説明

局所排気装置

【課題】移動可能であり且つ小型であり、溶接、溶断等を実施する箇所に対して少ない吸引量により局所的にヒュームを吸引し排気することを可能にする局所排気装置を提供することを目的とする。
【解決手段】局所排気装置101は、空気を吸引する集塵機80に移動可能に接続され且つ作業箇所100に配置されて使用される。局所排気装置101は、作業箇所100を囲む開口部16並びに作業者が外部から開口部16内の作業箇所100に対して作業を行うための側部開口部17b及び18bを有する筐体1と、筐体1の内部1aで開口部16と対向するようにして延び且つ周囲の壁部3cに複数の貫通穴3e及び3fを有する筒状の吸入管部3とを備え、吸入管部3は、集塵機80と連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、局所排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を溶接、溶断する作業の際、そして、グラインダー等を使用して研磨する作業の際には、金属の粉塵による煙状のヒュームが発生する。このヒュームが人体内に吸い込まれると、ヒュームに含まれる粉塵が排出されずに体内に蓄積され続けるため、じん肺やヒュームに含まれる有害な化学物質(カドミウム、ニッケル等)を原因とする様々な疾病が人体に発生する。ヒュームによる人体への障害を防止するために、労働安全衛生法では、粉じん障害防止規則、特定化学物質等障害予防規則等によって、作業環境が規制されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、溶接によるヒュームを吸引するための局所排気装置が記載されている。この局所排気装置は、溶接等の作業を行うための作業台を有し、さらに作業台の上部に、溶接等の作業を実施する作業者を覆うようにして形成され且つボックス形状をしたハウジングを有している。ボックス形状のハウジングは、ハウジングの内部において作業者が作業台で作業を行うために1つの面で開放されており、開放された面は開放部を形成している。開放部の上部を形成するハウジングの天板の端部には、ハウジング内の下方に向かって空気を吹き出すための吹出口を有するエアー吹出装置が設けられている。さらに、開放部に対向するハウジングの背面壁の内側には、背面壁から天板に延び且つ背面壁に向かって窪むように湾曲した湾曲壁が形成されている。そして、背面壁と隣り合う側壁の内側には、エアー吸引口が設けられている。さらに、ハウジングにおける天板と湾曲壁との連結部には、作業台で作業する作業者の頭部付近に向かって空気を吹き出すばく露防止エアー吹出装置が設けられている。
【0004】
このため、特許文献1の局所排気装置では、エアー吹出装置の吹出口から吹き出される空気が、ハウジング内で下方の作業台に向かって流れた後、湾曲壁に沿って上方へ向かって流れる渦流を形成し、ばく露防止エアー吹出装置から吹き出される空気が、作業者の口元付近の汚染空気を渦流方向に吹き飛ばす。そして、作業台上での溶接作業等から発生したヒュームは、渦流に巻き込まれてエアー吸引口から吸入されてハウジングの外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−153363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1における局所排気装置は、ハウジングの内側で溶接等の作業を行う必要があり、さらに、大型な構造を有していて容易に移動させることができないため、溶接等をする部材を局所排気装置のハウジング内に持ち込んで作業する必要がある。このため、特許文献1における局所排気装置は、持ち運びが可能であり且つハウジング内に収まるような大きさの部材のみに対する溶接等の作業を対象とし、溶接等を実施する対象の大きさや実施場所の変化に十分に対応できないという問題がある。
また、ステンレス鋼などの金属材料を溶接する際、溶接部の品質上、溶融部を大気から遮断するためのシールドガスを使用する例えばMIG溶接やTIG溶接が多く用いられるが、この場合シールドガスに影響を与えないようにヒュームの吸引を行う必要がある。しかしながら、特許文献1における局所排気装置は、大型な構造であり強い吸引力でヒューム以外の大気なども多く吸引するため、シールドガスも一緒に吸引され溶融部を大気から遮断できなくなるという問題もある。
