説明

屋根用防水部材

【課題】種々の勾配の屋根に用いることができ、防水性能の低下を抑制でき、しかも取り付け時の作業性に優れた屋根用防水部材を提供する。
【解決手段】防水部材10は、稜線16を挟んで互いに隣接する第1傾斜部11及び第2傾斜部12と、第1傾斜部11の基端から上方に延びる第1起立部13と、第2傾斜部12の基端から上方に延びる第2起立部14と、第1起立部13と第2起立部14の間に位置する伸長部15と、を備えている。伸長部15は、第1起立部13及び第2起立部14に比べて、第1起立部13と第2起立部14が離れる方向に伸び変形しやすく、この伸び変形に伴って第1傾斜部11と第2傾斜部12とのなす角度θが調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棟を介して隣り合う2つの屋根面と、これらの屋根面の基端から上方に延びる側壁面とからなる3つの平面が交わる棟角部を覆うように取り付けられるシート状の屋根用防水部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、勾配を有する第1屋根面と、勾配を有し、棟を介して前記第1屋根面と隣り合う第2屋根面と、これらの屋根面の基端から上方に延びる側壁面とからなる3つの平面が交わる棟角部を覆うように取り付けられるシート状の屋根用防水部材が知られている。この屋根用防水部材は、棟角部及びこの近傍から雨水等が建物の内部に浸入するのを防止するためのものであり、金属材、合成樹脂材などの材料をプレス加工することにより形成されている。前記屋根用防水部材は、棟及びその両側の屋根面に沿って配置される傾斜部(屋根頂部覆板)と、この傾斜部の基端から上方に延び、側壁面に沿って配置可能な起立部(壁面覆板)とを備えている。
【0003】
前記屋根用防水部材の傾斜部は、2つの屋根面に沿うように屈曲した形状を有しており、防水性を高めるために2つの屋根面との間にできるだけ隙間が生じないように配置される。ところが、屋根の勾配は住宅によって様々であるため、通常、種々の屋根勾配に応じた多数の防水部材を品揃えする必要がある。
【0004】
例えば特許文献2には、略扇状の折り畳みシートを有するコーナー用防水シートが開示されており、1つのコーナー用防水シートで複数の異なる勾配の屋根に対応できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭50−42528号公報
【特許文献2】特開平10−280620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のような防水シートでは、折り畳み部分を最大限広げた状態で防水シートを設置する場合を除いて、折り畳み部分においてシートが重なり合っており、しかもこの折り畳み部分の厚みは他の部分に比べて大きくなっている。したがって、折り畳み部分に隙間が生じて防水性能が低下するおそれがある。また、この折り畳み部分の防水性能が低下するのを防ぐために別途何らかの処置が必要となれば、屋根用防水部材の取り付け時の作業性が低下する。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、種々の勾配の屋根に用いることができ、防水性能の低下を抑制でき、しかも取り付け時の作業性に優れた屋根用防水部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、勾配を有する第1屋根面と、勾配を有し、棟を介して前記第1屋根面と隣り合う第2屋根面と、これらの屋根面の基端から上方に延びる側壁面とからなる3つの平面が交わる棟角部を覆うように取り付けられるシート状の屋根用防水部材に関するものである。この屋根用防水部材は、前記第1屋根面に沿って配置される第1傾斜部と、稜線を挟んで前記第1傾斜部と隣り合い、前記第2屋根面に沿って配置される第2傾斜部と、前記第1傾斜部の基端から上方に延び、前記側壁面に沿って配置される第1起立部と、前記第2傾斜部の基端から上方に延び、前記側壁面に沿って配置される第2起立部と、前記第1起立部と前記第2起立部の間に位置しており、前記稜線につながる下端を有し、この下端から上方に延び、前記側壁面に沿って配置される伸長部と、を備えている。前記伸長部は、前記第1起立部及び前記第2起立部に比べて、前記第1起立部と前記第2起立部が離れる方向に伸び変形しやすく、この伸び変形に伴って前記第1傾斜部と前記第2傾斜部とのなす角度が調節される。
