説明

平版印刷版の取引方法

【課題】全体販売品とレンタル品との2つの販売形態が市場に混在しても、平版印刷版の回収において過払いを防止すると共に偽造レンタル品の発生を防止して、2つの販売形態を正しく機能させることができる。
【解決手段】平版印刷版16の販売前に、平版印刷版16に前記2つの販売形態を識別可能で且つ偽造不能な識別情報を付与すると共に、全体販売品16Aの単位回収量当たりの回収代金を識別情報に関連づけてコンピュータ10Aに記録する販売準備工程と、販売して使用された使用済みの平版印刷版16の回収時に、識別情報を読み取って全体販売品16Aとレンタル品16Bとを識別し、全体販売品16Aとレンタル品16Bとのそれぞれの回収量をコンピュータに記録する識別工程と、それぞれの回収量と回収代金とに基づいて回収先に支払う支払い料金を算出する支払い料金算出工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版の取引方法に係り、特にアルミニウム支持体と画像形成層とが一体物として構成された同一品種の平版印刷版を、前記一体物で販売する全体販売品と、前記画像形成層のみを販売して前記アルミニウム支持体はレンタルとして回収するレンタル品との両方を市場において取引する平版印刷版の取引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は、粗面化処理されたアルミニウム支持体に製版層(例えば感光層)用の塗布液を塗布形成することにより製造され、新聞社をはじめ各種の印刷会社で使用されている。
【0003】
また、印刷会社で使用済みの平版印刷版は、回収してアルミニウムの再生地金を製造し、平版印刷版のアルミニウム支持体に再生することが行われており、回収された平版印刷版には回収支払い料金が支払われる。例えば、特許文献1では、平版印刷版にICタグを付けて回収時に再利用の可否を判断して回収支払い料金を決めている。また、特許文献2では、低純度アルミニウムからなる平版印刷版でリサイクルを行う際に平版印刷版の片面に純度を示す表示を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−96163号公報
【特許文献2】特開2002−331767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の平版印刷版の取引形態は、アルミニウム支持体と製版層との両方を含めた全体販売品としての販売価格で販売しており、使用済みの平版印刷版を回収する場合には、回収時にアルミニウム支持体の回収代金を支払っている。
【0006】
このように、アルミニウム支持体はリサイクル可能なので、平版印刷版で実質的に取引されるのは製版層であるが、アルミニウム支持体が平版印刷版の販売価格において大きな割合を占めていた。
【0007】
したがって、製版層のみを販売してアルミニウム支持体はレンタルとして回収するレンタル品としての取引形態を採用することにより、販売価格を従来の全体販売品よりも低額にすることができる。これにより、平版印刷版の顧客である印刷会社にとって大きなメリットになるだけでなく、平版印刷版の製造・販売会社としても平版印刷版の拡販を図ることができる。
【0008】
しかしながら、従来の全体販売品の取引形態の市場にレンタル品としての取引形態を導入すると、回収する平版印刷版に全体販売品とレンタル品とが混在することになるが、同一品種の平版印刷版の製版層は同じであり、全体販売品とレンタル品との区別がつかない。
【0009】
これにより、本来全体販売品に支払うべき回収代金を間違ってレンタル品に支払ってしまい過払いが生じる虞がある。更には、レンタル品を全体販売品と偽って回収業者に持ち込み、回収代金を不当に得る虞がある。この結果、レンタル品の取引形態が正しく機能しなくなる。