説明

山留構造

【課題】仮設資材量および施工手間を大幅に減らすことができ、かつ安定性および信頼性に優れた山留構造を提供する。
【解決手段】山留壁を構成する山留杭1の前面に設けた複数のブラケット2で腹起3を支持する。横向きに設置されたH形鋼からなる腹起3のウェブと前後のフランジで形成される凹部に、台座受けピース5を上から落とし込み、台座6を左右一対の台座受けピース5間に挟み込んだ形で固定する。台座6を構成する溝形鋼6a、6b間に、定着プレート8を設置し、グラウンドアンカー9の後端部を定着させる。グラウンドアンカー9は、山留壁背面の安定した地盤にアンカー定着体を築造したものであり、定着プレート8の貫通孔を貫通させてプレストレスを導入し、後端部を定着させることで山留壁を支える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮設グラウンドアンカー工法における山留壁の腹起を1段(シングル)で施工できるようにした山留構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の山留構造における一般的な形態は、例えば図3に示すように、山留壁の前面の親杭11に対し、H形鋼からなる腹起13a、13bを2段(ダブル)に設け、上下の腹起13a、13bの前面側に取り付けた台座16にグラウンドアンカー19の後端部を固定するものである。このような山留構造は、例えば特許文献1、特許文献2等に示されている。
【0003】
しかし、腹起13a、13bを上下2段に設ける構造では、腹起13a、13bを支持するブラケット12a、12bも上下2段必要であり、仮設材の資材量が多くなるだけでなく、施工手間も多い。
【0004】
これに対し、特許文献3には、「シングル腹起し山留め工法」として、親杭のブラケット上に配置される腹起をグラウンドアンカーの配置ピッチと略同じ長さに分断し、隣り合う腹起の端部の間に跨るように設置された台座にグラウンドアンカーの後端部を固定するようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−353267号公報
【特許文献2】特開2006−037552号公報
【特許文献3】特許第2762123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3記載の山留構造は、腹起が1段(シングル)であることから、仮設材の資材量を減らすことができるが、グラウンドアンカーの設置位置ごとに、短い腹起を多数設置しなければならず、却って施工手間が増すという問題がある。
【0007】
また、多数に分断された腹起で山留壁を支持することになるため、1本の長い腹起を用いる場合に比べ不安定であり、信頼性の確保が難しい。
【0008】
本願発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、仮設資材量および施工手間を大幅に減らすことができ、かつ安定性および信頼性に優れた山留構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る山留構造は、山留壁の前面に設けた複数のブラケットで支持され、フランジ面が前面側および背面側に位置するように配したH形鋼からなる腹起と、先端部側が地山に定着されたグラウンドアンカーと、前記グラウンドアンカーの後端部を山留壁の前面に固定し、グラウンドアンカーからの反力を前記腹起に伝えるための台座と、前記腹起のフランジ間に固定され、前記台座を支持する台座受けピースとからなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の大きな特徴の1つは、前述した特許文献3記載の発明と同様、1段の腹起(シングル)で支持する構造であることであるが、特許文献3のように腹起をグラウンドアンカーの配置位置ごとに分断せずに、腹起のフランジ間に台座受けピースおよび台座を固定する構造としたことで、施工手間が少なく、安定性および信頼性にも優れる。
【0011】
なお、本発明における山留壁は、例えばSMW工法、親杭横矢板工法、鋼矢板工法などの山留め工法によって構築することができ、その場合のブラケットはSMW工法におけるH形鋼等の形鋼、親杭横矢板工法における親杭、あるいは鋼矢板工法における鋼矢板などに設けられる。
【0012】
請求項2は、請求項1に係る山留構造において、前記台座受けピースは、前記腹起のフランジに穿設したボルト孔を貫通するボルトにより着脱自在としたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3は、請求項1または2に係る山留構造において、前記台座は、前記腹起に固定される1対の台座受けピース間にボルト接合されていることを特徴とするものである。
【0014】
台座受けピースおよび台座は、ボルトにより着脱自在とすることで、現場での取り付け、も容易となり、転用が可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の山留構造は、1段の腹起で支持する構造であるため、従来のダブルの腹起に比べ、腹起部材やそれを支持するブラケットを半分に削減することができる。
【0016】
それに伴い、施工手間も減り、工期短縮、工費削減が図れる。
