説明

導電性ポリウレタン発泡材料

【課題】 導電剤の脱落が少ない導電性発泡材料の提供。
【解決手段】 連続気泡を有するポリウレタン発泡体に対して、カーボンナノチューブとバインダーとを含むカーボンナノチューブ分散液を含浸させて、溶媒を除去することにより得られる、導電性ポリウレタン発泡材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性発泡材料に関し、特に、ICなどの部品を梱包するための帯電防止性能を有する梱包材用の導電性ポリウレタン発泡材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種電子回路部品や、各種レンズの保護梱包材として、クッション性に優れた材料が用いられてきた。特にIC等の部品を梱包する場合、輸送による衝撃による破壊のみならず、帯電によってこれらの部品が破壊されてしまうことがあった。そのため、帯電防止のため導電性を有する材料が用いられてきた(特許文献1)。これらの導電材料の製造方法としては、カーボンブラックや金属粉末等の導電性物質をポリウレタン中に練り込むか、分散液を含浸コーティングする方法があった。また、基材と導電体のみからなる導電性材料において、導電体としてカーボンナノチューブ(CNT)、基体としてポリウレタンを選択することが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−207097号公報
【特許文献2】特許第3947776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリウレタンに導電性物質を練り込む場合、原料ポリオール等に導電剤を分散させる必要がある。その場合、得られるポリウレタンの導電性が低いため、大量に添加しないと効果が得られない。また、当該大量添加に伴い、ポリウレタン発泡体の比重が大きくなると同時に、コストも上がってしまう。そこで、主にカーボンブラック(CB)のような導電性物質を分散し、発泡体に含浸させる方法がとられる。しかし、このような方法では、導電性が比較的高いものが得られるが、脱落の問題がある。すなわち、カーボンブラックが脱落し、黒色の汚れが発生するという問題を有していた。また、特許文献2に示すようにCNTを用いた場合であっても、脱落の問題が発生するという問題を有していた。そこで、本発明は、導電剤の脱落が少ない導電性発泡材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(1)は、連続気泡を有するポリウレタン発泡体に対して、カーボンナノチューブとバインダーとを含むカーボンナノチューブ分散液を含浸させて、溶媒を除去することにより得られる、導電性ポリウレタン発泡材料である。
【0006】
本発明(2)は、前記分散液の固形分中のカーボンナノチューブの含有量が、0.1〜35質量%である、前記発明(1)の導電性ポリウレタン発泡材料である。
【0007】
本発明(3)は、前記カーボンナノチューブ分散液が、両性イオン界面活性剤を含有する、前記発明(1)又は(2)の導電性ポリウレタン発泡材料である。
【0008】
本発明(4)は、前記カーボンナノチューブ分散液が、更に、増粘剤を含む、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの導電性ポリウレタン発泡材料である。
【0009】
本発明(5)は、前記ポリウレタン発泡体が、軟質ウレタン発泡体である、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの導電性ポリウレタン発泡材料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明(1)に係る導電性ポリウレタン発泡体によれば、少量の導電剤を添加することにより十分な導電性が得られるため、導電剤の脱落が少なく、汚れが発生し難いという効果を奏する。更に、導電剤の脱落が少なくなるだけでなく、導電剤が発泡材料の物理的な性質に与える影響も最小限に抑えることができるため、例えば、高いクッション性を有する導電性ポリウレタン発泡材料が得られるという効果を奏する。
【0011】
本発明(2)によれば、特に顕著にカーボンナノチューブの脱落を防止することが可能となる。
【0012】
本発明(3)によれば、特に、カーボンナノチューブの分散性が高まるため、より高い導電性を有する導電性ポリウレタン発泡体を得ることができる。
【0013】
本発明(4)によれば、増粘剤により、目付量を調節しやすくなるという効果が得られる。
【0014】
本発明(5)によれば、より振動吸収性の高い導電性ポリウレタン発泡材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、脱落性試験において、導電剤の脱落なしの様子(a)と、導電剤の脱落ありの様子(b)を示した写真である。
【図2】図2は、実施例及び比較例に係る振動特性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本最良形態に係る導電性ポリウレタン発泡材料は、連続気泡を有するポリウレタン発泡体に対して、カーボンナノチューブとバインダーとを含むカーボンナノチューブ分散液を含浸させて、溶媒を除去することにより得られる。
【0017】
カーボンナノチューブ分散液
