説明

導電性を有するグラスライニング施釉反応容器

【課題】充分な静電気防止効果を維持しつつ、コストを低減することができる導電性を有するグラスライニング施釉反応容器を提供する。
【解決手段】導電性を有するグラスライニング施釉反応容器1は、鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなるグラスライニング施釉反応容器において、反応容器内部の内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスライニング施釉反応容器に関し、更に詳細には、導電性を有するグラスライニング施釉反応容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学工業、医薬品工業、食品工業等などの様々な業界において、グラスライニング施釉反応容器が使用されている。グラスライニング施釉反応容器は、開放型と密閉型に大別され、それぞれ図1及び図2に記載するような構成を有している。
【0003】
図1は、開放型反応容器の概略図であり、反応容器本体(1)及び反応容器カバー(2)から構成されている。反応容器本体(1)及び反応容器カバー(2)は、低炭素鋼板のような鋼板あるいはステンレス鋼板を素地とし、この素地の内側に、素地金属と強固に密着する下ぐすり釉薬を施釉することにより得られた下ぐすりグラスライニング層及び下ぐすりグラスライニング層上の、それぞれの用途に適した特性を有する上ぐすり釉薬を施釉することにより得られる上ぐすりグラスライニング層とから構成されるか、または素地金属上に、それぞれの用途に適した特性を有するグラスライニング組成物を施釉することにより得られたグラスライニング層から構成されている。また、反応容器を構成する各部材はアースにより接地されている。
【0004】
また、反応容器本体(1)の底部には、反応容器本体(1)の内容物を排出するための弁棒(3)が設置されている。この弁棒(3)は内容物と接するために、その表面はグラスライニングにより被覆されている。更に、反応容器カバー(2)には、内容物を攪拌するための攪拌翼(4)及びバッフル(5)が設置されており、その表面はグラスライニングにより被覆されている。また、反応容器カバー(2)には、プロテクターリング(6)を介してマンホールカバー(7)が設置されている。
【0005】
また、図2は密閉型反応容器の概略図であり、反応容器本体(1)から構成されている。反応容器本体(1)は、開放型反応容器の反応容器本体(1)及び反応容器カバー(2)と同様に低炭素鋼板のような鋼板あるいはステンレス鋼板を素地とし、この素地の内側に、下ぐすりグラスライニング層及び上ぐすりグラスライニング層またはグラスライニング層が形成された構成となっている。反応容器本体(1)の底部には、反応容器本体(10)の内容物を排出するための弁棒(3)が設置されている。この弁棒(3)は内容物と接するために、その表面はグラスライニングにより被覆されている。更に、反応容器本体(10)の上部には、内容物を攪拌するための攪拌翼(4)及びバッフル(5)が設置されており、その表面はグラスライニングにより被覆されている。また、反応容器本体(1)には、プロテクターリング(6)を介してマンホールカバー(7)が設置されている。
【0006】
上述のようなグラスライニング被覆反応容器を構成するグラスライニング材質は、体積抵抗率が1×1013〜1014Ωcm程度の絶縁材料であるため、非水系の有機物内容物を反応容器内で攪拌操業するような場合には、帯電電荷量が漏洩電荷量を大幅に上回り、数万あるいは数十万ボルトの静電気が発生し、グラスライニング被覆反応容器にアースを接地していてもグラスライニング材質の破損や爆発事故が起こる危険性がある。
【0007】
この問題を解決するために、本出願人は、導電性を有するグラスライニング組成物を種々提案している。例えば、特許文献1では、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.5〜30ミクロン、長さ1.5〜10mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を前記フリット100重量部に対して0.05〜1.5重量部含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物を開示している。
【0008】
また、特許文献2では、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.01ミクロン以上0.5ミクロン未満、長さ0.5〜1500ミクロン、長さ/直径の形状比50以上の貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上の金属繊維を前記フリット100重量部に対して0.001〜0.05重量部含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物を開示している。
【0009】
更に、特許文献3では、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.1〜30ミクロン、長さ0.005〜3mm、長さ/直径の形状比50以上の炭化物系繊維及び/または炭素繊維から選択されるセラミック繊維を前記フリット100重量部に対して0.05〜1.5重量部及び直径0.01〜30ミクロン、長さ0.5ミクロン〜3mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維をフリット100重量部に対して0.001〜1.45重量部を含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物を開示している。
