説明

導電繊維およびその製造方法

【課題】色調が暗色でなく且つ高強度、高ヤング率、高導電性で且つ耐久性の優れた導電性繊維およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】銅化合物を導電性物質として含む有機繊維であって、下記要件を満足する導電性繊維とする。
a)単繊維の強度が1.5cN/dtex以上、初期ヤング率30cN/dtex以上、乾熱300℃下15分処理した時の収縮率が2.5%以下であること。
b)100V直流電圧における繊維の電気抵抗が1×1010Ω以下であること。
c)銅化合物が含水繊維に含浸吸収されたものであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅化合物からなる導電性物質が含有されてなる高ヤング率導電性有機繊維であり、100V直流電圧における電気抵抗が1×1010Ω以下である導電性繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機繊維、例えばポリエステル系繊維および脂肪族ポリアミド系繊維などの合成繊維は導電性が低く、摩擦帯電性が高く、即ち摩擦により静電気が発生する。従って該合成繊維よりなる布帛は、高電位の帯電が認められ、塵埃の付着、放電による弊害が生じる。また半合成繊維や天然繊維、例えばアセテート、レーヨン、シルク、羊毛などは、吸湿性を有しているために、前者合成繊維に対して摩擦帯電性が低い傾向であるが、低湿度の場合は例外もある。
【0003】
したがってこれらの繊維の摩擦帯電性を低減させる手段としては、導電物質を含有させることが望ましく、その用途による要求導電レベルに見合った適正導電剤を混入することが鋭意研究されている。
【0004】
例えば、カーボンなどの導電物質をポリマーあるいはマスターチップとして練り込み紡糸する方法が提案されている。(特開平10−310944号公報、特開2000−110042号公報、など)
又導電性物質を繊維表面に付着加工処理する方法も行われている。例えば無電解メッキやバインダー樹脂加工および/またはバインダー析出加工(特開2007−269879号公報など)などがある。
【0005】
しかしながらいずれの方法においても、低耐熱性、低強度(低ヤング率)であったり、金属特有の色調を呈するなどにより製品の色調が限定されるという点や、高耐熱性、難燃性、高強度(高ヤング率)が要求される電気資材、航空・車両資材、或いは消防服などの耐熱防護服に汎用に用いることが難しいという問題があった。
【0006】
こうした点を改良するため高強度耐熱性繊維に導電性物質を含有させる検討が行われている。特開2005−307391号公報には、パラ型芳香族ポリアミド繊維にカーボン等の導電性物質を含有する導電性繊維が開示されている。しかしながら繊維が黒色を呈するため用途が制限される。
【0007】
又特公昭63−30432号公報にはメタフェニレンイソフタルアミド繊維に導電性物質としてヨウ化銅を含有させ導電性を付与する技術が開示されている。しかしながら色調では良好であるものの導電物質を高濃度で含有させることが難しく導電性として十分なものは得られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−310944号公報
【特許文献2】特開2000−110042号公報
【特許文献3】特開2007−269879号公報
【特許文献4】特開2005−307391号公報
【特許文献5】特公昭63−30432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を解決し、色調が暗色でなく且つ高強度、高ヤング率、高導電性で且つ耐久性の優れた導電性繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものであり、即ち本発明によれば、
銅化合物を導電性物質として含むコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする導電性繊維、
a)単繊維の強度が1.5cN/dtex以上、初期ヤング率30cN/dtex以上、乾熱300℃下15分処理した時の収縮率が2.5%以下であること。
b)100V直流電圧における繊維の電気抵抗が1×1010Ω以下であること。
c)銅化合物が含水繊維に含浸吸収されたものであること。
更に、含水繊維が未延伸で且つ含水率が5%以下で銅化合物を含浸吸収したもので、単繊維の強度が2.0cN/dtex以上、初期ヤング率が50cN/dtex以上、である導電性繊維、
更には、含水繊維の含水率が60%以上で銅化合物を含浸吸収してなる導電性繊維、
が提供される。
【0011】
又銅化合物を導電性物質とする導電性繊維の製造方法であって、コポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の延伸処理、導電性物質の繊維への含浸吸収処理をその順序で行い、延伸処理が乾熱、湿熱、水浴、温浴の群から選ばれる少なくとも1種の方法で1%以上延伸する導電性繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
含水繊維に導電性物質である銅化合物を含浸吸収させることにより容易に高濃度で導電性物質を含有させることができ、色調が黒色でない高導電性繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、導電性物質である銅化合物を、含水状態の有機繊維(以後含水繊維と呼ぶ場合がある)内部に高濃度で含浸吸収させたものである。含水繊維とは繊維結晶構造内部に多量に水を保持しているものを指し、湿式あるいは乾式湿式紡糸で得られる繊維をさす。
