説明

導電性多孔質層が形成された固体高分子形燃料電池用ガス拡散層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池

【課題】ガス透過性・拡散性を付与できる導電性多孔質層を安定的に形成させるための導電性多孔質層形成ペースト組成物及び、その導電性多孔質層が導電性多孔質基材上に形成されたガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池用ガス拡散層は、導電性多孔質基材上に、導電性多孔質層が形成された固体高分子形燃料電池用ガス拡散層であって、前記導電性多孔質層は、少なくとも導電性炭素粒子、撥水性樹脂及び分散剤を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物により導電性多孔質基材上に形成されてなり、前記導電性多孔質層は、細孔径が25〜1000nmの細孔容積の和が1.4ml/g以上であり、且つ、クラック占有面積が0.8%〜2.5%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性多孔質層が形成された固体高分子形燃料電池用ガス拡散層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池を構成する電解質膜−電極接合体(MEA)は、ガス拡散層、触媒層、イオン伝導性固体高分子電解質膜、触媒層及びガス拡散層が順次積層された構造を有している。
【0003】
このうち、ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に行き渡らせる役割を果たすため、良好なガス透過性及び拡散性を備えていることが必要とされる。また、触媒層で発生した電子が効率的にセパレータへ輸送されるための導電性を有していることも必要である。このため、ガス拡散層の材質には、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材が一般的に使用されている。
【0004】
更に、この導電性多孔質基材上に導電性炭素粒子や撥水性樹脂などからなる導電性多孔質層を形成することでガス拡散層のガス透過性・ガス拡散性の制御や抵抗値を低減することができる。
【0005】
従来の導電性多孔質層の作製方法としては、まず特許文献1の請求項2の様に、撥水性樹脂の低分子量と高分子量の2成分のフッ素系樹脂を混合して使用する場合がある。しかし、高分子量のフッ素系樹脂が繊維化を引起すため、ペースト内で塊状の物質を形成するため成膜に悪影響を与えるため、導電性多孔質層の形成が困難である。仮にガス拡散層を作製できたとしても、この状態のペーストを使用した場合、導電性多孔質層の薄膜形成が困難となり、ガス透過性へ悪影響を及ぼす。
【0006】
また、撥水性樹脂として繊維化された撥水材を使用することも知られているが、特許文献1の場合と同様にペースト作製段階で塊状の物質が多量に形成され、成膜性へ悪影響を及ぼす。また、ペースト粘度増加により薄膜形成が困難なことや、繊維化する状況を毎回、同様に制御することは困難であるためペーストの安定性も乏しい。
【0007】
また特許文献2の様に、非繊維状撥水材として低分子量(分子量:100万以下)のもののみを使用した場合、導電性多孔質層を形成するためのペースト作製時での繊維化を起こさないため、ペースト作製は容易である。しかし、このペーストを用いて導電性多孔質基材上に導電性多孔質層を形成すると、バインダー成分の柔軟性が低く、また基材との密着性が悪く膜剥離を起こし易いために、成膜性の悪い膜しか形成できないため、導電性多孔質層の形成が困難である。
【0008】
また導電性多孔質層は触媒層上へ燃料を供給する最近接部位であり、導電性多孔質層のクラックの入り方と細孔形成がガス透過性やガス拡散性に大きく影響を及ぼし、発電性能を左右する。しかし、この導電性多孔質層のクラック形成状態と細孔形成状態を共に良好に満たすものは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−278037号公報
【特許文献2】特開2002−25575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記、導電性多孔質層の形成に関する課題を解決しようとするものであり、安定性のある導電性多孔質層形成用ペーストを作製し、一段と優れたガス透過性及びガス拡散性を付与できる導電性多孔質層が導電性多孔質基材上に形成されたガス拡散層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、導電性多孔質基材(ガス拡散層)に所望の性能を付与すべく、鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の成分を特定量含む導電性多孔質層形成用ペーストを作製し、その導電性多孔質層を導電性多孔質基材の表面上に形成させることにより、上記課題を解決でき、導電性多孔質基材に一段と優れたガス透過性及びガス拡散性を付与できることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のガス拡散層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池を包含する。
