常時微動計測に基づく建物の健全性診断法並びに健全性診断プログラム
【課題】建物の健全性診断の指標自体の周期的な変動の影響を受けずに健全性を診断することと共に線形の範囲にある変形−荷重関係を利用することによって安定的に健全性を診断することを可能とする。
【解決手段】建物の常時微動の計測を常時行って常時微動の計測データを収集すると共に建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出し、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定し、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定し、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断するようにした。
【解決手段】建物の常時微動の計測を常時行って常時微動の計測データを収集すると共に建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出し、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定し、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定し、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常時微動計測に基づく建物の健全性診断法並びに健全性診断プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、常時微動と呼ばれる微小振動の計測に基づいて地震や強風等による建物の損傷の有無を判断する方法並びにプログラムに関する。なお、本発明で建物の健全性とは、構造的な損傷の有無など建物の構造に係る健全性のことをいう。
【背景技術】
【0002】
従来の建物の振動の計測に基づいて健全性を診断する方法としては、例えば常時微動計測に基づく建物の健全性診断法がある(特許文献1)。
【0003】
この建物の健全性診断法は、図20に示すように、健全時及び評価時における建物の常時微動を計測し(S101、S101’)、その計測記録から健全時及び評価時のクロススペクトル並びにパワースペクトルを算定し(S102、S103、S103’)、それらスペクトルの算定結果から固有振動数並びに固有モードを求めて建物の振動特性を計算する(S104、S105、S105’)。そして、健全時と評価時の振動特性の計算結果を比較することにより(S106)、建物全体の健全性の良否を判定する(S107)。建物の健全性が失われていると判定された場合には振動特性の計算結果から建物の剛性分布を計算し(S108、S109、S109’)、健全時と評価時の剛性分布の計算結果を比較することにより(S110)、健全性に劣る位置とその程度を判定する(S111)ものである。
【0004】
また、建物の健全性に影響を与える事象の前後の建物の振動情報に着目して健全性を診断する方法として、構造性能指標推定装置及び構造物の構造性能リアルタイムモニタリング方法がある(特許文献2)。
【0005】
この構造性能リアルタイムモニタリング方法は、図21に示すように、基礎加速度が入力されることにより出力される絶対加速度の測定を行うための計測点を構造物の各層に設定した上で計測点に計測装置を設置し(第1の工程)、計測装置を介して観測された構造物の各層における絶対加速度を構造性能指標推定装置本体に送信し(第2の工程)、構造性能指標推定装置本体において各層毎の絶対加速度を用いて構造性能指標推定装置本体に格納された演算式により構造物の各層毎に減衰係数及び剛性を推定する(第3の工程)。そして、第2の工程及び第3の工程を繰り返して構造物の各層における減衰係数及び剛性に係る推定値を時系列に取得し、構造性能をモニタリングする(第4の工程)ものである。
【0006】
即ち特許文献2の方法は、振動計測データをリアルタイムで評価し、建物の層(階)毎の剛性と減衰を時々刻々と評価してそれらの変化を検出することにより、建物の健全性をリアルタイムで評価する方法である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−322585号
【特許文献2】特開2005−083975号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、建物の固有振動数や剛性は安定したものであり、建物に損傷が発生することなく健全性が同一の状態であれば固有振動数等は一定値であることを前提としている。即ち、固有振動数や剛性は建物の損傷によって変化するが他の要因によっては変化しないので、健全時と評価時で固有振動数等を比較して差違がある場合には建物に損傷が発生していると判断することができることを前提にしている。
【0009】
しかしながら、本発明者は、建物の振動の計測に基づく健全性の診断の検討において、建物の固有振動数は一定値で安定してはおらず、一日の中で周期的に変動しており、その変動は気温や日射、風力などの環境条件に依存して複雑な様相を示して規則正しい変動ではないことを知見した。即ち、建物の固有振動数は、建物に何ら損傷が発生していない場合であっても環境条件等により変動していることを知見した。また、建物の剛性分布は固有振動数等に基づいて推定される指標であるため、固有振動数が変動することにより見かけ上の剛性分布も変動することになる。したがって、従来の前提条件の下では、時点の異なる固有振動数を比較した場合に、建物に何ら損傷が発生していないにもかかわらず固有振動数が変化しているので損傷が発生していると誤って判断したり、実際には建物に損傷が発生しているにもかかわらず固有振動数が変化していないので損傷が発生していないと誤って判断したりしてしまうという問題がある。
【0010】
更に、特許文献1の方法は健全時と評価時の固有振動数等を比較して建物の健全性を診断する方法であり、構築直後の健全時の状態を示すデータが必要とされ、健全時のデータがない場合には建物の健全性の診断を行うことができない。このため、健全性評価が実施できる対象が限られてしまうという問題がある。
【0011】
また、地震や強風時における建物の挙動は常時微動のような微小変形時の挙動と比較して複雑であるため、以下に示す理由により、現実には、特許文献2の方法のようにリアルタイムで剛性や減衰を推定することは困難であると考えられる。
【0012】
図22に示すように、軸方向に鉛直荷重Nが作用する鉄筋コンクリート単柱に横荷重Pを作用させた場合における変形δ−荷重Pの関係を例に挙げて説明する(柴田明徳:最新耐震構造解析,森北出版,1981年,p114)。
【0013】
図22において、剛性は、荷重Pの増加量を変形δの増加量で除した値、言い換えれば、変形δ−荷重P曲線の接線の傾きで与えられる。
【0014】
ここで、地震時のように大きな変形δが発生した場合には、変形δ−荷重P特性が紡錘形の曲線となって変形δと荷重Pは非線型の関係にあるため、荷重Pや変形δに応じて剛性が時々刻々と変化することになる。また、実際の建物は複数の柱や梁、壁から構成されるため、建物全体の剛性は単柱よりも更に複雑な挙動を示すことになる。したがって、建物に損傷が発生している状態での剛性は、図22に示すような単柱の場合よりもさらに複雑な挙動を示すことになる。
【0015】
このことは、剛性の推定という観点からみると、時々刻々変化する瞬間的な剛性は、本質的には、その時刻周辺の「瞬間的な剛性の影響が及ぶ近傍の時刻の」短時間の振動計測データに基づいて推定しなければならないことを示している。しかし、振動計測データは短時間であるほど剛性に係わる情報量が少なくなり、偶発的に発生する推定誤差の影響が大きくなることにつながるため、短時間の振動計測データから瞬間的な剛性を推定するには限界があるという問題がある。
【0016】
一方で、上記の問題を解決するため、瞬間的な剛性の精度を向上させようとして振動データの長さを長くしていくと剛性の瞬間的な値が異なる時間帯のデータを含んでしまうことになるため、結果として瞬間的な剛性の精度が低下してしまうということになる。
【0017】
以上から、特許文献2の方法のように、建物に地震時のように大きな変形が発生している状態における剛性の複雑な変化をリアルタイムで追跡することは現実には困難であると言える。
【0018】
そこで、本発明は、建物の健全性診断の指標自体の周期的な変動の影響を受けずに健全性を診断することが可能であると共に線形の範囲にある変形−荷重関係を利用することによって安定的に健全性を診断することが可能な建物の健全性の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
図22において、地震時のように大きな変形δに対し、常時微動時の単柱の変形δと荷重Pは共に小さい挙動であり、原点付近で推移する(枠101内の範囲。ただし、実際の常時微動では横軸の変形δが10−4cm以下の非常に微小な範囲であり枠101は正確な範囲を示したものではない)。そして、この領域内の変形δ−荷重P関係はほぼ直線となって変形δと荷重Pはほぼ線形の関係になり、その剛性(変形δ−荷重P関係の傾き)は一定値となる。
【0020】
このことから、複数の柱や梁、壁を組み合わせた実際の建物についてもその変形−荷重関係は直線的な形状になることは容易に類推でき、したがって建物の剛性も安定した一定値をとることとなる。このことを剛性の推定という観点からみると、健全時と評価時のそれぞれの状態において建物の剛性は安定した状態を保っており、時々刻々と値が変化しないため、振動データの計測時間として一定時間を確保することによって剛性の推定精度を向上させることができる。
【0021】
なお、上記では剛性を例に挙げ、損傷時の瞬間的な剛性を推定するよりも常時微動時のような微小変形時の安定した剛性を推定した方が剛性の推定精度が良くなることを述べた。ここで、固有振動数は建物の剛性と質量で決定される量であり、質量が建物の損傷によらず一定値となることを考慮すれば、上記の剛性に関する議論は固有振動数にもそのまま当てはまる。即ち、固有振動数を建物の健全性診断の指標に用いた場合を想定しても、リアルタイムに瞬間的な量を推定するよりも常時微動時のような微小変形時の安定した固有振動数をある程度の長さの振動データを使って推定することにより推定精度を向上させることができる。
【0022】
そこで、前記の発明者独自の新たな知見に基づくと共に建物の変形と荷重の安定した関係を利用することを踏まえ、請求項1記載の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法は、建物の常時微動の計測を常時行って常時微動の計測データを収集すると共に建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出し、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定し、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定し、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断するようにしている。
【0023】
また、請求項2記載の常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラムは、建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の建物の常時微動の計測データを入力する手段、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定する手段、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定する手段、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断する手段として機能させるようにしている。
【0024】
更に、請求項3記載の常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラムは、建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の常時微動の計測を常時行って収集した常時微動の計測データを入力する手段、常時微動の計測データから建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出する手段、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定する手段、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定する手段、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断する手段として機能させるようにしている。
