説明

布帛用インクジェットインク受理性付与剤及びそれを用いて加工された布帛

【課題】布帛にインクジェットプリンターで印刷する際に、高い着色濃度が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみを抑制できる布帛用インクジェットインク受理性付与剤及びそれを用いて加工された布帛を提供する。
【解決手段】カチオン系水溶性樹脂を含有するバインダー樹脂中に、融点が60〜170℃の範囲にある化合物(A)をバインダー樹脂と前記化合物(A)との合計量中の配合比率で60〜95質量%を含有することを特徴とする布帛用インクジェットインク受理性付与剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛にインクジェットプリンターのインク受理性を付与することができ、高い着色濃度で印刷が可能で、布帛裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみを抑制できる布帛用インクジェットインク受理性付与剤及びそれを用いて加工された布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、商品やイベント等を宣伝する広告媒体として用いられる幟や幕は、さまざまな場所で広く用いられている。例えば、ガソリンスタンド、コンビニエンスストア、商店街等がある。通常、このような幟や幕は、布帛に対して必要な情報を文字や図形、さらには4色分解による写真柄等の図柄をスクリーン印刷方式でプリントして作製される。このスクリーン印刷方式では、図柄をプリントするために、版を作製する製版工程が必要となる。一方、近年のパソコン、カラープリンター等デジタル機器の目覚ましい技術進歩により、繊維産業分野においても印刷幅の広いワイドフォーマットのインクジェットプリンターが開発され、製版することなく、所定の文字や図形、写真柄等の図柄を布帛に印刷することが可能となってきている。
【0003】
インクジェットプリンターでは、染料又は顔料を着色剤としてそれぞれ水性インクと油性インクがあり、これらインクをピエゾ方式(圧電素子)やサーマル方式(発熱素子)等によりプリンターヘッドのノズルから布帛に向けて吐出させ印刷を行う。
【0004】
このインクジェットプリンターによる幟や幕の作製方法としては、主に昇華転写方式、分散染料ダイレクト方式、顔料インク方式等が挙げられる。昇華転写方式は、昇華型の分散染料インクを専用紙にインクジェットプリンターで印刷したものを布帛に熱転写する方法である。分散染料ダイレクト方式は、染料インクを布帛にインクジェットプリンターで直接印刷する方法である。顔料インク方式は、顔料インクを布帛にインクジェットプリンターで直接印刷する方法である。昇華転写方式の場合は、紙に印刷したものを布帛に熱転写するため、布帛にあらかじめ処理をする必要がないのに対して、分散染料ダイレクト方式及び顔料インク方式では、印刷する布帛にインクにじみを抑制するインク受理層を形成し、印刷適性を付与する処理が必要となる。
【0005】
特に、広告媒体として使用する幟や幕では、インパクトのある色鮮明性、印刷した図柄が布帛の表裏のどちらからも視認できることなど、より高品質で着色濃度の高いものが求められている。しかしながら、従来のものではインクの吐出量を増加しても充分に着色濃度を高めることができない場合や、印刷面の裏面へのインクの浸透が充分でないため、幟や幕の用途では適さないという問題があった。そこで、高い着色濃度が得られ、かつ布帛裏面へのインクの浸透性に優れる布帛用インクジェットインク受理性付与剤が要求されている。
【0006】
布帛のインク受理性を高める方法として、布帛表面に無機顔料(炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ、アルミナ等)を含有するインク受理層を設ける方法が知られている。このようなインク受理層を設けたものとして、水不溶性樹脂、無機顔料及び/又は有機顔料、及びオキサゾリン基含有ポリマーを含有するインク受理層を有する繊維基布からなる印刷用膜材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この印刷用膜材は、布帛の表裏ともに着色濃度が低い問題があった。
【特許文献1】特開2002−200844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、布帛にインクジェットプリンターで印刷する際に、高い着色濃度が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみを抑制できる布帛用インクジェットインク受理性付与剤及びそれを用いて加工された布帛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カチオン系水溶性樹脂を含有するバインダー樹脂中に、融点が60〜170℃の範囲にある化合物を多量に含有させた布帛用インクジェットインク受理性付与剤で布帛を加工することで、インクジェットプリンターで印刷した際に、高い着色濃度が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみが抑制できる布帛が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、カチオン系水溶性樹脂を含有するバインダー樹脂中に、融点が60〜170℃の範囲にある化合物(A)をバインダー樹脂と前記化合物(A)との合計量中の配合比率で60〜95質量%を含有することを特徴とする布帛用インクジェットインク受理性付与剤及びそれを用いて加工された布帛を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤を用いることで、布帛にインクジェットプリンターのインク受理性を付与することができるため、スクリーン印刷方式のような製版工程が必要なく、生産コストの低減、少量多品種生産に対応可能な利点を有するインクジェットプリンターに適応した布帛が得られる。