説明

小型水生動物実験飼育水槽システム

【課題】小型水生動物を用いて薬剤の評価試験や、運動負荷試験を行う場合に、実験精度を良好に維持できる小型水生動物実験飼育水槽システムを提供する。
【解決手段】小型水生動物2が個別に飼育される複数の水槽3と、水槽3に対して水を供給するための供給用配管5と、水槽3から排出される水を回収する回収用配管7と、水槽3に供給する水を貯留した貯留槽4と、回収用配管7から回収された水を供給用配管5に送ることで水循環路を形成するためのポンプ9とを備え、回収用配管7には、水循環路を形成する循環用配管12と、水を外部に排出する排出用配管13と、水を循環用配管12または排出用配管13のいずれかに導く弁体11が設けられており、回収用配管7の水が弁体11の操作によって排出用配管13に排出されるときには、貯留槽4の水が供給用配管5を通して水槽3に供給される小型水生動物実験飼育水槽システム1によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品開発などの研究目的で使用される小型水生動物の実験飼育水槽システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品開発などの研究目的で使用される小型魚類を一尾ずつ飼育しながら薬物を投与する小型魚類用水槽の開発が行われている(例えば、特許文献1〜特許文献3)。
特許文献1には、群れからはぐれたという孤独感を持たせない環境、個別飼育に必要な最小限の飼育空間と飼育水量の確保など、生物学的なストレスを小さくした多段積みの循環水型の小型水槽において、薬物投与量調節装置、給餌量調節装置、残餌量測定装置、強制運動負荷量を流調整で行なう強制運動負荷装置付水槽、および運動量または行動パターンの測定装置付水槽が開示されている。
特許文献2には、他の水槽への病気伝染を防止するための浄化装置および殺菌装置付き水槽が開示されている。また、特許文献3には、螺旋状パイプ内に水流を作り、回遊に似せた環境で泳がせる水槽が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−038977号公報
【特許文献2】特開平8−214726号公報
【特許文献3】特開2006−296283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来構造の個別水槽は、循環水を用いる方式であったため、小型魚類を飼育しながら薬剤を与えようとすると、薬剤や残餌が系内全体に還流してしまい、コントロールの魚にも残渣が希釈されて与えられてしまい、実験精度に問題が生じる影響があった。また、従来の水槽形状では、魚の泳ぐ領域の流速分布が不均一であるため、流速から計算される強制負荷量のバラツキを少なくし、整合させることが困難であった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型水生動物を用いて薬剤の評価試験や、運動負荷試験を行う場合に、実験精度を良好に維持できる小型水生動物実験飼育水槽システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、個別に小型水生動物を実験に使用するために飼育する水槽システムにおいては、残存薬物がシステム全体に拡散することでバックグラウンドを上昇させてしまい実験精度が落ちてしまうという問題が発生すること、およびこの問題を解決するため、系内の水流を循環系と排出系とに分離することにより実験精度が向上することを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。併せて、小型水生動物を用いて運動負荷試験を行う場合に、流速を制御しやすい筒形状水槽を開発することで、実験精度を向上させられることを見出した。
