説明

少なくとも遊離のチオールとして存在するシステインを有する抗体フラグメントの大腸菌での発現、2官能性F(ab’)2抗体の産生のための使用

【課題】 2価抗体、とりわけF(ab')2分子の製造のための効率的で経済的な方法、および2価および2特異的F(ab')2分子の修飾を可能とする方法を提供する。
【解決手段】 免疫グロブリンH鎖Fv領域および免疫グロブリンL鎖Fv領域を含有し、該H鎖または該L鎖が不対システイン残基を遊離チオールとして含むFvポリペプチドの製造法であって、該Fvポリペプチドを組換え大腸菌細胞培養液のペリプラズム中に発現および分泌し、ついで該システイン残基を遊離チオールとして実質的に維持する条件下で該ポリペプチドを回収することからなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微生物宿主中での機能性抗体フラグメントの産生に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する抗体(免疫グロブリン)は、ジスルフィド結合で連結された2本のH鎖および2本のL鎖からなり、各L鎖はこれらH鎖の一方とジスルフィド結合により連結されている。各鎖はN末端側の可変ドメイン(VまたはV)およびC末端側の定常ドメインを有する;L鎖の定常ドメインはH鎖の第一定常ドメインと並んでジスルフィド結合しており、L鎖可変ドメインはH鎖の可変ドメインと並んでいる。H鎖定常領域は、(N末端側からC末端側の方向に)C1領域およびヒンジ領域を含む。L鎖もまたヒンジドメインを含む。特定のアミノ酸残基がL鎖およびH鎖可変ドメインの間の界面を形成し、ジスルフィド結合させているものと思われる(たとえば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;および非特許文献4参照)。
【0003】
定常ドメインは抗体の抗原への結合に直接関与していないが、抗体依存性細胞障害や補体依存性細胞障害への参画などの種々のエフェクター機能に関与している。L鎖およびH鎖の各ペアの可変ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与している。天然のL鎖およびH鎖のドメインは同じ一般的構造を有し(いわゆる免疫グロブリン折り畳み(fold))、各ドメインは4つのフレームワーク(FR)領域からなり、これらフレームワーク領域の配列はある程度保存されており、3つの超可変または相補性決定領域(CDR)によって連結されている(非特許文献5参照)。これら4つのフレームワーク領域は、大部分、β−シートコンホメーションをとり、CDRは該β−シート構造を連結し、ある場合には該構造の一部を形成するループを形成する。各鎖中のCDRはフレームワーク領域によって極めて近接して保持され、他の鎖からのCDRとともに抗原結合部位の形成に寄与している。
【0004】
抗体は、種々の抗原結合フラグメントに分類することができる。Fvフラグメントは、H鎖およびL鎖の可変ドメインのみからなるヘテロダイマーである。Fabフラグメントは、L鎖の定常ドメインおよびH鎖の第一定常ドメイン(C1)をも有している。Fab'フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1または2以上のシステインを含む、H鎖C1ドメインのカルボキシ末端側に幾つかの残基が付加していることがFabフラグメントと異なっている。Fab'−SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'を表すために本明細書において用いる表示である。F(ab')抗体フラグメントは、元来、ヒンジシステインの間でFab'フラグメントのペアとして生成される。
【0005】
抗体および抗体フラグメントの組換え製造により、抗原結合親和性の増大した抗体、免疫原性の修飾された抗体並びに二官能性の抗体を設計することが容易になる。機能性の抗体を得ることができると報告された最初の発現系は、哺乳動物細胞に対するものであった。たとえば、特許文献1は、L鎖およびH鎖の少なくとも可変領域配列を宿主細胞中で共発現する方法を教示している。当該技術分野における他の研究者は、バキュロウイルス発現系(非特許文献6)、酵母系(非特許文献7)、ファージラムダにおける組み合わせライブラリー(非特許文献8)、および繊維状ファージを用いた仕事(非特許文献9)を報告している。
【0006】
細菌系、とりわけ大腸菌発現系における抗体および抗体フラグメントの産生が当該技術分野の研究者によって行われている。大腸菌発現系には、構築物の容易な作成および直接的な発現を可能とする充分研究され便利な遺伝子技術、および大腸菌の増殖が速いことおよびその発酵が比較的簡単であることによって可能となる生成物の比較的便利で経済的に大スケールの産生を含む幾つかの利点がある。大腸菌における機能性抗体フラグメントの大スケールの産生は、研究並びに商業的な応用において重要である。
【0007】
抗体遺伝子の細菌中での発現は非特許文献10、非特許文献11によって報告されている。これら報告は細胞質発現を示しており、収率がかなり変動することが報告されている。非特許文献12は、大腸菌における免疫グロブリンL鎖の分泌およびプロセシングを報告している。非特許文献13は、細胞質ハイブリッドタンパク質の発現、潜在的に移動可能なハイブリッドタンパク質、およびアルカリホスファターゼもしくはβ−ラクタマーゼシグナル配列との融合物としてのV鎖、V鎖、V鎖、およびV鎖の発現およびペリプラズム移動を開示している。非特許文献14は、抗体の可変ドメインの大腸菌ペリプラズムへのペリプラズム分泌およびインビボでの正確な畳み込みを報告している;マウスFabフラグメントの発現についても同様の方法および結果が非特許文献15によって報告されている。
【0008】
非特許文献16は、アミノ酸配列を介したFv領域のL鎖およびH鎖フラグメントの連結、および単一のポリペプチドとしての該複合体の大腸菌での産生を報告している(特許文献2をも参照)。非特許文献17も同様の仕事を報告している。非特許文献18は、「単一ドメイン」抗体(単離したH鎖可変ドメイン)の大腸菌中での産生および大腸菌からの分泌を報告している。非特許文献19は、抗体L鎖およびH鎖をコードするcDNAの大腸菌中での発現およびFabフラグメントへの再現を開示している。非特許文献20は、大腸菌およびサッカロミセス・セレビシエからの機能性Fabフラグメントの発現および分泌を記載している。
【0009】
プリュックツンおよびスケラは、機能性抗体FvおよびFabフラグメントの大腸菌中での発現技術を記載している(非特許文献21)。彼らの方法によると、細胞質において、それぞれ細菌のシグナル配列に融合したVおよびVの前駆体タンパク質が還元形にて合成される。内膜を通ってペリプラズム中に移動した後、シグナル配列が開裂し、各ドメインが折り畳まれて集合し、ジスルフィド結合が形成される。彼らは、彼らの方法によるFabフラグメントの発現も同様であることを教示している。同様の発現法は、文献のいたるところに見いだされる。抗体フラグメントの大腸菌発現の概略については、非特許文献22をも参照。
【0010】
非特許文献23は、低い温度(37℃ではなく21℃〜30℃)で増殖する大腸菌細胞においては、κ鎖および末端の切れたH鎖(Fdフラグメント)をコードする単一発現プラスミドが高収量の機能性Fabフラグメントを与えることを教示している。キャビリーは、Fabフラグメントは大腸菌細胞質中では非共有結合により連結したダイマーとして存在するように思われるが、大腸菌から単離した可溶性のFabフラグメントは細胞破砕後の空気酸化によって生成される共有結合ダイマーとして現れることを議論している。
【0011】
システアミンなどの穏やかな還元剤の低濃度の存在下では、2価F(ab')抗体フラグメントが2つのFab'フラグメントに解離することが文献で知られている。この解離は、穏やかな酸化によって逆行する。FabおよびF(ab')抗体フラグメントの生成はまた、完全な抗体の部分的還元および制限されたタンパク質加水分解によっても示されている(たとえば、非特許文献24参照)。しかしながら、これらの方法を用いた場合、回収した抗体フラグメントの正確な性質および比率を制御するのが困難である。2価抗体とは、少なくとも2つのエピトープ結合部位(該部位は同じかまたは異なる抗原上に存在していてよい)を有する抗体をいう。
【0012】
2特異的抗体とは、単一の抗原によって共有されていない2つのエピトープに結合し得る2価抗体をいう。腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原と免疫エフェクター細胞の表面マーカーとに対して二重の特異性を有する2特異的モノクローナル抗体(BsMAbs)が記載されている(たとえば、非特許文献25;非特許文献26を参照)。これらBsMAbsは、腫瘍細胞標的を殺すようにエフェクター細胞に指令および誘発するのに有効であることが示されている(非特許文献27)。BsMabsを産生させる一つの方法は、2つのモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを融合させて、親のモノクローナル抗体を含む所望でない鎖の組み合わせに加えてBsMabを分泌するクアドローマ(quadromas)(ハイブリッドハイブリドーマ)を生成することである(非特許文献28)。しかしながら、2特異的なヒト化抗体および抗体フラグメントを産生するには、他の方法が好ましい。
【0013】
非特許文献29は、ウサギ抗体を消化し、その後に抗体フラグメントを再結合することを記載している;非特許文献29は、異なる特異性のペプシン処理抗体の1価フラグメントを組み合わせることにより二重特異性の抗体分子が得られることを開示している。非特許文献30;非特許文献31;非特許文献32;および特許文献3をも参照。
【0014】
他の方法では、2つの異なるモノクローナル抗体からの2特異的なFab'フラグメントを部位指定(directed)化学カップリングを利用して、所望の特異性を有するBsMAb(この場合はF(ab'))を組み立てる(たとえば、非特許文献33を参照)。Fab'フラグメントのジチオニトロベンゾエート誘導体の有方向カップリングの化学については、非特許文献34、および非特許文献35をも参照。ブレナンらはまた、2つの近接するシステインを架橋するためのヒ酸ソーダの使用をも教示しているが、この反応では非常に毒性の化合物を使用する。非特許文献36および非特許文献37)は、チオエーテル結合を有する2特異的F(ab')抗体フラグメントの調製を教示している。これら化学はまた、同一のFab'フラグメントのカップリングにも応用することができる。
【0015】
非特許文献38は、抗体中へのシステインの導入(H鎖のC1ドメインへ)および該導入されたシステインによるエフェクターまたはレポーター分子の部位特異的結合を教示している。
【0016】
【特許文献1】キャビリー(Cabilly)ら、米国特許第4,816,567号明細書
【特許文献2】ラドナーら、米国特許第4,946,778号明細書
【特許文献3】ポーラス(Paulus)、米国特許第4,444,878号明細書
【非特許文献1】コチア(Chothia)ら、Journal of Molecular Biology(1985)186:651〜663
【非特許文献2】ノボトニー(Novotny)およびハーバー(Haber)、Proceedings of National Academy of Science USA(1985)82:4592〜4596
【非特許文献3】パドラン(Padlan)ら、Molecular Immunology(1986)23(9):951〜960
【非特許文献4】ミラー(S.Miller)、Journal of Molecular Biology(1990)216:965〜973
【非特許文献5】カバット(Kabat, E.A.)ら、免疫学的に重要なタンパク質の配列、国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州、(1987)
【非特許文献6】ハーゼマン(Haseman)ら、Proceedings of National Academy of Science USA(1990)87:3942〜3946
【非特許文献7】ホーウィッツ(Horwitz)ら、Proceedings of National Academy of Science USA(1988)85:8678〜8682
【非特許文献8】ヒューズ(Huse)ら、Science(1989)246:1275〜1281
【非特許文献9】マッカファーティ(McCafferty)ら、Nature(1990)348:552〜554
【非特許文献10】キャビリーら、Proceedings of National Academy of Science USA(1984)81:3273〜3277
【非特許文献11】ボス(Boss)ら、Nucleic Acids Research(1984)12:3791〜3806
