説明

崩落監視システムおよび岩塊の変異計測方法

【課題】 レーザ照射によって安全かつ簡便に岩塊の挙動を精度よく監視すると共にレーザによる岩塊の挙動と写真データとの組み合わせによって、効率的に岩塊の亀裂を監視して崩落の危険性を予測すること。
【解決手段】 監視対象の岩塊の測定ポイントの変異に関する監視条件を保存する監視条件保存手段と、レーザの反射光によって測定ポイントの座標データを収集すると共に岩塊の画像データを収集するデータ収集手段と、前記座標データをもとに測定ポイントの変異を演算すると共に前記監視条件を参照して異常の兆候の有無を判定し、異常の兆候ありと判定された場合は、前記画像データをもとに写真測量を実行して測定ポイントを更新する変異検出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩塊崩落の危険性のある箇所における岩塊挙動観測および変異計測手法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、岩塊の崩落を監視する技術としては、岩塊に直接ワイヤを巻きその一端を繰り込み式にしておき、その繰り込み量によって岩塊の動きを監視するという技術が提案されている。(たとえば、特許文献1を参照。)
【0003】
しかし、岩塊の挙動を監視してその崩落を予測するのにその岩塊にワイヤを巻くのは作業負担が大きく、また危険性も伴う。このため、離れたところから写真により岩塊を撮影し、その動きを検出して崩落を監視するという手法が考えられる。
【0004】
写真を用いた亀裂計測の技術として、たとえば特許文献2では、トンネルなどの崩落を予測するために、掘削断面に基準位置となるレーザを照射し、そのレーザ照射位置と共に、亀裂箇所を写真撮影することによって、その亀裂の座標位置を取得して、亀裂面および亀裂面で囲まれたブロック体の体積を算出する技術が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の技術は、既に、亀裂が生じている場合にその亀裂の計測をレーザ照射による基準点をもとに正確に行うものであり、岩塊の微小な動きやそもそも新たな亀裂が発生しているか否かを監視するためには時系列で写真データを比較する必要があり、その負担は多大になる。また、通常、極めて多くの微小な亀裂を有する岩塊に対して、その亀裂の夫々について亀裂が拡大しているか否かを監視するには多大な労力を要する。たとえ、新たな亀裂の発生や亀裂の拡大等の監視処理を計算機で実行させるにしても計算機に大きな負荷をかけることになる。
【特許文献1】特開平10−206198号公報
【特許文献2】特開平11−62465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のかかる事情に鑑みてなされたもので、レーザ照射によって安全かつ簡便に岩塊の挙動を精度よく監視すると共にレーザによる岩塊の挙動と写真データとの組み合わせによって、効率的に岩塊の亀裂を監視して崩落の危険性を予測することができる崩落監視システムおよび岩塊の変異計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、まず、ノンプリズム方式のトータルステーション(データ測定手段)を用いることにある。従来のトータルステーションでは観測時にプリズムを要したため、落石危険箇所への立入りが必要であったが、近年、測量機器の技術進歩に伴いノンプリズム・トータルステーションで200m程度の高精度観測が可能になった。これにより作業の安全性が向上し、効率化を図ることができる。
次に、被写体(岩塊)を異なる方向から観測するようにしたことである。通常は、2箇所から測定することによって信頼性向上のためのデータを取得することとした。
【0008】
また、三次元座標取得のみに留まらず被写体の状況を定点においてデジタルカメラで撮影し、デジタル画像と融合させて変異を計測するようにした。
【0009】
さらに、所定の異常の兆候が生じたときに取得したステレオペアのデジタル画像を用いてデジタル写真測量(間接計測)を行うようにした。岩塊挙動観測における最重要課題は、当初想定した場所以外での挙動や亀裂の発生の対処であるが、ゾーニングの範囲外の場所で変化が起きてもデジタル画像のエリア内であれば、モニタリングデータを有効に活用して、時間を遡っての挙動計測が可能となる。このとき、標定点(パスポイント)を追加または変更することで、常に最初に取得した画像の日時を時系列の起点にできる。