こうして、上記課題を達成するための発明に係る小型水生動物実験飼育水槽システムは、小型水生動物が個別に飼育される複数の水槽と、該複数の水槽に対して水を供給するための供給用配管と、前記複数の水槽から排出される水を回収する回収用配管と、前記複数の水槽に供給する水を貯留した貯留槽と、前記回収用配管から回収された水を前記供給用配管に送ることで水循環路を形成するための水循環手段とを備え、前記回収用配管には、前記水循環路を形成する循環用配管と、前記水を前記水循環路から外れて外部に排出する排出用配管と、前記回収用配管の水を前記循環用配管または前記排出用配管のいずれかに導く弁体が設けられており、前記回収用配管の水が前記弁体の操作によって前記排出用配管に排出されるときには、前記貯留槽の水が前記供給用配管を通して前記複数の水槽に供給されることを特徴とする。
【0006】
上記発明において、前記回収用配管には、前記循環水に混入している混入物を検出するための混入物検出手段が配置されており、前記混入物検出手段により出力される信号に基づいて、前記弁体の開閉を制御する開閉制御手段が設けられていることが好ましい。
また、上記発明において、前記複数の水槽の少なくとも一つの水槽が、断面がほぼ同形の筒形状をなし、鉛直下方に向かう下降路とこの下降路の下端部分で水平に向かう水平路とこの水平路の終端部で鉛直上方に向かう上昇路とを備えた筒形状水槽とされており、この筒形状水槽内の流速が略層流であって、前記水循環手段が供給する循環水量によって筒形状水槽内の流速を自在に制御できることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小型水生動物を用いて、薬剤の評価試験や、運動負荷試験を行う場合に、実験精度を良好に維持可能なシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】小型水生動物実験飼育水槽システムの概要を示す図である。
【図2】筒形状水槽の構成を示す側面図である。
【図3】混入物排出試験の結果を示すグラフである。
【図4】筒形状水槽を用いた運動負荷試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶ。
本発明のシステムに適用可能な小型水生動物としては、小型両生類、小型は虫類、または小型魚類などが含まれる。
このうち、小型両生類としては、例えばカエル(Xenopus、ウシガエル)およびそのオタマジャクシなどが含まれる。また、小型魚類としては、例えばゼブラフィッシュ、メダカ、グッピー、金魚、コイ、ニジマス、ウナギの稚魚などが含まれる。個別の水槽の大きさは、小型水生動物の大きさに応じて、適宜に設定できる。例えば、ゼブラフィッシュを使用する場合には、約10cm程度の大きさの水槽が用いられ、ニジマス(約30cm程度の体長)を使用する場合には、約100cm程度の大きさの水槽が用いられる。
【0010】
実験用の小型魚類として多くの研究者に使用されているゼブラフィッシュ(属名Danio、例えばDanio rerio)は、インド原産の体長3cmほどの小型の熱帯魚であり、コイ目コイ科ダニオ亜科(ラスボラ亜科、ハエジャコ亜科とも)に属し、オイカワ、コイや金魚などに近い。成体の体表に紺色の横じまをもつことから、シマウマにみたててこの名がある。飼育、繁殖が容易な魚で、流通価格も安く、観賞魚としてよく飼われている。
【0011】
ゼブラフィッシュの体重は、生育環境にもある程度左右されるが、受精後2ヶ月で0.15g〜0.22g、受精後3ヶ月で0.2g〜0.3g、受精後6ヶ月で0.35g〜0.55g、受精後10ヶ月で0.45g〜0.6g程度である。受精後3ヶ月で産卵可能な成体となり、受精後6ヶ月程度で良好な産卵期を迎える。受精後10ヶ月程度で産卵期が終了する。平均寿命は、受精後2年〜3年程度、最長でも5年程度と報告されている。ゼブラフィッシュは魚類であるが、主要臓器・組織の発生・構造などはヒトと良く似ており、各パーツ(臓器など)が受精卵から分化して形成されていく過程が透明な体を通して観察できる。
【0012】