本最良形態に係るカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと、バインダーと、溶媒(分散媒)とを含有する。当該分散液は、更に、増粘剤を含有していてもよい。ここで、溶媒としては、水系溶媒、有機溶媒の何れであっても使用することができる。
【0018】
バインダーは、当該分散剤をポリウレタン発泡体に含浸させた後、カーボンナノチューブを当該ポリウレタン発泡体の骨格に固定する役割を果たす。ここで、バインダーは、カーボンナノチューブを固定することができれば特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)系樹脂が挙げられる。これらバインダーの中でも、アクリル系樹脂、SBR系樹脂が、カーボンナノチューブの脱落を良好に防ぐため好適であり、SBR系樹脂がカーボンナノチューブの脱落を特に良好に防ぐためより好適である。
【0019】
カーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)であっても、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよい。カーボンナノチューブの長さは、0.1〜100μmが好適であり、0.1〜50μmがより好適であり、0.1〜20μmが更に好適である。カーボンナノチューブの直径は、5〜100nmが好適であり、9〜60nmがより好適であり、9.5〜50nmが更に好適である。尚、当該チューブの長さ、直径は、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、所定範囲内に存在する100個以上の構造体について測定し、90%以上の個数が入る範囲とする。
【0020】
また、カーボンナノチューブの合成法も特に限定されず、いかなる合成方法、例えば、電気放電法(C.Journet et al., Nature 388, 756(1997)及びD.S. Bethune et al., Nature 363, 605(1993))、レーザー蒸着法(R.E.Smally et al., Science 273, 483(1996))、気相合成法(R.Andrews et al., Chem. Phys. Lett.,303,468, 1999)、熱化学気相蒸着法(W.Z.Li et al., Science, 274, 1701(1996)、Shinohara et al., Jpn.J.Appl.Phys. 37, 1257(1998))、プラズマ化学気相蒸着法(Z.F.Ren et al., Science. 282,1105(1998))等により製造されたものでもよい。尚、合成に際し金属触媒が用いられた粗生成物に関しては、酸で処理して金属触媒を除去することが好適である。酸処理に関しては、例えば、特開2001−26410記載のように、酸水溶液としては硝酸溶液または塩酸溶液を用い、例えば、硝酸溶液は50倍の水に希釈された溶液を、塩酸溶液も50倍の水に希釈された溶液を使用する手法を挙げることができる。そして、このように酸処理した後、洗浄し、フィルタリングし、カーボンナノチューブ水溶液とする。
【0021】
カーボンナノチューブは、当該分散液中で孤立分散していることが好適である。ここで、カーボンナノチューブが孤立分散した分散体を調製する手段としては、カーボンナノチューブを含む溶媒に孤立分散可能な分散剤を添加する方法や、カーボンナノチューブ自体に親水性の官能基を導入する化学修飾法(自己分散化)が挙げられる。ここで、孤立分散可能な分散剤としては、特に限定されないが、例えば、リン脂質系界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等の界面活性剤、シクロデキストリン類といった包摂化合物を形成するホスト化合物、その他核酸やたんぱく質等の天然由来の高分子化合物等が挙げられる。「リン脂質系界面活性剤」とは、リン酸基を官能基とする陰イオン性界面活性剤・両性イオン界面活性剤であり、リン脂質(グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質の両方を含む)及び改質リン脂質(例えば、水素添加リン脂質、リゾリン脂質、酵素変換リン脂質、リゾホスファチジルグリセロール、他の物質との複合体)のいずれでもよい。このようなリン脂質は、生物を構成する細胞の種々の膜系、例えば原形質膜、核膜、小胞体膜、ミトコンドリア膜、ゴルジ体膜、リソソーム膜、葉緑体膜、細菌細胞膜に存在し、好適には、リポソームの調製に用いられるリン脂質が好適である。具体的には、例えば、ホスファチジルコリン{例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトリルホスファチジルコリン(DPPC)}、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンを挙げることができる。特に好適な界面活性剤は、両性イオン界面活性剤である。両性イオン界面活性剤としては、四級アンモニウム塩基/スルホン酸基(−SOH)タイプ、四級アンモニウム塩基/リン酸酸基タイプ(水に可溶)、四級アンモニウム塩基/リン酸酸基タイプ(水に不溶)、四級アンモニウム塩基/カルボキシル基タイプの両性イオン界面活性剤が挙げられる。尚、前記の酸基は塩であってもよい。