【0010】
具体的には、本発明に係わる崩落監視システムは、監視対象の岩塊の測定ポイントの変異に関する監視条件を保存する監視条件保存手段と、レーザの反射光によって測定ポイントの座標データを収集すると共に岩塊の画像データを収集するデータ収集手段と、座標データをもとに測定ポイントの変異を演算すると共に監視条件を参照して異常の兆候の有無を判定し、異常の兆候ありと判定された場合は、画像データをもとに写真測量を実行して測定ポイントを更新する変異検出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係わる岩塊の変異計測方法は、レーザ測定手段によって収集された岩塊の座標データと、レーザ測定手段に設けられた撮像手段によって収集された画像データを用いて監視対象の岩塊の変異を検知して計測する方法であって、岩塊における一または二以上の測定ポイントを決定する段階と、当該測定ポイントに対してレーザを照射して座標データを収集すると共に岩塊の画像データを収集して蓄積するデータ蓄積段階と、 蓄積された座標データをもとに岩塊の変異を演算して異常の有無を判定する段階と、当該判定結果を出力する段階と、予め定められた所定の異常の兆候が検出されたときは、画像データをもとに写真測量を実行して測定ポイントを更新する異常兆候検出段階と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明は、いわゆるノンプリズム方式によるレーザ測定と写真による測量を組み合わせて効率的な変異検出を行うものである。常時はレーザ測定により測定ポイントの変異を監視し、異常の兆候を検出した場合は、写真測量を実行して新たな亀裂を発見した場合等は、測定ポイントの追加更新を行い、その測定ポイントに対してレーザ測定を行うようにする。
【0013】
ここで、「変異」とは、監視対象の岩塊に生じる何らかの異変を意味し、岩塊位置の変化すなわち変位のほか、新たな亀裂の発生や亀裂の拡大なども含む趣旨である。
【0014】
また、「異常の兆候」とは、クリティカルなレベルに至る前の微小な変異を検出するもので、たとえば、クリティカルレベルに対して10%の変異があった場合は、異常の兆候ありとして管理するものである。
【0015】
本発明に係わる崩落監視システムは、さらに、監視条件保存手段は岩塊種別ごとに測定距離と画像データの分解能とを関連付けて保存し、データ収集手段は測定ポイントからの距離をもとに監視条件保存手段を参照して画像データの分解能を抽出し、当該分解能を満たす撮像倍率によって画像データを収集することを特徴とする。
【0016】
本発明では、撮像倍率を測定距離のみならず岩塊種別によって決めるようにして、岩塊ごとに微小な亀裂を監視する。これにより、僅かな亀裂でも崩壊し易い岩塊やそうでない岩塊など岩塊種別ごとに適切な分解能の画像データとして保存しておくことができる。
【0017】
また、本発明に係わる崩落監視システムでは、監視条件保存手段は岩塊種別ごとに変異速度と測定周期とを関連付けて保存し、変異検出手段は変異の履歴データをもとに変異速度を演算して、測定周期を更新することを特徴とする。
【0018】
本発明では、変異の速度によって測定周期を可変にして監視の効率化と精度の向上を図る。
【0019】
本発明に係わる崩落監視システムでは、さらに、監視条件保存手段はレーザの入射角範囲と誤差区分とを関連付けて保存し、データ収集手段は座標データごとにレーザの入射角情報を収集し、変異検出手段は当該入射角情報をもとに監視条件保存手段を参照して座標データの誤差区分を抽出し、当該誤差区分に基づいて補正された監視条件を用いて異常の兆候の有無を判定することを特徴とする。
【0020】
監視対象に対して、レーザが垂直に照射されるのと、角度を成して照射されるのとでは、取得された座標データの精度が異なる。このため、本発明ではレーザの入射角に基づく誤差区分ごとに監視条件を定め、異常の兆候の有無を判定する。
【0021】