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム支持体と製版層とが一体物として構成された平版印刷版を、一体物で販売する全体販売品と、製版層のみを販売してアルミニウム支持体はレンタルとして回収するレンタル品との2つの販売形態が市場に混在しても、平版印刷版の回収において過払いを防止すると共に偽造レンタル品の発生を防止して、2つの販売形態を正しく機能させることができる平版印刷版の取引方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、アルミニウム支持体と製版層とが一体物として構成された同一品種の平版印刷版を、前記一体物として販売する全体販売品と、前記製版層のみを販売して前記アルミニウム支持体はレンタルとして回収するレンタル品との2つの販売形態で取引する平版印刷版の取引方法であって、前記平版印刷版の販売前に、前記平版印刷版に前記2つの販売形態を識別可能で且つ偽造不能な識別情報を付与すると共に、前記全体販売品の単位回収量当たりの回収代金を前記識別情報に関連づけてコンピュータに記録する販売準備工程と、前記販売して使用された使用済みの平版印刷版の回収時に、前記識別情報を読み取って前記全体販売品と前記レンタル品とを識別し、前記全体販売品とレンタル品とのそれぞれの回収量をコンピュータに記録する識別工程と、前記コンピュータに記録された前記それぞれの回収量と前記記録された回収代金とに基づいて回収先に支払う支払い料金を算出する支払い料金算出工程と、を備えたことを特徴とする平版印刷版の取引方法を提供する。
【0012】
請求項1の本発明によれば、従来の販売形態である全体販売品の市場に、大きなメリットが見込めるレンタル品の販売形態を導入することができ、しかも2つの販売形態が市場に混在しても、販売準備工程から支払い料金算出工程を設けたことにより、それに見合った適切な料金を回収先である印刷会社に支払うことができる。
【0013】
したがって、本来全体販売品に支払うべき回収代金をレンタル品に支払うことによる過払いを確実に防止できる。また、全体販売品とレンタル品とを識別する識別情報が偽造不能なので、レンタル品を全体販売品と偽って回収業者に持ち込み、回収代金を不当に得る危険がない。これにより、レンタル品の流通を正しく機能させることができる。
【0014】
なお、使用済みの平版印刷版の回収は、平版印刷版の製造・販売会社が行ってもよいし、製造・販売会社が回収業者に委託して回収してもよい。
【0015】
また、本発明においては、前記レンタル品にレンタル保証料を乗せて販売し、前記販売準備工程において単位回収量当たりの払戻し代金を前記識別情報に関連づけて前記コンピュータに記録すると共に、前記支払い料金算出工程においてコンピュータは前記識別工程で識別されたレンタル品の回収量と前記記録された払戻し代金とから回収先に支払う払い戻し料金を算出することが好ましい。
【0016】
このようにレンタル品にレンタル保証料を乗せることで、印刷会社はレンタル品の回収率を100%にするように努力するので、レンタル品の回収率が向上する。レンタル保証料は、顧客との契約により設定されることが好ましいが、保証料が高価過ぎるとレンタル品の販売形態を導入する意味がなくなり、保証量が安価過ぎるとレンタル品の回収率が低下してしまう。したがって、例えば平版印刷版に使用する高純度のアルミニウム支持体よりも低価格な低品位のアルミニウム合金用途の引き取り価格をレンタル保証量とすることができる。
【0017】
また、本発明においては、前記レンタル品のアルミニウム支持体の厚みを前記全体販売品よりも薄くする識別情報により前記2つの販売形態を識別することが好ましい。
【0018】
平版印刷版を削って薄くする偽造は可能であるが、厚くすることは通常不可能であり、偽造しても採算がとれないので、偽造されることはまずない。また、厚みを薄くするには、板厚のわずかに異なるアルミニウム支持体を使用することで、印刷版製造工程に新たなプロセスを追加する必要がないため、少ない投資で実施できる。なお、支持体の厚みを薄くすることとは別に、支持体に含有される不純物に特長を持たせることはよりいっそう偽造をしにくくできるので、好都合である。回収時に発光分析器などで容易に支持体を識別できる。但し、表面処理の形状に影響を与えない組成を工夫したり表面処理工程の条件を新たに最適化する必要がある。しかし、アルミの厚みと支持体の不純物の特長に関しては、両方を併用すれば、レンタル品を通常販売品とする偽造は不可能となるメリットがある。
【0019】
また、本発明においては、前記レンタル品のアルミニウム支持体に切欠きを形成する識別情報により前記2つの販売形態を識別することが好ましい。