受精後48時間で主要臓器・組織の基本構造が出来上がったときには、体長は2ミリ以下であるため、96ウエルプレートなどの小スペースで取り扱うことができる。したがって、モデル動物全体への影響を指標とした新薬候補化合物スクリーニングへの適用が可能であり、既にゼブラフィッシュを用いる新薬候補化合物のスクリーニングが商業的に実施されている。また、ゼブラフィッシュの全ゲノムも解読されており(Sanger Institute)、遺伝子発現プロファイルの分析も可能である。以下、小型水生生物として、ゼブラフィッシュを用いる場合を例に説明を行うが、本発明は実験用に用いられる小型水生生物全般に適用可能なものであり、ゼブラフィッシュへの適用に限定されるものではない。
【0013】
医薬品の開発にゼブラフィッシュを実験用小形水生生物として用いる場合には、稚魚を用いた新薬候補化合物の評価に加え、成魚個体を用いた薬物評価も行われている。これは、人間における疾患の大部分が加齢性疾患や代謝性疾患であることから、そのことを反映してゼブラフィッシュ成魚個体での薬物の評価が重要視されているためである。
ゼブラフィッシュ成魚の定義は、交配可能となる受精後3ヶ月以降である。受精後3ヶ月のゼブラフィッシュは、約2.5cmである。この段階では、約2リットルの水を含む水槽に対して、10尾の成魚を入れ飼育する。飼育水はカルキ抜きした水道水や、インスタントオーシャン含有水などが一般的である。これらの水槽を大型の水循環システムに接続し、まとめて水管理することが一般的である。
【0014】
本発明において、小型水生生物を個別に飼育する水槽は、個別飼育を行いながら、その小型水生生物を用いて試験を行うものである。群れ行動をする魚類(例えば、ゼブラフィッシュ)の場合には、心理的ストレスを緩和するため、水槽の素材はガラス、アクリル樹脂など透明なものを使用することが好ましい。
本発明の水槽は、小型水生生物として、小型魚類を被験動物として用いる実験に特に有用である。小型魚類として、ゼブラフィッシュを用いる場合には、成魚でも3〜4cm程度であるため、小さなスペースで大量に飼育することが可能となる。また、本発明の水槽を用いることにより、一尾ずつの飼育でも省スペースでの実験が可能となる。
【0015】
小型水生生物は、実験中には各水槽中で個別飼育を行うため、被験物質の投与量、給餌量の調節、および残餌の測定が可能である。一般に、動物個体を用いた医薬品開発研究における化合物投与スクリーニングにおいては、摂食量、運動量、行動パターンの測定・評価を行うことが必要となる。ゼブラフィッシュは、行動パターン解析により人間の高次脳機能のモデル動物になることが報告されており、水槽を積み重ねることによりグループダイナミクスの解析も可能である。
また、水流に逆らって泳ぐ特徴を備えた小型魚類(例えば、ゼブラフィッシュ)の場合には、強制運動負荷試験を行うことができる。このときには、断面がほぼ同形の筒形状をなし、全体がコ字状(すなわち、鉛直下方に向かう下降路とこの下降路の下端部分で水平に向かう水平路とこの水平路の終端部で鉛直上方に向かう上昇路とを備えたもの)の筒形状水槽を用い、この筒形状水槽内の流速が略層流であって、水循環手段が供給する循環水量によって筒形状水槽内の流速を自在に制御できるものを用いることができる。
【0016】
その他に、近年哺乳類動物では倫理的な側面から問題視されているストレス負荷試験が可能となる。さらに個別の水槽に、溶存酸素計や溶存二酸化炭素計を接続することにより、運動量から代謝量を測定することが可能となるなど、医薬品候補化合物が小型水生生物に与える影響を評価するために必要な生体特徴の測定が必要十分に行える。
複数の水槽は、重力に対向する鉛直方向または水平方向のいずれにも並べることができる。例えば、実施例に示すように、複数の水槽を水平方向に並べたものを一つの階層とし、複数の階層を鉛直方向に重ねることで、より多くの小型水生生物を省スペースで飼育できる。
供給用配管は、水循環手段から供給される水循環の上流側に配置し、回収用配管は下流側に配置する。水循環手段としては、ポンプなどを用いることができる。水循環手段は、各供給用配管に対して1個ずつ設けることができるし、複数の供給用配管を適当に連結して1個の水循環手段でまかなうこともできる。
【0017】
