくなる。
【0051】
電磁波吸収層の厚さは、電磁波吸収層の膜厚方向断面の、例えば、図14に示すような高分解能電子顕微鏡像をもとにして、5箇所の電磁波吸収層の厚さを電子顕微鏡増上で計測し平均することにより求める。
電磁波吸収層の表面抵抗は、1×10〜1×10Ωが好ましい。電磁波吸収層が均質な薄膜の場合、体積抵抗率の高い限られた材料が良いが、材料の体積低効率がそれほど高くない場合は、電磁波吸収層に金属材料または導電性セラミックスが存在しない物理的な欠陥を設けて、不均質な薄膜とすること、または、マイクロクラスターの連鎖物とすることによって、表面抵抗を上昇させることができる。
【0052】
電磁波吸収層の表面抵抗は以下のように測定する。
被想定物に間隔10mmで隔置された2つの測定電極に長さ10mmを有する金の蒸着電極等の2本の薄膜金属電極を50g/cmの定荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で測定電極間の抵抗を測定し、この値をもって表面抵抗とする。
【0053】
電磁波吸収層を形成する金属材料としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。強磁性金属としては、鉄、カヌボニル鉄、Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金、コバルト、ミッケル、これらの合金等が挙げられる。
常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。これらのうち、酸化に対して抵抗力の有る点で、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。しかし、貴金属は効果であるため、実用的にはニッケル、鉄クロム合金、タングステンが好ましく、ニッケル、ニッケル合金が特に好ましい。
【0054】
導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素からなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
【0055】
導電性セラミックスは、金属よりも体積抵抗率が高いため、導電性セラミックスを含む電磁波吸収層は、金属材料固有の電磁波反射ノイズ分が少なくなる。また、導電性セラミックスは、特定の共鳴周波数を有さないため、不要電磁波抑制効果を発揮する周波数が広帯域化する。さらに、化学的な安定性が高く、保存安定性が高い等の利点を有する。導電性セラミックスとしては、物理的蒸着法において、窒素ガス、メタンガス等の反応性ガスを用いることによって、容易に得られる窒化物または炭化物が好ましい。
【0056】
電磁波吸収層の形成方法としては、通常の湿式メッキ法、物理的蒸着法、化学的蒸着法等が挙げられる。これらの方法においては、条件や用いる材料によっても異なるが、薄膜の成長を初期の段階で終了することによって、均質な膜とならず、微細な物理的な欠陥を有する不均質な薄膜を形成できる。または、均質な薄膜を酸等によりエッチングして欠陥を形成する方法、レーザーアブレーションにより均質な薄膜に欠陥を形成する方法によっても、不均質な薄膜が形成できる。
【0057】
図15は、誘電体層の表面に物理的蒸着方によって形成された金属材料からなる電磁波吸収層の表面を観察したフィールドエミッション走査顕微鏡像であり、図16はその模式図である。電磁波吸収層300は、複数のマイクロクラスター301の集合体として観察される。マイクロクラスター301は、誘電体層上に金属材料等が非常に薄く物理的に形成されたものであり、マイクロクラスター301の間には、物理的な欠陥があって均質な薄膜になっていない。マイクロクラスター301が互いに接触して集団化して連鎖を形成しているものの、集団化したマイクロクラスター301の間には金属材料等の存在しない欠陥が多く存在している。
【0058】
図14は電磁波吸収層300の膜方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。図15、図16に示すように、非常に小さな結晶が数Å間隔の金属原子が配列された結晶格子(マイクロクラスター301)および非常に小さい範囲で金属材料等が存在しない欠陥が認められる。