【0013】
項1.導電性多孔質基材上に、導電性多孔質層が形成された固体高分子形燃料電池用ガス拡散層であって、前記導電性多孔質層は、少なくとも導電性炭素粒子、撥水性樹脂、及び分散剤を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物により導電性多孔質基材上に形成されてなり、
前記導電性多孔質層は、細孔径が25〜1000nmの細孔容積の和が1.4ml/g以上であり、且つ、クラック占有面積が0.8%〜2.5%である、固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【0014】
項2.撥水性樹脂の数平均分子量が、100万より大きく、500万より小さい、項1に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【0015】
項3.分散剤がノニオン系分散剤である、項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【0016】
項4.さらに、導電性炭素繊維を含む、項1〜3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【0017】
項5.項1〜4のいずれかに記載のガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池。
【0018】
項6.少なくとも導電性炭素粒子、数平均分子量が100万より大きく500万より小さい撥水性樹脂、及びノニオン系分散剤を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物。
【0019】
項7.さらに、導電性炭素繊維を含む、項6に記載の導電性多孔質層形成用ペースト組成物。
【0020】
項8.少なくとも導電性炭素粒子、数平均分子量が100万より大きく500万より小さい撥水性樹脂、及びノニオン系分散剤を、0.1〜0.85m/sの周速で攪拌させる工程を備える、項6又は7に記載の導電性多孔質層形成用ペースト組成物の製造方法。
【0021】
1.ガス拡散層
本発明のガス拡散層は、ガス透過性及び拡散性が良好な導電性多孔質層が、導電性多孔質基材上に形成される。なお、この導電性多孔質層は、「Micro−porous Layer」(MPL)とも称されている。
【0022】
<導電性多孔質層>
前記導電性多孔質層は、少なくとも導電性炭素粒子、撥水性樹脂及び分散剤を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物により形成されてなる層である。この導電性多孔質層は、前記導電性多孔質層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥及び焼成させることにより、形成することができる。
【0023】
導電性炭素粒子
導電性炭素粒子は、導電性を有する炭素材であれば特に限定されず、公知又は市販のものを使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭等が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上で用いることができる。導電性炭素粒子等を含有する導電性多孔質層(MPL)を施すことによりガス拡散層の導電性を向上させることができる。
【0024】
導電性炭素粒子の平均粒子径(算術平均粒子径)は限定的でなく、通常5nm〜200nm程度、好ましくは20nm〜80nm程度とすればよい。この導電性炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0025】
撥水性樹脂
撥水性樹脂としては、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられ、フッ素系樹脂が好ましい。
【0026】
撥水性樹脂としては、数平均分子量が100万より大きく、500万より小さいものが好ましく、特に200万〜400万程度のものが好ましい。数平均分子量が小さい程バインダーとしての機能が低く、塗膜に多くのクラックが発生し、電池性能も低下し、大きい程、繊維化する撥水性樹脂が増加し、撥水性樹脂とカーボン材料との凝集物を生成し易い。なお、凝集物が多く生じると導電性多孔質層の表面起伏も大きくなり接触抵抗が増加する傾向にある。また成膜後の膜中に凝集物が多く存在すると導電性多孔質層のガス透過性及びガス拡散性に対しても悪影響を及ぼす。なお、撥水性樹脂の数平均分子量は、例えば、融点や標準比重により測定することができる。
【0027】