【0009】
この構成では、第1起立部と第2起立部の間に位置し、前記稜線から上方に延び、側壁面に沿って配置される伸長部を備えている。この屋根用防水部材は、屋根用防水部材の全体が一様に伸び変形する構造ではなく、第1屋根面と第2屋根面とのなす角度を調節するうえで最適な領域、すなわち稜線につながる領域に伸び変形しやすい伸長部が設けられている。ここでいう伸び変形には、弾性変形及び塑性変形が含まれる。その一方で、伸長部の両サイドに位置する第1起立部及び第2起立部は、伸長部よりも伸び変形しにくい。
【0010】
したがって、第1起立部及び第2起立部において屋根用防水部材の形状安定性を確保して良好な作業性を維持しつつ、伸長部を伸び変形させることにより第1傾斜部と第2傾斜部とのなす角度を調節することができる。しかも、第1起立部と第2起立部とのなす角度に応じて伸長部を伸び変形させるので、例えば特許文献2における折り畳み部のようにシートが重なり合う、厚みが増加するなどの不具合が生じることもない。よって、この構成を備えた屋根用防水部材は、種々の勾配の屋根に用いることができ、防水性能の低下を抑制でき、しかも取り付け時の作業性にも優れている。
【0011】
(2)前記屋根用防水部材において、伸長部が第1起立部及び第2起立部に比べて前記方向に伸び変形しやすい構成としては、例えば、前記伸長部が、前記第1傾斜部、前記第2傾斜部、前記第1起立部及び前記第2起立部と同じ材料からなり、前記伸長部の厚みが、前記第1起立部及び前記第2起立部の厚みよりも小さい形態が挙げられる。
【0012】
この構成では、屋根用防水部材を構成する各部位が同じ材料からなるので、例えば射出成形などの成形手段を用いることにより、第1起立部及び第2起立部よりも厚みの小さい伸長部を備えた屋根用防水部材を成形することができる。このように本構成では、簡単な成形手段を用いて厚みを相対的に小さくするだけで伸長部を伸び変形しやすくできる。
【0013】
(3)前記屋根用防水部材において、伸長部が第1起立部及び第2起立部に比べて前記方向に伸び変形しやすい他の構成としては、例えば、前記伸長部が、前記第1傾斜部、前記第2傾斜部、前記第1起立部及び前記第2起立部と同じ材料からなり、前記伸長部が、第1伸長部と、前記第1伸長部の上端に隣接する第2伸長部とを含み、前記第1伸長部の厚みが前記第1起立部及び前記第2起立部の厚みよりも小さく、前記第2伸長部の厚みが、前記第1伸長部の厚みよりも大きく、前記第1起立部及び前記第2起立部の厚み以下であり、前記第2伸長部の高さが前記第2伸長部の幅よりも小さい形態が挙げられる。
【0014】
この構成では、屋根用防水部材を構成する各部位が同じ材料からなるので、例えば射出成形などの成形手段を用いることにより、第1起立部及び第2起立部よりも厚みの小さい第1伸長部を備えた屋根用防水部材を成形することができる。しかも、この構成では、第1伸長部の上端に隣接する第2伸長部が設けられているので、第1伸長部の厚みを小さくすることに起因する伸長部の強度の低下を補うことができる。また、第2伸長部の厚みは、第1伸長部の厚みよりも大きく、第1起立部及び第2起立部の厚み以下であり、第2伸長部の高さは第2伸長部の幅よりも小さいので、第2伸長部の剛性が高くなるのが抑制されている。これにより、伸長部の伸び変形のしやすさが低下するのを抑制することができるので、取り付け時の良好な作業性が維持される。
【0015】
(4)前記屋根用防水部材において、前記伸長部の内面は、前記第1起立部及び前記第2起立部の内面と同一平面上にあり、前記第1伸長部の外面は、前記第1起立部及び前記第2起立部の外面に比べて前記伸長部の内面側に凹んでいるのが好ましい。
【0016】
この構成では、第1伸長部の外面を凹ませることにより第1伸長部の厚みを第1起立部及び第2起立部よりも小さくしている。そして、伸長部の内面、第1起立部の内面及び第2起立部の内面が同一平面上にあるので、伸長部の内面を凹ませて厚みを小さくする場合に比べて伸長部と側壁面との間に隙間が生じにくく、防水性能の低下を抑制できる。
【0017】
(5)前記屋根用防水部材において、前記伸長部は、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなり、前記第1起立部と前記第2起立部が離れる方向に弾性変形可能であるのが好ましい。
【0018】
