説明

常磁性に基づく磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法

本発明は、常磁性に基づく磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法を提出する。磁性ナノ試料の所在領域に複数回の異なる励磁磁場を印加し、ランジュバンの常磁性原理により異なる励磁磁場および磁化率に対応する方程式群を構築し、方程式群の解を求めることにより温度および試料濃度情報を得る。本発明は、さらに精密、さらに迅速な物体温度感知を可能にし、特に生物分子面の熱運動の感知に適しており、試験によって測定誤差を0.56K未満とすることができること が示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ試験技術分野に関し、具体的には、ナノ超常磁体の磁化率に基づく温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の深部、特に生体(in vivo)の深部の温度情報は、時空および情報伝送の物理学的原理により制限を受け、1000℃以下の非接触式温度測定について、依然として有効な解決方法がない。温度は、免疫反応、生命活動を表す直接の証拠である。癌の温熱療法では、温熱療法のプロセス中、癌変性部位の温度を45℃〜47℃に制御することが求められる。一般に、45℃〜47℃は、正常な細胞にとって安全であるが癌細胞が徐々に壊死する臨界温度点であると考えられている。肺および肝臓に位置する癌細胞の温度場情報を遠隔(リモート)測定することは、温熱療法において突出した治療効果を得るための技術的なキーポイントである。しかしながら、ヒトの体内の臓器、骨格、血管または皮膚は、温度情報にとって天然の障壁となる。他分野においては、航空エンジン出口の温度分布がタービンの寿命に直接影響を及ぼすため、迅速で、流れ場を変えないタービン温度分布の測定技術によって、エンジンの性能が極めて大きく向上している。そのため、さらに普遍的な物体深部の温度測定技術が、生物医学分野および工業分野の進歩を推進する技術的なキーポイントとなっている。
【0003】
技術的には、現在の温度測定技術は、物体深部の温度測定に応用するには、比較的大きな難点を伴っている。磁気共鳴温度測定技術によって、臨床的に有意な人体の温度場測定技術に光明がもたらされている。核磁気共鳴温度測定は、癌の温熱療法などの生体内の温度測定に用いることが難しい。しかしながら、分子の磁性が微弱すぎるため、直接または間接的に試験上の技術的難点がもたらされている。生体内の水素分子の温度特性パラメータは、予め得ることができず、試験中に同一点で加熱前後に2回測定した結果により、温度差測定を実現する必要があり、試験点の高度な静止が要求され、これが誤差の主な原因となっている。研究者は、磁性ナノ粒子(四酸化三鉄)の磁気モーメントが水素分子の核磁気共鳴信号よりも3桁以上高いことに早くから注目していた。このように、ナノ磁性試験システムは、高速および高SN比を実現することが期待されている。米国のJ.B.Weaverは、ナノ磁性について有益な研究を行っており、ナノ超常磁体を採用して交流磁化した後の第3次調波および第5次調波の比について試験を行い、20℃〜50℃の範囲内の精度は、1度より優れていた。磁性ナノ粒子および温度に関連する定数、例えば粒径、飽和磁気モーメントなどは、いずれも予め体外で精確な反復試験を行っておくことができ、磁性パラメータはいずれも予め標定しておくことができる。磁性ナノ粒子の体内における濃度分布および空間分布の不確定性によって、生体内温度測定に極めて大きな誤差がもたらされる。体内の異なる画素点分布の不確定性によって、核磁気共鳴温度は温度差測定しか実現できなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、さらに精密に、さらに迅速に物体遠隔温度感知を実現可能な、常磁性に基づく磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
常磁性に基づく磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法は、具体的には以下のとおりである。
【0006】
(1)磁性ナノ試料を測定対象部に置く。
(2)磁性ナノ試料の所在領域に、n回の異なる励磁磁場を印加する。
(3)異なる励磁磁場における磁性ナノ試料の磁化強度を採取し、磁化強度により異なる励磁磁場における磁化率を得る。
(4)磁性ナノ試料の磁化率xおよび励磁磁場Hの方程式群
【数1】

