説明

尿路病状の処置のための筋由来細胞ならびにその作製および使用の方法

本発明は、体組織への移植後に長期生存を示しかつ軟組織の部位への導入(例えば、注射、移植もしくは埋め込みを介して)後に軟組織を増大させ得る筋肉由来前駆細胞を提供する。筋肉由来前駆細胞を単離刷るための方法、および該細胞を遺伝子移入治療のために遺伝的に改変するための方法もまた、提供する。本発明は、種々の機能状態(形成異常、傷害、虚弱、疾患、もしくは機能不全が挙げられる)の処置において、筋肉由来前駆細胞を含む組成物を用いて、哺乳動物(ヒトを含む)軟組織を増大させかつ容積を増すための方法をさらに提供する。特に、本発明は、尿失禁および他の尿路病状の処置および改善を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
本願は、2007年1月11日に出願された米国仮特許出願第60/884,478号からの優先権を主張する。米国仮特許出願第60/884,478号は、その全体が本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、筋肉由来前駆細胞(MDC)およびMDCの組成物、ならびに身体組織(特に、尿道の筋肉および尿道周囲の筋肉のような軟組織)の増大におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、軟組織への導入後に長期生存を示す筋肉由来前駆細胞、MDCを単離するための方法、およびヒトもしくは動物の軟組織(上皮組織、脂肪組織、神経組織、器官、筋組織、靱帯、および軟骨組織が挙げられる)の増大のためにMDC含有組成物を使用するための方法に関する。本発明はまた、機能状態(例えば、ストレス性尿失禁もしくは尿失禁)の処置のための筋肉由来前駆細胞の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ストレス性尿失禁(SUI)は、よくある状態であり、動作、作業、嚔もしくは咳の際に尿が不随意に漏れることとして特徴付けられる(非特許文献1)。SUIの原因は、機能不全的な、関係する損傷ならびに/もしくは加齢、ホルモン状態、および経膣分娩から生じる骨盤底部損傷の結果として生じ得る筋肉と関連神経の機能障害である。多くの要素からなる原因に起因して、ある様式に限定される単一の処置選択肢は、現在では存在しない。
【0004】
最小限に侵襲性の処置選択肢としての尿道周囲の注射可能物質の使用は、局所麻酔下で外来患者を基本に行われ得る。この処置方法は、侵襲性外科手術的アプローチ(例えば、尿道吊り上げ術)と比較した場合、近い期間でよりコスト効率的であり、入院期間がより短く、手術室使用時間が短くなり、そして一般に、合併症が少ない(非特許文献2)。しかし、分解、再吸収、および/もしくは移動、ならびに他の障害(例えば、膀胱出口閉塞およびアレルギー反応)が原因の、長期間の容積を増す効果の喪失に起因して、複数回注射の必要性のような欠点を有する。従って、長期間持続する、広い範囲の宿主組織と適合性であり、かつ最小限の炎症、瘢痕、および/もしくはインプラント部位を取り囲む組織の硬直をもたらす、他の異なる泌尿器の増強物質が必要である。
【0005】
ラットから単離された筋由来細胞は、尿失禁のためのいくつかの成功したモデルを示した(非特許文献3および非特許文献4)。本発明は、SUI、および他の尿路病状のための注射可能な処置として、ヒト骨格筋由来細胞(MDC)の使用を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Abrams Pら,Neurourol Urodyn 2002;21(2):167−178
【非特許文献2】Berman CJら,J Urol 1997;157(1):122−124
【非特許文献3】Cannon TWら,Urology 2003;62(5):958−963
【非特許文献4】Lee JYら. Int Urogynecol J Pelvic Floor Dysfunct 2003;14(1):31−37;discussion 37
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明の目的は、移植後に長期生存を示す、新規なヒト筋肉由来前駆細胞(MDC)およびヒトMDC組成物を提供することである。本発明のMDCおよび上記MDCを含む組成物は、早期前駆筋細胞(すなわち、前駆細胞マーカー(例えば、デスミン、M−カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34およびBcl−2)を発現する筋由来幹細胞)を含む。さらに、これら初期前駆筋細胞は、Flk−1、Sca−1、MNFおよびc−met細胞マーカーを発現するが、CD45細胞マーカーもc−Kit細胞マーカーも発現しない。
【0008】
本発明の別の目的は、出発筋細胞集団からヒト筋肉由来前駆細胞を単離しかつ富化するための方法を提供することである。これら方法は、軟組織の部位への移植もしくは導入の後に長期間の生存性を有するヒトMDCの富化を生じる。本発明に従うMDC集団は、前駆細胞マーカー(例えば、デスミン、M−カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34、およびBcl−2)を発現する細胞が特に富化されている。このMDC集団はまた、Flk−1、Sca−1、MNF、およびc−met細胞マーカーを発現するが、CD45もc−Kit細胞マーカーも発現しない。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、移植のためのポリマーキャリアの必要性も特別な培養培地の必要性もなしに、MDCを使用するための方法、ならびに筋肉軟組織もしくは非筋肉軟組織(平滑筋を含む)、および種々の器官組織の増大のための、MDCを含む組成物を提供することである。このような方法としては、軟組織への導入によって、例えば、組織への直接注射によって、もしくは組成物の全身分布によって、MDC組成物の投与を包含する。好ましくは、軟組織としては、非骨性身体組織が挙げられる。より好ましくは、軟組織としては、非横紋筋および非骨性身体組織が挙げられる。最も好ましくは、軟組織としては、非筋肉身体組織、非骨性身体組織が挙げられる。本明細書で使用される場合、増大とは、身体組織の大きさもしくは重量を満たすか、容積を高めるか、支持するか、大きくするか、拡げるか、または増加させることをいう。
【0010】
本発明の別の目的は、皮膚においてまたは内部軟組織もしくは器官において、裂溝、開口部、くぼみ(depression)、創傷などを生じる傷害、創傷、外科手術、外傷、非外傷、もしくは他の手順の後に、軟組織(筋由来軟組織もしくは非筋由来軟組織のいずれか)を増大させるための方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、尿路疾患および関連症状のためのヒトMDCに基づく処置を提供することである。MDCを含む薬学的組成物およびMDCを含む組成物は、尿路病状の処置のために使用され得る。これら薬学的組成物は、単離されたヒトMDCを含む。これらMDCはその後、単離後の細胞培養によって増大させられ得る。本発明の一実施形態において、これらMDCは、上記薬学的組成物が必要な被験体に送達する前に凍結される。
【0012】
一実施形態において、上記ヒトMDCおよびその組成物が尿失禁を処置するために使用される場合、これらは、上記尿道に直接注射される。好ましくは、上記ヒトMDCおよびその組成物は、尿道周囲の筋肉に注射され得る。別の実施形態において、ヒトMDCおよびその組成物は、尿路疾患の少なくとも1つの症状を改善するために使用され得る。これらの症状としては、尿失禁、尿路感染、頻尿症、疼痛性排尿、排尿時の灼熱感、疲労、振戦、混濁尿、血尿および腎疾患が挙げられる。
【0013】
ヒトMDCは、骨格筋の生検から単離される。一実施形態において、上記生検由来の骨格筋は、1〜6日間保存され得る。この実施形態の一局面において、上記生検由来の骨格筋は、4℃で保存される。次いで、上記MDCは、予備平板培養(pre−plate)もしくは単一平板培養(single plate)技術を使用して単離される。上記予備平板培養技術を使用して、骨格筋組織由来の骨格筋細胞の懸濁物は、上記骨格筋細胞懸濁物の線維芽細胞が接着する第1の容器において平板培養される。次いで、非接着性細胞は、第2の容器に再平板培養され、再平板培養する工程は、細胞の15〜20%が上記第1の容器に接着した後に行われる。この再平板培養する工程は、少なくとも1回反復されなければならない。上記MDCは、それによって単離され、そして上記哺乳動物被験体の食道に投与され得る。
【0014】