【0007】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、溶接、溶断等の対象及び場所の変化に対応してヒュームの排気を可能にするように移動可能であり且つ小型であり、溶接、溶断等を実施する箇所に対して少ない吸引量により局所的にヒュームを吸引し排気することを可能にする局所排気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明に係る局所排気装置は、空気を吸引する吸引装置に移動可能に接続され且つ作業箇所に配置されて使用される局所排気装置であって、作業箇所を囲む第一開口部及び作業者が外部から第一開口部内の作業箇所に対して作業を行うための第二開口部を有する筐体と、筐体の内部で第一開口部と対向するようにして延び且つ周囲の壁部に複数の貫通穴を有する筒状の吸入部とを備え、吸入部は、吸引装置と連通する。
【0009】
筐体は、吸入部の両側に位置する側部のそれぞれに第二開口部を有すると共に、第二開口部のそれぞれを開放及び閉鎖することができる蓋部を有してもよい。
また、上記局所排気装置は、筐体の外側に一体に連結され、吸引装置と接続される筒状の取付部をさらに備え、吸入部は、取付部の内部に開口し、筐体は、筐体の内側に設けられ且つ吸入部が延びる方向に沿って延びる整流板と、筐体の内部を取付部の内部に連通し且つ整流板の位置に対応する位置に形成された第三開口部とを有してもよい。
【0010】
筐体に、作業者の手で持ち運ぶための取手部を有してもよい。
吸入部は、複数の貫通穴が形成される領域を、間隔をあけて複数有し、領域のそれぞれに対する貫通穴の開口面積比は、吸引装置から遠い領域ほど大きくてもよい。
また、吸入部は、貫通穴の開口領域を調整するための開口領域調整手段を有してもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る局所排気装置によれば、移動可能であり且つ小型化を図ることが可能になる。また、溶接などの作業用の第二開口部の大きさを最小限に設定し、ヒューム以外に吸引される空気量を少なくすることによって、MIG溶接やTIG溶接を行う場合であってもシールドガスに影響を与えない吸引量でヒュームを吸引し排気することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る局所排気装置及びその周辺の構成を示す模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る局所排気装置の構成を示す模式的な斜視図である。
【図3】図2の局所排気装置の蓋板の1つを開放した状態を示す模式的な斜視図である。
【図4】図3のy−y方向の線及びz―z方向の線を含む断面を方向IVから見た模式図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面を示すと共に2つの蓋板を開放した状態を示す模式図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る局所排気装置の構成を示す模式的な斜視図である。
【図7】図6のy−y方向の線及びz―z方向の線を含む断面を方向VIIから見た模式図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿った断面を示す模式図である。
【図9】この発明の実施の形態3に係る局所排気装置の構成を示す模式的な斜視図である。
【図10】図9のx−x方向の線及びz―z方向の線を含む断面を方向Xから見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1に係る局所排気装置101及びその周辺の構成を説明する。なお、以下の実施の形態では、局所排気装置101は、金属部材に対する溶接、溶断及びグラインダー等による研磨作業の際に発生する金属の粉塵による煙状のヒュームを排出するために、用いられるとする。
【0014】
図2を参照すると、局所排気装置101は、略六角柱状をした細長い箱状の形状の筐体1を有している。筐体1は、長手方向の側部を形成する矩形状の側部板13と、側部板13に対向し長手方向の側部を形成する矩形状の側部板14(図5参照)と、側部板13及び14の一方の端部に一体に連結される六角形の端部板11と、側部板13及び14の他方の端部に一体に連結される六角形の端部板12とによって周囲が囲まれている。端部板11及び12は、側部板13及び14より上方に突出しており、端部板11及び12の突出した部分の上部を矩形状の天板15が一体に連結している。そして、端部板11及び12並びに側部板13及び14は、天板15と反対側となる下部に矩形状の開口部16を形成している。なお、開口部16は、第一開口部を構成している。
【0015】
