説明

小型飛行装置

【課題】突風中の飛行においても高度な飛行性能を達成できるようにする。
【解決手段】胴体1の前部左右位置と後部左右位置の4個所に、連結ロッド4の一端部を回転自在に取り付ける。胴体外方に突出する連結ロッド4の他端部に、出力軸5aに回転翼2a,2b,2c,2dが取り付けてある翼駆動用モータ5の一側部を取り付けて、出力軸5aが連結ロッド4と直角方向となるようにする。回転翼2a,2b,2c,2dを翼駆動用モータ5と共に垂直方向下向きに配して回転駆動させることにより、下向きの後流を発生させて、その反力により、垂直上昇、降下、ホバリングを行わせる。回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向を後斜め下向きに傾けることにより、後流の反力により揚力と推進力を得て前進飛行させ、この際、左右の推進力のバランスを変化させることで左右へ旋回させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所要の目標位置まで飛行させて該目標位置の情報収集や、上記目標位置への小型機器の搬送等を行わせるために用いる小型飛行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、屋内外の高所位置や災害現場等の人が容易に近づくことが困難な場所、あるいは、化学物質、微生物、放射性物質等での汚染が想定されるような場所の現場状況を調べる場合等に、大きさが数十センチメートル以下というような非常に小型の飛行装置(Micro Air Vehicle:MAV)に、カメラ、マイク、雰囲気ガス中の化学物質、微生物、放射性
物質等の有無を検出するための所要の分析装置等の機器を搭載して、該小型飛行装置を目標となる位置まで飛行させ、該小型飛行装置に搭載された機器により検出される現場の計測結果を基に、遠隔地より上記目標位置の情報収集を実施できるようにすることが考えられてきている。
【0003】
ところで、飛行体とその周囲の流体との相互作用を、流体の慣性力と粘性力の比であるレイノルズ数との相関で整理すると、飛行体のサイズとレイノルズ数の大小はほぼ対応しており、従来一般に実用化されているメートルサイズの飛行体では、たとえば、通常の航空機のレイノルズ数が10〜10のオーダーを示すように、レイノルズ数が高くて(Re>10)慣性力が支配的となっているのに対し、上記のようなサイズが小さい小型飛行装置では、レイノルズ数が10〜10程度と低い値となり、周囲の気体(流体)との相互作用では、慣性力と共に粘性力の影響が大となる。又、上記小型飛行装置は、サイズが小さくて機体重量が軽いことから、気流等の影響を容易に受け易く、常に突風の中を飛行するような状態となる。更に、屋内での飛行や、屋外での気流中を飛行させるためには、垂直離着陸、急旋回、空中停止飛行(ホバリング)等の非常に高度な飛行性能が要求される。
【0004】
ところで、飛行性能として、垂直離着陸や空中停止飛行が可能な飛行体としては、ヘリコプターが広く一般に知られている。又、垂直離着陸機や飛行船も垂直離着陸や空中停止飛行が可能である。
【0005】
上記垂直離着陸機としては、たとえば、胴体の左右位置に主翼を備え、且つ胴体の後部位置に左右の水平尾翼と垂直尾翼を備え、更に、上記主翼の先端部と水平尾翼の先端部に、エンジンを、それぞれ水平方向から垂直方向へ回動可能に取り付けると共に、該各エンジンにはプロペラ(回転翼)を取り付けてなる構成としたチルトエンジン形式の航空機が従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
又、飛行船としては、たとえば、平面形状を円形とし且つ断面形状を楕円形として、内部にヘリウムを充填して空気静力学的な上昇体とすることができるようにしてある胴体を備え、該胴体の前部左右位置と後部左右位置に、プロペラ(回転翼)を備えてなる推進ユニットをそれぞれ設けると共に、該各推進ユニットは、プロペラ回転面を水平位置(プロペラ回転軸は垂直方向)から垂直位置(プロペラ回転軸は水平方向)の間で傾動できるようにしてなる構成として、上記各推進ユニットのプロペラをプロペラ回転面が水平位置となる状態で回転駆動することにより上昇を行わせ、又、各推進ユニットのプロペラを回転面が垂直となる状態で回転駆動することにより推進力を得るようにしたものが従来提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0007】
更に、垂直離着陸ができる別の飛行体としては、人が乗る区画を備えた本体部の前後位置に、回転軸を上下方向に向けたロータ(回転翼)を備えると共に、上記本体部の左右位置に、チルト機構により回転軸を上下方向から前後方向へ角度変更可能としてあるロータ(回転翼)を備え、且つ上記前後と左右の各ロータを、1つのエンジンより複数段の差動装置(ディファレンシャルギヤ)及びクラッチを介し接続してある個別の出力部を経て伝達される動力によりそれぞれ回転駆動できるようにしてなる構成として、上記左右の各ロータを回転軸が上下方向になるよう配置した状態にて、該左右の各ロータと前後の各ロータを回転駆動させることにより上昇を行わせ、その後、上記左右の各ロータを回転軸が前後方向へ向くような姿勢にチルトさせた状態にて回転駆動することにより、前進飛行を行わせるようにするものも従来提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2002−205694号公報
【特許文献2】特開2001−507306号公報
【特許文献3】特開平4−173497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、ヘリコプターは、垂直離着陸、空中停止飛行を行うことはできるが、前進や後進、あるいは、左右方向への旋回飛行は、通常、ロータ(回転翼)の回転軸を、胴体ごと進行方向へ傾けることで行わせるようにしてあるため、急旋回性能をあまり高めることができないという問題がある。このため、ヘリコプター型の機体構成では、前述した如きサイズが小さいと共に機体重量が軽くて、常に突風の中を飛行するような状態となる小型飛行装置に要求される非常に高度な飛行性能を満足させることは難しい。
【0010】