なお、写真測量の実施、不実施をレーザ測定による異常の兆候の発見のみに頼ると、最初に適切でない測定ポイントを選択した場合は、正確な監視ができなくなる。このため異常の兆候の有無に係わらず、レーザ測量よりも長い所定の周期で写真測量を行うのが良いが、好ましくはこの写真測量の周期を測定ポイントの座標データを採取するときのレーザの入射角によって可変にするとよい。レーザの入射角に基づく測定誤差の大きなところでは写真測量の周期を短くすることによって、より高精度の監視が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、レーザ照射によって安全かつ簡便に岩塊の挙動を精度よく監視することができる。また、レーザによる岩塊の挙動と写真データとの組み合わせによって、効率的に岩塊の亀裂を監視して崩落の危険性を的確に予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態による岩塊の変異計測方法を実行するためのシステム構成図である。この図において、本実施の形態の変異計測方法では、ノンプリズム式のトータルステーション(レーザ測定手段)21、デジタルカメラ(撮像手段)22、および、デジタルカメラ22で撮影した画像を処理するためのコンピュータ上で動作するデジタル画像解析ソフトウェア(図示せず)を用いる。
【0024】
デジタルカメラ22は、トータルステーション21に装着され、トータルステーションの方向に向けて撮影可能になっている。なお、デジタルカメラを個別に設ける替りに撮像機能を有するトータルステーションを用いるようにしても良い。もちろん、座標データ収集時のトータルステーション21の設置位置と同じ位置に作業者が立ってデジタルカメラ22で監視対象を撮影するようにして実施することも可能である。
【0025】
以下、このシステムを用いた岩塊の変異計測方法について図2を参照して説明する。
まず、現地踏査として、地質の現況確認を行い、基準点(トータルステーションの設置位置)を選定する(S101)。そして、地質調査技士により落石崩壊のパターンを確認し、不動岩盤点と落石崩壊の可能性のある領域(ゾーニングエリア)を区分けする(S102)。次に、落石崩壊の可能性や危険度から観測周期等の観測計画を立てる(S103)。
【0026】
そして、現地観測のためトータルステーションを基準点に設置し、落石崩壊が予測される箇所にパスポイント(評定点)を選定する(S104)。このパスポイントの選定のしかたを図3(a)(b)を用いて詳述する。
【0027】
図3(a)は、トータルステーションと岩塊を横方向から見た図である。また、図3(b)は、トータルステーションの後方から岩塊を見た図である。トータルステーションは、少なくとも2箇所の基準位置(S位置、T位置)から夫々岩塊の特定のパスポイントの座標データを収集する。たとえば、図3(a)において、落石崩落の危険領域外のS位置にトータルステーションを設置して、不動岩盤点について固定パスポイントを設定する。これは、岩塊の動きを測定するための基準点になるポイントである。この固定パスポイントは複数設けるようにすると良い。将来的にその岩盤が不動でなくなる可能性があるからである。
【0028】
そして、ゾーニングエリアの任意の特徴的なポイントを観測点とする。この観測点のパスポイントは、図4(a)に示すように特徴的な点とする。たとえば、亀裂の交点、角、端などである。亀裂の成長を観測する場合、一つの亀裂に対して両端、角を含む複数点をパスポイントとする(図4(b)の1A1〜1A4)。このパスポイントは、特徴的な亀裂形状と共にスケッチとデジタルカメラで撮影した画像データ上にマークする。また、新たな亀裂が発生した場合には、図4(b)に示すように亀裂の特徴点にパスポイント(1B1〜1B3)を追加する。
【0029】
ゾーニングエリアのパスポイントの他に、固定パスポイントを設定するのは、固定パスポイントを基準にしてゾーニングエリアのパスポイントの相対位置を取得することによって、不動岩盤に対するゾーニングエリアの動きを精度良く算定するためである。また、S位置、T位置の両方から同じパスポイントに向けてゾーニングエリアのデジタル写真を撮ることによってステレオ・ペアを組み、デジタル画像解析ソフトウェアによってデジタル写真測量やオルソ画像の作成が可能となる。
【0030】
次に、現地観測として、パスポイントの観測とデジタル画像の取得を行う(S105)。パスポイントの観測は、具体的には、ノンプリズム・トータルステーションにより、スケッチまたは画像データを参考にパスポイントを視準して三次元座標データを取得する(S105a)。デジタル画像の取得は、崩落が予想される箇所のデジタル画像を撮影する(S105b)。
【0031】
