説明

局所環境制御のための評価方法

【課題】局所環境に在室する人のアレルギー原因を推定・低減し、あるいはアレルギーを未然に防ぎ、健康で快適に在室するために、種々の情報を総合的に評価し分析する方法を提供すること。また、その分析結果に基づき、局所空間の環境制御を行う方法を提供すること。
【解決手段】被検者の局所環境中のアレルゲンの量を測定する工程、被検者の前記アレルゲンに対する抗体の量を測定する工程、および測定したアレルゲンの量および抗体の量の関係を評価する工程を有することを特徴とする、局所環境中の被検者アレルギー発症の原因を分析する方法。好ましくはアレルギーを誘導・悪化させる可能性のある化学物質および/またはシックハウス症候群の原因となる化学物質シックハウス症候群の原因となる化学物質の種類及び濃度を併せて測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の局所環境に存在するアレルゲンの評価および被検者の抗体評価に基づき、局所環境中の被検者アレルギー発症の原因を分析する方法に関し、さらには、同局所環境内の有害性化学物質の存在を併せて評価し、被検者アレルギー発症の原因を分析する方法に関する。また、本発明はその分析結果に基づいて局所環境を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人のアレルギー原因は、血清や血漿中の抗体(特異IgE、総IgE)の測定やヒスタミン遊離試験など、血液の測定により推定される(例えば特許文献1)。推定された抗原(アレルゲン)用いてパッチテストや皮下注射によるテストをすることで原因の特定を行う。しかしながら、血清・血漿中の抗体測定では、被検者はどのアレルゲンに対し原因を持ち得るかを知ることはできても、そのアレルゲンにどこで暴露されているかは知ることはできない。
【0003】
一方、住宅や職場などの局所空間において、ダニ・カビ・花粉などの測定は主として衛生的評価を目的に実施されており、アレルギーの原因推定および除去低減の目的で実施されることは現実には少ない。つまり、アレルギーに関し、局所環境がそこに居する人にどのような影響を与えているかの関連性は従来知ることはできなかった。
【0004】
また、近年、住宅や職場など局所環境内の化学物質が、シックハウス症候群・化学物質過敏症を引き起こすものとして注目され、いくつかの化学物質については、室内空気中の濃度指針値が策定されている。この局所環境内の化学物質としては、ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物が示されているが、その測定は上記のダニ・カビ・花粉などの測定とは目的が異なるため別個に行われていた。
また、シックハウス症候群や化学物質過敏症の原因物質として知られる化学物質や住環境中に存在する他の化学物質が、アレルギーを誘導・悪化させる可能性のあることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。シックハウス症候群の原因物質測定は、化学物質がガス状で存在するものとしての測定されているが、アレルギーを誘導・悪化させる可能性のある化学物質には、蒸気圧が低く空気中では粒子状で存在するものもあり、それらの測定には暴露の状態を勘案することが必要となるため、シックハウス症候群等に対する測定においては同時に測定されることはない。
【0005】
【特許文献1】特開平7−72150号公報
【非特許文献1】Garrett M H et al. Allergy, (54) pp330-337 (1999)
【非特許文献2】国立環境研究所特別研究報告 平成14〜16年度 SR-63-2005, アレルギー反応を指標とした化学物質のリスク評価と毒性メカニズム解明に関する研究
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、局所環境に在室する人のアレルギー原因を推定・低減し、あるいはアレルギーを未然に防ぎ、健康で快適に在室するために、種々の情報を総合的に評価し分析する方法を提供することにある。また、その分析結果に基づき、局所空間の環境制御を行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成からなる局所環境中の被検者アレルギー発症の原因を分析する方法に関する。
[1]被検者の局所環境中のアレルゲンの量を測定する工程、被検者の前記アレルゲンに対する抗体の量を測定する工程、および測定したアレルゲンの量および抗体の量の関係を評価する工程を有することを特徴とする、局所環境中の被検者アレルギー発症の原因を分析する方法。
[2]被検者の局所環境中のアレルゲンの量を測定する工程が、局所環境中の塵を採取し分析することによりアレルゲンの量を測定するものである前記1に記載の分析方法。
[3]測定するアレルゲンが、ダニ虫体、ダニ糞体、花粉、動物表皮および真菌の少なくとも1種以上である前記1に記載の分析方法。