又、特許文献1に示されたようなチルトエンジンを備えてなる型式の垂直離着陸型の航空機は、垂直離着陸時には、プロペラをプロペラ回転軸が垂直となるようにエンジンごと回動させるようにするが、通常の前進飛行時には他の一般の航空機と同様に、各翼に設けられている昇降舵や水平舵、補助翼をそれぞれ操作することによって、左右方向への旋回飛行や、飛行時における姿勢の制御を行うようにするものと考えられるため、急旋回性能をあまり高めることができない。このために、チルトエンジンを備えた垂直離着陸型航空機の機体構成によっても、前述の小型飛行装置に要求される飛行性能を満足させることは難しい。なお、特許文献1には、チルトエンジンを有する航空機の飛行方向の制御や、飛行時における機体姿勢の制御に関する具体的な記載はない。よって、特許文献1には、各主翼及び水平尾翼の先端部に設けられているチルトエンジンを、通常の前進飛行時においても個別に角度変更したり、出力をそれぞれ相違させることによって飛行方向の制御を行ったり、飛行時における機体姿勢の制御を行う考えは全く示されておらず、示唆されるものではない。
【0011】
更に、特許文献2に記載された飛行船では、胴体内部に充填されるヘリウムの浮力によって機体の全重量を浮上させるためには、胴体の容積を機体重量に比して大きく設定する必要がある。このために、常に突風の中を飛行するような状態が想定される前述の小型飛行装置に、上記特許文献2に記載されたような機体構成を、たとえそのサイズを縮小化したとしても採用することは困難である。
【0012】
したがって、上記小型飛行装置には、従来のヘリコプターや航空機、飛行船とは非常に異なる設計が必要とされるのが実状である。
【0013】
特許文献3に記載されたものでは、本体部の前後位置に設けられた2つのロータは、その回転軸が上下方向に固定されているものであるため、該前後2つのロータは、飛行体の前進飛行時には、飛行体を前進させるための推進力の発生にはほとんど寄与しない。又、本体部の左右位置に設けられている2つのロータを90°チルトさせて前進させているときには、該左右の2つのロータは、飛行体の機体重量(全体重量)を浮揚させる揚力の発生には寄与せず、上記前後2つのロータにより飛行体の機体重量を支える揚力を発生させる必要がある。したがって、前後の2つのロータと、左右の2つのロータは、それぞれ揚力の発生用と、推進力の発生用にその用途がほぼ分けられることから効率が悪い。更には、上記左右の2つのロータは、エンジンに対して差動装置、クラッチを介して取り付けられた出力部によって回転されるようにしてあると同時に、該出力部の先端部に設けてあるチルト機構によりチルトできるようにしてあるものであることから、上記各チルト機構の構造が複雑化して重量が嵩むと考えられる。したがって、前述の小型飛行装置に対して、特許文献3に記載されたような機体構成を採用することは難しい。
【0014】
そこで、本発明者は、小型飛行装置に高度な飛行性能を付与するための工夫、研究を重ねた結果、胴体の水平姿勢を保持したままの垂直離着陸、急速旋回、空中停止飛行(ホバリング)等の高度な飛行性能を備えたトンボに着目した。トンボは、水平飛行時には、翼断面の平均迎角(水平面となす角)をほぼゼロとなるようにして、翼断面が上下往復運動と回転運動が重畳された運動をするように各翼を羽ばたかせており、一方、空中停止飛行時には、翼断面の平均迎角をほぼ90度として、すなわち、翼前縁を上にして、翼断面が前後往復運動と回転運動が重畳された運動をするように各翼を羽ばたかせており、このことから、水平飛行時と空中停止飛行時での違いは、翼断面の該翼断面に対する相対的な往復運動方向は変化せず、翼断面の平均迎角だけが相違しており、各翼の羽ばたきにより発生させる空気の流れの方向が、水平方向後向きと垂直方向下向きで相違している。
【0015】
ところで、トンボの各翼は、3方向の自由度を持つジョイントにより胴体に連結されており、この自由度を生かして、自在に翼断面を上下や前後に動かしたり、回転できるものである。
【0016】
このため、上記トンボの翼の胴体への取付部分の構造を模倣して、上下、前後、回転の3方向の自由度を持つ翼の駆動機構を採用することが考えられる。この場合、上記のような3方向の自由度を備えたユニバーサルジョイントは、ジンバルとモータ等を組み合わせることにより実現することは可能であると考えられるが、重量が過多になり、小型飛行装置に採用することは難しく、又、コスト的にも高価になると考えられる。
【0017】
これらのことを鑑みて、本発明者は、トンボの翼の駆動部の運動をそっくりそのまま模倣するバイオミメティックな考え方ではなく、上記トンボの翼駆動部の優れた点のみを抽出してその構造的な考え方を取り入れるバイオモルフィックな考えに基づいて本発明をなした。
【0018】
したがって、本発明の目的とするところは、高度な飛行性能を達成できて、屋内での飛行や、屋外での気流中にて常に突風の中を飛行するような状態であっても飛行できる小型飛行装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明に対応して、胴体の左右位置の複数個所に、回転翼を、それぞれ独立して前後方向姿勢から上下方向姿勢へ角度調整可能に設けて、各回転翼の回転速度を独立に制御できるようにしてなり、該各回転翼を所要の角度姿勢に保持しながらそれぞれ所要の回転速度で回転駆動して飛行できるようにしてなる構成とする。
【0020】
又、請求項2に係る発明に対応して、胴体の前部左右位置と後部左右位置の複数個所に、回転翼を、それぞれ独立して前後方向姿勢から上下方向姿勢へ角度調整可能に設けて、各回転翼の回転速度を独立に制御できるようにしてなり、該各回転翼を所要の角度姿勢に保持しながらそれぞれ所要の回転速度で回転駆動して飛行できるようにしてなる構成とする。
【0021】
更に、請求項3に係る発明に対応して、胴体の前部左右位置と後部左右位置の複数個所に、左右方向に延びるように連結ロッドを取り付けて、該連結ロッドを回転できるようにし、且つ該各連結ロッドに、出力軸に回転翼を取り付けた翼駆動用モータをそれぞれ取り付けて、上記連結ロッドを介して回転翼の角度姿勢を上下方向へ変更できるようにした構成とし、更に、かかる構成に、胴体の姿勢を検出するための姿勢センサと、該姿勢センサから入力される信号を基に各回転翼の上下方向の角度姿勢の制御と、各翼駆動用モータの回転速度の制御を行うコントローラを備えた構成とする。
【0022】