【0010】
また、特許文献4では、抗菌性釉薬組成物100重量部に対して、直径0.01〜20ミクロン、長さ0.5〜2000ミクロン、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を0.001〜1.5重量部含有してなる導電性及び抗菌性を有する釉薬組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3783742号公報
【特許文献2】特許第3432399号公報
【特許文献3】特許第3894245号公報
【特許文献4】特許第3894246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1〜4に開示されているような導電性グラスライニング組成物は低体積抵抗率を有し、反応容器の内側を該導電性グラスライニング組成物で施釉することにより、良好な導電性を有するグラスライニング層が得られ、非水系の有機物内容物を反応容器内で攪拌操業しても、帯電電荷量が漏洩電荷量を上回ることはなく、従って、静電気が発生することはなく、グラスライニング材質の破損や爆発事故が起こることはない。しかしながら、上述のような導電性グラスライニング組成物は非常に高価な貴金属繊維類等を使用するものであり、そのためグラスライニング施釉応容器が非常に高価なものとなり、コストの低減が求められているのが現状である。
【0013】
従って、本発明の目的は、充分な静電気防止効果を維持しつつ、コストを低減することができる導電性を有するグラスライニング施釉反応容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明は、鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなるグラスライニング施釉反応容器において、反応容器内部の内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする導電性を有するグラスライニング施釉反応容器にある(以下、「第1発明の反応容器」という)。
【0015】
また、第1発明の反応容器は、反応容器の底部に内容物を排出するための弁棒を備え、かつ該弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【0016】
更に、第1発明の反応容器は、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフルを備え、攪拌翼及びバッフルが導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【0017】
また、第1発明の反応容器は、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフルを備え、攪拌翼及びバッフルが導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【0018】
更に、第1発明の反応容器は、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフルを備え、内容物と接する攪拌翼及びバッフルの部位が導電性グラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなるグラスライニング施釉反応容器において、反応容器が、反応容器本体及び反応容器カバーから構成され、反応容器本体の底部には、反応容器本体の内容物を排出するための弁棒が設置され、反応容器カバーには、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフル、並びにプロテクターリングを介してマンホールカバーが設置されてなる開放型反応容器よりなり、反応容器本体の内側並びに弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする導電性を有するグラスライニング施釉反応容器にある(以下、「第2発明の反応容器」という)。
【0020】
更に、第2発明の反応容器は、攪拌翼及びバッフルが導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【0021】
また、第2発明の反応容器は、攪拌翼及びバッフルの内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【0022】
更に、本発明は、鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなるグラスライニング施釉反応容器において、反応容器が、反応容器本体から構成され、反応容器本体の底部には、反応容器本体の内容物を排出するための弁棒が設置され、反応容器本体の上部には、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフル並びにプロテクターリングを介してマンホールカバーが設置されてなる密閉型反応容器よりなり、反応容器本体の内容物と接する部位並びに弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする導電性を有するグラスライニング施釉反応容器にある(以下、「第3発明の反応容器」という)。