[4]測定する抗体が、特異IgE抗体である前記1に記載の分析方法。
[5]測定したアレルゲンの量および抗体の量の関係を評価する工程が、横軸が局所環境内のアレルゲンの存在強度、縦軸が特異IgEのレベルからなる分布チャートに、測定したアレルゲンの量および抗体の量を展開することにより評価する前記1〜4のいずれかに記載の分析方法。
[6]アレルギーを誘導・悪化させる可能性のある化学物質および/またはシックハウス症候群の原因となる化学物質の種類及び濃度を併せて測定する前記1〜5のいずれかに記載の分析方法。
[7]化学物質の種類及び濃度を、局所環境中の空気および/または塵を採取して測定する前記6に記載の分析方法。
[8]化学物質がホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、パラジクロロベンゼン、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリクロロエチル、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリトリル、t−ブチルフェノールおよびノニルフェノールから選択される1種以上である前記6または7に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、被検者の抗体測定からアレルギー原因が把握でき、局所環境中の抗原(アレルゲン)測定から被検者のアレルギー原因物が局所環境中に存在するかを判断でき、それによりアレルギー原因抗原を局所環境中から除去・低減などし、被検者の状況に応じて局所環境を制御することができる。また、さらに局所環境中の有害性の高い化学物質を併せて測定することで、これらの除去・低減方法を導くことができ、局所環境中の快適性をより向上することができる。
【発明を実施する最良の形態】
【0009】
本発明において測定に供される局所環境としては、特に制限はないが、一般の戸建住宅や集合住宅などの住居、職場や学校、病院、映画館・ホール・デパートなどの公共施設、電車・自動車等の乗り物を挙げることができ、好ましくは被検者が在する時間の長い住居や職場・学校、あるいは在することでアレルギーなど症状が発する場所である。
【0010】
被検者の局所環境中のアレルゲンの量を測定する工程は、特に制限されるものではないが、局所環境中の塵を収集し、その塵を分析することでアレルゲンの量を測定することが好ましい。
局所環境中の塵(住居においては、いわゆるハウスダスト)の収集は、例えば電気掃除機を用いて行うことができる。具体的には、例えば、一般的に普及している紙パック式の家庭用の掃除機を用いて採取し、紙パック中の室内塵中の微塵を篩って採取する方法や、微粉セパレーターを用いて微粉を採取する方法、電気掃除機の吸引ノズルにフィルターを取り付け吸引する方法などが挙げられる。
【0011】
測定するアレルゲンの種類は特に制限されるものではないが、例えば、ダニ虫体、ダニ糞体、花粉、動物表皮、真菌などが挙げられる。ダニ虫体およびダニ糞体におけるダニとしては、例えば、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニなどのヒョウヒダニが挙げられる。花粉としては、例えば、カエデ、ハンノキ、シラカンバ、ブナ、ビャクシン、コナラ、ヒノキ、ニレ、オリーブ、クルミ、ヤナギ、マツ、スギ、アカシア、クワなどの樹木花粉、ハルガヤ、キョウキシバ、カモガヤ、ヒロハウシノケグサ、ホソムギ、オオアワガエリ、アシ、ナガハグサ、コヌカグサ、セイバンモロコシ、小麦、オオスズメノテッポウ、スズメノヒエなどのイネ科植物花粉、ブタクサ、ブタクサモドキ、オオブタクサ、ニガヨモギ、ヨモギ、フランスギク、タンポポ、ヘラオオバコ、シロザ、アキノキリンソウ、ヒメスイバ、イラクサ、カナムグラなどの雑草花粉などが挙げられる。動物表皮としては、例えば、猫皮屑、犬上皮、馬皮屑、牛皮屑、犬皮屑、モルモット上皮、ハトのふん、ガチョウ羽毛、セキセイインコのふん、セキセイインコ羽毛、セキセイインコ血清蛋白、ヤギ上皮、羊上皮、家兎上皮、豚上皮、ハムスター上皮、ニワトリ羽毛、アヒル羽毛、ラット、マウスなどが挙げられる。真菌としては、例えば、ペニシリウム、クラドスポリウム、アスペルギルス、ムコール、カンジダ、アルタナリア、ヘルミントスポリウム、ピティロスポリウム、黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA、エンテロトキシンB)、マラセチアなどが挙げられる。
【0012】
これらの中では、ハウスダスト等の塵中に含まれていることが多く、かつアレルギー陽性頻度の比較的高いアレルゲンを主として測定することが好ましく、具体的には、例えばヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニの糞由来アレルゲン、虫体由来アレルゲン、アスペルギルス、アルタナリア、スギ花粉などが挙げられる。また、花粉は季節により飛散する種類が異なるため、時期に応じて測定する花粉アレルゲンを適宜選択することもできる。