【非特許文献12】ゼメル−ドリーゼン(Zemel−Dreasen)ら、Gene(1984)315〜322
【非特許文献13】プリュックツン(Pluckthun)ら、定量的生物学に関するコールドスプリングハーバーシンポジウム、1987、LII巻、105〜112頁(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー)
【非特許文献14】スケラ(Skerra)およびプリュックツン、Science(1988)240:1038〜1041
【非特許文献15】ベッター(Better)ら、Science(1988)240:1041〜1043
【非特許文献16】バード(Bird)ら、Nature(1988)332:323〜327
【非特許文献17】ハストン(Huston)ら、Proceedings of National Academy of Science USA(1988)85:5879〜5883
【非特許文献18】ウォード(Ward)ら、Nature(1989)341:544〜546
【非特許文献19】コンドラ(Condra)ら、Journal of Biological Chemistry(1990)265(4):2292〜2295
【非特許文献20】ベッターおよびホーウィッツ、Methods in Enzymology(1989)178:476〜496
【非特許文献21】プリュックツンおよびスケラ、Methods in Enzymology(1989)178:497〜515
【非特許文献22】プリュックツン、Biotechnology(1991)9:545〜551
【非特許文献23】キャビリー、Gene、(1989)85:553〜557
【非特許文献24】パーハム(Parham)、Cellular Immunology(ウェア(E.M.Weir)編、ブラックウエル・サイエンティフィック、カリフォルニア州)第4版、(1983)1巻、14章
【非特許文献25】リウ(Liu)ら、Proceedings of National Academy of Science USA(1985)82:8648
【非特許文献26】ペレツ(Perez)ら、Nature(1985)316:354
【非特許文献27】ファンガー(Fanger)ら、Immunology Today(1991)12:51
【非特許文献28】ミルシュテインおよびクエロ(Cuello, A.C.)、Nature(1983)305:537
【非特許文献29】ニソノフ(Nisonoff)およびマンディ(Mandy)Nature(1962)4826:355〜359
【非特許文献30】ハンマーリング(Hammerling)ら、Journal of Experimental Medicine(1968)128:1461〜1469
【非特許文献31】パーハム、Human Immunology(1985)12:213〜331
【非特許文献32】ラソ(Raso)およびグリフィン(Griffin)、Cancer Research(1981)41:2073〜2076
【非特許文献33】ノラン(Nolan)ら、Biochimica et Biophysica Acta(1990)1040:1
【非特許文献34】モーラー(R.A.Maurer)の博士論文、ハーバード大学(1978)
【非特許文献35】ブレナン(Brennan)ら、Science(1985)229:81〜83
【非特許文献36】グレニー(Glennie)ら、Journal of Biological Chemistry(1985)141(10):3662〜3670
【非特許文献37】グレニー(Glennie)ら、Journal of Immunology(1975)139:2367〜2375
【非特許文献38】リオンズ(Lyons)ら、Protein Engineering (1990)3(8)703〜708
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
文献に示された機能性抗体フラグメントの大腸菌発現における進歩にもかかわらず、2価抗体、とりわけF(ab')分子の製造のための効率的で経済的な方法、および2価および2特異的F(ab')分子の修飾を可能とする方法に対する必要性が存在する。インビトロで都合よくカップリングさせて2価FvまたはF(ab')分子を形成する安定なFab'−SHポリペプチドを製造するのが望ましい。
【0018】
それゆえ、Fvドメイン、とりわけFab'、Fab'−SHおよびF(ab')抗体フラグメントからなるポリペプチドを細菌細胞培養液中または細菌細胞培養液から高収率で製造する方法を提供することがこの発明の目的である。
【0019】
この発明の他の目的は、均一な2価および2特異的なF(ab')抗体フラグメントの効率的な製造方法を提供することである。
【0020】
この発明の他の目的は、遊離のチオールとして存在する少なくとも一つのヒンジ領域システインを有するFab'抗体フラグメント(Fab'−SH)を提供することである。完全な抗体からFab'−SHを生成するうえで内在する問題:タンパク質加水分解の受けやすさの違いおよび非特異的な開裂、低収率、並びにヒンジジスルフィド結合に対して完全には選択的でない部分的還元を回避することが関連する目的である。本発明の他の目的は、近接するチオールをキレート化するための極めて毒性の強い亜ヒ酸塩の使用、または他の非効率的で望ましくない方法に頼ることなく、ヒンジ内ジスルフィド結合の生成を防ぐことである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明の主要な態様は、組換え微生物ペリプラズム抗体フラグメントのL鎖−H鎖界面の外側に位置するシステイン残基におけるシステイン遊離チオールの驚くべき同定、および単一のシステイン残基のみを遊離チオールの形態で含有するFv変種を製造することができるという驚くべき知見に基づいている。このことにより、均一な組換えF(ab')および他のFv含有2価ポリペプチドの製造が容易になる。従って、一つの態様において、この発明は、免疫グロブリンH鎖Fv領域および免疫グロブリンL鎖Fv領域を含有するFvポリペプチド(該L鎖またはH鎖はまた遊離のチオールとしての不対システイン残基をも含有する)を、組換え微生物細胞培養物のペリプラズム中に発現および分泌し、ついで該システイン残基を遊離のチオールとして実質的に維持する条件下で該ポリペプチドを回収することからなる。
【0022】
Fv L鎖またはH鎖のいずれも、1または2以上のシステイン残基を含有するポリペプチド配列と任意に融合させることができるが、ただし、L鎖またはH鎖Fvのいずれかに対してC末端側のドメイン中に位置するそのようなシステイン残基の少なくとも一つはペリプラズム中で遊離のチオールとして存在することを条件とすることが理解されるであろう。適当なポリペプチド配列としては、免疫グロブリン、担体タンパク質、レセプター、成長因子、栄養物質、細胞付着分子、組織特異的付着因子、酵素、毒素などに由来する配列が挙げられるが、これらに限られるものではない。一般に、不対システイン残基は、L鎖またはH鎖FvドメインのいずれかのC末端側にて、またはL鎖またはH鎖CH1ドメインのC末端側にて置換される。融合ポリペプチド配列はシステイン残基のみからなっていてもよいし、または(1)Fvドメインの一つのC末端側、(2)L鎖定常領域のC末端側もしくは(3)H鎖のCH1ドメインのC末端側に融合したポリペプチド中にシステイン残基が存在していてもよい。後者の場合、単一の遊離チオールシステイン残基を有するヒンジ領域、好ましくはシステイン残基を1つだけ含有するヒンジ領域アミノ酸配列変種にFv−CH1ドメインを融合させる。しかしながら、免疫グロブリンヒンジ領域の代わりに、単一の遊離チオールシステイン残基を含有する他のいかなる配列も有用である。
【0023】
他の態様において、2以上、一般に2または3の遊離チオール残基を有するヒンジ領域、好ましくは2または3のシステイン残基を含有するヒンジ領域アミノ酸配列変種にFv−CH1ドメインを融合させる。たとえば、3つのシステイン残基を含有するように修飾したFab'−SHアミノ酸配列変種を適当な宿主細胞、たとえばCHO細胞や大腸菌中で組換えにより製造し、インビボで宿主細胞により首尾よくカップリングして3つのジスルフィド結合がH鎖を連結したF(ab')を形成させることができる。
【0024】
さらに詳しくは、この発明の目的は、工程:
a.Fab'を含む免疫グロブリンプレ配列(presequence)をコードする核酸(微生物宿主細胞によって認識される制御配列に機能的に連結されている)を含むベクターで形質転換した該宿主細胞中で、宿主細胞のペリプラズム腔へのFab'の分泌およびFab'−SHの生成に適した条件下にて該核酸を発現させ;ついで
b.該宿主細胞からFab'−(SH)n(式中、nは1または2以上)を回収する
ことからなる、遊離のチオールとして存在する少なくとも一つのヒンジ領域システインを有するFab'抗体ポリペプチド(Fab'−SH)の製造法によって達成される。
【0025】
この発明の方法の別の態様は、ヒンジシステインチオールをプロトン化形態で維持するのに適した条件下でFab'−SHをその後に回収する(精製を含む)ことからなる。ある種の態様において、形質転換細胞の培養の間またはFab'−SHの回収に際して金属イオンキレート試薬および/またはプロテアーゼインヒビターを存在させる。
【0026】
場合により、宿主細胞を凍結−解凍し、浸透ショックに供し、細胞ペーストを調製し、ついで該細胞ペーストからFab'−SHを精製することにより該宿主細胞からFab'−SHを放出させる。場合により、たとえばリゾチームを用いた該宿主細胞の酵素的消化により、または物理的破砕、たとえば超音波処理またはフレンチプレスの使用により該細胞からのFab'−SHの放出を容易にできる。
【0027】
ある種の態様において、FvまたはFvに融合したポリペプチド(一般にヒンジ配列)を、ペリプラズム中で遊離のチオールを示すただ一つのシステイン残基が存在するように修飾させる。それゆえ、たとえば、最初のシステインに対してC末端側にあるすべてのヒンジ配列システイン残基を欠失または置換することによりFabアミノ酸配列を修飾させる。同様に、たとえば、3つのシステイン残基が遊離のチオールの形態で存在する態様を得るため、第三のシステインのC末端側にあるすべてのヒンジ配列システイン残基を欠失または置換により修飾させる。
【0028】
この発明はまた、L鎖とH鎖との間にジスルフィド結合を有しないFv、Fab'、Fab'−SHおよびF(ab')ポリペプチドをも提供する。これらポリペプチドは、本明細書において「非連結(linkless)」と称する。たとえば、鎖間(H−L)ジスルフィド結合を形成する2つのシステインのうちの一方または好ましくは両方を置換または欠失させることにより該ポリペプチドのアミノ酸配列を修飾させる。一般に、これらシステインをセリンで置換するが、ジスルフィド結合を形成できないようにシステイン側鎖の一方または両方を共有結合的に修飾することも本発明の範囲に包含される。ある種の態様において、L鎖とH鎖との間には非常に強力な相互反応が存在するので、鎖間ジスルフィドを除いてもL鎖とH鎖との間で望ましくないレベルの解離とはならない。非連結Fab'−SHポリペプチドによって、有利にも、化学カップリングによって均一なF(ab')を調製することが可能となる。
【0029】
他の観点において、F(ab')を含むポリペプチドの製造法は、工程:
a.第一Fab'を含む免疫グロブリンプレ配列をコードする核酸(微生物宿主細胞によって認識される制御配列に機能的に連結されている)を含むベクターで形質転換した該宿主細胞中で、宿主細胞のペリプラズム腔への該第一Fab'の分泌およびFab'−SHの生成に適した条件下にて該核酸を発現させ(該第一Fab'は第一のエピトープに結合し得る);
b.第二Fab'を含む免疫グロブリンプレ配列をコードする核酸(微生物宿主細胞によって認識される制御配列に機能的に連結されている)を含むベクターで形質転換した該宿主細胞中で、宿主細胞のペリプラズム腔への該第二Fab'の分泌およびFab'−SHの生成に適した条件下にて該核酸を発現させ(該第二Fab'は第二のエピトープに結合し得る);
c.該第一Fab'−SHおよび第二Fab'−SHを該宿主細胞から回収し;ついで
d.該第一Fab'−SHおよび第二Fab'−SHの遊離のチオールシステイン残基間で共有結合を形成して2価F(ab')を形成させる
ことからなる。
【0030】
本発明の態様において、当該技術分野で知られた部位指定共有結合カップリング法を利用して、効率的な部位指定ジスルフィド結合形成がインビトロで生じ、それによって2特異的な2価抗体が生成する。特に好ましい態様において、第一Fab'−SHと第二Fab'−SHとの間のジスルフィド結合形成は、下記工程:
