説明

工具用ソケット

【課題】製造が容易で、不正改造が不可能な工具用ソケットに提供
【解決手段】工具接続用軸棒を装着するための軸棒装着部10、バネ収容部11、内装ソケット収容部12、小径部13およびアウターソケット14を有するソケット本体1と、圧縮バネ2と、Cリング3と、大径部41、Cリング収容溝部42およびインナーソケット44を有する内装ソケット4とを備え、圧縮バネ2を内装ソケット4の底部45と内底部16との間に収容し、Cリング3をソケット本体1の小径部13と内装ソケット4の大径部41との間に収容した工具用ソケット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具(電動工具、エアーツールなど)に接続して使用することができる工具用ソケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトやナットの締め付けは、インパクトレンチにソケットを取付けて行われていた。これは、ソケットには締め付け時に大きなトルクがかかり、従来のインパクトドライバーでは出力が不足していたからである。しかし、近年、インパクトドライバーの出力が向上しているとともに、インパクトドライバーに使用されるバッテリーの長寿命化も手伝って、インパクトドライバーに取付け可能なソケットが人気となっている。
【0003】
特に、建築物の施工においては、2種以上の径の締め付け金具が用いられている。そこで、ソケット径の異なる二つのソケットを有する工具用ソケットは、簡単な操作で二種のソケットを切り替えることができるので、作業現場では重宝されており、従来、様々なものが開示されている。
【0004】
特許文献1には、ソケット本体の前端部側にソケット(アウターソケット)を有し、後端部側に作業工具への装着部を有する工具用ソケットにおいて、アウターソケット内に軸方向に移動自在に設けられたインナーソケットを備える工具用ソケットに関する発明が開示されている。特許文献2には、アイビーフォームタイ(登録商標)の締め付けに用いることができる「電動レンチ用ソケット」に関する発明が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−105333号公報
【特許文献2】実開平5−93766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている発明では、ソケット本体のソケット孔と中空部とにわたって嵌合される移動ソケットの中空本体部には圧縮バネが内装されるが、このとき、ソケット本体の中空部の内周面および移動ソケットの中空本体部の外周面に、それぞれOリング(特許文献1の図3などの符号13および14)を設けて、ソケットの移動を規制することとしている。
【0007】
しかしながら、Oリングとは、通常、「ニトリルゴムその他用途に応じた材質で作られた断面が円形であるシール用リングのこと」(図解機械用語辞典 第3版、1993年11月30日、日刊工業新聞社発行)を意味するが、ゴムなどで作られたシール用リングではソケットの移動を規制できない。また、仮に、特許文献1に記載されている「Oリング」が通常の意味である「シール用リング」ではなく、金属などの硬質材料で作られたリングであるとした場合でも、Oリングには開口部がない、即ち、半径方向の伸縮ができないのであるから、どのようにしてソケット本体の中空部の内周面および移動ソケットの中空本体部の外周面にOリングを取り付けるのか不明である。更に、仮に何らかの方法によりOリングを取り付けることができたとしても、周方向の伸縮ができないのであるから、移動ソケットをソケット本体内に収容することは不可能である。
【0008】
また、特許文献2には、インナーソケットの外周面にリングを嵌め込むことにより、アウターソケットの移動を規制したソケットの例が開示されているが、このように、規制用のリングが露出しているソケットにおいては、リングの取り外しが容易であり、客先における不正な改造を防止することができない。不正な改造を防止するために、特殊な工具を用いなければソケットを分解出来ないようにすることも考えられるが、この場合、製造工数の増加、部品点数の増加により、製造コストが上昇するという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、異なる径を有する二種のソケット(アウターソケットおよびインナーソケット)を有し、製造が容易で、特殊な工具なしに完成させることが可能であり、しかも、完成後は、不正改造が不可能な工具用ソケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記(1)〜(4)に示す工具用ソケットを要旨とする。
【0011】