【0020】
平版印刷版に切欠きを形成する偽造は可能であるが、切欠きを完全に分からないように無くすことは通常不可能である。また、版中心部への印刷品質での影響が少ないことがメリットである。
【0021】
また、本発明においては、前記全体販売品と前記レンタル品とのアルミニウム支持体の表面に異なる凹凸形状を形成する識別情報により前記2つの販売形態を識別することが好ましい。レンタル品に形成した凹凸形状を無くして全体販売品の凹凸形状を新たに形成することは通常不可能であり、偽造しても採算がとれないので、偽造されることはまずない。
【0022】
また、凹凸は人が手触りでその有無を確認できるようにすることもできるので好都合である。凹凸の形成には、従来品種で利用されてきたマットの工程技術を利用し、現像処理後でも凹凸部が残存するように形成することで実現できる。マットは全面であっても良い。マット技術以外にも、端部の表面処理やエッジ焼けを制御して、識別可能とすることもできる。いずれの場合も、偽造には大掛かりな設備が必要となり、偽造がされにくい。また、凹凸形状に替えて、少なくとも表面の一部に、異なる反射スペクトルを有する、表面領域を設けても良い。例えば、感光層が片面の商品では、バック面にコーティングが施されるが、全体販売品とレンタル品とで、異なる反射スペクトルの塗布膜をコーティングすれば良い。コーティングはエッジ部分だけに付加しても良い。塗布膜はシートに裁断される前に付加される為、シートに裁断された後に付加された塗布膜とは異なり、偽造と判定できるように付加することが可能である。コーティング膜は現像処理後でも残存するようにし、画像部、非画像部に影響が無いように形成すれば良い。塗布膜の表面の組成及び反射スペクトルが同一となる膜を偽造することは難しく、偽造防止に有効である。
【0023】
また、本発明においては、前記全体販売品又はレンタル品のアルミニウム支持体の表面に不可視インクによりマーキングを施す識別情報により前記2つの販売形態を識別することが好ましい。
【0024】
不可視インクによりマーキングを行えば、外観からは全体販売品とレンタル品とが同じに見え、識別できることに気づかないので、偽造されにくいメリットがある。また、不可視インクによるマーキングは比較的簡単な設備で付加することができ、専用のビューワを用いれば人が視認可能とすることも容易である。この場合、使用済みの版の場合には、ビューワを用いても感光材料への影響を気にすることなく視認が可能である。
【0025】
また、本発明においては、前記全体販売品及びレンタル品にRFIDタグを付着し、前記RFIDタグに前記識別情報を暗号により記録することが好ましい。
【0026】
これにより、平版印刷版の回収時にRFIDタグを読み取って全体販売品とレンタル品とを確実に識別できると共に、記録された識別情報が暗号なので偽造されることがない。また、請求項3〜5の外観からの識別情報とRFIDタグとの両方を併用し、外観からの識別情報とRFIDタグからの識別情報が一致することを条件とすれば一層偽造しにくくなる。また、RFIDタグによれば、自動読み取りや非接触読み取りが可能で、取引情報や販売時の保証金額等の情報も直接記録できる。
【0027】
また、本発明においては、RFIDタグに替えて、全体販売品又はレンタル品のアルミニウム支持体の表面にインクによりバーコードを印刷し、製品番号(製品ロット)単位で回収時に識別を行うことが好ましい。バーコードに製品番号もしくは全体販売品又はレンタル品が識別できるコードを組み込んで、バーコードリーダに製品番号もしくは識別コードから全体販売品とレンタル品を識別するプログラムを組み込むことで、回収時にはバーコードのスキャンのみで全体販売品とレンタル品の区別を端末に表示させることができる。また、コード化のルールを適宜変更管理すれば、偽造がされにくくすることもできる。
【0028】
また、本発明においては、前記回収工程で回収した平版印刷版を前記アルミニウム支持体として再生することにより、クローズド・ループ・リサイクルの流れを形成することが好ましい。
【0029】
