説明

導電性塗料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基体に塗膜を形成して、液晶表示素子、光半導体などの電極や、航空機、自動車などの窓ガラスの氷結防止あるいは防曇の発熱体として使用するのに適した導電性塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】上記の導電性塗料は、通常、導電性の金属酸化物粉末と樹脂バインダーとを溶剤に混和してつくる。従来のこの種の塗料としては、たとえば、特開昭62−4761号公報に、樹脂バインダーにエステル結合を有する塩化ビニル系樹脂を用い、導電性酸化錫、または導電性酸化インジウムの微粉末を塗料中に分散させたものが開示され、また、特開昭63−66267号公報に、導電性微粉末を粒径0.2ないし0.6μmの二次凝集物になるように分散させたものが開示されている。
【0003】こうした導電性塗料は、真空蒸着、スプレー、CVD、バーコート、スクリーン印刷などの方法で基体表面に塗膜を形成させ、前記の分野に利用されている。このうち、スクリーン印刷は、導電性塗料を基体にパターン状に塗布して塗膜を形成することができるために、エッチング工程が不要であること、高価な設備を必要としないなどの利点があり、魅力的な方法である。
【0004】しかし、従来の導電性塗料をスクリーン印刷に使用すると、スクリーンの目詰まりが起りやすく印刷性が悪い、得られた塗膜の基体への密着性がよくない、表面抵抗値が著しく高いなど、数々の問題が発生し、スクリーン印刷の利点を十分に活かすことができなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の問題を解決し、スクリーン印刷の特徴を活かせる、スクリーンの目詰りを起しにくく、基体への塗膜の密着性が高く、しかも塗膜の表面抵抗値の低い、全体にバランスの取れた特性を有する導電性塗料の提供を課題とする。
【0006】
【課題を解決する手段】そこで、発明者は、前記の目的を達成するため導電性塗料の組成を種々検討した結果、導電性塗料が含有する金属酸化物粉末の比表面積、塗料中に含まれる金属酸化物粉末の重量比率、および樹脂バインダーに対する溶剤の混合比率などが、スクリーン印刷への適応性、並びに得られた塗膜の特性に大きく影響していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち、上記課題を解決する手段として本発明は、30ないし70重量%の金属酸化物粉末と、樹脂バインダーと、その樹脂バインダー1重量部に対して2ないし4重量部の溶剤とを含み、かつ、前記金属酸化物粉末は比表面積が25ないし150m2 /gの範囲にあることを特徴とする導電性塗料を提供するものである。
【0008】
【作用】本発明について、さらに詳しく説明する。
【0009】本発明に使用する金属酸化物粉末としては、導電性の金属酸化物粉末そのもの、もしくは導電性の金属酸化物に無機化合物あるいは元素を添加した粉末、またはそれらの混合粉末があげられる。たとえば、SnO2 にSb、P、Fなどを添加した粉末、ZnOにCd、Gd、SnO2 、Inなどを添加した粉末、In2 3 −SnO2 粉末(以下、ITOという)などがある。これらの中ではITOが導電性が大きく、しかも樹脂および有機溶剤との親和性があって塗布性に優れ、導電性、透明性のよい、均一で安定した導電性塗膜を得やすいので好ましい。
【0010】本発明では、上記の金属酸化物粉末の比表面積を25ないし150m2 /g、好ましくは50ないし130m2 /gになるように調整して使用する。比表面積が25m2 /g未満であると塗膜のヘーズ値が増大し、比表面積が150m2 /gを超えると粉末が凝集し、均一に分散しにくくなって塗膜の透明度などが低下する。なお、本発明にいう比表面積はBET法による測定値である。
【0011】このようにして調整した金属酸化物粉末は、塗料中に30ないし70重量%、好ましくは40ないし60重量%含ませる。金属酸化物粉末が塗料中、30重量%未満であると、得られた塗膜の導電性が悪くなる。塗膜中の金属酸化物粒子間の距離が開きすぎるためと考えられる。逆に70重量%を超えると、基体への密着性が悪くなり、透明度も低下する。樹脂バインダー量が相対的に低下して密着性が悪くなり、また粒子自体が透明でないので可視光の散乱が起り透明度が低下するためと考えられる。
【0012】また、本発明では、各種の有機重合体を樹脂バインダーとして使用することができる。スクリーン印刷への適応性、並びに得られる塗膜の特性を考えると、金属酸化物粉末との親和力が大きく、優れた分散性と安定した分散体が得られる、透明度の大きい重合体、たとえばポリエステル、ポリウレタン、アクリル系重合体など、もしくはこれら重合体の混合物などが好ましい。
【0013】これらのなかでは、グリコールと二塩基酸とから合成されるポリエステルが好ましい。
【0014】グリコールとしては、脂肪族グリコール、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなど;脂環族グリコール、たとえば1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなど;および芳香族グリコール、たとえばビスフェノールAのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物など、およびこれらの組合せがあげられる。なかでも、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、およびビスフェノールSのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの付加物などを組合せて用いることが好ましい。
【0015】二塩基酸としては、芳香族二塩基酸、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸など;脂環族二塩基酸、たとえば水添テレフタル酸など;および脂肪族二塩基酸、たとえばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、α−Ω−オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸など、およびこれらの組合せがあげられる。なかでも、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を加えておくことが好ましい。また、これら二塩基酸の低級アルキルエステル化合物も使用できる。
【0016】本発明では、上記のグリコールおよび/または二塩基酸を単独または2種以上組合せて重合し、あるいは得られたポリエステルを単独または2種以上混合して使用することができる。また、目的によっては少量の三価以上のポリオールあるいはポリカルボン酸を共重合してもよい。
【0017】樹脂バインダーは、共重合組成比を調整することによりガラス転移点(Tg)を変化させ、溶剤への溶解性や樹脂の柔軟性を調整することができる。一般的にガラス転移点が約40〜約100℃になるように調整するとよい。Tgが低くなると溶剤への溶解性はよくなるが得られた塗膜が柔軟になり、Tgが高くなるとその逆になる。
【0018】また、本発明では、炭化水素類、カルボン酸エステル類、フェノール類、エーテル類、アルデヒドおよびケトンなどのカルボニル化合物類、アミン類、その他の各種の有機溶剤を単独、または混合して使用することができる。
【0019】使用する溶剤量は、樹脂バインダー1重量部に対し2ないし4重量部の範囲である。すなわち、4重量部をこえて多量に使用すると塗膜の基板への密着性と塗膜自体の強度などが低下し、2重量未満になると導電性や透明度などが低下する。使用量は、金属酸化物粉末、樹脂バインダーや溶剤の種類によって異なるが、2.5から3.5重量部の範囲内にすることがさらに好ましい。
【0020】この他、本発明の導電性塗料には目的に応じ、分散剤、安定剤、耐候剤、耐オゾン剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。
【0021】
【実施例】つぎに実施例をあげて説明する。
【0022】実施例 1〜3まず、導電性塗料成分中の樹脂バインダーに対する溶剤の混合比率の影響を検討した。
【0023】比表面積が一定の金属酸化物粉末を塗料中で一定重量比率になるように加え、樹脂バインダーに対する溶剤の混合比率を種々変えて、導電性塗料を調合し、実際にスクリーン印刷した。
【0024】すなわち、アルミナ製のボールミルを用い、比表面積が100m2 /gのITO粉末(F−ITO:同和ケミカル(株)製)と、樹脂バインダーとしてポリエステル樹脂(ケミットK−1294:東レ(株)製)と、溶剤としてケトン類のイソホロンとを表1に示す混合比で約3時間混合、分散して、実施例1〜3の透明な導電性塗料を調合した。これらの導電性塗料を225メッシュのポリエステル製のスクリーンを用い、ガラス板上にスクリーン印刷し、スクリーンの目詰り状況を観察した。その結果、10回以上印刷しても目詰りを起こさないものを○、4〜10回で目詰りを起こし印刷困難になるものを△とし表1に示した。
【0025】ついで、印刷したガラス板を110℃で約1時間乾燥した後、得られた塗膜の特性を以下に説明する方法で測定した。
【0026】塗膜の密着性は、乾燥後の塗膜表面を先の尖った硬度Hの鉛筆で擦り、塗膜に残る傷の状態を観察した。観察結果を、○は表面に全く傷が残らない状態、△は一部に傷が残る状態、×は擦った後が傷になる状態として表1に示した。
【0027】表面抵抗値は、表面抵抗計(三菱油化(株)製)を用い、JIS K6911に記載の方法により、また、塗膜の全光線透過率およびヘーズ値は、ヘーズコンピュータ(スガ試験機(株)製)を用い、JIS K7105に記載の方法によって測定し、いずれも表1に示した。
【0028】比較例 1〜2実施例1〜3で調合した導電性塗料と比較するために、樹脂バインダーに対する溶剤の混合比率をさらに変えた透明導電性塗料を、実施例1〜3に用いたのと同じ原料と方法で調合し、スクリーン印刷をおこなった。印刷状態、得られた塗膜の特性を実施例と同様の方法で観察、測定した。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


