説明

工作機械および工作機械で加工されたワークからの切り粉等の除去方法

【課題】大きなコストをかけることなく、切削加工後のワークに残存する切り粉やクーラントの除去作業を工作機械設備内で効率的に行うことができるようにした工作機械、および工作機械を用いた切り粉等の除去方法を開示する。
【解決手段】切削刃具を交換自在に装着できる主軸1と、ワーク搬送パレット10のための固定冶具2とを少なくとも備える工作機械Aにおいて、主軸1に交換自在とされたワーク反転用保持具30をさらに備えると共に、ワーク搬送パレット10にはワーク反転用保持具30が挿入可能な貫通孔11を形成する。切削加工の終了後、主軸に1にワーク反転用保持具30を取り付け、ワーク反転用保持具30をワーク搬送パレット10の貫通孔11に挿通した後、主軸1を操作して、ワーク20をワーク搬送パレット10と共に反転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3軸移動をする主軸を備えた工作機械と、その工作機械で加工されたワークから切り粉等を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば3軸移動をする主軸を備えた工作機械の主軸に切削刃具を取り付けてワークに切削加工を施すと、ワークに切り粉やクーラントが付着するのを避けられず、切削加工終了後に、ワークから切り粉やクーラントを除去する作業が必要となる。この除去作業を容易にかつ確実に行うために、従来いくつかの方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、加工後のワークをワーク洗浄装置に移し替えた後、ワークに振動を与えながら、そのワークを回転させることで、孔内に存在する洗浄液を効果的に除去することが記載されている。特許文献2には、自動ワーク交換式工作機械のパレット搬出入部に、別途パレット反転装置を設置し、パレット反転装置によって反転した姿勢とされたワークおよびパレットにエアーを供与して切り粉を除去するようにした切り粉除去装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−210253号公報
【特許文献2】実開平3−10042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、加工後のワークから切り粉やクーラントを効率的に除去する従来の方法あるいは装置は、いずれも、工作機械とは別の設備として、ワークに振動を与える装置やワークを反転させる装置などを用いるようにしており、装置点数の増加による設備費の増大や設備スペースの拡大を招いている。また、工作機械設備の外で切り粉やクーラントの除去作業を行うことから、工作機械周辺の作業環境を悪化させると共に、工作機械設備内で行う切り粉やクーラントの回収作業と同様な作業を、工作機械設備外でも行うことが必要となっている。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、大きなコストをかけることなく、切削加工後のワークに残存する切り粉やクーラントの除去作業を工作機械設備内で効率的に行うことができるようにした工作機械、および工作機械を用いた切り粉等の除去方法を開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による工作機械は、切削刃具を交換自在に装着できる主軸とワーク搬送パレットのための固定冶具とを少なくとも備える工作機械であって、前記工作機械は前記主軸に交換自在であるワーク反転用保持具をさらに備え、前記ワーク搬送パレットは前記ワーク反転用保持具が挿入可能な貫通孔を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明による切り粉等の除去方法は、前記した工作機械を用いてワークから切り粉等を除去する除去方法であって、ワークに対する切削加工の終了後、主軸に前記ワーク反転用保持具を取り付ける工程と、前記主軸を前進させて前記主軸に取り付けたワーク反転用保持具を前記ワーク搬送パレットに形成した前記貫通孔内に挿入する工程と、前記主軸を操作して前記ワーク反転用保持具に3軸的運動を与え、前記ワークとワーク搬送パレットとに、少なくとも、前記固定冶具からの上昇移動、180度の反転移動と反転後の原姿勢への復帰移動、および前記固定冶具への下降移動の各移動を生じさせる反転動作工程と、前記主軸を後退させて前記ワーク反転用保持具を前記ワーク搬送パレットから離脱させる工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、従来の工作機械に、装置としては、前記したワーク反転用保持具を新たに備えること、および従来のワーク搬送パレットに前記ワーク反転用保持具が挿入可能な貫通孔を設けること、を追加するだけであり、少ない設備投資で、所要の工作機械を得ることができる。