すなわち、マイクロクラスター301同士の間隔が空いた状態であり、金属材料等からなる均質な薄膜には成長していない。このような物理的な欠陥を有する状態は、電磁波吸収層300の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1(Ω・cm)と金属材料(または導電性セラミックス)の体積抵抗率R0(Ω・cm)(文献値)との関係から確認できる。すなわち、体積抵抗率R1と体積抵抗率R0とが、0.5≦logR1−logR0≦3を満足する場合に、優れた不要電磁波抑制効果が発揮される。
この電磁波吸収層300が導波路孔の導電体層内面の誘電体層の内壁上に厚み5〜200nmで形成されることが好ましい。電磁波吸収層の効果を発揮するためには、抑制される電磁波の通過距離が数μの長さを必要とすることから、導波路孔の周長または深さ方向に3μm以上の電磁波吸収層300が形成されることが好ましい。さらに好ましくは、送受信素子の設置間隔距離を有効に活用して伝送路孔の深さ方向の全域に亘った形成が好ましい。
【0059】
<被覆層>
被覆層は、導波路孔が、形成される基材の表裏のいずれか片方に配置され、チップや基板の絶縁性を確保することが好ましい。誘電体であれば、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。また、熱伝導率が良好な材料であれば、被覆層を伝熱材料として送受信システムで発生する熱を外部に放熱するものとして有効なものとなる。
無機材料としては、ガラスや酸化アルミニウム、窒化ケイ素などのセラミックス、発泡セラミックス等が挙げられる。
【0060】
有機材料としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリシラザン、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン等の樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム、ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等であってもよく、その未硬化物であってもよい。また上記樹脂、ゴム等の変性物、混合物、共重合体であってもよい。
【0061】
さらに、被覆層は粘着剤または接着剤またはゲル状物質であることが好ましい。粘着剤としてはアクリル系、EPDM系、TPR系、シリコーン系等が挙げられる。接着剤としてはシリコーン系、アクリル系、EPDM系、エポキシ系、ウレタン系、ポリイミド系、ポリエステル系等が挙げられる。ゲル状物質としてはシリコーンやポリウレタンなどが挙げられる。
粘着剤または接着剤またはゲル状物質が後処理の熱処理等で硬化する材料であれば、半導体チップ等の積層後に動作確認をして硬化固定することが可能となる。
それにより、送受信素子の搭載された半導体チップや回路基板の着脱が可能となり、半導体チップのリペア等に有効なものとなる。すなわち、半導体チップ積層や基板とチップ積層で作動試験時に不良なチップ等をリペアし、正常な動作確認後に半硬化状態から硬化接着させる方法が可能となり、工数の削減に寄与するものとなる。
【0062】
このように、導波路が設けられる基材表面上の被覆層が粘着剤または接着剤またはゲル状物質であるものでは、積層チップ等の容易なリペアが可能となる。
【0063】
電子部品用途においては、上記粘着剤や接着剤は室温硬化型や低温硬化型であることが好ましく、さらには、ハロゲンフリーであることが好ましい。これらの粘着剤や接着剤には、プラスチックフィルムや、ガラス繊維などからなる基材を有した粘着テープ若しくは、接着テープの構成を持つもの、又は、基材を有さない構成のものがある。さらには、感圧タイプやホットメルトタイプのものがあり、実装上で効率よくハンドリングできるものを選定すれば良い。
さらには、これらの粘着剤や接着剤を主剤として、熱伝導性フィラーである窒化ボロン(BN)、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)等を混練した数W/mKの熱伝導率を示す複合接着剤であることが好ましい。