また、本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤で加工された布帛をインクジェットプリンターで印刷した場合、よりアピール性のある着色濃度が高い鮮明な図柄が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、インクにじみを抑制できるため、布帛の裏面でも図柄が充分に視認できるものが得られる。したがって、本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤は、需要者への高いアピールが要求されるため鮮明な図柄が必要な宣伝用の幟や幕等に用いられる布帛に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤でバインダー樹脂として用いるカチオン系水溶性樹脂は、カチオン性基として、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩を有する重合体又は共重合体である。例えば、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリアルキレンアミン等が挙げられる。このようなカチオン系水溶性樹脂として、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド)(例えば、日東紡績株式会社製「PAS−J−81」)が挙げられる。また、本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤に含まれるバインダー樹脂中のカチオン系水溶性樹脂の配合比率は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。カチオン系水溶性樹脂の配合比率をこの範囲とすれば、充分にインクにじみが抑制できる。
【0012】
本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤で用いるバインダー樹脂で、カチオン系水溶性樹脂以外に用いることができる樹脂として、アクリル酸エステル共重合体、アクリル−スチレン共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、ポリマレイン酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。また、オキサゾリン基含有樹脂、水溶性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート基含有樹脂等の樹脂改質剤が挙げられる。さらには、天然又は合成糊剤として、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、プロピルオキシセルロース、アルギン酸エステル、グアーガムエチレンオキサイド付加物、エチルセルロース、メチルセルロース、ブリティッシュガム、デンプン、可溶性デンプン、水溶性デンプン、水溶性デンプン誘導体等が挙げられる。これらの樹脂はカチオン系水溶性樹脂と単独で併用しても、2種以上を併用しても構わない。
【0013】
本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤で用いる融点が60〜170℃の範囲にある化合物(A)(以下、「低融点化合物」という。)は、融点が60〜170℃の範囲にあれば、特に限定されるものでなく、幅広い化合物を使用することができる。これらの低融点化合物の中でも、ヒンダードフェノール化合物、ベンゾトリアゾール化合物、ヒンダードアミン化合物、リン化合物、芳香族カルボン酸エステル及び芳香族スルホンアミドが好ましい。また、これらの低融点化合物は単独で用いても、2種以上を併用しても構わない。
【0014】
前記低融点化合物(A)の配合比率は、布帛用インクジェットインク受理性付与剤中に含まれるバインダー樹脂と前記化合物(A)との合計量に対して60〜95質量%である。この範囲であれば、着色濃度の高く、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、インクにじみが抑制された布帛が得られる。
【0015】
本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤には、上記の成分の他に、本発明の趣旨を損なわない範囲で、防カビ剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、有機微粒子、無機微粒子、着色剤、増粘剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0016】