ここで、以下の実施の形態では、開口部16から天板15に向かってz軸が延び、開口部16から天板15に向かう方向を+z方向と呼び、+z方向と反対の方向を−z方向と呼ぶ。さらに、端部板11から端部板12に向かってz軸と垂直にy軸が延び、端部板11から端部板12に向かう方向を+y方向とし、+y方向と反対の方向を−y方向とする。そして、y軸及びz軸と垂直にx軸が延び、側部板14から側部板13に向かう方向を+x方向とし、+x方向と反対の方向を−x方向とする。また、+z方向を上方と呼び、−z方向を下方とも呼ぶ。
【0016】
また、図2及び図3をあわせて参照すると、天板15と側部板13との間には、天板15、端部板11の側部11a、側部板13、及び端部板12の側部12aによって囲まれる側部開口部17bが形成されている。天板15には、蝶番状の連結金具19が取り付けられ、さらに、連結金具19には、側部開口部17bを形成する端部板11の側部11a及び端部板12の側部12aに整合するくの字状の断面形状を有する蓋板17が連結されている。蓋板17は、連結金具19の枢軸を中心に回転することができ、回転することによって側部開口部17bを閉鎖及び開放することができる。さらに、蓋板17の外側には、作業者の手で蓋板17を開閉するための取手部17aが取り付けられている。
ここで、側部開口部17bは、第二開口部を構成し、蓋板17は、蓋部を構成している。
【0017】
また、天板15と側部板14(図5参照)との間には、側部開口部17bと同様にして、天板15、端部板11、側部板14、及び端部板12によって囲まれる側部開口部18b(図5参照)が形成されている。そして、側部開口部18bを形成する端部板11の側部及び端部板12の側部に整合するくの字状の断面形状を有する蓋板18が、蝶番状の連結金具20を介して、天板15に枢動可能に連結されている。蓋板18は、連結金具20の枢軸を中心に回転することによって側部開口部18bを閉鎖及び開放することができる。さらに、蓋板18の外側には、作業者の手で蓋板18を開閉するための取手部18a(図5参照)が取り付けられている。
ここで、側部開口部18bは、第二開口部を構成し、蓋板18は、蓋部を構成している。
【0018】
また、天板15の上部には、作業者の手で筐体1を持ち運ぶための取手部15aが取り付けられている。
よって、筐体1は、下方に向かって常に開放された開口部16と、側方上方に向かって開口し且つ蓋板17によって開閉可能な側部開口部17bと、側方上方に向かって開口し且つ蓋板18によって開閉可能な側部開口部18b(図5参照)とを有して箱状に形成されている。
【0019】
また、筐体1の端部板11の外側には、略円筒状をした取付管部2が一体に連結されている。
さらに、筐体1の内部1aには、端部板11から端部板12に向かって延びる円筒状をした吸入管部3が設けられている。吸入管部3は、一方の端部3bが端部板12に連結され、他方の端部3aが端部板11を貫通して取付管部2の内部2aに開口している。筐体1の内部1aにおける吸入管部3の周囲の壁部3cには、吸入管部3の内部3dを外部に連通する複数の貫通穴が形成されている。そして、本実施の形態1では、複数の貫通穴は、端部板11の近傍の領域α、端部板12の近傍の領域γ、並びに、端部板11及び12の中間に位置する領域βの3つの領域において、壁部3cの全周にわたって形成されている。
ここで、吸入管部3は、吸入部を構成し、取付管部2は、取付部を構成している。
【0020】
よって、局所排気装置101は、筐体1、取付管部2及び吸入管部3によって構成されている。そして、局所排気装置101は、耐火性を有するために金属製であり且つ作業者の手で持ち運びができるように軽量であることが望ましく、本実施の形態1では、筐体1、取付管部2及び吸入管部3はアルミニウム合金を材料として製作されている。そして、本実施の形態1では、局所排気装置101は、作業者が片手で持ち運ぶことができる程度の大きさで形成されるものとしている。
【0021】
図4を参照すると、図3のy−y方向の線及びz―z方向の線を含む局所排気装置101の断面、すなわちy軸及びz軸を含む平面に平行であり且つ吸入管部3の側方の位置での局所排気装置101の断面を+x方向から−x方向に向かって見た図が示されている。
局所排気装置101の取付管部2には、吸入分岐管61aが連結され、吸入分岐管61aは、吸入本管61(図1参照)を介して吸引装置である集塵機80(図1参照)と連通している。このため、取付管部2の内部2a及び吸入管部3の内部3dは集塵機80と連通し、集塵機80が作動して空気を吸入することによって、局所排気装置101では、吸入管部3から取付管部2に向かって吸い込まれる空気の流れが発生する。
【0022】
また、吸入管部3では、貫通穴は、直径が小さい貫通穴3eと、貫通穴3eの2倍の直径を有する貫通穴3fとによって構成されている。