を構築し、式中、ランジュバン関数L(MH/kT)の逆数は
【数2】

であり、α=MH/kT,c2j−1は多項式係数、J+1は所定の多項式展開項数、Nは試料濃度、Mは試料原子磁気モーメント、kはボルツマン定数、Tは測定対象の温度である。
(5)前記方程式群の解を求め、温度Tを得る。
【0007】
さらに、J=1であり、前記ステップ(5)は、具体的には、線形方程式1/x=3x+1/5Hyを用いてシーケンス点(H,1/x)に対して曲線あてはめを行い、あてはめで得られた直線切片3xおよび傾き1/5yにより温度
【数3】

を計算し、試料濃度
【数4】

を計算するステップである。
【0008】
さらに、2≦J≦5であり、前記ステップ(5)は、具体的には、
先ず前記磁化率xおよび励磁磁場Hの方程式群を行列方程式
【数5】

に変換し、式中
【数6】

であり、Aは係数行列であり、
次いで方程式群
【数7】

の解を求めてaおよびbを得て、式中、Aは係数行列Aの一般化逆Aのq行目であり、
最後に測定対象の温度
【数8】

を計算し、試料濃度
【数9】

を計算するステップである。
【0009】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。
【0010】
本発明は、ナノ超常磁体磁化率に基づく温度測定方法を提出する。磁性ナノ試料の所在領域に複数回(一般に2回を超える)の異なる励磁磁場を印加し、ランジュバンの常磁性原理により異なる励磁磁場および磁化率に対応する方程式群を構築し、方程式群の解を求めることにより温度および試料濃度情報を得る。
【0011】
本発明は、さらに精密で、さらに迅速な物体温度感知を可能にし、特に生物分子面の熱運動の感知に適している。MRI技術において用いられる水素分子検出素子と異なり、ナノ磁性温度測定方法は、癌標的温熱療法におけるナノ超常磁体を温度検出素子として採用し、多くの面で長所を有する。磁化率測定は、瞬時測定であり、緩和応答ではなく、優れたリアルタイム性を有する。磁性ナノ粒子および温度に関連する定数、例えば粒径、飽和磁気モーメントなどは、いずれも予め体外で精確な反復試験を行っておくことができ、磁性パラメータをいずれも予め標定しておくことができる。また、磁性ナノ粒子(四酸化三鉄)の磁気モーメントは水素分子の核磁気共鳴信号よりも3桁以上高い。このように、ナノ磁性試験システムは、高速および高SN比を実現することが期待されている。この温度測定技術は、9回繰り返した平均の誤差が0.56K未満である。1K未満の温度測定誤差は、癌の温熱療法における温度測定精度に対する要求を満たすことができる。その応用の見通しは、望むらくは生体を含む物体深部の、強磁性材料のキュリー温度以下の温度測定技術の実現にかかっている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】励磁磁場(最大値)の変化の線形予測モデルおよび多項式予測モデルに対する温度測定誤差の概略図であり、図1(a)は線形予測モデル、図1(b)は多項式予測モデルである。
【図2】飽和磁化率の変化の線形予測モデルおよび多項式予測モデルに対する影響の概略図であり、図2(a)は線形予測モデルに対する影響、図2(b)は多項式予測モデルに対する影響である。
【図3】−200dB雑音のシミュレーション磁化曲線の温度測定結果の概略図である。
【図4】一次多項式予測アルゴリズムを採用した結果の概略図である。
【図5】二次多項式予測アルゴリズムを採用した結果の概略図である。
【図6】三次多項式予測アルゴリズムを採用した結果の概略図である。
【図7】−110dB雑音のシミュレーションデータにより一次多項式予測アルゴリズムを採用した複数回の測定結果の概略図である。
【図8】異なる温度区間の実際の試験結果の説明である。図8(a)は1回の測定の設定(理論)温度値TTおよび測定温度値ETN曲線を示し、図8(b)はこの回の測定の温度誤差を示す。
【図9】試料に対して9回の反復試験を行った温度試験の結果であり、図9(a)は9回の反復測定以降の温度平均値および実際の温度曲線、図9(b)はこの平均値と理論設定値との差である。
【図10】異なる温度下の濃度パラメータNの試験および実際の結果であり、図10(a)は異なる温度下の濃度パラメータNの試験結果、図10(b)は異なる温度下の試験結果および実際の誤差量である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一.理論の基礎
【0014】
超常磁体は、ランジュバン関数
【数10】

