説明

小便器洗浄装置

【課題】 他の小便器との電波干渉による誤動作を回避する小便器洗浄装置を提供する。
【解決手段】 小便器へ洗浄水を給水するバルブを制御する小便器洗浄装置であって、ドップラーセンサの出力に応じて対象物の動きを判定してバルブを制御する制御部を備え、制御部は、ドップラーセンサ出力に含まれる尿流に相当する所定の周波数信号を抽出し、抽出した周波数信号の信号レベルが閾値を超えると尿流有と判定する尿流検出手段と、ドップラーセンサ出力に含まれるドップラー信号に基づいて人体の信号レベルを検出する人体検出手段とを有するとともに、人体検出手段により検出する人体の信号レベルが人体と前記小便器洗浄装置との距離が近接状態に相当する値を超えた場合に、尿流検出手段は抽出した周波数信号の信号レベルに関する尿流有と判断する標準尿判定閾値より低い信号レベルの近接尿判定閾値へ変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、小便器洗浄装置に関し、具体的には小便器の自動洗浄を行う小便器洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波センサを使用し、人体および尿流の検出を行う便器洗浄システムがある(特許文献1)。特許文献1に記載された便器洗浄システムによれば、ドップラー信号に含まれる人体の動き、尿流に相当する所定の周波数信号を抽出し、それらの信号を用いて検出処理を行い、その検出結果に応じて小便器に洗浄水を供給する。
【0003】
しかしながら、使用者が小便器に近接した状態で排尿を行う場合は、尿流が小便器に衝突するまでの軌道が短く、ドップラー信号が発生しにくい。通常は尿流の軌道が放物線になり、マイクロ波センサの電波放射方向に対し対抗する速度成分が尿流に含まれるためドップラー信号が発生しやすいが、小便器に近接した状態では尿流は直線に近い軌道になるため、尿流の放射角度によってはマイクロ波センサの電波放射方向に対し並行する速度成分が少なくドップラー信号が発生し難い。したがって、ドップラー信号に含まれる尿流に相当する周波数信号は小さくなり、十分な信号レベルを得ることができず検出が困難である。
【0004】
また、他の小便器に搭載されたマイクロ波センサから放射される電波との干渉により尿流に相当する周波数帯のドップラー信号が発生する(特許文献2)。電波干渉により発生する信号は、小便器に近接した状態の排尿によるドップラー信号よりも信号レベルが大きく、他の小便器との電波干渉による誤動作を避けるため、ドップラー信号の尿流検出の閾値は電波干渉により発生する信号レベルよりも高く設定しなければならない。そのため、小便器に近接した状態での排尿は検出することができず、小便器に洗浄水を供給できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−330672号公報
【特許文献2】特開2007−247158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、他の小便器との電波干渉による誤動作を回避し、なおかつ小便器に近接した状態での排尿を検知し確実に洗浄水を供給することができる小便器洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、小便器へ洗浄水を給水するバルブを制御し対象物検知手段を備え連立して取付けられる小便器洗浄装置であって、前記対象物検知手段は、前記小便器洗浄装置の使用を判定するために対象物に電波を送信する送信手段及びその反射波を受信してドップラー信号を生成する受信手段を備えるドップラーセンサと、前記ドップラーセンサの出力に応じて対象物の動きを判定して前記バルブを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記ドップラーセンサ出力に含まれる尿流に相当する所定の周波数信号を抽出し、抽出した周波数信号レベルが閾値を超えると尿流有と判定する尿流検出手段と、前記ドップラーセンサ出力に含まれるドップラー信号に基づいて人体の信号レベルを検出する人体検出手段とを有するとともに、前記人体検出手段により検出する人体の信号レベルが前記人体と前記小便器洗浄装置との距離が近接に相当する値を超えた場合に、前記尿流検出手段は抽出した周波数信号レベルに関する尿流有と判断する標準尿判定閾値より低い周波数信号レベルの近接尿判定閾値へ変更することを特徴とする小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、人体の信号レベルにより小便器使用者の立ち位置を想定し、立ち位置に応じた適切な尿判定閾値を設定できる。したがって、立ち位置が小便器から遠い場合は電波干渉を避けるため標準尿判定閾値に設定し、立ち位置が小便器に近接している場合は人体により他の小便器から放射される電波を遮断できるため、標準尿判定閾値より低い信号レベルの近接尿判定閾値へ設定できるので、ドップラー信号が発生し難い小便器に近接した状態での尿流も確実に検出することができる。