a.該第一Fab'−SHを(i)5,5'−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)と反応させてチオニトロベンゾエート誘導体Fab'−TNBを生成させるかまたは(ii)2官能性マレイミドと反応させ;
b.該第一Fab'−TNBまたはマレイミド化Fab'を該第二Fab'−SHと直接カップリングしてF(ab')を生成させ;ついで
c.該F(ab')を回収する
ことからなる。
【0031】
この発明の方法により、新規なF(ab')組成物が提供される。そのような組成物は、
a.天然のFv領域中に認められる天然のジスルフィド結合を例外として、誘導体化スルフヒドリル基を有するシステイン残基を含有するF(ab')Fv領域を本質的に含まず、
b.ヒンジ領域の鎖内ジスルフィド結合を有するF(ab')を全く含まず、
c.混入する亜ヒ酸塩を全く含まず、
d.H鎖C末端アミノ酸残基に関して全く均一である。
【0032】
他の態様において、誘導プロモーター/オペレーター系の転写制御下で免疫グロブリンポリペプチドをコードする核酸で形質転換した宿主細胞を培養し、それによって誘導後の細胞培養液中のポリペプチドレベルが細胞培養液1リットル当たり約1g以上のポリペプチドとするに充分なように誘導前にポリペプチドの発現が抑制されることからなる方法により、組換え微生物中での免疫グロブリンまたはそのフラグメントの高レベル発現が達成される。一般に、このことは、低コピー数ベクター中またはすべてのphoAオペレーター部位を完全に占め該オペロンを完全に抑制するに充分なレベルのリプレッサーを発現すべく修飾した宿主中でphoAなどの強力なプロモーターを使用することにより達成される。
【0033】
以下、本発明を図面を参照して説明する。
図1は、大腸菌からhuMAb4D5−8κL鎖およびH鎖Fd'フラグメントを共分泌するのに使用するプラスミドpA19を示す。Fab'発現単位は、リン酸飢餓により誘導されるPhoAプロモーター(チャング(C.N.Chang)ら、Gene 44:121(1986))の転写制御下にある両鎖について2シストロン(dicistronic)である。ヒト化可変ドメイン(huVLおよびhuVH、カーター(P.Carter)ら、Proc. Natl. Acad.Sci.USA、89(10):4285〜9(1992))が、その5'末端にて熱安定エンテロトキシンII(stII)シグナル配列をコードする遺伝子切片(ピッケン(R.N.Picken)ら、Infect. Immun.42:269(1983))に正確に融合しており、その3'部位にてそれぞれ、ヒトκ1(CL、パーム(W. Palm)およびヒルシュマン(N.Hilschmann)、Z. Physiol. Chem.356:167(1975))およびIgG1(C1、エリソン(J. W. Ellison)ら、Nucleic Acids Res.10:4071(1982))定常ドメインに正確に融合している。これらコード領域は83塩基対によって隔てられており、翻訳の効率的な開始が可能となるようにそれぞれリボソーム結合部位(ピッケンら、上記)によって先行されている。このFab'発現単位を、テトラサイクリン耐性遺伝子産物のアミノ酸配列を変化させることなくSalIおよびSphI部位を除去することによって前以て修飾したpBR322(ボリバー(F.Bolivar)ら、Gene 2:95(1977))のEcoRI部位中にクローニングした。C1遺伝子の末端およびバクテリオファージλt0転写ターミネーターの直前に唯一のSalIおよびSphI部位を設けることにより、種々のFab'変種の構築を容易にした(ショルティセック(Scholtissek)ら、Nucleic Acids Res.15:3185(1987))。
【0034】
図2は、huMAb4D5−8のFab、Fab'およびF(ab')(Cys Ala Ala変種)フラグメントの精製を示す。クーマーシーブリリアントブルー(R250)を用いた非還元条件下、4〜20%ゲル上のSDS−PAGEによりタンパク質を分析した。示した試料は、タンパク質分子量マーカー(レーン1)、Fab(レーン2);模擬(mock)カップリング反応前(レーン3)および反応後(レーン4)のFab'−SH;模擬カップリング反応前(レーン5)および反応後(レーン6)のFab'−TNB;Fab'−TNBとカップリングしたFab'−SH(レーン7)、ゲル濾過により精製したF(ab')(レーン8)および哺乳動物細胞中で発現させた完全長のhuMAb4D5−8(カーターら、Proc. Natl. Acad. Sci.USA(1992)上記)の制限ペプシン消化(ラモイ(E.Lamoyi)ら、Methods Enzymol.121:652(1986))により得たF(ab')(レーン9)である。電気泳動前に抗体フラグメント(試料当たり2μg)を4mMヨードアセトアミドと反応させた。遠心分離して細胞破砕物を除去し、DEAEセファロースイオン交換クロマトグラフィーにかけ、ついでタンパク質ACL4Bまたはタンパク質Gセファロースを用いてアフィニティー精製することにより、発酵上澄み液からhuMAb4D5−8 Fabフラグメントを精製した。huMAb4D5−8 Fab'−SHの精製は、21mlの100mM酢酸ナトリウム(pH3.5)、10mM EDTA、0.2mM PMSF、5μMペプスタチン、5μMロイペプチン、2.4mMベンズアミジンの存在下で15gの細胞ペーストを解凍することにより行った。細胞破砕物を遠心分離により除去した(40,000g、10分、4℃)。得られた上澄み液(pH5.0)をDEAEセファロースを通過させ、2mlのタンパク質Gセファロースカラム上に負荷した。タンパク質は100mM酢酸ナトリウム(pH3.5)で溶出し、10mM EDTAを1.5M(NHSO4の存在下でpH4.0に調節し、2mlのフェニルトヨパールカラム上に負荷した。Fab'−SHは20mM酢酸ナトリウム(pH4.0)、0.8M(NHSO、10mM EDTAで溶出し、限外濾過(セントリプレプ−10、アミコン)により容量を減少させ、緩衝液をG25ゲル濾過により10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)、10mM EDTAに交換した。Fabチオニトロベンゾエート誘導体の調製も、DEAEフロースルーを5mM DTNBおよびpH7.5に調節する他は同様にして行った。huMAb4D5−8 FabおよびFab'変種の全濃度を、280nmにおいて測定した吸光度およびアミノ酸組成分析により決定した吸光係数(ε0.1%=1.56)から決定した。huMAb4D5−8 Fab'−SHの遊離チオール含量の決定は記載(クレイトン(T.E.Creighton)、タンパク質構造、実際的アプローチ(IRLプレス、オックスフォード、英国、1990)、157頁)に従ってDTNBを用いて分析することにより行ない、一方、huMAb4D5−8 Fab'−TNBのTNB含量の決定はジチオトレイトールで還元した際の収量により行なった。等モル量のhuMAb4D5−8 Fab'−TNB(TNB含量により)およびFab'−SH(−SH含量により)を、100mMトリス−HCl(pH7.5)および10mM EDTAの存在下、合計濃度≧1.4mg/mlにて37℃で1時間カップリングさせた。リン酸緩衝食塩水の存在下でのS100−HRゲル濾過(ファルマシア)により、カップリング反応液からhuMAb4D5−8 F(ab')を単離した。このF(ab')2試料を滅菌した0.2μmフィルターに通し、4℃で貯蔵するかまたは液体窒素中でフラッシュ凍結し(flash frozen)−70℃で貯蔵した。
【0035】
定義
一般に、下記語句を本記載、実施例および請求の範囲に使用する場合には所定の定義を有する:
Fvなる語は、定常ドメインを含有しない、共有結合によりまたは非共有結合により会合したH鎖およびL鎖ヘテロダイマーとして定義される。
【0036】
本明細書においてFab'なる語は、抗体H鎖の可変ドメインおよび第一定常ドメイン、抗体L鎖の可変ドメインおよび定常ドメイン、およびH鎖C1ドメインのカルボキシ末端側の1または2以上のシステイン残基を含む少なくとも1つの別のアミノ酸残基のヘテロダイマーからなるポリペプチドとして定義される。F(ab')抗体フラグメントは、一対のFab'抗体フラグメントが共有結合により連結されたものである。
【0037】
Fab' H鎖にはヒンジ領域が含まれていてよい。これは、いかなる所望のヒンジアミノ酸配列であってもよい。別の態様として、ヒンジは、1または2以上のシステイン残基に有利なように完全に省かれていてもよいし、または好ましくは短い(約1〜10残基)システイン含有ポリペプチドであってよい。ある種の応用においては、天然に存在する一般的な抗体ヒンジ配列(システインのつぎに2つのプロリン、ついで他のシステイン)を用いる;この配列は、ヒトIgG1分子のヒンジ中に認められる(カバットら、免疫学的に重要なタンパク質の配列、第3版(国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州、1987))。他の態様において、ヒンジ領域は他の所望の抗体クラスまたはアイソタイプから選択される。この発明のある種の好ましい態様において、Fab'のC1のC末端を配列CysXXに融合させる。XはAlaが好ましいが、Arg、Asp、またはProなどの他の残基であってもよい。Xアミノ酸残基の一方または両方を欠失させることができる。
【0038】
「ヒンジ領域」とは、天然免疫グロブリンのC1とC2との間に位置するアミノ酸配列またはその配列変種である。以下に記載するヒト化4D5抗体の場合には、ヒンジ領域は残基224(..Cys Asp Lys..中のAsp)と233(..Cys Pro Ala..中のPro)との間に位置する。他の免疫グロブリンの類似領域を用いることができるが、ヒンジ領域のサイズおよび配列は大きく変化してよいことが理解されるであろう。たとえば、ヒトIgG1のヒンジ領域はわずかに約10の残基であるが、ヒトIgG3のヒンジ領域は約60残基である。
【0039】
本明細書においてFv−SHまたはFab'−SHなる語は、少なくとも一つのシステインの遊離チオールを有するFvまたはFab'ポリペプチドとして定義される。この遊離のチオールはヒンジ領域に存在し、通常鎖間結合に関与するL鎖およびH鎖のシステイン残基は天然の形態で存在するのが好ましい。この発明の最も好ましい態様において、Fab'−SHポリペプチド組成物には異種のタンパク質加水分解フラグメントが含まれない。ある種の態様において、Fab'−SHポリペプチドはまた、H鎖およびL鎖がたとえば異常なジスルフィドやスルフヒドリル付加生成物の生成によって、天然の状態では存在しないように還元されているかまたは他の仕方で誘導体化されているFab'フラグメントを実質的に(約90モル%以上)含まない。別の態様において、Fab'−SHは、共有結合によりカップリングされていないH鎖およびL鎖を有する。
【0040】
本発明の目的のためのヒト化抗体は、前以て決定された抗原に結合することのできる免疫グロブリンアミノ酸配列変種またはそのフラグメントであって、実質的にヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有するFR領域と実質的に非ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有するCDRまたは前以て選択した抗原に結合するよう修飾した配列とからなるものである。
【0041】
「制御配列」なる語は、機能的に連結したコード配列を特定の宿主生物中で発現するのに必要なDNA配列をいう。原核生物に適した制御配列としては、たとえば、プロモーター、場合によりオペレーター配列、リボソーム結合部位、および転写ターミネーターが挙げられる。特に好ましいのは、細胞培養物が増殖および成熟している間、たとえば対数増殖期の間に増殖−阻害量以下のレベルでFab'ポリペプチドの合成を抑制する高度に制御された誘導性プロモーターである。
【0042】
核酸は、それが他の核酸配列と機能的な関係に置かれている場合に「機能的に連結している」。たとえば、プレ配列または分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されるなら、該ポリペプチドのDNAと機能的に連結している;プロモーターまたはエンハンサーは、コード配列の転写に影響を及ぼすなら該配列に機能的に連結している;リボソーム結合部位は、翻訳を容易にするように位置しているならコード配列に機能的に連結している。一般に、「機能的に連結している」とは、連結されるDNA配列が隣接していること、および分泌リーダーの場合には隣接して同じリーディングフレームにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は都合のよい制限部位でライゲーションすることにより行うことができる。そのような部位が存在しない場合には、常法に従って合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを用いる。