【0023】
また、第3発明の反応容器は、攪拌翼及びバッフルが導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【0024】
更に、第3発明の反応容器は、攪拌翼及びバッフルの内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、充分な静電気防止効果を維持しつつ、コストを低減することができる導電性を有するグラスライニング施釉反応容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】開放型グラスライニング層施釉反応容器の概略図である。
【図2】密閉型グラスライニング層施釉反応容器の概略図である。
【図3】導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合面の施釉パターンの1実施態様を示す概略図である。
【図4】導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合面の施釉パターンの他の実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器に使用される反応容器は、鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側すなわち内容物と接する部位がグラスライニング層で施釉されてなるものである。なお、本明細書において、用語「内容物と接する部位」は、反応容器内の内容物の液面以下の部位に加えて攪拌等により内容物が接する可能性のある反応容器内の液面より上部の部位を示すものとする。
【0028】
第1発明の反応容器は、反応容器内部の内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉させてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とするものである。反応容器の内容物と接する部位を導電性を有するグラスライニング層で施釉することにより、反応容器内のグラスライニング層と内容物との接触により発生する静電気を漏洩することができ、充分な静電気防止効果を提供することができる。
【0029】
ここで、導電性を有するグラスライニング層を施釉するための導電性グラスライニング組成物は、導電性を有するグラスライニング組成物であれば特に限定されるものではないが、好ましくは特許文献1〜4に開示されているような導電性グラスライニング組成物である。なお、導電性を有するグラスライニング層は、下ぐすり層として導電性を有しないグラスライニング組成物を施釉し、上ぐすり層として導電性を有するグラスライニング組成物を施釉した構成とするか、または下ぐすり層及び上ぐすり層として導電性を有するグラスライニング組成物を施釉した構成とすることができる。また、下ぐすり層として導電性を有しないグラスライニング組成物を使用する場合、その組成は特に限定されるものではなく、導電性グラスライニング組成物を上ぐすり層として施釉する場合に、下ぐすり層として通常用いられているグラスライニング組成物を用いることができる。更に、一層掛けの導電性を有するグラスライニング組成物を施釉することもできる。これらのグラスライニング層の施釉パターンの中でも、静電気の漏洩性に優れていることから、下ぐすり層及び上ぐすり層を導電性グラスライニング組成物により施釉することが好ましい。
【0030】
また、導電性を有しないグラスライニング層を施釉するためのグラスライニング組成物は、反応容器等のグラスライニング層を施釉するための慣用のグラスライニング組成物であれば特に限定されるものではなく、一層掛け、または下ぐすり層及び上ぐすり層を施釉することにより導電性を有しないグラスライニング層を施釉することができるが、下ぐすり層及び上ぐすり層を施釉することが好ましい。
【0031】
更に、第1発明の反応容器の底部には、反応容器の内容物を排出するための弁棒を設置することができる。ここで、弁棒は反応容器の内容物と接する部材であるので、弁棒は導電性グラスライニング層で施釉されていることが必要となる。
【0032】
また、第1発明の反応応容器には、反応容器の内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフルを設置することができる。ここで、攪拌翼及びバッフルは、反応容器の内容物等に応じて、即ち、静電気の発生状況等に応じて適宜導電性を有しないグラスライニング層で施釉してなるか、導電性を有するグラスライニング層で施釉してなるか、もしくは内容物と接する部位に導電性グラスライニング層を、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層をそれぞれ施釉してなる構成とすることができる。
【0033】
ここで、内容物と接する部位に導電性を有するグラスライニング層を、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層をそれぞれ施釉してなる構成とする場合、導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合面の施釉パターンの実施態様を図3及び4に示す。
【0034】