上記単一平板培養技術を使用して、上記細胞は細かく分けられ、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、別の酵素もしくは酵素の組み合わせを使用して消化される。上記細胞から酵素を洗浄した後に、上記細胞は、約30分間〜約120分間の間にわたって、培養培地中、フラスコの中で培養される。この期間の間、上記「迅速に接着する細胞」とは、上記フラスコもしくは容器の壁に貼り付く一方で、上記「ゆっくりと接着する細胞」もしくはMDCは、懸濁物の中に残っている。上記「ゆっくりと接着する細胞」は、第2のフラスコもしくは容器に移され、そしてその中で1〜3日間の期間にわたって培養される。この第2の期間の間、上記「ゆっくりと接着する細胞」もしくはMDCは、上記第2のフラスコもしくは容器の壁に貼り付く。
【0015】
本発明の別の実施形態において、これらMDCは、任意の細胞数にまで増加させられる。この実施形態の好ましい局面において、上記細胞は、約10〜20日間の間にわたって、新たな培養培地中で増加させられる。より好ましくは、上記細胞は、17日間にわたって増加させられる。
【0016】
上記MDCは、増加させられようと増加させられなかろうと、使用前に一定期間にわたって輸送もしくは保存するために、保護され得る。一実施形態において、上記MDCは凍結される。好ましくは、上記MDCは、約−20℃〜−90℃の間で凍結される。より好ましくは、上記MDCは、約−80℃で凍結される。これら凍結MDCは、薬学的組成物として使用される。
【0017】
本発明によって与えられるさらなる目的および利点は、詳細な説明および本明細書中以下の例示から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
特許もしくは特許出願のファイルは、少なくとも1つの、カラーで製作される写真複製物を含む。カラーの写真複写物を有するこの特許もしくは特許出願のコピーは、要求および必要な費用の支払いに応じて、米国特許商標庁によって提供される。
【0019】
添付された図面の図は、本発明をさらに記載するためにかつその種々の局面の明確化を介してその理解を補助するために提示される。
【図1】図1は、ヒトMDCで処置したラットにおいて、コントロールより高い漏出時圧を示す棒グラフである。
【図2A】図2Aは、コントロールラットにおける近位尿道括約筋の光学顕微鏡写真である。
【図2B】図2Bは、ヒトMDCで処置したラットにおける近位尿道括約筋の光学顕微鏡写真である。
【図3】図3は、ヒト特異的核抗体(lamins A/C)での免疫蛍光標識を示し、ヒトMDC注射組織(100×)における横紋括約筋層内に組み込まれるヒト核の存在を明らかにする。矢印は、個々の核を指す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ヒトMDCおよびこのような細胞を使用して、損傷した組織を再構築することによって、接合および内在する括約筋機能を改善する可能性を有する、容積を増す特性を有する組織を生成するための方法を提供する。本発明は、尿路障害(失禁およびストレス性尿失禁が挙げられる)を処置するための方法をさらに提供する。ヒト筋由来細胞(MDC)の成体組織からの単離は、確立された尿道括約筋傷害モデル内で機能的成功を達成することができる。
【0021】
(筋由来細胞および組成物)
本発明は、身体組織(好ましくは、軟組織)への移植の後に長期間の生存率を示す初期前駆細胞(本明細書において、筋肉由来前駆細胞もしくは筋由来幹細胞ともいわれる)から構成されるMDCを提供する。本発明のMDCを得るために、筋外植片(好ましくは、骨格筋)は、動物ドナーから(好ましくは、哺乳動物(ラット、イヌおよびヒトが挙げられる))から得られる。この外植片は、筋前駆細胞の「残り」を含む構造的かつ機能的合胞細胞として働く(T.A.Partridgeら,1978,Nature 73:306−8;B.H.Liptonら,1979,Science 205:12924)。
【0022】
初代筋組織から単離された細胞は、線維芽細胞、筋原細胞、脂肪細胞、造血性前駆細胞、および筋肉由来前駆細胞の混合物を含む。筋由来集団の前駆細胞は、Chancellorらの米国特許第6,866,842号に記載されるような、コラーゲンコーティング組織フラスコ上で、初代筋細胞の示差的接着特性を使用して、富化され得る。接着するのが遅い細胞は、形態的に丸く、高レベルのデスミンを発現し、そして多核性筋管へと融合しかつ分化する能力を有する傾向がある(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。これら細胞の亜集団は、3’,5’−cAMP、ならびに骨形成系統および筋形成系統に依存して、アルカリホスファターゼ、上皮小体ホルモンの増大したレベルをインビトロで発現することによって、組換えヒト骨形態タンパク質2(rhBMP−2)に応答することが示された(Chancellorらの米国特許第6,866,842号;T.Katagiriら,1994,J.Cell Biol.,127:1755−1766)。本発明の一実施形態において、予備平板培養手順は、迅速に接着する細胞をゆっくりと接着する細胞(MDC)から区別するために使用され得る。本発明によれば、迅速に接着する細胞(PP1−4)およびゆっくりと接着する丸いMDC(PP6)の集団は、骨格筋外植片から単離および富化し、ゆっくりと接着する細胞の中で多能性細胞の存在を決定するために免疫組織化学を使用して、種々のマーカーの発現について試験した(実施例1;Chancellorらの米国特許出願第09/302,896号)。上記PP6細胞は、筋形成マーカー(デスミン、MyoD、およびミオゲニンが挙げられる)を発現した。上記PP6細胞はまた、c−metおよびMNFを発現した。この2つの遺伝子は、筋発生の初期段階において発現される(J.B.Millerら,1999,Curr.Top.Dev.Biol.43:191−219)。上記PP6は、M−カドヘリン(サテライト細胞特異的マーカー)を発現する細胞のより低いパーセンテージを示した(A.Irintchevら,1994,Development Dynamics 199:326−337)が、Bcl−2(筋発生の初期段階における細胞に限定されるマーカー)を発現する細胞のより高いパーセンテージを示した(J.A.Dominovら,1998,J.Cell Biol.142:537−544)。上記PP6細胞はまた、CD34(ヒト造血性前駆細胞、および骨髄における間質細胞前駆体で同定されるマーカー)を発現した(R.G.Andrewsら,1986,Blood 67:842−845;C.I.Civinら,1984,J.Immunol.133:157−165;L.Finaら,1990,Blood 75:2417−2426;P.J.Simmonsら,1991,Blood 78:2848−2853)。上記PP6細胞はまた、Flk−1(幹細胞様特性を有する造血性細胞のマーカーとして近年同定された、ヒトKDR遺伝子のマウスホモログ)を発現した(B.L.Zieglerら,1999,Science 285:1553−1558)。同様に、上記PP6細胞は、Sca−1(幹細胞様特性を有する造血性細胞に存在するマーカー)を発現した(M.van de Rijnら,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4634−8;M.Osawaら,1996,J.Immunol.156:3207−14)。しかし、上記PP6細胞は、CD45もc−Kit造血性幹細胞マーカーも発現しなかった(L K.Ashman,1999,Int.J.Biochem.Cell.Biol.31:1037−51;G.A.Koretzky,1993,FASEB J.7:420−426において総説されている)。
【0023】
本発明の一実施形態は、本明細書で記載される特性を有する筋肉由来前駆細胞のPP6集団である。これら筋肉由来前駆細胞は、デスミン、CD34、およびBcl−2細胞マーカーを発現する。本発明によれば、上記PP6細胞は、移植後に長期間の生存性を有する筋肉由来前駆細胞の集団を得るために、本明細書に記載される技術によって単離される(実施例1)。上記PP6筋肉由来前駆細胞集団は、前駆細胞マーカー(例えば、デスミン、CD34、およびBcl−2)を発現する細胞の顕著なパーセンテージを含む。さらに、PP6細胞は、Flk−1およびSca−1細胞マーカーを発現するが、CD45もc−Kitマーカーも発現しない。好ましくは、95%を超える上記PP6細胞が、デスミン、Sca−1、およびFlk−1マーカーを発現するが、CD45もc−Kitマーカーも発現しない。上記PP6細胞が、最後に平板培養した後、約1日または約24時間以内に利用されることが好ましい。
【0024】