さらにはマトリックス樹脂にシリコーン系ゲルを用い、昇温処理で表面がグリース化し密着性を向上させた熱伝導性粘着シートなども好ましい。
【0064】
被覆層の形成方法は、材料にあった通常の方法を用いることができる。セラミックスの場合は、ゾルゲル法、スパッタ法統のPVD法、CVD法などが挙げられる。有機材料の場合には、樹脂溶液を直接スプレー法などによりコートする方法などが挙げられる。
【0065】
次に、本発明の電磁波吸収機能付き伝送路の機能を説明する。
図17で、対向配置された送受信素子がインダクタであるもので説明するが、送受信素子の相互間が空気あるいは誘電体層である場合の断面模式図を示した。
送信インダクタ10から受信インダクタ11にカップリングする電磁波1および隣接する送信素子からの電磁波2、外部より伝播される不要電磁波3の模式図である。
【0066】
送信インダクタ10から発信される電磁波において、対向する受信インダクタ11との送受信素子間の中心付近を直進通過する信号となる電磁波1は、送受信のインダクタ相互間にある空気または誘電体を介して、インダクタ11に伝播され、信号となって無線接続される。しかし、隣接する送信インダクタや絶縁部位の外部から伝播されてくる電磁波3もインダクタ子11を通過することで受信感知されてしまい、として混信が発生してしまう。
【0067】
次に図18は、従来技術であるシールド構造4(特許文献1参照)がインダクタの周囲に配置されたものの模式図である。
この場合には、隣接インダクタからの電磁波2や外部からの電磁波3は、送信インダクタ10、受信インダクタ11の周囲に複数の接地スルーホール群のシールド構造4を設けることで反射や減衰され、不要電磁波として受信インダクタ11に影響をおよぼさず、混信が防止される。
【0068】
しかし、シールド構造4を配置するスペースが必要となり、インダクタ間の配列ピッチが微小化できず、高密度実装が達成できない。また、シールド構造であることから外部からの電磁波3の侵入は阻止できるものの、接地スルーホール群によって囲い込まれた内部において、送信インダクタ10からの自己発信電磁波1の反射が接地スルーホール群によって発生し、不要電磁波1’となってインダクタ11を通過してしまう。この自己反射による不要電磁波1’の問題を回避するために、回路においてインピーダンス整合回路などの対応が必須となり、高速伝送と高密度実装の妨げとなっている。
【0069】
次に、本発明の導波路が、相互のインダクタ間に設けられた場合を図19に示し、説明する。
本発明の導波路が対向するインダクタ間に配置された場合においては、隣接するインダクタからの電磁波や絶縁物から伝播されてくる電磁波3は、導波路孔の内壁の導電体層の外側表面で、また非磁性導電体基材であれば、その表面で反射・減衰される。また、素子間の隙間等から導波路内部に侵入してしまった不要電磁波2は導波路の内壁に設けられたグランドにあたる導電体層と誘電体層と電磁波吸収層との構成で減衰され、インダクタ11の受信に対する混信の影響を及ぼさないものとなる。
【0070】
さらには、送信インダクタ10からは、送受信素子間の中心付近を直進通過する信号となる電磁波1以外に、自己から全方位に発射される不要電磁波2があり、この自己からの不要電磁波も、同様に導波路の内壁に設けられたグランドとなる導電体層と誘電体層と電磁波吸収層との構成で減衰され、インダクタの受信に混信の影響を及ぼさないものとなる。
上記の説明では、送受信素子が誘電性結合によるインダクタ素子の場合で説明したが、送受信素子に金属パッドを用いた容量性結合のコンダクタ素子による無線接続の場合においても、隣接する金属パッドからの不要な電磁波や誘電体を介して伝播する不要な電磁波や自己反射による不要な電磁波を、本発明の導波路は、抑制および吸収機能を発揮するものである。
【0071】
以下に比較例および実施例を示す。
(比較例1)
テスト基板として厚み50μmのFR−4基板基材上に、巻き数5回、配線幅10μm、配線間隔2μmでサイズ:150μm×150μmの送信用スパイラルインダクタを200μmピッチで形成し、同様なサイズとピッチの受信用スパイラルインダクタを形成し、テスト基板を間隔50μmで配置した。基板間には何も配置しない。
