説明

常温アスファルト混合物

【課題】常温にて長期間の保存が可能で、施工後、早期に強度を発現することを可能とした常温型アスファルト混合物を提供する。
【解決手段】カットバックアスファルトと、骨材と、を混合してなる常温型アスファルト混合物であって、カットバックアスファルトは、このカットバックアスファルトに対する重量比率が70%〜90%の範囲内のアスファルトと、重量比率が4.5%〜25%の範囲内の灯油と、重量比率が5%〜10%の範囲内の1−ブロモプロパンと、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路舗装等に用いられる常温アスファルト混合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通量の少ない道路の表層材や、道路等の舗装の補修や、埋設工事などに伴う舗装の仮復旧等には、常温型アスファルト混合物を使用する場合がある。
【0003】
このような常温型アスファルト混合物には、自然反応型のものと化学反応型のものとがある。
自然反応型の常温型アスファルト混合物は、常温型アスファルト混合物に含まれるカットバック剤により既存のアスファルトをカットバックさせて一体化した後、カットバック剤が揮発することで強度を発現させるもの(特許文献1参照)や、乳化剤により既存のアスファルトを乳化させて一体化した後、乳化剤の水分が揮発することで強度を発現させるもの(特許文献2参照)等がある。
【0004】
一方、化学反応型の常温型アスファルト混合物は、常温型アスファルト混合物に添加した化学反応性物質が、化学反応することにより強度を発現するものである(特許文献3参照)。このような化学反応性物質は、高温域での反応速度が遅く、常温域での反応が早い溶剤や、2種類の物質を混合することにより化学反応をおこし、強度を発現するものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−254016号公報
【特許文献2】特開2000−198935号公報
【特許文献3】特開平07−118541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記従来の自然反応型の常温型アスファルト混合物は、カットバック剤の揮発や乳化剤の水分の揮発に時間がかかり、舗装として必要な強度が発現するまでに時間がかかる場合があった。
また、化学反応型の常温型アスファルト混合物は、前者の溶剤の場合は、製造段階から施工段階までの温度管理が必要となる場合があることや、後者の2種混合による場合は、現地にて攪拌混合を行う必要があることなどにより、手間が掛かるという問題点を有していた。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、常温にて長期間の保存が可能で、施工後、早期に強度を発現することを可能とした常温型アスファルト混合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、カットバックアスファルトと、骨材と、を混合してなる常温型アスファルト混合物であって、前記カットバックアスファルトが、アスファルトと、炭化水素油と、1−ブロモプロパンと、を含むことを特徴としている。
【0009】
かかる常温型アスファルト混合物は、カットバックアスファルトのカットバック剤として、炭化水素油の他に1−ブロモプロパン(n−プロピルプロマイドまたは臭化n−プロピルともいう)を含むため、揮発能力が向上し、早期に強度発現がなされる。
【0010】
また、前記常温型アスファルト混合物において、前記カットバックアスファルトに対して、前記アスファルトの重量比率を70%〜90%の範囲内、かつ、前記炭化水素油の重量比率を5%〜25%の範囲内、なおかつ、前記1−ブロモプロパンの重量比率を4.5%〜10%の範囲内として、気温や季節等に応じて適宜配合の微調整を行う。
【0011】
また、前記常温型アスファルト混合物において、前記骨材と前記カットバックアスファルトとの混合割合を、重量比で80:20〜95:5の範囲内としてもよい。かかる比率により混合された常温型アスファルト混合物によれば、舗装材としての十分な強度を発現するとともに、骨材への十分な被覆があり、かつ、ダレが生じない程度に設定されているため、好適である。
【0012】
また、前記常温型アスファルト混合物において、前記カットバックアスファルトに、剥離防止剤を含ませれば、骨材の剥離抵抗性を向上させて、骨材とカットバックアスファルトとの一体化をより効果的に行うことが可能となり好適である。
かかる前記常温型アスファルト混合物において、前記剥離防止剤は、少量添加するのみで優れた効果を発揮し、前記カットバックアスファルトに対して重量比率が0.3%〜0.5%の範囲内であれば好適である。
【0013】
また、前記常温型アスファルト混合物において、前記剥離防止剤が界面活性剤であれば、アスファルトと骨材との間の界面を活性化させて、化学結合的に強固に接着させることが可能となり、好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の常温型アスファルト混合物によれば、常温にて長期間の保存が可能で、施工後、早期に強度を発現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の常温型アスファルト混合物の最良の実施の形態について説明する。