好ましい実施形態において、上記迅速に接着する細胞およびゆっくりと接着する細胞(MDC)は、単一平板培養技術を使用して、互いに分離される。1つのこのような技術は、実施例2に記載される。最初に、細胞は、骨格筋生検から提供される。必要とされる生検は、約100mgの細胞を含むのみである。約50mg〜約500mgの大きさの範囲に及ぶ生検は、本発明の予備平板培養法および単一平板培養法の両方に従って使用され得る。50mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、200mg、250mg、300mg、400mgおよび500mgのさらなる生検は、本発明の予備平板培養法および単一平板培養法の両方に従って使用され得る。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、上記生検由来の組織は、次いで、1〜7日間保存される。この保存は、約室温〜約4℃の温度である。この待機期間は、生検で得た骨格筋組織にストレスを受けさせる。このストレスは、この単一平板培養技術を使用するMDCの単離に必須ではないが、上記待機期間を使用することは、MDCのより大きな収量を生じると思われる。
【0026】
上記生検からの組織は、細かく挽かれて遠心分離される。そのペレットは再懸濁され、消化酵素を使用して消化される。使用され得る酵素としては、コラゲナーゼ、ディスパーゼもしくはこれら酵素の組み合わせが挙げられる。消化後、上記酵素は、細胞から洗い出される。上記細胞は、上記迅速に接着する細胞の単離のためにフラスコの培養培地中に移される。多くの培養培地が使用され得る。特に好ましい培養培地としては、Cambrex Endothelial Growth Mediumを含む内皮細胞の培地用に設計されているものが挙げられる。この培地は、他の成分(ウシ胎児血清、IGF−I、bFGF、VEGF、EGF、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、および/もしくはアスコルビン酸が挙げられる)が補充され得る。上記単一平板培養技術において使用され得る他の培地としては、InCeIl M310F培地が挙げられる。この培地は、上記のように補充されてもよいし、補充されずに使用されてもよい。
【0027】
上記迅速に接着する細胞を単離するための工程は、約30〜約120分間の期間にわたって、フラスコ中での培養を要し得る。上記迅速に接着する細胞は、30分間、40分間、50分間、60分間、70分間、80分間、90分間、100分間、110分間もしくは120分間でフラスコに接着する。それらが接着した後、上記ゆっくりと接着する細胞は、上記迅速に接着する細胞が付着しているフラスコから上記培養培地を取り出すことによって、上記迅速に接着する細胞から分離される。
【0028】
このフラスコから取り出された培養培地は、第2のフラスコに移される。上記細胞は、遠心分離され得、上記第2のフラスコに移される前の培養培地中に再懸濁され得る。上記細胞は、1〜3日間の間にわたって、この第2のフラスコ中で培養される。好ましくは、上記細胞は、2日間にわたって培養される。この期間の間に、上記ゆっくりと接着する細胞(MDC)は、上記フラスコに接着する。上記MDCが接着した後に、上記培養培地は除去され、上記MDCの数が増加させられ得るように、新たな培養培地が添加される。上記MDCは、それらを約10〜約20日間にわたって培養することによって、数が増加させられ得る。上記MDCは、それらを10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間もしくは20日間にわたって培養することによって、数が増大させられ得る。好ましくは、上記MDCは、17日間にわたって拡大培養に供される。
【0029】
予備平板培養法および単一平板培養法の代替として、本発明のMDCは、上記MDCによって発現される上記細胞表面マーカーのうちの1つ以上に対する標識抗体を使用して、蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析によって単離され得る(C.Websterら,1988,Exp.Cell.Res.174:252−65;J.R.Blantonら,1999,Muscle Nerve 22:43−50)。例えば、FACS分析は、上記宿主組織に導入される場合に長期間の生存性を示すPP6様細胞の集団を選択するために、CD34、Flk−1、Sca−1、および/もしくは本明細書に記載される他の細胞表面マーカーに対する標識抗体を使用して行われ得る。異なる細胞マーカータンパク質の抗体検出のために1種以上の蛍光検出標識(例えば、フルオレセインもしくはローダミン)を使用することもまた、本発明によって包含される。
【0030】
上記に記載されるMDC単離法のいずれかを使用して、移される予定であるか、または一定期間にわたって使用する予定がないMDCは、当該分野で公知の方法を使用して、保護され得る。より具体的には、上記単離されたMDCは、約−25〜約−90℃の範囲に及ぶ温度へと凍結され得る。好ましくは、上記MDCは、後の使用もしくは輸送のために、ドライアイス上で約−80℃において凍結される。上記凍結は、当該分野で公知の任意の低温保存媒体で行われ得る。
【0031】
(筋由来細胞ベースの処置)
本発明の一実施形態において、上記MDCは、骨格筋源から単離され、目的の筋性軟組織部位もしくは非筋性軟組織部位へ、または骨構造へ導入もしくは移植される。有利なことには、本発明のMDCは単離され、そして移植後に長期生存を示す多数の前駆細胞を含むように富化される。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞は、多くの特徴的な細胞マーカー(例えば、デスミン、CD34、およびBcl−2)を発現する。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞は、Sca−1、およびFlk−1細胞マーカーを発現するが、CD45もc−Kit細胞マーカーも発現しない。
【0032】
本発明のMDCおよびMDCを含む組成物は、筋性軟組織もしくは非筋性軟組織の増大を介して、種々の審美的状態もしくは機能状態(例えば、欠損)を修復、処置もしくは改善するために使用され得る。特に、このような組成物は、尿失禁、および平滑筋虚弱、疾患、傷害、もしくは機能不全の他の場合の処置のための軟組織容積増強剤(soft−tissue bulking agent)として使用され得る。さらに、このようなMDCおよびその組成物は、疾患もしくは外傷の存在下で、例えば、「平滑化する」ために、軟組織領域、開口部、くぼみ、もしくは空隙(void)へ塊(bulk)を追加することによって、傷害と関連しない軟組織を増大させるために使用され得る。MDCの複数回の連続投与はまた、本発明によって包含される。
【0033】
MDCベースの処置のために、骨格筋外植片は、好ましくは、自己もしくは異種のヒトもしくは動物の供給源から得られる。自己の動物もしくはヒトの供給源がより好ましい。次いで、MDC組成物が調製され、本明細書に記載されるように単離される。本発明に従うMDCおよび/もしくは上記MDCを含む組成物をヒトもしくは動物のレシピエントに導入もしくは移植するために、単核の筋細胞の懸濁物が調製される。このような懸濁物は、生理学的に受容可能なキャリア、賦形剤、もしくは希釈剤中の本発明の筋肉由来前駆細胞の濃縮物を含む。例えば、被験体に投与するためのMDCの懸濁物は、上記被験体の血清、代替としてはウシ胎児血清を含むように改変された完全培地の滅菌溶液中に、10〜10細胞/mlを含み得る。あるいは、MDC懸濁物は、無血清滅菌溶液(例えば、低温保存溶液(Celox Laboratories,St.Paul,Minn.))中に存在し得る。次いで、上記MDC懸濁物は、例えば、注射を介して、ドナー組織の1つ以上の部位に導入され得る。
【0034】
記載される細胞は、生理学的に受容可能なキャリア、賦形剤、もしくは希釈剤を含む薬学的にもしくは生理学的に受容可能な調製物もしくは組成物として投与され得、そして目的のレシピエント生物(ヒトおよび非ヒト動物を含む)の組織に投与され得る。上記MDC含有組成物は、適切な液体もしくは溶液(例えば、滅菌生理食塩水もしくは他の生理学的に受容可能な注射可能水性液体)中で上記細胞を懸濁することによって、調製され得る。このような組成物中で使用されるべき成分の量は、当業者によって慣用的に決定され得る。
【0035】
上記MDCもしくはその組成物は、上記MDC懸濁物を、吸収性物質もしくは接着性物質(すなわち、コラーゲンスポンジマトリクス)上に配置し、そして上記MDC含有物質を目的の部位の中もしくはその上に挿入することによって、投与され得る。あるいは、上記MDCは、非経口注射経路(皮下、静脈内、筋肉内および胸骨内が挙げられる)によって投与され得る。他の投与経路としては、鼻内、クモ膜下、皮内、経皮的、経腸的、および舌下が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一実施形態において、上記MDCの投与は、内視鏡手術によって仲介され得る。
【0036】