【0013】
収集した塵を用いてアレルゲンの種類および量を測定する。アレルゲンの測定は、従来公知のすべての方法が使用でき、例えば酵素免疫測定法(EIA法)や免疫クロマトグラフィー法などが使用できるほか、ダニアレルゲン等については塵を直接顕微鏡で観察することによっても測定が可能である。EIA法としては、特異的抗体を用いたELISA法が好ましく、採取した微塵を滅菌水、滅菌生理食塩水、またはウシ血清アルブミン(1%)と(0.05%)Tween20とを含むリン酸緩衝液等にけん濁し、抗体を仕込んだウェルプレートに添加して測定する。ELISA法はサンドイッチ法、競合法のいずれもが使用できる。
また、真菌は総真菌数および総生菌数を測定する。総真菌数および総生菌数の測定は、収集した塵(ハウスダスト)を懸濁した水溶液を寒天培地に塗抹することにより真菌を培養し、生育したコロニーの計測により行うことができる。寒天培地は、真菌用にクロムフェニコールを添加したポテトデキストリン寒天培地、生菌用にSCD(Soybean Casein Digest)培地が挙げられるが、これに限定されるものではない。真菌の中でアレルゲンとなり得るものの種類を同定する場合は、生育したコロニーの酌菌・植え付けにより真菌を単離し、顕微鏡での形態観察を行い同定することができる。
【0014】
被検者の前記アレルゲンに対する抗体の量を測定する工程は、特に制限されるものではなく、従来公知のすべての方法が採用でき、通常は被検者の血清・血漿を分析することにより行うことができる。
【0015】
被検者から採取した血清・血漿としては、例えば病院など有資格施設にて採取された抹消血の遠心分離上澄みや、指先の針刺しによる市販採決キットを用いて採取した指先血の遠心分離上澄みなどを挙げることができる。
この血清・血漿中の抗体を測定する。測定する抗体としては、アレルゲンに対応した特異IgE抗体が好ましく、その測定は、MAST法、EIA法、CAST法により抗原添加するにより遊離したスルフィドロイコトリエンを測定する方法など公知の方法が用いることができる。MAST法では、例えばコナヒョウヒダニ、ハウスダストII、ネコ上皮、イヌ上皮、オオアワガエリ、ハルガヤ、ブタクサ混合物I、ヨモギ、スギ、ペニシリウム、クラドスポリウム、カンジダ、アルタナリア、アスペルギルス等を測定することができる。EIA法では、例えば、ハンノキ、シラカンバ、スギ、ヒノキ、ハルガヤ、ギョウギシバ、カモガヤ、オオアワガエリ、アシ、ブタクサ、ヨモギ、フランスギク、タンポポ、アキノキリンソウ、ペニシリウム、クラドスポリウム、アスペルギルス、カンジダ、アルタナリア、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、ハウスダストI、ハウスダストII、ネコ皮屑、ネコ上皮、イヌ皮屑、マウス等を測定することができる。CAST法に基づく方法では、例えばギョウギシバ、カモガヤ、ホソムギ、オオアワガエリ、ライムギ等のイネ科植物の花粉、ヨモギ、ヘラオオバコ、オカヒジキ、ヒカゲミズキ、Parietaria judaica等の雑草の花粉、シラカバ、ハシバミ、コナラ、日本スギ、アカスギ等の樹木の花粉、ペニシリウム、クラドスポリウム、アスペルギルス、カンジダ、アルタナリア等の真菌、ミツバチ毒、スズメバチ毒、アシナガバチ毒、ゴキブリ、ネコノミ等の昆虫、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、アシブトコナダニ等のダニ、ネコ上皮、イヌ上皮などの動物上皮等を測定することができる。これらの測定方法は、測定する抗体によって適宜選択することができる。
【0016】
測定したアレルゲンの量および抗体の量の関係を評価する工程は、局所環境中に存在するアレルゲンの量に基づいて、そのアレルゲンに対する抗体を被検者がどの程度有しているかによって評価することができる。
例えば、(1)局所環境中のアレルゲンが少ないか比較的少なく、被検者の抗体量が少ない場合は、そのアレルゲンに対するアレルギーの可能性が低く、また測定した局所環境が原因で発症する可能性も低いと評価できる。(2)局所環境中のアレルゲンが少ないが、被検者の抗体量が多いか比較的多い場合は、そのアレルゲンに対するアレルギーを有しているか、あるいは発症以前の状態であるが、測定した局所環境がそのアレルギーの原因となっている可能性が低いと評価できる。(3)局所環境中のアレルゲンが多いか比較的多く、被検者の抗体量が少ない場合は、そのアレルゲンに対するアレルギーはないものの局所環境中のアレルゲンにより将来アレルギー発症の可能性があると評価できる。(4)局所環境中のアレルゲンが比較的多く、被検者の抗体量も比較的多い場合は、局所環境中のアレルゲンによりアレルギーが発症している可能性があると評価でき、(5)両者ともより多く検出された場合にはその可能性がより高いと評価ができる。
【0017】