特に、前記の両性イオン界面活性剤が一分子中に+と−の両電荷を有することが好適であり、前記の酸基の酸解離定数(pKa)が、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。具体的には、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CHAPSO)、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−プロパンスルホン酸(CHAPS)、N,N−ビス(3−D−グルコナミドプロピル)−コラミド、n−オクタデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−デシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−ドデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−テトラデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸{Zwittergent(商標)−3−14}、n−ヘキサデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−オクタデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸等のアンモニウムスルホベタイン類、n−オクチルホスホコリン、n−ノニルホスホコリン、n−デシルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリン等のホスホコリン類、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン等のホスファチジルコリン類が挙げられる。
【0022】
本最良形態において用いられる水系溶媒とは、水又は水と親水性溶媒(例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、2−ブタノン(MEK)等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド類、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、が挙げられる。)との混合液を意味する。
【0023】
有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、芳香族炭化水素類であるトルエン、ベンゼン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化芳香族炭化水素類であるクロルベンゼン、オルト−ジクロルベンゼン、塩化脂肪族炭化水素類である塩化メチレン、クロロホルム(トリクロルメタン)、四塩化炭素(テトラクロルメタン)、1,2−ジクロルエタン、1,1,1−トリクロルエタン、1,1,2,2−テトラクロルエタン、1,2−ジクロルエチレン、トリクロルエチレン、トラクロルエチレン(パークロルエチレン)、アルコール類であるメタノール(メチルアルコール)、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール(イソアミルアルコール)、ブチルアルコール、シクロヘキサノール、エステル類である酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル(酢酸アミル)、酢酸イソペンチル(酢酸イソアミル)、エーテル類であるエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ケトン類であるアセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホン、グリコールエーテル(セロソルブ)類であるエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)、脂環式炭化水素類であるシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、脂肪族炭化水素類であるノルマルヘキサン、脂肪族または芳香族炭化水素の混合物であるガソリン、ベンジン、ゴム揮発油、大豆揮発油、ミネラルスピリット、クリーニングソルベント、コールタールナフサ(沸点範囲120〜160℃、120〜180℃、140〜200℃)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、ミネラルスピリット、脂環族炭化水素(テレビン油)、混合炭化水素(HAWS、ソルベット100、ソルベット150)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カービトール、ブチルカービトール、メトキシブタノール)及びエステルエーテル類(酢酸セロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、酢酸カービトール、酢酸メトキシブチル)、シリコーンオイル類(ポリジメチルシロキサン、部分オクチル置換ポリジメチルシロキサン、部分フェニル置換ポリジメチルシロキサン)、ハロゲン化炭化水素(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム、ブロモベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン)、フッ素化物類、その他であるクレゾール、二硫化炭素、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。またこれらを2種以上混合してもよい。