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、前記近接尿判定閾値は、前記人体検出手段が人体を検出し始める距離での前記小便器洗浄装置に隣接する他の小便器洗浄装置からの電波干渉による周波数信号レベルよりも低い値であることを特徴とする請求項1記載の小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、人体と小便器との距離が近接した状態では前記小便器洗浄装置に隣接する他の小便器洗浄装置からの電波干渉による周波数信号レベルが、人体検出し始める位置での電波干渉による周波数信号レベルより低くなるので、人体検出手段が人体検出し始める距離での他の小便器洗浄装置からの電波干渉による信号レベルよりも低い値に近接尿判定閾値を設定することができ尿の検出感度を向上させるため、正確に尿を検出することが可能になる。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、前記制御部は、さらに前記ドップラー信号から抽出する尿流に相当する周波数信号を検出し判定するドップラー周波数の範囲を低い周波数側に拡大することを特徴とする請求項1または2記載の小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、人体と小便器との距離が近接した状態での排尿において、ドップラーセンサの電波放射方向に対し並行する尿流の速度成分が少ない場合であっても、尿流として抽出する周波数範囲を低い周波数側に拡大することで、隣接する他の小便器洗浄装置からの電波干渉による誤検出防止のために制限していた低い周波数帯域を検出できるため、尿の検出感度を向上できる。
【0010】
また、請求項4記載の発明は、前記人体検出手段は、前記抽出した周波数信号の分散値に基づいて人体を検出し、前記分散値の周波数信号レベルに応じて前記尿流検出手段の尿流検出条件の変更を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいづれか一つに記載の小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、ドップラー信号の分散値は、ドップラー信号の振幅値よりも顕著に現れ、より安定的に推移するため、被検知体が小便器に接近したか否かの判断は、容易になる。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、前記人体検出手段は、前記ドップラーセンサ出力に含まれる定在波信号に基づいて人体を検出し、前記定在波信号レベルに応じて前記尿流検出手段の尿流検出条件の変更を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいづれか一つに記載の小便器洗浄装置である。
この小便器洗浄装置によれば、ドップラーセンサと人体の間の距離に応じて信号レベルが変化する定在波信号を用いて人体検知を行うことで、使用者の小便器に対する立ち位置をより詳細に把握することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、他の小便器との電波干渉による誤動作を回避し、なおかつ小便器に近接した状態での排尿を検知し確実に洗浄水を供給することができる小便器洗浄装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態にかかる小便器洗浄装置を表す側面模式図である。
【図2】小便器に対する使用者の一般的な使用方法を表す側面模式図である。
【図3】ドップラーセンサの検出方向を説明するための側面模式図である。
【図4】小便器に対する使用者の立ち位置の違いを説明するための側面模式図である。
【図5】小便器に対する使用者の立ち位置とドップラー信号の関係を示した図である。
【図6】本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を例示するブロック図である。
【図7】本実施形態の人体判定の動作を例示するフローチャートである。
【図8】本実施形態の尿流判定の動作を例示するフローチャートである。
【図9】本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を例示するブロック図である。
【図10】本実施形態の人体判定の動作を例示するフローチャートである。
【図11】人体接近によるドップラー信号と、そのドップラー信号の分散値と、の一例を表すグラフ図である。
【図12】本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成の具体例を例示するブロック図である。
【図13】定在波を用いた場合の判定動作の具体例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる小便器洗浄装置を表す側面模式図である。
図1に表した小便器洗浄装置は、男性用の小便器100に付設され、人体および尿流を検出するマイクロ波ドップラーセンサ(以下、単に「ドップラーセンサ」という)200と、小便器洗浄を制御する制御部300と、を備える。