すなわち、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、耐水性、耐候性、耐熱老化性等に優れ、かつゴム弾性に富むという性質をもつため、屋根という環境の厳しい場所において使用される屋根用防水部材の材料として特に好適である。
【0019】
(6)前記屋根用防水部材において、前記伸長部は、その下端から上端に向かうにつれて幅が大きくなる扇形状を有していてもよい。
【0020】
前記屋根用防水部材では、第1傾斜部と第2傾斜部とのなす角度を調節するために伸長部を伸び変形させると、伸長部の下端側の部位よりも上端側の部位の方が変形量(伸び率)が大きくなる傾向にある。そこで、この構成では、伸長部を上記のように扇形状にすることにより、伸長部の上端側の部位の伸び変形のしやすさがより高められている。これにより、角度調節時の作業性を向上させることができるとともに、角度調節の範囲をより広げることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の屋根用防水部材は、種々の勾配の屋根に用いることができ、防水性能の低下を抑制でき、しかも取り付け時の作業性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかる屋根用防水部材を棟角部に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図2】(A)は、前記屋根用防水部材を示す平面図であり、(B)は、その正面図である。
【図3】前記屋根用防水部材における第1伸長部の上端に隣接して設けられた第2伸長部及びその近傍を拡大した正面図である。
【図4】図2(B)のIV−IV線断面図である。
【図5】前記屋根用防水部材における傾斜部の角度調整前と角度調整後の状態を示す正面図である。
【図6】(A),(B)は、前記屋根用防水部材の施工手順を示す斜視図である。
【図7】前記屋根用防水部材の変形例を示す正面図である。
【図8】図2(A),(B)に示す屋根用防水部材の物性を評価した部位を示す斜視図である。
【図9】前記屋根用防水部材の物性評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る屋根用防水部材10(以下、単に防水部材10という。)について図面を参照して説明する。本実施形態では、図1に示すように2階建ての住宅に防水部材10が用いられる場合を例に挙げて説明する。
【0024】
図1に示すように、防水部材10は、1階の屋根23における棟21を境に両方向に延びる第1屋根面23a及び第2屋根面23bと、これらの屋根面23a,23bの基端から上方に立ち上がる2階の側壁面25とからなる3つの平面が交わる棟角部22を覆うように取り付けられる。
【0025】
防水部材10は、棟21の一部及びその近傍の屋根面23a,23bを覆う傾斜部と、側壁面25の一部を覆う起立部とを一体的に備えている。図2(A),(B)に示すように、前記傾斜部は、逆V字型の形状を有しており、第1傾斜部11と、第2傾斜部12とを含む。前記起立部は、第1起立部13と、第2起立部14と、伸長部15とを含む。
【0026】
稜線16は、第1傾斜部11と第2傾斜部12とが線状に交わる部位であり、棟21に沿って配置される。この稜線16は、後述する角度調節時における第1傾斜部11及び第2傾斜部12の変位の基点(支点)となる部位である。防水部材10が棟角部22に取り付けられた状態では、稜線16はその長手方向がほぼ水平方向を向く。
【0027】
第1傾斜部11は、稜線16から斜め下方に平板状に延び、第1屋根面23aに沿って配置される。第2傾斜部12は、稜線16を介して第1傾斜部11と隣り合い、稜線16から斜め下方に平板状に延び、第2屋根面23bに沿って配置される。図2(A)に示すように第1傾斜部11及び第2傾斜部12は、それぞれ矩形状を有している。図2(B)に示すように、第1傾斜部11の下面と第2傾斜部12の下面とは、所定の角度θをなしている。第1傾斜部11及び第2傾斜部12は、全体にわたって厚みがほぼ一定である。
【0028】
第1起立部13は、第1傾斜部11の基端から上方に延びており、第2起立部14は、第2傾斜部12の基端から上方に延びている。伸長部15は、第1起立部13と第2起立部14の間に位置し、稜線16につながり、上方に延びている。第1起立部13、第2起立部14及び伸長部15は、側壁面25に沿って配置される。防水部材10が棟角部22に取り付けられた状態では、第1起立部13、第2起立部14及び伸長部15は、ほぼ鉛直方向に平行な姿勢で配置される。