レンタル品の販売形態を普及することにより、平版印刷版に関連する産業分野で発生するアルミスクラップを再利用するための完全なクローズド・ループ・リサイクルの流れを構築できるので、地球温暖化の原因となるCO2の発生を大幅に削減できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の平版印刷版の取引方法によれば、アルミニウム支持体と製版層とが一体物として構成された平版印刷版を、一体物で販売する全体販売品と、製版層のみを販売してアルミニウム支持体はレンタルとして回収するレンタル品との2つの販売形態が市場に混在しても、平版印刷版の回収において過払いを防止できると共に偽造レンタル品の発生を防止して、2つの販売形態を正しく機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の平版印刷版の取引方法を組み込んだ使用済み平版印刷版のクローズド・ループ・リサイクルの流れを説明する説明図
【図2】平版印刷版の一般的な製造ラインを説明する説明図
【図3】識別情報の一形態として全体販売品とレンタル品とのアルミニウム板の厚みを変えた態様図
【図4】識別情報の一形態としてレンタル品に切欠きを形成した態様図
【図5】識別情報の一形態として全体販売品とレンタル品とに凹凸形状を形成した態様図
【図6】識別情報の一形態として全体販売品又はレンタル品に不可視インクによりマーキングを施した態様図
【図7】識別情報の一形態として全体販売品及びレンタル品にRFIDタグを付着させた態様図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の平版印刷版の取引方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明の平版印刷版の取引方法を組み込んだ使用済み平版印刷版のクローズド・ループ・リサイクルの流れを示したものである。なお、使用済み平版印刷版の回収は平版印刷版の製造・販売会社が回収業者に委託して行わせる場合で説明する。
【0034】
図1に示すように、平版印刷版の製造・販売会社10は、アルミニウム支持体12(図3〜図7参照)と製版層14(図3〜図7参照)とが一体物として構成された同一品種の平版印刷版16を、一体物として販売する全体販売品16Aと、製版層14のみを販売してアルミニウム支持体12はレンタルとして回収するレンタル品16Bとの2つの販売形態で印刷会社18に販売する。図1では、全体販売品16Aで取引する印刷会社18Aとレンタル品16Bで取引する印刷会社18Bの2社の場合で示したが、実際には多数の印刷会社18と取引することになる。また、図1では、1つの印刷会社18は全体販売品16Aとレンタル品16Bの何れか一方を取引する図で示したが、1つの印刷会社18が全体販売品16Aとレンタル品16Bとの両方を取引する場合もありえる。
【0035】
かかる2つの販売形態の平版印刷版16の販売前に、平版印刷版の製造・販売会社10は、平版印刷版16に2つの販売形態を識別可能で且つ偽造不能な識別情報を付与する。この場合、平版印刷版16の帯状原反を製造する製造ライン上で識別情報を付与することが好ましい。
【0036】
図2は、平版印刷版の一般的な製造ラインの工程に、識別情報を付与する機器を組み込んだ図である。図2に示すように、先ず、粗面化処理工程20において、アルミニウム支持体12に粗面化処理を施してアルミニウム支持体12に砂目立てする。この場合、粗面化処理工程20の後に陽極酸化処理工程22を行ってアルミニウム支持体12の表面に陽極酸化被膜を形成することが一層好ましい。次に、製版層形成工程24において、アルミニウム支持体12の粗面化処理された面に、製版層(例えば感光層)用塗布液が塗布され、乾燥工程26において製版層14が乾燥される。これにより、平版印刷版16の帯状原反17が形成され、図示しない加工工程で所定サイズの矩形シートに裁断されて平版印刷版16が製造される。
【0037】
かかる製造ラインにおいて、図3〜図6に示す識別情報をレンタル品16B又はレンタル品16Bと全体販売品16Aの両方に付与する。識別情報に付与する偽造不能な要件としては、レンタル品16Bを全体販売品16Aに偽造することを防止できることが必要である。
【0038】