又、上述した各構成における胴体の所要個所に、前方から後方へ向かう気流中にて揚力を発生させることができるようにしてある固定翼を取り付けた構成とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の小型飛行装置によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)胴体の左右位置、より具体的には、胴体の前部左右位置と後部左右位置に、複数の回転翼を、それぞれの回転翼ごとに回転速度と前後方向から上下方向への角度姿勢を独立して制御可能に設けるようにした構成としてあるので、上記各回転翼ごとに、後流発生方向の角度姿勢と、発生させる後流の強度をそれぞれ制御することができて、該各回転翼に作用する後流の反力の垂直方向上向きの成分と水平方向成分の大きさをそれぞれ調整できる。したがって、上記各回転翼より胴体にそれぞれ作用させる揚力の大きさと、推進力の大きさ及び方向を個別に制御できることから、気流により姿勢が前後左右方向に乱されそうになっても、容易に修正して水平姿勢を保持することができる。又、垂直離着陸や空中停止飛行等の高度な飛行性能を達成できる。
(2)更に具体的には、胴体の前部左右位置と後部左右位置の複数個所に、左右方向に延びるように連結ロッドを取り付けて、該連結ロッドを回転できるようにし、且つ該各連結ロッドに、出力軸に回転翼を取り付けた翼駆動用モータをそれぞれ取り付けて、上記連結ロッドを介して回転翼の角度姿勢を上下方向へ変更できるようにした構成とすることにより、上記連結ロッドの回転と、上記翼駆動用モータの回転速度の制御により、回転翼の上下方向の角度姿勢の変更と、回転速度の制御を行なうことができる。
(3)胴体の姿勢を検出するための姿勢センサと、該姿勢センサから入力される信号を基に回転翼の角度姿勢と、回転速度の制御を行うコントローラを備えた構成とすることにより、本発明の小型飛行装置の姿勢が崩れて所要方向に傾斜した場合には、傾斜した側と、その反対側に作用する揚力のバランスを変えるよう、各回転翼の後流発生方向の角度姿勢及び回転速度を変化させて姿勢を修正して、飛行姿勢を安定に保持することが可能となる。
(4)胴体の所要個所に、前後方向の気流中で揚力を発生する固定翼を取り付けた構成とすることにより、前進飛行時には、上記固定翼により揚力を発生させることができるため、その分、各回転翼より胴体に作用させるべき揚力の大きさを削減できることから、推進効率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0025】
図1(イ)(ロ)乃至図3は本発明の小型飛行装置の実施の一形態を示すもので、前後方向に、たとえば、十数センチメートル程度の長さ寸法を有する胴体1の左右両側部の複数個所、たとえば、前部左右位置と後部左右位置の4個所に、回転速度を独立して制御できるようにしてあるスクリュープロペラの如き回転翼2a,2b,2c,2dを、その回転軸方向が前後方向姿勢から上下方向姿勢へ姿勢変更(角度変更)できるようにそれぞれ設け、該各4つの回転翼2a,2b,2c,2dの角度姿勢及び回転速度をそれぞれ適宜制御することにより飛行できるようにする。
【0026】
以下、詳述する。
【0027】
上記胴体1の前部左右位置及び後部左右位置には、図2に示す如く、それぞれ一対の軸受3aと3bを左右別々に設けて、該各一対の軸受3a,3bに、左右方向に延びてそれぞれ胴体1の左右外方へ所要寸法突出するように配置した左右別々の連結ロッド4の各一端部を回転自在に支持させる。該各連結ロッド4の突出端部となる他端部には、それぞれ上記胴体1と平行に延びる出力軸5aに回転翼2a,2b,2c,2dを各々取り付けている翼駆動用モータ5の一側部を取り付けて、回転翼2a,2b,2c,2dが後向きの姿勢となるようにし、上記連結ロッド4を回転させることにより各翼駆動用モータ5が上下方向に回動して出力軸5aの角度姿勢、すなわち、各回転翼2a,2b,2c,2dの回転軸方向の角度姿勢を前後方向姿勢から上下方向姿勢へ、又、その逆に調整できるようにする。更に、上記各連結ロッド4には、左右一対の軸受3aと3bの間に位置する部分に、角度変更用ギア6をそれぞれ取り付け、且つ該各ギア6に噛合させたピニオン7を、各々独立させた角度制御用モータ8の出力軸8aにそれぞれ取り付ける。これにより、各角度制御用モータ8を駆動させてピニオン7を独立して回転させることで、上記角度変更用ギア6、連結ロッド4を介して各翼駆動用モータ5が、それぞれ独立して前後方向に沿う垂直面内で上下方向に回転(角度変更)できるようにしてある。したがって、上記角度制御用モータ8の回転数を適宜制御することにより、それぞれ対応する翼駆動用モータ5の出力軸5aに取り付けてある回転翼2a,2b,2c,2dの上下方向の角度姿勢(向き)をそれぞれ独立に変更できる。
【0028】
又、上記各翼駆動用モータ5は、回転数(回転速度)を個別に制御することができるようにしてあり、回転数を個別に制御することにより、それぞれ対応する各回転翼2a,2b,2c,2dの回転速度を独立して制御することができて、該各回転翼2a,2b,2c,2dの回転により発生させるスリップストリーム(後流)の強度を個別に調整できるようにしてある。なお、図1(イ)(ロ)及び図2に示すものでは、各回転翼2a,2b,2c,2dは、回転駆動により翼駆動用モータ5側より空気を吸入するものとしてある。
【0029】
かかる構成としてあることにより、上記各翼駆動用モータ5により回転翼2a,2b,2c,2dを回転駆動させると、それぞれの回転翼2a,2b,2c,2dの後方領域には後流が発生し、このため、上記各回転翼2a,2b,2c,2dには、上記後流の反力がそれぞれ作用するようになる。よって、本発明の小型飛行装置全体では、上記4つの回転翼2a,2b,2c,2dにそれぞれ作用する後流の反力における垂直方向上向きの成分(分力)の合力が揚力(浮揚力)として作用し、又、上記4つの回転翼2a,2b,2c,2dにそれぞれ作用する後流の反力の水平方向成分(水平分力)が水平方向の推進力として作用することとなる。したがって、上記各回転翼2a,2b,2c,2dの回転軸方向の一方である後流発生方向の角度姿勢と、各回転翼2a,2b,2c,2dの回転速度を独立して調整することにより、上記各回転翼2a,2b,2c,2dごとに発生させる揚力と推進力のバランスを変更できるため、高度の飛行性能が実現されるようになる。
