説明

巻取り・巻戻し装置及びその制御方法

【課題】 適用する誘導電動機の界磁遅れ時間を考慮したワインダ径演算を正しく予測する機能を備え、この予測された励磁指令を用い、安定した張力制御を可能とする巻取り・巻戻し装置を提供する。
【解決手段】 誘導電動機(13)の界磁遅れ時間におけるワインダの径の変化分を予測演算し、ワインダの径の演算値を補正する径補正演算器(20)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙・金属・フィルム等の材料を張力制御する巻取り・巻戻し装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の巻取り・巻戻し装置は、巻戻し機及び巻取り機のモータ可変速制御装置からモータ界磁推定値を受け取り、ベクトル制御上の界磁ずれ分を補正する界磁補正回路を設け、界磁補正回路による補正値をモータトルク分電流出力計算回路に入力してトルク分電流フォーシング回路を設けている(例えば、特許文献1参照)。また、電動機の回転速度の上昇に応じて減少する磁束指令値を出力する磁束指令回路と、磁束指令値に応じた誘導電動機の励磁電流指令値を出力する磁束制御回路と、誘導電動機に流れる励磁電流に比例した信号によって磁束を求める磁束演算回路を設け、磁束演算値と磁束指令値を比較し、その偏差に応じた励磁電流指令値を出力して励磁電流指令値を補正するようにした誘導電動機の制御装置の開示もある(例えば、特許文献2)。さらに、張力制御を行って紙・金属・フィルム等の巻取り・巻戻し装置の開示もある(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
図3において、1は搬送ロールで、ライン速度設定器6に設定されたライン速度Vrefで巻取材料18を走行させるように回転する。7はライン速度指令器で、単位変換して搬送ロール電動機10の速度指令Vrefを算出する。8は速度制御器で、速度指令Vrefと搬送ロール速度検出器11で検出された速度Vが一致するように制御し、搬送ロール駆動装置9を介して搬送ロール電動機10を駆動し、それに連結された搬送ロール1を設定されたライン速度で走行させる。
また、搬送ロール速度検出器11で検出された速度Vは、速度制御器8及び径演算器12へ出力される。径演算器12は、速度Vとワインダ速度検出器14で検出された速度からワインダの径Dを演算する。
2はワインダで、張力設定器5で設定された張力設定値と張力検出器3で検出した実張力信号が一致するように張力制御されて巻取材料18を巻取る。なお、この張力制御は、径演算器12が出力するワインダ径Dに応じて励磁電流演算器16が算出した励磁電流指令Imrefと、張力制御器4の出力に応じて2次電流演算器17が算出した2次電流指令I2refを用い、ワインダ制御装置15でベクトル制御により誘導電動機であるワインダ電動機13を駆動することで行われる。
このように、従来の巻取り・巻戻し装置は、ライン速度Vとワインダ速度のみ用いて演算したワインダ径Dに応じて巻取り・巻戻しをするのである。
【特許文献1】特許第3425514号(第11頁、図11)
【特許文献2】特許公告 昭和64−12194号(第1頁)
【特許文献3】特許第3289754号(第8頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の巻取り・巻戻し装置は、ワインダ電動機をベクトル制御する際の励磁電流指令は、ワインダ径の現状値を用いて演算しているので、張力が一定であっても径の変化、つまり、ワインダ速度の変化が大きい場合には、特に、巻取材料が厚いもの(径の変化が大きい)や大容量の誘導電動機(界磁の立ち上がりが遅い)を用いた場合には、界磁制御が追いつかないので、張力制御が安定せず、製紙用ワインダでは巻取り開始でのたるみや、巻戻し終了での張りすぎによるという問題があった。また、界磁の遅れをトルク電流(2次電流)で補正したり、微分要素を載せたフォーシング手法を用いてもその補正は十分ではなく、このような場合は製品しわ、最悪は紙切れとなるので、製品品質・操業安定性というような問題もあった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、適用する誘導電動機の界磁遅れ時間を考慮したワインダ径演算を正しく予測する機能を備え、この予測された励磁指令を用い、安定した張力制御を可能とする巻取り・巻戻し装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、誘導電動機を駆動するワインダ制御装置と、前記誘導電動機に連結されたワインダと、巻取りあるいは巻戻しされる材料を走行させる搬送ロールと、前記ワインダの速度及び前記搬送ロールの速度から前記ワインダの径を演算する径演算器と、前記材料の張力を検出張力として出力する張力検出器と、指令張力と前記検出張力が一致するように制御する張力制御器とを設けた巻取り・巻戻し装置において、前記誘導電動機の界磁遅れ時間における前記ワインダの径の変化分を予測演算し、前記ワインダの径の演算値を補正する径補正演算器を備えたことを特徴とするものである。