(1)ソケット本体と、圧縮バネと、Cリングと、内装ソケットとを有し、前記ソケット本体は、工具への接続軸棒を装着するための軸棒装着部と、前記圧縮バネを収容するためのバネ収容部と、前記内装ソケットを移動自在に収める内装ソケット収容部と、前記Cリングの移動を規制するための小径部と、アウターソケットとを有し、前記内装ソケットは、前記Cリングの移動を規制するための大径部と、前記Cリングを収容するためのCリング収容溝部と、インナーソケットとを有し、前記バネ収容部の内底部と前記内装ソケットの底部との間に前記圧縮バネを収容するとともに、前記小径部と前記大径部との間に前記Cリングを収容した工具用ソケット。
【0012】
(2)前記大径部の一部に傾斜面が設けられている上記(1)の工具用ソケット。
【0013】
(3)前記小径部の前記アウターソケット側に傾斜面が設けられている上記(1)または(2)の工具用ソケット。
【0014】
(4)前記Cリング収容溝部が、第1溝部と、第1溝部よりも小径な第2溝部を有しており、第1溝部と第2溝部との間には傾斜面が設けられている上記(1)〜(3)のいずれかの工具用ソケット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異なる径を有する二種のソケット(アウターソケットおよびインナーソケット)を有する工具用ソケットにおいて、製造が容易で、特殊な工具なしに完成させることが可能であり、しかも、完成後は、破壊することなしに分解することが不可能であるので、工具用ソケットの不正な改造を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について図を使って説明する。
図1は、本発明に係る工具用ソケットを例示した部品展開図であり、図2および図3は、それぞれ本発明に係る工具用ソケットにおいて用いられるソケット本体および内装ソケットを例示した模式図である。図2および3において、(a)はそれぞれの部品についての全体構成を示す一部断面図であり、(b)は、(a)中の破線円部を拡大した図である。
【0017】
図4〜7は、本発明に係る工具用ソケットの製造方法を示す図であり、図4はソケット本体に圧縮バネを挿入し、内装ソケットにCリングを嵌め込んだ状態を示す図である。図5〜6は、いずれもCリングを嵌め込んだ内装ソケットをソケット本体に挿入した状態を段階的に示す部分拡大図である。
【0018】
図8および9は、いずれも本発明に係る工具用ソケットの使用状態を示す部分断面図である。
【0019】
図1に示すように、本発明に係る工具用ソケットは、例えば、ソケット本体1と、圧縮バネ2と、Cリング3と、内装ソケット4とを有している。そして、例えば、図2に示すように、ソケット本体1は、工具(図示しない)に接続するための軸棒(図示しない)を装着するための軸棒装着部10と、圧縮バネ2を収容するためのバネ収容部11と、内装ソケット4を移動自在に収める内装ソケット収容部12と、Cリング3の移動を規制するための小径部13と、アウターソケット14とを有している。また、例えば、図3に示すように、内装ソケット4は、前記Cリング3の移動を規制するための大径部41と、Cリング3を収容するためのCリング収容溝部42と、インナーソケット44とを有している。
【0020】
圧縮バネとは、金属などの硬質の弾性材料で構成され、圧縮力に反発する構成のバネであって、例えば、図1に示す圧縮コイルバネを採用することができる。
【0021】
Cリングとは、金属などの硬質の弾性材料で構成され、一部が開口したリングを意味し、リングバネ、サークリップなどとも呼ばれる。Cリングには、開口した端部同士が接触しているもの(引張型のリングバネ)と、接触していないもの(圧縮型のリングバネ)とがあるが、本発明において用いるCリングは、開口した端部同士が接触していない、圧縮型のリングバネを用いる。
【0022】
インナーソケット44の外面部分には、例えば、図3に示すように、アウターソケット14の内面部分と摺動可能な形状に加工しておくことが好ましい。これにより、インナーソケット44のスムーズな移動が可能となる。また、図4などには、インナーソケット44、アウターソケット14ともに、12角のソケット穴を形成した例を示しているが、ソケット穴の形状は、このような形状に限定されず、例えば、6角のソケット穴を形成することもできる。
【0023】
そして、本発明の工具用ソケットは、例えば、図4に示すように、ソケット本体1には圧縮バネ2が挿入され、一方の内装ソケットのCリング収容溝部42にはCリング3が嵌め込まれた状態で、内装ソケット4をソケット本体1内に装着することにより、製造することができる。
【0024】
図5に示すように、内装ソケット4をソケット本体1内に装着するに際しては、Cリングを嵌め込んだ内装ソケット4の底部45により、図示しない圧縮バネ(図4の符号2参照。)を押し込みつつ、内装ソケット4を図5の矢印の方向に挿入する。そして、例えば、内装ソケット4の大径部の傾斜部41aが本体ソケット1の傾斜部15と接触しつつ、内装ソケット4がソケット本体1に挿入され、図6に示すように、内装ソケット4の大径部の平行部41bが本体ソケット1の小径部13と摺動しつつ、内装ソケット4が更に押し込まれる。