【0043】
本明細書において「外来」要素とは、細胞にとって外来のものであるか、または該宿主細胞のものと相同ではあるが該要素が通常は認められない該細胞核酸内の位置に認められるものをいう。
【0044】
本明細書において「細胞」および「細胞培養物」なる表現は同じ意味で用いられ、そのような表示はすべて子孫を含む。それゆえ、「形質転換体」および「形質転換細胞」なる語は、継代の数のいかんにかかわらず、初代目的細胞およびそれに由来する培養物を包含する。また、時間をかけたまたは偶然の突然変異により、すべての子孫のDNA含量が正確に同一である必要はないことも理解されるであろう。最初の形質転換細胞でスクリーニングしたのと同じ機能または生物学的活性を有する変異子孫も包含される。異なる表示は、前後関係の文脈から明らかとなるであろう。
【0045】
「プラスミド」は、小文字のpと、それに先立つおよび/またはそれに続く大文字および/または数字によって表示される。本明細書において出発プラスミドは市販されており、制限されることなく公的に利用でき、またはそのような利用可能なプラスミドから刊行された手順に従って構築することができる。加えて、当該技術分野で知られた他の等価なプラスミドは当業者にとって明らかであろう。
【0046】
DNAの所定断片の制限消化物からの「回収」または「単離」とは、ポリアクリルアミドまたはアガロースゲル上での電気泳動による該消化物の分離、目的断片の移動度を分子量が知られたマーカーDNA断片の移動度と比較することによる該断片の同定、該所望の断片を含有するゲル切片の除去、および該ゲルのDNAからの分離を意味する。この手順は一般に知られている。たとえば、ローン(Lawn)らのNucleic Acids Res. 9:6103〜6114(1981)およびゲッデル(Goeddel)らのNucleic Acids Res. 8:4057(1980)を参照。
【0047】
細胞からのDNAの「調製」とは、宿主細胞の培養物からのプラスミドDNAの単離を意味する。一般に使用されているDNAの調製法は、サンブルック(Sambrook)らのモレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル ニューヨーク:コールドスプリングハーバーラボラトリープレス、1989の第1.25〜1.33節に記載されている大スケールおよび小スケールのプラスミド調製法である。DNA調製物の精製は、当該技術分野でよく知られた方法により行った(上記サンブルックらの第1.40節を参照)。
【0048】
本発明を実施するための適当な方法
一般に、培養微生物宿主細胞を、形質転換した該宿主細胞によって認識される制御配列に機能的に連結したFab'コード核酸(すなわち、H鎖FdフラグメントおよびL鎖をコードする核酸)を含むベクターで形質転換する(以下、「Fab」を特別の態様として言及するが、ペリプラズムで遊離チオールを生成することのできるシステイン残基がFv領域またはそれに融合した配列中に存在する限りにおいて、Fvを含有するいかなる抗体フラグメントまたはその融合/配列誘導体をも使用することができることが理解されるであろう)。細胞の培養は、宿主細胞のペリプラズム腔中へのFab'の分泌および遊離チオールの形成に適した条件下で行う。一般に、対応L鎖およびH鎖フラグメントの共発現を指令するため2シストロンオペロンを用いる。別法として、同じまたは異なるプラスミドで別々の鎖を別々のプロモーターから発現させる。第二に、ペリプラズム腔中への分泌を指令するためシグナル配列をFab鎖に先行させるが、該腔では、酸化還元環境は、L鎖フラグメントとH鎖フラグメントとを会合させるためのジスルフィド結合の形成には有利であるが、ヒンジのシステイン残基間でのジスルフィド結合形成には有利ではないと思われる。特に好ましい態様において、発現制御配列はリン酸飢餓によって誘導される大腸菌phoAプロモーター(チャングら、Gene 44:121(1986))であり、シグナル配列は熱安定エンテロトキシンIIシグナル配列(ピッケンら、Infect. Immun..42:269(1983))である。
【0049】
現在のところ、発酵槽中で高細胞密度で増殖している細菌細胞で抗体フラグメントを発現させるのが好ましい。適当な発酵条件は、下記実施例に記載されている。
【0050】
遊離チオールを含むポリペプチドを発酵培地から回収しおよび/または凍結−解凍細胞から(一般に浸透ショックにより)回収し、ついで精製する。回収(精製を含む)は、Fab'−SHがプロトン化形態で維持されている場合に最もうまく行える。プロトン化形態を維持するための他の条件としては、有機溶媒または−SHの解離pKaをシフトさせるための他の試薬の使用が挙げられる。このことは、酸性のpH、すなわちヒンジまたは不対システインチオールのpKaよりも好ましくは2またはそれ以上のpH単位小さいpHにて達成される。別法として、その後の反応に適した均一な状態にFab'を維持するため、Fab'−SHをTNBまたはp−メトキシベンジルなどの保護基と反応させる。さらに別の態様として、ピリジンジスルフィドをFab'−SHに加えて混合ジスルフィドを形成させる;このことにより、カップリングまたは他のプロセシングのために脱保護するまで遊離のスルフヒドリルを安定にする。さらに別の態様において、遊離のスルフヒドリルを保護せず、カップリングまたはさらにプロセシングする前に還元する。当該技術分野で知られた適当な保護基は、グロス(E.Gross)およびマイエムホーファー(J.Meiemhofer)、ペプチド:分析、構造、生物学 Vol 3:ペプチド合成における官能基の保護(アカデミックプレス、ニューヨーク、1981)に記載されている。
【0051】
酸性pH(一般に約pH4〜pH6、好ましくは約pH5.0)でのストレプトコッカスタンパク質Gセファロースまたはスタフィロコッカスタンパク質A上などでのアフィニティー精製が好ましい。別法として、2相液体抽出を用いることができる。少量の混入したタンパク質分解断片は、たとえばシリカゲルおよび/またはアルキルもしくはアリール置換クロマトグラフィー樹脂(フェニルトヨパールなど)を用いた疎水性相互反応クロマトグラフィーにより容易に除くことができる。宿主プロテアーゼを不活化または阻害するためのプロテアーゼインヒビターのカクテル(フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチンおよび/またはベンズアミジンなど)を使用すること、および培養および回収手順にEDTAなどの金属イオンキレート試薬を用いることが好ましい。キレート試薬を選択し、ジスルフィド結合形成の金属イオン触媒反応を防ぐ量で用いる。
【0052】
ある種の態様において、Fab'−(SH)n(式中、nは1またはそれ以上)は組換え手順の間にインビボでF(ab')を生成する。これら態様において、好ましくは2以上のシステイン残基を含有するようにFab'−(SH)アミノ酸配列を修飾しておいた。たとえば、大腸菌中でのFab'−SHの培養後、H鎖の間に3つのジスルフィド結合を有するF(ab')を大腸菌細胞ペーストから直接回収する。
【0053】
他の態様において、架橋剤または溶解酸素などの不定の酸化剤を用いたインビトロ化学カップリングにより精製Fab'−(SH)n(式中、nは1またはそれ以上)からF(ab')を調製する。後者の場合、精製Fab'は単に空気酸化によってF(ab')を生成するであろう。加えて、別個のFab'のカップリングを指令し2価の1特異的F(ab')の形成を回避させるFab'−SH誘導体の使用により2特異的F(ab')が製造される。1特異的または2特異的なF(ab')のための一つの適当な化学は、上記ブレナンらによって記載された方法である。凍結−解凍細胞から浸透ショックによって放出されたFab'−SHを過剰のDTNBの存在下で約pH7.5に調節する他はFab'−SHと同様の方法によりFab'−TNB誘導体を調製する。等モル量のFab'−SHとFab'−TNBとをEDTAの存在下でのジスルフィド交換反応により効率的にカップリングさせてF(ab')フラグメントを形成させる。
【0054】
この発明の非連結Fv、Fab'、Fab'−SHおよびF(ab')ポリペプチドは、L鎖とH鎖との間にジスルフィド結合を有しない。一般に、ポリペプチドの修飾は、修飾したポリペプチドの直接発現の結果として、または化学的手段または酵素手段により行う。該ポリペプチドの典型的なアミノ酸配列修飾は、鎖間(H−L)ジスルフィド結合を形成する2つのシステインの一方または好ましくは両方を置換もしくは欠失させることである。一般に、これらシステインはセリンと置換させるが、ジスルフィド結合を形成することができないように該システイン側鎖の一方または両方を共有結合的に修飾することも本発明の範囲に包含される。
【0055】
上記システインの一方または両方は、脂肪酸または他の化学基を用いて修飾し、種々の公知法によりジスルフィド結合を形成できないようにすることができる。そのような公知法としては、下記方法:(1)N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)やエトキシ−エトキシカルボニル−ジヒドロキノリン(EEDQ)などの脱水剤または活性化剤を用いた共有結合修飾;(2)ケテン、無水物、イソチオシアネート、またはβ−ラクトンを用いたアシル化;(3)シアネートを用いたカルバモイル化;(4)アルデヒドおよびある種のケト酸を用いたヘミメルカプタールまたはヘミメルカプトール生成;(5)活性二重結合への付加(N−エチルマレイミドを使用)による、キノンとの反応による、ハロ酸およびそのアミドとの反応(ヨード酢酸、またはα−ブロモヘキサデカン酸を使用)による、メチル化反応(ジメチルサルフェートを用いたものなど)による、スルホアルキル化による、アリール化(ニトロベンゼン化合物を使用)による、またはジアゾ化合物との反応による、アルキル化およびアリール化;(6)銀や有機水銀化合物(塩化第二水銀など)などの金属イオンとの反応;(7)亜ヒ酸化合物との反応;(8)亜硫酸塩との反応;(9)酸化反応;および(10)ハロゲン化スルフェニルとの反応による混合ジスルフィドの生成が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0056】
ポリペプチドの修飾は、宿主細胞内で行うか、または組換えにより生成したポリペプチドに翻訳後修飾を行ってもよい。現在のところ、翻訳後修飾は、宿主細胞または微生物から回収してから24時間以内、好ましくは数時間以内に起こるのが好ましい。
【0057】
この発明のポリペプチドのシステインに対する修飾の存在の検出法としては、ポリペプチド試料の質量分析など一般に知られている。別法としては、薄層クロマトグラフィー(TLC)を試料に対して行う。このペプチド分析法は当該技術分野で一般的であるが、たとえばスチュアート(Stuart)およびヤング(Young)、固相ペプチド合成、103〜107、および118〜122頁(ピアス・ケミカル(Pierce Chem.Co.)、第2版、1984)を参照。
【0058】
ある種の態様において、L鎖とH鎖との間には非常に強い相互作用が存在するので、鎖間ジスルフィドを除去したためにL鎖とH鎖との間での解離は望ましくないレベルのものにはならない。非連結Fab'−SHポリペプチドは、有利にも、化学カップリングによって均一なF(ab')を調製することを可能にする。
【0059】
この発明のFabは、抗体の通常の入手源から得ることができる。抗原に対するポリクローナル抗体は、一般に、該抗原およびアジュバントを動物に複数回、皮下(sc)または腹腔内(ip)注射することによって産生される。抗原または標的抗原アミノ酸配列を有する断片を、免疫しようとする種において免疫原であるタンパク質(たとえばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、またはダイズトリプシンインヒビター)に、2官能性または誘導体化試薬、たとえば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基によるコンジュゲート)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタールアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、またはR1N=C=NR(式中、RおよびRは異なるアルキル基)を用いてコンジュゲートするのが有用である。
【0060】
動物の免疫の経路および手順または該動物からの培養抗体−産生細胞は、一般に抗体刺激および産生のための確立された通常法に準じて行う。試験モデルとしてはマウスがしばしば用いられるが、あらゆる哺乳動物またはそれから得られた抗体産生細胞を使用可能であることが考えられる。
【0061】