【0024】
本最良形態に係るカーボンナノチューブ分散液には、増粘剤が含まれていてもよい。増粘剤としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、アルギン酸ソーダ、ポリアクリルアミド、澱粉、等が挙げられる。
【0025】
本最良形態に係る分散液において、固形分中のカーボンナノチューブの含有量は、0.1〜35質量%である。また、カーボンナノチューブの含有量は30質量%以下が好適であり、25質量%以下がより好適であり、6質量%以下が更に好適である。これらの範囲に設定することにより、カーボンナノチューブの脱落を防止することができる。導電材料としてカーボンナノチューブを使用することにより導電材料の使用量を少なくできると共に、バインダーの割合が大きくなるため、当該バインダーに包まれるようにカーボンナノチューブがポリウレタン骨格表面に付着するため、脱落がほとんどなくなると考えられる。カーボンナノチューブのバインダーとの質量比([カーボンナノチューブ(g)]/[バインダー(g)])は、0.5以下が好適であり、0.45以下がより好適であり、0.40以下が更に好適である。当該質量比の下限値は特に限定されないが、例えば、0.001以上である。尚、分散剤のカーボンナノチューブに対する質量比は、0.01〜100が好適であり、0.05〜20がより好適であり、0.1〜10が更に好適である。
【0026】
ポリウレタン発泡体
ここで本最良形態に係るポリウレタン発泡体について詳細に説明する。ポリウレタン発泡剤は、ポリオール類と、ポリイソシアネート類を原料とする。
(ポリオール類)
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール又はポリエステルポリオールが単独又は混合して用いられる。これらの中でも、ポリエーテルエステルポリオールが好ましい。
【0027】
ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、その変性体等が用いられる。変性体としては、前記ポリエーテルポリオールにアクリロニトリル又はスチレンを付加させたもの、或はアクリロニトリルとスチレンの双方を付加させたもの等が挙げられる。ここで、多価アルコールは1分子中に水酸基を複数個有する化合物であり、例えばグリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。ポリエーテルポリオールとして例えば、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。
【0028】
ポリエーテルエステルポリオールは、ポリオキシアルキレンポリオールに、ポリカルボン酸無水物と環状エーテル基を有する化合物とを反応させて得られる化合物である。ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。ポリカルボン酸無水物としては、コハク酸、アジピン酸、フタル酸、トリメリット酸等の無水物が挙げられる。環状エーテル基を有する化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。これら3成分を反応させる順序については特に限定されない。例えば、3成分を同時に反応させる方法、ポリオキシアルキレンポリオールとポリカルボン酸無水物に環状エーテル基を有する化合物を吹き込んで反応させる方法、ポリオキシアルキレンポリオールとポリカルボン酸無水物の一部を反応させ、それに環状エーテル基を有する化合物とポリカルボン酸無水物の残部を反応させる方法等がある。ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。
【0029】
これらのポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0030】
(ポリイソシアネート類)
次に、ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)や、これらの変性物等が挙げられる。
【0031】
ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は100〜130の範囲に設定することが好ましい。イソシアネート指数が100未満の場合にはポリウレタン発泡体の硬さ、引張強さ等の物性が低下し、130を越える場合にはポリウレタン発泡体の架橋密度が高くなり過ぎて好ましくない。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、イソシアネート指数が100を越えるということは、ポリイソシアネート類がポリオール類に対して過剰であることを意味する。
【0032】
(発泡剤)
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかジクロロメタン(塩化メチレン)、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、炭酸ガス等が挙げられる。これらの発泡剤のうち、ポリイソシアネート類と速やかに反応して十分な炭酸ガスを発生でき、取扱いが良好である点から水が好ましい。発泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり1〜5質量部であることが好ましい。発泡剤の含有量が1質量部未満の場合には、発泡が不十分となり、低密度の発泡体が得られ難くなる。一方、5質量部を越える場合には、発泡が過剰となり、発泡体の硬さ、引張強さ等の物性が低下する。