【0015】
小便器100は、ボール部110を有する。ボール部110の上部には、洗浄水をボール部110へ吐水する給水部120が設けられ、ボール部110の下部には、洗浄水を一時的に貯留するトラップ部130が設けられている。トラップ部130に貯留された水(封水)は、排水路側からボール部110側に悪臭や害虫類が進入することを防止している。そして、トラップ部130に貯留された水は、給水部120から吐水された洗浄水の水量に応じて、排水口140から排水路へ適宜排出される。
【0016】
ドップラーセンサ200は、小便器100の裏面(後方)側、すなわちボール部110とは反対側に設置されている。ドップラーセンサ200は、マイクロ波あるいはミリ波などの高周波の電波を放射(送信)し、放射した電波の被検知体からの反射波を受信して、被検知体の有無を検知し、その検知信号を出力する高電波センサである。このドップラーセンサ200は、図1に表した検出範囲201のように、小便器100の前方に立った使用者(人体)510や、使用者510からの排尿などを検出する。なお、ドップラーセンサ200については、後に詳述する。
【0017】
制御部300は、ドップラーセンサ200から出力された検知信号(ドップラー信号)に基づいて、給水路の途上に設けられた給水バルブ400を駆動させる。給水部120と給水バルブ400とは、給水路によって連結されている。給水バルブ400が開放されている場合には、水は給水路の内部を通り、給水部120から吐水される。一方、給水バルブ400が閉止されている場合には、水が給水部120から吐水されることはない。なお、本願明細書において「水」という場合には、「湯」も含むものとする。
【0018】
図2は、本実施形態の小便器を使用している様子を側面から示した図である。使用者510の立ち位置にはばらつきがあり、立ち位置の違いは人体および尿流の検知信号へ影響を与える。この立ち位置の違いによる影響については、後に供述する。また、図3は、ドップラーセンサの検出方向を説明するための側面模式図である。なお、図3は、ドップラーセンサがボール面に対して傾斜して設置された場合を例示する側面模式図である。
【0019】
ドップラーセンサ200は、図2および図3に表したように、小便器100の裏面側に設置され、その検出範囲201が前方および下方を向くように、ボール面111に対して傾斜して設置されている。
【0020】
ここで、ドップラーセンサ200の電波放射方向(最大指向方向)は、図3に表したように、尿流520の軌道に対して傾斜している。そして、放射された電波は尿流520に反射され、ドップラーセンサ200は、この反射された電波(反射波)を受信し、受信する電波量はドップラーセンサ200から尿流520までの距離が近いほど大きく、検出範囲201の内部においてもその関係は同様である。ドップラーセンサ200が出力するドップラー信号(検知信号)は、受信する電波の量と反射物体である尿流520が持つ電波反射方向と並行する速度成分により決定する。これは、尿流のみではなく、反射物体が使用者510であっても同様である。つまり、尿流520が電波放射方向と直交する速度成分を主とする場合、得られるドップラー信号は、非常に小さな信号となってしまう。使用者510が小便器100に近接して排尿する場合、小便器100に尿流520が衝突するまでの軌道が直線に近い状態になるため、尿流が電波放射方向と直交する速度成分を主とする場合には、小便器洗浄装置は検出できないおそれがある。
【0021】
また、連立して小便器洗浄装置が設置される場合、他の装置に設置されているドップラーセンサ200から送信された電波(送信波)を受信することによる電波干渉の影響でドップラー信号が発生し、その周波数帯域は、尿流520によるドップラー信号の周波数帯域に近いため、尿流520を検出する閾値を低く設定(近接尿判定閾値)すると、電波干渉の影響により小便器洗浄装置は尿流がきたと誤検出してしまう。
【0022】
本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、電波干渉による誤検出を防止し、なおかつ使用者510が小便器100に近接した状態(近接位置)での排尿も確実に検出することができる。以下、電波干渉の防止、および小便器直近の排尿検出に関して、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図4(a)は使用者510が小便器100から離れた位置(標準位置)に立った状態で使用している様子を示した図、図4(b)は使用者510が小便器100に近い位置に立った状態で使用している様子を示した図である。
【0024】