領域αでは、複数の貫通穴3eのみが形成されている。領域γでは、複数の貫通穴3eと、貫通穴3eの4倍の数量の貫通穴3fが形成されている。領域βでは、領域γの貫通穴3fの半分の数量の貫通穴3fのみが形成されている。
よって、領域における壁部3cの外周面の面積(但し、貫通穴3e及び3fの開口面積を含む)に対する上記領域における貫通穴3e及び3fの総開口面積の割合である開口面積比は、領域α、領域β、領域γの順で大きくなっている。つまり、各領域の貫通穴3e及び3fを通過する際に流体が受ける圧力損失は、領域α、領域β、領域γの順で小さくなる。
【0023】
そして、本実施の形態1では、各領域の貫通穴3e及び3fを通過する流体の単位時間当たりの流量がほぼ同等となるように、各領域における圧力損失が設計され、設計された圧力損失に基づいて各領域における開口面積比が設計されている。
【0024】
具体的には、領域αにおける領域β側の境界面を境界面Aとし、領域βにおける領域γ側の境界面を境界面Bとすると、吸入管部3の周囲の空気が領域γの貫通穴3e及び3fを通過して吸入管部3の内部3dに流入し境界面Bを通過するまでに受ける圧力損失と、吸入管部3の周囲の空気が領域βの貫通穴3fを通過して内部3dに流入する際に受ける圧力損失とがほぼ同等となっている。さらに、吸入管部3の周囲の空気が領域γの貫通穴3e及び3fを通過して吸入管部3の内部3dに流入し、領域βの貫通穴3fを通過する空気が合流し、境界面Aを通過するまでに受ける圧力損失と、吸入管部3の周囲の空気が領域αの貫通穴3eを通過して内部3dに流入する際に受ける圧力損失とがほぼ同等となっている。
このとき、筐体1の内部1aにおけるいずれの場所においても吸入管部3を介して均等に空気を吸入することができ、空気の乱流の発生が抑えられる。
【0025】
また、図1を参照すると、局所排気装置101の周辺の構成が示されている。
工場内で製作される金属製の製作物50に対して、複数の局所排気装置101が設けられ、局所排気装置101の取付管部2(図4参照)には、自在に曲げることができる吸入分岐管61a、61b及び61cがそれぞれ接続されている。
吸入分岐管61a、61b及び61cは、それぞれの途中に流路断面を開放及び閉鎖すると共に調節するためのバルブ62a、62b及び62cを有し、さらに吸入本管61と接続されている。
【0026】
吸入本管61は、一次分離BOX70に接続されている。さらに、一次分離BOX70は、配管63を介して集塵機80に接続されている。集塵機80にはダクト64が接続され、ダクト64は集塵機80の排気口を工場の外部に連通する。また、集塵機80には、粉体供給装置90が接続されている。
集塵機80は、内部にファンが取り付けられたモータと、粉塵を捕集するためのフィルタとを有し、モータによってファンが回転されることによって外部の気体を吸入し、吸入した気体に含まれる粉塵をフィルタで捕集し、粉塵を除去した気体を排出口から排出する。
【0027】
一次分離BOX70は、内部に旋回流式分離器と吸熱ローラとを有し、集塵機80に吸入される前の気体を内部に流通させることによって気体に含まれる粉塵の一次分離を行い、一次分離した粉塵に吸熱ローラを通過させることによって粉塵内の火花や火種を鎮火させる。
粉体供給装置90は、内部に消石灰を有しており、集塵機80が火花や火種を含む粉塵を吸い込むと火災の原因になる為、集塵機80内のフィルタに消石灰の膜を形成し、火災防止対策を実施している。
【0028】
次に、この発明の実施の形態1に係る局所排気装置101及びその周辺の動作を説明する。
図1を参照すると、局所排気装置101は、製作物50上において、溶接、溶断又はグラインダー等による研磨作業をする作業箇所100に配置される。
このとき、局所排気装置101は、図3に示すように、開口部16を製作物50側にして開口部16の内側に作業箇所100が位置するようにして、製作物50上に置かれる。そして、作業者が局所排気装置101の外側から内側の作業箇所100に対して作業することができるように、蓋板17及び18(図5参照)のいずれかが開放される。なお、2人以上で作業箇所100に対して両側から作業する必要がある場合等は、蓋板17及び18の両方を開放した状態で局所排気装置101が使用される。
【0029】
また、図1に戻り、作業を実際に開始する前に、集塵機80が作動され、そしてバルブ62aが開放される。これによって、吸入本管61及び吸入分岐管61aを介して、局所排気装置101の吸入管部3の内部3d(図3参照)の空気が吸引される。そして、図3を参照すると、作業者が、側部開口部17bから筐体1の内部1aに、溶接棒、溶断装置等を挿入し、作業箇所100に対する作業を開始する。