転送レートを1Gbpsとして、1GHzで無線通信が可能な送受信回路がチップに形成されており、電源電圧2.5V、消費電力9mWの動作条件で、1つの送信用スパイラルインダクタからパルス信号を送信し、対向する受信用スパイラルインダクタと隣接する受信用スパイラルインダクタにおいて受信信号をモニタリング可能な構成のテストモジュールとした。
その結果、対向する受信用インダクタで受信信号を検出するとともに、隣接する受信用スパイラルインダクタにも、受信信号パルスが受信信号レベルで検出されてしまった。
【0072】
(比較例2)
比較例1で用いたものと同仕様の送受信素子が搭載される50μm厚みの半導体チップの間隙に50μm厚みのSi基材を設けて、送受信素子のインダクタの周囲に15μmの距離をもって同心円上に3枚のSi基材を貫通したスルーホール径10μmで内面に銅層を持ったシールドビアを60個設けた。最下層のSiの裏面にはシールドビアの接地グランドにあたる3μmの銅層が設けられおり、送受信素子はシールドビアと最下層の接地グランドに囲まれた構成のテストモジュールとした。
この構成で1つの送信用スパイラルインダクタからパルス信号を送信し、対向する受信用スパイラルインダクタと隣接する受信用スパイラルインダクタの受信信号をモニタリングした結果、比較例1で検出してしまった隣接する受信用スパイラルインダクタからは受信信号パルスが検出されなかったが、送信用スパイラルインダクタからのパルス信号がシールドビアによって反射の電磁波を発生してしまい、対向する受信用スパイラルインダクタの受信信号はリンギングが大きく発生したものとなってしまった。
【実施例1】
【0073】
導波路孔を設ける基材を片面に5μmの銅箔付きで樹脂厚み25μmの銅箔付きアラミドフィルムとし、導波路孔の周囲に接続するランド部と回路配線をあらかじめ形成するようにエッチング加工し、次いで炭酸ガスレーザー加工機によりφ120μmの円形状の貫通導波路孔を200μmピッチで比較例1のテストチップと同じ配列で設けた。次いで、導波路孔の内側表面に銅メッキを施して厚み3μmの導電体層を形成した。この導電体層は、アラミドフィルム表面に形成した導波路孔周囲のランドに接続しており、回路配線によってグランドに接続している。次に、誘電体層をメタンガスのCVD法により0.2μm厚みで導波路孔の導電体層内壁上に設け、さらにその誘電体層の内壁上に窒素ガスを反応ガスとしたアルゴンガスによる雰囲気中でニッケル金属をマグネトロンスパッタ法によって物理的に蒸着し、窒化ニッケルを含む厚み約20nmの不均質な電磁波吸収層を形成した。
次いで、導電体層と誘電体層と電磁波吸収層の構成の導波路が形成されたアラミドフィルム基材の表裏面に熱伝導性接着剤である加熱硬化型エポキシ(ScochWeld:EW−2070/3M社製)を約10μmづつを塗布して、比較例1と同仕様の送受信テストチップで接着挟持し、80℃1時間過熱硬化させてチップ間隔、50μmの構成で導波路を用いた電子部品を準備した。導波路の中心部位の貫通孔は熱伝導性接着剤で埋設された構成のテストモジュールとした。
この構成で1つの送信用スパイラルインダクタからパルス信号を送信し、対向する受信用スパイラルインダクタと隣接する受信用スパイラルインダクタの受信信号をモニタリングした結果、比較例1で検出してしまった隣接する受信用スパイラルインダクタからは受信信号パルスが検出されず、ペアの受信インダクタには、リンギングも無い受信信号が得られた。すたわち、隣接するインダクタの混信を防止するとともに、自己の反射による電磁波の影響が発生しない電子部品が得られた。
【実施例2】
【0074】
導波路孔を設ける基材を半硬化状態のエポキシ樹脂層3μmが表層に付いた厚み35μm銅箔による樹脂付き銅箔として、YAGレーザー加工機によりφ120μmの円形状の貫通導波路孔を200μmピッチで比較例1のテスト基板と同じ配列とした。次いで、樹脂付き銅箔に設けた導波路孔の内側表面に、誘電体層をメタンガスのCVD法により0.2μm厚みで導波路孔および樹脂付き銅箔のエポキシ樹脂層の金属内壁上に設け、さらにその誘電体層の内壁上に窒素ガスを反応ガスとしたアルゴンガスによる雰囲気中でニッケル金属をマグネトロンスパッタ法によって物理的に蒸着し、窒化ニッケルを含む厚み約20nm不均質な電磁波吸収層を形成した。