図3は、導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合面をテーパー状とした実施態様を示すものである。まず、素地(11)上に、導電性グラスライニング組成物よりなる下ぐすり(G)を施釉して乾燥した後、接合面をテーパー状とし、その後に通常のグラスライニング組成物よりなる下ぐすり(g)を、下ぐすり(G)のテーパー面と下ぐすり(g)のテーパー面が互いに接するように施釉して乾燥した後、焼成して下ぐすり層(G)とした構成となっている。
次に、下ぐすり層上に、導電性グラスライニング組成物よりなる上ぐすり(C)を施釉して乾燥した後、接合面をテーパー状とし、その後に通常のグラスライニング組成物よりなる上ぐすり(c)を、上ぐすり(C)のテーパー面と上ぐすり(c)のテーパー面が互いに接するように施釉して乾燥した後、焼成して上ぐすり層(C1)とした構成となっている。
図3においては、下くすり層(G)並びに上ぐすり層(C1)ないし上ぐすり層(C4)を施釉した例を示したが、下ぐすり並びに上ぐすりの施釉回数は特に限定されるものではなく、所望とするグラスライニング層の厚みを得るために種々変更することができることは言うまでもない。
なお、テーパー面の幅は、グラスライニング層(下ぐすり層、上ぐすり層)の厚さ等を勘案して適宜決定することができ、例えば3〜40mm、好ましくは6〜20mm程度である。
【0035】
図4は、導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合面の他の実施態様を示すものである。この実施態様においては、素地(11)上に、導電性グラスライニング組成物よりなる下ぐすり(G)を施釉して乾燥した後、接合面を素地(11)に対してほぼ直角状とし、その後に通常のグラスライニング組成物よりなる下ぐすり(g)を、下ぐすり(G)の接合面と下ぐすり(g)の接合面が互いに接するように施釉して乾燥した後、焼成して下ぐすり層(G)とした構成となっている。
次に、下ぐすり層上に、導電性グラスライニング組成物よりなる上ぐすり(C)を施釉して乾燥した後、接合面を素地(11)に対してほぼ直角状とし、その後に通常のグラスライニング組成物よりなる上ぐすり(c)を、上ぐすり(C)の接合面と上ぐすり(c)の接合面が互いに接するように施釉して乾燥した後、焼成して上ぐすり層(C1)とした構成となっている。
図4においては、下くすり層(G)並びに上ぐすり層(C1)及び上ぐすり層(C2)を施釉した例を示したが、下ぐすり並びに上ぐすりの施釉回数は特に限定されるものではなく、所望とするグラスライニング層の厚みを得るために種々変更することができることは言うまでもない。
【0036】
次に、第2発明の反応容器について詳述する。
第2発明の反応容器は、鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなる反応容器本体及び反応容器カバーから構成され、反応容器本体の底部には、反応容器本体の内容物を排出するための弁棒が設置され、反応容器カバーには、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフル、並びにプロテクターリングを介してマンホールカバーが設置されてなる開放型反応容器よりなり、反応容器本体の内側並びに弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とするものである。反応容器本体の内側及び弁棒、即ち、反応容器の内容物と接する部位を導電性を有するグラスライニング層で施釉することにより反応容器内のグラスライニング層と内容物との接触により発生する静電気を漏洩することができ、充分な静電気防止効果を提供することができる。
【0037】
なお、第2発明の反応容器に用いる導電性を有するグラスライニング層並びに導電性を有しないグラスライニング層は、上述の第1発明の反応容器に用いる導電性を有するグラスライニング層並びに導電性を有しないグラスライニング層と同様である。
【0038】
第2発明の反応容器において、攪拌翼及びバッフルは、反応容器の内容物等に応じて、即ち、静電気の発生状況等に応じて導電性を有するグラスライニング層で施釉された構成とすることもできる。
【0039】
また、攪拌翼及びバッフルの内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉させてなり、その他の部位を導電性を有しないグラスライニング層で施釉された構成とすることもできる。ここで、内容物と接する部位に導電性を有するグラスライニング層を、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層をそれぞれ施釉してなる構成とする場合、導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合部は、上述の図3及び4に示す施釉パターンと同様の構成とすることができる。
【0040】
次に、第3発明の反応容器について詳述する。
第3発明の反応容器は、鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなる反応容器本体から構成され、反応容器本体の底部には、反応容器本体の内容物を排出するための弁棒が設置され、反応容器本体の上部には、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフル並びにプロテクターリングを介してマンホールカバーが設置されてなる密閉型反応容器よりなり、反応容器本体の内容物と接する部位並びに弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とするものである。反応容器本体の内側及び弁棒、即ち、反応容器の内容物と接する部位を導電性を有するグラスライニング層で施釉することにより反応容器内のグラスライニング層と内容物との接触により発生する静電気を漏洩することができ、充分な静電気防止効果を提供することができる。
