説明

工具用ソケット

【課題】放熱性に優れると共に、応力集中を防止することができる工具用ソケットの提供
【解決手段】 一端にソケット21を、他端に工具取付軸棒30を差し込むための軸棒挿入部22をそれぞれ有するソケット本体20と、一端にソケット本体取付部31を、他端に工具取付部32をそれぞれ有する工具取付軸棒30とを備え、軸棒挿入部22がリングバネ40を内装するためのリングバネ内装溝25を有し、かつ、ソケット本体取付部31がリングバネ40を外装するためのリングバネ外装溝35を有しており、工具取付軸棒30が、リングバネ外装溝35およびリングバネ内装溝25に嵌め込まれたリングバネを介して軸棒挿入部22に取り付けられている工具用ソケット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具(電動工具、エアーツール、手工具など)に接続して用いられる工具用ソケットに関する。
【背景技術】
【0002】
工具用ソケットは、通常、筒状のソケット本体の後端に、工具のチャックに把持させるための小径の軸棒を有し、先端にはボルト・ナット頭に嵌合するソケット(穴)を有する。
【0003】
例えば、特許文献1には、「軸方向一端側に、電動・充電ドライバー、エアドライバー等の回転工具装着軸部を備え、他端側にナット・ボルト頭等の嵌合孔を有するソケット部を備えた回転工具用ソケットにおいて、前記軸部とソケット部は別体とし、軸部は耐摩耗性および靭性を有する高合金鋼製とし、ソケット部は耐摩耗性高合金鋼製とすると共に、軸部をソケット部に嵌入結合して一体化したことを特徴とする回転工具用ソケット」に関する発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、「ソケット本体の基端に回転工具の出力部に着脱可能に取り付けられる多角形軸体を突設した軸付きソケットの製造方法において、ソケット本体はアルミニウム若しくはアルミニウム合金材で形成し、多角形軸体は鋼材で形成し、このソケット本体に基端を突出状態にして前記軸体を挿入固定し得る装着孔を形成し、この装着孔に前記軸体を挿入する際、軸体が圧入状態に挿入されて前記ソケット本体に残留応力が発生する孔径とせずに、この装着孔を軸体の寸法に対してラフ寸法となる孔径に設定し、このラフ寸法に設定した装着孔に軸体を挿入配設し、このソケット本体に前記装着孔の孔軸方向並びに外周方向から外圧を加え、ソケット本体に塑性流動を生じせしめて軸体を装着孔内に圧着固定させることを特徴とする軸付きソケットの製造方法。」に関する発明が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、「軸方向後端に該軸方向と平行な孔軸線の軸部嵌着孔(1a)を有するソケット部材(1)と、該ソケット部材(1)の前記軸部嵌着孔(1a)に嵌着固定されて後方に延出する軸部材(2)とを有し、前記軸部嵌着孔(1a)と前記軸部材(2)との嵌め合いを先端と後端で変化させることによって、前記ソケット部材(1)と前記軸部材(2)との前記軸部嵌着孔(1a)における嵌着固定後の締め代を、前記軸部嵌着孔(1a)の後端側では小さくし、先端側では大きくなるように設定して嵌着固定してあることを特徴とする回転工具用ソケット。」に関する発明が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−226651号公報
【特許文献2】特開平9−248635号公報
【特許文献3】特開2006−175523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3のいずれに開示された発明も、工具取付軸棒が軸棒挿入部に圧入して固着されている。このため、電動工具に装着し、トルクが負荷された場合には、そのねじり応力が集中しやすく、しかも、工具取付軸棒が熱を保持しやすいという問題がある。
【0008】
本発明は、これらの従来技術の問題を解決するためになされたものであり、長時間の使用により工具取付軸棒の熱がソケット本体に伝わった場合でも、その熱を放散しやすく、しかも、応力集中を防止することができる工具用ソケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく、鋭意研究を行った結果、下記の知見を得た。
【0010】
(A)電動工具の使用時には、モータの発熱、各部位における摩擦熱などが発生する。特に、夏場、屋外で使用する場合には太陽熱やその輻射熱などの外的要因が加わり、これらの熱が工具取付軸棒とソケット本体との接合部に伝わる。このとき、硬質の工具取付軸棒を軟質のソケット本体に圧入する従来技術のソケットでは、工具取付軸棒とソケット本体とが密着するため、熱が発散しにくい。通常、ソケット本体は、硬度の低い合金鋼が用いられ、工具取付軸棒には高硬度の合金鋼が用いられることが多いが、接合箇所に熱がこもると、これらの素材の熱膨張率が異なるため、不要な応力が負荷され、局部的な亀裂や破損が発生しやすい。従って、工具取付軸棒とソケット本体との接合部は、熱を放散しやすい構成とする必要がある。
【0011】