図4(a)のように使用者510が小便器100から離れた位置(標準位置)に立っている場合、尿流520の軌道は放物線となるため、尿流520は便器100に衝突するまでの間に様々な速度成分を有することとなり、電波放射方向と直交する速度成分も有するため、ドップラーセンサ200が出力するドップラー信号は大きくなる。他の小便器洗浄装置との電波干渉によるドップラー信号も発生するが、尿流520によるドップラー信号の信号レベルの方が大きくなるため、電波干渉によるドップラー信号の信号レベルと尿流520によるドップラー信号の信号レベルの間に尿流検出の閾値(標準尿判定閾値)を設定すれば、電波干渉による誤作動なく、尿流520のみを確実に検出できる。
【0025】
図4(b)のように使用者510が小便器100に近い位置(近接位置)に立っている場合、尿流520がすぐに小便器100に衝突するため、尿流520の軌道はほぼ直線になり、尿流520の速度成分が電波放射方向と直交する場合には、得られるドップラー信号は小さくなる。他の小便器洗浄装置との電波干渉によるドップラー信号については、使用者510が小便器100に近接しているため、使用者510がブラインドになり他の小便器洗浄装置から発信される電波がドップラーセンサ200まで到達せず、電波干渉の影響をうけない。したがって、尿流520によるドップラー信号の信号レベルは小さいが、それよりも低い値に閾値(近接尿判定閾値)を設定すれば、電波干渉による誤作動なく、尿流520のみを確実に検出できる。
【0026】
また、使用者510による人体検知信号については、図4(a)のように使用者510が小便器100から離れた位置に立っている場合は、ドップラーセンサ510が受信する電波の反射量が小さいため、発生するドップラー信号も小さい。これに対し、図4(b)のように使用者510が小便器100に近い位置に立っている場合、ドップラーセンサ200が受信する電波の反射量が大きく、発生するドップラー信号も大きい。
【0027】
図5は使用者510の立ち位置と各ドップラー信号の関係を示した図である。図5(a)は尿流による信号、図5(b)は電波干渉によるドップラー信号、 図5(c)は使用者によるドップラー信号である。図5(a)に示すとおり、使用者が小便器から離れた位置に立つほど、尿流が小便器に衝突するまでの距離が長くなり軌道が放物線になるため、発生するドップラー信号は大きくなる。また、図5(b)に示すとおり、使用者が小便器に近い位置に立つほど、隣接する他の小便器洗浄装置から発生する電波を人体で遮断しドップラーセンサ200まで届く電波が少なくなるため、電波干渉により発生するドップラー信号は小さくなる。また、図5(c)に示すとおり、使用者が小便器に近い位置に立つほど、人体で反射する電波をドップラーセンサ200が受信する量が大きくなるため、発生するドップラー信号は大きくなる。
【0028】
そこで、本実施形態にかかる小便器洗浄装置の制御部300は、人体の信号レベルが人体510と小便器100との距離が近接に相当する値を超えた場合に、尿流検出手段は尿流有と判断する閾値を標準尿判定閾値より低い信号レベルの近接尿判定閾値へ変更する。人体の信号レベルとは、ドップラーセンサ200が出力するドップラー信号から人体の周波数成分を抽出した信号であり、使用者510が小便器100の近くに立つほど大きくなる。人体の信号レベルが人体510と小便器100との距離が近接に相当する値よりも大きくなると(例えば、ドップラー信号の振幅が人体510と小便器100との距離が近接に相当する値以上になると)、使用者510が小便器100に近接して立っており尿流によるドップラー信号が小さくなり、なおかつ人体がブラインドの役割を果たし電波干渉によるドップラー信号が発生しないことを想定し、制御部300は尿流検出閾値を低い値(近接尿判定値)へ変更し尿流の検出判定を行う。なお、変更した尿判定閾値(近接尿判定値)は、他のドップラーセンサとの電波干渉で発生する尿流の信号レベルよりも大きい値とする。
【0029】
このように、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、人体510の立ち位置の違いによる人体、尿流、電波干渉のドップラー信号の特性に基づいて、尿流の検出条件を変更する。すなわち、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、常時一定の検出条件に基づき尿流検出を行うのではなく、人体の立ち位置に応じて最適な検出条件を選定し尿流検出の判定を行う。そのため、本実施形態にかかる小便器洗浄装置は、人体の立ち位置によらず尿流を確実に検出することができる。
【0030】
図6は、本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を例示するブロック図である。
また、図7、図8は、本実施形態の判定手段の動作を例示するフローチャートである。
【0031】
本実施形態のドップラーセンサ200は、送信手段210と、受信手段220と、差分検出手段230と、を有する。送信手段210からは、高周波、マイクロ波あるいはミリ波などの10kHz〜100GHzの周波数帯の電波が放射される。人体510や尿流520からの反射波は、受信手段220に入力される。
【0032】