【0025】
したがって、この建物の健全性診断法並びに健全性診断プログラムによると、固有振動数等の建物の健全性を診断する指標自体が気温や日射、風力などの環境条件の影響を受けて周期的に変動する建物であっても、その変動の影響を受けずに健全性を診断することができる。また、常時微動データに基づいて指標を算定するので線形の範囲にある変形−荷重関係を前提として安定的に健全性を診断することができる。更に、建物の完成時又はその直後の健全時の計測データやそれに基づく健全性の指標を必要としないので、新規な建物か相当時間経過した建物かにかかわらず建物の健全性を診断することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の建物の健全性診断法並びに健全性診断プログラムによれば、固有振動数等の健全性診断の指標自体の周期的な変動の影響を受けずに健全性診断を行うことができると共に、線形の範囲にある変形−荷重関係を前提として健全性診断を行うことができるので健全性診断の信頼性の向上を図ることが可能である。更に、新規な建物か相当時間経過した建物かにかかわらず建物の健全性診断を行うことができるので多様な用途に対応することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1から図10に、本発明の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法の実施形態の一例を示す。
【0029】
この建物の健全性診断法は、図1のフローチャートに示すように、建物の常時微動の計測を常時行って常時微動の計測データを収集すると共に建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出し(S1)、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し(S2)、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定し(S3)、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定し(S4)、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断する(S5)ようにしている。
【0030】
本発明の健全性診断法の適用にあたっては、まず、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データから地震や強風等の建物に構造的な損傷を与え得る事象の発生前後の建物の常時微動データの抽出を行う(S1)。なお、ここでの常時微動とは例えば日常的な風や交通振動等により励起される微小振動のことを指す。また、以降においては、地震や強風等の建物に構造的な損傷を与え得る事象をイベントと呼ぶ。
【0031】
常時微動の計測は、例えば、建物に設置した振動センサ等を用いて常時行う。また、常時計測している建物の常時微動の計測データからの常時微動データの抽出は、例えば、地盤や建物の地震観測に用いられてきたプレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法を用いて行う。
【0032】
プレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法は、図2に示すように、まず、例えば振動センサ等により計測している振動の振幅の中心に対してプラス側とマイナス側のそれぞれの振幅超過閾値をトリガーレベルTL1及びTL2として設定する。
【0033】
トリガーレベルTL1及びTL2は、日常的な風、交通振動、他の人為的振動のレベルを考慮し、本発明が対象としているイベント以外の振動では閾値を超えないように作業者が適当な閾値を設定する。具体的には例えば、1及び−1[gal]程度にすることが考えられるが、トリガーレベルTL1及びTL2はこれに限られるものではなく、これより大きくてもこれより小さくても構わない。
【0034】
プレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法では、計測している振動波形1の振動振幅がトリガーレベルTL1又はTL2を超えた場合に(図2中のトリガー点TP1)その時点をイベント発生時点T0とし、イベント発生時点T0前の計測時間T1とイベント発生時点T0後の計測時間T2を計測対象時間としてその計測対象時間内の振動データを最終的な計測対象R1とする。
【0035】
計測時間T1は後述するイベント発生前の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定する。また、計測時間T2はイベント自体の継続時間及びイベント発生後の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定する。具体的には例えば、計測時間T1及びT2それぞれ5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、更に好ましくは30分以上、更により好ましくは40分以上である。なお、計測時間T1とT2は同じ長さでも異なる長さでもどちらでも構わない。
【0036】
なお、計測対象時間の決定法はプレトリガー計測法に限られるものではなく、イベント発生前後の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされる常時微動データの計測対象時間を決定可能な方法であればいずれの方法であっても構わない。例えば、計測対象時間の決定法としてプレトリガー計測法の代わりにプレ・ポストトリガー計測法を用いても良い。
【0037】
プレ・ポストトリガー計測法は、図3に示すように、計測している振動波形1の振動振幅がトリガーレベルTL1又はTL2を超えた場合に(図3中のトリガー点TP1)その時点をイベント発生時点T0とし、イベント発生時点T0前の計測時間T1をイベント発生前の計測対象時間とするところまではプレトリガー計測法と同様である。
【0038】
プレ・ポストトリガー計測法では更に、イベントに対応する振動波形1の振動振幅がトリガーレベルTL1及びTL2より小さくなった場合に(ポストトリガー点TP2)その時点をイベント終了時点T3とし、イベント発生時点T0からイベント終了時点T3までの計測時間T4をイベント継続中の計測対象時間とすると共にイベント終了時点T3後の計測時間T5をイベント終了後の計測対象時間とする。そして、以上により、計測時間T1、T4及びT5を計測対象時間としてその計測対象時間内の振動データを最終的な計測対象R2とする。
【0039】
プレ・ポストトリガー計測法では、プレトリガー計測法とは異なり、イベント継続時間である計測時間T4を自働で制御できる。したがって、プレ・ポストトリガー計測法を用いる場合には、計測時間T1は後述するイベント発生前の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定し、計測時間T5はイベント発生後の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定する。なお、イベント継続時間である計測時間T4は、イベントの種類により異なるが、イベントが例えば地震であれば地震の発生メカニズムや伝播経路によっても異なり、地震動によっては10秒以下から数10分までの幅を有する。よって、イベント継続時間を自働で制御できるプレ・ポストトリガー計測法はプレトリガー計測法と比べ、イベント継続時間にかかわらず一定のイベント発生後の計測時間T5を確保するという特徴を有する。
【0040】
なお、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データから上記で述べた方法により計測対象R1やR2の常時微動データを抽出する方法としては、例えば以下の二つの方法が考えられる。
【0041】
第一の方法は、振動センサ等に記録装置を設け、通常時には更新を繰り返しながら少なくとも計測時間T1に対応する最新の常時微動データをこの記録装置に記録するようにする。そして、イベントの発生を検知した場合には計測時間T1に対応する最新の常時微動データに対しては以後更新をせずにイベント発生前データとして保持し続け、更にイベント発生後の計測時間T2又はT4及びT5に対応する常時微動データをイベント発生後データとして記録する方法である。これにより、結果として、常時計測している建物の常時微動の計測データから計測対象R1やR2の常時微動データを抽出することとなる。
【0042】
第二の方法は、振動センサ等に記録装置を設け、常時計測している建物の常時微動の計測データをそのまま全て磁気データ或いは紙データとして記録しておいて、記録された一定期間の常時微動データから計測対象R1やR2の常時微動データを抽出する方法である。
【0043】
ここで、記録装置とは、例えば磁気ディスクドライブ及び差し込みと取り出しが可能な磁気ディスクである。また、更新とは、例えば磁気ディスに記録された古いデータに新しいデータを上書きして記録することである。
【0044】
イベント発生の検知方法はレベルトリガー方式に限られるものではなく、例えばSTA/LTA方式を用いても良い。
【0045】
STA/LTA方式は、2つの異なる時間区間の平均的な振動振幅の比をとり、この比が予め設定した閾値を超過したことをもってイベントが発生したと判定する方法である(STA:Short Time Average、LTA:Long Time Average)。具体的には、短い時間区間の振動振幅の平均をSTAとし、短い時間区間を含み且つそれより長い時間区間の振動振幅の平均をLTAとし、STA/LTAの値が予め設定した閾値を超過した場合にイベントが発生したと判定する。例えば地震発生時であれば短い時間区間の振動振幅の平均STAが長い時間区間の振動振幅の平均LTAと比べて急激に大きくなるためにSTA/LTAの値が大きくなる原理を利用した方法である。
【0046】
本発明にSTA/LTA方式を適用する場合に、短い時間区間及び長い時間区間の時間長さ並びにSTA/LTAの閾値に特に制限はなく、対象とするイベントを考慮して作業者がそれぞれ適当な値を設定する。具体的には例えば、STAに対応する短い時間区間は1秒から2秒、LTAに対応する長い時間区間は10秒から20秒並びにSTA/LTAの閾値は3から5程度とすることが考えられる。
【0047】
次に、S1により得られた常時微動データを用いて建物の健全性診断の指標の算定を行う(S2〜S3)。なお、ここでの指標とは、建物の固有振動数や剛性等を指す。
【0048】
本実施形態では、プレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法で常時微動の抽出を行い(S1)、図4に示すように、振動波形1の振動振幅がトリガー点TP1でトリガーレベルTL1を超過し、その時点T0の前後の計測時間T1とT2を計測対象時間とする計測対象R1内の常時微動データD1及びD2が得られた場合について説明する。
【0049】
まず、S1の結果得られた計測対象R1内のイベント発生前と発生後の常時微動データD1及びD2をそれぞれ分割する(S2)。
【0050】
本実施形態では、イベント発生前の常時微動データD1を時間順に三分割し、イベント発生後の常時微動データD2を時間順に四分割する。そして、本発明の健全性診断法ではイベント継続中の振動振幅に該当するデータは使わず、四分割したイベント発生後の常時微動データD2のうち、イベント継続中の振動振幅を含む区分の常時微動データd0を除いて診断を行う。言い換えれば、イベント発生後の常時微動データD2についてはイベント継続中のデータを除いた残りの部分を三分割している。
【0051】
以上により、本実施形態では、イベント発生前の三つの分割データd1、d2及びd3(以下、分割データd1〜d3と表記する)とイベント発生後の三つの分割データd4、d5及びd6(以下、分割データd4〜d6と表記する。更に、先の分割データd1〜d3と合わせて分割データd1〜d6と表記する)を用いて診断を行う。
【0052】
なお、常時微動データD1及びD2の分割数は三分割や四分割には限られず、プレトリガー計測法を用いて常時微動の計測を行った場合には、イベント発生前の常時微動データD1については少なくとも二分割以上、イベント発生後の常時微動データD2についてはイベント継続中の振動振幅を含むデータを除いた残りの部分を少なくとも二分割以上するものであれば良い。
【0053】
常時微動データD1及びD2の分割数は、計測時間T1とT2のそれぞれの長さ及び建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量を考慮して作業者が適当な分割数を判断する。また、イベント発生前の常時微動データD1の分割数とイベント発生後の常時微動データD2の分割数は同じであっても異なっていてもどちらでも良い。更に、常時微動データD1及びD2の分割は、等分に分割しても良いし不等分に分割しても良い。