【0030】
図4を参照すると、例えば、作業者が作業箇所100に対して溶接作業を行うと、局所排気装置101の筐体1の内部1aでは、作業箇所100から火花及び火種を含んだ金属の粉塵による煙状のヒュームが発生する。吸入管部3の内部3dでは空気が吸引されて負圧状態となっているため、発生したヒュームは、周囲の空気と共に貫通穴3e及び3fから吸入管部3の内部3dに吸引され、吸入管部3及び取付管部2の内部を通過して吸入分岐管61a内に吸入される。
【0031】
また、筐体1の内部1aでは、吸入管部3の各領域α、β及びγにおける単位時間当たりの吸入流量がほぼ同等となっているため、ヒュームにおける乱流の発生が低減され、筐体1の外部にヒュームが流出してしまうことが抑えられている。さらに、筐体1の内部1aでは、作業箇所100が開口部16内のいずれの位置にあっても、領域α、β及びγでの吸引能力がほぼ均等であるため、ほぼ均一な吸引力でヒュームが吸引される。
【0032】
図1を参照すると、吸入分岐管61a内に吸入されたヒュームは、吸入本管61を経由して一次分離BOX70内に吸入され、内部の旋回流式分離器によって含有する粉塵の多く並びに火花及び火種が除去(一次分離)され、集塵機80内に吸入される。
集塵機80内に吸入されたヒュームは、フィルタによってさらに含有する粉塵が除去されて粉塵が十分に除去された状態で排出口からダクト64に排出され、ダクト64から工場の外部に排出される。
従って、作業箇所100に対する溶接、溶断又はグラインダー等による研磨作業時に発生するヒュームは、局所排気装置101によって、作業者が吸い込むことや作業者の身体及び衣服に接触することなく、集塵機80等に収集されて、粉塵が除去された状態で外部に排出される。
【0033】
上述で説明するように、この発明に係る局所排気装置101は、空気を吸引する集塵機80に移動可能に接続され且つ作業箇所100に配置されて使用される。局所排気装置101は、作業箇所100を囲む開口部16並びに作業者が外部から開口部16内の作業箇所100に対して作業を行うための側部開口部17b及び18bを有する筐体1と、筐体1の内部1aで開口部16と対向するようにして延び且つ周囲の壁部3cに複数の貫通穴3e及び3fを有する筒状の吸入管部3とを備え、吸入管部3は、集塵機80と連通する。
【0034】
このとき、局所排気装置101は、筐体1と筐体1の内部1aの吸入管部3とを有するだけの簡単な構成であり、さらに、筐体1の開口部16は作業箇所100に対して作業を行う部分を囲む程度の大きさでよい。よって、局所排気装置101は、その構造の小型化を可能にする。
さらに、局所排気装置101は、集塵機80と配管等を介して接続することによって移動させることができる。よって、作業者は、作業箇所100が広い場合には局所排気装置101を移動させつつ作業を行い、作業箇所100の位置が変わる場合には局所排気装置101を移動させて作業を行うことができる。
また、局所排気装置101は、側部開口部17b及び18bを作業を行うのに必要最小限の大きさとすることによって、側部開口部17b又は18bを介して外部から吸入する空気の量を少なくすることができる。このため、集塵機80による吸入管部3を介した吸引量を小さくして、例えばMIG溶接やTIG溶接を行う場合に溶接の際の溶融部を周囲空気から遮断するためのシールドガスに影響を与えないようにしつつ、筐体1の内部1aのヒュームを吸引し排気することが可能になる。よって、局所排気装置101は、溶接、溶断等を実施する箇所に対して少ない吸引量により局所的にヒュームを吸引し排気することを可能にする。
【0035】
筐体1は、吸入管部3の両側に位置する側部板13及び14のそれぞれに側部開口部17b及び18bを有すると共に、側部開口部17b及び18bのそれぞれを開放及び閉鎖することができる蓋板17及び18を有している。これによって、局所排気装置101では、作業者は、側部開口部17b及び18bのうち作業が容易な方を選択して作業を行うことができ、作業性が向上する。さらに、局所排気装置101では、側部開口部17b及び18bを使用することによって、2人以上の作業者が同時に又は協同して作業を行うことができる。
吸入管部3は、複数の貫通穴3e及び3fが形成される領域α、β及びγを、間隔をあけて複数有し、領域α、β及びγのそれぞれに対する貫通穴3e及び3fの開口面積比は、集塵機80から遠い領域ほど大きい。このとき、集塵機80から遠い領域ほど貫通穴3e及び3fを通過して吸入管部3の内部3dに空気が吸入される際の圧力損失が小さくなる。よって、各領域α、β及びγにおける空気の吸入流量の均一化を図ることが可能になる。
