説明

嵩高性に優れた人工毛髪用繊維

【目的】 従来よりも嵩高性に優れ且つ人毛のようなソフトな感触を有する人工毛髪用繊維を提供すること。
【構成】 合成繊維からなり、捲縮前の見かけの嵩比重が0.1〜0.2、捲縮後の見かけの嵩比重が0.02〜0.05の範囲にあり、断面形状が1つの連結部から少なくとも三方へ突出部を有し且つ繊維表面が長さ方向にその一部又は全部が開放された異形断面形状であり、単糸繊度が25〜75デニールである嵩高性に優れた人工毛髪用繊維。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、かつら、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘアー、或いはドールヘアー等の頭髪装飾用として用いられる、ソフトで嵩高性に優れた人工毛髪用繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に人工毛髪用に使用される合成繊維としては、モダクリル繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等がある。従来、これらの繊維を用いて、かつら、ヘアピース等の商品に加工した場合、ソフトであることを追求すると、塩化ビニル等の比重の大きな繊維を選択し、又、嵩高性が必要な場合にはモダクリル繊維等の比重の小さな繊維を選択するといった具合に、繊維の使い分けが必要であった。更に、これらの繊維の使い分けの煩雑さを少しでも解消するために、繊維の断面形状の改良がなされている。例えば、特開昭55−76102号では、略星形やまゆ型等の断面によって人毛に近い性質を出すことが提案されているが、一般的に、円形に近い充実した断面形状を用いると、ソフト感やストレートスタイルには好適であるが、嵩高性の必要なブレード商品には適さない。
【0003】嵩高でボリューム感に富む商品を得ることができる人工毛髪用繊維としては、実開昭56−42980号(実公昭58−37961号)で、断面形状の改良により嵩高性を向上させうる繊維が提案されているが、これは、三叉状Y字形断面であり、これにより、ある程度の嵩高性は得られたが、中央部分から突き出る部分が略矩形であって感触がやや硬い繊維となったりして、これでは、頭髪装飾用としてのソフト感と嵩高性との両方を同時に満足するには必ずしも充分ではないことが分かった。更に、実開昭58−65316号(実公昭63−48652号)では、断面が中心から放射状に配列した3〜6個のT字型突起により構成され各突起先端部が両隣りの突起先端部と接触した中空断面により嵩高性を出した繊維を提案している。しかしながら、このような中空形状の繊維を用いると、嵩高効果は良くとも、曲げ剛性が強いために触感が硬めの商品となるという問題を有していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者らは、人毛のようなソフトな感触を持たせつつ、なおかつ嵩高性を向上させるために鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明の目的は、従来よりも嵩高性を向上し且つソフトな感触を付与した人工毛髪用繊維を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、請求項1の人工毛髪用繊維は、合成繊維からなる人工毛髪用繊維であって、捲縮前の見かけの嵩比重が0.1〜0.2の範囲にあって、断面形状が、1つの連結部から少なくとも三方へ突出部を有し、且つ繊維表面が長さ方向にその一部又は全部が開放された異形断面形状であることを特徴とする。
【0006】ここで、捲縮前の見かけの嵩比重とは、以下の条件により測定されるものである。即ち、捲縮前の繊維束を正確に1mに切り揃え、200gを計り取り(総繊度=180万デニール)繊維束Fとする。この繊維束Fを、図1(イ)に示すような、長さ(L)×幅(W)=30cm×6cmで両端が開放された溝を有する溝状容器1に静置し、上から溝と同寸法の薄板2を静かに置いて、0.25g/cm2 の荷重をかけ、1分間経過後の溝状容器1内にある繊維束Fの比重E0 を捲縮前の見かけの嵩比重とし、次式(1)により求められる。
【0007】E0 =60/(180×H) (1)
【0008】尚、式(1)中、Hは図1(ロ)に示す溝状容器1の内側底辺から薄板2下面までの高さ(cm)である。
【0009】次に、請求項2の人工毛髪用繊維は、請求項1に記載の人工毛髪用繊維であって、捲縮後の見かけの嵩比重が0.02〜0.05の範囲にあることを特徴とする。
【0010】ここで、捲縮後の見かけの嵩比重とは、捲縮前の繊維束から100gを計り取り(総繊度=90万デニール)、該繊維束に捲縮を付与し、更に均一になるように櫛等で繊維束を充分整条した後、繊維の軸方向100mmの間に、互いに隣接する山の高さと谷の深さとの合計の平均が5〜8mmである捲縮形状を山と谷との繰り返し単位で5〜10個の捲縮となるように調整してなる繊維束F’を、捲縮前の見かけの嵩比重測定と同様に図1(イ)に示す容器1に静置し、上から溝と同寸法の薄板2を静かに置いて、0.25g/cm2 の荷重をかけ、1分間経過後の高さH(図1(ロ)に示す溝状容器1の内側底辺から薄板2下面までの高さ(cm))を測定し、その後、溝状容器1からはみ出した繊維束部分を切り落とし、容器内に残っている繊維束の重量G(g)を測定する。繊維束F’の比重E1 を捲縮後の見かけの嵩比重とし、次式(2)により求められる。