上記の関係評価を、横軸が局所環境内のアレルゲンの存在強度、縦軸が抗体のレベルからなる分布チャートを作成し、そのチャートに測定したアレルゲンの量および抗体の量を展開することにより行うことができる。分布チャートとしては、例えば図1に示すようなものを挙げることができる。
図1中、ゾーンA〜Eはそれぞれ上記(1)〜(5)に対応するものである。アレルゲンおよびそれに対応する抗体の量に基づいてチャートにプロットし、そのプロット位置がどのゾーンに属するかによって評価する。例えば、プロット位置がゾーンAであったとすると、上記(1)の通り、そのアレルゲンに対するアレルギーの可能性が低く、また測定した局所環境が原因で発症する可能性も低いと評価でき、プロット位置がゾーンDであったとすると、上記(4)の通り、局所環境中のアレルゲンによりアレルギーが発症している可能性があると評価できる。
【0018】
アレルゲン量の大小は、各アレルゲン測定法で規定される各アレルゲンの感さレベルに基づいて決定することができ、例えばヒョウヒダニの糞アレルゲンの場合、塵中の存在量が2μg/gを感さレベルとすることができ、それを判断の基準値とすることができる。
被検者の抗体量の大小についても同様に、各抗体量の測定法で規定されるレベルに基づいて決定することができる。例えば、MAST法により特異IgE量を測定する場合には、ルミカウントの値で評価するかその値を元にしたMASTクラスで評価することができる。
【0019】
以上の結果は、アレルゲン毎に評価することができ、それを数値化し、例えば図3に示すようなレーダーチャートに展開することもできる。
【0020】
以上により、被検者のアレルギー様症状とその原因が局所環境中に存在するかどうかを分析・評価することができ、その評価に基づいて原因の低減・除去等の局所環境の制御を行うことができるが、本発明では更に局所環境中に存在する揮発性化学物質(VOC)、準揮発性化学物質(SVOC)に、有害性の高い化学物質が存在するかを併せて分析し、その結果に合わせて局所環境の制御をより効果的に行うことができる。
有害性の高い化学物質としては、アレルギーを誘導・悪化させる可能性のある化学物質および/またはシックハウス症候群・化学物質過敏症の原因となる化学物質の種類及び濃度を測定することが好ましい。
【0021】
有害性の高い揮発性化学物質(VOC)としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、パラジクロロベンゼンなどが挙げられ、特に、アレルギーを誘導・悪化させる可能性のある化学物質あるいはシックハウス症候群・化学物質過敏症の原因となる化学物質として知られているホルムアルデヒドを測定することが好ましい。
【0022】
有害性の高い準揮発性化学物質(SVOC)としては、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジヘプチル、などのフタル酸エステル類、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアジピン酸エステル類、リン酸トリブチル、リン酸トリクロロエチルなどのリン酸エステル類、t−ブチルフェノール、ノニルフェノールなどのアルキルフェノール類などが挙げられ、特に、アレルギーを誘導・悪化させる可能性のある化学物質あるいはシックハウス症候群・化学物質過敏症の原因となる化学物質として知られているフタル酸ジ−2−エチルヘキシルを測定することが好ましい。
【0023】
VOCの測定方法は特に制限されず従来公知の方法が使用できる。例えばDNPH(2,4-dinitrophenylhydrazine)含浸シリカゲル充填パッシブサンプラーまたはDNPH含浸シリカゲル充填アクティブサンプラーにより局所環境の空気を捕集し高速液体クロマトグラフィやガスクロマトグラフフィにより種類および量を測定する方法のほか、固体吸着−加熱脱着−ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱脱着法)、固体吸着−溶媒抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(溶媒抽出法)等も使用できる。
【0024】
SVOC測定方法もまた特に制限されず従来公知の方法が使用できる。SVOCは局所環境中では塵に付着して存在するか、それ自身がミスト状で浮遊している場合が多い。これら化学物質が体内に取り込まれる態様としては、化学物質が付着し空気中を浮遊する塵およびミスト状化学物質(以下、浮遊微粒子ということがある。)を吸引することが挙げられ、またさらに乳幼児等においてはハウスダスト等の塵を経口摂取することによることもある。
【0025】
浮遊微粒子としては、粒径が2.5μm以下のものが吸入により体内に取り込まれやすく、この範囲のものを採取して分析することが好ましい。その場合の方法としては、カスケードインパクターを用いて所定範囲の粒径の浮遊微粒子を採取し、それを加熱脱着−ガスクロマトグラフ質量分析するか、溶媒抽出−ガスクロマトグラフ質量分析する等の方法が使用できる。