通常、複数の水槽に対して水を供給する場合には、供給用配管から供給する水を個々の水槽に与える。個々の水槽からあふれ出した水は、回収用配管と連通配管を介して回収された後、(1)再び水循環手段を通して供給用配管に供給されるか、(2)一旦、貯留槽に貯留されて、適当な温度(例えば、小型魚類が熱帯産であって、適当な水温を必要とする場合には、貯留槽にヒーターを設けることが好ましい実施形態となる)とした後に、水循環手段を通して供給用配管に供給する。
従来、複数の個別水槽を用いた水槽システムでは、水槽に供給する水は一度のみの使用(例えば、温泉などにおける源泉掛流しの状態)ではなく、水槽から溢れた水を回収用配管から回収し、再び供給用配管を通して水槽に供給していた。一度のみの使用では、大量の水が必要となることに加え、供給される水の環境条件(例えば、温度・塩素濃度・溶存酸素などの条件)を一定とするために過大な設備を必要とすることに鑑みれば、当然の配慮であった。ところが、従来の水槽システムを用いて、個別水槽に濃度の異なる薬物を投与したところ、システム内全体の水が混合されてしまい、実験精度が維持できないという問題が発生した。
【0018】
本発明は、この問題を解決するための工夫である。つまり、予め必要以上の水を貯留槽に溜めておき、水槽に薬物を投与する期間には、連通配管に集められた水を排出用配管から排出すると共に、水槽には貯留槽から水を供給することとした。弁体は、(1)連通配管・循環用配管・排出用配管の三種類の配管を一箇所で連結させる構造とし、1個の三方弁体を用いるか、(2)循環用配管と排出用配管のそれぞれに1個ずつの弁体を用いることができる。
混入物検出手段とは、循環水中の混入物を検出するためのものである。混入物とは、例えば小型水生生物に与えた薬物、小型水生生物に投与する餌の残渣などが含まれる。混入物検出手段は、これらの混入物を検出するものであり、例えば吸光光度計、分光光度計、水の導電度計、伝導度測定器などが例示される。小型水生生物を用いた実験を行うときには、水中に薬物を混入させる場合がある。この薬物がシステム全体の水に混入することを避けるためには、弁体を操作して回収用配管に流れ込んできた水を排出用配管から排出させることが好ましい。このとき、連通配管を流れる水の混入物を検出し、その濃度が予め設定した濃度以下になった場合に、弁体を操作して連通配管の水を循環用配管に接続し、再び水循環路を形成する。
【0019】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<小型水生動物実験飼育水槽システムの構成>
図1には、小型水生動物実験飼育水槽システム1(以下、「システム1」という)を示した。図示はしないが、システム1には、上下方向に複数の棚台を備えたラックが設けられており、各棚台には、小型魚類2(本発明における小型水生動物に該当する)が個別に飼育される複数の水槽3が設置されている。水槽3は、図示上下二段に亘って設置されており、それぞれの段には、水平状に複数の水槽3が並列して設けられている。また、下段の水槽3の下には、貯留用の水を溜めておく貯留槽4が設けられている。水平に設置された水槽3の上部には、水を供給するための供給用配管5が設けられている。水平方向に延長された供給用配管5において、各水槽3の上部には給水部6が設けられており、ここから水が供給される。
【0020】
水槽3は、透明の部材(例えば、アクリル樹脂)により上面側が開放する直方体状に形成されており、その一側壁には、適当な高さ位置に水を排出する開口部(図示せず)が設けられている。この開口部は、適宜に高さ位置が変更可能とされており、内部に飼育する小型魚類2の大きさ等の条件に合わせて水の高さ(深さ)を変更できる。なお、水槽3の大きさは、小型魚類2の大きさなどに合わせて、適宜に変更できる。
水槽3の下部には、水槽3から排出される水を回収する回収用配管7が設けられている。各段の水槽3に設けられた回収用配管7は、下降するに従って連結されて連通配管8とされている。連通配管8の下端部分は貯留槽4に連結されており、貯留槽4から導出される水の配管は供給用配管5の始端部と連結され、その連結部分には水を循環させるポンプ9(本発明の水循環手段に該当する)が設けられている。こうして、ポンプ9が回収用配管7および連通配管8から回収された水を供給用配管5に送ることで、各配管5,7,8、および水槽3を循環する水循環路が構成される。