【0036】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る局所排気装置201は、実施の形態1における局所排気装置101の筐体1における天板15の内側に、吸入管部23の軸方向と平行に延びる整流板221及び222を設けたものである。
なお、以下の実施の形態において、前出した図における参照符号と同一の符号は、同一または同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
【0037】
図6を参照すると、局所排気装置201の吸入管部23は、一方の端部23bが端部板12に連結されると共に、他方の端部23aを筐体1の端部板11から取付管部2の内部2aに突出させて設けられている。
また、局所排気装置201の筐体1は、天板15の内部1a側に、天板15から開口部16に向かって突出する整流板221及び222を有している。そして、整流板221及び222は、吸入管部23の円筒の中心軸と平行に端部板11から端部板12にわたって延び、互いに平行となっている。これによって、整流板221及び222の間には、端部板11から端部板12にわたって延びる直線状の流路223(図8参照)が形成される。
【0038】
図8を参照すると、端部板11には、取付管部2の内側で開口する三日月状の吸入開口部11cが形成されている。吸入開口部11cは、端部板11における流路223の端部223aに対応する位置で、端部223aから側部板13及び14側に突出する形状で形成されている。このため、吸入開口部11cは、流路223を取付管部2の内部2a(図7参照)に連通すると共に、筐体1の内部1aにおける整流板221及び222の外側の領域を取付管部2の内部2aに連通する。
ここで、吸入開口部11cは、第三開口部を構成している。
また、この発明の実施の形態2に係る局所排気装置201のその他の構成は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
図7を参照すると、局所排気装置201において、吸入分岐管61aを介して取付管部2の内部2aの空気が吸引されると、吸入管部23並びに貫通穴3e及び3fを介して筐体1の内部1aの空気が取付管部2内に吸引されると共に、吸入開口部11cを介して筐体1の内部1aの空気が取付管部2内に吸引される。
【0040】
このとき、流路223内には、端部板12から端部板11に向かう方向の空気の流れが発生すると共に、整流板221及び222(図8参照)の外側にも端部板12から端部板11に向かう方向の空気の流れが発生する。これらの発生した空気の流れによって、筐体1の内部1a全体の空気には端部板12から端部板11に向かう流れが発生し、それにより、内部1a全体における空気の流れが整流される。よって、内部1aでの乱流の発生が実施の形態1の局所排気装置101より効果的に抑えられ、内部1aの空気が外部へ流出することが効果的に抑えられる。
【0041】
さらに、内部1a全体における空気の流れが整流されることによって、吸入管部23の周囲における空気密度の偏りを低減することができるため、各領域α、β及びγにおける単位時間当たりの吸入流量を実施の形態1の局所排気装置101より均等なものとし、内部1aにおいて、空気の吸引能力が実施の形態1の局所排気装置101より均一なものとなる。
【0042】
また、吸入管部23の端部23aが取付管部2の内部2aに突出しているため、吸入管部23及び吸入開口部11cから取付管部2の内部2aに吸入された直後の空気はそれぞれ、互いに干渉することなく取付管部2及び吸入管部23に沿って流れる。このため、吸入管部23及び吸入開口部11cから取付管部2の内部2aに吸入された空気はそれぞれ、隣り合う吸入開口部11c及び吸入管部23から筐体1の内部1aに逆流することが防がれている。
また、この発明の実施の形態2に係る局所排気装置201のその他の動作は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0043】
上述で説明するように、実施の形態2における局所排気装置201によれば、上記実施の形態1の局所排気装置101と同様な効果が得られる。
また、局所排気装置201は、筐体1の外側に一体に連結され、集塵機80と接続される筒状の取付管部2を備え、吸入管部23は、取付管部2の内部2aに開口し、筐体1は、筐体1の内側に設けられ且つ吸入管部23が延びる方向に沿って延びる整流板221及び222と、筐体1の内部1aを取付管部2の内部2aに連通し且つ整流板221及び222の位置に対応する位置に形成された吸入開口部11cとを有している。これによって、集塵機80による空気の吸引時、筐体1の内部1aでは整流板221及び222に沿った空気の流れが発生する。このため、内部1aでの空気の流れが整流されて乱流の発生を効果的に抑え、筐体1の外部への空気の流出を抑えることが可能になる。