【0014】
有機繊維として芳香族ポリアミド繊維、その中でも強度、初期ヤング率、乾熱300℃下15分間処理時の収縮を考慮すると、コポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミド(以後PPODPAと略称する)繊維が好ましい。
【0015】
含水繊維は延伸することが好ましく、湿式紡糸後の含水未乾燥未延伸糸(凝固糸と略称する場合がある)に銅化合物を含浸吸収処理したものを延伸するか、或いは該凝固糸を水浴あるいは温浴中で延伸した後銅化合物を含浸処理すること、どちらで行ってもかまわない。後者の方法により得られたものは強度、初期モジュラス性能大で、より高強度高導電性繊維が得られるので好ましく用いられる。又凝固糸を一旦乾燥して低含水率糸としても、未延伸糸(UD糸と略称する)であれば銅化合物を含浸処理しても高導電性で高強度、高ヤング率繊維が得られるので好ましく用いられる。
【0016】
一方、同様なパラ型芳香族ポリアミド繊維であるポリパラフェニレンテレフタルアミド(以後PPTAと略称する)(例えばケブラー、テイジントワロン)繊維は、溶液液晶性であり剛直ポリマーを溶媒に溶かし乾湿式紡糸法で繊維化される。すなわちずり応力を加えることにより延伸しなくとも高度に配向した状態で繊維化される。これらはリオトロピック液晶を示し、分子が自発的に互いに平行に配向する(自発配向)。該自発配向は、非常に緻密でありドメインの連続形成されることにより、紡糸直後でも高強力繊維が得られる。また該繊維は、水が含まれていることにより部分配向緩和を保持することが可能と思われ、既報の染色性改良などが提示されているが、本発明の場合、表層吸尽および/または表面吸着されても、導電性物質の連続層を形成することが前記理由のために難しいのか、或いはドメインの連続が均一構造であるために、導電性物質が含浸し難く、尚且つ紡糸後乾燥されていない含水繊維であっても該含水部との置換により導電性物質が含浸されるサイトを有しているがPPODPAの方が性能的に良好であり好ましい。
【0017】
次に導電性物質である銅化合物の繊維への含浸吸収処理について説明する。
導電性物質である銅化合物を繊維内部に効率よく含浸吸収するためには含水繊維であることが必要である。ここで高強度高初期ヤング率の導電性繊維とするためには0.1〜5%の含水率の繊維を用いることが好ましい。より好ましくは2〜5%の含水繊維が好ましい。更に好ましくは3〜5%である。
より高導電性、導電安定性とする好ましい方法としては湿式紡糸後の60%以上の含水率を有する凝固糸を使用することが好ましい。
【0018】
導電性物質である銅化合物を繊維中に含浸吸収させる好ましい方法としては、たとえば、まずヨウ素等を含水状態の繊維中に吸収させ、次いで銅イオンを吸収させ、吸収されたヨウ素等と銅イオンとを反応させて、繊維中にヨウ化第一銅を析出させることが好ましく挙げられる。
【0019】
ヨウ素を吸収させるには種々の方法があるが、例えばヨウ素の水溶液または有機溶媒溶液に繊維を浸漬する方法、ヨウ素ガス雰囲気中に繊維をさらす方法があるが、中でもヨウ素水溶液に繊維を浸漬処理する方法が簡便で好ましい。ヨウ素の吸収を容易にするために繊維の膨潤剤を併用してもかまわない。
【0020】
この際ヨウ素以外の銅イオンと反応させる化合物としては、硫化物イオンを放出し得る化合物が好ましく用いられ、例えば硫化ナトリウム、第二チオン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ硫酸ナトリウム、硫化水素、チオ尿素、チオアセトアミド等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
銅イオンを含有する化合物としては、水溶性であれば特に限定はなく、酢酸銅、蟻酸銅、硫酸銅、硝酸銅、クエン酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅などが好ましく挙げることが出来、かかる銅イオンは一価でも二価でもよく、特に限定されるものではない。
【0022】
また上記の化合物の溶解性を向上させる目的で、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化水素、塩酸、アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの水溶性塩化物を併用すれば、溶液中の塩素イオン濃度が高まり、塩化第一銅の溶解度を高め、液中の第一銅イオン濃度を高めることが可能であり、これらを併用しても構わない。
【0023】
本発明において、前述の導電性付与処理が可能であるならば、長繊維、短繊維、紡績糸、布帛など任意の形態で処理することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて、本発明の構成および効果を詳細に説明する。
尚、実施例/比較例で行った被染色物の評価方法は下記の方法に従って行った。
・導電性(電気抵抗値)
市販の電気抵抗測定装置を用い、20℃×RH60%の雰囲気下で測定した。
糸長2cmのサンプルを印加電圧100Vで電気抵抗値(Ω/cm)を繊維表面、断面(体積)抵抗の両方測定した。
・強伸度
JIS L 1013に準拠して行った。
・初期ヤング率
前記強伸度測定チャートより、初期傾きを通常既知方法にて算出した。