【0029】
図2(B)に示すように、第1起立部13は、正面視で左辺よりも右辺の方が短く上辺と下辺が非平行な台形状を有している。第2起立部14は、正面視で右辺よりも左辺の方が短く上辺と下辺が非平行な台形状を有している。第1起立部13の厚み及び第2起立部14の厚みは、これらの全体にわたってほぼ一定であり、第1傾斜部11の厚み及び第2傾斜部12の厚みとほぼ同じである。
【0030】
図2(B)に示すように、伸長部15は、上下方向に細長い帯状の形状を有している。伸長部15は、第1伸長部17と、第2伸長部18とを含む。伸長部15の下端152(第1伸長部17の下端)は、稜線16の基端につながっている。伸長部15の上端151(第2伸長部18の上端)は、第1起立部13の上端及び第2起立部14の上端とほぼ同じ高さにある。伸長部15の幅W1は、上端151から下端152までほぼ一定である。
【0031】
伸長部15のうち、第1伸長部17は、伸長部15の下端152から上端151の近傍までの大半の領域を占めている。第2伸長部18は、伸長部15のうち、上端151の近傍領域のみを占めている。
【0032】
伸長部15は、第1起立部13及び第2起立部14に比べて第1起立部13と第2起立部14とが離れる方向に伸び変形しやすい部位である。具体的には、伸長部15は、例えば防水部材10を棟角部22に取り付ける作業時に、作業者が左手で第1起立部13を把持し、右手で第2起立部14を把持した状態で左右に第1起立部13及び第2起立部14にそれぞれ引っ張り荷重を加えたときに、第1起立部13及び第2起立部14に比べてその荷重方向に弾性変形又は塑性変形しやすい部位である。言い換えると、伸長部15は、第1起立部13及び第2起立部14に比べて引っ張り荷重が加わったときの伸び率の大きい部位である。
【0033】
図3に示すように、第2伸長部18は、第1起立部13と第2起立部14との間で、かつ第1伸長部17の上端に隣接する位置に形成されている。第2伸長部18は、第1起立部13の上端131と第2起立部14の上端141との間に架け渡されるように設けられている。第2伸長部18の高さ(上下方向の幅)h1は、第1起立部13側の端部から第2起立部14側の端部までほぼ一定である。
【0034】
第2伸長部18の厚みは、第1伸長部17の厚みよりも大きく、第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1とほぼ同じである。第1伸長部17の厚みt2は、図4に示すように第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1よりも小さい。
【0035】
図4に示すように、伸長部15の外面15aのうち、第1伸長部17の外面は、第1起立部13の外面13a及び第2起立部14の外面14aよりも伸長部15の内面15b側に凹んでいる。伸長部15の内面15b(第1伸長部17の内面及び第2伸長部18の内面)は、第1起立部13の内面13b及び第2起立部14の内面14bとほぼ同一平面上にある。
【0036】
防水部材10において、第1傾斜部11と第2傾斜部12とのなす角度θを調節するために伸長部15を伸び変形させると、伸長部15の上端151の伸びが最も大きくなる。したがって、伸長部15の中では上端151に最も負荷がかかりやすいので、第1伸長部17よりも厚みの大きい第2伸長部18を第1伸長部17の上端に隣接して設けることにより、伸長部15の伸び変形に対する耐久性を高めることができる。一方で、第2伸長部18の厚みを大きくするほど伸長部15の伸び変形のしやすさは低下する傾向にある。したがって、第2伸長部18の高さh1は、伸長部15の幅W1(第2伸長部18の幅W1)よりも小さくするのが好ましく、第2伸長部18の厚みは、第1伸長部17の厚みt2よりも大きく、かつ第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1以下であるのが好ましい。
【0037】
防水部材10の材料として例えばオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いる場合、各部位のサイズの具体例を挙げると次のようになる。第2伸長部18の高さh1は、0.5mm〜2mm程度の範囲にあるのが好ましい。伸長部15の幅W1は、2mm〜10mm程度の範囲にあるのが好ましい。第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1は、0.5mm〜1.5mm程度の範囲にあるのが好ましい。第1伸長部17の厚みt2は、第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1の30%〜70%程度の範囲にあるのが好ましい。第2伸長部18の厚みは、第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1の50%〜100%程度の範囲にあるのが好ましい。