【0044】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3に係る局所排気装置301は、実施の形態1における局所排気装置101の吸入管部3の外側に、貫通穴3e及び3fが開口する開口領域を調整するための開口領域調整手段である開口調整管33を設けたものである。
【0045】
図9及び図10をあわせて参照すると、局所排気装置301は、筐体1の内部1aに、吸入管部3の壁部3c全体を外側から取り囲むようにして壁部3cに隣接して設けられた筒状の開口調整管33を有している。開口調整管33は、端部板11から端部板12に向かって延び、吸入管部3に対して壁部3cの周方向に回転することができる。さらに、開口調整管33は、その筒状の壁部33cにおいて、吸入管部3の領域α、β及びγに対応する位置に、吸入管部3の貫通穴3e及び3fのそれぞれと同形状を有し且つ壁部33cを貫通する貫通穴33e及び33fを、吸入管部3と同じ配置で有している。
【0046】
そして、開口調整管33は、作業者の手で直接回転させることができる。
開口調整管33は、回転されることによって、貫通穴33e及び33fのそれぞれを吸入管部3の貫通穴3e及び3fと合致させることができる。このとき、各貫通穴3e及び3fでは、貫通穴3e及び3f自体の開口面積の全てを実際に開口している領域である開口領域の面積として、吸入管部3の内部3dが開口調整管33の外側の筐体1の内部1aに連通する。つまり、吸入管部3の貫通穴3e及び3fの開口領域の総面積が総開口面積の100%となる。
【0047】
また、開口調整管33は、貫通穴33e及び33fのそれぞれを吸入管部3の貫通穴3e及び3fと合致させた状態から回転されると、貫通穴33e及び33fのそれぞれが貫通穴3e及び3fからずれ、壁部33cが貫通穴3e及び3fの少なくとも一部を覆う。このとき、各貫通穴3e及び3fでは、貫通穴3e及び3f自体の開口面積より小さい面積を開口領域の面積として、吸入管部3の内部3dが開口調整管33の外側の筐体1の内部1aに連通する。つまり、吸入管部3の貫通穴3e及び3fの開口領域の総面積が総開口面積の100%未満となる。そして、開口調整管33を回転させることによって、吸入管部3の貫通穴3e及び3fの開口領域の総面積を微調整することができる。
【0048】
これにより、例えば、集塵機80(図1参照)の吸引能力の変動に合わせて、吸入管部3の貫通穴3e及び3fの開口領域の面積を調整することによって、貫通穴3e及び3fにおける空気の吸引速度等の吸引条件を調節することが可能である。例えば、集塵機80の吸引能力が低下した場合には、開口調整管33を回転させて吸入管部3の貫通穴3e及び3fの開口領域を縮小し、空気の吸引速度を増大させ、吸引能力を回復させることができる。
また、この発明の実施の形態3に係る局所排気装置301のその他の構成及び動作は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
上述で説明するように、実施の形態3における局所排気装置301によれば、上記実施の形態1の局所排気装置101と同様な効果が得られる。
また、局所排気装置301では、吸入管部3が、その貫通穴3e及び3fの開口領域を調整するための開口調整管33を有しているため、局所排気装置301側で貫通穴3e及び3fにおける空気の吸引条件を変更することが可能になる。
また、実施の形態3の局所排気装置301では、吸入管部3の外側に開口調整管33が設けられていたが、これに限定されるものでなく、吸入管部3の内側に開口調整管33が設けられてもよい。さらに、開口調整管33は、吸入管部3の全てを覆うのではなく一部を覆うものであってもよい。また、実施の形態3の局所排気装置301では、開口調整管33の貫通穴33e及び33fはそれぞれ、吸入管部3の貫通穴3e及び3fと同形状であったが、貫通穴3e及び3fより大きくても小さくてもよい。
【0050】