このような撥水性樹脂を使用することで、撥水性樹脂が繊維化しにくく、成膜性及び安定性が優れるペースト組成物を作製できる。なお、本発明のペースト組成物において、「撥水性樹脂が繊維化しない」とは、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を乾燥させた際に、撥水性樹脂からなる100nm以下の繊維径の繊維が実質的に存在しない状態を言う。また、撥水性樹脂が繊維化しているかどうかは、例えば、導電性多孔質層形成用ペーストを乾燥させた物の表面又は断面をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)、走査型顕微鏡(SEM)等により観察することができる。
【0028】
好ましい撥水性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。具体的には、例えば、市販のAD911L(旭硝子(株)製)、D−210C(ダイキン工業(株)製)を使用できる。なかでも、AD911L(旭硝子(株)製)等が好ましい。
【0029】
このような撥水性樹脂を含有することにより、ガス拡散層に撥水性を付与できると共に、導電性炭素粒子を導電性多孔質基材表面により強固に結着できるため、撥水性を長期に亘り保持することができる。なお、撥水性樹脂としては、数平均分子量が100万より大きく500万より小さいもののみを使用してもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、数平均分子量が100万より大きく500万より小さい樹脂と、数平均分子量が100万以下の樹脂とを併用してもよい。
【0030】
分散剤
分散剤は、本発明ではカーボン材料との吸着性と撥水性樹脂との濡れ性の観点から、カーボン材料と撥水性樹脂を水中で分散させることができるものを使用すればよい。例えば、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等のノニオン系分散剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジウムクロリド等のカチオン系分散剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等のアニオン系分散剤等を、カーボン材料及び撥水性樹脂の種類に応じて使用すればよい。例えば、導電性炭素粒子としてファーネスブラック、導電性炭素繊維としてVGCF、撥水性樹脂として数平均分子量が100万〜500万のPTFEを使用する場合には、ノニオン系分散剤、特に、アリール基が構造中にあることが好ましい。
【0031】
導電性炭素繊維
導電性多孔質層形成用ペースト組成物は、上記以外の成分として導電性炭素繊維を含有していてもよい。導電性炭素繊維を配合することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生状態を制御でき、且つ導電性が一段と向上する。導電性炭素繊維としては、例えば気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等が挙げられる。これらの導電性炭素繊維は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。繊維径は限定的でなく、平均が50〜400nm、好ましくは100〜250nm程度とすればよい。繊維長も限定的でなく、平均が5〜50μm、好ましくは10〜20μm程度とすればよい。アスペクト比は、およそ10〜500である。なお、導電性炭素繊維の繊維径、繊維長及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定した画像等により測定できる。
【0032】
アルコール
導電性多孔質層形成用ペースト組成物は、上記以外の成分としてアルコールを含有していてもよい。このようなアルコールとしては、例えば、炭素数1〜5程度の1価又は多価のアルコールが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール等が挙げられる。
【0033】
含有量及び特性
導電性多孔質層形成用ペースト組成物の配合割合は、例えば、導電性炭素粒子100重量部に対して、撥水性樹脂5〜400重量部(好ましくは10〜350重量部)程度、分散剤5〜200重量部(好ましくは10〜150重量部)、水10〜2000重量部(好ましくは100〜1000重量部)とすればよい。導電性多孔質層形成用ペースト組成物中に導電性炭素繊維、アルコール等を含ませる場合には、これらの含有量は、導電性炭素粒子100重量部に対して、導電性炭素繊維は15〜70重量部程度(好ましくは25〜60重量部程度)、アルコールは5〜100重量部程度とすればよい。
【0034】
本発明では、導電性多孔質層を形成する際には、上記の成分を含有する導電性多孔質層形成用ペースト組成物を使用する。
【0035】
導電性多孔質層形成用ペースト組成物は、例えば、上記の導電性炭素粒子、導電性炭素繊維、分散剤、水、アルコール各成分を混合、分散させた後に、撥水性樹脂を加えて攪拌させて得ることができる。分散方法としては、特に制限されず、例えば公知の超音波分散、ホモジナイザー、メディア分散、スターラー分散等を用いればよい。また攪拌方法としては、特に制限されず、例えば公知の攪拌機を用いれば良い。
【0036】
攪拌条件も特に制限されるわけではないが、撥水性樹脂が繊維化しにくい程度の周速、具体的には0.1〜0.85m/s程度の周速で攪拌することが好ましい。