ハウスダスト等の室内塵を分析する場合、電気掃除機によりハウスダストを吸引収集し、溶媒抽出−ガスクロマトグラフ質量分析する等の方法が使用できる。また、殺虫剤類の化学物質は、同様にハウスダストを収集し溶媒抽出−誘導体化−吸光光度法により分析することもできる。
【0026】
以上の結果は、有害な化学物質毎に評価されるので、それぞれを数値化し、例えば図4に示すようなレーダーチャートに展開することができる。なお、図4では、化学物質の存在量として厚生労働省の定める基準値を100%とした場合の値をプロットしたものである。
【0027】
これらの分析により有害性の高い化学物質が所定量以上(例えば、厚生労働省の定める基準値)測定された場合には、シックハウス症候群の発症原因となり得るほか、アレルギーに対して悪影響を及ぼす可能性もあるため、化学物質の発生原因の低減・除去等を行うことでアレルギーに対する局所環境の制御をより高度に行うことが可能となる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明について例を示し、さらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例に何等制限されるものではない。
【0029】
1.環境の計測
築2年の住宅のリビングルームのハウスダストを掃除機で吸引し、微塵を篩った試料を採取し、サンドイッチELISA法で抗原を測定した。
具体的には、試料100mgにウシ血清アルブミン1%を含む0.05%Tween20リン酸緩衝液10mLを加え、ボルテックスミキサーで1分間抽出を行った。抽出液をあらかじめ抗体を仕込んだウェルプレートに適宜希釈しながら添加し、抗原を反応させた。洗浄後、標識化抗体を加えて反応させ発色試薬を加えて吸光度を測定した。吸光度の測定には、マイクロプレートリーダーVERSAmax(モレキュラーデバイス社)を用いた。ダニアレルゲン測定に用いる抗体等はIndoor Biotechnologies社のELISAキットを用いた。また、スギ花粉の測定に用いる抗体は生化学工業社製のものを用いた。
その結果、コナヒョウヒダニフンアレルゲンがPlatts-Millsらが提唱する感さの危険因子(2μg/g)以上であった。
コナヒョウヒダニフンアレルゲン(Der f 1):3.1μg/g
【0030】
SCD培地を用いた培養法による総生菌数は220cfu/g、PDA+CP培地を用いた総真菌数は30cfu/g、培養された真菌の顕微鏡による同定では、アレルギー性のあるアスペルギルス(Aspelgillus)が検出された。同定は培養後発育したコロニーの勺菌、植え付けによる単離を行い、位相差顕微鏡観察で行った。ELISA法によりハウスダストを測定したところ、以下の結果を得た。
アスペルギルス(Aspergillus fumigatus(Asp f 1)):0.5μg/g
【0031】
同住宅のリビングダイニングルーム(LDK)および寝室の空気質を測定した。具体的には、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン)はDNPHパッシブサンプラーDSD−DNPH(スペルコ製)を24時間吊り下げて誘導化捕集し、それをアセトニトリルで溶出し、高速液体クロマトグラフィー(CLASS−VP:島津製作所)で分析した。トルエン等のVOCは、パッシブサンプラーVOC−SD(スペルコ製)を24時間吊り下げて捕集し、それを二硫化炭素で溶出し、ガスクロマトグラフ−質量分析計(Agilent Technology社製)で分析した。結果は次のとおりであった。
【表1】

【0032】
次に、同住宅のハウスダスト微塵中の化学物質を測定した。具体的には、ハウスダストは100μm以下のものをふるい、ジクロロメタンで超音波抽出を行い、ガスクロマトグラフ−質量分析計(Agilent Technology社製)で分析を行った。結果は次のとおりであった。
【表2】

【0033】
2.特異IgEの測定
同住宅に居住する被検者の血清を特異IgE測定装置MAST−26(日立化成製)を用いて測定したところ、以下の結果を得た。
コナヒョウヒダニフンの特異IgE:MASTクラス3
スギ花粉の特異IgE :MASTクラス1
アスペルギルスの特異IgE :MASTクラス0
アルタナリアの特異IgE :MASTクラス0
【0034】
3.結果
コナヒョウヒダニフンの結果を、横軸に局所環境内のアレルゲンの存在強度、縦軸に特異IgEのレベルからなるコナヒョウヒダニフンの分布チャートにプロットしたものが図2である。その結果、コナヒョウヒダニフンはゾーンDに分類された。同様に、スギ花粉、アスペルギルスおよびアルタナリアについても、それぞれの分布チャートにプロットしたところ、いずれもゾーンAに分類された。ゾーンA,B,C,D,Eをそれぞれ1〜5点の点数に換算し、局所環境中の抗原とアレルギーの関連性の強さを示すレーダーチャートを作成し、図3に示した。