【0054】
ここで、前記のプレ・ポストトリガー計測法を用いて常時微動データの計測を行った場合には、計測時間T1及びT5に対応する常時微動データを分割して指標の算定に用いる。この場合には、計測時間T5に対応する常時微動データにはイベント継続中の振動振幅は含まれていないので、分割データのいずれかを除くことなく全ての分割データを用いる。したがって、イベント発生前と発生後のそれぞれの常時微動データを少なくとも二分割以上すれば良いことになる。
【0055】
続いて、S2で分割した分割データd1〜d6毎に建物の健全性診断の指標を算定する(S3)。なお、常時微動データに基づく建物の固有振動数や剛性の算定方法自体は周知の方法であるのでここでは詳細については省略する(例えば、特許文献1)。
【0056】
更に、分割データd1〜d6毎に、各分割データd1〜d6の時間区分の中間の時刻をそれぞれの分割データd1〜d6に対応した時刻として与える。
【0057】
以上により、分割データd1〜d6毎に健全性診断の指標である建物の固有振動数や剛性と時刻の組み合わせのデータが整理される。
【0058】
本実施形態では、イベント発生前の常時微動データD1を三つに分割した分割データd1〜d3毎の健全性診断の指標と時刻の組み合わせのデータを時刻順に2a、2b及び2c(以下、イベント発生前データ2a〜2cと表記する)とし、イベント発生後の常時微動データD2を三つに分割した分割データd4〜d6毎の健全性診断の指標と時刻の組み合わせのデータを時刻順に3a、3b及び3c(以下、イベント発生後データ3a〜3cと表記する)とする。
【0059】
次に、イベント発生前データ2a〜2cと発生後データ3a〜3c別に回帰直線を推定する(S4)。
【0060】
具体的には、(式1)の定数ki及びmiを推定する。
【0061】
(式1)yi=ki×xi+mi
【0062】
ここに、x:時刻、y:健全性診断の指標、k:回帰直線の傾き、m:回帰直線の切片、添字i:イベント発生前データ2a〜2cの場合はi=1、イベント発生後データ3a〜3cの場合はi=2。
【0063】
なお、回帰直線の推定は、例えば最小二乗法を用いて行うことができる。
【0064】
以降では、最終的にイベント発生前後で健全性診断の指標が変化していないと判断し得る場合(図5から図7)と、変化していると判断し得る場合(図8から図10)のそれぞれの場合について説明する。具体的には、S3の結果得られたイベント発生前データ2a〜2c及びイベント発生後データ3a〜3cをプロットした場合に、例えば図5のようになる場合と図8のようになる場合のそれぞれについて説明する。なお、図5から図10の横軸は時刻を表し、縦軸は健全性診断の指標を表し、図中の時刻T0はイベント発生時点を表す。
【0065】
図6及び図9に示すように、イベント発生前データ2a〜2cの回帰直線4及びイベント発生後データ3a〜3cの回帰直線5を推定する。
【0066】
ここで、本発明では、回帰直線4及び5を推定する際に回帰直線4と5の傾きk1とk2は同一であると仮定する。これは、建物の固有振動数は周期的に変動しているとの知見に基づく仮定であって、イベント発生前と発生後で健全性診断の指標は同様の傾向で変動しているとする仮定である。
【0067】
傾きk1とk2は同一であると仮定した回帰直線4及び5の推定は、例えば、まず回帰直線4を推定して得られた傾きk1を回帰直線5の傾きとして与えた上で回帰直線5を推定するようにしても良いし、回帰直線4と回帰直線5をそれぞれ推定してそれぞれの傾きk1とk2の平均値をあらためて傾きとして与えて回帰直線4と回帰直線5を推定するようにしても良い。
【0068】
続いて、建物の健全性の診断を行う(S5)。
【0069】
建物の健全性の診断は、S4で推定した回帰直線4と回帰直線5の切片m1とm2を比較することにより行う。
【0070】
具体的には、回帰直線4と回帰直線5を推定した結果、図6に示すように、それぞれの切片m1とm2が同じ若しくは殆ど同じになっている場合には、健全性診断の指標はイベント発生前後で変化しておらず、建物の健全性は損なわれていないと判断する。
【0071】
これは、回帰直線4と回帰直線5の推定結果から、例えば図7に示すような指標の周期変動波形6が想定されるという考え方に基づくものである。即ち、図5や図6からは健全性診断の指標は経時的に見かけ上変化しているが、この見かけ上の変化は、例えば指標の周期変動波形6のように示される健全性診断の指標自体の周期的な変動によるものであって健全性診断の指標が本質的に変化しているものではないとの知見に基づくものである。
【0072】
ここで、建物の健全性が損なわれているか否かを判断するための回帰直線4と5の切片m1とm2の差の大きさは、算定された健全性診断の指標の大きさやばらつき等を考慮して診断対象の建物毎に作業者が適当な基準値を判断する。例えば、切片m1とm2の差として0.02[Hz]程度を基準として用いたり、変化率として1[%]程度を基準として用いたりすることが考えられる。しかしながら、建物の健全性を診断する際の切片の差や変化率の基準値はこれに限られるものではなく、これより小さい基準値を用いても良いし又はこれより大きい基準値を用いても良い。
【0073】
なお、イベント発生前後の健全性診断の指標を単純に比較した場合には、具体的には例えばイベント発生前データ2cとイベント発生後データ3aの指標をそのまま比較したり、イベント発生前データ2a〜2cとイベント発生後データ3a〜3cのそれぞれの指標の平均を比較したりした場合には、本質的には健全性診断の指標は変化していないにもかかわらずイベント発生前後で見かけ上の差があるために建物の健全性が損なわれていると誤った判断をしてしまう可能性があることが分かる。
【0074】
一方で、回帰直線4と回帰直線5を推定した結果、図9に示すように、それぞれの切片m1とm2が異なっている場合には、健全性診断の指標がイベント発生前後で変化し、建物の健全性が損なわれていると判断する。
【0075】
これは、回帰直線4と回帰直線5の推定結果から、例えば図10に示すような指標の周期変動波形6a及び6bが想定されるという考え方に基づくものである。図10は、イベントの発生によって健全性診断の指標が本質的に変化し、イベント発生時点T0を境にイベント発生前の指標の周期変動波形6aがイベント発生後の指標の周期変動波形6bに遷移したことを示している。
【0076】
ここで、回帰直線4と回帰直線5の切片m1とm2の差Δmに基づいて建物の健全性が損なわれていると判断する際の基準は、前記と同様に、例えば、切片m1とm2の差Δmとして0.02[Hz]程度を基準として用いたり、変化率として1[%]程度を基準として用いたりすることが考えられる。しかしながら、建物の健全性を診断する際の切片の差や変化率の基準値はこれに限られるものではなく、これより小さい基準値を用いても良いし又はこれより大きい基準値を用いても良い。
【0077】
なお、イベント発生前後の健全性診断の指標を単純に比較した場合には、具体的には例えばイベント発生前データ2cとイベント発生後データ3aの健全性診断の指標をそのまま比較した場合には、本質的に健全性診断の指標が変化しているにもかかわらずイベント発生前後で見かけ上差がないために建物の健全性は損なわれていないと誤った判断をしてしまう可能性があることが分かる。
【0078】
以上の手順を採用することにより、建物の固有振動数や剛性が気温や日射、風力等に依存して周期的に変動する場合であっても、その変動を除去して正確にイベント発生前後の構造的な損傷のみに依存した固有振動数や剛性の変化量を評価することが可能となり、それに基づいて建物の健全性を診断することが可能となる。
【0079】
続いて、本実施形態の建物の健全性診断法をプログラムを用いて行う場合の一例を示す。
【0080】
図11に、健全性診断プログラムを実施するための健全性診断装置7の全体構成を示す。なお、本実施形態では、振動センサ等に記録装置を設け、常時計測している建物の常時微動の計測データをそのまま全て記録しておいて、記録された一定期間の常時微動データからプレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法で計測対象R1の常時微動データを抽出する場合について説明する。
【0081】
制御部8には、記憶部9、指示入力部10、表示部11及びデータ入力部12が接続されている。また、メモリ13が制御部8に内蔵若しくは接続されている。
【0082】
制御部8は、記憶部9に記憶されている健全性診断プログラムにより健全性診断装置7全体の制御並びに健全性診断に係る演算を行うものであり、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データからイベントの発生前後の建物の常時微動データの抽出を行う常時微動データ抽出処理部、イベント発生前と発生後の常時微動データをそれぞれ分割する常時微動データ分割処理部、分割データ毎に建物の健全性診断の指標を算定する健全性診断指標算定処理部、イベント発生前データと発生後データ別に回帰直線を推定する回帰直線推定処理部、算定された回帰直線の切片の値を基に建物の健全性の診断を行う健全性判定処理部を構成している。
【0083】
制御部8は例えばCPUである。記憶部9は例えばハードディスクである。指示入力部10は少なくとも作業者の命令をCPUに与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。表示部11は例えばディスプレイである。データ入力部12は少なくとも電子媒体に記録されたデータをCPUに与えるものであり、例えば磁気ディスクドライブである。
【0084】
まず、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データからイベントの発生前後の建物の常時微動データの抽出を行う(S1)。ここで、常時微動データの計測と収集は記録装置を設けた振動センサ等により常時行われ、イベント前後の常時微動データ若しくは常時計測している常時微動データの全てが例えば磁気ディスクドライブ或いは装着・脱着可能な磁気ディスク等の記録装置に格納されている。
【0085】
制御部8の常時微動データ抽出処理部は、磁気ディスクに記録された一定期間の常時微動の計測データとして、時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータをデータ入力部12を介して読み込む。
【0086】
そして、読み込んだ振動振幅がトリガーレベルTL1又はTL2を超えた場合にはその時刻をイベント発生時点T0として記憶部9又はメモリ13に記憶する。そして、イベント発生時点T0前の計測時間T1に対応する時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータをデータ入力部12を介して磁気ディスクから読み込み、常時微動データD1として記憶部9又はメモリ13に記憶する。また、イベント発生時点T0後の計測時間T2に対応する時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータをデータ入力部12を介して磁気ディスクから読み込み、常時微動データD2として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0087】
次に、S1の結果得られたイベント発生前と発生後の常時微動データD1及びD2をそれぞれ分割する(S2)。
【0088】
制御部8の常時微動データ分割処理部は、まず、S1で記憶部9又はメモリ13に記憶した常時微動データD1(時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータ)を読み込む。
【0089】
そして、読み込んだ常時微動データD1の時刻をもとに常時微動データD1全体をその時刻順に三分割し、分割データd1〜d3として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0090】
次に、制御部8の常時微動データ分割処理部は、S1で記憶部9又はメモリ13に記憶した常時微動データD2を読み込む。
【0091】
そして、読み込んだ常時微動データD2の時刻をもとに常時微動データD2全体をその時刻順に三分割し、分割データd4〜d6として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0092】
なお、S1の常時微動データの抽出を健全性診断装置7で行っていない場合には、記憶部9又はメモリ13に記憶した常時微動データD1及びD2を読み込む代わりに、磁気ディスクに記録された常時微動データD1及びD2をデータ入力部12を介して読み込むようにしても良い。
【0093】
次に、S2で分割した分割データd1〜d6毎に建物の健全性診断の指標を算定する(S3)。
【0094】
まず、制御部8の健全性診断指標算定処理部は、S2で記憶部9又はメモリ13に記憶した分割データd1を読み込む。