【0011】E1 =G/(180×H) (2)
【0012】請求項3に係る人工毛髪用繊維は、請求項1又は請求項2に係る人工毛髪用繊維であって、合成繊維の単糸繊度が25〜75デニールのものである。
【0013】請求項4に係る人工毛髪用繊維は、請求項1〜請求項3に係る人工毛髪用繊維であって、合成繊維の断面形状が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有する略Y字形状のものである。
【0014】更に、請求項5では、請求項1〜請求項4に係る人工毛髪用繊維を、かつら、ヘアピース、ブレート、エスクテンションヘアー等の頭髪装飾用として用いるというものである。
【0015】本発明の人工毛髪用繊維を構成する合成繊維としては、モダクリル系、塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系等、特に限定されるものではないが、目的とするソフトで嵩高性に優れた品質を得るには、ヤング率の比較的小さいモダクリル系繊維、塩化ビニル系繊維等が捲縮を付与したりする加工性やソフト感の上で適しており、更に、優れた嵩高性を得る点については、ポリマー比重の小さいモダクリル系繊維がより好ましい。ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維は、頭髪装飾用として用いる場合は、商品の取扱い上ポリエステル系、ポリアミド系等とともに難燃性の付与が好ましいが、ポリマー比重の点においてはポリオレフィン系繊維が優れており、目的とする嵩比重を得やすい。
【0016】本発明でいう、断面形状が1つの連結部から少なくとも三方へ突出部を有し、且つ繊維表面が長さ方向にその一部又は全部が開放された異形断面形状とは、例えば図2(ア)〜(ウ)に示すような断面T型、Y型、X型等の中心から放射状の突出部を有し繊維の長さ方向に繊維表面の全部が開放された形状のものに加えて、図2(エ)や(オ)に示すように、突出部の先端部が互いに接合した中空部分を有し繊維表面の一部のみが開放された形状も含まれるが、これらの図1(エ)や(オ)の如く中空部分を有するものは、嵩高性の面では優れるが、繊維が硬くなる傾向にあり、本発明の目的とする、嵩高性に優れ且つソフト感に優れた繊維を得るためには、図2(ア)〜(ウ)の如く、全ての突出部と突出部との間が開放された形状がより好ましい。又、前記突出部の数は、1つの連結部から少なくとも三方に突出している形状であればよいが、七方以上に突出部を有する形状となるとポリマー比重の大きな繊維では嵩高性に乏しくなるために、突出部は三方〜六方が好ましく、更に好ましくは、三方〜四方である。
【0017】又、この突出部の形状としては、中央連結部から突出部の先端へ向かうにつれて、突出部の幅は一定でなくとも良く、先端部に向かって徐々に幅が小さくなるテーパー状の形が好ましい。更に、突出部の先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、そこから先端部に向かって徐々に幅が大きくなる形状が好ましい。更に、例えば図3に示すように、中央連結部から三方へ突出部を有し、繊維長さ方向に繊維表面の全部が開放されており、且つ前記突出部の少なくとも1つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、この最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 と前記最もくびれた部分の幅W2 との比W1 /W2 が1.05〜2.0の範囲内であり、且つ前記突出部先端部までの長さRと前記最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 との比R/W1 が1.10〜5.0の範囲となるような断面形状とすることが好ましい。即ち、三方への突出部の少なくとも一つは、従来のような矩形状ではなく、くびれていることが好ましい。このように突出部にくびれを有する断面形状とすることで、所定の嵩比重を有し、従来よりもソフトで嵩高性に優れた繊維とすることができる。
【0018】前記のように、W1 /W2 とR/W1 の範囲は、それぞれ1.05〜2.0及び1.10〜5.0が好ましいが、より好ましくはW1 /W2 は1.05〜1.5の範囲であり、R/W1 は2.0〜4.0の範囲である。W1 /W2 が1.05より小さい場合には、合繊繊維の種類によっては、先端の細い部分が多くなるため、捲縮加工等で割れやすくなることがあり、逆に2.0より大きくなると、断面全体の大きさのバランスが崩れ、最もくびれた部分の幅W2 が極端に細くなるため、繊維の製造の段階で割れやすいという問題が起こることがあり、目標とする嵩高性が達成されなくなることがある。又、R/W1 が1.10より小さい場合は、突出部としての面積効果がなくなることがあり、逆に5.0より大きい場合には、突出部全体の幅が小さくなりすぎるために、屈曲したりして目標とする嵩高性が達成できないことがある。
【0019】尚、前記繊維断面における中央連結部の中心とは、図3に示すように、繊維断面における中央連結部の内接円の中心Oをいい、突出部の先端部とは突出部における前記中央連結部の中心Oから最も離れた点A1 〜A3 をいう。又、突出部の最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 、及び最もくびれた部分の幅W2 とは、中央連結部の中心Oと各突出部の先端A1 〜A3とを結ぶ直線と直交する方向における各部の幅W11〜W13、W21〜W23をいう。