【0037】
本発明の導電性多孔質層は、細孔径が25〜1000nmの細孔容積の和が1.4ml/g以上、好ましくは1.4〜2.5ml/g、より好ましくは1.4〜2.0ml/gである。この細孔容積の和は、例えば、自動ポロシメーター オートポアIV9500((株)島津製作所製)により測定できる。測定は、例えば、1cm×1cm〜5cm×5cmの大きさにガス拡散層を切り分けて測定冶具に充填し、0〜65000[psia]の低圧〜高圧まで圧力がかけられる際にサンプル内へ入り込む水銀充填量が10〜80%となる様に調節し、各圧力値での水銀圧入量から、細孔径と細孔容積とを算出することができる。また、例えば、市販の導電性多孔質基材(東レ(株)製のTGP−H−060)のみを測定した場合、10〜100μmの範囲で細孔径分布が存在するのに対して、導電性多孔質層を塗工した導電性多孔質基材を測定した場合10〜100μmの範囲の細孔径分布に加えて25〜1000nmの範囲の細孔径分布も観察できる。このことから、導電性多孔質層に由来する細孔径分布を25〜1000nmと判断し、細孔径分布における25〜1000nmの細孔容積の総和を算出することで導電性多孔質層全体の気孔状態へと換算することができる。本発明者らは、細孔径分布における25〜1000nmの細孔容積の和を算出した結果、導電性多孔質基材上に塗工した導電性多孔質層のみの重量と細孔容積の比が1.4ml/g以上の細孔容積を有する導電性多孔質層を形成したガス拡散層が発電性能に対して有効であることを見出した。
【0038】
導電性多孔質層は、クラック占有面積が0.8%〜2.5%、好ましくは0.85%〜2.25%、より好ましくは0.88%〜2.0%である。このクラック占有面積は、例えば、IMAGE−PRO PLUS(プラネトロン社製)により測定できる。クラック占有面積の測定は、例えば、導電性多孔質層の表面画像を測定し、画像処理によりクラック部を黒色に、非クラック部を白色となる様に処理を施し、黒色部分の表面画像全体に占める割合を測定することにより行うことが出来る。
【0039】
<導電性多孔質基材>
導電性多孔質基材としては、燃料電池(特に、固体高分子形燃料電池)で一般的に使用されているものを用いればよく、公知又は市販のものを用いることができる。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布(カーボンフェルト)等が挙げられる。
【0040】
またカーボンペーパーの特性について、東レ(株)製のTGP−H−060を例にとり言及すると、厚み:190μm、電気抵抗:厚み方向80mΩ・cm、面方向5.8mΩ・cm、気孔率:78%、嵩密度:0.44g/cm、表面粗さ:8μm等である。
【0041】
導電性多孔質基材の厚みは限定的ではないが、通常50μm〜1000μm程度、好ましくは100μm〜400μm程度とすればよい。
【0042】
本発明で使用する導電性多孔質基材は、予め撥水処理が施されたものであることが好ましい。これにより、さらに一段とガス拡散層の撥水性を向上させることができる。また、前記導電性多孔質層を導電性多孔質基材の表面上に設ける際に、より確実に当該基材表面上に形成させることができる。
【0043】
撥水処理としては、例えば、導電性多孔質基材をフッ素系樹脂等が分散した水分散体中に浸漬する方法等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、上述したもの等が挙げられる。なお、この際には、水中にフッ素系樹脂を分散させるために、上述した分散剤を用い、フッ素系樹脂及び水系分散剤を含む水系懸濁液として使用することが好ましい。
【0044】
水分散体中のフッ素系樹脂の含有量は限定的でないが、例えば、水100重量部に対して、1〜30重量部程度、好ましくは2〜20重量部程度とすればよい。
【0045】
<ガス拡散層の特徴>
本発明のガス拡散層は、固体高分子形燃料電池用のガス拡散層として使用することができる。具体的には、公知又は市販のイオン伝導性固体高分子電解質膜の両面に触媒層(カソード触媒層及びアノード触媒層)が積層された触媒層−電解質膜積層体(カソード触媒層/電解質膜/アノード触媒層)を用意し、次いで、この両面(カソード触媒層及びアノード触媒層)の少なくとも一つの面(特に、カソード触媒層)に、導電性多孔質層が当該触媒層に接触するように、本発明のガス拡散層を積層させることにより、膜−電極接合体(ガス拡散層/カソード触媒層/電解質膜/アノード触媒層/ガス拡散層)を作製して、これを使用すればよい。
【0046】
本発明のガス拡散層は、良好な導電性及び撥水性を兼備する導電性多孔質層が設けられているため、膜−電極接合体(MEA)全体の導電性を向上させることができ、またMEAの触媒層で発生する水をより効率的にガス拡散層外部(ひいては、MEA外部)に排出できる。このため、本発明のガス拡散層を用いた燃料電池は、優れた電池性能を発揮することができる。
【0047】
なお、本発明の固体高分子形燃料電池は、上記の膜−電極接合体に公知又は市販のセパレータを設けることにより得ることができる。
【0048】
2.ガス拡散層の製造方法