【0041】
なお、第3発明の反応容器に用いる導電性を有するグラスライニング層並びに導電性を有しないグラスライニング層は、上述の第1発明の反応容器に用いる導電性を有するグラスライニング層並びに導電性を有しないグラスライニング層と同様である。
【0042】
また、反応容器本体の内容物と接する部位への導電性を有するグラスライニング層を並びにその他の部位への導電性を有しないグラスライニング層をそれぞれ施釉してなる構成とする場合、導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合部は、上述の図3及び4に示す施釉パターンと同様の構成とすることができる。
【0043】
また、第3発明の反応容器は、反応容器の内容物等に応じて、即ち、静電気の発生状況等に応じて攪拌翼及びバッフルが導電性を有するグラスライニング層で施釉された構成とすることができる。
【0044】
また、攪拌翼及びバッフルの内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉させてなり、その他の部位を導電性を有しないグラスライニング層で施釉された構成とすることもできる。ここで、内容物と接する部位に導電性を有するグラスライニング層を、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層をそれぞれ施釉してなる構成とする場合、導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層の接合部は、上述の図3及び4に示す施釉パターンと同様の構成とすることができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明の導電性を有するグラスライニング層施釉反応容器を更に説明する。
実施例1
図1に示す構成を有し、鋼板を素地とする容量100リットルの反応容器本体(1)と反応容器カバー(2)よりなる開放型反応容器において、反応容器本体(1)を、白金繊維含有導電性グラスライニング組成物よりなる下ぐすりを1回施釉することにより厚さ0.3〜0.4mmの下ぐすり層を形成し、次に、該下ぐすり層上に白金繊維含有導電性グラスライニング組成物よりなる上ぐすりを4回施釉することにより厚さ1.0〜1.2mmの上ぐすり層を形成することにより導電性を有するグラスライニング層(体積抵抗率10〜10Ωcm)で施釉した。
また、反応容器カバー(2)及びマンホールカバー(7)には、普通グラスライニング組成物よりなる下ぐすりを1回施釉することにより厚さ0.3〜0.4mmの下ぐすり層を形成し、次に、該下ぐすり層上に普通グラスライニング組成物よりなる上ぐすりを4回施釉することにより厚さ1.0〜1.2mmの上ぐすり層を形成することにより導電性を有しないグラスライニング層(体積抵抗率1012〜1014Ωcm)で施釉した。
更に、弁棒(3)には、上記反応容器本体(1)と同様の導電性を有するグラスライニング層を施釉した。
また、攪拌翼(4)及びバッフル(5)には、反応容器カバー(2)と同様の導電性を有しないグラスライニング層を施釉した。
以上の構成を有する反応容器に内容物として灯油(導電率:1.6〜2.0pS/m)60リットルとPMMA樹脂(50%平均粒径320μm)2kgを装填し、攪拌翼を160RPMで10分間攪拌し、この間のグラスライニング層表面の電界強度(V/cm)を測定した。なお、攪拌中液面を(10)で示した。
攪拌終了と同時に弁棒(3)を開けて内容物を一気に抜出した後、弁棒(3)を閉めて直ちに壁面電界強度計(リオンEA−07)プローブ(9)をグラスライニング層表面から約1cm離して対向させ、壁面電界強度を測定したところ、反応容器本体(1)の導電性グラスライニング層で1V/cm、反応容器カバー(2)の導電性を有しないグラスライニング層で1V/cmであった。
なお、60リットルの灯油を攪拌している状態での液面電界強度は、エアーパージ型の静電気測定器(春日電機製 KSV−800AP)のプローブ(8)を下向きに設置(液面から15cm上方)して測定したところ−55V/cmに帯電していた。
上述のように、本実施例では、液面電界強度は−55V/cmに帯電しているにも拘わらず、灯油と接する反応容器本体(1)の導電性を有するグラスライニング層で1V/cm、灯油と接しない反応容器カバー(2)の導電性を有しないグラスライニング層で1V/cmと殆ど帯電は観察されず、良好な結果が得られた。
【0046】
実施例2
攪拌翼(4)及びバッフル(5)に、反応容器本体(1)と同様の導電性グラスライニング層を施釉した以外は、実施例1と同一の構成の反応容器を得た。
この反応容器について、実施例1と同様にして液面電界強度並びに壁面電界強度を測定したところ良好な結果が得られた。
【0047】
実施例3
攪拌翼(4)及びバッフル(5)の内容物と接する部位に、反応容器本体(1)と同様の導電性グラスライニング層を施釉し、その他の部位に反応容器カバー(2)と同様のグラスライニング層を施釉した以外は、実施例1と同一の構成の反応容器を得た。なお、導電性を有するグラスライニング層と、導電性を有しないグラスライニング層の接合面は、図3に記載する構成とし、接合面の長さは15mmとした。