【0020】更に、前記突出部の少なくとも2つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、かつ最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 の最大値W1maxと最小値W1minとの比W1max/W1minは1.05〜1.7、又、中央連結部の中心から各突出部先端部までの長さRの最大値Rmax と最小値Rmin との比Rmax /Rmin が1.05〜1.5の範囲であることがより好ましい。
【0021】ここで、突出部の最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 の最大値W1maxと最小値W1minとは、例えば、図3に示した繊維断面中の各突出部における最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W11〜W13のうちで最大の値と最小の値をいい、連結部の中心から突出部先端部までの長さRの最大値Rmax と最小値Rmin とは、連結部の中心Oから各突出部の先端部A1 〜A3 までの長さR1 〜R3 のうちの最大値と最小値をいう。
【0022】以上、好ましい例として図3に示した中央連結部から三方へ突出部を有する繊維断面について述べたが、更に、図4に示すように、中央連結部から四方へ突出部を有する繊維断面にも好ましい形状がある。即ち、中央連結部から四方へ突出部を有し、繊維長さ方向に繊維表面の全部が開放されており、且つ前記突出部の少なくとも1つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、この最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 と前記最もくびれた部分の幅W2との比W1 /W2 が1.05〜2.0の範囲内であり、且つ前記突出部先端部までの長さRと前記最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 との比R/W1 が1.10〜5.0の範囲となるような断面形状とすることが好ましい。W1 /W2 とR/W1 の範囲は、それぞれ1.05〜2.0及び1.10〜5.0が好ましいが、より好ましくはW1 /W2 は1.05〜1.5の範囲であり、R/W1 は2.0〜4.0の範囲である。
【0023】尚、前記繊維断面における中央連結部の中心とは、図4に示すように、繊維断面における中央連結部の内接円の中心Oをいい、突出部の先端部とは突出部における前記中央連結部の中心Oから最も離れた点A1 〜A4 をいう。又、突出部の最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 、及び最もくびれた部分の幅W2 とは、中央連結部の中心Oと各突出部の先端A1 〜A4とを結ぶ直線と直交する方向における各部の幅W11〜W14、W21〜W24をいう。
【0024】更に、前記突出部の少なくとも2つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、かつ最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 の最大値W1maxと最小値W1minとの比W1max/W1minは1.05〜1.7、又、中央連結部の中心から各突出部先端部までの長さRの最大値Rmax と最小値Rmin との比Rmax /Rmin が1.05〜1.5の範囲であることがより好ましい。
【0025】ここで、突出部の最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 の最大値W1maxと最小値W1minとは、例えば、図4に示した繊維断面中の各突出部における最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W11〜W14のうちで最大の値と最小の値をいい、連結部の中心から突出部先端部までの長さRの最大値Rmax と最小値Rmin とは、連結部の中心Oから各突出部の先端部A1 〜A4 までの長さR1 〜R4 のうちの最大値と最小値をいう。
【0026】本発明の人工毛髪用繊維を製造する際に用いられる紡糸ノズルは、上記のような繊維の断面形状が得られる、例えば、Y字形、T字形、十字形、星形等の形状のノズルが選択される。更に、前記のような、突出部が連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、この最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 と前記最もくびれた部分の幅W2 との比W1 /W2 、及び、前記突出部先端部までの長さRと前記最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 との比R/W1 が上記のような範囲である断面形状の繊維を得るためには、例えば、溶融紡糸法や乾式紡糸法を用いる場合であれば、目的とする繊維の断面形状にほぼ近い孔形状の紡糸ノズルを用いることが望ましく、又、湿式紡糸法による場合も同様であるが、例えばモダクリル繊維を作る湿式紡糸法の場合は必ずしも目的とする繊維の断面形状通りの孔形状である必要はなく、中央連結部からの突出部分にくびれの無いノズル孔形状を用いた場合でも紡糸ドラフトを高めにすることで、上記のように突出部にくびれを有する断面形状の繊維を得ることができる。