に従い、式中、Iは磁化強度、Nは単位体積の原子数、Mは原子磁気モーメントであり、L(α)=cothα−1/αであり、ランジュバン関数という。式中、α=MH/kT、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
【0015】
磁化率xは、方程式:
【数11】

に従い、ランジュバン関数の逆数は、
【数12】

であり、c2j−1は多項式係数であり、J+1は所定の展開項数に等値である。
【0016】
二.処理方法:
【0017】
1.ランジュバンの常磁性原理の線形近似モデル:
【0018】
J=1
【数13】

について(式中xは磁化率)、α=MH/kTを代入し、
【数14】

を得て、異なる励磁磁場H(i=1,2…n)を与え、方程式を
【数15】

に変形する。
【0019】
中等強度下で磁化率逆数対温度曲線に変異が生じる。この曲線は、キュリーの法則で期待される絶対温度ゼロ点0Kを通過せず、当然、キュリー・ワイスの法則で説明される常磁性キュリー温度θを通過するものでもない。一定の温度範囲内で、磁化率逆数対温度曲線に切片シフトが存在し、かつシフト量と励磁磁場強度に相関がある。我々は、この現象を磁化率逆数対温度曲線の磁場変調特性と定義した。磁化率逆数対温度曲線の磁場変調特性は、中等強度下で磁性ナノ粒子がキュリーの常磁性原理に従わなくなることを説明している。
【0020】
【数16】

すなわち
【数17】

について
【数18】

を代入する。
【0021】
式中、Hおよびxは、いずれも計器で測定して得ることができる既知量であり、線形方程式1/x=3x+1/5Hyを用いて、シーケンス点(H,1/x)に対して曲線あてはめを行い、あてはめにより得られた直線切片3xおよび傾き:1/5yにより温度
【数19】

および濃度
【数20】

を計算する。
【0022】
2.ランジュバンの常磁性原理の多項式近似モデル:
【0023】
J≧2
【数21】

について、異なる励磁磁場H(i=1,2…n)を与え、方程式を
【数22】

に変形する。
【数23】

について、方程式を
【数24】

に変形する。
【0024】
この二元高次優決定方程式は、以下の通り書き改めることができる。
【数25】

【0025】
【数26】

とする場合、Aは行列Aの一般化逆行列であり、すなわち
【数27】

であり、さらにA,A,A,Aがそれぞれ行列Aの1行目から4行目のベクトルである場合、
【数28】

を有し、実際には、最初の2項の式のうちの1/a及びb/aを採用して結合し、a及びbを求めることができ、すなわち
【数29】

である。
【0026】
我々は、(1)(2)を結合して一次多項式近似モデルをなし、(1)(3)を結合して二次多項式近似モデルをなし、(1)(4)を結合して三次多項式近似モデルをなし、最後に組み合わせで得られた一次または二次または三次多項式近似モデルを利用して解aおよびbを求め、
【数30】

を利用して計算し、温度および濃度(単位体積粒子の個数N)を得た。
【0027】
上述した方法で選定したものは、行列Aの1行目から4行目のベクトル関与構築近似モデルであり、一例でしかなく、本発明は最初の4行のベクトルのみを選択できると理解すべきではない。以下に近似モデルの共通構築方式を示す。
【数31】