注射による投与のために、上記組成物は、滅菌溶液もしくは滅菌懸濁物で存在するか、または薬学的にかつ生理学的に受容可能な水性もしくは油性のビヒクル中に再懸濁され得、これは、保存剤、安定化剤、および上記溶液もしくは懸濁物を上記レシピエントの体液(すなわち、血液)と等張性にするための物質を含み得る。使用するのに適した賦形剤の非限定的例としては、水、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)、0.15M 塩化ナトリウム水溶液、デキストロース、グリセロール、希エタノールなど、およびこれらの混合物が挙げられる。例示的な安定化剤は、ポリエチレングリコール、タンパク質、サッカリド、アミノ酸、無機酸、および有機酸であり、これらは、単独でもしくは混合物としてのいずれかで使用し得る。使用される投与量(amount or quantity)、および投与経路は、個体ベースで決定され、当業者に公知の適用もしくは適応症の類似のタイプにおいて使用される量に対応する。
【0037】
移植供給源を最適化するために、ドナートとレシピエントとの間の最も近い考えられる免疫学的適合が望ましい。自己供給源が利用可能でない場合、ドナーおよびレシピエントのクラスIおよびクラスIIの組織適合性抗原が、利用可能な最も近い適合性を決定するために分析され得る。このことによって、免疫拒絶を最小化もしくは排除し、そして免疫抑制治療もしくは免疫調節治療の必要性を減少させる。要求される場合、免疫抑制治療もしくは免疫調節治療は、上記移植手順の前、その間、および/もしくはその後に開始され得る。例えば、シクロスポリンAもしくは他の免疫抑制薬物は、上記移植レシピエントに投与され得る。免疫学的耐性はまた、当該分野で公知の代替法によって移植の前に誘導され得る(D.J.Wattら,1984,Clin.Exp.Immunol.55:419;D.Faustmanら,1991,Science 252:1701)。
【0038】
本発明と一致して、上記MDCは、身体組織(上皮組織(すなわち、皮膚、管腔など)、筋組織(すなわち、平滑筋)、および種々の器官組織(例えば、泌尿器系(すなわち、膀胱、尿道、尿管、腎臓など)と関連する器官)が挙げられる)に投与され得る。
【0039】
MDC懸濁物中の細胞数および投与様式は、処置される部位および状態に依存して変動し得る。非限定的例として、本発明によれば、約3〜5×10個のMDCが、尿失禁の処置のために注射される(実施例3を参照のこと)。本明細書に開示される実施例と一致して、当業者は、各症例について決定される要件、制限、および/もしくは最適化に従って、MDCベースの処置の量および方法を調節し得る。
【0040】
管腔の状態:別の実施形態において、本発明に従うMDCおよびその組成物は、動物もしくは哺乳動物被験体(ヒトを含む)における管腔の状態のための処置としてさらに利用性を有する。具体的には、上記筋肉由来前駆細胞は、身体内の種々の生物学的管腔もしくは空隙を、完全にもしくは部分的にブロックするか、増強するか、拡大するか、シールするか、修復するか、体積を増大させるか、または満たすために使用され得る。管腔としては、尿道が挙げられるが、これに限定されない。空隙としては、種々の組織創傷(すなわち、外傷に起因する、筋肉および軟組織体積の喪失;投射物の貫通に起因する軟組織の破壊(例えば、刺傷もしくは弾丸創);乳癌のための乳房切除術後の乳房組織の喪失もしくは肉腫などを処置するための手術後の筋組織の喪失を含む、組織の外科手術的除去に起因する、疾患もしくは組織死から生じる軟組織の喪失)、病変、裂溝、憩室、嚢胞、フィステル、動脈瘤、および動物もしくは哺乳動物(ヒトを含む)の身体内に存在し得る他の望ましくないもしくは所望されないくぼみもしくは開口部が挙げられ得るが、これらに限定されない。管腔の状態の処置のために、上記MDCは、本明細書に開示されるように調製され、次いで、上記空隙を満たすかもしくは修復するために、管腔組織に例えば、注射もしくは静脈内送達を介して投与される。導入されるMDCの数は、要求されるように、軟組織環境における大きなもしくは小さな空隙を修復するために調節される。
【0041】
括約筋の状態:本発明に従うMDCおよびその組成物はまた、動物もしくは哺乳動物(ヒトを含む)における括約筋傷害、虚弱、疾患もしくは機能障害の処置のために使用され得る。特に、上記MDCは、泌尿器の括約筋の組織を増大させるために使用される。より具体的には、本発明は、尿失禁のための軟組織増大処置を提供する。括約筋欠損の処置のために、上記MDCは、本明細書に記載されるように調製され、次いで、例えば、注射を介して括約筋組織に投与されて、さらなる容積、充填物もしくは支持を提供する。導入されるMDCの数は、必要とされる場合、容積を増加させる物質の種々の量を提供するために調節される。例えば、約3〜5×10個のMDCは、尿失禁の処置のために注射される(実施例3を参照のこと)。
【0042】
さらに、上記MDCおよびその組成物は、平滑筋組織(例えば、泌尿器組織もしくは膀胱組織)における収縮性に影響を及ぼすために使用され得る。従って、本発明はまた、筋収縮を修復することにおいておよび/または平滑筋収縮性問題を改善もしくは克服することにおいて、本発明のMDCの使用を包含する。
【0043】
(遺伝子操作された筋由来細胞)
本発明の別の局面において、本発明のMDCは、1種以上の活性生体分子をコードする核酸配列を含むように、およびこれら生体分子(タンパク質、ポリペプチド。ペプチド、ホルモン、代謝産物、薬物、酵素などが挙げられる)を発現するように、遺伝子操作され得る。このようなMDCは、レシピエント(ヒトを含む)に対して組織適合性(自己)であってもよいし、非組織適合性(同種異系)であってもよい。これら細胞は、種々の処置(例えば、尿失禁)のための長期間の局所送達系として働き得る。
【0044】
上記レシピエントに対して外来のものであると認識されない自己筋肉由来前駆細胞が、本発明において好ましい。この点に関して、細胞媒介性遺伝子移入もしくは遺伝子送達のために使用されるMDCは、望ましくは、主要組織適合遺伝子座(ヒトにおけるMHCもしくはHLA)を一緒にマッチさせる。このようなMHCもしくはHLAマッチした細胞は、自己のものであり得る。あるいは、上記細胞は、同じもしくは類似のMHCもしくはHLA抗原プロフィールを有するヒト由来であり得る。上記患者はまた、同種異系MHC抗原に対して耐性であり得る。本発明はまた、MHCクラスIおよび/もしくはクラスII抗原を欠いている細胞の使用を包含する(例えば、米国特許第5,538,722号に記載される)。
【0045】
上記MDCは、種々の分子技術および当業者に公知の方法(例えば、トランスフェクション、感染、もしくは形質導入)によって、遺伝子操作され得る。形質導入は、本明細書において使用される場合、一般に、ウイルスベクターもしくは非ウイルスベクターを細胞に導入することを介して外来遺伝子もしくは異種遺伝子を含むように、遺伝子操作された細胞に言及する。トランスフェクションとは、より一般に、プラスミド、もしくは非ウイルスベクターに保有された外来遺伝子を含むように遺伝子操作された細胞に言及する。MDCは、異なるベクターによってトランスフェクトもしくは形質導入され得るので、その発現される産物を筋肉に移入するための遺伝子送達ビヒクルとして働き得る。
【0046】
ウイルスベクターが好ましいが、当業者は、望ましいタンパク質もしくはポリペプチド、サイトカインなどをコードする核酸配列を含むための細胞の遺伝子操作は、例えば、米国特許第5,538,722号に記載されるように、当該分野で公知の方法(融合、トランスフェクション、リポソームの使用によって媒介されるリポフェクチン、エレクトロポレーション、DEAE−デキストランもしくはリン酸カルシウムとの沈降、核酸コーティング粒子(例えば、金粒子)を用いた微粒子銃(particle bombardment)(微粒子銃(biolistics))、マイクロインジェクションなどが挙げられる)によって行われ得ることが認識される。
【0047】
異種(すなわち、外来の)核酸(DNAもしくはRNA)を生体活性生成物の発現のために筋細胞に導入するためのベクターは、当該分野で周知である。このようなベクターは、プロモーター配列、好ましくは、細胞特異的でありかつ発現されるべき配列の上流に配置されるプロモーターを有する。上記ベクターはまた、必要に応じて、上記ベクターに含まれる核酸配列の成功したトランスフェクションおよび発現の指標として発現させるために、1種以上の発現可能なマーカー遺伝子を含み得る。
【0048】
本発明の筋由来細胞のトランスフェクションもしくは感染のためのビヒクルもしくはベクター構築物の例示的な例は、複製欠損ウイルスベクター、DNAウイルスもしくはRNAウイルス(レトロウイルス)ベクター(例えば、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、およびアデノ随伴ウイルスベクター)が挙げられる。アデノ随伴ウイルスベクターは、一本鎖であり、細胞核への核酸の複数コピーの効率的送達を可能にする。アデノウイルスベクターが好ましい。上記ベクターは、通常は、いかなる原核生物DNAをも実質的に含まず、多くの異なる機能的核酸配列を含み得る。このような機能的配列の例としては、ポリヌクレオチド(例えば、DNAもしくはRNA)、転写調節配列、ならびに翻訳開始調節配列および翻訳終結調節配列を含む配列(筋細胞において活性なプロモーター(例えば、強力なプロモーター、誘導性プロモーターなど)およびエンハンサーが挙げられる)が挙げられる。