この観測データをもとに、部分崩壊の発生の有無の確認を行い(S106)、部分崩壊が発生している場合はパスポイントの変更や追加等を行い、データを収集する(S107)。また、過去に取得したデジタル画像を用いたデジタル写真測量を行い(S108)、画像解析ソフトウェア等を用いて崩壊シミュレーションと対策工の検討を行い(S109〜S111)、その結果を報告書として出力する。
【0032】
一方、部分崩壊の発生していない場合は、観測した座標の変位をX軸,Y軸,Z軸方向で演算し(S112)、この観測データをもとに、落石危険箇所の崩壊の可能性について判定し(S113)、その判定結果と対策工を報告書として出力する(S114)。
【0033】
以上、本実施の形態によれば、落石危険箇所への立ち入りが不要となり、安全な観測が可能となる。また、ノンプリズム・トータルステーションによる複数箇所からの実測で岩塊挙動を正確かつ定量的に把握することができる。特に、被写体(岩塊)のデジタル画像も取得しているため、オルソ画像の作成と写真判読が可能である。また、観測箇所からのデジタル画像取得により、デジタル写真測量も可能となる。なお、異なる基準点から同一のパスポイントに向けて3枚の画像を取得して、トリプレット画像による解析も可能である。
【0034】
さらに、部分崩壊の発生の有無によって標定点(パスポイント)の追加や変更を行うので、常に最初に取得した画像の日時を時系列の起点にした定量判断が可能となる。
【0035】
また、三次元座標取得のみに留まらずデジタル画像と融合させて「表現する測量」を展開し、撮影箇所を観測場所と同一にすることでデジタル写真測量が可能となる。これにより「測るだけの測量」から「表現する測量」へ展開して、ビジネス効果が期待できる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。図5は、本実施の形態による崩落監視システムのブロック図である。ここで、崩落監視システム1は、レーザによって距離を測定するトータルステーション(TS、データ収集手段)21、ゾーニングエリアの写真を撮影するデジタルカメラ22、収集したデータを通信ネットワーク4を介してサーバへ送信する伝送用端末装置(データ送信手段)23、および、収集したデータを用いて崩落監視の演算を行うサーバ10で構成されている。なお、伝送用端末装置23は、PHSなどの携帯端末を用いるようにしてもよい。
【0037】
サーバ10は、伝送用端末装置23とデータの送受信を行う送受信部11、受信したデータを処理する中央演算処理部12、データを記憶する記憶部13、および、監視条件等の設定データを入力したり、演算結果を出力するためのユーザインタフェースとして入力部14と出力部15を備えている。
【0038】
さらに、中央演算処理部12は、送受信部11を介して他の装置とデータのやり取りを行う送受信処理手段(機能)121、入力部14、出力部15とデータのやり取りを行う入出力処理手段(機能)122、入力された監視条件を記憶部13に保存する監視条件設定手段(機能)123、TS21による測定データおよびカメラ22による画像データを受信して記憶部13へ保存するデータ入力手段(機能)124、パスポイントのマークを付した画像データをカメラ22へ送信するデータ出力手段(機能)125、測定データをもとに監視周期の設定・変更を行う監視周期設定手段(機能)126、パスポイントの設定・更新を行うパスポイント設定手段(機能)127、測定データをもとに被写体である岩塊の変異を検出する変異検出手段(機能)128、および、撮影した画像データの画像解析によって測量を行う写真測量手段(機能)129を備えている。
【0039】
また、記憶部13は、監視条件データを保存する監視条件ファイル(監視条件保存手段)131、TS21から送られてくる座標データを保存する入力データファイル132.カメラ22から送られてくる画像データを保存する画像データファイル133、および、演算結果を保存する演算結果ファイル134を有している。
【0040】
次に、上記の構成を有する崩落監視システム1の動作を説明する。
<監視条件設定段階>
入力部14を介して予め監視条件をサーバ10の記憶部13に保存しておく。入力部14から入力された監視条件データは、中央演算処理部12の入出力処理手段122、監視条件設定手段123を介して記憶部13の監視条件ファイル131に登録される。図6は、監視条件ファイル131のデータ構成例である。
【0041】