この反応容器について、実施例1と同様にして液面電界強度並びに壁面電界強度を測定したところ良好な結果が得られた。
【0048】
実施例4
図2に示す構成を有し、鋼板を素地とする容量100リットルの反応容器本体(1)よりなる密閉型反応容器において、反応容器本体(1)の底部から点線(a)で示される部位(内容物と接する部位)に導電性を有するグラスライニング層を、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層をそれぞれ施釉した。なお、導電性を有するグラスライニング層と、導電性を有しないグラスライニング層の施釉は、上記実施例1と同様であり、導電性を有するグラスライニング層と、導電性を有しないグラスライニング層の接合面は、図3に記載する構成とし、接合面の長さは15mmとした。
また、マンホールカバー(7)は、導電性を有しないグラスライニング層で施釉した。
更に、弁棒(3)には、上記反応容器本体(1)と同様の導電性グラスライニング層を施釉した。
また、攪拌翼(4)及びバッフル(5)には、反応容器カバー(2)と同様の導電性を有しないグラスライニング層を施釉した。
この反応容器について、実施例1と同様にして測定した液面電界強度は−55V/cmであり、導電性を有するグラスライニング層の壁面電界強度は1V/cm、導電性を有しないグラスライニング層の壁面電界強度は2V/cmであり、良好な結果が得られた。
【0049】
実施例5
攪拌翼(4)及びバッフル(5)に、反応容器本体(10)の内容物と接する部位と同様の導電性グラスライニング層を施釉した以外は、実施例1と同一の構成の反応容器を得た。
この反応容器について、実施例1と同様にして液面電界強度並びに壁面電界強度を測定したところ良好な結果が得られた。
【0050】
実施例6
攪拌翼(4)及びバッフル(5)の点線(a)で示される位置から下方の部位(内容物と接する部位)に、反応容器本体(10)の内容物と接する部位と同様の導電性グラスライニング層を施釉し、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層を施釉した以外は、実施例1と同一の構成の反応容器を得た。なお、導電性を有するグラスライニング層と、導電性を有しないグラスライニング層の接合面は、図3に記載する構成とし、接合面の長さは15mmとした。
この反応容器について、実施例1と同様にして液面電界強度並びに壁面電界強度を測定したところ良好な結果が得られた。
【0051】
比較例1
図1に示す構成を有し、鋼板を素地とする容量100リットルの反応容器本体(1)と反応容器カバー(2)よりなる開放型反応容器において、反応容器本体(1)、反応容器カバー(2)、弁棒(3)、攪拌翼(4)、バッフル(5)マンホールカバー(7)に、普通グラスライニング組成物よりなる下ぐすりを1回施釉することにより厚さ0.3〜0.4mmの下ぐすり層を形成し、次に、該下ぐすり層上に普通グラスライニング組成物よりなる上ぐすりを4回施釉することにより厚さ1.0〜1.2mmの上ぐすり層を形成することにより導電性を有しないグラスライニング層(体積抵抗率1012〜1014Ωcm)で施釉した。
この反応容器について、実施例1と同様にして測定した液面電界強度は−53V/cmであり、内容物と接するグラスライニング層の壁面電界強度は−47V/cm、内容物と接しないグラスライニング層の壁面電界強度は1V/cmであり、内容物と接するグラスライニング層がかなり帯電しており、実機使用に耐えるものではなかった。
【0052】
比較例2
図1に示す構成を有し、鋼板を素地とする容量100リットルの反応容器本体(1)と反応容器カバー(2)よりなる開放型反応容器において、反応容器本体(1)、反応容器カバー(2)、弁棒(3)、攪拌翼(4)、バッフル(5)マンホールカバー(7)に、白金繊維含有導電性グラスライニング組成物よりなる下ぐすりを1回施釉することにより厚さ0.3〜0.4mmの下ぐすり層を形成し、次に、該下ぐすり層上に白金繊維含有導電性グラスライニング組成物よりなる上ぐすりを4回施釉することにより厚さ1.0〜1.2mmの上ぐすり層を形成することにより導電性を有するグラスライニング層(体積抵抗率10〜10Ωcm)で施釉した。
この反応容器について、実施例1と同様にして測定した液面電界強度は−55V/cmであり、内容物と接する導電性を有するグラスライニング層の壁面電界強度は−2V/cm、内容物と接しない導電性を有するグラスライニング層の壁面電界強度は1V/cmであり、本発明品と同等の性能を示した。
【0053】
上述のように、本発明の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器は、構成部材や部位毎に、導電性を有するグラスライニング層と導電性を有しないグラスライニング層を張り分けても、全てを導電性を有するグラスライニング層で施釉した反応容器と同等の帯電防止性能が得られ、高価な導電性を有するグラスライニング層の施釉面積を大幅に減少することができ、コスト的にも有利な導電性を有するグラスライニング施釉反応容器となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の導電性を有するグラスライニング層施釉反応容器は、化学工業、医薬品工業、食品工業等などの様々な業界において、静電気を帯電する可能性のあるグラスライニング層施釉反応容器に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 反応容器本体、2 反応容器カバー、3 弁棒、4 攪拌翼、5 バッフル、6 プロテクターリング、7 マンホールカバー、8 液面電界強度測定用のプローブ、9 壁面電界強度測定用のプローブ、10 攪拌中液面、11 素地。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなるグラスライニング施釉反応容器において、反応容器内部の内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項2】