【0049】
目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ポリヌクレオチド配列)もまた、機能的配列の一部として含まれる;隣接配列はまた、部位特異的組み込みのために含まれ得る。いくつかの場合において、その5’隣接配列は、相同組換えを可能にするので、誘導性もしくは非誘導性の転写を提供して、例として転写のレベルを増大もしくは減少させるように、転写開始領域の性質を変化させる。
【0050】
一般に、上記筋肉由来前駆細胞によって発現されることが望まれる核酸配列は、上記筋肉由来前駆細胞に対して異種であり、かつ例えば、望ましいタンパク質もしくはポリペプチド生成物をコードする構造遺伝子、または上記遺伝子の機能的フラグメント、セグメントもしくは一部のものである。上記コードされかつ発現される生成物は、細胞内に存在し得る、すなわち、細胞の細胞質、核、もしくはオルガネラに保持され得るか、または上記細胞によって分泌され得る。分泌に関して、上記構造遺伝子に存在する天然のシグナル配列が保持されていてもよいし、または上記構造遺伝子に天然には存在しないシグナル配列が使用されてもよい。上記ポリペプチドもしくはペプチドが、より大きいタンパク質のフラグメントである場合、シグナル配列は、分泌およびプロセシング部位でプロセシングされる際に、その望ましいタンパク質が天然の配列を有するように提供され得る。本発明に従って使用するための目的の遺伝子の例としては、細胞増殖因子、細胞分化因子、細胞シグナル伝達因子およびプログラムされた細胞死因子をコードする遺伝子が挙げられる。具体的例としては、BMP−2(rhBMP−2)、IL−IRa、第IX因子、およびコネキシン43をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
上記のように、マーカーは、上記ベクター構築物を含む細胞を選択するために存在し得る。上記マーカーは、誘導性遺伝子であっても、非誘導性遺伝子であってもよく、一般に、それぞれ、誘導下での、または誘導なしでの陽性選択を可能にする。一般に使用されるマーカー遺伝子の例としては、ネオマイシン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、グルタミンシンセターゼなどが挙げられる。
【0052】
使用されるベクターはまた、一般に、複製起点、および当業者によって慣用的に使用されるように、宿主細胞における複製に必須である他の遺伝子を含む。例としては、上記複製起点および特定のウイルスによってコードされる複製と関連する任意のタンパク質を含む複製系は、構築物の一部として含められ得る。上記複製系は、複製に必須の生成物をコードする遺伝子が上記筋由来細胞を最終的に形質転換しないように、選択され得る。このような複製系は、例えば、G.Acsadiら,1994,Hum.Mol.Genet 3:579−584によって記載されるように複製欠損アデノウイルス構築物によって、およびエプスタイン−バーウイルスによって示される。複製欠損ベクター、特に複製欠損であるレトロウイルスベクターの例は、Priceら,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:156;およびSanesら,1986,EMBO J.,5:3133によって記載されるBAGである。最終遺伝子構築物が1種以上の目的の遺伝子(例えば、生体活性代謝分子をコードする遺伝子)を含み得ることが理解される。さらに、cDNA、合成によって生成されるDNAもしくは染色体DNAは、当業者によって公知かつ実施される方法およびプロトコルを利用して、使用され得る。
【0053】
望ましい場合、感染性の複製欠損ウイルスベクターは、上記細胞のインビボ注入の前に上記細胞を遺伝子操作するために使用され得る。この点に関して、上記ベクターは、広宿主性(amphotrophic)のパッケージングのために、レトロウイルスプロデューサー細胞に導入され得る。隣接領域への筋肉由来前駆細胞の自然の拡大は、目的の部位への多数回の注射を不要にする。
【0054】
別の局面において、本発明は、望ましい遺伝子生成物をコードする異種遺伝子を含むように操作されたアデノウイルスベクターを使用してウイルス形質導入されたMDC(例えば、初期前駆筋細胞)の使用を介して、レシピエント哺乳動物宿主(ヒトを含む)の細胞および組織へのエキソビボ遺伝子送達を提供する。このようなエキソビボアプローチは、直接遺伝子移入アプローチより優れた、効率的ウイルス遺伝子移入の利点を提供する。上記エキソビボ手順は、筋組織の単離された細胞に由来する筋肉由来前駆細胞の使用を要する。筋肉由来前駆細胞の供給源として働く筋生検は、傷害部位から、もしくは臨床外科医からより容易に得られ得る別の領域から得られ得る。
【0055】
本発明によれば、クローン単離物は、当該分野で公知の種々の手順(例えば、組織培養培地中での限界希釈培養)を使用して、筋肉由来前駆細胞(すなわち、PP6細胞もしくはゆっくりと接着する細胞)の集団から得られ得ることが認識される。クローン単離物は、単一の孤立性細胞から由来する遺伝的に同一の細胞を含む。さらに、クローン単離物は、上記のようにFACS分析を使用して、続いて、限界希釈を使用して得られ、クローン的に単離された細胞株を樹立するために、1ウェルあたり単一の細胞を達成し得る。
【0056】
上記MDCに、望ましい遺伝子生成物をコードする少なくとも1種の異種遺伝子を含む操作されたウイルスベクターを最初に感染させ、生理学的に受容可能なキャリアもしくは賦形剤(例えば、生理食塩水もしくはリン酸緩衝化生理食塩水)中に懸濁し、次いで、上記宿主における適切な部位に投与される。本発明と一致して、上記MDCは、身体組織(骨、上皮組織、結合組織、筋組織、および本明細書に記載される種々の器官組織(例えば、消化器系、心血管系、呼吸器系、生殖器系、泌尿器系、および神経系と関連する器官)が挙げられる)に投与され得る。上記望ましい遺伝子生成物は、上記注射される細胞によって発現され、従って、上記細胞は、上記宿主へ上記遺伝子産物を導入する。上記導入されかつ発現される遺伝子産物は、それによって、上記宿主において長期生存性を有する本発明のMDCによって長期間にわたって発現されることに起因して、上記傷害、機能不全、もしくは疾患を処置、修復もしくは改善するために利用され得る。
【0057】
筋原細胞媒介性遺伝子治療の動物モデル研究において、100mg筋肉あたりの10個の筋原細胞の埋め込みは、筋酵素欠損の部分的補正に必要とされた(J.E.Morganら,1988,J.Neural.Sci.86:137;T.A.Partridgeら,1989,Nature 337:176を参照のこと)。このデータから外挿すると、生理学的に適合性の培地中で懸濁される約1012個のMDCは、70kgのヒトについての遺伝子治療のために、筋組織へと埋め込まれ得る。本発明のMDCの数は、ヒト供給源から単一の100mg骨格筋生検から生成し得る(以下を参照のこと)。特定の傷害部位の処置のために、特定の組織もしくは傷害部位へ遺伝子操作されたMDCの注射は、溶液もしくは懸濁物において治療上有効量の細胞(好ましくは、生理学的に受容可能な培地において、処置されるべき組織の1cmあたり約10〜10個の細胞)を含む。
【実施例】
【0058】
(実施例1.予備平板培養法に従うMDC富化、単離および分析)
MDCの富化および単離:MDCを、記載されるように(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)調製した。筋外植片を、多くの供給源、すなわち、3週齢mdx(ジストロフィー性)マウス(C57BL/10ScSn mdx/mdx,Jackson Laboratories)、4〜6週齢正常雌性SD(Sprague Dawley)ラット、もしくはSCID(重症複合免疫不全症)マウスからの後肢から得た。上記動物供給源の各々からの筋組織を、任意の骨を除去するために切開し、細かく切り刻んで、スラリーにした。次いで、上記スラリーを、37℃において、0.2% タイプXIコラゲナーゼ、ディスパーゼ(II等級,240単位)、および0.1% トリプシンと1時間連続インキュベーションによって消化した。得られた細胞懸濁物を、18ゲージ、20ゲージ、および22ゲージの針を通過させ、3000rpmで5分間にわたって遠心分離した。その後、細胞を、増殖培地(10% ウシ胎児血清、10% ウマ血清、0.5% ニワトリ胚抽出物、および2% ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM)中に再懸濁した。次いで、細胞を、コラーゲンコーティングフラスコ(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)に再平板培養した。約1時間後、その上清を、上記フラスコから取り出し、新たなコラーゲンコーティングフラスコに再平板培養した。この1時間のインキュベーション内で迅速に接着した細胞は、大部分が線維芽細胞であった(Z.Quら,前出;Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。上記上清を取り出し、上記細胞の30〜40%が各フラスコに接着した後に再平板培養した。約5〜6回の連続平板培養の後、上記培養物は、PP6細胞と称される小さく丸い細胞を富化させ、この細胞を、出発細胞集団から単離し、さらなる研究において使用した。初期平板培養において単離された接着細胞を、一緒にプールし、そしてPP1−4細胞と称した。