【0038】
図5では、角度調節前(伸び変形前)の状態を二点鎖線で示し、角度調節後(伸び変形後)の状態を実線で示している。図2(B)及び図5に示すように、伸長部15は、防水部材10に対して引張力が加えられていない状態では上端151から下端152まで幅W1がほぼ一定であり、第1傾斜部11と第2傾斜部12とは角度θをなしている。
【0039】
一方、後述する防水部材10の取り付け時には、施工現場において実際の屋根の勾配に合うように第1傾斜部11と第2傾斜部12のなす角度θが角度θに調節される。このとき、第1起立部13及び第2起立部14に対しては、伸長部15を伸ばす方向に図5に一点鎖線により示す引張力Fがそれぞれ加えられる。これにより、伸長部15は、図5に実線で示すように伸び変形する。上述したように伸長部15の中では上端151付近の変形量(伸び率)が最も大きく、下端152に向かうにつれて変形量が小さくなる傾向にある。したがって、伸び変形後の伸長部15は、図5に実線で示すように扇形に近い形状となる。
【0040】
また、伸長部15の下端152(第1伸長部17の下端)及びその近傍では、角度θが角度θに調節される過程において、伸長部15が外側に伸びる変形ではなく、伸長部15が内側に縮む変形をする。すなわち、角度θが角度θになると(角度が小さくなると)、第1傾斜部11と第2傾斜部12との距離が小さくなるので、稜線16の基端につながる伸長部15の下端152及びその近傍では、伸長部15の幅W1も小さくなり、当該部位が縮み変形する。
【0041】
本実施形態では、伸長部15の下端152の厚みt2は、第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1よりも小さい。したがって、伸長部15の下端152及びその近傍は、第1起立部13及び第2起立部14に比べて伸び変形だけでなく縮む方向への変形も容易である。よって、角度調節に伴って伸長部15の下端152及びその近傍が縮む方向に変形しても、縮み変形時の抵抗が小さいので、作業性が低下するのを抑制できる。しかも、伸長部15の下端152及びその近傍において多少の縮み変形が生じたとしても、当該部位の厚みt2が厚みt1よりも小さいので、縮み変形に起因して生じる段差を小さく抑えることができる。また、伸長部15の下端152及びその近傍に多少の段差が生じたとしても、当該部位の周囲は、第1屋根面23a、第2屋根面23b又は側壁面25との密着性が確保されるので、防水性能が低下することはない。
【0042】
防水部材10は、防水性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば合成樹脂、合成ゴムなどの高分子化合物が挙げられる。また、防水部材10の伸長部15は、人の手で弾性変形又は塑性変形が可能で、かつ防水性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば合成樹脂、合成ゴムなどの高分子化合物が挙げられ、具体的には、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0043】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとは、オレフィン系樹脂(ポリエチレン系、ポリプロピレン系などの樹脂)のマトリックスにオレフィン系ゴム(EPRゴム、EPDMゴムなどのゴム)を微分散させたものであり、優れたゴム弾性を有するとともに、耐水性、耐候性、耐熱老化性等に優れるといった特性を有している。
【0044】
防水部材10は、全体が単一の材料により構成されていてもよく、複数の異種材料により構成されていてもよい。前者の場合(単一材料により構成されている場合)、伸長部15が他の部位(第1傾斜部11、第2傾斜部12、第1起立部13及び第2起立部14)に比べて人の手により弾性変形又は塑性変形しやすいようにするために、伸長部15の厚み(本実施形態では第1伸長部17の厚み)を他の部位よりも小さくすればよい。この場合、防水部材10は、例えば単一の材料を原料として射出成形などの成形手段を用いて形成することができる。