反応容器の底部に内容物を排出するための弁棒を備え、かつ該弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなる、請求項1記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項3】
内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフルを備え、攪拌翼及びバッフルが導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなる、請求項1または2記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項4】
内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフルを備え、攪拌翼及びバッフルが導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなる、請求項1または2記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項5】
内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフルを備え、内容物と接する攪拌翼及びバッフルの部位が導電性グラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位に導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなる、請求項1または2記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項6】
鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなるグラスライニング施釉反応容器において、反応容器が、反応容器本体及び反応容器カバーから構成され、反応容器本体の底部には、反応容器本体の内容物を排出するための弁棒が設置され、反応容器カバーには、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフル、並びにプロテクターリングを介してマンホールカバーが設置されてなる開放型反応容器よりなり、反応容器本体の内側並びに弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項7】
攪拌翼及びバッフルが導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなる、請求項6記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項8】
攪拌翼及びバッフルの内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなる、請求項6記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項9】
鋼板またはステンレス鋼板を素地とし、その内側にグラスライニング層が施釉されてなるグラスライニング施釉反応容器において、反応容器が、反応容器本体から構成され、反応容器本体の底部には、反応容器本体の内容物を排出するための弁棒が設置され、反応容器本体の上部には、内容物を攪拌するための攪拌翼及びバッフル並びにプロテクターリングを介してマンホールカバーが設置されてなる密閉型反応容器よりなり、反応容器本体の内容物と接する部位並びに弁棒が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなることを特徴とする導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項10】
攪拌翼及びバッフルが導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなる、請求項9記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。
【請求項11】
攪拌翼及びバッフルの内容物と接する部位が導電性を有するグラスライニング層で施釉されてなり、その他の部位が導電性を有しないグラスライニング層で施釉されてなる、請求項9記載の導電性を有するグラスライニング施釉反応容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219287(P2012−219287A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83649(P2011−83649)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000209773)池袋琺瑯工業株式会社 (14)