【0059】
上記mdx PP1−4集団、mdx PP6集団、正常PP6集団、および線維芽細胞集団を、細胞マーカーの発現について免疫組織化学分析することによって試験した。この分析の結果を、表1に示す。
【0060】
【表1】

Mdx PP1−4細胞、mdx PP6細胞、正常PP6細胞、および線維芽細胞を予備平板培養技術によって得、そして免疫組織化学分析によって試験した。「−」は、発現を示した細胞が2%未満であることを示す;「(−)」;「−/+」は、発現を示した細胞が5〜50%であることを示す;「+/−」は、発現を示した細胞が約40〜80%であることを示す;「+」は、発現を示した細胞が>95%であることを示す;「nor」は、正常細胞を示す;「na」は、免疫組織化学データが入手可能でないことを示す。
【0061】
mdxマウスおよび正常マウスの両方が、このアッセイにおいて試験した細胞マーカーの全ての同一の分布を示したことが注意される。従って、上記mdx変異の存在は、上記単離されたPP6筋細胞由来集団の細胞マーカー発現に影響を及ぼさない。
【0062】
MDCを、DMEM(10% FBS(ウシ胎児血清)、10% HS(ウマ血清)、0.5% ニワトリ胚抽出物、および1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地)を含む増殖培地、または2% ウシ胎児血清および1% 抗生物質溶液を補充したDMEMを含む融合培地中で増殖させた。全ての培地供給物を、Gibco Laboratories(Grand Island,N.Y.)を通して購入した。
【0063】
(実施例2.単一平板培養法に従うMDC富化、単離および分析)
(MDCの富化および単離)
迅速に接着するMDCおよびゆっくりと接着するMDCの集団を、哺乳動物被験体の骨格筋から単離した。上記被験体は、ヒト、ラット、イヌもしくは他の哺乳動物であり得る。生検の大きさは、42〜247mgの範囲に及んだ。
【0064】
骨格筋生検組織は、硫酸ゲンタマイシン(100ng/ml,Roche))を補充した冷たい低温培地(HYPOTHERMOSOL(登録商標)(BioLife)中に直ぐ置き、4℃で保存した。3〜7日後、生検組織を、保存から取り出し、生成を開始した。任意の結合組織もしくは非筋性組織を、上記生検サンプルから切開した。単離のために使用した残りの筋組織を、秤量する。上記組織を、ハンクス平衡化塩類溶液(HBSS)中で細かく切り刻み、コニカルチューブに移し、そして遠心分離した(2,500×g,5分間)。次いで、上記ペレットを、消化酵素溶液(Liberase Blendzyme 4(0.4〜1.0U/mL,Roche))中に再懸濁した。生検組織100mgあたり2mLの消化酵素溶液を使用し、回転プレート上で、37℃で30分間インキュベートした。次いで、上記サンプルを遠心分離した(2,500×g,5分間)。上記ペレットを、培養培地中で再懸濁し、70μm細胞ストレーナーを通過させた。この実施例に記載される手順のために使用される培養培地を、以下の成分:i.10%(v/v) ウシ胎児血清、およびii.Cambrex EGM−2 SingleQuot Kit(これは、以下を含む:インスリン増殖因子−1(IGF−I)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、およびアスコルビン酸)を補充したCambrex Endothelial Growth Medium EGM−2基礎培地であった。次いで、上記濾過した細胞溶液をT25培養フラスコに移し、5% CO中、37℃で30〜120分間インキュベートした。このフラスコに付着した細胞を、「迅速に接着する細胞」と称した。
【0065】
インキュベートした後、上記細胞培養上清をT25フラスコから取り出し、15mLコニカルチューブの中に配置した。上記T25培養フラスコを、2mLの温めた培養培地ですすぎ、前述の15mLコニカルチューブに移した。上記15mLコニカルチューブを遠心分離した(2,500×g,5分間)。上記ペレットを培養培地中に再懸濁し、新たなT25培養フラスコに移した。上記フラスコを、5% CO中、37℃で約2日間インキュベートした(このフラスコに付着する細胞を、「ゆっくりと接着する細胞」と称した)。インキュベーション後、上記細胞培養上清を吸引し、新たな培養培地を上記フラスコに添加した。次いで、上記フラスコを増大させるためにインキュベーター中に戻した。標準的な継代培養をそこで行って、上記培養フラスコにおける細胞コンフルエンシーを50%未満に維持した。トリプシン−EDTA(0.25%,Invitrogen)を使用して、継代の間に上記フラスコから接着細胞を剥離させた。上記「ゆっくりと接着する細胞」の代表的な拡大は、3千7百万個の細胞の平均生存総細胞数を達成するために、平均17日かかった(その日から出発して、生成が開始される)。
【0066】
一旦、望ましい細胞数が達成された場合、上記細胞を、トリプシン−EDTAを使用して上記フラスコから採取し、遠心分離した(2,500×g,5分間)。上記ペレットをBSS−P溶液(ヒト血清アルブミン(2% v/v,Sera Care Life)を補充したHBSS)中に再懸濁し、計数した。次いで、上記細胞溶液を再び遠心分離し(2,500×g,5分間)、ヒト血清アルブミン(2% v/v, Sera Care Life Sciences)を補充した低温保存培地(CRYOSTORTM(Biolife))で望ましい細胞濃度に再懸濁し、低温保存のために適切なバイアル中にまとめた。上記低温バイアルを、凍結容器の中に入れ、−80℃の冷凍庫の中に入れた。上記凍結細胞懸濁物を等量の生理食塩水で室温において融解することによって細胞を処理し、直接注射した(さらなる操作なしで)。上記ゆっくりと接着する細胞の集団の系統特徴を、示した:筋原性(87.4% CD56+、89.2% デスミン+)、内皮(0.0% CD31+)、造血性(0.3% CD45+)、および線維芽細胞(6.8% CD90+/CD56−)。
【0067】
(富化および単離されたMDCの特徴付けのための分析)
上記骨格筋生検組織の剥離の後に、細胞の2つの部分を、上記のように、上記培養フラスコへの迅速なもしくはゆっくりとした接着に基づいて回収した。次いで、上記細胞を、増殖培地を用いて培養で増加させ、次いで、上記に記載されるように、1.5mlのエッペンドルフチューブ中の低温保存培地中で凍結した(15μl中の3×10個の細胞)。コントロール群については、15μlの凍結保存培地単独を、上記チューブの中に入れた。これらチューブを、注射までに−80℃に保存した。注射の直前に、チューブを保存庫から取り出し、室温で融解し、そして15μlの0.9% 塩化ナトリウム溶液で再懸濁した。次いで、得られた30μlの溶液を、0.5ccの30ゲージ針付きインスリンシリンジの中に引き込んだ。外科手術および注射を行う調査者は、上記チューブの中身に対して目隠しした。
【0068】
細胞数および生存性を、GuavaフローサイトメーターおよびViacountアッセイキット(Guava)を用いて測定した。CD56を、PE結合体化抗CD56抗体(1:50,BD Pharmingen)およびPE結合体化アイソタイプコントロールモノクローナル抗体(1:50,BD Pharmingen)を用いるフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。デスミンを、モノクローナルデスミン抗体(1:100,Dako)およびアイソタイプコントロールモノクローナル抗体(1:200,BD Pharmingen)を用いて、パラホルムアルデヒド固定細胞(BD Pharmingen)に対してフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。Cy3結合体化抗マウスIgG抗体(1:250,Sigma)を用いて、蛍光標識を行った。工程の間に、上記細胞を、透過化緩衝液(BD Pharmingen)を用いて洗浄した。クレアチンキナーゼ(CK)アッセイに関しては、分化誘導培地中、12ウェルプレートに、1ウェルあたり1×10個の細胞を平板培養した。4〜6日後に、上記細胞を、トリプシン処理によって回収し、ペレットへと遠心分離した。CK LIQUI−UV(登録商標)キット(Stanbio)を用いて、上記細胞溶解上清をCK活性についてアッセイした。
【0069】