このような送受信形態を電波を用いて行うことにより、光電センサ(赤外線センサ)等のように非常に狭い指向性を持ったセンサでは検知困難な被検知体に関しても検知可能となる。そのため、小便器洗浄装置の近傍にて電波を用いることにより、形状や色、材質に関係なく検知を行うことが可能となり、被検知体の検知精度を向上させることが可能となる。
【0033】
送信波の一部と受信波は、差分検出手段230にそれぞれ入力されて合成され、ドップラー効果が反映された出力信号が出力される。つまり、差分検出手段230は、送信波の一部と受信波との周波数の差分をとり、ドップラー信号を出力する。差分検出手段230から出力されたドップラー信号は、制御部300に出力される。
【0034】
差分検出手段230から出力されたドップラー信号は、周波数の低いベースラインに周波数の高い信号が重畳した波形を有する。高周波数成分には、ドップラー効果に関する情報が含まれる。すなわち、人体510や尿流520などの被検知体が移動すると、ドップラー効果によって反射波の波長がシフトする。ドップラー周波数ΔF(Hz)は、下記の式(1)により表すことができる。

ΔF=Fs−Fb=2×Fs×v/c ・・・式(1)

但し、Fs:送信周波数(Hz)
Fb:反射周波数(Hz)
v:物体の移動速度(m/s)
c:光速(=300×106m/s)
【0035】
ドップラーセンサ200に対して被検知体が相対的に移動すると、式(1)で表されるように、その速度vに比例した周波数ΔFを含む出力信号を得ることができる。出力信号は周波数スペクトラムを有し、スペクトラムのピークに対応するピーク周波数と移動体の速度vとの間には相関関係がある。従って、ドップラー周波数ΔFを測定することにより速度vを求めることができる。
【0036】
一方、制御部300は、受信出力手段310と、人体検出手段320と、尿流検出手段330を有する。また、人体検出手段320は、人体周波数フィルタ321と、人体判定手段323を有し、尿流判定検出手段330は、尿流周波数フィルタ331と、尿流判定手段333を有する。差分検出手段230から出力されたドップラー信号は、受信出力手段310により受信された後、人体周波数フィルタ321、尿流周波数フィルタ331に出力される。そして、そのドップラー信号から人体接近に対応する周波数成分、尿流に対応する周波数成分以外を、人体周波数フィルタ321、尿流周波数フィルタ331によりそれぞれ削除し、人体接近に対応する人体検出周波数信号と尿流に対応する尿流検出周波数信号がそれぞれ抽出される。この際のフィルタリング周波数は、適宜変更することができる。
【0037】
人体周波数フィルタ321において人体検出に不必要な周波数成分が取り除かれ、人体接近に対応する人体検出周波数が抽出されたドップラー信号は、人体判定手段323に出力される。人体判定手段323は、図7に表したフローチャートのような動作により、人体の検出を行い、その判定結果に基づいて給水バルブ400を開閉する。
【0038】
また、尿流周波数フィルタ331において尿流検出に不必要な周波数成分が取り除かれ、尿流に対応する尿流検出周波数が抽出されたドップラー信号は、尿流判定手段333に出力される。尿流判定手段は、図8に表したフローチャートのような動作により、尿流の検出を行い、その判定結果に基づいて給水バルブ400を開閉する。
【0039】
ここで、図7に表した人体判定手段323の動作について説明する。まず、判定手段323は、人体検出処理を開始すると(ステップS101)、人体周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が人体閾値以上であるか否かを判断する(ステップS103)。人体周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が人体検出閾値未満である場合には(ステップS103:No)、ステップS103の動作を繰り返す。一方、人体周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が人体検出閾値以上である場合には(ステップS103:Yes)、人体510が小便器100に接近したと判定する(ステップS105)。
【0040】
人体検出が成立すると(ステップS105)、ドップラー信号の振幅が所定の値A(ただし、A<人体検出閾値とする)以下であるか否かを判断する(ステップS107)。
ドップラー信号の振幅がA以下である場合には(ステップS107:Yes)、尿流判定手段で使用する尿判定閾値NにIを代入し(ステップS109)、人体検出処理を終了する(ステップS113)。ドップラー信号の振幅がAよりも大きい場合には(ステップS107:No)、尿流判定手段で使用する尿判定閾値NにII(ただし、II<Iとする)を代入し(ステップS111)、人体検出処理を終了する(ステップS113)。
【0041】