【0045】
後者の場合(異種材料により構成されている場合)、伸長部15を構成する材料と他の部位を構成する材料とを異ならせ、伸長部15の材料として他の部位の材料よりも伸び変形しやすいものを用いればよい。そして、防水部材10は、これら異種材料を原料として二色成形などの成形手段を用いて形成することができる。この場合、伸長部15以外の他の部位は、必ずしも人の手により弾性変形又は塑性変形させることができなくてもよく、硬質の合成樹脂、金属などを用いることもできる。また、この場合には、伸長部15の厚みと第1起立部13及び第2起立部14の厚みとが同程度であってもよい。
【0046】
後者の場合、伸長部15を構成する材料としては熱可塑性エラストマーなどが例示でき、これと組み合わせる他の部位を構成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂などが例示できる。
【0047】
また、伸長部15を構成する材料として塑性変形するものを用いる場合、第1傾斜部11と第2傾斜部12とのなす角度θを調節した後にはその形状が変形前に戻らず角度θが維持されるので、弾性変形する材料を用いる場合に比べて防水部材10の取り付け時の作業性の点では好ましい。また、伸長部15が塑性変形する場合には、第1傾斜部11及び第2傾斜部12が伸び変形すると角度調節しにくい場合があるので、第1傾斜部11及び第2傾斜部12の材料としては、伸び変形しにくい硬質の合成樹脂、金属などを用いるのがより好ましい。
【0048】
防水部材10における角度θの調節可能範囲は、伸長部15の幅W1、厚みt2、材質などの要部を適宜設計することにより決められる。したがって、単一の防水部材10によって市場の全ての屋根勾配に対応することも可能であるが、例えば緩勾配に用いられるタイプ、急勾配に用いられるタイプなどのようにいくつかに限定されたタイプに応じて要部が設計された少数の品種を品揃えするという対応も可能である。
【0049】
具体例を挙げると次のようになる。例えば、緩勾配タイプの防水部材10は、屋根23の勾配が2寸勾配以上4寸勾配未満の建物に対応できるように設計され、急勾配タイプの防水部材10は、屋根23の勾配が4寸勾配以上6寸勾配以下の建物に対応できるように設計される。この場合、緩勾配タイプの防水部材10では、角度θを136°〜157°程度の範囲に調節可能であり、急勾配タイプの防水部材10では、角度θを118°〜136°程度の範囲に調節可能である。
【0050】
(施工手順)
次に、防水部材10の施工手順について説明する。
【0051】
まず、第1屋根面23a、第2屋根面23b及び側壁面25の必要な部位に、防水性のシートからなる図略のルーフィング材を取り付ける。ルーフィング材とは、例えばフェルト製のシート素地にアスファルトを染み込ませたものであり、屋根葺きの下地に用いられるものである。なお、屋根面23a,23bが傾斜していることから、ルーフィング材は、高さの低い位置から順に、部分的に重ね合わせながら施工される。これにより、屋根面23a,23bの傾斜に沿って雨水等の水分が落ちてきても、この水分がルーフィング材どうしの隙間から内部に浸入することがなく、シール性が良好に確保される。
【0052】
次に、図6(A)に示すように、側壁面25に防水性の両面テープ41を貼り付ける。この両面テープ41は、横長の矩形状を有している。この両面テープ41は、その下縁の中央付近が棟21の基端に位置するように配置される。両面テープ41は、この後の工程において防水部材10の第1起立部13の少なくとも一部と第2起立部14の少なくとも一部とが両面テープ41と重なり得るような範囲に配置される。
【0053】
次に、図6(B)に示すように、防水部材10を棟角部22に配置する。具体的には、まず、角度調節前の防水部材10の勾配が屋根23の勾配に合っている場合には、角度調節をすることなく防水部材10を棟角部22に配置する。一方、角度調節前の防水部材10の勾配が屋根23の勾配に合っていない場合には、防水部材10の勾配が屋根23の勾配に合うように伸長部15を伸び変形させ、角度θを角度θに調節する。
【0054】