次いで、比較例1と同仕様の送受信テスト基板で接着挟持し、120℃で2時間5kg/cm2の加圧加熱プレスにより積層させてチップ間隔、50μmの構成で導波路を用いた電子部品を準備した。導波路の中心部位の貫通孔は積層プレスによって半硬化のエポキシ樹脂が流入して導波路孔を埋設した構成のテストモジュールとした。
この構成で1つの送信用スパイラルインダクタからパルス信号を送信し、対向する受信用スパイラルインダクタと隣接する受信用スパイラルインダクタの受信信号をモニタリングした結果、比較例1で検出してしまった隣接する受信用スパイラルインダクタからは受信信号パルスが検出されず、ペアの受信インダクタには、リンギングも無い受信信号が得られた。すたわち、隣接するインダクタの混信を防止するとともに、自己の反射による電磁波の影響が発生しない電子部品が得られた。
【実施例3】
【0075】
比較例1で用いたものと同仕様の送受信素子が搭載される50μm厚みの基板のスパイラルインダクタの直下にφ120μmで深さが25μmの導波路孔をレーザー加工によって設けた。次いで、導波路孔の内側表面に銅ターゲットのスパッタ法によって500nmの厚みの導電体層を形成し、その内壁上にメタンガスのCVD法により0.2μm厚みで誘電体層を形成した。さらにその誘電体層の内壁上に窒素ガスを反応ガスとしたアルゴンガスによる雰囲気中でニッケル金属をマグネトロンスパッタ法によって物理的に蒸着し、窒化ニッケルを含む厚み約20nm不均質な電磁波吸収層を形成した。次いで、比較例1と同様に送受信素子のテスト基板を間隔50μmで配置した導波路を用いた構成のテストモジュールとした。
この構成で1つの送信用スパイラルインダクタからパルス信号を送信し、対向する受信用スパイラルインダクタと隣接する受信用スパイラルインダクタの受信信号をモニタリングした結果、比較例1で検出してしまった隣接する受信用スパイラルインダクタからは受信信号パルスが検出されなかった。すなわち、隣接するインダクタの混信を防止する結果を得た。
【0076】
上記の比較例と実施例の結果から本発明の導波路の構成においては、隣接の送信素子の混信も外部から伝播される不要電磁波も防止でき、さらには自己の反射による受信信号のリンギングも発生させない構成の導波路およびそれを用いた電子部品が提供できる。
尚、送受信素子が誘電性結合であっても容量性結合であっても、無線接続の場合に隣接する金属パッドからの不要な電磁波や誘電体を介して伝播する不要な電磁波や自己反射による不要な電磁波を抑制する構成の導波路およびそれを用いた電子部品が提供できる。
【0077】
なお、実施例1で用いた被覆層は、熱伝導性に優れた接着剤であり、1.6W/mKの熱伝導率のものを設けてあり、構成する基板積層に隣接して放熱板を設けることで、送受信素子での発熱をシステムの外部に放熱することが可能であった。
さらに実施例2の銅箔を基材としたものでは、銅の熱伝導率は約400W/mKであり、この銅箔に隣接するように放熱板を設けることで、同様にシステムの外部に放熱することが可能であった。また、銅箔の熱膨張率は、17×10−6/℃であり、FR−4の熱膨張率が13〜16×10−6/℃であることから配列ピッチずれを起こさずに無線接続が可能であった。
さらに、送受信素子がSiチップに設けられた場合には、Siチップの熱膨張率が4×10−6/℃であることから差が小さく熱膨張による影響は発生しないものである。
【0078】
導波路孔が設けられる誘電体基材をAlNとしたものでは、半導体チップの熱膨張率(Siチップの熱膨張率:4×10−6/℃)とほぼ同等の熱伝導率:4×10−6/℃を示すことから発熱による熱膨張による導波路と送受信素子の配列ピッチがずれないものとして有効であり、熱伝導性が200W/mKであることから本発明の導波路の電子部品として好ましい材料であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の導波路およびそれを用いた電子部品は、半導体の三次元実装の積層チップや基板と半導体チップにおける送受信素子による無線ローカル接続の導波路および電子部品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の導波路の基材が誘電体基材の一例を示す模式図。
【図2】本発明の導波路の基材が導電体基材の一例を示す模式図。
【図3】本発明の導波路の断面構造の一例を示す模式図。