【0030】
すなわち、たとえば、角度制御用モータ8により翼駆動用モータ5を回動させて各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向を、図1(イ)に示す如く、それぞれ垂直方向下向きとなる姿勢とさせた状態にて、翼駆動用モータ5の駆動により各回転翼2a,2b,2c,2dを回転させると、後流はそれぞれ垂直方向下向きに発生されるようになる。
このため、該後流の反力は垂直方向上向きの成分のみとなって、水平分力は生じない。よって、気流のない領域にて、上記各翼駆動用モータ5によるそれぞれの回転翼2a,2b,2c,2dの回転速度を調整して、4つの回転翼2a,2b,2c,2dにてそれぞれ発生させる後流の反力の合力である本発明の小型飛行装置の揚力が、本発明の小型飛行装置の機体重量(全体重量)を上回るようにすれば、該小型飛行装置は、水平方向に移動されることなく垂直上昇するようになる。一方、上記本発明の小型飛行装置の揚力が機体重量を下回るようにすると、該小型飛行装置は垂直に降下させられるようになる。更に、上記本発明の小型飛行装置の揚力が機体重量と釣り合うようにすれば、本発明の小型飛行装置は空中停止飛行(ホバリング)を行うことができるようになる。
【0031】
又、たとえば、上記角度制御用モータ8により翼駆動用モータ5を回動させて各回転翼2a,2b,2c,2dの角度を変更すると、該各回転翼2a,2b,2c,2dの回転により発生する後流の方向が垂直方向下向きより傾くことから、該後流の反力には水平方向成分が生じることとなる。したがって、図1(ロ)に示す如く、上記4つの各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向を、いずれも図中矢印Bで示す後方よりもやや下向きとなるような姿勢とさせた状態にて、各翼駆動用モータ5の駆動により回転駆動させると、該4つの各回転翼2a,2b,2c,2dの発生する後流の反力が前方やや上向きに作用する。この際、上記発生される後流の反力の垂直分力の合力である揚力が本発明の小型飛行装置の機体重量と釣り合うように適宜調整することにより、水平分力の合力である推進力が前向きに作用するようになる。このことから、静かな気流中では、本発明の小型飛行装置は、一定高度を保持したまま、推進力の大きさに応じて前方へ飛行できるようになる。なお、上記のように本発明の小型飛行装置を前方へ飛行させる際には、胴体前部の回転翼2a,2bと、胴体後部の回転翼2c,2dは、基本的にはほぼ同様に回転駆動させればよいが、胴体後部の回転翼2c,2dは、それぞれ前方に位置する回転翼2a,2bの後流の中で運動することとなるので、左右の同じ側に設けられている前後の回転翼2aと2c、2bと2dでは干渉が生じる。したがって、この干渉の効果を加味できるよう、前後の回転翼2a,2bと2c,2dの回転速度を適宜調整させるようにするとよい。
【0032】
更に、上記のように本発明の小型飛行装置を一定高度を保持した状態で前方へ飛行させる際、胴体左側の前後の回転翼2a,2cの回転速度と、胴体右側の前後の回転翼2b,2dの回転速度とを相違させるようにすると、回転翼2a,2cより胴体左側に作用する推進力と、回転翼2b,2dより胴体右側に作用する推進力の大きさが相違するようになる。このため、静かな気流中においては、上記本発明の小型飛行装置を、作用する推進力がより小さい左右方向の一側へ旋回させることができるようになる。一方、飛行している小型飛行装置を左右方向のいずれか一側へ旋回させようとする乱れた気流中においては、小型飛行装置が旋回させられようとする側となる胴体1の左右いずれか一側に作用する推進力が、他側に作用する推進力よりも大きくなるように、左右の回転翼2a,2cと2b,2dとの回転速度を相違させるようにすれば、本発明の小型飛行装置が所定の飛行コースから外れるのを防止する効果を得ることができるようになる。
【0033】
上記のような各回転翼2a,2b,2c,2dの回転駆動による本発明の小型飛行装置の前方への飛行中や左右への旋回中に、各翼駆動用モータ5による上記各回転翼2a,2b,2c,2dの回転速度を増減させたり、角度制御用モータ8の駆動により翼駆動用モータ5と一緒に各回転翼2a,2b,2c,2dを上下方向に回動させてその後流発生方向の角度姿勢を適宜変更することにより、該各回転翼2a,2b,2c,2dによって発生させる後流の反力中の垂直分力の合力である揚力を、機体重量よりも大となるようにしたり、あるいは、機体重量を下回るようにすれば、本発明の小型飛行装置を、前方への飛行中や旋回中に徐々に上昇させたり、あるいは、徐々に降下させることもできるようになる。
【0034】
更に、図1(イ)に示したように、本発明の小型飛行装置にホバリング、垂直上昇あるいは垂直降下を行わせているときに、左右のいずれか一側の回転翼2a,2c又は2b,2dの後流発生方向の角度姿勢を、やや前方に傾斜させ、且つ他側の回転翼2b,2d又は2a,2cの後流発生方向の角度姿勢を、やや後方に傾斜させるようにすれば、胴体1の左側と右側に、互いに前後方向に逆向きの推進力を作用させることができるようになるため、本発明の小型飛行装置をその場で左右方向に回頭させることも可能になる。更に、左右両側の各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向を、すべてやや前方に傾斜させた姿勢とすれば、後進飛行させることも可能になる。
【0035】
ところで、本発明の小型飛行装置は、胴体1の前部左右位置及び後部左右位置に設けてある4つの回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度をそれぞれ独立して制御することにより、上述したような垂直上昇、垂直降下、ホバリング、垂直上昇や垂直降下やホバリングしながらのその場回頭、前進飛行、左右への旋回、前進あるいは旋回しながらの上昇や下降、後進飛行等の高度な飛行性能を達成できるものであるが、前述したように、サイズが小型としてあるために、実際の環境下を飛行する場合には、環境に存在する気流の影響を受けて常に乱流の中を飛行するような状態になる。このため、容易に姿勢が乱される虞があると共に、乱流の中を飛行することに伴い、所望する飛行コースから容易に逸脱する虞も懸念される。このような姿勢の乱れの修正や所望する飛行コースからの逸脱の修正を、作業者が無線制御等によってその都度行うことは困難である。そのため、本発明の小型飛行装置では以下のような制御機構を備えて、飛行の自律制御を行わせることができるようにしてある。