ついで、角度調節した状態で第1起立部13の内面13b及び第2起立部14の内面14bを両面テープ41に貼り付ける。これにより、第1起立部13及び第2起立部14が側壁面25に対して位置決めされる。そして、このように位置決めされた状態で、タッカー等の工具を用いてステープル、鋲、釘などの固定部材51を第1傾斜部11及び第2傾斜部12の要所に打ち込む。これにより、第1傾斜部11が第1屋根面23aに対して位置決めされ、第2傾斜部12が第2屋根面23bに対して位置決めされる。
【0055】
第1傾斜部11及び第2傾斜部12を屋根面23a,23bに対してより密着させたい場合には、第1屋根面23a、第2屋根面23b、第1傾斜部11及び第2傾斜部12に跨るように図略の防水テープをさらに貼り付けてもよい。防水部材10の取り付け後は、必要に応じて屋根面23a,23bに図略のルーフィング材がさらに取り付けられ、また、側壁面25に図略の壁用防水透湿シートが取り付けられる。
【0056】
なお、ステープル、鋲、釘などの固定部材51を防水部材10に打ち込んだ場合、防水部材10の材質によっては、その打ち込み部分から雨水等が浸入するおそれがある。そこで、このような事態を確実に防止する観点からも、上述したオレフィン系熱可塑性エラストマーを防水部材10の材質として用いることが好ましい。先にも説明したとおり、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、優れたゴム弾性を有するとともに、耐水性および耐候性等に優れるため、上記のような固定部材51を防水部材10に打ち込んでも、シール性が損なわれるのを抑制でき、防水部材10の性能を長期間にわたって維持することができる。
【0057】
(物性評価)
図8は、防水部材10の物性を評価した部位を示す斜視図である。図9は、その物性評価結果を示すグラフである。図8に示すように、この物性評価では、防水部材10の3箇所から試験片A、試験片B及び試験片Cを採取した。すなわち、試験片Aは、第1起立部13の領域から採取したものである。試験片Bは、第1起立部13、第2起立部14及びこれらの間の伸長部15(第1伸長部17)を含む領域から採取したものである。試験片Cは、第1起立部13、第2起立部14及び伸長部15の上端151に位置する第2伸長部18を含む領域から採取したものである。
【0058】
引張特性の試験は、JISK7127の条件に準拠して行った。各試験片の長さは100mmとし、各試験片の幅は10mmとした。第1起立部13及び第2起立部14の厚みt1は0.8mmとした。伸長部15の幅W1は5mmとした。第1伸長部17の厚みt2は0.4mmとし、第2伸長部18の厚みは0.8mmとし、第2伸長部18の高さh1は0.5mmとした。チャック間の寸法は50mmとし、試験速度は200m/分とした。
【0059】
図9に示すように、試験片Aの伸びと、試験片B及び試験片Cの伸びとを比較すると明らかなように、伸長部15は、同じ強度が加えられたときに第1起立部13よりも伸び変形しやすいことがわかる。また、試験片Bの伸びと試験片Cの伸びとを比較すると明らかなように、伸長部15のうち、第2伸長部18を含む領域は、同じ強度が加えられたときに第2伸長部18を含まない領域に比べて伸び変形が抑制されていることがわかる。このように伸び変形が抑制されているのは、第2伸長部18の剛性が第1伸長部17の剛性よりも高められているからである。
【0060】
また、防水部材10を例えば前述した角度θの範囲に調節する場合には、上端151の部分は14mm程度の伸びが必要になる。図9に示すように、各試験片は、少なくとも14mmの伸びが可能であることがわかる。
【0061】
(変形例)
図7に示す防水部材10の変形例は、伸長部15の幅W1が下端152から上端151に向かうにつれて次第に大きくなる点で図2(B)に示す実施形態とは異なっている。
【0062】
前述したように防水部材10では、第1傾斜部11と第2傾斜部12とのなす角度θを調節するために伸長部15を伸び変形させると、伸長部15の上端151側の部位の変形量が他の部位よりも大きくなる傾向にある。そこで、この変形例では、伸長部15を図7に示すように扇形状にすることにより、伸長部15の上端151側の部位の伸び変形のしやすさがより高められている。これにより、角度調節時の作業性を向上させることができるとともに、角度調節の範囲をより広げることができる。
【0063】
なお、図示は省略するが、この変形例においても伸長部15が第1伸長部17と第2伸長部18とを含んでいてもよい。
【0064】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の形態で実施することができる。