【0027】更に、本発明の繊維を得るための紡糸条件には特に限定はないが、目的とする嵩高性を得るための断面形状を達成すべく条件は、紡糸方法に合った最適な条件を定めておくことは必要である。最も好ましい素材のモダクリル系繊維を例にとれば、例えば略Y字形状の紡糸ノズルを用いた際の紡糸ドラフトは少なくとも1.0以上とすることが好ましく、更に好ましくは1.1〜1.7の範囲、特に好ましくは1.1〜1.5の範囲である。
【0028】本発明で繊維に捲縮を付与する方法としては、ギヤークリンプ法やスタフィングボックス法等があるが、頭髪装飾用繊維として、必要最低限の捲縮形状を付与すれば良く、ギアークリンプ法が作業性等の点から好ましい。又、その場合のギヤーの形状や加工条件等は、繊維ポリマーの種類によって適宜選択すればよいが、捲縮形状としては、櫛等で充分に繊維束を整条した後の段階で、繊維の軸方向100mmの間に、互いに隣接する山の高さと谷の深さとの合計の平均が5〜8mmである捲縮形状を山と谷との繰り返し単位で5〜10個となるように付与することで、本発明でいう捲縮後の見かけ嵩比重0.02〜0.05を達成することができる。又、ポリマーの種類によっては、櫛等で繊維束を整条することによって捲縮形状が緩やかになる(山の高さと谷の深さの合計の平均及び山と谷との繰り返し単位数が減少する)場合があるので、捲縮を付与する段階では、互いに隣接する山の高さと谷の深さとの合計の平均は5〜12mmで、山と谷との繰り返し単位は5〜15個となるように上限範囲を拡大するのが望ましい。しかし、前記山と谷との繰り返し単位の個数が多くなりすぎると、嵩高性は良くなるものの、その分長さのロスは大きくなり、更にボリュームがあり過ぎて、スタイルのまとまりが悪くなり、編みにくい等、加工性も低下する等の問題が発生することがある。逆に、櫛等による整条後に、この繰り返し単位が5個より少なくなると、嵩高性が低下し、商品価値が薄くなることがあるため、前記5個の繰り返し単位程度の捲縮形状が望ましい。
【0029】本発明の人工毛髪用繊維における単糸繊度は25〜75デニールの範囲が望ましいが、ソフト感をより強調するためには、25〜40デニールの範囲が更に好ましい。
【0030】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明する。尚、特に断りのない限り、デニールはdと略号で表示する。
【0031】<実施例1>アクリロニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、図5に示す、中央連結部から三方へ突出した突出部の先端に膨出部を有する略Y字形紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液中に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.5であった。この繊維は、溶剤の残っている状態で2倍の延伸を施し、次いで120℃で乾燥後、2.5倍の熱延伸を施し、更に乾燥よりも高温度で乾熱処理を施した。得られた繊維は、図10(ア)のような断面形状を有し、単繊維の繊度は32dであった。得られた繊維を束ねて総繊度180万dとし、図1に示す測定容器にて、捲縮前の見かけの嵩比重を測定したことろ、高さH=2.5cmであった(E0 =0.13)。又、この繊維束の二分の一(90万d)をギヤーピッチ=8mm、ギヤー深さ=5mmのクリンプ加工機械を用いて、捲縮を付与した後、櫛で充分整条し、見かけの嵩比重を前記と同様の測定容器で測定したことろ、高さH=8.2cm、繊維束の重量G=33.5gであった(E1 =0.023)。又、前記測定条件と同じ条件のクリンプ加工を施し整条した繊維束を、代表的なブレードである5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品とし、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った。これらの結果を表1及び表2に示した。
【0032】<比較例1>実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、図6R>6に示した中央連結部から三方へ矩形状突出部を有する略Y字形紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液中に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.2であった。この繊維を、実施例1と同様の方法で乾燥〜延伸〜熱処理を施した。この繊維は、図10(ウ)に示すような断面形状を有し、又、単繊維の繊度は45dであった。得られた繊維を束ねて総繊度=180万dとし、図1に示す測定容器にて、捲縮前の見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=1.5cmであった(E0 =0.22)。又、この繊維束を実施例1と同様にしてクリンプ加工機械を用いて、捲縮を付与し整条した後、同様の測定容器にて見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=4.0cm、G=39gであった(E1 =0.054)。又、実施例1と同様にクリンプ加工を施し整条した繊維束を、代表的なブレードである5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品とし、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った。これらの結果を表1及び表2に示した。