実施例 4〜5つぎに、塗料中に含まれる金属酸化物粉末の重量比率の影響を検討した。
【0030】樹脂バインダーに対する溶剤の重量比率を3.2とし、塗料中に含まれる金属酸化物粉末の重量比率を変えたほかは、実施例1〜3と同じ原料と方法を用い導電性塗料を調合し、得られた塗料を用いてスクリーン印刷し、その特性を観察、測定した。結果を表2に示す。
【0031】比較例 3〜4実施例4〜5と同様にして、導電性塗料中に含まれる金属酸化物の重量比率をさらに変え、その影響を観察、測定した。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】


実施例 6〜8さらに、塗料に調合する金属酸化物粉末の比表面積の影響を検討した。
【0033】樹脂バインダーに対する溶剤の重量比率を3.2、塗料中に含まれる金属酸化物粉末の重量比率を50重量%とし、金属酸化物粉末の比表面積を種々変え、その他の条件は実施例1〜3と同様にして導電性塗料を調合し、得られた塗料を用いてスクリーン印刷し、その特性を観察、測定した。その結果を表3に示す。
【0034】比較例 5〜6実施例6〜8と同様にして、導電性塗料中に含まれる金属酸化物の比表面積をさらに変え、その影響を観察、測定した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】


【0036】
【発明の効果】本発明の導電性塗料によれば、強固で基体への密着性に優れ、全光線透過率が高く、表面抵抗値およびヘイズ値の低いバランスのとれた塗膜を形成できる。とくに目詰りを起しにくいためにスクリーン印刷に適合し、その利点を活かして優れた塗膜が経済的に得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 30ないし70重量%の金属酸化物粉末と、樹脂バインダーと、その樹脂バインダー1重量部に対して2ないし4重量部の溶剤とを含み、かつ、前記金属酸化物粉末は比表面積が25ないし150m2 /gの範囲にあることを特徴とする導電性塗料。

【特許番号】第2948927号
【登録日】平成11年(1999)7月2日
【発行日】平成11年(1999)9月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−36141
【出願日】平成3年(1991)3月1日
【公開番号】特開平4−275377
【公開日】平成4年(1992)9月30日
【審査請求日】平成9年(1997)9月26日
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)