また、方法としては、従来の切削加工のプログラムに、前記した切り粉等の除去に必要な動作プログラムを作成し追加することで、自動的かつ1サイクル内に切り粉等の回収作業を行うことが可能であり、大きな追加的投資を要しない。さらに、本発明によれば、当該工作機械設備内でワークからの切り粉やクーラントの回収作業を行うことができるので、従来の工作機械設備内に備えられている切り粉やクーラントの回収設備をそのまま利用することができ、その点からも設備投資を低減することができることに加え、従来のように、工作機械周辺の作業環境を悪化させることもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大きなコストをかけることなく、工作機械設備内で、加工後のワークから切り粉やクーラントを効率的に除去することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による工作機械とそれを用いてワークから切り粉等を除去する方法を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。
【0013】
図示の例において、工作機械Aは、自動制御機構を備えた1軸式数値制御工作機械であり、図示されるように、主軸1と、ワーク搬送パレット10のための固定冶具2とを少なくとも備える。パレット固定冶具2の近傍には、ワーク搬送パレット10に固定されたワーク20を固定冶具2に固定するためのクランプ3が備えてある。工作機械Aにおける、主軸1に3軸的運動を生じさせる機構などは従来知られたものであってよく、図示および説明は省略する。
【0014】
前記主軸1には、従来知られた機構により、ワーク20に対する加工内容に応じた複数種類の図示しない切削刃具が交換自在に取り付けられる。また、固定冶具2には、やはり従来知られた搬送機構により、ワーク20を図示しない締め付けボルトで固定した状態のワーク搬送パレット10が搬送され、搬送後に、前記したクランプ3により固定冶具2に対して固定される。その後、図示しない所定の切削刃具を固定した主軸1に対して3軸的運動が与えられ、固定冶具2に固定されたワーク20に対して所要の切削加工が施される。切削加工の間、冷却剤であるクーラントが切削加工位置周辺に供与される。
【0015】
図において、30はワーク反転用保持具である。ワーク反転用保持具30は、主軸1への取り付け部である主軸チャックホルダー31と、そこからY軸方向に伸びる2叉状のワーク搬送パレット保持部32とを備える。ワーク搬送パレット保持部32は、断面矩形状をなす平板材で構成され、その先端はY軸に直交するX軸方向に屈曲した屈曲部33とされている。
【0016】
前記ワーク搬送パレット10は、従来用いられているワーク搬送パレットと同様なものであるが、その一部に、ワーク反転用保持具30の前記ワーク搬送パレット保持部32が挿通することのできる2つの貫通孔11が形成されている。貫通孔11の横幅は、ワーク反転用保持具30におけるワーク搬送パレット保持部32の先端の屈曲部33のX方向の幅とほぼ同じ幅であり、貫通孔11の厚さ(上下幅)は、前記ワーク搬送パレット保持部32の板厚と同じかわずかに厚い厚さとされている。
【0017】
ワーク20に対する切削加工を行うに当たっては、定法に従い、ワーク搬送パレット10にワーク20を締め付けボルトによって固定する。ワーク20を固定したワーク搬送パレット10を、ワーク搬送パレット10に形成した前記貫通孔11の方向が、工作機械Aの前記主軸1の軸方向(Y軸方向)の同じ方向となるようにして、従来知られたパレット搬送手段により固定冶具2まで搬送し、前記したように、固定冶具2に対してクランプ3により固定する。その状態でワーク20に対する所要の切削加工が行われる。
【0018】
所要の切削加工を終了した後、主軸1を後退させ、切削刃具を取り外し、その代わりに前記したワーク反転用保持具30を主軸1に取り付ける。主軸1をY方向に前進させて、前記ワーク反転用保持具30のワーク搬送パレット保持部32を、固定冶具2に固定されているワーク搬送パレット10に形成した貫通孔11内に挿通する(工程1:図1において(1)として示される。以下、同じ)。挿通後、主軸1を図で左方向であるX方向に移動して、ワーク搬送パレット保持部32の前記屈曲部33がワーク搬送パレット10に係った姿勢とする(工程2)。
【0019】
その状態でクランプ3を外すと共に、主軸1を上方(Z軸方向)に移動し(工程3)、さらにその位置から図で右方向に所定距離だけ移動して、主軸1を回転作動位置とする(工程4)。前記右方向への移動距離は、ワーク搬送パレット10が固定冶具3から横方向に外れた位置となるまでの距離とする。前記回転作動位置で、主軸1に180度の反時計方向の回転作動を与え(工程5)、その位置で作動を停止させる。