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ワインダ制御装置は、前記補正後のワインダの径の演算値に応じて算出された励磁電流指令と、前記張力制御器の出力に応じて算出された2次電流指令を用いて、前記誘導電動機をベクトル制御することを特徴とするものである。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記径補正演算器は、前記ワインダの径と初期厚み設定値を用いて前記材料の厚みを演算する厚み演算器を備え、前記ワインダの径、前記材料の厚み及び前記搬送ロールのライン速度指令値を用いて、ワインダの径の変化分を予測演算し、前記ワインダの径を補正することを特徴とするものである。
【0007】
上記問題を解決するため、本発明は、次のようにしたのである。
請求項4に記載の発明は、誘導電動機を駆動するワインダ制御装置と、前記誘導電動機に連結されたワインダと、巻取りあるいは巻戻しされる材料を走行させる搬送ロールと、前記ワインダの速度及び前記搬送ロールの速度から前記ワインダの径を演算する径演算器と、前記材料の張力を検出張力として出力する張力検出器と、指令張力と前記検出張力が一致するように制御する張力制御器とを設けた巻取り・巻戻し装置の制御方法において、前記ワインダの径と初期厚み設定値を用いて前記材料の厚みを演算し、前記ワインダの径、前記材料の厚み及び前記搬送ロールのライン速度指令値を用いて、ワインダの径の変化分を予測演算して、前記ワインダの径を補正し、前記補正後のワインダの径に応じて励磁電流指令を算出し、前記張力制御器の出力に応じて2次電流指令を算出して前記誘導電動機をベクトル制御するという手順をとったのである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、適用する誘導電動機の界磁遅れ時間を考慮したワインダ径を正しく予測演算でき、予測された励磁指令を用いるので界磁の応答遅れを解消した安定した張力制御が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の巻取り・巻戻し装置の構成図である。図において、図3と同一であるものはその説明を省略し、異なる部分について以下説明する。
径補正演算器20は、搬送ロール1及びワインダ2の2つの速度情報を用いて、ワインダ2を駆動する誘導電動機の界磁遅れ時間におけるワインダ予測径Doを演算する。

ワインダ制御装置15は、張力設定器5で設定された張力設定値と張力検出器3で検出した実張力信号が一致するようにして巻取材料18を張力制御して巻取り、その際の励磁電流指令は、径補正演算器20が出力するワインダ予測径Doに応じて励磁電流演算器16が算出した値Imref’と、張力制御器4の出力に応じて2次電流演算器17が算出した2次電流指令I2refを用いる。
本発明が従来技術と異なる部分は、径補正演算器20を備え、径補正演算器20が出力するワインダ予測径Doに応じた励磁電流指令Imref’を励磁電流演算器16が算出するようにした部分である。
【0011】
図2は、本発明の径補正演算器20の詳細図である。図において、21は厚み演算器、22は初期厚み設定器、23は径補正演算要部、24は遅れ時間設定器である。
厚み演算器21は、初期厚み設定器22に設定された値を初期値として巻取材料18の厚み演算を開始する。厚み演算器21は、巻取り・巻戻し装置の運転が開始されると、径演算器12からワインダ2の1回転ごとの径演算データを受取り、その差分から厚みを計算し、平均化処理を施し、厚みδ(m)として径補正演算要部23に出力する。
径補正演算要部23は、径演算器12からのワインダの径D(m)、ライン速度指令器7からの速度指令値Vref(m/sec)、厚みδ(m)及び遅れ時間設定器24のワインダ電動機13の界磁遅れ時間に相当する設定値Td(sec)を用いてワインダ予測径Do(m)を演算する。
【0012】
径補正演算要部23での演算処理を具体的に演算式を用いて説明する。
界磁遅れ時間に相当するTd間に、ラインが走行する長さLは、(1)式で演算される。
L=∫Vrefdt ・・・・・・(1)