【0095】
そして、分割データd1(時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータであり、一定時間分のデータである)を用い、建物の健全性診断の指標である建物の固有振動数や剛性を算定する。
【0096】
また、分割データd1の時刻情報を基に、分割データd1の時間区分の中間の時刻を算定する。
【0097】
そして、算定した健全性診断の指標の値並びに中間の時刻を分割データd1に対応するイベント発生前データ2aとして記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0098】
同様に、制御部8の健全性診断指標算定処理部は、分割データd2とd3についても指標並びに中間の時刻の算定を行うと共に、各分割データd2とd3に対応するイベント発生前データ2bと2cとしてそれぞれの指標の値並びに時刻を記録部9又はメモリ13に記憶する。
【0099】
更に同様に、制御部8の健全性診断指標算定処理部は、分割データd4〜d6についても指標並びに中間の時刻の算定を行うと共に、各分割データd4〜d6に対応するイベント発生後データ3a〜3cとしてそれぞれの指標の値並びに時刻を記録部9又はメモリ13に記憶する。
【0100】
次に、イベント発生前データ2a〜2cと発生後データ3a〜3c別に回帰直線を推定する(S4)。
【0101】
制御部8の回帰直線推定処理部は、まず、S3で記憶部9又はメモリ13に記憶したイベント発生前データ2a〜2cの指標の値並びに時刻を読み込み、このデータを基に回帰直線4の傾きk1及び切片m1を推定する。
【0102】
そして、イベント発生前データ2a〜2cに対応する回帰直線4の傾きk1及び切片m1として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0103】
同様に、制御部8の回帰直線推定処理部は、S3で記憶部9又はメモリ13に記憶したイベント発生後データ3a〜3cの指標の値並びに時刻を読み込み、このデータを基に回帰直線5の傾きk2及び切片m2を推定する。
【0104】
そして、イベント発生後データ3a〜3cに対応する回帰直線5の傾きk2及び切片m2として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0105】
次に、S4で算定した切片m1及びm2を用いて建物の健全性の診断を行う(S5)。
【0106】
制御部8の健全性判定処理部は、S4で記憶部9又はメモリ13に記憶した回帰直線4の切片m1及び回帰直線5の切片m2を読み込む。
【0107】
続いて、制御部8の健全性判定処理部は、切片m1と切片m2の値の比較を行う。そして、値に差違がないと判断した場合には、健全性診断の指標に差違がなく建物に損傷が発生していないと判定する。そして、健全性の診断結果として、健全性に問題なしとの診断結果を必要に応じて記憶部9に記憶すると共に表示部11に表示する。一方、値に差違があると判断した場合には、健全性診断の指標に差違があり建物に損傷が発生していると判定する。そして、健全性の診断結果として、健全性に問題ありとの診断結果を必要に応じて記憶部9に記憶すると共に表示部11に表示する。
【0108】
なお、以上において、制御部8は適宜指示入力部10を介して作業者の命令を受け、例えばデータの選択や処理開始等の制御を行う。
【0109】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、イベント発生前データ2a〜2cとイベント発生後データ3a〜3cが共に漸増傾向にある場合について説明したが、例えば、イベント発生前データ2a〜2cは漸増傾向でイベント発生後データ3a〜3cは漸減傾向の場合には、イベント発生後データ3aを起点とする3b、3cへの漸減傾向と変化分の絶対値が等しいイベント発生後データ3aを起点とする漸増傾向を想定することにより、本実施形態で例示した方法と同様にして健全性診断を行うことができる。
【0110】
また、プログラムを用いて行う場合の実施形態として、常時微動を計測する振動センサ等と健全性診断装置が別個のものとして構成されている場合を例に挙げて説明したが、振動センサ等と健全性診断装置が一体のものとして構成されていても良い。
【0111】
また、本実施形態では健全性診断の指標自体の周期的な変動が比較的大きい場合について説明したが、健全性診断の指標自体の周期的な変動が非常に緩やかで回帰直線の傾きが明瞭でない場合には、傾きをゼロとして健全性診断を行うことも可能である。
【実施例1】
【0112】
本発明の実施例として、図12から図19に、財団法人電力中央研究所我孫子地区南研究棟本館(所在地千葉県我孫子市、地上10階建事務所ビル)(以下、対象建物と呼ぶ)を対象として行った常時微動計測並びに健全性の診断の結果を示す。
【0113】
対象建物において平成17年2月1日から3月2日までの30日間に亘って観測した応答振幅並びに南北方向及び東西方向の固有振動数の経時変化を15分ごとに整理し、図12並びに図13及び図14に示す結果を得た。
【0114】
まず、図13及び図14の経時変化を整理した結果から固有振動数が日単位で周期的に変動していることが確認された。
【0115】
また、2月16日午前4時46分(図12から図14中の▼で示した時点)に茨城県南部を震源とする地震が発生し、対象建物付近では震度III程度の揺れが観測された。
【0116】
ここで、本発明の健全性診断法による診断結果と比較するため、毎正午から15分間の計測データを用いて固有振動数を算定し、日毎の固有振動数の変化に基づく建物の健全性の診断を試みた。なお、長期的な固有振動数の変化に基づいて建物の健全性を診断するための常時微動データの計測を想定した場合、実用的には一日に一度一定時間(例えば固有振動数の算定に必要な時間)の計測であれば手間とコストが許容され得ることを考慮して毎正午から15分間の計測データを用いることとした。
【0117】
毎正午から15分間の計測データを用いて算定した固有振動数の経時変化を整理し、図15及び図16に示す結果を得た。なお、図中の▼の位置が地震発生時刻を示している。
【0118】
この結果から、固有振動数の日々のばらつきが大きいため、地震発生前後での固有振動数の変化を読み取ることは困難であり、日毎の固有振動数の変化に基づいて地震による建物の損傷の発生の有無を判断することは困難であることが確認された。
【0119】
次に、本発明の建物の健全性診断法を用いて健全性の診断を行った。
【0120】
まず、地震が発生した2月16日の午前中のデータを15分毎のデータに分割して応答振幅並びに固有振動数の経時変化を整理し、図17並びに図18及び図19に示す結果を得た。なお、図中の▼の位置が地震発生時刻を示している。
【0121】
図18に示す南北方向一次の固有振動数及び図19に示す東西方向一次の固有振動数について、本発明において例えばプレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法で常時微動データとして実際に計測する範囲を想定し、地震発生前と地震発生後のそれぞれについて三つの分割データを用いて健全性の診断を行った。なお、地震発生直後の振動振幅を含む分割データは診断に用いるデータからは除いた。
【0122】
図18に示す南北方向一次の固有振動数について、地震発生前の三つの分割データを用いて回帰直線を推定した。なお、本実施例では、固有振動数自体の周期的な変動が非常に緩やかなものであったために回帰直線の傾きをゼロとして切片を推定した。その結果、地震発生前データの回帰直線の切片として1.758[Hz]を得た。
【0123】
更に、地震発生前データの回帰直線と同様に傾きをゼロとし、地震発生後の三つの分割データを用いて回帰直線の切片を推定して1.719[Hz]を得た。
【0124】
また、図19に示す東西方向一次の固有振動数について、地震発生前の三つの分割データを用いて回帰直線を推定した。なお、前記と同様に、固有振動数自体の周期的な変動が非常に緩やかなものであったために回帰直線の傾きをゼロとして切片を算定した。その結果、地震発生前データの回帰直線の切片として2.002[Hz]を得た。
【0125】
更に、地震発生前データの回帰直線と同様に傾きをゼロとし、地震発生後の三つの分割データを用いて回帰直線の切片を算定して1.971[Hz]を得た。
【0126】
以上から、地震発生前データと地震発生後データの回帰直線の切片の差として、南北方向については0.039[Hz]、東西方向については0.031[Hz]を得た。また、変化率はそれぞれ2.2[%]と1.5[%]となった。この結果から、2月16日に発生した地震により対象建物に何らかの損傷が発生していると判断された。
【0127】
以上の結果から、本発明の健全性診断法を用いることにより、固有振動数自体が周期的に変動している場合であっても地震発生前後の固有振動数の変化を明瞭に見分けることが可能であり、建物の健全性の診断を安定的に行い得る手法であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】プレトリガー計測法を説明する模式図である。
【図3】プレ・ポストトリガー計測法を説明する模式図である。
【図4】実施形態の常時微動データを説明する模式図である。
【図5】実施形態の時刻と健全性診断の指標の組み合わせのデータを示す図である。
【図6】図5に示すデータの回帰直線を示す図である。
【図7】図6に示す回帰直線が推定された場合に想定される指標の周期変動波形を説明する図である。
【図8】実施形態の時刻と健全性診断の指標の組み合わせの他のデータを示す図である。
【図9】図8に示すデータの回帰直線を示す図である。
【図10】図9に示す回帰直線が推定された場合に想定される指標の周期変動波形を説明する図である。
【図11】実施形態の健全性診断プログラムを実施するための健全性診断装置の全体構成を示す図である。
【図12】実施例の応答振幅の計測データを示す図である。
【図13】実施例の固有振動数(南北方向一次)を示す図である。
【図14】実施例の固有振動数(東西方向一次)を示す図である。
【図15】実施例の固有振動数(南北方向一次、毎正午)を示す図である。
【図16】実施例の固有振動数(東西方向一次、毎正午)を示す図である。
【図17】実施例の応答振幅の計測データ(午前中のみ、15分分割)を示す図である。
【図18】実施例の固有振動数(南北方向一次、午前中のみ、15分分割)を示す図である。
【図19】実施例の固有振動数(東西方向一次、午前中のみ、15分分割)を示す図である。
【図20】従来の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法を説明するフローチャートである。
【図21】従来の構造性能指標推定装置、及び構造物の構造性能リアルタイムモニタリング方法を説明するフローチャートである。
【図22】鉄筋コンクリート柱の変位−荷重特性を説明する図である。
【符号の説明】
【0129】
2a〜2c イベント発生前データ
3a〜3c イベント発生後データ
4 イベント発生前データの回帰直線
5 イベント発生後データの回帰直線
7 健全性診断装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、常時微動計測に基づく建物の健全性診断法並びに健全性診断プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、常時微動と呼ばれる微小振動の計測に基づいて地震や強風等による建物の損傷の有無を判断する方法並びにプログラムに関する。なお、本発明で建物の健全性とは、構造的な損傷の有無など建物の構造に係る健全性のことをいう。
【背景技術】
【0002】
従来の建物の振動の計測に基づいて健全性を診断する方法としては、例えば常時微動計測に基づく建物の健全性診断法がある(特許文献1)。
【0003】
この建物の健全性診断法は、図20に示すように、健全時及び評価時における建物の常時微動を計測し(S101、S101’)、その計測記録から健全時及び評価時のクロススペクトル並びにパワースペクトルを算定し(S102、S103、S103’)、それらスペクトルの算定結果から固有振動数並びに固有モードを求めて建物の振動特性を計算する(S104、S105、S105’)。そして、健全時と評価時の振動特性の計算結果を比較することにより(S106)、建物全体の健全性の良否を判定する(S107)。建物の健全性が失われていると判定された場合には振動特性の計算結果から建物の剛性分布を計算し(S108、S109、S109’)、健全時と評価時の剛性分布の計算結果を比較することにより(S110)、健全性に劣る位置とその程度を判定する(S111)ものである。
【0004】
また、建物の健全性に影響を与える事象の前後の建物の振動情報に着目して健全性を診断する方法として、構造性能指標推定装置及び構造物の構造性能リアルタイムモニタリング方法がある(特許文献2)。
【0005】