免疫後、免疫した動物から免疫リンパ球細胞(一般に脾臓細胞またはリンパ節組織からのリンパ球)を回収し、通常の方法、たとえばミエローマ細胞との融合またはエプスタイン−バー(EB)−ウイルス形質転換により該細胞を不死化し、ついで所望の抗体を発現するクローンをスクリーニングすることによりモノクローナル抗体を調製する。ケーラーとミルシュテインによって最初に記載されたハイブリドーマ法(Nature 256:52〜53(1975))は、多くの特定抗原に対して高レベルのモノクローナル抗体を分泌するハイブリッド細胞株を作成するために広く用いられている。所望の抗体を分泌するハイブリドーマの同定は、常法による。ついで、通常の方法を用いて、選択した抗体のH鎖およびL鎖をコードするDNAをハイブリドーマから得る。別法として、免疫した動物のB細胞から抗体特異的な伝令RNAを抽出し、これを相補DNA(cDNA)に逆転写し、ついで該cDNAをPCRにより増幅するかまたは細菌発現系中にクローニングする。H鎖およびL鎖配列ソースを得るのに適した他の方法では、バクテリオファージλベクター系(発現されたFabタンパク質をペリプラズム腔内に分泌するリーダー配列を含む)を用い、所望の活性を示すものについての多数の機能性抗体フラグメントの生成およびスクリーニングを行う。この系は市販されている。
【0062】
アミノ酸配列変種
この発明はまた、天然のFabポリペプチド配列のアミノ酸配列変種をも包含する。これら変種は、FabをコードするDNA中に適当なヌクレオチド変化を導入するか、または所望のFabのインビトロ合成により調製する。そのような変種には、たとえば、非ヒト抗体のヒト化変種、並びに特定のアミノ酸配列内の残基の欠失、挿入または置換が含まれる。最終生成物が所望の特性を有することを条件として、欠失、挿入および置換のあらゆる組み合わせを用いて最終構築物を得ることができる。これらアミノ酸変化はまた、グリコシレーション部位の数および位置の変化、定常ドメイン中への膜固着配列の導入または天然Fabのリーダー配列の修飾などの、標的ポリペプチドの翻訳後プロセシングをも変えるかもしれない。
【0063】
標的ポリペプチドのアミノ酸配列変種を設計するに際して、変異部位の位置および変異の性質は、修飾しようとする標的ポリペプチドの特性に依存するであろう。変異部位の修飾は、たとえば、(1)得られる結果に依存して、まず保存アミノ酸の選択で、ついで一層過激な選択での置換、(2)標的残基の欠失、または(3)位置する部位に隣接して同じかまたは異なるクラスの残基を挿入すること、または(1)〜(3)の組み合わせによって、個々にまたは連続して行うことができる。
【0064】
突然変異誘発にとって好ましい位置である標的ポリペプチドの残基または領域を同定するのに有用な方法は、カニンガム(Cunningham)およびウエルズ(Wells)(Science、244:1081〜1085[1989])、およびダンカン(Duncan, A.R.)およびウインター(Winter, G.)(Nature、322:738〜740[1988])によって記載されているように、「アラニンスキャニング突然変異誘発(alanine scanning mutagenesis)」と称される。本発明では、残基または標的残基のグループを同定し(たとえば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電残基)、これらアミノ酸の細胞内または細胞外の周囲の水性環境との相互反応に影響を与えるため中性または陰性に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)で置換する。それゆえ、アミノ酸配列変化を導入する部位は前以て決定するが、変異それ自体の性質は前以て決定する必要はない。たとえば、所定部位での突然変異を最適にするため、Alaスキャニングまたはランダム突然変異誘発を標的コドンまたは領域で行い、発現された標的ポリペプチド変種を所望の活性の最適な組み合わせについてスクリーニングする。
【0065】
アミノ酸配列変種の構築には2つの主要な変数、すなわち変異部位の位置および変異の性質が存在する。一般に、選択した変異の位置および性質は、修飾しようとする標的ポリペプチドの特性に依存するであろう。
【0066】
アミノ酸配列挿入としては、長さが1残基から100またはそれ以上の残基を含有するポリペプチドまでのアミノ−および/またはカルボキシル−末端融合、並びに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が挙げられる。配列内挿入(すなわち、標的ポリペプチド配列内の挿入)は、一般に、約1〜10残基、一層好ましくは1〜5残基、最も好ましくは1〜3残基の範囲であってよい。末端挿入の例としては、組換え宿主細胞からの成熟Fvポリペプチドの分泌を容易にするためのFvポリペプチドのN末端への異種N末端シグナル配列の融合が挙げられる。そのようなシグナル配列は、一般に、目的宿主細胞種から得られるため、該細胞種と同種であろう。大腸菌に適した配列としては、STIIまたはlppが挙げられる。
【0067】
標的ポリペプチドの他の挿入変種としては、該標的ポリペプチドのN末端またはC末端への免疫原性ポリペプチド、たとえばβ−ラクタマーゼや大腸菌trp遺伝子座によってコードされる酵素などの細菌ポリペプチドまたは酵母タンパク質の融合、および免疫グロブリン定常領域(または他の免疫グロブリン領域)、アルブミン、またはフェリチンなどの長い半減期を有するタンパク質とのC末融合が挙げられる(WO 89/02922(1989年4月6日発行)に記載)。他の適当なポリペプチド配列としては、免疫グロブリン、担体タンパク質、レセプター、成長因子、栄養物質、細胞付着分子、組織特異的付着因子、酵素、毒素などに由来する配列が挙げられるが、これらに限られるものではない。これらの例示は、遊離のチオールシステインを与えるヒンジ領域などのシステインまたはシステイン含有ポリペプチドの挿入とは別のものであろう。
【0068】
他のグループの変種は、アミノ酸置換変種である。これら変種は、免疫グロブリンポリペプチド中の少なくとも一つのアミノ酸残基が除去され、その位置に異なる残基が挿入されている。置換突然変異誘発のために最も重要な部位は、CDR、FRおよびヒンジ領域である。これには、システインの他の残基への置換、および側鎖のかさばり、電荷、および/または疎水性において実質的に異なる挿入が含まれる。置換のための他の部位については、置換による特定標的抗体の抗原結合、親和性および他の特性に対する影響を考慮して以下に記載する。
【0069】
Fab自体、H鎖のC1から下流の定常ドメインが欠失した完全免疫グロブリンの欠失変種である。さらに、好ましい態様において、このC1ドメインのC末端側にCys Ala Alaなどのシステイン含有配列または2以上のCysを有する配列が続いている。
【0070】
Fabアミノ酸配列変種をコードするDNAは、当該技術分野で公知の種々の方法により調製することができる。これら方法としては、天然採取源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変種の場合)、またはオリゴヌクレオチド媒体(または部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、および標的ポリペプチドの前もって調製した変種または非変種型のカセット式突然変異誘発によるまたは全遺伝子合成による調製が挙げられるが、これらに限られるものではない。これら方法では、標的ポリペプチドの核酸(DNAまたはRNA)、または標的ポリペプチドの核酸に相補的な核酸を用いることができる。オリゴヌクレオチド媒体突然変異誘発は、標的ポリペプチドDNAの置換、欠失、および挿入変種を調製するのに好ましい方法である。
【0071】
PCR突然変異誘発もまた、Fabポリペプチドのアミノ酸変種を調製するのに適している。以下ではDNAについて記載するが、該技術をRNAにも応用できることは理解されるであろう。PCR法とは、一般に以下の手順をさす(エーリッヒ、上記、ヒグチ(R. Higuchi)による章、61〜70頁参照):PCRにおいて少量の鋳型DNAを出発物質として用いる場合、鋳型DNA中の対応領域とはわずかに配列が異なるプライマーを用い、該プライマーが該鋳型と異なる部位でのみ配列が異なる特定DNA断片を比較的大量に生成させることができる。プラスミドDNA中に変異を導入するには、該変異の位置と重複するように、また該変異を有するようにプライマーの一方を設計する;他方のプライマーは該プラスミドの他方の鎖の配列と同一でなければならないが、この配列はプラスミドDNAのいずれの位置にあってもよい。しかしながら、これらプライマーによって結合された全増幅領域のDNAを最終的に容易にシークエンシングできるように、第二のプライマーは第一のプライマーから200ヌクレオチド内に位置しているのが好ましい。記載された通りのプライマーペアを用いたPCR増幅の結果、該プライマーによって特定された変異の部位、およびおそらく他の位置でも異なる(鋳型コピーは若干エラーを起こしやすいので)DNA断片の集団が得られる。
【0072】
生成物に対する鋳型の比率が極めて低いならば、生成物DNA断片の大部分は所望の変異を導入している。この生成物は、標準DNA法を用い、PCRの鋳型として機能したプラスミド中の対応領域を置換するのに用いる。別々の位置における変異の同時導入は、変異第二プライマーを用いるか、または異なる変異プライマーを用いて第二のPCRを行い、得られた2つのPCR断片を3(またはそれ以上)部ライゲーションにおいてベクター断片中に同時にライゲートすることにより、行なうことができる。
【0073】
変種を調製するための他の方法(カセット式突然変異誘発)は、ウエルズらによって記載された方法(Gene、34:315[1985])に基づいている。出発物質は、変異しようとするFab DNAを含有するプラスミド(または他のベクター)である。変異しようとするFabポリペプチドDNA中のコドンを同定する。同定した変異部位の各部位に唯一の制限エンドヌクレアーゼ部位が存在していなければならない。そのような制限部位が存在しない場合には、上記オリゴヌクレオチド媒体突然変異誘発法を用いてFabポリペプチドDNA中の適当な位置に導入することにより該部位を生成させる。これら制限部位をプラスミド中に導入した後、これら部位にてプラスミドを切断して線状にする。これら制限部位の間のDNA配列をコードしているが所望の変異を有する二本鎖オリゴヌクレオチドを標準法を用いて合成する。2本の鎖を別々に合成し、ついで標準法を用いてハイブリダイズさせる。この二本鎖オリゴヌクレオチドはカセットと呼ばれる。このカセットは、該プラスミド中に直接ライゲートできるように、線状化プラスミドの末端と適合した3'および5'末端を有するように設計してある。このプラスミドは、こうして、変異したFabポリペプチドDNA配列を含有している。
【0074】
ベクター中へのDNAの挿入
FabポリペプチドをコードするcDNAまたはゲノムDNAを、さらにクローニングするため(該DNAの増幅)または発現させるために複製可能なベクター中に挿入する。多くのベクターを利用でき、適当なベクターの選択は、(1)DNA増幅のために用いるのかコードタンパク質の発現のために用いるのか、(2)ベクター中に挿入するDNAのサイズ、および(3)該ベクターで形質転換しようとする宿主細胞に依存するであろう。各ベクターは、その機能(DNAの増幅またはDNAの発現)およびそれが適合する宿主細胞に依存して種々の成員を含有する。ベクター成員としては、一般に、以下の1または2以上が挙げられるが、これらに限られるものではない:シグナル配列、複製起点、1または2以上のマーカー遺伝子、プロモーター、および転写停止配列。
【0075】
(a)シグナル配列成員
一般に、シグナル配列はベクターの成員であるか、またはベクター中に挿入する標的ポリペプチドDNAの一部である。本発明に包含されるのは、天然のシグナル配列が欠失され、異種シグナル配列で置換されたFabポリペプチドである。選択する異種シグナル配列は、宿主細胞によって認識されプロセシングを受ける(すなわち、シグナルペプチダーゼで開裂される)ものでなければならない。天然のFabポリペプチドシグナル配列を認識およびプロセシングしない原核宿主細胞の場合は、該シグナル配列を、たとえばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または熱安定エンテロトキシンIIリーダーから選ばれた原核シグナル配列で置換する。
【0076】
(b)複製起点成員
発現およびクローニングベクターは、1または2以上の選択した宿主細胞中でのFab核酸の複製を可能にする核酸配列を含有していてもよいが、含有する必要はない。一般に、クローニングベクターにおいては、この配列は宿主染色体DNAと独立に該ベクターを複製させるものであり、複製起点または自律複製配列を含む。そのような配列は、種々の微生物について非常によく知られている。プラスミドpBR322からの複製起点は、ほとんどのグラム陰性細菌に適している。
【0077】