図3は、レンタル品16Bのアルミニウム支持体12の厚みを全体販売品16Aよりも薄くする識別情報により2つの販売形態を識別する方法である。この場合、製版層14の厚みXは全体販売品16Aもレンタル品16Bも同じであり、レンタル品16Bのアルミニウム支持体12の厚みYが全体販売品16Aのアルミニウム支持体12の厚みZよりも薄くなるようにする。アルミニウム支持体12の厚みはアルミ圧延工場(図1参照)で調整され、製造・販売会社10において全体販売品16Aとレンタル品16Bとの製造ロットに応じて使い分ける。したがって、図3の場合には、図2の製造ラインにおいて識別情報を付与する機器は必要ない。
【0039】
このように、レンタル品16Bのアルミニウム支持体12の厚みを全体販売品16Aよりも薄くすることにより、使用済みの平版印刷版16A,16Bの回収時に平版印刷版16A,16Bの厚みを厚み測定器(例えばレーザ変位計を利用した非接触型の厚み測定計)で測定することで全体販売品16Aとレンタル品16Bとを識別することができる。また、厚みの厚い全体販売品16Aを削ってレンタル品16Bにすることは可能ではあるが、厚みの薄いレンタル品16Bを厚くして全体販売品16Aにすることは通常不可能である。これにより、レンタル品16Bから全体販売品16Aへの偽造はできない。したがって、回収した使用済み平版印刷版に全体販売品16Aとレンタル品16Bとが混在していても確実に識別することができる。
【0040】
図4は、レンタル品16Bに切欠き32を形成することにより2つの販売形態を識別する方法である。この場合は、図2の乾燥工程26の後に切欠き機27を設けて、製版層14がない部分又は印刷に利用されない製版層14部分に切欠き32を形成するとよい。切欠き機27としては、エッチング加工、打ち抜き加工、電極線作用、ウォータージェット処理等の機械を使用することができる。切り欠きは端部の光沢等で視認できたり、手触りで判別できたりできると回収時の判別が容易となる。一方、肉眼では視認できないが、
顕微鏡等で視認できるスクラッチ状に所定の場所に形成すると、偽造がより困難となる。
【0041】
このように、レンタル品16Bにのみ切欠き32を形成することにより、使用済みの平版印刷版16(全体販売品16A,レンタル品16B)の回収時に切欠き32の有無を目視あるいはCCDカメラを利用した撮像手段と撮像された画像を解説する解析装置等により検査することで、全体販売品16Aとレンタル品16Bとを識別することができる。また、切欠き32の無い全体販売品16Aに切欠き32を形成してレンタル品16Bにすることは可能であるが、切欠き32の有るレンタル品16Bの切欠き32を無くして全体販売品16Aにすることは、印刷版のサイズ寸法と裁断時のアルミ端部のエッジ形状が厳密に管理されていることから偽造が判別できるため通常不可能である。これにより、レンタル品16Bから全体販売品16Aへの偽造はできない。したがって、回収した平版印刷版16に全体販売品16Aとレンタル品16Bとが混在していても確実に識別することができる。
【0042】
図5は、全体販売品16Aとレンタル品16Bとのそれぞれのアルミニウム支持体12の表面に、異なる凹凸形状34A,34Bを形成することにより2つの販売形態を識別する方法である。この場合、図2の乾燥工程26の後に凹凸成形機36を設けて、全体販売品16Aを製造する場合とレンタル品16Bを製造する場合とでアルミニウム支持体12の表面に形成する凹凸形状34A,34Bを変えるとよい。凹凸成形機36としてはエンボス加工を行う機械を好適に使用することができる。
【0043】
このように、全体販売品16Aとレンタル品16Bとのそれぞれのアルミニウム支持体12の表面に、異なる凹凸形状34A,34Bを形成することにより、使用済みの平版印刷版16(全体販売品16A,レンタル品16B)の回収時に平版印刷版表面の凹凸形状を検査することで、全体販売品16Aとレンタル品16Bとを識別することができる。凹凸形状の検査手段としては、例えばCCDカメラ等の撮像手段と撮像された画像を解説する解析装置とを使用することができる。また、全体販売品16Aとレンタル品16Bとの凹凸形状34A,34Bを入れ替える偽造は通常不可能であり、できたとしても採算が合わない。したがって、回収した平版印刷版16に全体販売品16Aとレンタル品16Bとが混在していても確実に識別することができる。なお、全体販売品16Aとレンタル品16Bの一方に凹凸形状を形成する方法も考えられるが、その場合にはレンタル品16Bに形成することが好ましい。これは、凹凸形状を付けるよりも無くす方が難しく偽造しにくいからである。