本発明のガス拡散層は、燃料電池用導電性多孔質基材の表面上に導電性多孔質層が形成されているものであって、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を、導電性多孔質基材表面に塗工し、次いで乾燥及び焼成を行う工程を経ることにより得られる。
【0049】
導電性多孔質層形成用ペースト組成物は、導電性多孔質基材との接触角が90〜150°程度(好ましくは100〜140°程度)であることが好ましい。これにより、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を導電性多孔質基材に塗布する際に、ペースト組成物が導電性多孔質基材表面ではじく現象を防止でき、ペースト組成物をより均一に塗布できる。
【0050】
前記ペースト組成物と導電性多孔質基材との接触角は、自動接触角測定器(協和界面科学製、「FACE CA−X」等)を用い、1マイクロリットル程度のペースト組成物の液滴を導電性多孔質基材表面に滴下し、30秒後の接触角を観測することにより求められる。
【0051】
本発明では、導電性多孔質層形成用ペースト組成物が導電性多孔質基材内部に実質的に浸透しないように塗布することが好ましい。これにより、導電性多孔質層形成用ペースト組成物が導電性多孔質基材内部に浸透することにより当該基材内部の空隙が閉塞される現象を抑制して、当該基材表面のみに所望の導電性多孔質層を好適に形成させることができる。
【0052】
このような塗布方法に用いる装置としては、例えば公知又は市販のワイヤーバー、スプレーコート、アプリケーター、ダイコーター等を用いればよい。
【0053】
導電性多孔質層形成用ペースト組成物の塗布量は限定的でないが、固形分換算で、例えば、1〜100g/m程度、好ましくは5〜50g/m程度とすればよい。また、導電性多孔質層形成用ペースト組成物の塗工厚も限定的ではないが、例えば、1〜100μm程度、好ましくは5〜50μm程度とすればよい。
【0054】
また、乾燥温度は限定的ではなく、例えば、大気中にて50〜150℃程度、好ましくは90〜130℃程度とすればよい。
【0055】
乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定すればよいが、通常5〜50分程度、好ましくは10〜30分程度である。乾燥後に行う焼成時の温度も限定的ではなく、例えば、大気中にて200〜400℃、好ましくは250〜350℃程度とすればよい。
【0056】
焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜決定すればよいが、通常10〜180分程度、好ましくは30〜150分程度とすればよい。
【0057】
焼成後の導電性多孔質層の厚みは、特に制限はなく、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μm程度である。この範囲の厚みとすることにより、より良好なガス透過性・拡散性及び導電性が得られる。
【0058】
分散剤は、ガス拡散層(GDL)の焼成時に熱分解されるため、分散剤を使用する場合でも焼結後のガス拡散層中には分散剤は存在しないことがある。撥水性樹脂は、焼成後に溶解し、導電性多孔質基材の繊維上及び導電性多孔質層中の導電性炭素粒子、導電性炭素繊維上に付着した状態になっている。
【0059】
また、ここで作製された導電性多孔質層の水に対する接触角は100°〜170°程度、好ましくは130°〜160°程度とすればよい。なお、導電性多孔質層−水間での接触角は、例えば、自動接触角測定器(協和界面科学製、「FACE CA−X」等)を用い、1マイクロリットル程度の水滴を導電性多孔質層表面に滴下し、30秒後の接触角を観測すること等により求められる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、導電性多孔質層中にガス拡散性に有効な膜構造を形成するガス拡散層を提供できる。以上の内容から、本発明のガス拡散層を用いることで、優れた電池性能を有する固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、実施例1〜5及び比較例1〜6の導電性多孔質層形成用ペースト組成物の細孔径分布を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1のガス拡散層に形成された導電性多孔質層の表面状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】図3は、実施例3のガス拡散層に形成された導電性多孔質層の表面状態を示す顕微鏡写真である。
【図4】図4は、比較例1のガス拡散層に形成された導電性多孔質層の表面状態を示す顕微鏡写真である。
【図5】図5は、比較例3のガス拡散層に形成された導電性多孔質層の表面状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、比較例6のガス拡散層に形成された導電性多孔質層の表面状態を示す顕微鏡写真である。
【図7】図7は、実施例1のガス拡散層に形成された導電性多孔質層の断面画像を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<材料>