【0028】
上述した多項式モデルの展開項には限定がなく、本発明は、三項、四項、五項、六項、十項で計算を行ったことがあり、計算の結果、いずれも本発明の目的を実現できることが示されている。しかしながら、項数が多くなるほど、方程式に悪条件特性が現れやすくなるため、三から六項の多項式を使用することを推奨する。
【0029】
三.シミュレーションの実例
【0030】
1.シミュレーションモデルと試験の説明:
【0031】
温度試験方法の有効性および最適化設計を研究するため、我々は雑音を含むシミュレーションデータを採用してアルゴリズムに対して実験テストを行った。試験プロセスのデフォルトの試料(別途説明がある場合を除く)は、EMG1400(FerroTec,USA)であり、その粒子の磁気モーメントは2.49x10−17に設定した。雑音モデルは、MATLAB中のawgn関数を採用して、SN比を予め設定した雑音を磁化プロセスの磁気モーメントに直接加えた。磁化曲線に含まれるSN比は、試験目的の違いにより100dBから200dBに設定した。磁化曲線は、0から最大値まで200点に均等に分割した。さらに多項展開を考慮し、二元優決定方程式中の行列Aの条件数を増大させ、これによって解を求める悪条件特性をもたらした。これによって方程式の解法は、雑音に対して非常に感受性が高くなった。そのため、ランジュバン方程式の多項式展開において、我々は最初の六項の展開式を採用した。
【0032】
図1から図9までは、線形近似モデルおよび多項式近似モデルに対して研究および解析を行い、1回の多項式モデル方法に対してさらなる解析を行った。図1から図2までは、線形モデルおよび多項式モデルの比較および解析を示す。図1は、SN比130dBの状況下の励磁磁場の変化の線形モデルおよび多項式モデル法に対する比較の結果を示し、温度は230K〜350Kであり、15kごとに1点とした。TTは、理想的な状況下での理論値である。図1(a)は、励磁磁場(最大値)の変化の線形予測モデルの温度測定誤差に対する影響であり、うちETL1、ETL2、ETL3の最大励磁磁場は、それぞれ1000Gs、600Gs、200Gsであった。図1(b)は、励磁磁場(最大値)の変化の多項式予測モデルの温度測定誤差に対する影響であり、うちETN1、ETN2、ETN3の最大励磁磁場は、それぞれ1000Gs、600Gs、200Gsであった。図2は、シミュレーションデータのSN比90dBの状況下の飽和磁化率の変化の線形予測モデルおよび多項式予測モデルに対する影響である。TTは、理想的な状況下での理論値である。図2(a)は、飽和磁化率の変化の線形予測モデルに対する影響である。ETL1、ETL2、ETL3、ETL3、ETL4の飽和磁気モーメントは、等比が2である1つの数列に従い、初期値ETL1の飽和磁気モーメントは2.49×10−17であった。図2(b)は、飽和磁化率の変化の多項式予測モデルに対する影響であり、ETN1、ETN2、ETN3、ETN4の飽和磁気モーメントは、それぞれETL1、ETL2、ETL3、ETL4の飽和磁気モーメントと同一であった。
【0033】
図3から図7は、多項式モデルにおいて異なる次数のテーラー展開式を採用した比較結果を示す。そのうち、図4は、200dBのSN比条件下で一次、二次および三次テーラー展開式を採用した結果の比較を示す。そのうち、ET3、ET2、ET1およびTTは、それぞれ三次、二次、一次多項式の予測結果および理論値である。図4から図6は、それぞれ異なるSN比条件下の一次、二次および三次テーラー展開式の結果を示す。図4において、ET1、ET2、ET3、ET4およびTTは、それぞれ−130dB、−120dB、−110dB、−100dBの雑音の予測結果および理論値である。図5において、ET1、ET2、ET3、ET4およびTTは、それぞれ-180dB、-170dB、-160dB、-150dBの雑音の予測結果および理論値である。図6において、ET1、ET2、ET3、ET4およびTTは、それぞれ-230dB、-220dB、-210dB、-200dBの雑音の予測結果および理論値である。図7は、110dBのSN比条件下で一次テーラー展開式を採用した多次測定のデータを示す。