【0025】
なお、内装ソケット4の傾斜部41aおよび本体ソケット1の傾斜部15は、必須の構成要件ではないが、これらの傾斜部を設けることにより、内装ソケット4のソケット本体1への装着がスムーズになる。従って、傾斜部41aおよび傾斜部15のいずれか一方を設けることにより、装着の作業性は向上する。ただし、傾斜部41aは、Cリング3を溝部42に装着するときの作業性を向上させる効果を有するため、特に、傾斜部41aを設けるのが好ましい。更に、傾斜部41aおよび傾斜部15の両方を設けるのが最も好ましい。
【0026】
ここで、例えば、図6に示すように、内装ソケット4の大径部の平行部41bが本体ソケット1の小径部13と摺動するに際しては、Cリング3は第1溝部42aから第2溝部42bに移動する。Cリング3の外径は、ソケット本体1の小径部13の内径よりも大きいが、内装ソケット4をソケット本体1に挿入するときの押し込み力によりCリング3の径が縮められる。そして、第2溝部42bは、第1溝部42aよりも小径であるため、径が縮められたCリング3が第2溝部42bに収容されることになる。このように、Cリング3が第2の溝部42bに収容された状態で内装ソケット4を図6の矢印の方向に挿入することにより、内装ソケット4が更にソケット本体1内に押し込まれる。
【0027】
図7に示すように、Cリング3は、ソケット本体1の小径部13より内側に押し込まれ、内装ソケット収容部12内の位置に到達すると、縮められていた径が元に戻る。ここで、図示しないバネ収容部(図2の符号11参照。)の図示しない内底部(図2の符号16参照。)と、内装ソケット4の底部45との間に収容された図示しない圧縮バネ(図4の符号2参照。)によって、内装ソケット4の底部45には図中白抜き矢印の方向に力が負荷されるが、Cリング3が内装ソケットの第1溝部42a内にあるとともに、ソケット本体1の内装ソケット収容部12内に留まる、即ち、Cリング3がソケット本体1の小径部13と内装ソケット4の大径部41との間に収容されているため、内装ソケット4がソケット本体から脱落することはない。
【0028】
なお、Cリング3を収容するためのCリング収容溝部42については、図示した構成のものに限定されず、一つの外径で構成される溝部であってもよい。しかし、図示したような第1溝部42aおよび第2溝部42bという外径が異なる二段階の溝部で構成されているのが好ましい。これは、内装ソケット4をソケット本体1に装着するに際しては、Cリング3の径を縮めた状態にする必要があるため、ある程度深い溝が必要であるが、装着後、即ち、ソケットの使用時にはCリング3とCリング収容溝部42との間の隙間が大きすぎると、内装ソケットの脱落の原因ともなりかねない。
【0029】
従って、Cリングは内装ソケット4のCリング収容溝部42内である程度固定されていることが好ましい。従って、Cリング収容溝42は、第1溝部42aと、第1溝部42aよりも小径な第2溝部42bを有するものが好ましい。特に、第1溝部42aとしては、Cリング3の内径以上の外径を有するものが好ましい。また、第2溝部42bとしては、Cリング3を圧縮した場合にCリング3の外径がソケット本体1の小径部13の内径以上となるのに十分な深さを有するものが好ましい。
【0030】
例えば、内装ソケット4の移動を小さなピンなどを用いて制御する場合には、ソケット本体1にピンを挿入するための小さな穴を設けるなど、構成部品の製造にもコストがかかるが、本発明に係る工具用ソケットに用いる部品は、通常の鍛造、旋盤加工により製造することができる。また、圧縮ネジおよびCリングは市販されている安価なものを購入することができる。さらに、上述のように、本発明に係る工具用ソケットは、特殊な工具を用いることなく、容易に組み立てることができる。従って、本発明に係る工具用ソケットは、工程数が少ないとともに、部品点数も少ないため、低い製造コストで製造することが可能である。
【0031】
以下、本発明に係る工具用ソケットの使用態様について説明する。
図8に示すように、本発明の工具用ソケットは、バネ収容部11の内底部16と、内装ソケット4の底部45との間に収容された圧縮バネ2の反発力によりインナーソケット44がアウターソケット14から突出した状態で、内装ソケット4がソケット本体1内に収められている。従って、インナーソケット44の径に合致するボルトの締め付け等をこの状態で行うことができる。
【0032】
このとき、Cリング3がソケット本体1の小径部13と内装ソケット4の大径部41との間に収容されているため、内装ソケット4がソケット本体1から脱落することはない。また、Cリング3は、ソケット本体1の内装ソケット収容部12と内装ソケット4との間に存在しているため、工具用ソケットの外部からは視認不可能である。従って、本発明に係る工具用ソケットは、破壊することなく、分解することができないため、不正な改造を未然に防止することができる。