岩塊種別ごとに監視項目と監視基準の標準値が保存されている。岩塊種別は、花崗岩、流紋岩などの種別をいうが、立地状況などを加味して基準を設けるようにしても良い。
【0042】
監視項目としては、たとえば、パスポイントの座標値の移動量、形状ごとの亀裂長などがある。また、異常検出条件としては、標準値に対する所定の割合(たとえば10%)の変化を監視したり、変化速度によって異常を監視するようにする。
【0043】
また、異常ランクごとにTSによる座標データの収集周期、カメラによる画像データ収集周期、画像蓄積データを用いた写真測量実行周期が設定されている。この異常ランクは、たとえば、標準値に対する移動量や亀裂長の大きさや変化速度をもとに設定される。
【0044】
なお、ノンプリズム方式では、TS21のレーザの入射角度、すなわち、レーザが被写体に照射されるときの角度によって測定誤差が生ずるため、入射角度ごとに誤差および誤差区分が保存されている。なお、図6中、入射角は、垂線を基準としたレーザの角度をいう。したがって、90度に近いほど水平方向への照射であり、角度が小さくなるにしたがって上方に向けての照射であることを表している。
【0045】
<測定準備段階>
監視対象のゾーニングエリアをレーザ計測するためのTS21を設置する場所を決める。この準備のしかたは、第1の実施の形態と同様である。
【0046】
このとき、カメラ22でゾーニングエリアの写真を撮影し、その画像データをサーバ10へ送信する。この画像データは、画像データファイルに保存されると共に崩落解析の専門家によってパスポイントが選定され、パスポイントごとに識別番号が付され、画像ファイル上に記載される。なお、パスポイント識別番号は、同一の亀裂に属するパスポイントについては識別番号の一部にユニークなコードを付すなどして識別可能になっている。
【0047】
また、この段階において収集した画像データをもとに現地の諸条件(たとえば、岩塊の形状や民家の存在など)を考慮して、図6の監視条件の標準値を変更して、測定場所特有の監視条件を設定するようにしても良い。
【0048】
<データ収集段階>
監視条件ファイルに設定されている周期で座標データおよび画像データの収集が行われる。このとき、現地に設置されたカメラにサーバ10からデータ出力手段125を介してパスポイントが付された画像データを送信し、カメラに表示する。この画像データは、TS21で視準したときに作業員が認識できるように、TS21の倍率に調整されて表示される。
【0049】
作業員は、この画像データに表示されたパスポイントを確認し、TS21で視準し、そのパスポイント位置に対してレーザを照射して座標データを収集する。収集した座標データは、基準標高値や各測点の入射角情報と共に伝送用端末装置23を介してサーバ10に送られ、データ入力手段124によって入力ファイル132に保存される。
【0050】
図7は、入力データファイル132のデータ構成例である。パスポイント識別番号ごとに距離、入射角、座標データが保存されている。また入射角に対応して誤差区分が付されている。
【0051】
<変異検出段階>
変異検出手段128は、入力データファイル132のデータをもとに監視条件ファイル131の条件に従って異常の検出を行う。変異検出手段128の演算結果は、記憶部13の演算結果ファイル134に保存される。図8は、演算結果ファイル134のデータ構成例である。パスポイント識別番号ごとに初期データに対する移動量(変異)、前回測定データに基づく移動量変化速度(変異速度)が計算され、各異常検出条件と比較して、その条件値を超えている場合は、各検出条件に対するフラグをオンにする。この計算においては、入射角に基づく誤差を考慮して、所定の測定誤差が存在するものとして、異常の判定を行うようにする。
亀裂に対しても同様に亀裂長、その変化速度の計算、異常フラグのセットを行う。
【0052】
そして、この変異検出処理によって異常フラグがセットされた場合は、写真測量手段129を起動する。
【0053】
写真測量手段129は、起動されると画像データファイル133の過去から現在に至る画像データを抽出して、画像解析によって、新たな亀裂の有無やその変化速度を演算する。変異検出手段は、この演算結果をもとにパスポイント設定手段127を通してパスポイントの更新を行い、また、監視周期を早めるなどの調整を行う。
【0054】