(B)ソケット本体と工具取付軸棒とが固着している従来技術のソケットでは、応力が集中しやすい。これは、ソケット本体と工具取付軸棒とが強固に固定されているため、電動工具の使用時にソケットに発生する応力が分散しにくく、結果として同じ部位に何度も応力が加わることになる。また、ねじの軸方向とソケットの軸方向とが一致した状態で締め付け等を行うのであれば、ねじり応力のみを考慮すればよいが、実際には、ねじの軸方向とソケットの軸方向とが一致しないこともあり、そのような場合に接合部には、ねじり応力だけでなく、電動工具からの打撃などの衝撃力や曲げ応力などが負荷される。このため、工具取付軸棒とソケット本体との接合部は、固着しない構成とする必要がある。
【0012】
(C)以上の知見により、工具取付軸棒とソケット本体との接合部には、適度な空間(遊び)を設けることが必要である。また、工具取付軸棒とソケット本体との接合部は、安価で、かつ製造容易な構成であることが必要である。
【0013】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の(1)〜(4)に示す工具用ソケットを要旨とする。
【0014】
(1)一端にソケットを、他端に工具取付軸棒を差し込むための軸棒挿入部をそれぞれ有するソケット本体と、一端にソケット本体取付部を、他端に工具取付部をそれぞれ有する工具取付軸棒とを備える工具用ソケットであって、
軸棒挿入部がリングバネを内装するためのリングバネ内装溝を有し、かつ、ソケット本体取付部がリングバネを外装するためのリングバネ外装溝を有しており、
工具取付軸棒が、リングバネ外装溝およびリングバネ内装溝に嵌め込まれたリングバネを介して軸棒挿入部に取り付けられている工具用ソケット。
【0015】
(2)軸棒挿入部が、リングバネ内装溝を有するブッシュを備える上記(1)の工具用ソケット。
【0016】
(3)前記ブッシュの外周面には、ローレット加工が施されている上記(2)の工具用ソケット。
【0017】
なお、ソケットは、六角ソケットおよび十二角ソケットのいずれの形状を採用しても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、工具取付軸棒の熱がソケットに伝わった場合でも、その熱を放散しやすく、しかも、応力集中を防止することができる。従って、ソケット本体と工具取付軸棒の接合部が損傷を受けにくく、工具寿命が長いソケットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図を使って、本発明に係る工具用ソケットを詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る工具用ソケットを例示した分解図、図2は、本発明に係る工具用ソケットを例示した一部断面図、図3は、本発明に係る工具用ソケットの接合部分の例を拡大した分解断面図、図4は、本発明に係る工具用ソケットの接合部分の例を拡大した一部断面図である。
【0021】
図1〜4に示すように、本発明に係る工具用ソケット10は、例えば、ソケット本体20と工具取付軸棒30とで構成されている。そして、例えば、ソケット本体20は、全体として筒状の形態を有しており、一端にソケット21を有し、他端に軸棒挿入部22を有している。例えば、図3に示すように、軸棒挿入部22には、例えば、ソケット21側からブッシュ挿入部26、傾斜部27、小径部28、軸棒挿入口29を有している。
【0022】
そして、例えば、ブッシュ挿入部26には、ソケット側からブッシュ24が圧入され、ブッシュ挿入部26の内面に固着し、軸棒挿入部22の一部となる。ブッシュ24の内面にはリングバネ内装溝25が設けられており、例えば、図4に示すように、ブッシュ24のリングバネ内装溝25とソケット本体の傾斜部27とで構成される空間部(図4の50で示す部分。これもリングバネ内装溝と呼ぶ。)には、リングバネ40が嵌め込まれる。
【0023】
ブッシュ24としては、例えば、ソケット本体20より硬く、工具取付軸棒30よりも軟らかい材料のものを用いるのがよい。例えば、S45Cなどの材料を用いるのがよい。これにより、ソケット本体20と工具取付軸棒30との硬度差に基づく不具合、例えば、高硬度の工具取付軸棒30によるソケット本体20内面への押し込み疵、それによる偏芯や応力バランスの偏りを解消することができる。ブッシュ24を取り付ける場合には、ブッシュの外面にローレット加工を施すのが好ましい。ブッシュ24のソケット本体20からの脱落を防止するためである。
【0024】
ただし、上記の効果が得られず、多少ソケットの寿命が落ちたとしても、安価なソケットを製造したい場合には、ブッシュ24を省略することができる。この場合、ソケット本体20の内面にリングバネ内装溝50を設けておく必要がある。
【0025】
なお、例えば、図2に示すように、ソケット21と軸棒挿入部22との間には、中空部23があるが、中空部23は、例えば、ナットの取り付け、取り外しの際に棒ねじの退避空間となる。
【0026】
ここで、ソケット本体20の外径は、例えば、ソケット21の付近で最も大きく、軸棒挿入部22に向けて段階的に小さくなっていく構成を有する。ソケット21の径は、特に制約はなく、通常用いられている12mm〜24mm程度のソケット径とすることができる。また、図2では、12角のソケットが示されているが、6角のソケットを採用しても良い。ソケットの材質には、特に制約はないが、HRCが40〜50程度の比較的軟質な合金材、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ボロンバナジウム鋼、クロムバナジウム鋼、クロムモリブテン鋼を用いることができる。
【0027】