導電性多孔質層形成用ペースト組成物の調製には、以下に示す材料を使用した。
導電性炭素粒子:ファーネスブラック(バルカンxc72R:キャボット社製)、平均分子量1000〜3000
フッ素系樹脂(1):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(AD911L:旭硝子(株)製、数平均分子量:200万〜400万
フッ素系樹脂(2):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ルブロンLDW−410、:ダイキン工業(株)製)、数平均分子量:5万〜30万
フッ素系樹脂(3):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(PTFE31−JR:Dupont製)、数平均分子量:600万〜900万
導電性炭素繊維:VGCF(VGCF(登録商標;標準品):昭和電工(株)製)
分散剤(1):ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(エマルゲンA60:花王(株)製)
分散剤(2):ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(エマルゲンMS110:花王(株)製)
分散剤(3):ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル(ノイゲンEA137:第一工業製薬(株)製)
分散剤(4):酸価を含まず、アミン価を含むアニオン系分散剤(BYK184:ビックケミー製)
分散剤(5):ポリオキシエチレンアルキルアミン(アミート105:花王(株)製)
【0064】
実施例1〜5及び比較例1〜8
<実施例1>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(1);エマルゲンA60)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0065】
<実施例2>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(1);エマルゲンA60)50重量部及び水810重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0066】
<実施例3>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(1);エマルゲンA60)75重量部及び水745重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0067】
<実施例4>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(2);エマルゲンMS110)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0068】
<実施例5>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(3);ノイゲンEA137)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0069】
<比較例1>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(4);BYK−184)25重量部及び水880重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0070】
<比較例2>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(4);BYK−184)50重量部及び水810重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0071】
<比較例3>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(4);BYK−184)75重量部及び水745重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0072】
<比較例4>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(5);アミート105)25重量部及び水880重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0073】
<比較例5>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(5);アミート105)50重量部及び水810重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0074】
<比較例6>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(5);アミート105)75重量部及び水745重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0075】