【0033】
(触媒)
触媒は主としてポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応やポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応を促進する。触媒として、例えば、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン(アミン触媒)、オクチル酸スズ(スズオクトエート)、ラウリン酸ジブチルスズ(ジブチルスズジラウレート)等の有機金属化合物(金属触媒)、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。これらの物質は単独、或いは混合して用いられる。触媒としては、その効果を高めるためにアミン触媒と金属触媒とを組合せて用いることが好適である。
【0034】
触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.05〜2.0質量部であることが好ましい。触媒の含有量が0.05質量部未満の場合、ウレタン化反応や泡化反応などの進行が十分ではなく、発泡体の機械的物性等が低下する傾向を示す。一方、2.0質量部を越える場合、ウレタン化反応や泡化反応が過剰に促進されるとともに、両反応のバランスが悪くなり、発泡体の歪特性が低下する。
【0035】
(整泡剤)
整泡剤は発泡を円滑に行うためにポリウレタン発泡体の原料に配合されることが好ましく、係る整泡剤としては、ポリウレタン発泡体の製造に際して一般に使用されるものを用いることができる。整泡剤として、例えば、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が挙げられる。これらの中でも、線状或いは分枝状ポリエーテル−シロキサン共重合体が好ましく、特に連通性を高めるためには整泡力の低い線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体がより好ましい。整泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜2.5質量部であることが好ましい。この含有量が0.5質量部未満の場合には、ポリウレタン発泡体の原料の発泡時における整泡作用が十分に発現されず、良好な発泡体を得ることが難しくなる。一方、2.5質量部を越える場合には、整泡作用が強くなり、セルの連通性が低下する傾向を示す。
【0036】
(その他の配合剤)
ポリウレタン発泡体の原料にはその他必要に応じて、架橋剤、酸化防止剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等を常法に従って配合することができる。
【0037】
(ポリウレタン発泡体の製造)
次に、上記のポリウレタン発泡体の原料を用いてポリウレタン発泡体を製造する場合には常法に従って行われる。すなわち、発泡体の製造にあたって、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法、或いはポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のどちらも採用される。そして、ポリオール類とポリイソシアネート類との混合液、或いはプレポリマーとポリオール類との混合液に、発泡剤を混和し、さらに整泡剤、触媒、消臭剤などを添加して攪拌、混合し、それらの原料をウレタン化反応、架橋反応などによって反応させると共に、泡化反応によって発泡させる。
【0038】
発泡形態としては、金型を用いるモールド発泡のほか、自然発泡させるスラブ発泡が採用されるが、発泡の容易性及び生産性の点からスラブ発泡が好ましい。スラブ発泡は、攪拌、混合された原料をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に原料が常温、大気圧下で反応し、自然発泡することで行われる。その後、乾燥炉内で硬化(キュア)することにより、スラブ発泡体が得られる。ポリウレタン発泡体を製造する際の反応は複雑であるが、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類とが付加重合するウレタン化反応、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋反応である。
【0039】
本最良形態に係る導電性ポリウレタン発泡材料の目付量は、前記発泡ポリウレタン発泡体の1mあたりの前記分散液中の固形分の付着量(kg)と定義される。ここで、当該目付量は、30kg/m以下が好適であり、25kg/m以下がより好適であり、20kg/m以下がより好適である。目付量の下限値は、特に限定されないが、例えば、1kg/m以上である。
【0040】