・導電物質の繊維内部付着状態観察
電子線マイクロアナライザ(XMA)を用い、繊維断面の面分析を行った。
【0025】
[実施例1]
有機繊維としてコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維であるテクノーラ1670T1000(帝人テクノプロダクツ製)の凝固糸(含水率80%)を80℃温浴中で延伸倍率2倍で延伸した。該コポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミド糸を60%soln.ヨウ素水溶液に80℃下30分間撹拌浸漬処理し、水洗・風乾した。次いで、塩酸が含まれた5%soln.塩化第一銅水溶液中でBoil下30分間撹拌浸漬処理した後、1%soln.希塩酸で洗浄・水洗し、風乾し、ヨウ化銅を内部吸収・析出させた。これらの処理による重量増加率は13%であった。
この処理糸をそれぞれ評価した。
【0026】
[実施例2]
実施例1において凝固糸の含水率が85%である以外は実施例1と同様に処理しヨウ化銅を内部吸着・析出させ評価した。これらの処理による重量増加率は11%であった。
【0027】
[実施例3]
実施例1において銅化合物を含浸吸収させた後水洗せずに風乾した以外は実施例1と同様に処理しヨウ化銅を内部吸着・析出させ評価した。これらの処理による重量増加率は78%であった。
【0028】
[実施例4]
実施例1の凝固糸(含水率85%)を乾燥させ、含水率2.5%の未延伸糸(UD糸)とし、実施例1と同様に処理しヨウ化銅を内部吸着・析出させ評価した。これらの処理による重量増加率は25%であった。
【0029】
[実施例5]
硫化ナトリウムと硝酸銅を用いて、硫化銅を内部吸着・析出した以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0030】
[比較例1]
実施例1の帝人テクノプロダクツ(株)製テクノーラ1670T1000の凝固糸を80℃温浴中で延伸倍率2倍で延伸した糸を導電処理しなかった以外は同様に評価した。
【0031】
[比較例2]
帝人テクノプロダクツ(株)製テクノーラ1670T1000を実施例1と同様に導電処理し評価した。
【0032】
[比較例3]
試料を帝人テクノプロダクツ(株)メタ型アラミド繊維であるTeijinconexの紡績糸(30/2)とした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0033】
[比較例4]
試料を帝人テクノプロダクツ(株)メタ型アラミド繊維であるTeijinconexの凝固糸とした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0034】
[比較例5]
試料を帝人テクノプロダクツ(株)メタ型アラミド繊維であるTeijinconexの凝固糸を浴中延伸2倍とした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0035】
[比較例6]
試料を含水率30%のテイジンアラミド(株)製トワロン(PPTA未乾燥糸)とした以外は、同様に処理し評価した。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
高耐熱性、難燃性、高強度(高ヤング率)が要求される電気資材、航空・車両資材、或いは消防服などの耐熱防護服に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の導電性繊維のXMA写真。銅が吸収され繊維内部にまで存在する。
【図2】比較例2のXMA写真。乾燥延伸糸を用いたため銅化合物含浸吸収処理で銅化合物が繊維内部にほとんど吸収されていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物を導電性物質として含むコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする導電性繊維。
a)単繊維の強度が1.5cN/dtex以上、初期ヤング率30cN/dtex以上、乾熱300℃下15分処理した時の収縮率が2.5%以下であること。
b)100V直流電圧における繊維の電気抵抗が1×1010Ω以下であること。
c)銅化合物が含水繊維に含浸吸収されたものであること。
【請求項2】
含水繊維の含水率が0.1〜5%であり、導電性繊維の単繊維の強度が2.0cN/dtex以上、初期ヤング率が50cN/dtex以上、である請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項3】
含水繊維の含水率が60%以上である請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項4】
請求項1〜3の導電性繊維の製造方法であって、含水繊維に銅化合物を含浸吸収処理の前又は後に延伸処理を行い、該延伸処理が湿熱、水浴、温水浴の群から選ばれる少なくとも1種の方法で1%以上延伸することを特徴とする導電性繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−144306(P2010−144306A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325740(P2008−325740)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】