図3より、スギ花粉、アルタナリア、アスペルギルスに対しては測定した局所環境に基づいてアレルギーが発生する可能性は低いと判断でき、コナヒョウヒダニのフンに対しては局所環境中に存在するアレルゲン(抗原)によりアレルギーが生じている可能性があると判断できる。従って、局所環境中の該当アレルゲンを除去・低減し、かつアレルゲンの発生を抑制することが、被検者にとって有益となる。
【0035】
一方、空気中およびハウスダスト中から、化学物質としてシックハウス症候群の原因物質となるホルムアルデヒドおよびフタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)が検出されている。ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドは室内空気指針値(厚生労働省)を超え、DEHPも比較的存在量が多い。これらの化学物質は、単独でシックハウス症候群を生じさせ得るものであるほか、アレルギーを悪化させるアジュバント作用を有する可能性もあるため、これらの発生原因をあわせて低減除去することが被検者にとってより有益となり得る。ここで、図4は、ホルムアルデヒドおよび揮発性化学物質の測定結果を、厚生労働省の定める基準値を100%とした場合の値としてレーダーチャートに示したものである。
【0036】
具体的には、この被検者にとっては、コナヒョウヒダニのフンアレルギーが住居環境に基づいて発症しているか発症の可能性があるため、ダニの増殖しやすい場所(寝具、ハウスダスト)をこまめに清掃したり、増殖しやすい環境(温度・湿度)を作らないように気をつけ、また有害な化学物質の量を低減させるために換気等を行うことが有益であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】横軸に局所環境内のアレルゲンの存在強度、縦軸に特異IgEのレベルからなる分布チャートの例。
【図2】コナヒョウヒダニフンの結果をプロットした分布チャート。
【図3】実施例の結果を展開したレーダーチャート。
【図4】ホルムアルデヒドおよび揮発性化学物質の測定結果を、厚生労働省の定める基準値を100%とした場合の値として示したレーダーチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の局所環境中のアレルゲンの量を測定する工程、被検者の前記アレルゲンに対する抗体の量を測定する工程、および測定したアレルゲンの量および抗体の量の関係を評価する工程を有することを特徴とする、局所環境中の被検者アレルギー発症の原因を分析する方法。
【請求項2】
被検者の局所環境中のアレルゲンの量を測定する工程が、局所環境中の塵を採取し分析することによりアレルゲンの量を測定するものである請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
測定するアレルゲンが、ダニ虫体、ダニ糞体、花粉、動物表皮および真菌の少なくとも1種以上である請求項1に記載の分析方法。
【請求項4】
測定する抗体が、特異IgE抗体である請求項1に記載の分析方法。
【請求項5】
測定したアレルゲンの量および抗体の量の関係を評価する工程が、横軸が局所環境内のアレルゲンの存在強度、縦軸が特異IgEのレベルからなる分布チャートに、測定したアレルゲンの量および抗体の量を展開することにより評価する請求項1〜4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
アレルギーを誘導・悪化させる可能性のある化学物質および/またはシックハウス症候群の原因となる化学物質の種類及び濃度を併せて測定する請求項1〜5のいずれかに記載の分析方法。
【請求項7】
化学物質の種類及び濃度を、局所環境中の空気および/または塵を採取して測定する請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
化学物質が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、パラジクロロベンゼン、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリクロロエチル、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリトリル、t−ブチルフェノールおよびノニルフェノールから選択される1種以上である請求項6または7に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−116306(P2008−116306A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299331(P2006−299331)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)