一方、工具取付軸棒30は、例えば、図1に示すように、一端にソケット本体取付部31を、他端に工具取付部32を備えている。ソケット本体取付部31は、例えば、勾配部34、リングバネ外装溝35、小径円柱部36を有している。工具取付部32は、例えば、係止溝33が設けられており、電動工具のチャック(図示しない)への取付けに利用される。工具取付軸棒30としては、通常、ドライバービットに用いられる材料を採用することができる。例えば、ニッケルクロムモリブデン鋼などのHRCが58〜62程度の硬質合金材である。
【0028】
前述のように、本発明の工具用ソケット10においては、ソケット本体20の軸棒挿入部22がリングバネ40を内装するためのリングバネ内装溝50を有しており、工具取付軸棒30のソケット本体取付部31がリングバネ40を外装するためのリングバネ外装溝35を有しており、工具取付軸棒30は、ソケット本体20の軸棒挿入部22側から挿入され、その先端がリングバネに接触し、更に挿入すると、リングバネ40の径が勾配部34によって徐々に押し広げられ、その後、リングバネ外装溝35の位置に達すると、リングバネ40の径が縮められ、リングバネ40が溝内に収められる。このため、リングバネ40がリングバネ外装溝35およびリングバネ内装溝50によってできる空間部に嵌め込まれた状態で保持される。これによって、ソケット本体20と工具取付軸棒30との軸方向の移動が抑止される。
【0029】
ここで、リングバネ40の材質としては、SWC80Cなどの通常のバネ鋼を用いることもできるが、電動工具の作動中の振動が伝わると工具取付軸棒30が脱落することがある。また、錆発生による劣化も懸念される。このような現象は、使用回数が増えるほど生じやすくなり、工具用ソケットの寿命に大きな影響を与える。従って、リングバネ40の材質としては、SWP−Bなどのピアノ線を用いるのが望ましい。
【0030】
本発明の工具用ソケット10は、このような構成を有しているため、例えば、図4に示すように、ソケット本体20と工具取付軸棒30とが接触する部分の各処に適度な空間を確保することができる。即ち、勾配部34の最大径部がブッシュ24の内径とほぼ同等であり、勾配部34の先端部分とブッシュ24との間には一定の空間ができる。また、ソケット本体20の小径部28の内径が工具取付軸棒30の小径円柱部36の外径より若干大きいため、この部分にも空間ができる。また、ソケット本体の軸棒挿入口29の内径が工具取付軸棒30の胴体部37の外径より若干大きいため、この部分にも空間ができる。このような空間があることにより、ソケット本体20と工具取付軸棒30との接触部分の発熱を高効率に放散することができるとともに、このように接合部の各処に空間があるものの、ソケット本体20は、何らの支障もなく、工具取付軸棒30の回転に追随して回転することができる。また、適度な空間の存在は、応力集中を防止する効果もある。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、工具取付軸棒の熱がソケットに伝わった場合でも、その熱を放散しやすく、しかも、応力集中を防止することができる。従って、ソケット本体と工具取付軸棒の接合部が損傷を受けにくく、工具寿命が長いソケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る工具用ソケットを例示した分解図
【図2】本発明に係る工具用ソケットを例示した一部断面図
【図3】本発明に係る工具用ソケットの接合部分の例を拡大した分解断面図
【図4】本発明に係る工具用ソケットの接合部分の例を拡大した一部断面図
【符号の説明】
【0033】
10 本発明に係る工具用ソケット
20 ソケット本体
21 ソケット
22 軸棒挿入部
23 中空部
24 ブッシュ
25 リングバネ内装溝
26 ブッシュ挿入部
27 傾斜部
28 小径部
29 軸棒挿入口
30 工具取付軸棒
31 ソケット本体取付部
32 工具取付部
33 係止溝
34 勾配部
35 リングバネ外装溝
36 小径円柱部
40 リングバネ
50 空間部(リングバネ内装溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にソケットを、他端に工具取付軸棒を差し込むための軸棒挿入部をそれぞれ有するソケット本体と、一端にソケット本体取付部を、他端に工具取付部をそれぞれ有する工具取付軸棒とを備える工具用ソケットであって、
軸棒挿入部がリングバネを内装するためのリングバネ内装溝を有し、かつ、ソケット本体取付部がリングバネを外装するためのリングバネ外装溝を有しており、
工具取付軸棒が、リングバネ外装溝およびリングバネ内装溝に嵌め込まれたリングバネを介してソケット本体に取り付けられていることを特徴とする工具用ソケット。
【請求項2】
軸棒挿入部が、リングバネ内装溝を有するブッシュを備えることを特徴とする請求項1に記載の工具用ソケット。
【請求項3】
前記ブッシュの外周面には、ローレット加工が施されていることを特徴とする請求項2に記載の工具用ソケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89168(P2010−89168A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258369(P2008−258369)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(594150235)株式会社プロス (9)