【0036】
すなわち、図3に示す如く、胴体1の所要位置に、GPSや磁気センサと飛行速度計と飛行高度計からなる位置センサ等の位置センサ9、ジャイロ等の姿勢センサ10、障害物の検出を行うための衝突防止センサ11を設け、該各センサ9,10,11からの信号を基に、胴体1の前部左右位置及び後部左右位置の上記各回転翼2a,2b,2c,2dごとに対応するよう設けられている翼駆動用モータ5及び角度制御用モータ8の組に対し、それぞれ独立した制御指令を与えるコントローラ12を備える。
【0037】
更に、胴体1の所要位置には、外部の図示しない制御装置より無線で発せられる本発明の小型飛行装置の使用目的に応じた飛行指令を受信して、上記コントローラ12に入力するための無線受信器13及び指令設定器14を設けるようにしてある。更に、上記コントローラ12より出力される本発明の小型飛行装置の現在位置や飛行状況等を、上記外部の制御装置へ無線で送信するための状態監視器15並びに無線送信器16を設けるようにしてある。
【0038】
上記コントローラ12について詳述すると、その機能の一つとしては、先ず、姿勢制御機能がある。これは、上述したように本発明の小型飛行装置は、飛行中に乱流によって容易に姿勢が乱される虞があることから、上記コントローラ12は、搭載してある姿勢センサ10より入力される信号に基づいて、前後左右方向の傾斜を常時監視し、傾きが検出されると、該検出された傾きが解消されて水平姿勢に戻るように、前部左右位置及び後部左右位置の各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度を適宜変更すべく、翼駆動用モータ5及び角度制御用モータ8へ指令を与えるようにしてある。
【0039】
具体的に説明すると、たとえば、姿勢センサ10の信号により左側が下がるように傾斜していることが検出されたときには、そのときの飛行状態における各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度に比して、胴体左側の前後の回転翼2a,2cによる揚力をやや増加させると共に、この揚力の増加に伴って所望の飛行コースより外れて上昇しないようにするために、胴体右側の前後の回転翼2b,2dによる揚力をやや減少させる。更に、このように胴体1の左右に作用する揚力のバランスを変化させても、所望の飛行コースから左右方向に逸脱しないようにすると共に、左側及び右側の各回転翼2a,2c及び2b,2dによる胴体1の左右に作用する推進力は変化させないようにするために、それぞれの回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度を、それぞれ対応する翼駆動用モータ5及び角度制御用モータ8により調整させるようにする。これにより、胴体1の左側と右側に作用する揚力のバランスを調整し、傾斜を修正して水平姿勢を保持することができるようにしてある。
【0040】
同様に、右側が下がるような傾斜が検出された場合や、前後方向の傾斜が検出された場合にも、それぞれ胴体1の下がった側と上がった側に存在する各回転翼2a,2b,2c,2dにて発生させる揚力のバランスを変化させることにより、傾斜を修正して水平姿勢を保持することができるようにしてある。
【0041】
上記コントローラ12の別の機能としては、飛行制御機能がある。これは、本発明の小型飛行装置を所定の目標位置まで飛行させ、その後、所望の作業の終了後に初期位置又は所定の場所まで戻らせるためのものである。したがって、GPSや、GPS電波の届かないところでは磁気センサと飛行速度計と飛行高度計からなる位置センサ等の位置センサ9より入力される信号に基づいて本発明の小型飛行装置自体の位置(たとえば、三次元座標)を検出することができるようにしてある。又、外部の制御装置より無線受信器13、指令設定器14を介して飛行指令、たとえば、目標位置がGPS座標等により設定されると、上記検出された自己の初期位置(離陸位置)から目標位置に至るための方向、距離等を求めて、飛行コースを、たとえば、先ず、垂直に離陸して所要高さ位置まで垂直上昇した後、目標位置に向けて所要方位へ前進飛行するというような飛行コースを自動的に判断して設定できるようにしてある。これに伴い、該設定された飛行コースに沿って飛行するために要求される揚力及び推進力の変化に応じて、翼駆動用モータ5及び角度制御用モータ8へそれぞれ指令を与えて、該各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度を適宜独立に制御できるようにしてある。これにより、本発明の小型飛行装置は、上記設定された飛行コースに沿って上記目標位置まで飛行することができるようにしてある。
【0042】
又、本発明の小型飛行装置は上記したように乱流によって飛行コースを容易に乱され易いことから、上記コントローラ12の飛行制御機能としては、本発明の小型飛行装置を上記のように所定の飛行コースに沿って飛行させる際に、GPS座標等の上記位置センサ9からの信号に基づいて本発明の小型飛行装置の現在の飛行位置を常時監視し、検出される現在の飛行位置が、上記所定の飛行コースからずれていることが検出された場合には、このずれを修正するように左右の各回転翼2a,2b,2c,2dの翼駆動用モータ5及び角度制御用モータ8へ適宜指令を与えて、左右方向へ旋回させたり、上昇あるいは下降を行わせることができるようにする。これにより、飛行コースが乱されても随時修正しながら本発明の小型飛行装置を目標位置まで飛行させることができる機能も有するようにしてある。
【0043】
更に、上記コントローラ12の飛行制御機能としては、目標位置における所定の目的が達成された後に、本発明の小型飛行装置を初期位置(離陸位置)あるいは予め設定された所定の位置まで戻るように帰還用の飛行コースを設定すると共に、該帰還用飛行コースに沿って上記したと同様の制御を行うことで飛行させることもできるようにしてある。
【0044】