本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤で加工する布帛としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂繊維からなる布帛が挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート製繊維からなる布帛が好ましい。また、幟、幕等の用途に用いられているポリエステル布帛には比較的薄手のポンジーと比較的厚手のトロピカル、トロピカルマット、ツイール等があるが、いずれのものも用いることができる。
【0017】
本発明の布帛用インクジェットインク受理性付与剤を用いた布帛の加工方法としては、例えば、布帛表面にスクリーン印刷、グラビアコート、ロールコート、コンマコート、エアナイフコート、キスコート、ワイヤーバーコート、フローコート等の各種コーティング法によって当該インク受理性付与剤を塗布するか、又はスプレー方式で塗布した後、乾燥する方法が挙げられる。
【0018】
また、布帛を当該インク受理性付与剤に浸漬した後、マングルロールにより絞りを加え、その後乾燥するディッピング法で加工する方法も挙げられる。上記の各種コーティング法やスプレー方式で当該インク受理性付与剤を塗布して加工する方法より、ディッピング法で加工する方法が、より均一に布帛全体を加工できるので好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0020】
(調製例1:各種化合物の分散液の調製)
表1に挙げたA−1〜19の化合物50質量部、分散剤(第一工業製薬株式会社製「ノイゲンEA−157」;ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル)5質量部及び水45質量部を混合し、ビーズミルで分散して各種化合物の分散液を調製した。
【0021】
【表1】

【0022】
(実施例1〜16、比較例1〜3)
調製例1で得られた各種化合物の分散液30質量部(化合物として15質量部)、カチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)10質量部(樹脂として2.5質量部)及び水60質量部を均一に混合して、実施例1〜16及び比較例1〜3のインク受理性付与剤を得た。なお、インク受理性付与剤における低融点化合物の配合比率は、バインダー樹脂と低融点化合物との合計量中に対して85.7質量%である。
【0023】
(合成例1:アクリル系共重合体の合成)
アクリル酸ブチル23質量部、メタクリル酸メチル7質量部、スチレン5質量部、イタコン酸0.5質量部、アクリル酸0.5質量部、水18質量部、及び非イオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製「ノイゲンEA−207D」、オキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、HLB値:18.7)2.5質量部を混合した後、ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製「TKホモディスパー」)を用いて乳化して単量体乳化物を調製した。次いで、撹拌機、窒素導入管及び還流冷却器を取り付けたフラスコに、水40質量部を入れ窒素ガス雰囲気下で撹拌混合しながら50℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.1質量部及びメタ重亜硫酸ナトリウム0.1質量部をフラスコ内に添加して溶解した。その後、上記で調製した単量体乳化物、過硫酸アンモニウム水溶液(5質量%)2質量部、及びメタ重亜硫酸ナトリウム水溶液(5質量%)2質量部を3時間かけてフラスコ内に滴下した。なお、この滴下中のフラスコ内の温度は50〜60℃にコントロールした。滴下終了後、60℃でさらに1時間反応してアクリル系共重合体を得た。その後、室温まで冷却した後、アンモニア水(25質量%)0.5質量部を加えて中和し、樹脂分が35質量%となるように水を加えて均一に混合して、アクリル系共重合体(以下、「アクリル樹脂」という。)の水性樹脂エマルジョンを得た。
(比較例4)
合成例1で得られたアクリル樹脂の水性樹脂エマルジョン(樹脂分35質量%)286質量部(樹脂として100質量部)、カチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)40質量部(樹脂として10質量部)、オキサゾリン基を有する樹脂(日本触媒株式会社製「エポクロスWS−500」、樹脂分:40質量%)25質量部(樹脂として10質量部)、及びシリカ(水澤化学工業株式会社製「ミズカシルP−78D」)54質量部を混合した後、固形分が10質量%となるように水を加えて均一に混合して、比較例4のインク受理性付与剤を得た。
【0024】
(評価用布帛の作製)
上記の実施例1〜16及び比較例1〜4で得られたインク受理性付与剤をステンレスバットに入れ、そこへ布帛としてポリエステルポンジー(B4サイズ)を浸漬した後、このポリエステルポンジーを取り出し、1.0kg/mの圧力に調整した電動マングル(辻井染機工業株式会社「VPM−1」)を用いてマングルロール絞りを行った。次いで、このポリエステルポンジーを40℃で1分間乾燥して、ディッピング法で加工された評価用布帛を作製した。
【0025】
(インクジェットプリンターでの印刷)
上記で得られた評価用布帛に対して、ピエゾ型ヘッドを搭載したワイドフォーマットインクジェットプリンター(株式会社ミマキエンジニアリング製「JV−2」)を用いて、このプリンターの純正品である水性顔料インクにより印刷した。印刷条件は、出力解像度720dpi、カラー濃度100%とした。印刷した布帛を150℃で1分間の乾燥、熱処理して印刷物を得た。
【0026】
(印刷物の評価)
