説明

工業用防腐剤組成物

【課題】長期間安定性に優れた工業用防腐剤組成物を提供する。
【解決手段】2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有し、その組成物のpHが7から11の範囲にあり、過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする工業用防腐剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般工業水系品、例えばエマルション、ラテックス、水性塗料、水性インキ、紙用コーティング剤、澱粉糊、顔料、スラリー、コンクリート混和剤等が微生物汚染により変質、腐敗するのを防止するために使用されるものであり、特に2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有する組成物の長期間安定性に優れた工業用防腐剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン含有組成物はエマルション、ラテックス、水性塗料、水性インキ、紙用コーティング剤、澱粉糊、顔料スラリー、コンクリート混和剤等の水系工業品に添加され、細菌、真菌などの微生物に起因する製品の変質、腐敗を防止する工業用防腐剤である。
【0003】
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンは水溶性であるので、水、アルコール類やグリコール類またはこれらの混合溶媒との水溶性溶媒に溶解して使用されており、その組成物のpHは中性領域である。
1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンは水に難溶性であるため、アルカリ金属塩、アミン塩の水溶性塩を水、グリコール類、アミン類またはこれらの混合溶媒等の水溶性溶媒に溶解して使用されており、その組成物のpHはアルカリ領域である。
【0004】
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有する組成物に関しては特許文献1に記載されている。2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンは各々単独では酸性からアルカリ領域と幅広いpH領域で安定であるが、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有する組成物はpH7以上のアルカリ性領域では安定性が不十分であるため、水溶性溶媒に溶解した高濃度の1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの工業用防腐組成物を得ることは困難であった。
【0005】
イソチアゾロン系組成物の安定化方法としては種々の方法が提案されている。
例えば特許文献2ではイソチアゾロン系組成物に金属臭素酸塩を含有する組成物が、特許文献3には3−イソチアゾロン系化合物にヨウ素酸、過ヨウ素酸、もしくはこれらの金属塩を含有する組成物などが開示されているが、開示されているイソチアゾロン系組成物は5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリンー3−オンおよび2−メチルー4−イソチアゾリンー3−オンである。
また、特許文献4では1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含んだ組成物の安定化法について開示されているが、この組成物のpHは酸性領域に限定されており、組成物のpHが中性からアルカリ性を示す範囲については何も言及されていない。
また、特許文献5では臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなどが1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン含有組成物の安定化剤として開示されているが、50℃での安定性を得るためには臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムの配合量が0.1%以上必要となり、その結果、低温での安定性が不十分となる。またこれらの化合物は消防法による危険物の指定を受けているので使用量を減少させる必要があった。
【特許文献1】特表2001−515016号公報
【特許文献2】特開平05−221813号公報
【特許文献3】特開平05−170608号公報
【特許文献4】特開平09−263504号公報
【特許文献5】特開2005−232070号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有する組成物のpHが7から11の範囲でもその組成物が長期にわたり安定性を維持できることを見出した。
即ち2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン含有組成物のpHが7から11の範囲で、過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有することにより2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン含有組成物が長期にわたり安定性を維持することができる。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の工業用防腐剤組成物はpHが7から11の範囲にあり、有効成分として2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有し、過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有させたものである。
【0008】
本発明の工業用防腐剤組成物の有効成分である2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンは、例えば、ZONEN MT(「ケミクレア社」製)やコーディック50C(「ローマンドハース社」製)として市販されているものを入手し使用することができる。1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンは、例えばPROXEL PRESS PASTE(「アーチケミカルズ社」製)として市販されているものを入手し使用することができる。
【0009】
本発明の過酸化水素およびその金属塩とは具体的には過酸化水素、過酸化リチウム(Li2O2)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、過酸化カリウム(K2O2)、過酸化マグネシウム(MgO2)、過酸化カルシウム(CaO2)、過酸化バリウム等が挙げられるが、過酸化水素(H2O2)が保管性、安全性から特に好ましい。
またペルオキソ酸およびその金属塩とは過硫酸、過硫酸塩、過炭酸、過炭酸塩、過リン酸、過リン酸塩、次過塩素酸、次過塩素酸塩、過酢酸、過酢酸塩、過安息香酸、過安息香酸塩が挙げられるが、過炭酸、過炭酸ナトリウムがより好ましい。
【0010】
工業用防腐組成物のpHを7から11に調整するため、および組成物中の1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの配合割合を高くするために、組成物中に水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムなどの水酸化アルカリ土類金属を配合することが好ましい。
【0011】
さらに、これらの有効成分の溶解性を向上するための有機溶剤、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のセルソルブ類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカルビトール類、グリセリン、ジグリセリン等のグリセリン類およびその誘導体を使用することができる。これらの有機溶剤は単独でも使用でき、2種類以上併用することもできる。
【0012】
さらに、この他に界面活性剤、例えばポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアミノエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤や脂肪酸ナトリウム、硫酸アルキル塩、硫酸アルキルポリオキシエチレン塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、a−オレフィンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩等のアニオン系界面活性剤、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン、アミドアミノ酸塩等の両性界面活性剤やコハク酸やクエン酸、酒石酸等の有機酸やその塩、公知のキレート剤、消泡剤、防錆剤などの添加剤を使用することができる。