ここで∫は積分記号である。積分時間は0からTdである。
この長さLに相当する径変化分Dδ(m)は、加速ならびに減速を考慮し速度指令Vrefを積分した(2)式で演算される。
Dδ=∫Vrefdt*δ ・・・・・・(2)
ここで径変化分Dδは、巻取りの時は正、巻戻しの時は負の符号を取るものとする。
また、径変化分Dδ、ワインダの径D、ワインダ予測径Doの間には(3)式の関係がある。
π/4*(Do−D)=Dδ ・・・・・・(3)
従って、ワインダ予測径Doは、(2)、(3)式の関係により、(4)式で求めることができる。
Do=√(D+Dδ*4/π) ・・・・・・(4)
このワインダ予測径Doは、励磁電流演算器16に出力され、これに基づき励磁電流指令Imref’が演算される。
【0013】
このように、径補正演算器20はワインダ2を駆動する誘導電動機の界磁遅れ時間を考慮したワインダ予測径Doを演算し、ワインダ制御装置15は界磁遅れ時間を考慮したワインダ予測径Doに応じた励磁電流指令を用いて巻取材料の張力制御を行うようにしているので、界磁応答の遅れによる軸ズレを解消し、安定した張力制御が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示す巻取り巻戻し制御装置のブロック図
【図2】本発明の径補正演算器21の詳細ブロック図
【図3】従来の巻取り巻戻し制御装置のブロック図
【符号の説明】
【0015】
1 搬送ロール
2 ワインダ
3 張力検出器
4 張力制御器
5 張力設定器
6 ライン速度設定器
7 ライン速度指令器
8 速度制御器
9 搬送ロール駆動装置
10 搬送ロール電動機
11 搬送ロール速度検出器
12 径演算器
13 ワインダ電動機
14 ワインダ速度検出器
15 ワインダ制御装置
16 励磁電流演算器
17 2次電流演算器
18 巻取材料
20 径補正演算器
21 厚み演算器
22 初期厚み設定器
23 径補正演算要部
24 遅れ時間設定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機を駆動するワインダ制御装置と、前記誘導電動機に連結されたワインダと、巻取りあるいは巻戻しされる材料を走行させる搬送ロールと、前記ワインダの速度及び前記搬送ロールの速度から前記ワインダの径を演算する径演算器と、前記材料の張力を検出張力として出力する張力検出器と、指令張力と前記検出張力が一致するように制御する張力制御器とを設けた巻取り・巻戻し装置において、
前記誘導電動機の界磁遅れ時間における前記ワインダの径の変化分を予測演算し、前記ワインダの径の演算値を補正する径補正演算器を備えたことを特徴とする巻取り・巻戻し装置。
【請求項2】
前記ワインダ制御装置は、前記補正後のワインダの径の演算値に応じて算出された励磁電流指令と、前記張力制御器の出力に応じて算出された2次電流指令を用いて、前記誘導電動機をベクトル制御することを特徴とする請求項1記載の巻取り・巻戻し装置。
【請求項3】
前記径補正演算器は、前記ワインダの径と初期厚み設定値を用いて前記材料の厚みを演算する厚み演算器を備え、前記ワインダの径、前記材料の厚み及び前記搬送ロールのライン速度指令値を用いて、ワインダの径の変化分を予測演算し、前記ワインダの径を補正することを特徴とする請求項1記載の巻取り・巻戻し装置。
【請求項4】
誘導電動機を駆動するワインダ制御装置と、前記誘導電動機に連結されたワインダと、巻取りあるいは巻戻しされる材料を走行させる搬送ロールと、前記ワインダの速度及び前記搬送ロールの速度から前記ワインダの径を演算する径演算器と、前記材料の張力を検出張力として出力する張力検出器と、指令張力と前記検出張力が一致するように制御する張力制御器とを設けた巻取り・巻戻し装置の制御方法において、
前記ワインダの径と初期厚み設定値を用いて前記材料の厚みを演算し、
前記ワインダの径、前記材料の厚み及び前記搬送ロールのライン速度指令値を用いて、ワインダの径の変化分を予測演算して、前記ワインダの径を補正し、
前記補正後のワインダの径に応じて励磁電流指令を算出し、
前記張力制御器の出力に応じて2次電流指令を算出して前記誘導電動機をベクトル制御することを特徴とする巻取り・巻戻し装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−113911(P2009−113911A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288027(P2007−288027)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】