【0020】
この回転作動により、ワーク20には180度の反転が与えられる。換言すれば、ワーク搬送パレット10の上方側に固定されていたワーク20は、ワーク搬送パレット10の下方側に固定された姿勢となる。この反転により、ワーク20内に残存する切り粉や切削クーラント液は下方に向けて落下し、ワーク20から除去される。その後、主軸1を時計方向に180度回転させて、ワーク20を元の位置、すなわちワーク搬送パレット10の上位の位置に戻す(工程6)。必要に応じて、前記工程5と工程6とを繰り返す。
【0021】
切り粉等の除去作業を終えた後、主軸1を図で左方向に移動して、ワーク20を固定冶具2の真上に位置させ(工程7)、さらに、主軸1を下降させて、ワーク20およびワーク搬送パレット10を固定冶具2上の原位置に戻す(工程8)。その後、主軸1をわずかに図で右方向に移動して、ワーク搬送パレット保持部32の前記屈曲部33とワーク搬送パレット10との係合を外した後(工程9)、主軸1をワーク反転用保持具30と共に、原位置に戻す(工程10)。
【0022】
切り粉やクーラントが除去されたワーク20は、定法により工作機械設備の外に搬出されると共に、固定冶具2には、次のワーク20がワーク搬送パレット10と共にセットされて、次の切削加工が開始する。
【0023】
上記のように、本発明によれば、前記工程1〜工程10を1サイクルとして行うことにより、ワーク20からの切り粉やクーラント液の除去作業は容易にかつ確実に進行する。また、この除去作業は、切削加工に用いた工作機械設備内で行うことができるので、切り粉やクーラント液を工作機械設備から持ち出すことはなく、工作機械設備周辺の作業環境を悪化させることはない。さらに、除去した切り粉やクーラントは、当該工作機械設備内に従前から備えられている切り粉やクーラントの回収設備をそのまま利用することができるので、別途切り粉等の除去設備を設ける場合と比較して、設備の設置コストと運転コストを共に低減することもできる。
【0024】
なお、本発明において、図示に示したワーク反転用保持具30の形状は一つの例であって、これに限らない。ワーク反転用保持具30の形状は、ワーク搬送パレット保持部32をワーク搬送パレット10内に挿通することによって、ワーク搬送パレット10を安定的に保持できる形状であればよく、一枚の平板であってもよく、2本以上の平行な丸棒あるいは楕円棒であってもよい。挿通後にワーク搬送パレット10を安定的に180度反転できることを条件に、前記したものであればワーク搬送パレット保持部先端の屈曲部33の形状も任意であり、省略することもできる。その場合、ワーク搬送パレット10に形成する貫通孔11の形状も、ワーク搬送パレット保持部32がガタのない状態で挿通できる形状に変更される。
【符号の説明】
【0025】
A…工作機械、
1…主軸、
2…固定冶具、
3…クランプ、
10…ワーク搬送パレット、
11…ワーク搬送パレットに形成した貫通孔、
20…ワーク、
30…ワーク反転用保持具、
31…主軸チャックホルダー、
32…ワーク搬送パレット保持部、
33…ワーク搬送パレット保持部先端の屈曲部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削刃具を交換自在に装着できる主軸とワーク搬送パレットのための固定冶具とを少なくとも備える工作機械であって、前記工作機械は前記主軸に交換自在であるワーク反転用保持具をさらに備え、前記ワーク搬送パレットは前記ワーク反転用保持具が挿入可能な貫通孔を備えることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械を用いてワークから切り粉等を除去する切り粉等の除去方法であって、
ワークに対する切削加工の終了後、主軸に前記ワーク反転用保持具を取り付ける工程、
前記主軸を前進させて前記主軸に取り付けたワーク反転用保持具を前記ワーク搬送パレットに形成した前記貫通孔内に挿入する工程、
前記主軸を操作して前記ワーク反転用保持具に3軸的運動を与え、前記ワークとワーク搬送パレットとに、少なくとも、前記固定冶具からの上昇移動、180度の反転と反転後の原姿勢への復帰移動、および前記固定冶具への下降移動の各移動を生じさせる反転動作工程、および、
前記主軸を後退させて前記ワーク反転用保持具を前記ワーク搬送パレットから離脱させる工程、
の各工程を少なくとも含むことを特徴とするワークからの切り粉等の除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−207923(P2010−207923A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53305(P2009−53305)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】