【図4】本発明の導波路の他の断面構造を示す模式図。
【図5】本発明の導波路の導波路形状の一例を示す図。
【図6】本発明の導波路の基材表面構造の一例を示す図。
【図7】本発明の導波路の中心部位構造の一例を示す図。
【図8】本発明の導波路の被覆層構造の一例を示す図。
【図9】本発明の導波路を用いた電子部品の断面構造の一例を示す図。
【図10】本発明の導波路を用いた電子部品の構成の一例を示す模式図。
【図11】本発明の導波路が半導体チップに形成された構成を示す模式図。
【図12】一対の送受信素子に複数の本発明の導波路が対応する構成を示す模式図。
【図13】本発明の導波路の基材表面構造の一例を示す図。
【図14】本発明の導波路の電磁波吸収層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図15】本発明の導波路の電磁波吸収層の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。
【図16】図15の模式図である。
【図17】送受信素子近傍の電磁波の状態を示す模式図。
【図18】従来のシールド構造による送受信素子近傍の電磁波の状態を示す模式図。
【図19】本発明の導波路を設けた場合の送受信素子近傍の電磁波の状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0081】
1 送受信信号の電磁波
1’ 送受信信号の電磁波の自己反射波
2 隣接インダクタからの電磁波
2’ 隣接インダクタからの電磁波の反射波
3 外部からの電磁波
3’ 外部からの電磁波の反射波
4 シールド構造
10 送受信素子(送信インダクタ)
11 送受信素子(受信インダクタ)
12 送受信素子
13a 半導体回路群
13b 半導体回路群
13c 半導体回路群
14 半導体チップ(1)
15 半導体チップ(2)
16 半導体チップ(3)
20 導波路孔
25 導波路
30 誘電体基材
35 導電体基材
40 回路配線
50 誘電体
100 導電体層
200 誘電体層
300 電磁波吸収層
301 マイクロクラスター
400 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔または非貫通孔が形成された誘電体基材と、
該貫通孔または非貫通孔の内壁上に設けられた導電体層と、
該導電体層の内壁上に設けられた誘電体層と、
該誘電体層の内壁上に設けられた電磁波吸収層と
を有することを特徴とする導波路。
【請求項2】
貫通孔が形成された導電体基材と、
該貫通孔の内壁上に設けられた誘電体層と、
該誘電体層の内壁上に設けられた電磁波吸収層と
を有することを特徴とする導波路。
【請求項3】
前記導電体が、非磁性金属であることを特徴とする請求項1または2に記載の導波路。
【請求項4】
前記電磁波吸収層が、金属材料または導電性セラミックスを含む、厚さ5〜200nmの層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の導波路。
【請求項5】
さらに、前記基材の表面に被覆層を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の導波路。
【請求項6】
前記被覆層が、粘着剤または接着剤またはゲル状物質からなることを特徴とする請求項5に記載の導波路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の導波路が、送受信素子の搭載された複数の半導体チップ間または回路基板間に配置されたことを特徴とする電子部品。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の導波路が、送受信素子の搭載された半導体チップまたは回路基板の基材に設けられたことを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−153954(P2008−153954A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339988(P2006−339988)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】