【0013】
本発明の工業用防腐組成物の配合組成としては、工業用防腐組成物を100重量%としたとき2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンは0.1重量%から25重量%、より好ましくは1重量%から10重量%、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンは0.1重量%から25重量%、より好ましくは1重量%から20重量%であり、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン対1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの配合割合は重量基準で1:20から20:1であることが好ましく、両化合物の組成物に占める割合は5重量%以上25重量%以下が好ましい。
過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物は、工業用防腐組成物を100重量%としたとき0.001重量%以上が好ましい。より好ましくは0.005重量%から0.2重量%である。
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの有効成分の溶解性を向上させるための有機溶剤は0.1重量%から80重量%、より好ましくは5重量%から70重量%である。
【0014】
本発明の工業用防腐剤組成物を製造する方法としては、水にアルカリ金属または/および水酸化アルカリ土類金属と1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを溶解させ、必要に応じて有機溶剤を加えた後、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを加える。さらに過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を加え攪拌混合する。界面活性剤、消泡剤等は適宜必要に応じて添加される。
【0015】
本発明の工業用防腐剤組成物は一般工業水系品、例えばエマルション、ラテックス、水性塗料、水性インキ、紙用コーティング剤、澱粉糊、顔料スラリー、コンクリート混和剤等に使用されるがその添加量は、対象となる一般工業水系品に対して有効成分濃度が10−5000ppmになるように添加するのが好ましく、より好ましくは50−1000ppm程度に添加する。
添加する方法としては、例えば滴下法、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法を使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の工業用防腐剤組成物はpHが7から11の範囲にあり、有効成分として2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有し、過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有することにより、実使用においても長期間安定した防腐効果が得られる。
【実施例】
【0017】
以下、製剤例、実施例、比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。製剤例、実施例、比較例中の「%」は「重量%」を示す。
【0018】
実施例1−4、比較例1−3の調製
【0019】
(実施例1)
水酸化ナトリウム4.2%をイオン交換水20.5%に溶解させた後、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(以下、BITと略す)16%、ジプロピレングリコール55%を加え、攪拌してBITを溶解させた。
BIT溶解後、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、MITと略す)を4%加え攪拌した後、過酸化水素水(試薬特級、純度31%)を0.3%加えたものを実施例1とした。このときのpHは9.6であった。
【0020】
(実施例2)
実施例1における水酸化ナトリウム4.2%、ジプロピレングリコール55%、過酸化水素0.3%の代わりに、それぞれ水酸化ナトリウム3.2%、ジエチレングリコール56.2%、過酸化水素水(試薬特級、純度31%)0.1%を用いて同様に調製したものを実施例2とした。このときのpHは8.2であった。
【0021】
(実施例3)
実施例1における水酸化ナトリウム4.2%、ジプロピレングリコール55%、過酸化水素水0.3%の代わりに、それぞれ水酸化ナトリウム3.2%、ジエチレングリコール56.2%、過炭酸ナトリウム0.1%を用いて同様に調製したものを実施例2とした。このときのpHは8.2であった。
【0022】
(実施例4)
実施例1おける過酸化水素水0.3%の代わりに過酸化水素水0.16%、過炭酸ナトリウム0.05%、ジプロピレングリコール55%の代わりにジエチレングリコール55.1%を用いて同様に調製したものを実施例3とした。このときのpHは9.6であった。
【0023】
(比較例1)
水酸化ナトリウム4.2%をイオン交換水20.5%に溶解させた後、BITを16%、ジプロピレングリコール55%を加え、攪拌してBITを溶解させた。BIT溶解後、MITを4%加え攪拌した。このときのpHは9.5であった。
【0024】
(比較例2)
水酸化ナトリウム3.2%をイオン交換水20.5%に溶解させた後、BITを16%、ジプロピレングリコール56.3%%を加え、攪拌してBITを溶解させた。BIT溶解後、MITを4%加え攪拌した。このときのpHは8.4であった。
【0025】
(比較例3)
水酸化ナトリウム2.6%をイオン交換水22.4%に溶解させた後、BITを10%、ジプロピレングリコール55%を加え、攪拌してBITを溶解させた。BIT溶解後、MITを10%加え攪拌した。このときのpHは8.5であった。
【0026】
(経時安定性評価)
ガラス瓶に実施例1〜4、比較例1〜3の工業用防腐剤組成物を50gr採取し、密栓して50℃のオーブンに保存した。経時的にBITとMITの残存濃度を高速液体クロマトグラフィーにより測定し、且つ工業用防腐組成物の色相変化を目視判定した。
尚、残存率は次式により算出した。
残存率(%)=(Y/X)×100
(式中のXはBIT、MITの初期濃度、Yは50℃1週間後、2週間後、4週間後のBIT、MIT濃度を示す)
この結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の工業用防腐剤組成物はpHが7から11の範囲にあり、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンと、過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有するため、有効成分の長期安定性が優れ、長期間にわたり製剤としての防腐効果が維持できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含有し、その組成物のpHが7から11の範囲にあり、過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする工業用防腐剤組成物。
【請求項2】
過酸化水素、過酸化水素の金属塩、ペルオキソ酸およびペルオキソ酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物の配合量が0.001重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の工業用防腐剤組成物。
【請求項3】
工業用防腐剤組成物における2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン対1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの配合割合が重量基準で1:20から20:1であり、両化合物の占める割合が組成物の5重量%以上25重量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の工業用防腐剤組成物。


【公開番号】特開2008−37811(P2008−37811A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215250(P2006−215250)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(502239380)アーチ・ケミカルズ・ジャパン株式会社 (11)
【Fターム(参考)】