上記で得られた印刷物について、下記の着色濃度、インク浸透性及びインクにじみについてそれぞれ評価した。
【0027】
(着色濃度の測定)
上記の印刷条件で、カラーチャート画像(プリンターに標準装備されているテスト用画像)を印刷した評価用布帛の4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の印刷面とその裏面について、それぞれ反射濃度計(サカタインクスエンジニアリング株式会社製「Macbeth RD918」)を用いて着色濃度を測定した。
【0028】
(着色濃度の評価)
上記で測定した表面(印刷面)の着色濃度の4色の平均値を算出し、この平均値から以下の基準にしたがって着色濃度を評価した。
○:着色濃度が1.10以上である。
×:着色濃度が1.10未満である。
【0029】
(インク浸透性の評価)
上記で測定した表面(印刷面)の着色濃度及び裏面の着色濃度の4色の平均値を算出し、これらの平均値の差(表裏濃度差)を算出して、以下の基準にしたがってインク浸透性を評価した。
○:表裏濃度差が0.40未満である。
×:表裏濃度差が0.40以上である。
【0030】
(インクにじみの評価)
着色濃度、インク浸透性の評価に用いたカラーチャート画像(プリンターに標準装備されているテスト用画像)を印刷した評価用布帛の4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の印刷部分のインクのにじみを目視で観察し、以下の基準にしたがってインクにじみを評価した。
○:にじみなし。
×:にじみあり。
【0031】
上記の実施例1〜16及び比較例1〜4の各インク受理性付与剤を用いた評価結果について、表2〜4に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
(比較例5)
カチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)10質量部(樹脂として2.5質量部)及び水90質量部を均一に混合して、比較例5のインク受理性付与剤を得た。
【0036】
(比較例6〜9)
調製例1で得られた化合物A−2(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製「IRGANOX 245」)の分散液を0.6、0.9、2.2及び5質量部(化合物として0.3、0.45、1.1及び2.5質量部)及びカチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)10質量部(樹脂として2.5質量部)に、全量として100質量部となるように水を加えた後、均一に混合して、比較例6〜9のインク受理性付与剤を得た。
【0037】
(実施例17〜22)
調製例1で得られた化合物A−2(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製「IRGANOX 245」)の分散液を10、20、40、60、80及び90質量部(化合物として5、10、20、30、40及び45質量部)及びカチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)10質量部(樹脂として2.5質量部)に、全量として100質量部となるように水を加えた後、均一に混合して、実施例17〜22のインク受理性付与剤を得た。
【0038】
(実施例23〜27)
調製例1で得られた化合物A−2(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製「IRGANOX 245」)の分散液60質量部(化合物として30質量部)、カチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)10質量部(樹脂として2.5質量部)、合成例1で得られたアクリル樹脂の水性樹脂エマルジョン(固形分35質量%)3.6、7.2、14.3、21.5及び30質量部(樹脂として1.26、2.52、5.01、7.53及び10.5質量部)に、全量として100質量部となるように水を加えた後、均一に混合して、実施例23〜27のインク受理性付与剤を得た。
【0039】
(比較例10)
調製例1で得られた化合物A−2(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製「IRGANOX 245」)の分散液を60質量部(化合物として30質量部)及び合成例1で得られたアクリル樹脂の水性樹脂エマルジョン(固形分35質量%)7.2質量部(樹脂として2.52質量部)及び水32.8質量部を均一に混合して、比較例10のインク受理性付与剤を得た。
【0040】
(比較例11〜15)
調製例1で得られた化合物A−2(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製「IRGANOX 245」)の分散液を0.6、0.9、2.2、5及び10質量部(化合物として0.3、0.45、1.1、2.5及び5質量部)、カチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)10質量部(樹脂として2.5質量部)及び合成例1で得られたアクリル樹脂の水性樹脂エマルジョン(固形分35質量%)7.2質量部(樹脂として2.52質量部)に、全量として100質量部となるように水を加えた後、均一に混合して、比較例11〜15のインク受理性付与剤を得た。
【0041】
(実施例28〜31)