【0033】<比較例2>実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、図7R>7に示す略C形紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液中に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.2であった。この繊維は、実施例1と同様の方法で乾燥〜延伸〜熱処理を施した。得られた繊維は図10(エ)に示すような断面形状を有し、単繊維の繊度は32dであった。得られた繊維を束ねて総繊度=180万dとし、図1R>1に示す測定容器にて、捲縮前の見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=1.8cmであった(E0 =0.19)。又、この繊維束を実施例1と同様にしてクリンプ加工機械を用いて、捲縮を付与し整条した後、同様の測定容器にて見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=7.5cm、G=44gであった(E1 =0.033)。又、実施例1と同様にクリンプ加工を施し整条した繊維束を、代表的なブレードである5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品とし、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った。これらの結果を表1及び表2に示した。
【0034】<実施例2>実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、図8R>8に示す、中央連結部から四方へ突出した突出部の先端に膨出部を有する略十字形紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.1であった。この繊維は、実施例1と同様の方法で乾燥〜延伸〜熱処理を施した。得られた繊維は図10(イ)に示すような断面形状を有し、単繊維の繊度は32dであった。得られた繊維を、束ねて総繊度=180万dとし、図1に示す測定容器にて、捲縮前の見かけの嵩比重を測定したことろ、高さH=1.7cmであった(E0 =0.20)。又、この繊維束を実施例1と同様にしてクリンプ加工機械を用いて捲縮を付与し整条した後、見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=4.5cm、G=39.2gであった(E1 =0.048)。又、実施例1と同様にクリンプ加工を施し整条した繊維束を、代表的なブレードである5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品とし、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った。これらの結果を表1及び表2に示した。
【0035】<比較例3>ポリプロピレン(MI(JIS K7210によるメルトインデックス)=10g/分)を溶融押し出し機にて、図9に示す紡糸ノズルを用いて溶融紡糸した。紡糸温度は240〜265℃で、引き取り速度は100m/minであった。得られた繊維を更に4倍延伸し、単糸繊度40dの繊維を得た。この繊維は図10(オ)に示すような断面形状を有していた。得られた繊維を束ねて総繊度180万dとし、図1に示す測定容器にて、捲縮前の見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=2.2cmであった(E0 =0.15)。又、この繊維束を実施例1と同様にしてクリンプ加工機械を用いて、捲縮を付与し整条した後、同様の測定容器で見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=6.0cm、G=38.6gであった(E1 =0.036)。又、実施例1と同様にクリンプ加工を施し整条した繊維束を、代表的なブレードである5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品とし、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った。これらの結果を表1及び表2に示した。