<比較例7>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(1);エマルゲンA60)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(2);ルブロンLDW−410)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0076】
<比較例8>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(1);エマルゲンA60)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(3);PTFE31−JR)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
【0077】
実施例1〜5及び比較例1〜8の配合割合を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
<撥水処理>
導電性多孔質基材にはカーボンペーパー(TGP−H−60:東レ(株)製)を用い、水100重量部に対して、PTFE懸濁液(PTFE懸濁液100重量部は、PTFE60重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル)3重量部及び水37重量から構成)5重量部を混合させたPTFE水分散液に2分間含浸させた後、大気雰囲気中95度で15分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した。
【0080】
<細孔径分布測定>
実施例1〜5及び比較例1〜8で調製した各導電性多孔質層形成用ペースト組成物の細孔径分布の測定結果を図1に示す。細孔径分布は、自動ポロシメーター オートポアIV9500((株)島津製作所製)を用い、サンプル内に圧入された水銀量から測定する。
【0081】
ガス拡散層の製造
実施例1〜5及び比較例1〜8で調製した各導電性多孔質層形成用ペースト組成物を、アプリケーター(Sheen Instruments Ltd製、「Micrometer Adjustable Film Applicator、1117/200」)を用いて塗工量が固形分換算で、30g/mになるように、上記撥水処理済み導電性多孔質基材の一方の面に均一に塗工した。次いで、大気雰囲気中95℃で20分乾燥した後、大気雰囲気中300℃で2時間焼成することにより、導電性多孔質基材表面に導電性多孔質層(MPL)が形成された、ガス拡散層(実施例1〜5及び比較例1〜8のペースト組成物を用いて製造したガス拡散層)を製造した。
【0082】
ここで、比較例7のペースト組成物を使用して導電性多孔質基材上に導電性多孔質層を形成した場合、導電性多孔質層‐導電性多孔質基材間での結着性が悪いことと、多数のクラックが発生することにより膜剥れが生じ、導電性多孔質層を安定的に形成することが困難であった。
【0083】
また、比較例8のペースト組成物を作製した場合は、撥水性樹脂の繊維化が著しくペースト組成物中に多数の凝集物が生じ、この凝集物が存在するために成膜性の良い導電性多孔質層を形成することが困難であった。
【0084】
ガス拡散層の評価試験
<導電性多孔質層表面観察>
実施例1及び3、並びに比較例1、3及び6のガス拡散層に形成された導電性多孔質層を、HIBRID MICRO SCOPE SH−4500(HiROX社製)により観察した。結果を図2〜6に示す。なお、図2は実施例1、図3は実施例3、図4は比較例1、図5は比較例3、図6は比較例6の表面状態を示す。
【0085】
また、導電性多孔質層上に発生したクラックの占有面積をIMAGE−PRO PLUS((株)プラネトロン製)を使用して、クラック部とそれ以外の部分を二値化することで測定した。導電性多孔質層でのクラックの面積比について表2に示す。
【0086】
<導電性多孔質層断面観察>
導電性多孔質層中の撥水性樹脂の繊維化の状況については、導電性多孔質層の断面画像を走査型顕微鏡により観察することにより判断した。実施例1の導電性多孔質層中の撥水性樹脂の繊維化状況について、図7に示す。
【0087】
<ガス透過性・拡散性>
貫通孔測定装置(CFP−1200−AEL、PMI社製)を使用して、実際の電池評価時で採用しているガス透過圧0.3MPaの条件下での実施例1〜5及び比較例1〜6で作製したガス拡散層のガス透過量を測定した結果を表2に示す。この結果から、クラック占有面積が増加するに従いガス透過量が増加する傾向が得られた。
【0088】
<細孔径分布>
実施例1〜5及び比較例1〜6の導電性多孔質基材上に形成した導電性多孔質層の細孔径分布は、自動ポロシメーター オートポアIV9500((株)島津製作所製)を利用して測定した。段落[0037]に記載の通り、導電性多孔質層が支配的な由来の細孔経分布は25〜1000nmと考えられるため、段落[0037]に記載の算出方法によりこの導電性多孔質層の細孔径分布内の細孔容積の総和と導電性多孔質層のみの重量との関係を計算した結果を表2に示す(MPL由来の細孔容積の和)。