【0044】
凹凸に替えて、少なくとも表面の一部に、異なる反射スペクトルを有する領域を設ける態様では、全体販売品とレンタル品とで、異なる反射スペクトルの塗布膜を表面にコーティングする。検版性を上げる為に用いられる着色成分の配合を変えて、画像部/非画像部の測定結果により判別する方法、表面処理の後処理で使用されるリン含有ポリマー分子の組成や平均重量分子量の違いなどを検出する方法などが利用できる。着色成分コーティングはエッジ部分だけに付加しても良い。塗布膜はシートに裁断される前に付加される為、コイルに連続的に塗布した後にシートに裁断すれば、シートに裁断された後に付加された塗布膜とは異なることから、偽造と判定できる。反射スペクトルは比色計等で容易に判別が可能であり、偽造品も見出しやすい。よって、確実に2つの販売形態のどちらのものであるか、偽造されたものであるかを容易に識別することができる。
【0045】
図6は、全体販売品16A又はレンタル品16Bのアルミニウム支持体12の表面に不可視インクによりマーキング38を施すことにより2つの販売形態を識別する方法である。図2の乾燥工程26の後に印字装置40(例えばインクジェット記録装置)を設けて、アルミニウム支持体の片面に不可視インクによりマーキング38を施すとよい。不可視インクとしては、例えば紫外線発光蛍光体を含有するインキを使用することができ、ブラックライトを当てることで可視化する。あるいは赤外線を吸収し可視光を放出する光ルミネセンス体を含有するインクを使用することができ、赤外・可視ルミネセンス体の赤外線を当てることで可視化することができる。このような赤外・可視ルミネセンス体の中でも、波長900〜1100nmの赤外線を吸収し可視光を放出するものが、発光強度及び輝度が特に高い。
【0046】
このように、全体販売品16A又はレンタル品16Bのアルミニウム支持体12の片面に不可視インクによりマーキング38を施すことにより、使用済みの平版印刷版16(全体販売品16A,レンタル品16B)の回収時に平版印刷版片面にブラックライトあるいは赤外線を当てることで、全体販売品16Aとレンタル品16Bとを識別することができる。また、不可視インクの使用により外観からは全体販売品16Aとレンタル品16Bとが同じに見え、識別できることに気づかないので、偽造されない。したがって、回収した平版印刷版16に全体販売品16Aとレンタル品16Bとが混在していても確実に識別することができる。
【0047】
図7は、全体販売品16A及びレンタル品16Bのアルミニウム支持体12の片面にRFID(Radio Frequency Identification)タグ42を付着し、RFIDタグ42に識別情報を暗号により記録する方法である。図2の乾燥工程26の後にRFIDタグ42の貼付け装置44(例えばラベラー)を設けて、アルミニウム支持体12の片面に接着剤等により付着するとよい。RFIDタグ42は、リーダライタ(図示せず)からの電波をアンテナで受信すると、電磁誘導による起電力により電力を発生する。この電力によってRFIDタグ42の電気回路が作動し、リーダライタとの間でデータを交信する。この交信により、リーダライタからの情報を受信して半導体メモリに記憶したり、記憶している情報をリーダライタに送信したりする。したがって、RFIDタグ42は電源が不要であるが、電磁誘導により電力を発生させるには、RFIDタグ42を絶縁体46により他の誘電体と電気的に隔離することが重要である。また、RFIDタグ42にはレンタル品16B又は全体販売品16Aを示す暗号が記録されており、暗号を記録した関係者以外には区別がつかない。また、RFIDタグ42を平版印刷版16に一度付着したら、取り外せないようにすることが好ましく、更には一度取り外したら識別情報を読み取れなくすることも好ましい。
【0048】