上記コントローラ12の更に別の機能としては、飛行コース上に存在する障害物を自動的に回避する障害物回避機能も備えているものとしてある。これは、衝突防止センサ11より入力される信号に基づいてコントローラ12が進行方向前方を常に監視し、飛行コースの前方に障害物の存在が検出されると、翼駆動用モータ5及び角度制御用モータ8へ適宜指令を与えることにより、飛行方向を上下左右方向へ適宜変更して上記障害物を迂回させるようにしてある。このようにして障害物を避けた後は、コントローラ12の有する上記飛行制御機能に基づいて、目標位置に至る飛行コースあるいは帰還用飛行コースに戻させるようにすればよい。
【0045】
上記衝突防止センサ11としては、たとえば、光フロー(Optic Flow)センサを採用すればよい。これは、ある移動体が移動しているときに該移動体より外部を視覚的に観測すると、得られる外部の像は、進行方向前方の一点より放射状に拡大し、移動体の上下左右位置では後方へ該移動体の速度と対応する速さで最も速く流れた後、進行方向後方の一点に集約されるように変化する。この際、上記移動体の進行方向の前方に位置している物体は、視界上における相対位置が変化せず、進行方向の前方からずれた位置に存在している物体は、その進行方向から上下左右へずれる方向に応じて、視界上では上下左右方向にその相対位置が変化すること、又、これらの進行方向前方からずれた位置に存在する物体は、進行方向からのずれが小さいほど、視界上における相対位置の変化率が大きくなる、という原理を利用して進行方向前方の障害物を検出できるようにしてある。
【0046】
更に又、胴体1の図示しない所定位置には、本発明の小型飛行装置の使用目的に応じて、たとえば、遠隔地の情報収集を目的とする場合には、画像撮影用のCCDセンサ17aや、雰囲気ガス中に存在する物質を検出するための化学センサ17b、バイオセンサ17c等の各種センサや、搬送対象物の離脱操作や把持操作等を行わせるための把持装置(図示せず)のようなペイロード17を搭載できるようにしてある。該ペイロード17が、各種センサである場合には、図3に示す如く、該センサによる計測結果を、上記状態監視器15へ送り、上記コントローラ12より入力される本発明の小型飛行装置の現在位置や飛行状況等と一緒に無線送信器16を経て外部の制御装置へ無線で送信させるようにしてもよい。
【0047】
図1(イ)(ロ)に示す如く、胴体1の下部所要位置には、本発明の小型飛行装置を離着陸させるときに接地させるための脚18を設けるようにしてある。又、胴体1の所要位置には各モータ5,8や上記制御機構における各機器に電力供給を行なうためのバッテリー等の図示しない電源を搭載するようにしてある。各翼駆動用モータ5へ電力供給を行なうための給電ケーブル(図示せず)は、胴体1内より対応する連結ロッド4に沿わせるか、該連結ロッド4の内部を通して導くようにすればよい。
【0048】
なお、本発明の小型飛行装置は飛行体であることから、上記した各種構成要素は、いずれも軽量であることが重要になる。したがって、上記各種構成要素は、いずれも、要求される強度や機能が満たされる範囲内において軽い材質のものを適宜選択して用いるようにすればよい。
【0049】
上記構成としてあるので、本発明の小型飛行装置を使用する場合は、作業者が所要の離陸位置まで搬送して地上や所要個所に載置した状態にて、外部の制御装置より無線にて目標位置までの飛行及び所要の目的、たとえば、ペイロード17として搭載してある各種センサによる上記目標位置の状況観測等を行うよう飛行指令を発すると、該指令が本発明の小型飛行装置の無線受信器13及び指令設定器14を経てコントローラ12に入力される。このようにコントローラ12へ指令が入力されると、該コントローラ12では、上記指定された目標位置までの飛行コースが設定され、この所定の飛行コースに沿って飛行できるような揚力及び推進力が得られるように各回転翼2a,2b,2c,2dの翼駆動用モータ5と角度制御用モータ8をそれぞれ駆動させるための指令が個別に発せられる。これにより、上記各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢が角度制御用モータ8により所要の方向に調整されると共に、翼駆動用モータ5により所要の回転速度で上記各回転翼2a,2b,2c,2dが回転駆動されることから、本発明の小型飛行装置は上記所定の飛行コースに沿って目標位置まで飛行するようになる。
【0050】
この飛行の際、乱流等により姿勢が乱れると、姿勢センサ10より入力される信号によりコントローラ12にて該姿勢の乱れが検出されて、この姿勢の乱れを修正するよう上記コントローラ12より各翼駆動用モータ5及び各角度制御用モータ8へ指令が発せられて、各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度が適宜調整されるため、本発明の小型飛行装置は常に水平姿勢を保持したまま飛行できるようになる。
【0051】
又、風の影響等により所定の飛行コースから逸脱すると、位置センサ9からの信号によりコントローラ12にて飛行コースからのずれが検出されて、この飛行コースからのずれを修正するよう上記コントローラ12より各翼駆動用モータ5及び各角度制御用モータ8へ指令が発せられて、各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度が適宜調整されて揚力や推進力が調整されるため、本発明の小型飛行装置は目標位置へ向けて飛行できるようになる。
【0052】
更に、飛行コース上に障害物がある場合には、衝突防止センサ11からの信号によりコントローラ12にて上記障害物が検出され、この障害物を迂回して飛行できるよう上記コントローラ12より各翼駆動用モータ5及び各角度制御用モータ8へ指令が発せられて、各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度が適宜調整されるため、本発明の小型飛行装置は障害物を避けて飛行できるようになる。
【0053】
本発明の小型飛行装置が目標位置に達すると、ペイロード17に搭載したセンサによる上記目標位置の状況が計測されて、たとえば、上記センサをCCDセンサ17aとした場合には、上記目標位置の状況の映像が撮影でき、又、化学センサ17bとしたりバイオセンサ17cとした場合には、上記目標位置における雰囲気ガスの分析等を行わせて、該目標位置の映像や雰囲気中のガス成分の分析結果等を、状態監視器15、無線送信器16を介し外部の制御装置へ送信させることができるようになる。