本実施形態に係る常温型アスファルト混合物は、カットバックアスファルトと、骨材とを混合することにより構成されてなる、自然反応型のアスファルト混合物である。
【0016】
本実施形態では、常温型アスファルト混合物に対する骨材の重量比率を80%〜95%、カットバックアスファルトの重量比率を5%〜20%の範囲内として配合している。
【0017】
骨材としては、公知の材料の中から適宜選定するものとし、強固で耐久性に優れており、偏平な石片、ごみ、有機物等の有害物を含んでいないものを使用するものとする。なお、骨材の材質や粒度分布は限定されないことはいうまでもない。
【0018】
カットバックアスファルトは、アスファルトと、灯油(炭化水素油)、1−ブロモプロパンおよび剥離防止剤を混合してなるカットバック剤とにより構成されている。
本実施形態におけるカットバックアスファルトに対する各材料の配合は、アスファルトの重量比率が70%〜90%の範囲内、灯油の重量比率が5%〜25%の範囲内、1−ブロモプロパンの重量比率が4.5%〜10%の範囲内、剥離防止剤の重量比率が0.3%〜0.5%の範囲内とする。
【0019】
本実施形態では、アスファルト(瀝青材料)として、舗装用石油アスファルト60〜80(JISK2207)を使用する。なお、舗装用石油アスファルトの種類は60〜80に限定されるものではないことはいうまでものなく、適宜、公知の種類から選定して使用すればよい。また、天然アスファルト、ポリマー(ゴム等)、樹脂等を添加することで、アスファルト混合物の性状を向上させた改質アスファルトを使用してもよい。
【0020】
灯油は、カットバック剤を構成する主材料であって、アスファルトと混合されることで、アスファルトを液状化させることを可能としている。
【0021】
1−ブロモプロパン(CH2BrCH2CH3)は、カットバックアスファルトの揮発能力を向上させて、常温型アスファルト混合物の早期の強度発現を可能としている。
この1−ブロモプロパンは、分子内に臭素を含んでおり、脱脂力が極めて大きく有機物質をよく溶解し、塩素系溶剤とよく似た性質を有している液体であって、表面張力、粘度が小さいので浸透力が大きく隙間の汚れが洗浄できるため、金属の洗浄やアスファルト混合物のソックスレー抽出試験等に用いられる材料である。また、1−ブロモプロパン(沸点71℃)は、引火点が無いので、消防法の危険物には該当しないものである。さらに、労働安全衛生法や化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)の危険物や毒物にも該当しないため、取り扱いが容易である。
【0022】
剥離防止剤は、アスファルトと骨材間の界面を活性化させて、アスファルトと骨材とを化学結合的に強固に接着させることを目的として混入する。
本実施形態では、剥離防止剤として、フォスフェート系界面活性剤を使用するものとする。なお、剥離防止剤として使用する材料は限定されるものではなく、適宜公知のものの中から選定して使用すればよい。なお、フォスフェート系界面活性剤は、無臭で化管法、毒劇物、特化則(特定化学物質等障害予防規則)の危険物等に該当しないため、好適に使用することが可能である。
【0023】
本実施形態に係る常温型アスファルト混合物によれば、カットバックアスファルトに1−ブロモプロパンが添加されているため、カットバックアスファルトの揮発能力が向上し、早期に強度発現がなされる。
【0024】
また、カットバックアスファルトには、少量の剥離防止剤が含まれているため、カットバックアスファルトと骨材と接着性がより強固に行われ、骨材の飛散や磨耗等を抑えることが可能となり、好適である。
【0025】
また、カットバックアスファルトを構成する各材料および骨材の本実施形態による適切な配合により、長期間保存した場合であっても、その品質を維持することを可能としている。
【0026】
また、本実施形態に係る常温型アスファルト混合物を構成する各材料は、比較的入手が容易で、かつ、取り扱いも容易で、かつ、人体に悪影響を及ぼすことが無く、なおかつ、比較的危険性が低いものにより構成されているため、安全性、施工性、経済性に優れている。
【0027】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜設計変更が可能であることはいうまでもない。
例えば、本実施形態に係る常温型アスファルト混合物を使用する目的や場所等は限定されるものではなく、道路や公園等、あらゆる舗装工事に使用可能である。
【0028】
また、前記実施形態では、炭化水素油として灯油を使用するものとしたが、炭化水素油が灯油に限定されないことはいうまでもなく、例えば、ガソリン等、適宜カットバック剤の主材料として使用される公知の炭化水素油の中から選定して使用すればよい。
【実施例】
【0029】
次に、本発明に係る常温型アスファルト混合物の強度、飛散抵抗性、貯蔵安定性について実証実験を行った結果を示す。
【0030】
本実証実験では表1に示す配合比率により常温型アスファルト混合物を構成するものとした。なお、カットバックアスファルトを構成する各材料の配合比率は、表2に示すとおりである。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
本実証実験において用いられた常温型アスファルト混合物(開粒度アスファルト混合物)の合成粒度は、表3に示すようになった。なお、常温型アスファルト混合物の合成粒度は、表3に示すものに限定されないことはいうまでもない。
【0034】
【表3】