【0017】
また、腹起が1段であるため、腹起の設置高さに制限がある場合(上部に設置スペースがとれない場合等)に有効である。
【0018】
また、台座受けピースおよび台座を腹起のフランジ間に固定するため、グラウンドアンカーの突出量が少なく、ほぼ腹起の幅内に納めることができるため、内側の躯体工事等の障害とならない。
【0019】
引用文献3記載の発明のように腹起が短く分断されることがないため、施工手間が少なく、安定性および信頼性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の山留構造の一実施形態における山留壁前面の断面図(図2のB−B断面)である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】従来例の腹起が2段(ダブル)の山留構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1および図2は、本発明の一実施形態を示したもので、本実施形態における山留構造は、山留壁を構成するH形鋼からなる山留杭1の前面に設けた複数のブラケット2で支持され、フランジ面が前面側および背面側に位置するように配したH形鋼からなる腹起3と、先端部側が地山に定着されたグラウンドアンカー9と、グラウンドアンカー9の後端部を山留壁の山留杭1の前面に固定し、グラウンドアンカー9からの反力を腹起3に伝えるための台座6と、腹起3のフランジ間に固定され、台座6を支持する台座受けピース5とからなる。
【0023】
腹起3は山留壁の側圧をグランドアンカー9に伝達させる部材であり、山留杭1前面のブラケット2に載置し、アングル等からなるずれ止め4で固定している。
【0024】
台座受けピース5は、台座6と腹起3を連結する部材であり、図2に示されるように横向きに設置されたH形鋼からなる腹起3のウェブと前後のフランジで形成される凹部に上から落とし込み、腹起3のウェブおよび前後のフランジにボルト7で固定する。
【0025】
本実施形態における台座受けピース5は鋼材を組み立てて加工したものであり、上述した腹起3の凹部に嵌め込んでボルト接合される正面から見て略三角形の溝状部5aと、台座6の端板6dとボルト接合される端板5bからなり、左右一対の台座受けピース5間に台座6を挟み込んだ形で腹起3に固定される。
【0026】
山留杭1と台座受けピース5間には、安定した支持構造を与えるため、裏込め材10が設けられる。裏込め材10としては、間隔調整可能なブロック状のもの(裏込めブロック)等を利用することもできる。
【0027】
なお、台座受けピース5を構成する鋼材の組み合わせは特に限定されず、例えば、山留部材の隅部フラットピースなどを利用すれば、安価に製作することができる。
【0028】
台座6も鋼材を組み立てて加工したものであり、所定間隔をおいて背中合わせに配置した1対の溝形鋼6a、6bと、溝形鋼6a、6bの両端に溶接などで取り付けた端板6dとからなり、溝形鋼6a、6bにはスティフナー6cを取り付けて補剛している。
【0029】
台座6を構成する溝形鋼6a、6b間に、貫通孔を形成した定着プレート8を設置し、グラウンドアンカー9の後端部を定着させる。
【0030】
グラウンドアンカー9は、山留壁背面の安定した地盤にアンカー定着体を築造したものであり、定着プレート8の貫通孔を貫通させてプレストレスを導入し、後端部を定着させることで山留壁を支える。
【符号の説明】
【0031】
1…山留杭(H形鋼、鋼矢板など)、2…ブラケット(H形鋼)、3…腹起(H形鋼)、4…ずれ止め(アングル)、5…台座受けピース(加工品)、5a…溝状部、5b…端板、5c…吊り孔、6…台座(加工品)、6a、6b…溝型鋼、6c…スティフナー、6d…端板、7…ボルト、8…定着プレート、9…グラウンドアンカー、10…裏込め材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留壁の前面に設けた複数のブラケットで支持され、フランジ面が前面側および背面側に位置するように配したH形鋼からなる腹起と、
先端部側が地山に定着されたグラウンドアンカーと、
前記グラウンドアンカーの後端部を山留壁の前面に固定し、グラウンドアンカーからの反力を前記腹起に伝えるための台座と、
前記腹起のフランジ間に固定され、前記台座を支持する台座受けピースとからなることを特徴とする山留構造。
【請求項2】
前記台座受けピースは、前記腹起のフランジに穿設したボルト孔を貫通するボルトにより着脱自在としたことを特徴とする請求項1記載の山留構造。
【請求項3】
前記台座は、前記腹起に固定される1対の台座受けピース間にボルト接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の山留構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−241533(P2011−241533A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111623(P2010−111623)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000179915)ジェコス株式会社 (27)