【0089】
電解質膜−触媒層積層体の製造
白金触媒担持炭素粒子4g(田中貴金属工業(株)製、「TEC10E50E」)、イオン伝導性高分子電解質膜溶液40g(Nafion5wt%溶液:「DE−520」デュポン社製)、蒸留水12g、n−ブタノール20g及びt−ブタノール20gを配合し、分散機にて攪拌混合することにより、アノード触媒層形成用ペースト組成物及びカソード触媒層形成用ペースト組成物を得た。
【0090】
アノード触媒層形成用ペースト組成物及びカソード触媒層形成用ペースト組成物を、それぞれアプリケーターを用いて転写基材(材質:ポリエチレンテレフタラートフィルム)上に塗工し、95℃で30分程度乾燥させることにより触媒層を形成させて、アノード触媒層形成用転写シート及びカソード触媒層形成用転写シートを作製した。なお、触媒層の塗工量は、アノード触媒層、カソード触媒層共に白金担持量が0.45mg/cm程度となるようにした。
【0091】
上記で作製したアノード触媒層形成用転写シート及びカソード触媒層形成用転写シートを用いて、電解質膜各面に、熱プレスを行った後、転写基材のみを剥がすことにより、電解質膜−触媒層積層体を作製した。
【0092】
燃料電池の製造
上記で作製した電解質膜−触媒層積層体の片面(カソード側)に、実施例1〜5及び比較例1〜6の各ガス拡散層を、導電性多孔質層が触媒層に接触するように積層させることにより、電解質膜−電極接合体(MEA)を得、次いで、得られたMEAを燃料電池セルに組み込むことにより、固体高分子形燃料電池(実施例1〜5及び比較例1〜6のガス拡散層を用いて製造した固体高分子形燃料電池)を製造した。
【0093】
燃料電池の評価試験
<電池性能評価>
上記で作製した実施例1〜5及び比較例1〜6のMEAを使用し、電池性能評価を以下の条件により行った。
【0094】
セル温度:80℃
加湿温度:カソード65℃、アノード65℃
ガス利用率:カソード40%、アノード70%
ガス透過圧:0.3MPa
セル面積:25cm
負荷電流を0.05A/cm〜1A/cmまで変動させた時の1A/cmのセル電圧値とクラック占有率及び細孔容積値について表2に示した。
【0095】
【表2】

【0096】
比較例1〜3では、クラック占有面積が実施例と遜色無く存在するが、MPL由来の細孔容積が小さくガス拡散性能が良好に保てず、実施例と比較すると発電性能が低下した。また、比較例4〜6では、MPL由来の細孔容積は実施例と遜色無い値が得られているが、クラック占有面積が小さく反応に必要なガス透過量が得られずに、実施例と比較すると発電性能が低下した。なお、比較例7及び8については、上述のとおり導電性多孔質層の成膜が困難なため、評価できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質基材上に、導電性多孔質層が形成された固体高分子形燃料電池用ガス拡散層であって、
前記導電性多孔質層は、少なくとも導電性炭素粒子、撥水性樹脂、及び分散剤を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物により導電性多孔質基材上に形成されてなり、
前記導電性多孔質層は、細孔径が25〜1000nmの細孔容積の和が1.4ml/g以上であり、且つ、クラック占有面積が0.8%〜2.5%である、固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
撥水性樹脂の数平均分子量が、100万より大きく、500万より小さい、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
分散剤がノニオン系分散剤である、請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
さらに、導電性炭素繊維を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池。
【請求項6】
少なくとも導電性炭素粒子、数平均分子量が100万より大きく500万より小さい撥水性樹脂、及びノニオン系分散剤を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物。
【請求項7】
さらに、導電性炭素繊維を含む、請求項6に記載の導電性多孔質層形成用ペースト組成物。
【請求項8】
少なくとも導電性炭素粒子、数平均分子量が100万より大きく500万より小さい撥水性樹脂、及びノニオン系分散剤を、0.1〜0.85m/sの周速で攪拌させる工程
を備える、請求項6又は7に記載の導電性多孔質層形成用ペースト組成物の製造方法。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−54111(P2012−54111A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196106(P2010−196106)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】