この構造性能リアルタイムモニタリング方法は、図21に示すように、基礎加速度が入力されることにより出力される絶対加速度の測定を行うための計測点を構造物の各層に設定した上で計測点に計測装置を設置し(第1の工程)、計測装置を介して観測された構造物の各層における絶対加速度を構造性能指標推定装置本体に送信し(第2の工程)、構造性能指標推定装置本体において各層毎の絶対加速度を用いて構造性能指標推定装置本体に格納された演算式により構造物の各層毎に減衰係数及び剛性を推定する(第3の工程)。そして、第2の工程及び第3の工程を繰り返して構造物の各層における減衰係数及び剛性に係る推定値を時系列に取得し、構造性能をモニタリングする(第4の工程)ものである。
【0006】
即ち特許文献2の方法は、振動計測データをリアルタイムで評価し、建物の層(階)毎の剛性と減衰を時々刻々と評価してそれらの変化を検出することにより、建物の健全性をリアルタイムで評価する方法である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−322585号
【特許文献2】特開2005−083975号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、建物の固有振動数や剛性は安定したものであり、建物に損傷が発生することなく健全性が同一の状態であれば固有振動数等は一定値であることを前提としている。即ち、固有振動数や剛性は建物の損傷によって変化するが他の要因によっては変化しないので、健全時と評価時で固有振動数等を比較して差違がある場合には建物に損傷が発生していると判断することができることを前提にしている。
【0009】
しかしながら、本発明者は、建物の振動の計測に基づく健全性の診断の検討において、建物の固有振動数は一定値で安定してはおらず、一日の中で周期的に変動しており、その変動は気温や日射、風力などの環境条件に依存して複雑な様相を示して規則正しい変動ではないことを知見した。即ち、建物の固有振動数は、建物に何ら損傷が発生していない場合であっても環境条件等により変動していることを知見した。また、建物の剛性分布は固有振動数等に基づいて推定される指標であるため、固有振動数が変動することにより見かけ上の剛性分布も変動することになる。したがって、従来の前提条件の下では、時点の異なる固有振動数を比較した場合に、建物に何ら損傷が発生していないにもかかわらず固有振動数が変化しているので損傷が発生していると誤って判断したり、実際には建物に損傷が発生しているにもかかわらず固有振動数が変化していないので損傷が発生していないと誤って判断したりしてしまうという問題がある。
【0010】
更に、特許文献1の方法は健全時と評価時の固有振動数等を比較して建物の健全性を診断する方法であり、構築直後の健全時の状態を示すデータが必要とされ、健全時のデータがない場合には建物の健全性の診断を行うことができない。このため、健全性評価が実施できる対象が限られてしまうという問題がある。
【0011】
また、地震や強風時における建物の挙動は常時微動のような微小変形時の挙動と比較して複雑であるため、以下に示す理由により、現実には、特許文献2の方法のようにリアルタイムで剛性や減衰を推定することは困難であると考えられる。
【0012】
図22に示すように、軸方向に鉛直荷重Nが作用する鉄筋コンクリート単柱に横荷重Pを作用させた場合における変形δ−荷重Pの関係を例に挙げて説明する(柴田明徳:最新耐震構造解析,森北出版,1981年,p114)。
【0013】
図22において、剛性は、荷重Pの増加量を変形δの増加量で除した値、言い換えれば、変形δ−荷重P曲線の接線の傾きで与えられる。
【0014】
ここで、地震時のように大きな変形δが発生した場合には、変形δ−荷重P特性が紡錘形の曲線となって変形δと荷重Pは非線型の関係にあるため、荷重Pや変形δに応じて剛性が時々刻々と変化することになる。また、実際の建物は複数の柱や梁、壁から構成されるため、建物全体の剛性は単柱よりも更に複雑な挙動を示すことになる。したがって、建物に損傷が発生している状態での剛性は、図22に示すような単柱の場合よりもさらに複雑な挙動を示すことになる。
【0015】
このことは、剛性の推定という観点からみると、時々刻々変化する瞬間的な剛性は、本質的には、その時刻周辺の「瞬間的な剛性の影響が及ぶ近傍の時刻の」短時間の振動計測データに基づいて推定しなければならないことを示している。しかし、振動計測データは短時間であるほど剛性に係わる情報量が少なくなり、偶発的に発生する推定誤差の影響が大きくなることにつながるため、短時間の振動計測データから瞬間的な剛性を推定するには限界があるという問題がある。
【0016】
一方で、上記の問題を解決するため、瞬間的な剛性の精度を向上させようとして振動データの長さを長くしていくと剛性の瞬間的な値が異なる時間帯のデータを含んでしまうことになるため、結果として瞬間的な剛性の精度が低下してしまうということになる。
【0017】
以上から、特許文献2の方法のように、建物に地震時のように大きな変形が発生している状態における剛性の複雑な変化をリアルタイムで追跡することは現実には困難であると言える。
【0018】
そこで、本発明は、建物の健全性診断の指標自体の周期的な変動の影響を受けずに健全性を診断することが可能であると共に線形の範囲にある変形−荷重関係を利用することによって安定的に健全性を診断することが可能な建物の健全性の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
図22において、地震時のように大きな変形δに対し、常時微動時の単柱の変形δと荷重Pは共に小さい挙動であり、原点付近で推移する(枠101内の範囲。ただし、実際の常時微動では横軸の変形δが10−4cm以下の非常に微小な範囲であり枠101は正確な範囲を示したものではない)。そして、この領域内の変形δ−荷重P関係はほぼ直線となって変形δと荷重Pはほぼ線形の関係になり、その剛性(変形δ−荷重P関係の傾き)は一定値となる。
【0020】
このことから、複数の柱や梁、壁を組み合わせた実際の建物についてもその変形−荷重関係は直線的な形状になることは容易に類推でき、したがって建物の剛性も安定した一定値をとることとなる。このことを剛性の推定という観点からみると、健全時と評価時のそれぞれの状態において建物の剛性は安定した状態を保っており、時々刻々と値が変化しないため、振動データの計測時間として一定時間を確保することによって剛性の推定精度を向上させることができる。
【0021】
なお、上記では剛性を例に挙げ、損傷時の瞬間的な剛性を推定するよりも常時微動時のような微小変形時の安定した剛性を推定した方が剛性の推定精度が良くなることを述べた。ここで、固有振動数は建物の剛性と質量で決定される量であり、質量が建物の損傷によらず一定値となることを考慮すれば、上記の剛性に関する議論は固有振動数にもそのまま当てはまる。即ち、固有振動数を建物の健全性診断の指標に用いた場合を想定しても、リアルタイムに瞬間的な量を推定するよりも常時微動時のような微小変形時の安定した固有振動数をある程度の長さの振動データを使って推定することにより推定精度を向上させることができる。
【0022】
そこで、前記の発明者独自の新たな知見に基づくと共に建物の変形と荷重の安定した関係を利用することを踏まえ、請求項1記載の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法は、建物の常時微動の計測を常時行って常時微動の計測データを収集すると共に建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出し、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定し、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定し、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断するようにしている。
【0023】
また、請求項2記載の常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラムは、建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の建物の常時微動の計測データを入力する手段、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定する手段、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定する手段、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断する手段として機能させるようにしている。
【0024】
更に、請求項3記載の常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラムは、建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の常時微動の計測を常時行って収集した常時微動の計測データを入力する手段、常時微動の計測データから建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出する手段、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定する手段、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定する手段、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断する手段として機能させるようにしている。
【0025】
したがって、この建物の健全性診断法並びに健全性診断プログラムによると、固有振動数等の建物の健全性を診断する指標自体が気温や日射、風力などの環境条件の影響を受けて周期的に変動する建物であっても、その変動の影響を受けずに健全性を診断することができる。また、常時微動データに基づいて指標を算定するので線形の範囲にある変形−荷重関係を前提として安定的に健全性を診断することができる。更に、建物の完成時又はその直後の健全時の計測データやそれに基づく健全性の指標を必要としないので、新規な建物か相当時間経過した建物かにかかわらず建物の健全性を診断することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の建物の健全性診断法並びに健全性診断プログラムによれば、固有振動数等の健全性診断の指標自体の周期的な変動の影響を受けずに健全性診断を行うことができると共に、線形の範囲にある変形−荷重関係を前提として健全性診断を行うことができるので健全性診断の信頼性の向上を図ることが可能である。更に、新規な建物か相当時間経過した建物かにかかわらず建物の健全性診断を行うことができるので多様な用途に対応することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1から図10に、本発明の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法の実施形態の一例を示す。
【0029】
この建物の健全性診断法は、図1のフローチャートに示すように、建物の常時微動の計測を常時行って常時微動の計測データを収集すると共に建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の常時微動の計測データを抽出し(S1)、事象発生前並びに事象発生後の常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し(S2)、分割した常時微動の計測データ毎に建物の健全性を診断する指標を算定し(S3)、事象発生前の指標の回帰直線及び事象発生後の指標の回帰直線を推定し(S4)、回帰直線のそれぞれの切片を比較して建物の健全性を診断する(S5)ようにしている。
【0030】
本発明の健全性診断法の適用にあたっては、まず、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データから地震や強風等の建物に構造的な損傷を与え得る事象の発生前後の建物の常時微動データの抽出を行う(S1)。なお、ここでの常時微動とは例えば日常的な風や交通振動等により励起される微小振動のことを指す。また、以降においては、地震や強風等の建物に構造的な損傷を与え得る事象をイベントと呼ぶ。
【0031】
常時微動の計測は、例えば、建物に設置した振動センサ等を用いて常時行う。また、常時計測している建物の常時微動の計測データからの常時微動データの抽出は、例えば、地盤や建物の地震観測に用いられてきたプレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法を用いて行う。
【0032】
プレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法は、図2に示すように、まず、例えば振動センサ等により計測している振動の振幅の中心に対してプラス側とマイナス側のそれぞれの振幅超過閾値をトリガーレベルTL1及びTL2として設定する。
【0033】
トリガーレベルTL1及びTL2は、日常的な風、交通振動、他の人為的振動のレベルを考慮し、本発明が対象としているイベント以外の振動では閾値を超えないように作業者が適当な閾値を設定する。具体的には例えば、1及び−1[gal]程度にすることが考えられるが、トリガーレベルTL1及びTL2はこれに限られるものではなく、これより大きくてもこれより小さくても構わない。
【0034】
プレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法では、計測している振動波形1の振動振幅がトリガーレベルTL1又はTL2を超えた場合に(図2中のトリガー点TP1)その時点をイベント発生時点T0とし、イベント発生時点T0前の計測時間T1とイベント発生時点T0後の計測時間T2を計測対象時間としてその計測対象時間内の振動データを最終的な計測対象R1とする。
【0035】
計測時間T1は後述するイベント発生前の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定する。また、計測時間T2はイベント自体の継続時間及びイベント発生後の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定する。具体的には例えば、計測時間T1及びT2それぞれ5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、更に好ましくは30分以上、更により好ましくは40分以上である。なお、計測時間T1とT2は同じ長さでも異なる長さでもどちらでも構わない。
【0036】
なお、計測対象時間の決定法はプレトリガー計測法に限られるものではなく、イベント発生前後の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされる常時微動データの計測対象時間を決定可能な方法であればいずれの方法であっても構わない。例えば、計測対象時間の決定法としてプレトリガー計測法の代わりにプレ・ポストトリガー計測法を用いても良い。
【0037】
プレ・ポストトリガー計測法は、図3に示すように、計測している振動波形1の振動振幅がトリガーレベルTL1又はTL2を超えた場合に(図3中のトリガー点TP1)その時点をイベント発生時点T0とし、イベント発生時点T0前の計測時間T1をイベント発生前の計測対象時間とするところまではプレトリガー計測法と同様である。
【0038】
プレ・ポストトリガー計測法では更に、イベントに対応する振動波形1の振動振幅がトリガーレベルTL1及びTL2より小さくなった場合に(ポストトリガー点TP2)その時点をイベント終了時点T3とし、イベント発生時点T0からイベント終了時点T3までの計測時間T4をイベント継続中の計測対象時間とすると共にイベント終了時点T3後の計測時間T5をイベント終了後の計測対象時間とする。そして、以上により、計測時間T1、T4及びT5を計測対象時間としてその計測対象時間内の振動データを最終的な計測対象R2とする。
【0039】
プレ・ポストトリガー計測法では、プレトリガー計測法とは異なり、イベント継続時間である計測時間T4を自働で制御できる。したがって、プレ・ポストトリガー計測法を用いる場合には、計測時間T1は後述するイベント発生前の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定し、計測時間T5はイベント発生後の建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量(時間)を考慮して作業者が設定する。なお、イベント継続時間である計測時間T4は、イベントの種類により異なるが、イベントが例えば地震であれば地震の発生メカニズムや伝播経路によっても異なり、地震動によっては10秒以下から数10分までの幅を有する。よって、イベント継続時間を自働で制御できるプレ・ポストトリガー計測法はプレトリガー計測法と比べ、イベント継続時間にかかわらず一定のイベント発生後の計測時間T5を確保するという特徴を有する。
【0040】
なお、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データから上記で述べた方法により計測対象R1やR2の常時微動データを抽出する方法としては、例えば以下の二つの方法が考えられる。
【0041】
第一の方法は、振動センサ等に記録装置を設け、通常時には更新を繰り返しながら少なくとも計測時間T1に対応する最新の常時微動データをこの記録装置に記録するようにする。そして、イベントの発生を検知した場合には計測時間T1に対応する最新の常時微動データに対しては以後更新をせずにイベント発生前データとして保持し続け、更にイベント発生後の計測時間T2又はT4及びT5に対応する常時微動データをイベント発生後データとして記録する方法である。これにより、結果として、常時計測している建物の常時微動の計測データから計測対象R1やR2の常時微動データを抽出することとなる。
【0042】
第二の方法は、振動センサ等に記録装置を設け、常時計測している建物の常時微動の計測データをそのまま全て磁気データ或いは紙データとして記録しておいて、記録された一定期間の常時微動データから計測対象R1やR2の常時微動データを抽出する方法である。
【0043】
ここで、記録装置とは、例えば磁気ディスクドライブ及び差し込みと取り出しが可能な磁気ディスクである。また、更新とは、例えば磁気ディスに記録された古いデータに新しいデータを上書きして記録することである。
【0044】
イベント発生の検知方法はレベルトリガー方式に限られるものではなく、例えばSTA/LTA方式を用いても良い。
【0045】
STA/LTA方式は、2つの異なる時間区間の平均的な振動振幅の比をとり、この比が予め設定した閾値を超過したことをもってイベントが発生したと判定する方法である(STA:Short Time Average、LTA:Long Time Average)。具体的には、短い時間区間の振動振幅の平均をSTAとし、短い時間区間を含み且つそれより長い時間区間の振動振幅の平均をLTAとし、STA/LTAの値が予め設定した閾値を超過した場合にイベントが発生したと判定する。例えば地震発生時であれば短い時間区間の振動振幅の平均STAが長い時間区間の振動振幅の平均LTAと比べて急激に大きくなるためにSTA/LTAの値が大きくなる原理を利用した方法である。
【0046】
本発明にSTA/LTA方式を適用する場合に、短い時間区間及び長い時間区間の時間長さ並びにSTA/LTAの閾値に特に制限はなく、対象とするイベントを考慮して作業者がそれぞれ適当な値を設定する。具体的には例えば、STAに対応する短い時間区間は1秒から2秒、LTAに対応する長い時間区間は10秒から20秒並びにSTA/LTAの閾値は3から5程度とすることが考えられる。
【0047】
次に、S1により得られた常時微動データを用いて建物の健全性診断の指標の算定を行う(S2〜S3)。なお、ここでの指標とは、建物の固有振動数や剛性等を指す。
【0048】
本実施形態では、プレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法で常時微動の抽出を行い(S1)、図4に示すように、振動波形1の振動振幅がトリガー点TP1でトリガーレベルTL1を超過し、その時点T0の前後の計測時間T1とT2を計測対象時間とする計測対象R1内の常時微動データD1及びD2が得られた場合について説明する。
【0049】
まず、S1の結果得られた計測対象R1内のイベント発生前と発生後の常時微動データD1及びD2をそれぞれ分割する(S2)。
【0050】
本実施形態では、イベント発生前の常時微動データD1を時間順に三分割し、イベント発生後の常時微動データD2を時間順に四分割する。そして、本発明の健全性診断法ではイベント継続中の振動振幅に該当するデータは使わず、四分割したイベント発生後の常時微動データD2のうち、イベント継続中の振動振幅を含む区分の常時微動データd0を除いて診断を行う。言い換えれば、イベント発生後の常時微動データD2についてはイベント継続中のデータを除いた残りの部分を三分割している。
【0051】
以上により、本実施形態では、イベント発生前の三つの分割データd1、d2及びd3(以下、分割データd1〜d3と表記する)とイベント発生後の三つの分割データd4、d5及びd6(以下、分割データd4〜d6と表記する。更に、先の分割データd1〜d3と合わせて分割データd1〜d6と表記する)を用いて診断を行う。
【0052】
なお、常時微動データD1及びD2の分割数は三分割や四分割には限られず、プレトリガー計測法を用いて常時微動の計測を行った場合には、イベント発生前の常時微動データD1については少なくとも二分割以上、イベント発生後の常時微動データD2についてはイベント継続中の振動振幅を含むデータを除いた残りの部分を少なくとも二分割以上するものであれば良い。
【0053】
常時微動データD1及びD2の分割数は、計測時間T1とT2のそれぞれの長さ及び建物の健全性診断の指標の算定に必要とされるデータ量を考慮して作業者が適当な分割数を判断する。また、イベント発生前の常時微動データD1の分割数とイベント発生後の常時微動データD2の分割数は同じであっても異なっていてもどちらでも良い。更に、常時微動データD1及びD2の分割は、等分に分割しても良いし不等分に分割しても良い。
【0054】
ここで、前記のプレ・ポストトリガー計測法を用いて常時微動データの計測を行った場合には、計測時間T1及びT5に対応する常時微動データを分割して指標の算定に用いる。この場合には、計測時間T5に対応する常時微動データにはイベント継続中の振動振幅は含まれていないので、分割データのいずれかを除くことなく全ての分割データを用いる。したがって、イベント発生前と発生後のそれぞれの常時微動データを少なくとも二分割以上すれば良いことになる。
【0055】
続いて、S2で分割した分割データd1〜d6毎に建物の健全性診断の指標を算定する(S3)。なお、常時微動データに基づく建物の固有振動数や剛性の算定方法自体は周知の方法であるのでここでは詳細については省略する(例えば、特許文献1)。
【0056】
更に、分割データd1〜d6毎に、各分割データd1〜d6の時間区分の中間の時刻をそれぞれの分割データd1〜d6に対応した時刻として与える。
【0057】
以上により、分割データd1〜d6毎に健全性診断の指標である建物の固有振動数や剛性と時刻の組み合わせのデータが整理される。
【0058】
本実施形態では、イベント発生前の常時微動データD1を三つに分割した分割データd1〜d3毎の健全性診断の指標と時刻の組み合わせのデータを時刻順に2a、2b及び2c(以下、イベント発生前データ2a〜2cと表記する)とし、イベント発生後の常時微動データD2を三つに分割した分割データd4〜d6毎の健全性診断の指標と時刻の組み合わせのデータを時刻順に3a、3b及び3c(以下、イベント発生後データ3a〜3cと表記する)とする。
【0059】
次に、イベント発生前データ2a〜2cと発生後データ3a〜3c別に回帰直線を推定する(S4)。
【0060】
具体的には、(式1)の定数ki及びmiを推定する。
【0061】
(式1)yi=ki×xi+mi
【0062】
ここに、x:時刻、y:健全性診断の指標、k:回帰直線の傾き、m:回帰直線の切片、添字i:イベント発生前データ2a〜2cの場合はi=1、イベント発生後データ3a〜3cの場合はi=2。
【0063】
なお、回帰直線の推定は、例えば最小二乗法を用いて行うことができる。
【0064】
以降では、最終的にイベント発生前後で健全性診断の指標が変化していないと判断し得る場合(図5から図7)と、変化していると判断し得る場合(図8から図10)のそれぞれの場合について説明する。具体的には、S3の結果得られたイベント発生前データ2a〜2c及びイベント発生後データ3a〜3cをプロットした場合に、例えば図5のようになる場合と図8のようになる場合のそれぞれについて説明する。なお、図5から図10の横軸は時刻を表し、縦軸は健全性診断の指標を表し、図中の時刻T0はイベント発生時点を表す。
【0065】
図6及び図9に示すように、イベント発生前データ2a〜2cの回帰直線4及びイベント発生後データ3a〜3cの回帰直線5を推定する。
【0066】
ここで、本発明では、回帰直線4及び5を推定する際に回帰直線4と5の傾きk1とk2は同一であると仮定する。これは、建物の固有振動数は周期的に変動しているとの知見に基づく仮定であって、イベント発生前と発生後で健全性診断の指標は同様の傾向で変動しているとする仮定である。
【0067】