続いて、図8に表した尿流判定手段333の動作について説明する。まず、判定手段333は、尿流検出処理を開始すると(ステップS201)、尿判定閾値にNの値を設定する(ステップS203)。ここで、Nの値は人体判定手段で設定された値(ステップS109 or S111)を使用する。尿判定閾値Nを設定すると(ステップS201)、尿流周波数フィルタ331からのドップラー信号の振幅がN以上であるか否かを判断する(ステップS205)。尿流周波数フィルタ331からのドップラー信号の振幅がN未満である場合には(ステップS205:No)、ステップS205の動作を繰り返す。一方、尿流周波数フィルタ331からのドップラー信号の振幅がN以上である場合には(ステップS205:Yes)、排尿があったと判定し(ステップS207)、尿流検出処理を終了する(ステップS209)。
【0042】
また、本具体例では、人体検出が成立した場合に人体のドップラー信号の振幅の大きさをA以下か否かの2通りに場合分けして、それぞれに対して尿判定閾値を設定しているが、これに限定するものではなく、人体のドップラー信号の振幅の大きさを3通り以上に場合分けし、それぞれに対して尿判定閾値を設定してもよい。なお、人体のドップラー信号の振幅の大きさを3通り以上に場合分けしても、人体のドップラー信号の振幅の大きさが大きくなるにつれて、尿判定閾値には低い値を設定していくものとする。
【0043】
なお、本具体例では、人体のドップラー信号の振幅の大きさに応じて尿流ドップラー信号の振幅値に基づく尿判定閾値Nを変化させているが、尿流検出に使用する周波数帯域を変化させてもよい。人体510が小便器100に近接した位置に立って、排尿する場合は、尿流の軌道が直線に近くなり、その軌道がドップラーセンサ200から放射される電波の放射方向に対し直行する速度成分を主とする場合は、ドップラー信号の周波数が低くなるため、尿流に相当する周波数帯のドップラー信号は発生しにくい。そこで、人体のドップラー信号の振幅が所定の値よりも大きい場合は、尿流検出に使用するドップラー信号の周波数範囲の下限値を低い値に設定することで、人体510が小便器100に近接した状態での排尿も検出することができる。図9は本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を例示するブロック図である。
【0044】
本具体例の人体検出手段320は、人体判定手段323が人体有と判断すると、尿流検出手段330の尿流周波数フィルタ331で使用するカットオフ周波数の下限値を変更する。つまり、図6に表したブロック図では人体判定手段323は尿流判定手段333の条件を変更しているが、代わりに人体判定手段323は尿流周波数フィルタ331の条件を変更することに相当する。その他の構成については、図6に表した小便器洗浄装置の構成と同様である。
【0045】
図10は、人体判定手段323の動作を例示するフローチャートである。
【0046】
まず、判定手段323は、人体検出処理を開始すると(ステップS151)、人体周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が人体閾値以上であるか否かを判断する(ステップS153)。人体周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が人体検出閾値未満である場合には(ステップS153:No)、ステップS153の動作を繰り返す。一方、人体周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅が人体検出閾値以上である場合には(ステップS153:Yes)、人体510が小便器100に接近したと判定する(ステップS155)。
【0047】
人体検出が成立すると(ステップS155)、ドップラー信号の振幅が所定の値A(ただし、A<人体検出閾値とする)以下であるか否かを判断する(ステップS157)。
ドップラー信号の振幅がA以下である場合には(ステップS157:Yes)、尿流周波数フィルタ331で使用する尿流周波数フィルタ下限値Fにaを代入し(ステップS159)、人体検出処理を終了する(ステップS163)。ドップラー信号の振幅がAよりも大きい場合には(ステップS157:No)、尿流周波数フィルタ331で使用する尿流周波数フィルタ下限値Fにb(ただし、b<aとする)を代入し(ステップS161)、人体検出処理を終了する(ステップS163)。
【0048】
本具体例のように、人体のドップラー信号の振幅が大きい場合に尿流周波数フィルタ331で使用する尿流周波数フィルタ下限値Fに小さい値を設定すると、人体510が小便器100に近い位置に立って排尿し、尿流の軌道が直線に近く、その軌道がドップラーセンサ200から放射される電波の放射方向に対し直行する速度成分を主とする場合であっても、通常の尿流よりも周波数が低い信号も尿流として判断するため、確実に尿流検知することができる。
【0049】
また、本具体例では、人体501が小便器100に接近したか否かの判定は、人体周波数フィルタ321からのドップラー信号の振幅に基づき人体検出判定を行う場合を例にとっているが、所定時間の間におけるドップラー信号の変動を表す分散値などを用いて判定しても良い。つまり、図6に表した人体判定手段323は、所定時間の間におけるドップラー信号の振幅の変動を表す分散値などを用いて判定してもよい。
【0050】
なお、ドップラー信号の分散値は、次式により表わすことができる。