【0054】
その後、上記目標位置における目的の作業が終了すると、コントローラ12により離陸位置あるいは予め指定された所定位置まで帰還するための飛行コースに沿って飛行できるよう上記コントローラ12より各翼駆動用モータ5及び各角度制御用モータ8へ指令が発せられて、各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度が適宜調整されて発生される揚力及び推進力が調整されるため、本発明の小型飛行装置は上記離陸位置あるいは所定位置まで帰還させられるようになる。
【0055】
このように、本発明の小型飛行装置によれば、前部左右位置及び後部左右位置に設けてある回転翼2a,2b,2c,2dを、それぞれ後流発生方向の角度姿勢及び回転速度を独立に制御して回転駆動させることができるようにしてあるため、該各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢及び回転速度をそれぞれ制御することにより、胴体1の前部左右位置及び後部左右位置に作用する揚力や推進力を独立して調整できる。このために、本発明の小型飛行装置は、そのサイズからレイノルズ数が10〜10程度と低いものであるため、メーターサイズの飛行体とは大幅に異なる流体との相互作用を受けて、常に乱流の中を飛行するような状況となるが、姿勢センサ10にて検出される姿勢の乱れを常時修正して水平姿勢に保持したまま、高度な飛行性能を達成することができる。
【0056】
更に目標位置と使用目的に関する飛行指令を与えることにより、上記目標位置までの自律飛行を行わせた後、該目標位置における所定の作業を行わせ、しかる後、離陸位置あるいは所定位置まで戻るように飛行させることができる。そのため、たとえば、災害発生現場や屋内における高所位置等、人が容易に近づけない個所の撮影を行ったり、該個所の雰囲気中に含まれるガスの成分を分析して、有害ガスの発生の有無を確認したりする等、遠隔地から上記目標位置の情報収集を行なうことが可能になる。
【0057】
更に、ペイロード17に把持装置を搭載しておけば、所要の搬送物を、目標位置として設定される人が容易に近付けない個所や、遠隔地まで搬送させたり、回収させたりすることも可能になる。
【0058】
次に、図4(イ)(ロ)は本発明の実施の他の形態を示すもので、図1(イ)(ロ)乃至図3に示したと同様の構成において、胴体1の所要位置に所要の翼弦長で左右方向に延びるようにしてある固定翼19を取り付けるようにしたものである。
【0059】
詳述すると、上記固定翼19は、たとえば、胴体1の幅寸法と対応する中央部より左右両側へ上向き傾斜で所要寸法ずつ突出するよう延びる翼前縁部に沿う配置としてある横骨部材20と、該横骨部材20の長手方向所要間隔の複数個所(図では10個所)に一端部(前端部)を取り付けると共に、他端部が翼後縁部に達するよう配置した複数本の縦骨部材21からなる骨組み構造に、薄いプラスチックフィルムのようなフィルム(薄膜)22を張ってなる構成としてある。上記縦骨部材21は、上面をやや凸状となるように湾曲させた形状としてあり、上記骨組み構造に張られたフィルム22が、前後方向、すなわち、翼弦長の中央部がやや上方へ湾曲した形状となるようにすることにより、前方より後方へ流れる気流中では上記固定翼19により揚力を発生させることができるようにしてある。
【0060】
上記固定翼19は、角度制御用モータ8の駆動による翼駆動用モータ5と各回転翼2a,2b,2c,2dの上下方向の回動動作、及び、該各回転翼2a,2b,2c,2dの回転駆動に干渉しないようにすると共に、回転駆動される上記各回転翼2a,2b,2c,2dへ流入、流出される空気の流れを阻害しないように、たとえば、胴体1の前後方向ほぼ中央部の所要寸法上方位置に配置してある。更に、胴体1の上方に位置する上記骨組み構造の複数個所、たとえば、上記横骨部材20の幅方向中間部にて上記胴体1の幅寸法に対応した間隔を隔てた左右の2個所と、該各個所にそれぞれ前端部(一端部)が取り付けられている2本の縦骨部材21の後端部(他端部)の計4個所を、柱状部材23を介して胴体1の前後方向中間部の上側面にそれぞれ取り付けることにより、固定翼19を胴体1上に所要間隔を置いて設置するようにしてある。
【0061】
その他の構成は図1(イ)(ロ)乃至図3に示したものと同様であり、同一のものには同一符号が付してある。
【0062】
本実施の形態によれば、図1(イ)(ロ)乃至図3に示した実施の形態と同様に使用することができて、高度な飛行性能を達成する効果を得ることができる。更に、本発明の小型飛行装置を前進飛行させるときには、上記固定翼19により揚力を発生させることができることから、この固定翼19にて生じる揚力の分、各回転翼2a,2b,2c,2dにて発生させるべき本発明の小型飛行装置の揚力、すなわち、該各回転翼2a,2b,2c,2dにて発生させる後流の反力の垂直分力をそれぞれ削減できる。したがって、水平飛行時に、上記固定翼19にて機体重量を支持し得る揚力を発生させることができれば、各回転翼2a,2b,2c,2dは、後流発生方向の角度姿勢を、図4(ロ)に示す如く、水平方向後ろ向きに設定することが可能になり、このため、水平飛行時の推進効率を向上させることができる。
【0063】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の小型飛行装置のサイズは適宜増減してもよい。胴体1は、たとえば、流線形のような本発明の小型飛行装置の飛行時に抵抗とならないような形状としてあれば、形状は自在に決定してもよい。
【0064】
回転翼2a,2b,2c,2dは、軽量で且つ回転駆動により本発明の小型飛行装置を飛行させるために必要とされる所要の揚力及び推進力を得られるようにしてあれば、羽根の枚数を3枚以上のものとしてもよい。又、上記回転翼2a,2b,2c,2dは、翼駆動用モータ5による回転駆動により、翼駆動用モータ5側より空気を吸入するものとして示したが、翼駆動用モータ5側へ空気を吹き出して後流を発生させるものとしてもよい。