そして、異常ランクに従って、予め決められた内容のアラームを出力する。このアラームは、出力部15を介してサーバ10側のオペレータに出力をしても良いし、通信ネットワーク4を介して、そのゾーニングエリアに影響される民家の端末装置(図示せず)に警報出力を行うようにしても良い。
【0055】
次に、上記の変異検出段階の処理を図9を用いて詳述する。
まず、データ入力後、変異検出手段128を起動して、入力した座標データを用い各測定ポイントの移動量や亀裂長、および、過去のデータと比較してその変化速度を計算する(S201)。そして、監視条件ファイル131の異常検出条件1と比較して(S202)、異常ありの場合、すなわち、変異の絶対量が所定値を超えている場合は(S203で「Y」)、異常検出1フラグをセットする(S204)。また、同ファイル131の異常検出条件2と比較して(S205)、異常ありの場合、すなわち、変異の変化速度が所定値を超えている場合は(S206で「Y」)、異常検出2フラグをセットする(S207)。
【0056】
以上の処理を全測定ポイントについて行い、いずれかの異常検出フラグがセットされている場合は(S208で「Y」)、監視周期設定手段126を起動して、データ(座標データおよび画像データ)の入力周期や写真測量(画像データによる異常検出)の周期の変更を行う(S209)。なお、周期ではなく次の測量の時期を設定するようにしても良い。また、異常フラグの状態によって危険度が高いと判定された場合は、退避勧告等の所定の警報を出力する(S210、S211)。
【0057】
そして、写真測量手段129を起動して、過去の画像データと比較して新たな亀裂の発生の有無や亀裂の変化の詳細な計測を実行する(S212)。この処理の結果、新たな変異が発見された場合は、パスポイント設定手段127を起動して測定ポイントの追加を行う(S213、S214)。
【0058】
一方、ステップS208で異常検出フラグのセットが無い場合には、次に写真測量時期が到来しているか否かを判定して、写真測量時期に到来している場合はステップS212以降の写真測量処理を実行する(S215)。
【0059】
図9の処理のように、レーザ測定による異常監視と写真測量による異常監視を組み合わせることによって、レーザ測定の入射角度による誤差補正を行わなくても精度の高い監視が可能となるが、入射角によってデータ収集周期あるいは写真測量の周期を可変設定可能にすれば、より効果的な監視が可能となる。
【0060】
本実施の形態によれば、ゾーニングエリアの被写体の座標データの変異を観測することによって、パスポイントの移動量や亀裂の大きさ等の異常の兆候を検出し、それによって、写真測定を行うようにしたので、常に画像データを解析することに比べて負荷を軽減することができる。また、あるパスポイントの異常兆候の検出をトリガにして、他の亀裂の発見やパスポイントの更新を行うようにしたので、最終的な異常状態になるまでに逐次、適切なパスポイントの座標データによって異常を監視することができる。
【0061】
また、第1の実施の形態では、部分崩壊をトリガにして、パスポイントの変更や写真測量を行うようにしたが、本実施の形態によれば、部分崩壊に至る前にパスポイントの更新等を行うことができるので、より精度の高い安全な監視が可能となる。
【0062】
なお、本実施形態はノンプリズム・トータルステーションを用いて崩落監視を行う際に、座標データがレーザの入射角に基づく誤差を有する場合でもレーザ測定と写真測量とを組み合わせて精度の高い監視を実現するものであるが、特許第3645253号の体積算定システムの技術を用いて、入力した座標データに対して入射角による誤差の補正を行うことによって精度の高い変異演算を実行するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施の形態による岩塊の変異計測方法を実行するためのシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態による岩塊の変異計測方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施の形態によるパスポイント設定のしかたの説明図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態によるパスポイントの特徴点の説明図である。図4(a)は観測点(測定点)の画像例、図4(b)はパスポイント追加の説明図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態による崩落監視システムのブロック図である。