【0051】
【数1】

【0052】
人体接近によるドップラー信号に基づいて、式(2)により算出された分散値は、図11に表した如くである。これによれば、人体接近によるドップラー信号の分散値は、人体510が小便器100に接近し、ドップラー信号の振幅の変動が大きくなるにつれて大きくなる。
【0053】
図11に表したように、ドップラー信号の分散値は、ドップラー信号の振幅よりも顕著に現れ、より安定的に推移する。そのため、ドップラー信号の分散値を用いると、人体510がドップラーセンサ200に接近したか否かの判定は、より容易になる。
【0054】
また、人体501が小便器100に接近したか否かの判定は、定在波信号を用いて判定しても良い。定在波信号は、ドップラーセンサ200と検出対象物である人体510との距離に応じてそのレベルが変化する。すなわち、定在波信号の電圧レベルは、ドップラーセンサ200から人体510までの距離が近いほど大きくなっていく。次に、本実施形態にかかる小便器洗浄装置の具体例について説明する。図12は本実施形態にかかる小便器洗浄装置の構成を例示するブロック図である。
【0055】
本具体例の人体検出手段320は、ドップラー信号から定在波信号のみを検出し出力する定在波検出手段325と、定在波検出手段325から出力される定在波信号から人体が接近したか否かを判定する定在波判定手段327から構成される。つまり、図6に表した人体検出手段320が、周波数フィルタ321のかわりに定在検出手段325、人体判定手段323のかわりに定在波判定手段327を有することに相当する。その他の構成については、図6に表した小便器洗浄装置の構成と同様である。
【0056】
定在波検出手段325は、受信出力手段 310から入力される信号に含まれる定在波信号を検出するものであり、ローパスフィルタ回路(交流成分除去回路)、位相シフト回路、全波整流回路、加算回路などから構成される。
【0057】
受信出力手段 310から入力される信号は、定在波信号である直流成分とドップラー信号である交流成分から構成されており、定在波検出手段327のローパスフィルタ回路によってドップラー信号成分を除去することによって定在波信号が抽出される。すなわち、センサ出力から交流成分を除去するのである。
【0058】
この定在波信号は、ドップラーセンサ200と検出対象物である人体との距離に応じてそのレベルが変化する。すなわち、定在波信号の電圧レベルは、ドップラーセンサ200から検出対象物までの距離が近いほど大きくなっていく。
【0059】
そして、この定在波検出手段325は、人体検出用の定在波信号を生成する際に、まず、定在波検出手段325のローパスフィルタ回路から出力される定在波信号の位相をシフトした信号をシフト回路によって生成する。
【0060】
次に、定在波検出手段325は、このように位相がシフトされた定在波信号を全波整流回路によって全波整流すると共に、定在波検出手段325のローパスフィルタ回路から出力される位相シフトされていない定在波信号を全波整流回路で全波整流する。
【0061】
その後、定在波検出手段325は、このように全波整流した2つの定在波信号を加算回路によって加算して定在波合成信号を生成し、この定在波合成信号を人体検出用の定在波信号として定在波判定手段327へ出力する。
【0062】
定在波判定手段327は、定在波検出手段325から入力される人体検出用の定在波信号を用いて、小便器100を使用する使用者(人体)510の有無を検出するものである。すなわち、この定在波検出手段325によって生成された定在波信号は、ドップラーセンサ200と検出対象物である人体との距離に応じた電圧レベルの信号となることから、人体検出手段327は、この電圧レベルを検出することにより、ドップラーセンサ200と人体との距離を検出することができる。
【0063】
そのため、定在波判定手段327は、定在波検出手段325から入力される定在波信号の電圧レベルと、予め設定した所定の閾値とを比較する演算処理を行い、定在波信号の電圧レベルが設定した閾値よりも大きい場合に、使用者が存在すると判断することができる。
【0064】
そして、この、定在波判定手段327は、使用者の存在を検出すると、定在波信号の電圧レベルから使用者510の立ち位置を判定し、尿流判定手段333が有する尿判定閾値を、使用者510の立ち位置に応じた値へ変更する。
【0065】
図13は定在波判定手段327の動作を例示するフローチャートである。
【0066】
まず、定在波判定手段327は、定在波判定処理を開始すると(ステップS301)、定在波検出手段325からの定在波信号の電圧レベルが定在波閾値以上であるか否かを判断する(ステップS303)。定在波検出手段325からの定在波信号の電圧レベルが定在波閾値未満である場合には(ステップS303:No)、ステップS303の動作を繰り返す。一方、定在波検出手段325からの定在波信号の電圧レベルが定在波閾値以上である場合には(ステップS303:Yes)、人体510が小便器100に接近したと判定する(ステップS305)。
【0067】