【0034】
2.シミュレーション試験の結果と考察:
【0035】
シミュレーションデータは、SN比が十分小さい状況下で、上述した温度予測モデルがいずれも任意の精度に達することができることを説明している。例えば、図1において、比較的小さい磁場励磁および高SN比条件下での温度予測の誤差は、0.01K未満とすることができた。図3において、200dBのSN比条件下で温度測定を行い、一次多項式モデルET1および二次多項式モデルET2モデルの試験データおよび理論データTTの整合はよく、データは、ET1の誤差が0.001Kにまで達することが可能であることを示し、ET2も0.1Kに達した。さらに高いSN比の下で三次多項式モデルET3も任意に設定した精度を達成可能であることが期待できる。このことは、磁性ナノ粒子の超常磁性に基づく温度測定方法が、理論的に実現可能であることを説明している。
【0036】
多項式近似モデルは、線形近似モデル基礎の上に磁化プロセスに対して非線形的に修正を行うため、システム誤差が比較的小さい。磁気試験システムは、比較的小さい磁場励磁の下で、熱雑音または外部の外乱に直面し、低磁場試験の精度の保証が難しい。試験プロセスにおいて、励磁磁場を高めることによって、雑音の外乱を有効に下げることができることが往々にして期待されている。図1に示すように、比較的大きい励磁磁場の下では、線形モデルを採用するだけで、著しいシステム誤差が現れる。図2に示すように、もちろん、飽和磁気モーメントの増加によっても、システム誤差が現れる。線形モデルにおいて、飽和磁気モーメント(または励磁磁場)の非線形によって、著しいゼロバイアスおよび傾きの変化がもたらされ、これがシステム誤差であることが分っている。システム誤差の補正方法は、多項式近似を採用する。それに対して、多項式モデルは、磁化プロセスの非線形を比較的良好に処理し、比較的大きい磁場励磁(または飽和磁気モーメント)の下で、著しいシステム誤差がない。多項式の方法を採用した場合、既知の温度条件下で複数回測定することによって、飽和磁気モーメントM値を得ることができる。実際の試験によって、複数回の測定で得られた飽和磁気モーメントの数値が比較的安定していることが説明されている。
【0037】
雑音を軽視できない状況下で、多項式近似モデルにおいて異なる次数を採用することは、雑音の抑制能力に直接影響を及ぼす。我々の試験において、多項式モデルの次数は、一から三次であった。図4から図6の一次、二次および三次モデルの予測アルゴリズムから見て、精度を同一に保持した状況下で、アルゴリズムが一次増加するごとに、温度予測結果のSN比がそれに応じて約40dBから50dB下がった。このことは、一次アルゴリズムの雑音抑制能力が最も強いことを説明している。すなわち、アルゴリズムの次数の増加に伴い、モデルの雑音に対する抑制能力は徐々に弱くなる。そのため、三次以上のアルゴリズムの雑音抑制能力の効果はすでに悪くなっており、温度予測においては、基本的に採用しないことができる。本文の研究においては、一次のアルゴリズムしか考慮しておらず、雑音を含む一次多項式近似アルゴリズムの再現性試験は、図7に示すとおりである。また、測定プロセスの不規則な外乱に対しては、複数回の反復測定によってさらに高い精度に達することができる。
【0038】
3.実際の試験および解析:
【0039】
上述したモデルの実際の精密測定における適用性を検証するため、我々は磁性ナノ固体粒子EMG1400(FerroTec,USA)試料を採用して検証を行い、試験装置はSQUID VSM(Quantum Design,USA)磁力計であった。複数回の試験解析の基礎の上でシステムパラメータを最適な状態まで調整し、最終的な実験方法を確定した。実験テストの励磁磁場は−200Gs〜+200Gsに設定し、5Gsごとに1点とした。図8の温度範囲は、260K〜340Kであり、15Kごとに1つの温度点とした。MPMS設備の低温部分における温度安定性の問題を考慮し、我々は図9において室温以上の実験データを示した。図9の温度範囲は、310K〜350Kであり、10Kごとに1つの温度点とした。
【0040】
実際のデータの問題は、方程式
【数32】