この場合は、後流発生方向を垂直方向下向きとしたり、後方に向けるときには、各回転翼2a,2b,2c,2dをそれぞれ対応する翼駆動用モータ5の上側、又は、前側に配置するようにすればよい。更に、胴体左側の回転翼2a,2cと、胴体右側の回転翼2b,2dを、互いに逆ピッチの羽根を備えてなるものとしてもよい。この場合に、同じ方向へ後流を発生させるためには、胴体の左右の回転翼2a,2cと2b,2dを、互いに逆方向に回転駆動することになるため、各回転翼2a,2b,2c,2dを回転駆動させるときに作用するトルクの反力を、胴体1の左右位置で対応する回転翼2aと2b,2cと2d同士で打ち消し合わせて、好ましくない不平衡力の発生を抑制することが期待できる。
【0065】
図4の実施の形態における固定翼19は、軽量で且つ前進飛行時に所望の揚力を発生させることができるようにしてあれば、横骨部材20の本数を増やしたり、縦骨部材21の本数を増減させてもよい。更には、一枚板状のものとする等、横骨部材20と縦骨部材21とフィルム22とからなる構成以外のものとしてもよいと共に、形状を多少変更してもよい。更に、本発明の小型飛行装置の前進飛行時に前後方向に偏ることなく揚力を作用させることができるようにすれば、胴体1に対する固定翼19の取り付け位置及び取り付け手段は任意に設定してもよい。
【0066】
各回転翼2a,2b,2c,2dの後流発生方向の角度姿勢を変更させる場合、翼駆動用モータ5に出力軸5aと直角方向に取り付けてある連結ロッド4を、角度制御用モータ8によりピニオン7、角度変更用ギア6を介して回転させるものとして示したが、本発明の小型飛行装置を飛行させるときに各回転翼2a,2b,2c,2dに所望される後流発生方向の角度姿勢を取らせることができるよう上記連結ロッド4を所要の角度範囲で回転させることができ、且つ機体重量を増加させることがなければ、連結ロッド4を回転させる機構としては、ラック、ピニオン機構や、所要のアクチュエータによる直接あるいはリンクを介した押し引き機構、その他のいかなる機構を採用してもよい。
【0067】
位置センサ9は、本発明の小型飛行装置の位置を検出することができるものであれば、GPSや磁気センサと飛行速度計と飛行高度計からなる位置センサ以外にも、加速度センサ等、任意のものを採用してもよい。姿勢センサ10は、たとえば、GPS受信機及びアンテナを3台ずつ用いる等、ジャイロ以外のものを採用するようにしてもよい。衝突防止センサ11は、飛行方向の前方に位置する障害物を検出できれば、光フローセンサ以外にも、超音波や赤外線のエコーにより障害物を検出するセンサ等、任意の形式のものを採用してもよい。
【0068】
本発明の小型飛行装置の飛行に支障を来たさないサイズ、重量としてあれば、ペイロード17は、本発明の小型飛行装置の所望の使用目的に応じて、任意のものとしてもよい。
したがって、本発明の小型飛行装置は、上記積載するペイロード17に応じた任意の使用目的に適用できる。
【0069】
更に、上記実施の形態ではコントローラ12は、姿勢制御機能、飛行制御機能、障害物回避機能を有するものとして説明したが、これらは基本的な機能であり、本発明の小型飛行装置に、別の小型飛行装置との通信装置を設けて、コントローラ12に、別の小型飛行装置と相互に連係した働きをさせるための機能を追加したり、飛行に関わる別の外部情報を収集するための別のセンサを追加して、該センサの信号に基づいて上記姿勢制御機能、飛行制御機能、障害物回避機能等にそれぞれ修正を加えることができるようにしたり、更に、上記ペイロード17に搭載する機器の制御機能を追加する等、任意の機能を併せ持つようにしてもよい。その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の小型飛行装置の実施の一形態を示すもので、(イ)は垂直方向上向きの揚力を発生させている状態を示す概略斜視図、(ロ)は前進飛行する状態を示す概略側面図である。
【図2】図1の装置の概略切断平面図である。
【図3】図1の装置の制御機構を示す概要図である。
【図4】本発明の実施の他の形態を示すもので、(イ)は垂直方向上向きの揚力を発生させている状態、(ロ)は前進飛行する状態をそれぞれ示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
1 胴体
2a,2b,2c,2d 回転翼
4 連結ロッド
5 翼駆動用モータ
5a 出力軸
8 角度制御用モータ
10 姿勢センサ
12 コントローラ
19 固定翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体の左右位置の複数個所に、回転翼を、それぞれ独立して前後方向姿勢から上下方向姿勢へ角度調整可能に設けて、各回転翼の回転速度を独立に制御できるようにしてなり、該各回転翼を所要の角度姿勢に保持しながらそれぞれ所要の回転速度で回転駆動して飛行できるようにしてなることを特徴とする小型飛行装置。
【請求項2】
胴体の前部左右位置と後部左右位置の複数個所に、回転翼を、それぞれ独立して前後方向姿勢から上下方向姿勢へ角度調整可能に設けて、各回転翼の回転速度を独立に制御できるようにしてなり、該各回転翼を所要の角度姿勢に保持しながらそれぞれ所要の回転速度で回転駆動して飛行できるようにしてなることを特徴とする小型飛行装置。
【請求項3】
胴体の前部左右位置と後部左右位置の複数個所に、左右方向に延びるように連結ロッドを取り付けて、該連結ロッドを回転できるようにし、且つ該各連結ロッドに、出力軸に回転翼を取り付けた翼駆動用モータをそれぞれ取り付けて、上記連結ロッドを介して回転翼の角度姿勢を上下方向へ変更できるようにした構成を有することを特徴とする小型飛行装置。
【請求項4】
胴体の姿勢を検出するための姿勢センサと、該姿勢センサから入力される信号を基に各回転翼の上下方向の角度姿勢の制御と、各翼駆動用モータの回転速度の制御を行うコントローラを備えた請求項3記載の小型飛行装置。
【請求項5】
胴体の所要個所に、前方から後方へ向かう気流中にて揚力を発生させることができるようにしてある固定翼を取り付けた請求項1、2、3又は4記載の小型飛行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−51841(P2006−51841A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232753(P2004−232753)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(504182406)有限会社数理解析研究所 (6)