人体検出が成立すると(ステップS305)、定在波信号の電圧レベルが所定の値B(ただし、B<定在波閾値とする)以下であるか否かを判断する(ステップS307)。
定在波信号の電圧レベルがB以下である場合には(ステップS307:Yes)、尿流判定手段で使用する尿判定閾値NにIを代入し(ステップS309)、定在波判定処理を終了する(ステップS313)。定在波信号の電圧レベルがBよりも大きい場合には(ステップS307:No)、尿流判定手段で使用する尿判定閾値NにII(ただし、II<Iとする)を代入し(ステップS311)、定在波判定処理を終了する(ステップS113)。
【0068】
本具体例のように、人体501が小便器100に接近したか否かの判定に、定在波信号を用いると、定在波信号の電圧レベルがドップラーセンサ200から検出対象物までの距離が近いほど大きくなっていく特性を有しているため、人体501の立ち位置をより詳細に把握することができ、適正な尿判定閾値を設定することができるため、確実に尿流を検知することができる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、小便器100などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などやドップラーセンサ200の設置位置や設置角度を含む設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0070】
100 小便器、 110 ボール部、 111 ボール面、 120 給水部、 130 トラップ部、 140 排水口、 200 ドップラーセンサ、 201 検出範囲、 210 送信手段、 220 受信手段、 230 差分検出手段、 300 制御部、 310 受信出力手段、 320 人体検出手段、 321 人体周波数フィルタ、 323 人体判定手段、 325 定在波検出手段、 327 定在波判定手段 330 尿流検出手段、 331 尿流周波数フィルタ、 333 尿流判定手段、 400 給水バルブ、 510 使用者(人体)、 520 尿流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小便器へ洗浄水を給水するバルブを制御し対象物検知手段を備え連立して取付けられる小便器洗浄装置であって、前記対象物検知手段は、前記小便器洗浄装置の使用を判定するために対象物に電波を送信する送信手段及びその反射波を受信してドップラー信号を生成する受信手段を備えるドップラーセンサと、前記ドップラーセンサの出力に応じて対象物の動きを判定して前記バルブを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記ドップラーセンサ出力に含まれる尿流に相当する所定の周波数信号を抽出し、抽出した周波数信号レベルが閾値を超えると尿流有と判定する尿流検出手段と、前記ドップラーセンサ出力に含まれるドップラー信号に基づいて人体の信号レベルを検出する人体検出手段とを有するとともに、前記人体検出手段により検出する人体の信号レベルが前記人体と前記小便器洗浄装置との距離が近接に相当する値を超えた場合に、前記尿流検出手段は抽出した周波数信号レベルに関する尿流有と判断する標準尿判定閾値より低い周波数信号レベルの近接尿判定閾値へ変更することを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項2】
前記近接尿判定閾値は、前記人体検出手段が人体を検出し始める距離での前記小便器洗浄装置に隣接する他の小便器洗浄装置からの電波干渉による周波数信号レベルよりも低い値であることを特徴とする請求項1記載の小便器洗浄装置。
【請求項3】
前記制御部は、さらに前記ドップラー信号から抽出する尿流に相当する周波数信号を検出し判定するドップラー周波数の範囲を低い周波数側に拡大することを特徴とする請求項1または2記載の小便器洗浄装置。
【請求項4】
前記人体検出手段は、前記抽出した周波数信号の分散値に基づいて人体を検出し、前記分散値の周波数信号レベルに応じて前記尿流検出手段の尿流検出条件の変更を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいづれか一つに記載の小便器洗浄装置。
【請求項5】
前記人体検出手段は、前記ドップラーセンサ出力に含まれる定在波信号に基づいて人体を検出し、前記定在波信号レベルに応じて前記尿流検出手段の尿流検出条件の変更を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいづれか一つに記載の小便器洗浄装置。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−236229(P2010−236229A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84275(P2009−84275)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】