【図6】図5の監視条件ファイル131のデータ構成図である。
【図7】図5の入力データファイル132のデータ構成図である。
【図8】図5の演算結果ファイル134のデータ構成図である。
【図9】図5の変異検出手段の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1 崩落監視システム
10 サーバ
11 送受信部
12 中央演算処理装置
13 記憶部
14 入力部
15 出力部
21 トータルステーション
22 カメラ
23 伝送用端末装置
121 送受信処理手段
122 入出力処理手段
123 監視条件設定手段
124 データ入力手段
125 データ出力手段
126 監視周期設定手段
127 パスポイント設定手段
128 変異検出手段
129 写真測量手段
131 監視条件ファイル
132 入力データファイル
133 画像データファイル
134 演算結果ファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象の岩塊の測定ポイントの変異に関する監視条件を保存する監視条件保存手段と、レーザの反射光によって測定ポイントの座標データを収集すると共に岩塊の画像データを収集するデータ収集手段と、
前記座標データをもとに測定ポイントの変異を演算すると共に前記監視条件を参照して異常の兆候の有無を判定し、異常の兆候ありと判定された場合は、前記画像データをもとに写真測量を実行して測定ポイントを更新する変異検出手段と、
を備えたことを特徴とする崩落監視システム。
【請求項2】
前記監視条件保存手段は岩塊種別ごとに測定距離と画像データの分解能とを関連付けて保存し、
前記データ収集手段は測定ポイントからの距離をもとに前記監視条件保存手段を参照して画像データの分解能を抽出し、当該分解能を満たす撮像倍率によって画像データを収集することを特徴とする請求項1記載の崩落監視システム。
【請求項3】
前記監視条件保存手段は岩塊種別ごとに変異速度と測定周期とを関連付けて保存し、前記変異検出手段は演算された前記変異の履歴データをもとに変異速度を演算して、測定周期を更新することを特徴とする請求項1または2に記載の崩落監視システム。
【請求項4】
前記監視条件保存手段はレーザの入射角範囲と誤差区分とを関連付けて保存し、
前記データ収集手段は座標データごとにレーザの入射角情報を収集し、
前記変異検出手段は当該入射角情報をもとに前記監視条件保存手段を参照して座標データの誤差区分を抽出し、当該誤差区分に基づいて補正された監視条件を用いて異常の兆候の有無を判定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の崩落監視システム。
【請求項5】
レーザ測定手段によって収集された岩塊の座標データと、前記レーザ測定手段に設けられた撮像手段によって収集された画像データを用いて監視対象の岩塊の変異を検知して計測する方法であって、
前記岩塊における一または二以上の測定ポイントを決定する段階と、
当該測定ポイントに対してレーザを照射して座標データを収集すると共に前記岩塊の画像データを収集して蓄積するデータ蓄積段階と、
前記蓄積された座標データをもとに岩塊の変異を演算して異常の有無を判定する段階と、当該判定結果を出力する段階と、
予め定められた所定の異常の兆候が検出されたときは、前記画像データをもとに写真測量を実行して測定ポイントを更新する異常兆候検出段階と、
を含むことを特徴とする岩塊の変異計測方法。
【請求項6】
前記データ蓄積段階では座標データごとに該座標データ収集時のレーザの入射角情報を収集し、
前記異常兆候検出段階では前記入射角情報に基づく誤差をもとに定められた周期で写真測量実行することを特徴とする請求項5記載の岩塊の変異計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−242646(P2006−242646A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56596(P2005−56596)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(591260672)中電技術コンサルタント株式会社 (58)