また、実施の形態1〜3の局所排気装置101〜301は、比較的水平な作業箇所100に対する作業に使用されていたが、これに限定するものでない。局所排気装置101〜301は、小型で軽量であり、さらに、その作業条件に合わせてその大きさを調節して製作することもできる。このため、局所排気装置101〜301は、鉛直な面、傾斜した面又は天井面に対して吊り下げ等することによって配置・固定するようにすることでき、これらの面の作業箇所に対する作業にも適用することが可能である。そして、実施の形態1〜3の局所排気装置101〜301における筐体1では、天板15が上方に位置し、開口部16が下方に位置するとしていたが、局所排気装置101〜301を配置する向きは、これに限定されるものでない。上述のように鉛直な面又は天井面に配置する場合、天板15を側方又は下方に位置させ、開口部16を側方又は上方に位置させて、局所排気装置101〜301を配置することができる。
【0051】
また、実施の形態1〜3の局所排気装置101〜301における筐体1は、2つの側部開口部17b及び18bのそれぞれに蓋板17及び18を有していたが、これに限定されるものでない。筐体1は、1つの側部開口部のみを有していてもよく、この場合、蓋板を有していなくてもよい。一方、複数の作業者が同時に作業できるように、筐体1は、3つ以上の側部開口部とその蓋板を有していてもよい。
【0052】
また、実施の形態1〜3の局所排気装置101〜301において、吸入管部3及び23には、領域α、β及びγの3つの領域に貫通穴3e及び3fが形成されていたが、これに限定されるものでない。貫通穴が形成される領域は、2つ以下であっても4つ以上であってもよい。また、吸入管部3及び23の全体に貫通穴が形成されていてもよい。
また、実施の形態1〜3の局所排気装置101〜301は、溶接、溶断、グラインダー等を使用した研磨作業で発生するヒュームの吸引のためのみに使用されるものでなく、有害ガスが発生する作業に対して使用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 筐体、1a 内部(筐体の内部)、2 取付管部(取付部)、3,23 吸入管部(吸入部)、3c 壁部、3d 内部(吸入部の内部)、3e,3f 貫通穴、11c 吸入開口部(第三開口部)、13,14 側部板(側部)、15a 取手部、16 開口部(第一開口部)、17,18 蓋板(蓋部)、17b,18b 側部開口部(第二開口部)、33 開口調整管(開口領域調整手段)、80 集塵機(吸引装置)、100 作業箇所、101,201,301 局所排気装置、221,222 整流板、α,β,γ 領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を吸引する吸引装置に移動可能に接続され且つ作業箇所に配置されて使用される局所排気装置であって、
作業箇所を囲む第一開口部及び作業者が外部から前記第一開口部内の前記作業箇所に対して作業を行うための第二開口部を有する筐体と、
前記筐体の内部で前記第一開口部と対向するようにして延び且つ周囲の壁部に複数の貫通穴を有する筒状の吸入部とを備え、
前記吸入部は、前記吸引装置と連通する局所排気装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記吸入部の両側に位置する側部のそれぞれに前記第二開口部を有すると共に、前記第二開口部のそれぞれを開放及び閉鎖することができる蓋部を有する請求項1に記載の局所排気装置。
【請求項3】
前記筐体の外側に一体に連結され、前記吸引装置と接続される筒状の取付部をさらに備え、
前記吸入部は、前記取付部の内部に開口し、
前記筐体は、前記筐体の内側に設けられ且つ前記吸入部が延びる方向に沿って延びる整流板と、前記筐体の内部を前記取付部の内部に連通し且つ前記整流板の位置に対応する位置に形成された第三開口部とを有する請求項1または2に記載の局所排気装置。
【請求項4】
前記筐体に、作業者の手で持ち運ぶための取手部を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の局所排気装置。
【請求項5】
前記吸入部は、複数の前記貫通穴が形成される領域を、間隔をあけて複数有し、
前記領域のそれぞれに対する前記貫通穴の開口面積比は、前記吸引装置から遠い前記領域ほど大きい請求項1〜4のいずれか一項に記載の局所排気装置。
【請求項6】
前記吸入部は、前記貫通穴の開口領域を調整するための開口領域調整手段を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の局所排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−196694(P2012−196694A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62684(P2011−62684)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(591223149)日新工機株式会社 (26)