(実施例3.ラットモデルにおける、ヒトMDCを用いた尿失禁の処置)
ヒトMDCでの処置は、lつのストレス性尿失禁(SUI)の実験モデルにおいて、正常なレベルへの漏出時圧(LPP)の回復をもたらした。注射されたヒトMDCは、十分に確立されたラットモデルにおいて尿失禁を軽減した。
【0070】
これらの実験は、泌尿器科用途のためにヒト細胞治療を使用する概念および実現可能性の証明を示す。上記ヒトMDCを臨床的に得られる大きさの筋生検から回収し、SUIの免疫損傷したラットモデルにおいて最大4週間まで生理学的結果を改善した。組織学的評価によって、尿道周囲の筋肉の萎縮は偽群のみにおいて実証された。ヒトMDCは、注射の4週間後に、ヌードラットの尿道括約筋に存在した。ヒトMDCでの処置は、ヌードラットのSUIの実験モデルにおいてほぼ正常レベルにまでのLPP回復をもたらした。
【0071】
動物:以下に記載される実験を、6〜8週齢の雌性無胸腺ヌードラット(Hsd:RH−rnu,Harlan Laboratory)を用いて行った。手順上のプロトコルは、Children’s Hospital of PittsburghのAnimal Research Care Committeeによって承認された。動物実験の方針および手順は、米国のDepartment of Health and Human Servicesによって発表された「Care and Use of Laboratory Animals」のガイドにおいて詳述されたものに従っている。
【0072】
坐骨神経の神経支配除去(SUIモデル):十分に確立されたSUIモデルを、坐骨神経の両方を横断して切ることを通して作った。イソフルラン麻酔(2L/分)をラットに与え、適切な誘導の後に、両方の垂直方向の背側切開を坐骨直腸窩に対して行った。手術用顕微鏡下で、各側の坐骨神経を同定し、その神経幹の2mmを、脊柱からのその起始に対して遠位であるが、陰部神経の分枝に対して近位で摘出した。
【0073】
ヒトMDC単離:この研究において使用されるヒトMDCを、単一ドナーの腹直筋から採取したヒト骨格筋組織(約250mg)から単離し、上記単一平板培養技術に従って単離した。培養拡大を、10% ウシ胎児血清を補充した抗生物質非含有の市販培地で行った。上記MDC懸濁物のフローサイトメトリー分析を行って、CD56発現の抗体標識(BD Pharmingen)を介して筋含有量を評価した。MDCを、1×10個の生細胞/10μLの濃度で低温保存した。キャリア培地単独の別個のアリコートもまた、偽注射のために調製した。
【0074】
注射手順:イソフルラン麻酔(2L/分)下で神経支配除去した後7日で、下部正中線切開を作製して、膀胱および尿道を曝した。低温保存したMDC懸濁物もしくは偽懸濁物を等量の生理食塩水で注射直前に融解した。3/10mLインスリンシリンジを使用して、顕微鏡ガイドによって、MDC懸濁物の10μL(5×10個細胞)もしくは偽アリコートのいずれかを尿道中間部の各側壁に注射した。神経除去せず、注射していない年齢を適合させた動物をコントロールとして供した。
【0075】
インビボ膀胱内圧測定(CMG)および漏出時圧(LPP)測定:インビボ機能測定を、注射の4週間後に行った。ウレタン麻酔(1.2g/kg 皮下注射)下で、腹部正中切開を作製して、尿管を結紮した。火炎加熱先端(fire−flared tip)を備える経膀胱カテーテル(PE−90)を、膀胱充満および圧力記録のために膀胱の天井に挿入し、腹部を閉じた。三方コックを、シストメトリー(0.04mL/分の速度で通常生理食塩水の連続注入)の間に膀胱圧をモニターするために経膀胱チューブに接続した。空隙容積、膀胱容量、および最大排尿圧をモニターした。シストメトリーの後、全てのラットで、漸増する膀胱内圧に応答して自発的膀胱活動を排除するために、T9の高さで脊髄を横断して切断した。次いで、上記ラットを傾斜テーブルの上に載せ、垂直位置に配置した。大きな50mLシリンジを膀胱カテーテルに、ならびにPE−190チュービングおよび三方コックを介して圧力変換器に接続することによって、膀胱内圧を強制した。レザバを、制御された高さ調節のために測定垂直ポールに取り付けた。漏出が視覚的に同定されるまで、膀胱内圧をゼロから1〜3CmHOずつ上昇させた;この圧力を、LPPとして同定した。3回の連続読み取りを得、各動物について平均し、単一のLPPとして示した。
【0076】
組織回収および組織学:上記LPP測定の直後に、尿道−膀胱複合体全体を取り出した。液体窒素中で予め冷却しておいた2−メチルブタンを使用して、組織を急速凍結した。上記尿道の凍結切片を、一般的組織学についてヘマトキシリン/エオシン(H&E)で標識し、そしてまた、ヒト特異的抗ラミンA/C抗体(Novocastra,U.K.)で免疫蛍光標識して、注射したMDCの最終結果を追跡した。
【0077】
統計分析:データを平均±SEとして表す。群間の全体の比較を、一元配置分散分析(チューキー法多重比較テストを使用して行った。0.05未満のp値を有意として許容した。
【0078】
上記注射したMDC懸濁物は、87.7%の筋原性(CD56陽性)細胞を含んでいた;上記細胞の残りは、線維芽細胞であった。コントロール群、偽群およびMDC注射群のいかなるラットにおいても、重篤な副作用は認められなかった。しかし、会陰領域における感染に起因して、外尿道口の部分的閉塞が、偽群およびヒトMDC注射群両方において各々1匹ずつ認められた。従って、これら動物を、関数解析から除外した。
【0079】
CMGおよびLPP測定:上記コントロール群、偽群およびヒトMDC注射群間では、測定されたいかなるシストメトリーパラメーターにも差異は認められなかった(表2)。
【0080】
【表2】

上記尿道括約筋の神経支配除去は、コントロール群から偽群へとLPPの顕著な低下を生じた(図1)(それぞれ、43.4±0.6から27.8±0.7CmHO;p<0.05)。LPPを、上記偽群と比較したときにMDC注射後に有意に高いレベルに回復した(35.7±2.0 CmHO)(p<0.05);しかし、4週間の時点で、このレベルの回復は、コントロール群のものより有意に低いままであった(p<0.05)。
【0081】
組織学的分析:神経支配除去したラットにおいて、上記近位尿道括約筋を、コントロールと比較して、4週間で萎縮性であった(図2)。ラット括約筋組織内で存在するヒト核は、核エンベロープタンパク質ラミンAおよびラミンCに対するヒト特異的抗体を使用する免疫蛍光標識を介して、明らかになった。MDC注射群からの組織は、外部(横紋)括約筋内に組み込まれる多くのヒト核の陽性標識を示した(図3)。
【0082】
本明細書において引用される全ての特許出願、特許、教科書および学術文献は、本発明が属する分野の技術水準をより完全に記載するために、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0083】
種々の変更が、記載されるような本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、上記の方法および組成物においてなされ得るので、上記の説明に含まれるか、添付の図面に示されるか、または添付の特許請求の範囲に定義される全ての主題が、例示として解釈されるのであって、限定する意味ではないことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患処置をするための方法であって、該方法は、
(a)ヒトから骨格筋細胞を単離する工程;
(b)該細胞を、10℃より低い温度に冷却し、該細胞を1〜7日間保存する工程;
(c)該ヒト骨格筋細胞を、第1の細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(d)該第1の細胞培養容器から第2の細胞培養容器へと、培地を移す工程;
(e)該培地中に残っている細胞を、該第2の細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(f)該第2の細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程であって、ここで該単離される細胞は、筋由来前駆細胞(MDC)である、工程;
(g)該細胞を培養して、該細胞数を増やす工程;
(h)該MDCを、−30℃より低い温度に凍結する工程;および
(i)該MDCを融解し、該MDCを、該哺乳動物被験体の尿路に投与する工程;
を包含し、それによって、処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患を処置する、方法。
【請求項2】