【0036】<実施例3>ポリプロピレン(MI(JIS K7210によるメルトインデックス)=10g/分)を溶融押し出し機にて、図5に示す紡糸ノズルを用いて溶融紡糸した。紡糸温度は240〜265℃で、引き取り速度は100m/minであった。得られた繊維を更に4倍延伸し、単糸繊度40dの繊維を得た。この繊維は、図10(ア)に示すような断面形状を有していた。得られた繊維を束ねて総繊度180万dとし、図1に示す測定容器にて、捲縮前の見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=3.1cmであった(E0 =0.11)。又、この繊維束を実施例1と同様にしてクリンプ加工機械を用いて、捲縮を付与し整条した後、同様の測定容器で見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=8.9cm、G=33.5gであった(E1 =0.021)。又、実施例1と同様にクリンプ加工を施し整条した繊維束を、代表的なブレードである5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品とし、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った。これらの結果を表1及び表2に示した。
【0037】<実施例4>極限粘度が0.53のポリエチレンテレフタレートを溶融押し出し機にて、図5に示す紡糸ノズルを用いて溶融紡糸した。紡糸温度は270〜285℃で、引き取り速度は100m/minであった。得られた繊維を引き続き75℃熱水中で2倍延伸し、更に熱水中で2.5倍延伸し140℃ヒーターロールにて熱処理した。得られた繊維は、図10(ア)に示すような断面形状を有し、単繊維の繊度は32dであった。得られた繊維を束ねて総繊度180万dとし、図1に示す測定容器にて、捲縮前の見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=1.75cmであった(E0 =0.19)。又、この繊維束を実施例1と同様にしてクリンプ加工機械を用いて、捲縮を付与し整条した後、同様の測定容器で見かけの嵩比重を測定したところ、高さH=5cm、G=45gであった(E1 =0.050)。又、実施例1と同様にクリンプ加工を施し整条した繊維束を、代表的なブレードである5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品とし、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った。これらの結果を表1及び表2に示した。
【0038】
【表1】


【0039】
【表2】


【0040】
【発明の効果】本発明に係る人工毛髪用繊維は、捲縮前の見かけの嵩比重が0.1〜0.2の範囲にあり、捲縮整条後の見かけの嵩比重が0.02〜0.05の範囲にあり、かつら、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘアー、ドールヘアー等の頭髪装飾用として用いた時に、ソフトで嵩高性に優れた製品を提供し得るものであり、特にヘアピース、ブレード等、嵩高性を必要とする商品に対しては、非常に優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 捲縮前の嵩比重を測定する方法を示す説明図であり、(イ)は斜視図で(ロ)は測定時の断面図である。
【図2】 (ア)〜(エ)は、いずれも本発明に係る繊維の各種断面形状を示す断面説明図である。
【図3】 本発明に係る繊維の好ましい断面形状の寸法説明図である。
【図4】 本発明に係る繊維の好ましい断面形状の寸法説明図である。
【図5】 実施例1、3、4に用いた紡糸ノズルの断面説明図である。
【図6】 比較例1に用いた紡糸ノズルの断面説明図である。
【図7】 比較例2に用いた紡糸ノズルの断面説明図である。
【図8】 実施例2に用いた紡糸ノズルの断面説明図である。
【図9】 比較例3に用いた紡糸ノズルの断面説明図である。
【図10】 実施例及び比較例で得られた繊維の断面説明図であり、(ア)は実施例1、3、4、(イ)は実施例2、(ウ)は比較例1、(エ)は比較例2、更に、(オ)は比較例3で得られた繊維の断面説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 合成繊維からなる人工毛髪用繊維であって、捲縮前の見かけの嵩比重が0.1〜0.2の範囲にあって、断面形状が、1つの連結部から少なくとも三方へ突出部を有し、且つ繊維表面が長さ方向にその一部又は全部が開放された異形断面形状であることを特徴とする嵩高性に優れた人工毛髪用繊維。
【請求項2】 捲縮後の見かけの嵩比重が0.02〜0.05の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】 合成繊維の単糸繊度が25〜75デニールである請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】 合成繊維の断面形状が、1つの連結部から三方へ突出部を有する略Y字形状である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】 かつら、ヘアピース、ブレート、エスクテンションヘアー、ドールヘアー等の頭髪装飾用である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。

【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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