傾きk1とk2は同一であると仮定した回帰直線4及び5の推定は、例えば、まず回帰直線4を推定して得られた傾きk1を回帰直線5の傾きとして与えた上で回帰直線5を推定するようにしても良いし、回帰直線4と回帰直線5をそれぞれ推定してそれぞれの傾きk1とk2の平均値をあらためて傾きとして与えて回帰直線4と回帰直線5を推定するようにしても良い。
【0068】
続いて、建物の健全性の診断を行う(S5)。
【0069】
建物の健全性の診断は、S4で推定した回帰直線4と回帰直線5の切片m1とm2を比較することにより行う。
【0070】
具体的には、回帰直線4と回帰直線5を推定した結果、図6に示すように、それぞれの切片m1とm2が同じ若しくは殆ど同じになっている場合には、健全性診断の指標はイベント発生前後で変化しておらず、建物の健全性は損なわれていないと判断する。
【0071】
これは、回帰直線4と回帰直線5の推定結果から、例えば図7に示すような指標の周期変動波形6が想定されるという考え方に基づくものである。即ち、図5や図6からは健全性診断の指標は経時的に見かけ上変化しているが、この見かけ上の変化は、例えば指標の周期変動波形6のように示される健全性診断の指標自体の周期的な変動によるものであって健全性診断の指標が本質的に変化しているものではないとの知見に基づくものである。
【0072】
ここで、建物の健全性が損なわれているか否かを判断するための回帰直線4と5の切片m1とm2の差の大きさは、算定された健全性診断の指標の大きさやばらつき等を考慮して診断対象の建物毎に作業者が適当な基準値を判断する。例えば、切片m1とm2の差として0.02[Hz]程度を基準として用いたり、変化率として1[%]程度を基準として用いたりすることが考えられる。しかしながら、建物の健全性を診断する際の切片の差や変化率の基準値はこれに限られるものではなく、これより小さい基準値を用いても良いし又はこれより大きい基準値を用いても良い。
【0073】
なお、イベント発生前後の健全性診断の指標を単純に比較した場合には、具体的には例えばイベント発生前データ2cとイベント発生後データ3aの指標をそのまま比較したり、イベント発生前データ2a〜2cとイベント発生後データ3a〜3cのそれぞれの指標の平均を比較したりした場合には、本質的には健全性診断の指標は変化していないにもかかわらずイベント発生前後で見かけ上の差があるために建物の健全性が損なわれていると誤った判断をしてしまう可能性があることが分かる。
【0074】
一方で、回帰直線4と回帰直線5を推定した結果、図9に示すように、それぞれの切片m1とm2が異なっている場合には、健全性診断の指標がイベント発生前後で変化し、建物の健全性が損なわれていると判断する。
【0075】
これは、回帰直線4と回帰直線5の推定結果から、例えば図10に示すような指標の周期変動波形6a及び6bが想定されるという考え方に基づくものである。図10は、イベントの発生によって健全性診断の指標が本質的に変化し、イベント発生時点T0を境にイベント発生前の指標の周期変動波形6aがイベント発生後の指標の周期変動波形6bに遷移したことを示している。
【0076】
ここで、回帰直線4と回帰直線5の切片m1とm2の差Δmに基づいて建物の健全性が損なわれていると判断する際の基準は、前記と同様に、例えば、切片m1とm2の差Δmとして0.02[Hz]程度を基準として用いたり、変化率として1[%]程度を基準として用いたりすることが考えられる。しかしながら、建物の健全性を診断する際の切片の差や変化率の基準値はこれに限られるものではなく、これより小さい基準値を用いても良いし又はこれより大きい基準値を用いても良い。
【0077】
なお、イベント発生前後の健全性診断の指標を単純に比較した場合には、具体的には例えばイベント発生前データ2cとイベント発生後データ3aの健全性診断の指標をそのまま比較した場合には、本質的に健全性診断の指標が変化しているにもかかわらずイベント発生前後で見かけ上差がないために建物の健全性は損なわれていないと誤った判断をしてしまう可能性があることが分かる。
【0078】
以上の手順を採用することにより、建物の固有振動数や剛性が気温や日射、風力等に依存して周期的に変動する場合であっても、その変動を除去して正確にイベント発生前後の構造的な損傷のみに依存した固有振動数や剛性の変化量を評価することが可能となり、それに基づいて建物の健全性を診断することが可能となる。
【0079】
続いて、本実施形態の建物の健全性診断法をプログラムを用いて行う場合の一例を示す。
【0080】
図11に、健全性診断プログラムを実施するための健全性診断装置7の全体構成を示す。なお、本実施形態では、振動センサ等に記録装置を設け、常時計測している建物の常時微動の計測データをそのまま全て記録しておいて、記録された一定期間の常時微動データからプレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法で計測対象R1の常時微動データを抽出する場合について説明する。
【0081】
制御部8には、記憶部9、指示入力部10、表示部11及びデータ入力部12が接続されている。また、メモリ13が制御部8に内蔵若しくは接続されている。
【0082】
制御部8は、記憶部9に記憶されている健全性診断プログラムにより健全性診断装置7全体の制御並びに健全性診断に係る演算を行うものであり、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データからイベントの発生前後の建物の常時微動データの抽出を行う常時微動データ抽出処理部、イベント発生前と発生後の常時微動データをそれぞれ分割する常時微動データ分割処理部、分割データ毎に建物の健全性診断の指標を算定する健全性診断指標算定処理部、イベント発生前データと発生後データ別に回帰直線を推定する回帰直線推定処理部、算定された回帰直線の切片の値を基に建物の健全性の診断を行う健全性判定処理部を構成している。
【0083】
制御部8は例えばCPUである。記憶部9は例えばハードディスクである。指示入力部10は少なくとも作業者の命令をCPUに与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。表示部11は例えばディスプレイである。データ入力部12は少なくとも電子媒体に記録されたデータをCPUに与えるものであり、例えば磁気ディスクドライブである。
【0084】
まず、建物の常時微動の計測を常時行って収集している常時微動の計測データからイベントの発生前後の建物の常時微動データの抽出を行う(S1)。ここで、常時微動データの計測と収集は記録装置を設けた振動センサ等により常時行われ、イベント前後の常時微動データ若しくは常時計測している常時微動データの全てが例えば磁気ディスクドライブ或いは装着・脱着可能な磁気ディスク等の記録装置に格納されている。
【0085】
制御部8の常時微動データ抽出処理部は、磁気ディスクに記録された一定期間の常時微動の計測データとして、時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータをデータ入力部12を介して読み込む。
【0086】
そして、読み込んだ振動振幅がトリガーレベルTL1又はTL2を超えた場合にはその時刻をイベント発生時点T0として記憶部9又はメモリ13に記憶する。そして、イベント発生時点T0前の計測時間T1に対応する時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータをデータ入力部12を介して磁気ディスクから読み込み、常時微動データD1として記憶部9又はメモリ13に記憶する。また、イベント発生時点T0後の計測時間T2に対応する時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータをデータ入力部12を介して磁気ディスクから読み込み、常時微動データD2として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0087】
次に、S1の結果得られたイベント発生前と発生後の常時微動データD1及びD2をそれぞれ分割する(S2)。
【0088】
制御部8の常時微動データ分割処理部は、まず、S1で記憶部9又はメモリ13に記憶した常時微動データD1(時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータ)を読み込む。
【0089】
そして、読み込んだ常時微動データD1の時刻をもとに常時微動データD1全体をその時刻順に三分割し、分割データd1〜d3として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0090】
次に、制御部8の常時微動データ分割処理部は、S1で記憶部9又はメモリ13に記憶した常時微動データD2を読み込む。
【0091】
そして、読み込んだ常時微動データD2の時刻をもとに常時微動データD2全体をその時刻順に三分割し、分割データd4〜d6として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0092】
なお、S1の常時微動データの抽出を健全性診断装置7で行っていない場合には、記憶部9又はメモリ13に記憶した常時微動データD1及びD2を読み込む代わりに、磁気ディスクに記録された常時微動データD1及びD2をデータ入力部12を介して読み込むようにしても良い。
【0093】
次に、S2で分割した分割データd1〜d6毎に建物の健全性診断の指標を算定する(S3)。
【0094】
まず、制御部8の健全性診断指標算定処理部は、S2で記憶部9又はメモリ13に記憶した分割データd1を読み込む。
【0095】
そして、分割データd1(時刻及びその時刻に対応する振動振幅のデータであり、一定時間分のデータである)を用い、建物の健全性診断の指標である建物の固有振動数や剛性を算定する。
【0096】
また、分割データd1の時刻情報を基に、分割データd1の時間区分の中間の時刻を算定する。
【0097】
そして、算定した健全性診断の指標の値並びに中間の時刻を分割データd1に対応するイベント発生前データ2aとして記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0098】
同様に、制御部8の健全性診断指標算定処理部は、分割データd2とd3についても指標並びに中間の時刻の算定を行うと共に、各分割データd2とd3に対応するイベント発生前データ2bと2cとしてそれぞれの指標の値並びに時刻を記録部9又はメモリ13に記憶する。
【0099】
更に同様に、制御部8の健全性診断指標算定処理部は、分割データd4〜d6についても指標並びに中間の時刻の算定を行うと共に、各分割データd4〜d6に対応するイベント発生後データ3a〜3cとしてそれぞれの指標の値並びに時刻を記録部9又はメモリ13に記憶する。
【0100】
次に、イベント発生前データ2a〜2cと発生後データ3a〜3c別に回帰直線を推定する(S4)。
【0101】
制御部8の回帰直線推定処理部は、まず、S3で記憶部9又はメモリ13に記憶したイベント発生前データ2a〜2cの指標の値並びに時刻を読み込み、このデータを基に回帰直線4の傾きk1及び切片m1を推定する。
【0102】
そして、イベント発生前データ2a〜2cに対応する回帰直線4の傾きk1及び切片m1として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0103】
同様に、制御部8の回帰直線推定処理部は、S3で記憶部9又はメモリ13に記憶したイベント発生後データ3a〜3cの指標の値並びに時刻を読み込み、このデータを基に回帰直線5の傾きk2及び切片m2を推定する。
【0104】
そして、イベント発生後データ3a〜3cに対応する回帰直線5の傾きk2及び切片m2として記憶部9又はメモリ13に記憶する。
【0105】
次に、S4で算定した切片m1及びm2を用いて建物の健全性の診断を行う(S5)。
【0106】
制御部8の健全性判定処理部は、S4で記憶部9又はメモリ13に記憶した回帰直線4の切片m1及び回帰直線5の切片m2を読み込む。
【0107】
続いて、制御部8の健全性判定処理部は、切片m1と切片m2の値の比較を行う。そして、値に差違がないと判断した場合には、健全性診断の指標に差違がなく建物に損傷が発生していないと判定する。そして、健全性の診断結果として、健全性に問題なしとの診断結果を必要に応じて記憶部9に記憶すると共に表示部11に表示する。一方、値に差違があると判断した場合には、健全性診断の指標に差違があり建物に損傷が発生していると判定する。そして、健全性の診断結果として、健全性に問題ありとの診断結果を必要に応じて記憶部9に記憶すると共に表示部11に表示する。
【0108】
なお、以上において、制御部8は適宜指示入力部10を介して作業者の命令を受け、例えばデータの選択や処理開始等の制御を行う。