前記哺乳動物被験体はヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト骨格筋細胞は、前記尿路疾患が前記ヒト被験体において始まる前に、該ヒト被験体から単離される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト骨格筋細胞は、前記尿路疾患が前記ヒト被験体において始まった後に、該ヒト被験体から単離される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記MDCは、該MDCを尿道に注射することによって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記MDCは、尿道周囲の筋肉に注射される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記尿路疾患は、尿失禁である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記尿失禁は、ストレス性尿失禁である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
処置の必要な哺乳動物被験体における、尿路疾患と関連した少なくとも1つの症状を改善するための方法であって、該方法は、
(a)骨格筋細胞をヒトから単離する工程;
(b)該ヒト骨格筋細胞を、第1の細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(c)該第1の細胞培養容器から第2の細胞培養容器へと、培地を移す工程;
(d)該培地中に残っている細胞を、該第2の細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(e)該第2の細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程であって、ここで該単離される細胞は、MDCである、工程;および
(f)該MDCを、該哺乳動物被験体の尿路に投与する工程;
を包含し、
それによって、処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患と関連した少なくとも1つの症状を改善する、方法。
【請求項10】
前記症状は、尿失禁、尿路感染、頻尿症、疼痛性排尿、排尿時の灼熱感、疲労、振戦、混濁尿、血尿、および腎感染からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記MDCは、該MDCを前記尿道に注射することによって投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記MDCは、尿道周囲の筋肉に注射される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物はヒトである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物被験体の尿路に投与される前に、前記MDCを培養して、該MDCの数を増やす、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患を処置するための方法であって、該方法は、
(a)ヒト骨格筋組織由来の骨格筋細胞の懸濁物を、該骨格筋細胞懸濁物の線維芽細胞が接着する第1の容器の中に平板培養する工程、
(b)工程(a)からの非接着細胞を第2の容器の中に再平板培養する工程であって、ここで該再平板培養する工程は、細胞の15〜20%が該第1の容器に接着した後に行われる、工程;
(c)工程(b)を少なくとも1回反復する工程;
(d)該骨格筋由来MDCを単離し、そして該MDCを、該哺乳動物被験体の尿路に投与する工程;
を包含し、それによって、処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患を処置する、方法。
【請求項16】
前記哺乳動物被験体はヒトである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記骨格筋細胞は、前記尿路疾患が前記ヒト被験体において始まる前に、該ヒト被験体から単離される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記骨格筋細胞は、前記尿路疾患が前記ヒト被験体において始まった後に、該ヒト被験体から単離される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記MDCは、該MDCを前記尿道に注射することによって投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記MDCは、尿道周囲の筋肉に注射される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記尿路疾患は尿失禁である、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記尿失禁はストレス性尿失禁である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患と関連する少なくとも1つの症状を改善するための方法であって、該方法は、
(a)骨格筋組織由来の骨格筋細胞の懸濁物を、該骨格筋細胞懸濁物の線維芽細胞が接着する第1の容器の中に平板培養する工程;
(b)工程(a)からの非接着細胞を、第2の容器の中に再平板培養する工程であって、ここで該再平板培養する工程は、細胞の15〜20%が該第1の容器に接着した後に行われる、工程;
(c)工程(b)を少なくとも1回反復する工程;
(d)該骨格筋由来MDCを単離し、該MDCを該哺乳動物被験体の尿路に投与する工程;
を包含し、それによって、処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患と関連する少なくとも1つの症状を改善する、方法。
【請求項24】
前記症状は、尿失禁、尿路感染、頻尿症、疼痛性排尿、排尿時の灼熱感、疲労、振戦、混濁尿、血尿および腎感染からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記MDCは、該MDCを前記尿道に注射することによって投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記MDCは、尿道周囲の筋肉に注射される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記哺乳動物はヒトである、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物被験体の尿路に投与される前に、前記MDCを培養して、該MDCの数を増す、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
処置の必要な哺乳動物被験体における尿路疾患を処置するための方法であって、該方法は、筋由来細胞(MDC)を含む細胞集団を、該哺乳動物被験体の尿路に投与する工程を包含し、ここで該MDCを含む細胞集団は、以下の工程:
(a)ヒト骨格筋から単離される細胞を、第1の細胞培養容器中で、第1の細胞集団を該容器に接着させかつ第2の細胞集団を接着させずに該容器中の培養培地中に残しておくようにするに十分な持続時間にわたって、懸濁する工程;
(b)該培養培地および第2の細胞集団を、第1の細胞培養容器から第2の細胞培養容器へと移す工程;
(c)該第2の細胞集団由来の細胞を、該第2の細胞培養容器に付着させる工程;
(d)該第2の細胞培養容器に付着した該細胞を単離して、MDCを含む該細胞集団を得る工程、
を包含するプロセスによって得られたものである、方法。
【請求項30】
哺乳動物被験体における尿路疾患を処置するために投与するのに有用な、筋由来細胞(MDC)を含む細胞集団を調製するための方法であって、該方法は、
(a)ヒト骨格筋から単離された細胞を、第1の細胞培養容器において、第1の細胞集団を該容器に接着させかつ第2の細胞集団を接着させずに該容器中の培養培地中に残しておくようにするに十分な持続時間にわたって、懸濁する工程;
(b)該培養培地および第2の細胞集団を、該第1の細胞培養容器から第2の細胞培養容器へと移す工程;
(c)該第2の細胞集団由来の細胞を、該第2の細胞培養容器に付着させる工程;
(d)該第2の細胞培養容器に付着した該細胞を単離して、該MDCを含む細胞集団を得る工程、
を包含する、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−515737(P2010−515737A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545613(P2009−545613)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/000443
【国際公開番号】WO2008/086040
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(504279968)ユニバーシティー オブ ピッツバーグ − オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (24)
【Fターム(参考)】