なお、本実施形態では、貯留槽4は、水循環路を構成するように連結されているが、本発明によれば、連通配管8の末端部を直接にポンプ9に連結し、貯留槽4は、水循環路から外した構成とすることもできる。
【0021】
また、貯留槽4には、システム1の外方からの水(例えば、水道水、井戸水など)が導入可能とされている。
連通配管8の途中には、吸光光度計10(本発明における混入物検出手段に該当する)が設けられている。また、連通配管8において、吸光光度計10の下流側には、三方弁体11が設けられており、そこには水循環路を形成する循環用配管12と、水をシステム1の外部に排出する排出用配管13が連結されている。三方弁体11は、手動、または開閉制御装置14(本発明における開閉制御手段に該当する)によって自動に制御可能とされており、連通配管8からの水を循環用配管12または排出用配管13のいずれかに流すようになっている。
【0022】
自動制御を行っているときには、吸光光度計10からの信号がコントローラ15に伝達され、その値が所定の値よりも大きくなると混入物が所定の濃度よりも高くなったと見なして、コントローラ15が開閉制御装置14を制御して、三方弁体11を操作し、連通配管8からの水を排出用配管13に水を流出させる。このときには、ポンプ9によって貯留槽4の水が供給用配管5を介して、水槽3に供給される。一方、吸光光度計10からの信号が所定の値以下になると、混入物が所定の濃度以下になったと見なして、コントローラ15は開閉制御装置14を制御して、三方弁体11を操作し、連通配管8からの水を循環用配管12に流すことで、水循環路を形成する。
なお、三方弁体11の切換えは、混入物が所定濃度以下になるに要する時間をあらかじめ計測しておけば、高価なコントローラを使用せずとも、タイマーでも実施可能である。
【0023】
図2には、筒形状水槽20を示した。この筒形状水槽20は、均一な流速を負荷することにより、小型魚類2の運動負荷試験の実験精度を向上させられるものである。筒形状水槽20は、断面がほぼ同形の円形状とされた筒形状とされており、鉛直下方に向かう下降路21と、この下降路21の下端部分で水平に向かう水平路22と、この水平路22の終端部で鉛直上方に向かう上昇路23とを備えて、略コの字状とされている。
なお、下降路21と水平路22との間、および水平路22と上昇路23との間には、それぞれ着脱可能な方向変換路24が装着されている。また、下降路21と水平路22とを繋ぐ方向変換路24(小型魚類2にとって上流側)には、小型魚類2の移動を制限する網状部材25が設けられている。筒形状水槽20を水槽3に代えて配置し、下降路21から所定量の水を供給することで、流速を自在に制御できるので、小型魚類2の運動負荷を制御できる。また、網状部材25は筒形状水槽20の水流を層流化する効果もあり、場合により小型魚類2の前方に加えて後方に配置してもよい。
【0024】
<実施例1> 混入物排出試験
システム1を用いて、5匹のゼブラフィッシュ(体重約0.6g)を飼育している水槽3(水量約1.7リットル)に、吸光光度計にて検出が可能な化学物質Xを最終濃度が0.1%となるように投与した。
その後、三方弁体11を所定の位置とし、回収用配管7からの水を循環用配管12に流して水循環路を形成した状態(外部排水(−))、または排出用配管13から外部に排出した状態(外部排水(+))のいずれかに設定したときの化学物質Xの濃度を吸光度(430nm)の変化によって測定した。なお、各条件について、3個の水槽3を使用した。データは、平均値±標準偏差にて示した。
図3に試験結果を示した。水循環路を形成した状態(外部排水(−))では、試験開始から60分後にも吸光度の減少は認められなかった。一方、外部排水(+)の条件では、60分後には、化学物質非投与水槽と同等の吸光度(濃度)まで減少することがわかった。
【0025】
<実施例2> 筒形状水槽を用いた運動負荷試験