本最良形態に係る導電性ポリウレタン発泡体の引張強さは、特に限定されないが0.18MPa以上が好適である。引張強さの上限は特に限定されないが、例えば、1.0MPa以下である。導電性ポリウレタン発泡体の伸びは、特に限定されないが200%以上が好適である。伸びの上限は特に限定されないが、例えば、1000%以下である。導電性ポリウレタン発泡体の引裂強さは、特に限定されないが、9.5N/cm以上が好適である。引裂強さの上限は特に限定されないが例えば100N/cm以下である。導電性ポリウレタン発泡材料の振動特性に関して、100Hzにおける振動伝達率が0dB以下となることが好適である。尚、本最良形態に係る導電性ポリウレタン発泡体の体積抵抗は、要求される特性により適宜設定可能である。
【0041】
導電性ポリウレタン発泡体の製造方法
本最良形態に係る導電性ポリウレタン発泡体は、ポリウレタン発泡体にカーボンナノチューブ分散液を含浸する含浸工程と、溶媒を除去する溶媒除去工程とを有する。含浸工程においては、公知の含浸方法を使用可能である。また含浸後、ポリウレタン発泡体内に含まれる余剰の分散液を絞り出して、次の溶媒除去工程へと進むことが好適である。溶媒除去工程においては、公知の溶媒除去方法を使用することが可能であり、例えば、常温常圧で放置して乾燥させたり、減圧にしたり、温度を上げるなどして乾燥をはやめてもよい。
【実施例】
【0042】
ポリウレタン発泡材料(イノアック社製、軟質ウレタンフォームEMM 10mm×100mm×100mm)を、以下の表1に示す配合のカーボンナノチューブ分散液に含浸した。含浸後、分散液からポリウレタン発泡材料を取り出し、余分な分散液を絞り出して、乾燥させることにより、導電性ポリウレタン発泡体が得られた。表1中のCNT分散液は、カーボンナノチューブと、両性イオン界面活性剤と、水とを含む。尚、カーボンナノチューブとして、バイエル社製マルチウオールカーボンナノチューブC150P(チューブ径13〜16nm、長さ1〜10μm)を3質量%使用した。また、両性イオン界面活性剤として、3−(N,N−ジメチルテトラデシルアンモニオ)プロパンスルホネートを1.4質量%使用した。尚、ニポールLX−852は、アクリレート系樹脂を含むバインダーであり、ニポールLX−206はSBR系樹脂を含むバインダーであり、CRT−30Gは増粘剤である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
上記で得られた試料の各種物性を評価した。ここで、引張強さ(MPa)、伸び(%)、引裂強さ(N/cm)及びF硬度は、JIS K6767の方法により測定した。体積抵抗(Ωcm)は、SRIS 2301の方法により測定した。結果は表3に示す。尚、添着CNT(%)は、導電性ポリウレタン発泡体全体重量中のCNT含有重量である。
【0046】
<脱落性試験方法>
振とうマイクロチューブに5mm×5mm×10mmの試料を入れて、イオン交換水を入れて軽く水になじませた後に、超音波照射して、3時間処理した後のその様子を観察した。図1は、試験終了後のカーボンナノチューブの脱落がない様子(a)及び脱落がある様子(b)を示した写真である。結果は、表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
<振動特性評価>
実施例及び比較例の試料の振動特性の評価は、エミック(株)製 振動発生機を用いて、以下の条件で行なった。尚、結果は図2に示した。
試験時温度:26℃
サンプルサイズ:φ50mm
試験化速度:オーバーオール約0.3Gのホワイトノイズ・ランダム加振(〜1000Hz)
負荷おもり:556g(28.3g/cm
・試料と加振台・おもり間は粘着貼り付け
【0049】
振動特性の結果によれば、同じポリウレタン発泡体を用いても、本実施例に係る配合の分散液を使用した場合には、図中の最も顕著な極大点として観察される共振点周波数をはじめとして、ポリウレタンの振動特性が全体的に低振動数側にシフトし、同じ振動数で比較しても、比較例の振動数よりも低い振動伝達率(dB)を示すため、高い振動吸収特性を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡を有するポリウレタン発泡体に対して、カーボンナノチューブとバインダーとを含むカーボンナノチューブ分散液を含浸させて、溶媒を除去することにより得られる、導電性ポリウレタン発泡材料。
【請求項2】
前記分散液の固形分中のカーボンナノチューブの含有量が、0.1〜35質量%である、請求項1記載の導電性ポリウレタン発泡材料。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ分散液が、両性イオン界面活性剤を含有する、請求項1又は2記載の導電性ポリウレタン発泡材料。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ分散液が、更に、増粘剤を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の導電性ポリウレタン発泡材料。
【請求項5】
前記ポリウレタン発泡体が、軟質ウレタン発泡体である、請求項1〜4のいずれか一項記載の導電性ポリウレタン発泡材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−84604(P2011−84604A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236613(P2009−236613)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】