DNAはまた、宿主ゲノム中に挿入することによっても複製される。このことは、宿主としてバシラス種を用い、たとえばバシラスゲノムDNA中に認められる配列に相補的なDNA配列をベクター中に導入することによって容易に達成できる。このベクターでバシラスをトランスフェクションすると、該ゲノムと相同組換えが起こり、標的ポリペプチドDNAが挿入される。しかしながら、標的ポリペプチドDNAの切り出しに制限酵素消化が必要とされるので、外部で複製されるベクターの場合に比べて標的ポリペプチドをコードするゲノムDNAの回収は一層複雑である。同様に、DNAはまた、脊椎動物および哺乳動物細胞のゲノム中に常法に従って挿入することができる。
【0078】
(c)選択遺伝子成員
発現およびクローニングベクターは選択遺伝子(選択マーカーとも呼ばれる)を含有すべきである。この遺伝子は、選択培地中で増殖させた形質転換宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードしている。選択遺伝子を含有するベクターで形質転換されなかった宿主細胞は培地中で生存できないであろう。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質や他の毒素、たとえばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、またはテトラサイクリンに対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養要求欠損を補足するタンパク質、または(c)複合培地からは利用できない重要な栄養を供給するタンパク質(たとえばバシラスの場合のD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)をコードする。
【0079】
選択計画の一つの例は、宿主細胞の増殖を阻止する薬剤を利用することである。異種遺伝子で形質転換されている細胞は薬剤耐性を付与するタンパク質を発現し、それゆえ選択条件を生き残る。そのような主要な選択の例示としては、薬剤のネオマイシン(サザーン(Southern)ら、J. Molec. Appl. Genet.、1:327[1982])、ミコフェノール酸(マリガン(Mulligan)ら、Science、209:1422[1980])またはハイグロマイシン(サグデン(Sugden)ら、Mol. Cell. Biol.、5:410〜413[1985])の使用が挙げられる。上記3つの例では、それぞれ適当な薬剤、G418すなわちネオマイシン(ジェネチシン)、xgpt(ミコフェノール酸)、またはハイグロマイシンに対する耐性を付与するため真核制御下で細菌遺伝子を使用する。
【0080】
(d)プロモーター成員
発現ベクターおよびクローニングベクターには、通常、宿主生物によって認識されFabポリペプチド核酸と機能的に連結したプロモーターが含まれるであろう。プロモーターは、Fab構造遺伝子(一般に約100〜1000bp内)の開始コドンの上流(5'側)に位置する非翻訳配列であって、該構造遺伝子の転写および翻訳を制御する。そのようなプロモーターは、一般に誘導性および構成的の2つのクラスに分けられる。誘導プロモーターとは、培養条件におけるある種の変化、たとえば栄養物の存在もしくは不在または温度変化に応じて、その制御下でDNAからの増加したレベルでの転写を開始するプロモーターである。
【0081】
高制御下の誘導プロモーターが、Fv含有ポリペプチドの微生物発現には好ましい。現在、種々の可能な宿主細胞により認識される多数のプロモーターがよく知られている。これらプロモーターは、採取源のDNAから制限酵素消化によって取り出し、単離したプロモーター配列をベクター中に挿入することによってFabポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結される。FabポリペプチドDNAの増幅および/または発現を指令するため、天然のFabポリペプチドプロモーター配列および多くの異種プロモーターの両方とも用いることができる。しかしながら、一般に異種プロモーターの方が天然標的ポリペプチドプロモーターに比べて大きな転写および発現される標的ポリペプチドの高収率を可能とするので異種プロモーターが好ましい。
【0082】
原核宿主に用いるのに適したプロモーターとしては、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系(チャングら、Nature、275:615[1978];およびゲッデル(Goeddel)ら、Nature、281:544[1979])、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系(ゲッデル、Nucleic Acids Res.、8:4057[1980]およびEP36,776)およびtacプロモーター(デュボア(de Boer)ら、Proc. Natl. Acad. Sci.USA、80:21〜25[1983])などのハイブリッドプロモーターが挙げられる。しかしながら、他の知られた細菌プロモーターも適している。それらのヌクレオチド配列は刊行されているので、当業者は、必要な制限部位を与えるためのリンカーまたはアダプターを用い、標的ポリペプチドをコードするDNAに機能的にライゲートさせることができる(ジーベンリスト(Siebenlist)ら、Cell、20:269[1980])。細菌系に使用するプロモーターはまた、一般に標的ポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結したシャイン−ダルガーノ(S.D.)配列を含有するであろう。
【0083】
上記成員の1または2以上を含有する適当なベクターを構築するには、標準的なライゲーション法を用いる。単離したプラスミドまたはDNA断片を開裂し、修飾し(tailored)、必要なプラスミドを生成するのに望ましい形態で再ライゲートさせる。
【0084】
宿主細胞の選択および形質転換
Fabを発現するのに適した宿主細胞は、酵母、真菌、および原核生物などの微生物細胞である。適当な原核生物としては、グラム陰性菌やグラム陽性菌などの真正細菌、たとえば、大腸菌、枯草菌(B.subtilis)などのバシラス(Bacilli)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)などのシュードモナス種、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、またはセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescans)が挙げられる。一つの好ましい大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC 31,446)であるが、大腸菌B、大腸菌χ1776(ATCC 31,537)、大腸菌RV308(ATCC 31,608)および大腸菌W3110(ATCC 27,325)などの他の株も適している。これらは単に例示であって本発明を限定するものではない。宿主細胞は最小量のタンパク質分酵素を分泌するのが好ましく、さらにプロテアーゼインヒビターを細胞培養液中に添加するのが望ましい。
【0085】
宿主細胞をこの発明の上記発現ベクターまたはクローニングベクターでトランスフェクションおよび好ましくは形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適するように修飾した通常の栄養培地で培養する。
【0086】
宿主細胞の培養
この発明のFabポリペプチドを生成させるのに使用する細胞の培養は、サンブルックら(モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル ニューヨーク:コールドスプリングハーバーラボラトリープレス、1989)により一般に記載されているようにして適当な培地中で行う。他の必要な添加物も、当業者に知られた適当な濃度にて用いることができる。温度、pHなどの培養条件は、発現選択のために宿主細胞で用いたのと同様であり、当業者には明らかであろう。
【0087】
現在のところ、37℃〜29℃の温度で宿主細胞を培養するのが好ましいが、20℃という低い温度も適している。最適温度は、宿主細胞、Fab配列および他のパラメータに依存するであろう。一般に37℃が好ましい。
【0088】
Fabポリペプチドの精製
組換え細胞培養液から可溶性ポリペプチドを回収し、Fabに関して実質的に均一な調製物を得る。第一工程として、培地またはペリプラズム調製物を遠心分離にかけて微粒の細胞破砕物を除去する。ペリプラズム調製物を、通常の仕方、たとえば凍結−解凍法または浸透ショック法により得る。ついで、膜および可溶性タンパク質画分を分離する。ついで、Fabポリペプチドを可溶性タンパク質画分から精製する。以下の手順が適当な精製手順の例示である:イムノアフィニティーカラムまたはイオン交換カラム上での分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ上またはDEAEなどの陽イオン交換樹脂上のクロマトグラフィー;クロマトフォーカシング;SDS−PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;たとえばセファデックスG−75を用いたゲル濾過;タンパク質Aまたはタンパク質Gアフィニティーマトリックス(たとえば、セファロース)カラム;および疎水性相互反応クロマトグラフィー。
【0089】
残基が欠失、挿入または置換したFabポリペプチド変種も、該変異に伴う特性の実質的変化を考慮に入れて同様にして回収することができる。たとえば、他のタンパク質やポリペプチド(たとえば、細菌またはウイルス抗原)とのFabポリペプチド融合物の調製により、該融合物を吸着させるために該抗原に対する抗体を含有するイムノアフィニティーカラムを用いることができるので精製が容易になる。ウサギポリクローナル抗標的ポリペプチドカラムなどのイムノアフィニティーカラムを用い、標的ポリペプチド変種を少なくとも一つの残留免疫エピトープに結合させることにより該ポリペプチド変種を吸着させることができる。精製中のタンパク質加水分解を阻害するためにプロテアーゼインヒビターが有用であり、偶発的な汚染物の増殖を防ぐために抗生物質を用いることもできる。
【0090】
Fab含有ポリペプチドの有用性
この発明の抗体フラグメントは、特定の細胞、流体もしくは組織中の抗原の診断アッセイ、抗原のイムノアフィニティー精製、および抗原拮抗作用に基づく治療に有用である。
【0091】
Fabによって結合される抗原の分析法は通常のものであり、Fabに結合した標識を用いることができる。Fabポリペプチドに使用する標識は、Fabへの結合を妨害しない検出可能な官能基である。放射性同位元素32P、32S、14C、125I、Hおよび131I、蛍光団、たとえば希土類キレートまたはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、たとえば発光飛翔昆虫(ホタル)ルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3−ジヒドロフタールアジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、たとえばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、およびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘテロ環オキシダーゼ、たとえばウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼ、ラクトベルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定フリーラジカル、造影放射性核種(テクネチウムなど)などを含む多くの標識が知られている。
【0092】
これら標識をタンパク質またはポリペプチドに共有結合により結合させるには、通常の方法を利用することができる。たとえば、ジアルデヒド、カルボジイミド、ジマレイミド、ビス−イミデート、ビス−ジアゾ化ベンジジンなどのカップリング剤を用い、上記蛍光標識、化学ルミネセンス標識および酵素標識で抗体を標識することができる。たとえば、米国特許第3,940,475号(蛍光測定)および同第3,645,090号(酵素);ハンター(Hunter)ら、Nature、144:945(1962);デービッド(David)ら、Biochemistry、13:1014〜1021(1974);ペイン(Pain)ら、J.Immunol. Methods、40:219〜230(1981);およびニグレン(Nygren)、J.Histochem.and Cytochem.、30:407〜412(1982)を参照。本発明において好ましい標識は、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼなどの酵素である。そのような標識(酵素を含む)のFab含有ポリペプチドへの結合は、イムノアッセイ法における当業者にとって標準的な操作手順である。たとえば、オサリバン(O'Sullivan)ら、「エンザイムイムノアッセイに使用するための酵素−抗体結合体の調製法」(Methods in Enzymology、ランゴン(J.J.Langone)およびバン・ブナキス(H.Van Vunakis)編、Vol.73(アカデミックプレス、ニューヨーク、ニューヨーク、1981)、147〜166頁)を参照。そのような結合法は、この発明のFabポリペプチドに使用するのに適している。