システム1の水槽3の一部を筒形状水槽20とし、各1匹のゼブラフィッシュを飼育した。ゼブラフィッシュは、試験開始から2週間にわたって高脂肪食を負荷して肥満個体とし、その後に筒形状水槽20にて1週間の飼育を行った。筒形状水槽20には、一定量の水流が負荷されており、ゼブラフィッシュは常に上流に向かって運動する状態とした。なお、筒状水槽20内で飼育している間も高脂肪食を給餌した。各条件それぞれ5匹のゼブラフィッシュを使用した。データは、平均値±標準偏差にて示した。データは、平均値±標準偏差にて示した。
図4に試験結果を示した。肥満誘導のみ(筒形状水槽での飼育なし、かつ3週間にわたって高脂肪食を負荷)および肥満誘導・運動負荷なし(筒形状水槽での飼育なし、高脂肪食は2週間で終了)の群では、試験開始から21日目までにBMIは、約0.03から約0.046へと徐々に増加した。
【0026】
一方、肥満誘導・運動負荷(15日目から筒形状水槽での飼育開始、高脂肪食は2週間で終了)の群では、試験開始から14日目まではBMIが、約0.03から0.048へと増加したものの、21日目には0.045へと減少した。また、この群では、データのバラツキは比較的小さく、均一な運動負荷が行われたと考えられた。
このように本実施形態によれば、小型水生動物を用いて、薬剤の評価試験や、運動負荷試験を行う場合に、実験精度を良好に維持可能なシステムを提供できた。
【符号の説明】
【0027】
1…小型水生動物実験飼育水槽システム
2…小型水生動物
3…水槽
4…貯留槽
5…供給用配管
7…回収用配管
9…ポンプ(水循環手段)
10…吸光光度計(混入物検出手段)
11…弁体(三方弁体)
12…循環用配管
13…排出用配管
14…開閉制御装置(開閉制御手段)
20…筒形状水槽
21…下降路
22…水平路
23…上昇路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型水生動物が個別に飼育される複数の水槽と、該複数の水槽に対して水を供給するための供給用配管と、前記複数の水槽から排出される水を回収する回収用配管と、前記複数の水槽に供給する水を貯留した貯留槽と、前記回収用配管から回収された水を前記供給用配管に送ることで水循環路を形成するための水循環手段とを備え、
前記回収用配管には、前記水循環路を形成する循環用配管と、前記水を前記水循環路から外れて外部に排出する排出用配管と、前記回収用配管の水を前記循環用配管または前記排出用配管のいずれかに導く弁体が設けられており、前記回収用配管の水が前記弁体の操作によって前記排出用配管に排出されるときには、前記貯留槽の水が前記供給用配管を通して前記複数の水槽に供給されることを特徴とする小型水生動物実験飼育水槽システム。
【請求項2】
前記回収用配管には、前記循環水に混入している混入物を検出するための混入物検出手段が配置されており、前記混入物検出手段により出力される信号に基づいて、前記弁体の開閉を制御する開閉制御手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の小型水生動物実験飼育水槽システム。
【請求項3】
前記複数の水槽の少なくとも一つの水槽が、断面がほぼ同形の筒形状をなし、鉛直下方に向かう下降路とこの下降路の下端部分で水平に向かう水平路とこの水平路の終端部で鉛直上方に向かう上昇路とを備えた筒形状水槽とされており、この筒形状水槽内の流速が略層流であって、前記水循環手段が供給する循環水量によって筒形状水槽内の流速を自在に制御できることを特徴とする請求項1または2に記載の小型水生動物実験飼育水槽システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−217651(P2011−217651A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88979(P2010−88979)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(595032680)株式会社名東水園 (2)
【Fターム(参考)】