【0035】
(1)強度
強度は、マーシャル安定度試験により評価を行った。表1〜表3に示す配合により構成された、本発明に係る常温型アスファルト混合物(試料A)の強度試験結果を表4に示す。なお、比較例として、市販されている従来の自然反応型常温型アスファルト混合物(試料B)のマーシャル安定度試験結果を併記する。
ここで、マーシャル供試体の作製条件は、両面30回突きにより直径約100mm、厚さ約63mmとなるように作製し、養生条件として、20℃気乾で所定期間(材令1日、3日、7日、14日、42日)養生後に20℃水浸30分とした。
【0036】
【表4】

【0037】
表4に示すように、本発明に係る常温型アスファルト混合物(試料A)の強度(マーシャル安定度)は、材令1日で1.93kN、材令3日で2.69kN、材令7日で5.13kN、材令14日で9.62kN、材令42日で11.93kNであった。これにより、従来の常温型アスファルト混合物(試料B)の安定度(材令1日で1.58kN、材令3日で2.26kN、材令7日で3.95kN、材令14日で7.08kN、材令42日で9.68kN)と比較して、強度が増加していることが実証された。
【0038】
(2)飛散抵抗性
飛散抵抗性は、低温カンタブロ試験により骨材飛散率を測定することにより評価を行った。表1〜表3に示す配合により構成された、本発明に係る常温型アスファルト混合物(試料A)の低温カンタブロ試験結果を表5に示す。なお、比較例として、市販されている従来の自然反応型常温型アスファルト混合物(試料B)のマーシャル安定度試験結果を併記する。
ここで、低温カンタブロ試験に用いる供試体には、マーシャル供試体を使用するものとする。マーシャル供試体の作製条件は、両面30回突きにより直径約100mm、厚さ約63mmとなるように作製し、養生条件として、40℃気乾で4日間養生後、低温カンタブロ試験のための−20℃気乾養生を行った。なお、低温カンタブロ試験は、供試体温度を−20℃まで低下させた後に常温にて行うものである。
【0039】
【表5】

【0040】
なお、骨材飛散率は式1により算出する
骨材飛散率(%)=(A−B)÷A×100 ・・・ 式1
ここで、A:試験前の供試体の質量
B:試験後の供試体の質量
【0041】
表5に示すように、本発明に係る常温型アスファルト混合物(試料A)による骨材飛散率は28.3%となった。したがって、従来の常温型アスファルト混合物(試料B)の骨材飛散率47.8%と比較して骨材飛散率は約20%削減されており、本発明に係る常温型アスファルト混合物(試料A)が飛散抵抗性に優れていることが実証された。
【0042】
(3)貯蔵安定性
貯蔵安定性試験は、ガスバリア性の高い袋に袋詰めした常温型アスファルト混合物を、1ヶ月間貯蔵した後に、この常温型アスファルト混合物を利用してマーシャル供試体作製して、その締め固め度を測定することにより行った。ここで、貯蔵安定試験に使用するマーシャル供試体の作製条件は、(1)強度において説明した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0043】
【表6】

【0044】
表6に示すように、貯蔵前の常温型アスファルト混合物に対する1ヶ月貯蔵した後の締め固め度が99.4%であるため、1ヶ月の貯蔵による締め固め度の変化はほとんど見られなかった。そのため、本発明に係る常温型アスファルト混合物が貯蔵性に優れていることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カットバックアスファルトと、骨材と、を混合してなる常温型アスファルト混合物であって、
前記カットバックアスファルトが、アスファルトと、炭化水素油と、1−ブロモプロパンと、を含むことを特徴とする、常温型アスファルト混合物。
【請求項2】
前記カットバックアスファルトに対して、前記アスファルトの重量比率が70%〜90%の範囲内、かつ、前記炭化水素油の重量比率が5%〜25%の範囲内、なおかつ、前記1−ブロモプロパンの重量比率が4.5%〜10%の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の常温型アスファルト混合物。
【請求項3】
前記骨材と前記カットバックアスファルトとの混合割合が、重量比で80:20〜95:5の範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の常温型アスファルト混合物。
【請求項4】
前記カットバックアスファルトが、剥離防止剤を含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の常温型アスファルト混合物。
【請求項5】
前記カットバックアスファルトに対して、前記剥離防止剤の重量比率が0.3%〜0.5%の範囲内であることを特徴とする、請求項4に記載の常温型アスファルト混合物。
【請求項6】
前記剥離防止剤が界面活性剤であることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の常温型アスファルト混合物。