【0093】
Fab含有ポリペプチドはまた、イムノトキシンをも包含する。たとえば、AIDS治療に使用するリシンなどの細胞毒素にFab H鎖を任意に結合させることができる。別の態様として、毒素は、細胞毒性薬剤または細菌、真菌、植物もしくは動物由来の酵素的に活性な毒素、またはそのような毒素の酵素的に活性な断片であってよい。酵素的に活性な毒素およびその断片としては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサから)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、α−サルシン(alpha-sarcin)、アレウリテス・フォルディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、フィトラカ・アメリカナ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、モモルディカ・カランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)およびトリコテセン(tricothecenes)が挙げられる。他の態様において、シス−プラチンや5FUなどの非ペプチド性薬剤に抗体を結合させる。モノクローナル抗体とそのような細胞毒性残基との結合体は、種々の2官能性タンパク質カップリング剤を用いて調製する。そのような試薬の例示としては、SPDP、IT、イミドエステルの2官能性誘導体、たとえばジメチルアジピミデートHCl、活性エステル、たとえばジスクシンイミジルスベレート、アルデヒド、たとえばグルタルアルデヒド、ビス−アジド化合物、たとえばビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン、ビス−ジアゾニウム誘導体、たとえばビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン、ジイソシアネート、たとえばトリレン2,6−ジイソシアネートおよびビス−活性フッ素化合物、たとえば1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンが挙げられる。毒素の溶解部分をFab抗体フラグメントに結合させてよい。
【0094】
イムノトキシンは、本明細書に記載するように、種々の仕方で作製することができる。一般に知られた架橋剤を用いて安定な結合体を生成することができる。 インビボの治療用に用いる場合、本発明のFab含有フラグメントを、完全免疫グロブリンと同様にして治療学的有効量(すなわち、所望の治療学的効果を示す量)にて患者に投与する。この発明の方法に従って調製した生成物は、実質的な分子的均一性という利点を有し、それゆえこれまでF(ab')の調製に使用された毒性汚染物が回避される。
【0095】
治療に使用する抗体組成物を調合し、投与量は、治療しようとする疾患、個々の患者の状態、該組成物を投与する部位、投与方法および実務家に知られた他の因子を考慮に入れて良好な医療実務に従った仕方にて確立される。抗体組成物は、以下の投与のためのポリペプチドの調製の記載に従って投与のために調製される。
【0096】
実施例:活性なFab、Fab'、およびF(ab')抗体フラグメントの発現
HER2癌原遺伝子産物(p185HER2)の過剰発現は、種々の浸潤性のヒト悪性物(aggressive human malignancies)と関連している。ヒト化抗体huMAb4D5−8の機能性FabおよびFab'フラグメントを、抗原p185HER2への結合によって決定されるように1リットル当たり約1から過剰で約2グラムの力価にて分泌する大腸菌発現系を開発した。2価F(ab')抗体フラグメントを生成するためのインビトロでの効率的な部位指定ジスルフィド結合生成が可能となるように、単一のヒンジ領域システインが主として遊離チオールとして存在する(約90モル%まで)ようにしてFab'フラグメントを回収した。この分子は、抗原結合親和性においておよびヒト乳腫瘍細胞株SK−BR−3(p185HER2を過剰発現する)に対する抗増殖活性において完全な抗体のタンパク質加水分解から得られたF(ab')と区別することができないが、該タンパク質加水分解産物と違って本発明のF(ab')はC末端側が均一である。この発明は、研究および治療目的のための天然由来またはヒト化抗体フラグメントを含む1特異的および2特異的F(ab')抗体フラグメントの構築を容易にする。この発明は、HER2癌原遺伝子の過剰発現によって特徴付けられる腫瘍病巣などの標的抗原に診断用残基または治療用残基を指向させることのできる抗体フラグメントを開発するのにとりわけ適している。
【0097】
muMAb4D5(フェンドリー(Fendly,B.M.)ら、Cncer Res.50:1550〜1558(1990))として知られるマウスモノクローナル抗体は、p185HER2の細胞外ドメイン(ECD)の対して向けられる。muMAb4D5およびその用途については、同時継続中のPCT出願WO 89/06692号(1989年7月27日公開)に記載されている。このマウス抗体はATCCに寄託してあり、ATCC CRL 10463の番号が付与されている。この記載において、muMAb4D5、chMAb4D5およびhuMAb4D5なる語は、それぞれモノクローナル抗体4D5のマウス態様、キメラ化態様およびヒト化態様を表す。
【0098】
muMAb4D5は、p185HER2を過剰発現するヒト腫瘍細胞株の増殖を特異的に阻害し(2,3)標的細胞によって迅速にインターナリゼーションされるので(データは示していない)、臨床的介入の可能性を有する。HER2の増幅および/または過剰発現は複数のヒト悪性物と関係しており、主要なヒト乳癌および卵巣癌の25〜30%の進行に完全に関与していると思われる(5)。muMAb4D5は、免疫原性を減少させヒトエフェクター機能を支持するのを可能にすることによって臨床的有効性を改善するための試みにおいて以前に「ヒト化」されている(6)。ヒト化抗体huMAb4D5−8は、本質的に、マウス親抗体の抗原結合ループとヒト可変領域フレームワーク残基および定常ドメインのみを含む。このヒト化抗体は、マウス親抗体に比べてp185HER2ECDに対する親和性が3倍高く、p185HER2を過剰発現する腫瘍細胞に対して匹敵する抗増殖活性を有し、抗体依存性細胞障害を支持する。
【0099】
huMAb4D5−8のFabおよびF(ab')抗体フラグメントを包含するように抗p185HER2抗体試薬の範囲を広げることが望まれた。完全な抗体に比べてこれらフラグメントのサイズが小さいことは、腫瘍への侵入の改善および血清からの一層迅速な除去の促進によって、固体腫瘍への特異的局在化を向上させると思われる(文献8を参照)。huMAb4D5−8 FabおよびF(ab')フラグメントを、これらフラグメントの処理を容易にするために直接組み合え発現によって得た。さらに、この方法により、完全抗体の制限タンパク質加水分解および部分還元によって得られるものよりも一層均一な抗体フラグメントの調製物を得ることができた(文献9を参照)。機能性のFvおよびFabフラグメントが大腸菌から分泌された(10)。
【0100】
本発明における抗体フラグメントの大腸菌分泌のための方法は(図1)、他の研究者の仕事と2つの基本的な類似点を有する(10)。第一に、対応L鎖およびH鎖フラグメントの同時発現を指令するためにジシストロンオペロンを用いている。第二に、大腸菌のペリプラズム腔中への分泌を指令するために抗体鎖に細菌シグナル配列が先行しており、該ペリプラズム腔ではジスルフィド結合形成には酸化還元環境が有利であり、L鎖およびH鎖フラグメントが組み立てられる。本発明の系は従来の方法と3つの基本的な点で異なっている。第一に、転写単位に、リン酸飢餓によって誘導される高度に制御されたプロモーター、大腸菌PhoAプロモーター(11)、および熱安定なエンテロトキシンIIシグナル配列(12)を利用している。第二に、L鎖の遺伝子切片がH鎖Fdフラグメント(VHおよびC1ドメイン)の遺伝子切片に先行している。第三に、huMAb4D5−8のFab'フラグメントを発現させるため、C1遺伝子切片がシステイン含有抗体ヒンジ領域の一部をコードするべく延長されている。システインのつぎに2つのプロリンおよび他のシステインが続く配列(CPC末端)を最初に選択した。というのは、該配列がhuMAb4D5−8の完全長態様(6)を含むヒトIgG1分子のヒンジ領域に認められるからである(17)。pBR322ベース発現ベクターのカセット突然変異誘発(18)による別のFab'変種の構築を、C1遺伝子切片の末端および停止コドンのすぐ3'側にそれぞれ唯一のSalIおよびSphI制限部位を設けることにより容易にした。
【0101】
発酵槽中で高細胞密度にて増殖させた(20)大腸菌RV308のファージ耐性誘導体(19)中にてhuMAb4D5−8 Fabフラグメントを発現させた。発酵培地中での機能性huMAb4D5−8 Fabの力価は、p185HER2ECD結合ELISAによって決定されるように、普通に1リットル当たり1〜2グラムである。適度の量(通常、<200mg/l)のhuMAb4D5−8Fabが細胞ペーストに含まれることが認められ、浸透ショックによって放出させることができる。huMAb4D5−8 Fabフラグメントのコンセンサスフレームワーク領域はスタフィロコッカスタンパク質Aおよびストレプトコッカスタンパク質Gの両方に強く結合することがわかり、これらをアフィニティー精製に利用することができた。抗原結合ELISAに先立つタンパク質A上のアフィニティー精製後の培地または細胞ペースト試料で極めて類似した力価評価が得られる。huMAb4D5−8 Fab変種(システイン、2つのプロリンおよび他のシステイン)および以下に記載する別のFab'変種についても、同様のp185HER2ECD結合活性の発現力価が得られた。
【0102】
F(ab')分子の生成には、完全な抗体の場合には可能なC3ドメイン間の広範囲の相互作用の助けを借りることなく、Fab'ヒンジシステインチオールが偶然に出会ってジスルフィド結合を形成する必要がある。それゆえ、インビボでのF(ab')の形成を促進するため、大腸菌のペリプラズム腔中でのFab'の高レベル発現を先行させる。事実、CPC末端を有するFab'分子(培地または細胞ペーストのいずれかから単離された)の<10%が、タンパク質A精製後のSDS−PAGEによって決定されるように2価の形態で回収された。高分解能マススペクトルおよび他の研究は、2つのヒンジシステイン残基間で分子内ジスルフィド結合の実質的な生成が起こっていることを示唆していた。この可能性は、単一のヒンジシステイン残基を有しCys Ala AlaのC末端配列を有するFab'変種を構築することにより排除した。このFab'変種が大腸菌から分泌されDTNB分析で遊離のチオールが検出されない場合には、ごくわずかな量のF(ab')が生成する。
【0103】
Fab' 分子をヒンジシステインが遊離のチオールとして存在するように維持する条件下で回収し、ついでインビトロで直接カップリングすることにより容易かつ有効にF(ab')2に生成させる。たとえば、ブレナンら(23)は、Fab'遊離チオール(Fab'−SH)をDTNBと反応させてチオニトロベンゾエート誘導体(Fab'−TNB)を生成させ、ついでこれを第二のFab'(Fab'−SH)とカップリングさせて2特異的F(ab')を生成させた。以下の方法により、完全な機能性huMAb4D5−8 Fab' Cys Ala Ala変種の日常的な精製が可能となり、DTNB分析により決定されるように(図2)該分子の75〜90%が遊離のヒンジチオールを含有している。第一に、増殖条件をうまく修飾して(20)、Fab'の分泌を培地中(Fab'ヒンジチオールが定量的および共有結合によりブロックされることがわかった)にではなく大腸菌のペリプラズム腔中になるようにした。第二に、Fab'フラグメントを細胞ペーストから単離し、システインのチオールを一層反応性の小さいプロトン化形態に維持するために低pH(pH5.0)にてタンパク質Gセファロース上でアフィニティー精製した。第三に、EDTAを加え、ジスルフィド結合生成を触媒し得る金属イオンをキレート化し、メタロプロテアーゼを不活化した。最後に、プロテアーゼインヒビターのカクテル(フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチンおよびベンズアミジン)により、精製中の大腸菌プロテアーゼによるFab'のタンパク質加水分解を実質的に排除した。Fab'調製物中の小量の混入タンパク質加水分解断片を、疎水性相互反応クロマトグラフィーにより容易に除去した。浸透ショックによって凍結−解凍細胞から放出されたFab'−SHを過剰のDTNBの存在下で中性のpHに調節した他は、同様にしてFab'−TNB誘導体を調製した。