において飽和磁気モーメントMに不確定要素が存在し、予め知ることができないことにある。二量体、三量体または重合体などの、同一の試料の異なる環境下の異なる凝集状態で、いずれも飽和磁気モーメントに影響を及ぼす。そのため、飽和磁気モーメントをオフラインで測定した場合、失効する可能性があり、すなわち実際の温度を正確に得ることができない。1つの工程化された処理方法は、1セットの既知の温度の磁化率データによって平均のMを推算した後、Mを既知量として方程式
【数33】

に代入するものである。このようにして、実際の応用において、比較的良好に操作することができる。
【0041】
上述した試験方法を採用した実際の試験データは、1回の温度測定の誤差が比較的大きくても、複数回測定した温度によって、誤差が1K未満に達することができることが示されている。図8(a)は1回の測定の設定(理論)温度値TTおよび測定温度値ETNを示し、図8(b)はこの回の測定の温度誤差を示す。図9(a)は9回の反復測定以降の温度平均値を示し、図9(b)はこの平均値と理論設定値との差を示す。実験データによって、9回の反復平均以降の最大誤差は0.56Kであることが示されている。1回の測定温度の分散は1.66〜1.03の間であり、9回の反復測定の温度平均値の平方根は、図9(b)の基礎の上で3で除したものとすべきである(√9=3)。そのため、上述した方法を採用して実現した温度測定は、9回の測定の二乗平均平方根は0.34K〜0.55Kであった。また、一次多項式近似モデルは、さらに遠隔の濃度測定にも用いることができる。図10に示すように、異なる温度下の濃度試験の誤差の結果は3%未満であった。一次多項式近似モデル法の長所は、小磁場励磁を採用することにより、超伝導磁場測定の使用を回避し、粒子濃度の測定を実現することができることである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)磁性ナノ試料を測定対象部に置き、
(2)前記磁性ナノ試料の所在領域に、n回の異なる励磁磁場を印加し、
(3)異なる励磁磁場における前記磁性ナノ試料の磁化強度を採取し、磁化強度により異なる励磁磁場における磁化率を計算し、
(4)磁性ナノ試料の磁化率xおよび励磁磁場Hの方程式群
【数34】

を構築し(式中、ランジュバン関数L(MH/kT)の逆数は
【数35】

であり、α=MH/kT,c2j−1は多項式係数、J+1は所定の多項式展開項数、Nは試料濃度、Mは試料原子磁気モーメント、kはボルツマン定数、Tは測定対象の温度)、
(5)前記方程式群の解を求めて温度Tを得る、
常磁性に基づく磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。
【請求項2】
J=1であることを特徴とする、請求項1に記載の磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。
【請求項3】
前記ステップ(5)が、線形方程式1/x=3x+1/5Hyを用いて、シーケンス点(H,1/x)に対して曲線あてはめを行い、あてはめにより得られた直線切片3xおよび傾き1/5yにより温度
【数36】

を計算することを特徴とする、請求項2に記載の磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。
【請求項4】
前記ステップ(5)が、試料濃度
【数37】

を計算するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載の磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。
【請求項5】
J≧2であることを特徴とする、請求項1に記載の磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。
【請求項6】
2≦J≦5であることを特徴とする、請求項5に記載の磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。
【請求項7】
前記ステップ(5)が、
(51)前記磁化率xおよび励磁磁場Hの方程式群を行列方程式
【数38】

に変換し(式中
【数39】

であり、Aは係数行列)、
(52)方程式群
【数40】

の解を求めてa及びbを得(式中、Aは係数行列Aの一般化逆Aのq行目)、
(53)測定対象の温度
【数41】

を計算することを特徴とする、請求項5又は6に記載の磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。
【請求項8】
前記ステップ(5)が、試料濃度
【数42】

を計算するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の磁性ナノ粒子遠隔温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−517515(P2013−517515A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−502991(P2013−502991)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【国際出願番号】PCT/CN2011/072207
【国際公開番号】WO2012/119329
【国際公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【出願人】(512007144)華中科技大学 (1)