【0109】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、イベント発生前データ2a〜2cとイベント発生後データ3a〜3cが共に漸増傾向にある場合について説明したが、例えば、イベント発生前データ2a〜2cは漸増傾向でイベント発生後データ3a〜3cは漸減傾向の場合には、イベント発生後データ3aを起点とする3b、3cへの漸減傾向と変化分の絶対値が等しいイベント発生後データ3aを起点とする漸増傾向を想定することにより、本実施形態で例示した方法と同様にして健全性診断を行うことができる。
【0110】
また、プログラムを用いて行う場合の実施形態として、常時微動を計測する振動センサ等と健全性診断装置が別個のものとして構成されている場合を例に挙げて説明したが、振動センサ等と健全性診断装置が一体のものとして構成されていても良い。
【0111】
また、本実施形態では健全性診断の指標自体の周期的な変動が比較的大きい場合について説明したが、健全性診断の指標自体の周期的な変動が非常に緩やかで回帰直線の傾きが明瞭でない場合には、傾きをゼロとして健全性診断を行うことも可能である。
【実施例1】
【0112】
本発明の実施例として、図12から図19に、財団法人電力中央研究所我孫子地区南研究棟本館(所在地千葉県我孫子市、地上10階建事務所ビル)(以下、対象建物と呼ぶ)を対象として行った常時微動計測並びに健全性の診断の結果を示す。
【0113】
対象建物において平成17年2月1日から3月2日までの30日間に亘って観測した応答振幅並びに南北方向及び東西方向の固有振動数の経時変化を15分ごとに整理し、図12並びに図13及び図14に示す結果を得た。
【0114】
まず、図13及び図14の経時変化を整理した結果から固有振動数が日単位で周期的に変動していることが確認された。
【0115】
また、2月16日午前4時46分(図12から図14中の▼で示した時点)に茨城県南部を震源とする地震が発生し、対象建物付近では震度III程度の揺れが観測された。
【0116】
ここで、本発明の健全性診断法による診断結果と比較するため、毎正午から15分間の計測データを用いて固有振動数を算定し、日毎の固有振動数の変化に基づく建物の健全性の診断を試みた。なお、長期的な固有振動数の変化に基づいて建物の健全性を診断するための常時微動データの計測を想定した場合、実用的には一日に一度一定時間(例えば固有振動数の算定に必要な時間)の計測であれば手間とコストが許容され得ることを考慮して毎正午から15分間の計測データを用いることとした。
【0117】
毎正午から15分間の計測データを用いて算定した固有振動数の経時変化を整理し、図15及び図16に示す結果を得た。なお、図中の▼の位置が地震発生時刻を示している。
【0118】
この結果から、固有振動数の日々のばらつきが大きいため、地震発生前後での固有振動数の変化を読み取ることは困難であり、日毎の固有振動数の変化に基づいて地震による建物の損傷の発生の有無を判断することは困難であることが確認された。
【0119】
次に、本発明の建物の健全性診断法を用いて健全性の診断を行った。
【0120】
まず、地震が発生した2月16日の午前中のデータを15分毎のデータに分割して応答振幅並びに固有振動数の経時変化を整理し、図17並びに図18及び図19に示す結果を得た。なお、図中の▼の位置が地震発生時刻を示している。
【0121】
図18に示す南北方向一次の固有振動数及び図19に示す東西方向一次の固有振動数について、本発明において例えばプレトリガー計測法とレベルトリガー方式を組み合わせた方法で常時微動データとして実際に計測する範囲を想定し、地震発生前と地震発生後のそれぞれについて三つの分割データを用いて健全性の診断を行った。なお、地震発生直後の振動振幅を含む分割データは診断に用いるデータからは除いた。
【0122】
図18に示す南北方向一次の固有振動数について、地震発生前の三つの分割データを用いて回帰直線を推定した。なお、本実施例では、固有振動数自体の周期的な変動が非常に緩やかなものであったために回帰直線の傾きをゼロとして切片を推定した。その結果、地震発生前データの回帰直線の切片として1.758[Hz]を得た。
【0123】
更に、地震発生前データの回帰直線と同様に傾きをゼロとし、地震発生後の三つの分割データを用いて回帰直線の切片を推定して1.719[Hz]を得た。
【0124】
また、図19に示す東西方向一次の固有振動数について、地震発生前の三つの分割データを用いて回帰直線を推定した。なお、前記と同様に、固有振動数自体の周期的な変動が非常に緩やかなものであったために回帰直線の傾きをゼロとして切片を算定した。その結果、地震発生前データの回帰直線の切片として2.002[Hz]を得た。
【0125】
更に、地震発生前データの回帰直線と同様に傾きをゼロとし、地震発生後の三つの分割データを用いて回帰直線の切片を算定して1.971[Hz]を得た。
【0126】
以上から、地震発生前データと地震発生後データの回帰直線の切片の差として、南北方向については0.039[Hz]、東西方向については0.031[Hz]を得た。また、変化率はそれぞれ2.2[%]と1.5[%]となった。この結果から、2月16日に発生した地震により対象建物に何らかの損傷が発生していると判断された。
【0127】
以上の結果から、本発明の健全性診断法を用いることにより、固有振動数自体が周期的に変動している場合であっても地震発生前後の固有振動数の変化を明瞭に見分けることが可能であり、建物の健全性の診断を安定的に行い得る手法であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】プレトリガー計測法を説明する模式図である。
【図3】プレ・ポストトリガー計測法を説明する模式図である。
【図4】実施形態の常時微動データを説明する模式図である。
【図5】実施形態の時刻と健全性診断の指標の組み合わせのデータを示す図である。
【図6】図5に示すデータの回帰直線を示す図である。
【図7】図6に示す回帰直線が推定された場合に想定される指標の周期変動波形を説明する図である。
【図8】実施形態の時刻と健全性診断の指標の組み合わせの他のデータを示す図である。
【図9】図8に示すデータの回帰直線を示す図である。
【図10】図9に示す回帰直線が推定された場合に想定される指標の周期変動波形を説明する図である。
【図11】実施形態の健全性診断プログラムを実施するための健全性診断装置の全体構成を示す図である。
【図12】実施例の応答振幅の計測データを示す図である。
【図13】実施例の固有振動数(南北方向一次)を示す図である。
【図14】実施例の固有振動数(東西方向一次)を示す図である。
【図15】実施例の固有振動数(南北方向一次、毎正午)を示す図である。
【図16】実施例の固有振動数(東西方向一次、毎正午)を示す図である。
【図17】実施例の応答振幅の計測データ(午前中のみ、15分分割)を示す図である。
【図18】実施例の固有振動数(南北方向一次、午前中のみ、15分分割)を示す図である。
【図19】実施例の固有振動数(東西方向一次、午前中のみ、15分分割)を示す図である。
【図20】従来の常時微動計測に基づく建物の健全性診断法を説明するフローチャートである。
【図21】従来の構造性能指標推定装置、及び構造物の構造性能リアルタイムモニタリング方法を説明するフローチャートである。
【図22】鉄筋コンクリート柱の変位−荷重特性を説明する図である。
【符号の説明】
【0129】
2a〜2c イベント発生前データ
3a〜3c イベント発生後データ
4 イベント発生前データの回帰直線
5 イベント発生後データの回帰直線
7 健全性診断装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の常時微動の計測を常時行って前記常時微動の計測データを収集すると共に前記建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の前記常時微動の計測データを抽出し、前記事象発生前並びに前記事象発生後の前記常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し、分割した前記常時微動の計測データ毎に前記建物の健全性を診断する指標を算定し、前記事象発生前の前記指標の回帰直線及び前記事象発生後の前記指標の回帰直線を推定し、該回帰直線のそれぞれの切片を比較して前記建物の健全性を診断することを特徴とする常時微動計測に基づく建物の健全性診断法。
【請求項2】
建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の前記建物の常時微動の計測データを入力する手段、前記事象発生前並びに前記事象発生後の前記常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した前記常時微動の計測データ毎に前記建物の健全性を診断する指標を算定する手段、前記事象発生前の前記指標の回帰直線及び前記事象発生後の前記指標の回帰直線を推定する手段、該回帰直線のそれぞれの切片を比較して前記建物の健全性を診断する手段として機能させるための常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラム。
【請求項3】
建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の常時微動の計測を常時行って収集した前記常時微動の計測データを入力する手段、前記常時微動の計測データから前記建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の前記常時微動の計測データを抽出する手段、前記事象発生前並びに前記事象発生後の前記常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した前記常時微動の計測データ毎に前記建物の健全性を診断する指標を算定する手段、前記事象発生前の前記指標の回帰直線及び前記事象発生後の前記指標の回帰直線を推定する手段、該回帰直線のそれぞれの切片を比較して前記建物の健全性を診断する手段として機能させるための常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラム。
【請求項1】
建物の常時微動の計測を常時行って前記常時微動の計測データを収集すると共に前記建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の前記常時微動の計測データを抽出し、前記事象発生前並びに前記事象発生後の前記常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割し、分割した前記常時微動の計測データ毎に前記建物の健全性を診断する指標を算定し、前記事象発生前の前記指標の回帰直線及び前記事象発生後の前記指標の回帰直線を推定し、該回帰直線のそれぞれの切片を比較して前記建物の健全性を診断することを特徴とする常時微動計測に基づく建物の健全性診断法。
【請求項2】
建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の前記建物の常時微動の計測データを入力する手段、前記事象発生前並びに前記事象発生後の前記常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した前記常時微動の計測データ毎に前記建物の健全性を診断する指標を算定する手段、前記事象発生前の前記指標の回帰直線及び前記事象発生後の前記指標の回帰直線を推定する手段、該回帰直線のそれぞれの切片を比較して前記建物の健全性を診断する手段として機能させるための常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラム。
【請求項3】
建物の健全性を診断するためのコンピュータを、建物の常時微動の計測を常時行って収集した前記常時微動の計測データを入力する手段、前記常時微動の計測データから前記建物の健全性に影響を与え得る事象の発生前後の前記常時微動の計測データを抽出する手段、前記事象発生前並びに前記事象発生後の前記常時微動の計測データのそれぞれを複数に分割する手段、分割した前記常時微動の計測データ毎に前記建物の健全性を診断する指標を算定する手段、前記事象発生前の前記指標の回帰直線及び前記事象発生後の前記指標の回帰直線を推定する手段、該回帰直線のそれぞれの切片を比較して前記建物の健全性を診断する手段として機能させるための常時微動計測に基づく建物の健全性診断プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2007−40713(P2007−40713A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222087(P2005−222087)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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