【0065】
例えば前記実施形態では、第2伸長部18を第1伸長部17の上端に隣接する位置に1つだけ設ける場合を例示したが、これに限定されない。例えば、伸長部15の上端151から下端152までの間に上下方向に所定間隔をあけて複数の第2伸長部18を設けてもよい。
【0066】
また、図2(B)に示す前記実施形態では、防水部材10が第2伸長部18を備えている場合を例示したが、この第2伸長部18は必須のものではない。例えば、第2伸長部18を設けなくても伸長部15が引張力Fに対する十分な耐久性を有している場合には第2伸長部18を省略することもできる。
【符号の説明】
【0067】
10 防水部材
11 第1傾斜部
12 第2傾斜部
13 第1起立部
14 第2起立部
15 伸長部
15a 伸長部の外面
15b 伸長部の内面
151 伸長部の上端
152 伸長部の下端
16 稜線
17 第1伸長部
18 第2伸長部
21 棟
22 棟角部
23 屋根
23a 第1屋根面
23b 第2屋根面
25 側壁面
t1 第1起立部及び第2起立部の厚み
t2 伸長部の厚み
W1 伸長部の幅
θ 第1傾斜部の下面と第2傾斜部の下面のなす角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
勾配を有する第1屋根面と、勾配を有し、棟を介して前記第1屋根面と隣り合う第2屋根面と、これらの屋根面の基端から上方に延びる側壁面とからなる3つの平面が交わる棟角部を覆うように取り付けられるシート状の屋根用防水部材であって、
前記第1屋根面に沿って配置される第1傾斜部と、
稜線を挟んで前記第1傾斜部と隣り合い、前記第2屋根面に沿って配置される第2傾斜部と、
前記第1傾斜部の基端から上方に延び、前記側壁面に沿って配置される第1起立部と、
前記第2傾斜部の基端から上方に延び、前記側壁面に沿って配置される第2起立部と、
前記第1起立部と前記第2起立部の間に位置しており、前記稜線につながる下端を有し、この下端から上方に延び、前記側壁面に沿って配置される伸長部と、を備え、
前記伸長部は、前記第1起立部及び前記第2起立部に比べて、前記第1起立部と前記第2起立部が離れる方向に伸び変形しやすく、この伸び変形に伴って前記第1傾斜部と前記第2傾斜部とのなす角度が調節される、屋根用防水部材。
【請求項2】
前記伸長部は、前記第1傾斜部、前記第2傾斜部、前記第1起立部及び前記第2起立部と同じ材料からなり、
前記伸長部の厚みは、前記第1起立部及び前記第2起立部の厚みよりも小さい、請求項1に記載の屋根用防水部材。
【請求項3】
前記伸長部は、前記第1傾斜部、前記第2傾斜部、前記第1起立部及び前記第2起立部と同じ材料からなり、
前記伸長部は、第1伸長部と、前記第1伸長部の上端に隣接する第2伸長部とを含み、
前記第1伸長部の厚みは、前記第1起立部及び前記第2起立部の厚みよりも小さく、
前記第2伸長部の厚みは、前記第1伸長部の厚みよりも大きく、前記第1起立部及び前記第2起立部の厚み以下であり、
前記第2伸長部の高さは、前記第2伸長部の幅よりも小さい、請求項1に記載の屋根用防水部材。
【請求項4】
前記伸長部の内面は、前記第1起立部及び前記第2起立部の内面と同一平面上にあり、
前記第1伸長部の外面は、前記第1起立部及び前記第2起立部の外面に比べて前記伸長部の内面側に凹んでいる、請求項3に記載の屋根用防水部材。
【請求項5】
前記伸長部は、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなり、前記第1起立部と前記第2起立部が離れる方向に弾性変形可能である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の屋根用防水部材。
【請求項6】
前記伸長部は、その下端から上端に向かうにつれて幅が大きくなる扇形状を有している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の屋根用防水部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−172449(P2012−172449A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36949(P2011−36949)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)