【0033】
図9に示すように、アウターソケット14は、圧縮バネ2の力に反して内装ソケット4をソケット本体1内に押し込んだ状態とすることにより使用可能となる。このとき、例えば、図9に示すように、内装ソケットの大径部41の外径は、バネ収容部11の内径より小さい構成とすれば、内装ソケット4が過度に押し込まれることがないため、圧縮バネ2に塑性変形が加えられたり、破損したりすることはない。従って、圧縮バネ2に起因する故障等の発生に寄与する。
【0034】
なお、本発明においては、工具との接続に用いられる軸棒およびその軸棒装着部の形状については特に制約はなく、公知の接続方法を用いることができる。従って、例えば、軸棒を軸棒装着部に圧入するなどして軸棒を軸棒装着部内に固定してもよいし、例えば、軸棒を軸棒装着部に着脱自在に装着してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、異なる径を有する二種のソケット(アウターソケットおよびインナーソケット)を有する工具用ソケットにおいて、製造が容易で、特殊な工具なしに完成させることが可能であり、しかも、完成後は、破壊することなしに分解することが不可能であるので、工具用ソケットの不正な改造を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る工具用ソケットを例示した部品展開図
【図2】本発明に係る工具用ソケットにおいて用いられるソケット本体を例示した模式図 (a) 全体構成を示す一部断面図 (b) (a)中の破線円部を拡大した図
【図3】本発明に係る工具用ソケットにおいて用いられる内装ソケットを例示した模式図 (a) 全体構成を示す一部断面図 (b) (a)中の破線円部を拡大した図
【図4】本発明に係る工具用ソケットの製造方法を示す図
【図5】Cリングを嵌め込んだ内装ソケットをソケット本体に挿入した状態を示す部分拡大図
【図6】Cリングを嵌め込んだ内装ソケットをソケット本体に挿入した状態を示す部分拡大図
【図7】Cリングを嵌め込んだ内装ソケットをソケット本体に挿入した状態を示す部分拡大図
【図8】本発明に係る工具用ソケットの使用状態を示す部分断面図
【図9】本発明に係る工具用ソケットの使用状態を示す部分断面図
【符号の説明】
【0037】
1 ソケット本体
2 圧縮バネ
3 Cリング
4 内装ソケット
10 軸棒装着部
11 バネ収容部
12 内装ソケット収容部
13 小径部
14 アウターソケット
15 傾斜部
16 内底部
41 大径部
41a 傾斜部
41b 平行部
42 Cリング収容溝部
42a 第1溝部
42b 第2溝部
44 インナーソケット
45 底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソケット本体と、圧縮バネと、Cリングと、内装ソケットとを有し、
前記ソケット本体は、工具への接続軸棒を装着するための軸棒装着部と、前記圧縮バネを収容するためのバネ収容部と、前記内装ソケットを移動自在に収める内装ソケット収容部と、前記Cリングの移動を規制するための小径部と、アウターソケットとを有し、
前記内装ソケットは、前記Cリングの移動を規制するための大径部と、前記Cリングを収容するためのCリング収容溝部と、インナーソケットとを有し、
前記バネ収容部の内底部と前記内装ソケットの底部との間に前記圧縮バネを収容するとともに、前記小径部と前記大径部との間に前記Cリングを収容したことを特徴とする工具用ソケット。
【請求項2】
前記大径部の一部に傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の工具用ソケット。
【請求項3】
前記小径部の前記アウターソケット側に傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の工具用ソケット。
【請求項4】
前記Cリング収容溝部が、第1溝部と、第1溝部よりも小径な第2溝部を有しており、第1溝部と第2溝部との間には傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の工具用ソケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−131726(P2010−131726A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311723(P2008−311723)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(594150235)株式会社プロス (9)