調製例1で得られた化合物A−2(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製「IRGANOX 245」)の分散液を20、30、40及び80質量部(化合物として10、15、20及び40質量部)、カチオン系水溶性樹脂(日東紡績株式会社製「PAS−J−81」、樹脂分:25質量%)10質量部(樹脂として2.5質量部)及び合成例1で得られたアクリル樹脂の水性樹脂エマルジョン(固形分35質量%)7.2質量部(樹脂として2.52質量部)に、全量として100質量部となるように水を加えた後、均一に混合して、実施例28〜31のインク受理性付与剤を得た。
【0042】
上記の実施例17〜31及び比較例5〜15の各インク受理性付与剤を用いて、上記と同様の評価を行った。評価結果について、表5〜9に示す。なお、表5〜9の配合欄は、インク受理性付与剤100質量部中に含まれる各成分の固形分としての質量部数を示し、低融点化合物の配合比率は、インク受理性付与剤中に含まれるバインダー樹脂と低融点化合物との合計量中の配合比率(質量%)を示す。また、比較例10については、インクにじみが大きかったため、着色濃度を測定せず、評価もしなかった。
【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
【表8】

【0047】
【表9】

【0048】
表2〜9に示した評価結果から、以下のことが分かった。
【0049】
実施例1〜16及び比較例1〜3は、融点が異なる化合物を種々用いて、評価した例である。これらの評価結果から、融点が60〜170℃の範囲の化合物を用いた実施例1〜16のインク受理性付与剤では、高い着色濃度が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみが抑制できる布帛が得られることが分かった。
【0050】
一方、融点が170℃を超える化合物を用いた比較例1〜3のインク受理性付与剤では、比較的高い着色濃度が得られたが、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性が不充分であることが分かった。
【0051】
比較例4は、従来技術であるシリカを配合したインク受理性付与剤を用いた例である。この比較例4では、着色濃度が不充分であることが分かった。
【0052】
比較例5〜9及び実施例17〜22は、低融点化合物の配合比率を変化させた例である。これらの例から、低融点化合物の配合比率が60質量%以上の実施例17〜22のインク受理性付与剤では、高い着色濃度が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみが抑制できる布帛が得られることが分かった。一方、低融点化合物の配合比率が60質量%未満の比較例5〜9のインク受理性付与剤では、着色濃度又は布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性が不充分であることが分かった。
【0053】
実施例23〜27は、バインダー樹脂にカチオン系水溶性樹脂とアクリル樹脂とを併用した例である。これらの例では、カチオン系水溶性樹脂とアクリル樹脂との比率を変化させたが、どの例においても、高い着色濃度が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみが抑制できる布帛が得られることが分かった。
【0054】
比較例10は、バインダー樹脂にカチオン系水溶性樹脂を用いず、アクリル樹脂のみを用いた例である。この例では、インクにじみが大きく、インク受理性付与剤として機能しないことが分かった。
【0055】
比較例11〜15及び実施例28〜31は、バインダー樹脂をカチオン系水溶性樹脂とアクリル樹脂との併用とし、低融点化合物の配合比率を変化させた例である。これらの例からも、低融点化合物の配合比率が60質量%以上の実施例28〜31のインク受理性付与剤では、高い着色濃度が得られ、布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性に優れ、かつインクにじみが抑制できる布帛が得られることが分かった。一方、低融点化合物の配合比率が60質量%未満の比較例11〜15のインク受理性付与剤では、着色濃度又は布帛の印刷面の裏面へのインクの浸透性が不充分であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン系水溶性樹脂を含有するバインダー樹脂中に、融点が60〜170℃の範囲にある化合物(A)をバインダー樹脂と前記化合物(A)との合計量中の配合比率で60〜95質量%を含有することを特徴とする布帛用インクジェットインク受理性付与剤。
【請求項2】
前記化合物(A)が、ヒンダードフェノール化合物、ベンゾトリアゾール化合物、ヒンダードアミン化合物、リン化合物、芳香族エステル、芳香族スルホンアミドからなる群から選ばれる化合物である請求項1記載の布帛用インクジェットインク受理性付与剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の布帛用インクジェットインク受理性付与剤で加工されたことを特徴とする布帛。

【公開番号】特開2009−154312(P2009−154312A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331905(P2007−331905)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】