【0104】
等モル量のFab'−SHとFab−TNBとをカップリングさせ、ジスルフィド交換反応によりF(ab')抗体フラグメントを有効に生成させた(図2)。カップリング反応をチオニトロベンゾエートアニオンの放出による412nmにおける吸光度の増加をモニタリングすることにより追跡し、37℃で30〜60分後に完了することがわかった。カップリング後の反応混合物では遊離のチオールは検出されず、残留するFab'の量はFab'−SHおよびFab'−TNB調製物中の未反応物質の量と一致している。F(ab')をS100−HRサイジングカラム上のゲル濾過によりFab'から分離した。文献記載されているように(23)、Fab'−SHまたはFab'−TNBのいずれかのみを含有する模擬カップリング反応では、痕跡量のhuMAb4D5−8 F(ab')しか生成しなかった。
【0105】
精製huMAb4D5−8 FabおよびF(ab')の物理的および化学的完全性を、SDS−PAGE(図2)、アミノ末端配列、アミノ酸組成および遊離チオール含量の分析、および円偏光二色性により評価した。非還元条件下でSDS−PAGEにより分析した精製huMAb4D5−8 Fab(Mr=47.7kdal)およびF(ab')2(Mr=96.0kdal)フラグメントは、それぞれ、期待される移動度の単一の主要なバンドを与えた。還元条件下でのSDS−PAGEの後では、FabおよびF(ab')抗体フラグメントの両方とも、遊離のL鎖(23.4kdal)およびH鎖Fd(24.3kdal)またはFd'(24.6kdal)フラグメントの化学量論的な量の放出により期待される同様の強度の二本のバンドを与えた(示していない)。FabおよびF(ab')2抗体フラグメントのアミノ末端配列分析(8サイクル)は、L鎖とH鎖との化学量論的1:1混合から期待される混合配列を与え(VL/VH:Asp/Glu、Ile/Val、Gln/Gln、Met/Leu、Thr/Val、Gln/Glu、Ser/Ser、およびPro/Gly)、別の配列の証拠はなかった。FabおよびF(ab')調製物のいずれにおいても、期待されるようにDTNB分析によって遊離のチオールは検出されなかった。酸加水分解したFabまたはF(ab')のアミノ酸分析(27)は、期待される組成と極めてよく一致していた(6)。Fabフラグメントの円偏光二色性スペクトルは、免疫グロブリンの畳み込みに特徴的なものである。
【0106】
huMAb4D5−8 FabおよびF(ab')抗体フラグメントの機能を、p185HER2ECDに対する結合親和性を測定することにより、および
p185HER2を過剰発現するヒト乳癌細胞株SK−BR−3の増殖に及ぼす影響を調べることにより調べた(表1)。
【0107】
表1.p185HER2ECD結合親和性および乳癌SK−BR−3細胞に対する抗増殖活性によるhuMAb4D5−8フラグメントの分析
huMAb4D5−8変種 採取源 Kd* pM 相対的細胞増殖+
Fab 大腸菌 570 91
F(ab')2‡ 大腸菌 290 53
F(ab')2 293細胞 300 50
*p185HER2ECDのKd値はすでに記載されたようにして決定し(5)、推定値の標準誤差は≦±10%である。
+huMAb4D5変種とともに96時間インキュベートしたSK−BR−3細胞の増殖は、記載に従い(5)、未処理コントロールのパーセントとして示した。データは、各変種について10μg/mlのフラグメント濃度にて3回決定したものの平均として計算した最大抗増殖作用を表す。データはすべて同じ実験からのものであり、推定標準誤差は≦±15%である。
‡Cys Ala Ala変種
【0108】
huMAb4D5−8 F(ab')抗体フラグメントのp185HER2ECDに対する結合親和性は、哺乳動物中で発現された完全抗体の制限タンパク質加水分解からの対応フラグメントのものと同一である。大腸菌由来の2価F(ab')抗体フラグメントは、SK−BR−3細胞に対する抗増殖活性が、293細胞由来の完全な2価huMAb4D5−8親抗体(6)および完全な抗体の制限ペプシン消化から得られるF(ab')抗体フラグメントの両方のものと同一である。対照的に、一価Fab分子はSK−BR−3細胞の増殖に有意な影響を及ぼさない。このことは、細胞表面上のp185HER2の架橋が細胞の増殖を阻害するのに必要であることを示唆している。F(ab')に比べてFabの抗原結合親和性が2倍弱いことが、Kdの数百倍上までの濃度でFabの抗増殖活性が存在しないことを説明しているとは極めて考えにくいと思われる。さらに、2価親抗体muMAb4D5の抗増殖活性を1価huMAb4D4 Fabフラグメントでブロックすることが可能である。
【0109】
この実施例では、機能性Fabフラグメントの発現力価は、大腸菌について文献で報告されているものに比べて約1000倍から1リットル当たり1〜2グラムに増加した。加えて、Fab'分子を回収した。この増大した発現は、高細胞密度(10〜20倍)および簡単なシェークフラスコに比べて一層正確に制御した発酵槽の環境、誘導前発現の非常に厳格な制御および使用したヒト化可変ドメイン配列の特徴にのみその一部が原因すると極めて強く思われる。phoAプロモーターを用いて本発明で得られたFab'の力価は驚くほど高く、この強力なプロモーターを低コピー数の(pBR322ベースの)ベクターに使用した結果である。それゆえ、このリプレッサーは一層有効でないレベルでは滴定されない。細胞はまた、余分のリプレッサーを作製するために形質転換することができた。重要なことは、プロモーターが誘導前に不活性であることである。ベクターの設計およびFabフラグメントの高い熱安定性(Tm>80℃)も重要であることもあり得る。この系は、大量の抗体フラグメントを必要とする臨床的または生物物理学的研究を極めて容易にするに違いない。
【0110】
抗原結合ループ中またはフレームワーク残基の近傍に1または2以上のアミノ酸変化を有するhuMAb4D5−8 Fabの別の変種についても同様の高い発現レベルが観察された(6)。抗原結合残基をうまく置換することにより2つの別の抗原結合特異性をhuMAb4D5−8 Fab'中に補充し、高発現力価を示すことがわかった。このことは、実質的にhuMAb4D5−8 Fab'からなるポリペプチドのフレームワークが高度に発現されたヒト化Fab' 分子に一般に有用であるという概念と一致する。
【0111】
huMAb4D5−8 Fab' Cys Ala Alaは、可変領域内のドメイン内ジスルフィドのみかけ上定量的な生成にもかからわず、インビボでF(ab')を生成する傾向は非常に小さい。しかしながら、インビトロでは、pH7.5、EDTAの不在下、インビボで認められるよりも少なくとも10倍低い濃度にてFab'−SHの空気酸化によりF(ab')が容易に生成する。
【0112】
特別の機構に付することなく、大腸菌のペリプラズム腔の酸化還元電位は充分に酸化的であり、ドメイン内ジスルフィド結合の生成を可能とするがH鎖間のジスルフィド(おそらく熱力学的に有利でない)は生成させないと思われる。にもかかわらず、不対ヒンジシステインを主として遊離のチオールとして有する大腸菌のペリプラズム腔中に分泌された機能性Fab'フラグメントの回収により、部位指定カップリングのための必須の出発物質が得られる(23、32、33)。本発明者らは、さらに、p185HER2ECDを溶液からアフィニティー精製することを可能とするため、すでに記載されたように(34)、活性化チオール支持体上へのhuMAb4D5−8 Fab'フラグメントの固定化のために遊離チオールを利用した。遊離ヒンジチオールはまた、蛍光−活性化細胞選別のための蛍光プローブの付着のために使用した。造影または治療のため放射性核種の部位特異的付着のために遊離システインチオールを使用することもこの発明の範囲に包含される。このことは、抗原結合親和性を損なう危険もなく、所定の化学量論および付着部位の通常の標識法に対して利点を提供するであろう。
【0113】
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20.tonA遺伝子を不活化することにより株RV308(参照22、ATCC#31608)から得た大腸菌株25F2中でhuMAb4D5−8 Fab'フラグメントを発現した。最初に12g l−1消化カゼイン、17mMグルコース、2.4mMイソロイシン塩酸塩、47mM (NHSO、10mM NaHPO、18mM KHPO、4.1mMクエン酸三ナトリウム、12mM MgSO、125μM FeClおよび各20μMのZnSO、MnSO、CuSO、CoCl、HBOおよびNaMoOプラス12mg l−1テトラサイクリンを含有する培地中、低い撹拌速度(650rpm、Kla〜600ミリモル l−1hr−1atm−1)にて、37℃で曝気10リットル発酵槽中、32〜40時間細胞を増殖させ、pHを7.0に維持するためにアンモニアを自動的に供給し、80〜100OD550の細胞密度に依存してわずかな過剰を維持または嫌気生活を回避するためにグルコースも供給した。回収時の細胞密度は、通常、120〜150OD550である。
【0116】
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【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】大腸菌からhuMAb4D5−8κL鎖およびH鎖Fd'フラグメントを共分泌するのに使用するプラスミドpA19を示す。
【図2】huMAb4D5−8のFab、Fab'およびF(ab')(Cys Ala Ala変種)フラグメントの精製を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンH鎖の可変領域および免疫グロブリンL鎖の可変領域を含有し、該L鎖の可変領域が不対遊離チオールを含有するL鎖定常領域を欠くが、該H鎖の可変領域は、H鎖可変領域に対してC末端側に位置する少なくとも一つのシステイン残基を遊離チオールとして含んでなる、Fvポリペプチドの調製方法であって、該Fvポリペプチドを組み換え大腸菌細胞培養菌のペリプラズム中に発現および分泌し、ついで、システイン残基を遊離チオールとして実質的に維持する条件下で該ポリペプチドを回収することからなる方法。
【請求項2】
ポリペプチドを回収する間に、前記Fvポリペプチドが還元条件に曝されていない、請求項1の方法。
【請求項3】
前記Fvポリペプチドが、一つのヒンジ領域のシステインを有する、請求項1の方法。
【請求項4】
金属イオンキレート剤が大腸菌培養の間に存在する、請求項1の方法。
【請求項5】
金属イオンキレート剤が前記Fvポリペプチドの回収の間に存在している、請求項1の方法。
【請求項6】
プロテアーゼインヒビターが前記Fvポリペプチドの回収の間に存在している、請求項1の方法。
【請求項7】
プロテアーゼインヒビターが大腸菌培養の間に存在している、請求項6の方法。
【請求項8】
前記Fvポリペプチドが大腸菌培養を凍結解凍し、リゾチームの存在下での浸透圧衝撃に曝すことによって回収される、請求項1の方法。
【請求項9】
アミノ酸配列Cys XXがFvポリペプチドのC末端に位置している、請求項1の方法。
【請求項10】
アミノ酸配列がCys Ala Alaである、請求項9の方法。
【請求項11】
回収したFvポリペプチドが異種分子と結合している、請求項1の方法。
【請求項12】
異種分子が蛍光プローブ、放射性核種、検出可能な標識、毒素又は非ペプチド性剤である、請求項11の方法。
【請求項13】
請求項1の方法によって調製したFvポリペプチド。
【請求項14】
請求項1又は11の方法によって調製した異種分子と結合したFvポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−1943(P2006−1943A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253013(P2005−253013)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【分割の表示】特願平5−506295の分割
【原出願日】平成4年9月18日(1992.9.18)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】