そして、図1において製造・販売会社10は、上記のように平版印刷版16に付与した識別情報に関連づけて全体販売品16Aの単位回収量当たりの回収代金をコンピュータ10Aに記録する。この場合、レンタル品16Bの回収率を上げる目的から、レンタル品16Bにレンタル保証料を乗せて販売することができる。この場合には、製造・販売会社10は、レンタル保証料の単位回収量当たりの払戻し代金を識別情報に関連づけてコンピュータ10Aに記録しておく。単位回収量当たりの回収代金や払戻し代金は、平版印刷版16の面積単価又は重量単価で設定するとよい。
【0049】
次に、製造・販売会社10から印刷会社18に販売された平版印刷版16は、画像露光及び現像が施された後、印刷機に取り付けて印刷に使用される。そして、印刷会社18において使用された平版印刷版16は、使用済み平版印刷版16として回収業者48に回収される。
【0050】
回収業者48は、使用済みの平版印刷版16の回収時に、平版印刷版16に付与された上記の識別情報を読み取って全体販売品16Aとレンタル品16Bとを識別する。そして、全体販売品16Aとレンタル品16Bとのそれぞれの回収量をコンピュータ48Aに記録する。
【0051】
本実施の形態のように、製造・販売会社10が使用済み平版印刷版16の回収を回収業者48に委託する場合には、製造・販売会社10のコンピュータ10Aと回収業者48のコンピュータ48Aとをネットワークでつないで、回収業者48がコンピュータ48Aに記録した全体販売品16Aの回収量とレンタル品16Bの回収量とがリアルタイムに製造・販売会社10でも見ることができるようにすることが好ましい。製造・販売会社10と回収業者48とが同一の場合には1つのコンピュータで行うことができる。
【0052】
そして、製造・販売会社10は、全体販売品16Aとレンタル品16Bとのそれぞれの回収量と、回収代金(及び払戻し代金)とに基づいて印刷会社18A(及び18B)に支払う支払い料金(及び払戻し代金)を算出し、支払う。
【0053】
これにより、アルミニウム支持体12と製版層14とが一体物として構成された平版印刷版16を、一体物で販売する全体販売品16Aと、製版層14のみを販売してアルミニウム支持体12はレンタルとして回収するレンタル品16Bとの2つの販売形態が市場に混在しても、平版印刷版16の回収において過払いを防止すると共に偽造レンタル品の発生を防止して、2つの販売形態を正しく機能させることができる。
【0054】
なお、RFIDタグ42にかえて、アルミニウム支持体12の片面にインクによりバーコードを印刷し、製品番号(製品ロット)単位で回収時に識別を行っても良い。この場合、RFIDタグ42よりも情報量が限られたり、読み取り時にバーコードにスキャナーを対面させる必要があるなどのデメリットもあるが、全体販売品又はレンタル品が識別できるコードを組み込んでおけば、簡易な構成で識別が可能である。また、バーコードスキャナーは、回収時であればスキャン光源による印刷版感光材料への悪影響も気にする必要が無い。さらに、バーコードへのコード化のルールを時期により適宜変更管理すれば、偽造がされにくくすることができる。さらに、前記不可視インクを用いた態様と組み合わせ、不可視インクでバーコードを印刷することで、より偽造がされにくくなる。
【0055】
次に、回収業者48が回収した使用済み平版印刷版16のリサイクルの流れを説明する。
【0056】
図1に示すように、回収された使用済み平版印刷版16は、回収業者48から再生工場50に送られ、溶解炉52において680〜900℃の範囲で溶解されて再生溶湯となる。溶解炉52で溶解された再生溶湯は台形形状をした水冷却又は空気冷却の鋳型に注ぎ込まれ、1個当たり10〜1200Kgの台形状の再生地金53(インゴット)に成形される。 なお、溶解炉52で溶解された再生溶湯を再生地金に成形することなく、再生溶湯を耐熱性の密閉保温容器に充填して、溶湯のままで次のアルミ圧延工場54に移送することも可能である。
【0057】
使用済み平版印刷版を溶解する溶解炉52としては、専用溶解炉であることが好ましい。専用溶解炉で溶解することにより、溶解炉52の炉壁に付着したコンタミネーション物質は使用済み平版印刷版と同じ成分であり、得られる再生地金53の成分純度(アルミニウム純度や、微量金属含有量)の変動を極力抑えることができる。
【0058】
溶解炉52での溶解において、使用済み平版印刷版16からは製版層14やインク等の付着物質を溶解前に予め除去しておくことが望ましい。製版層14やインク等の付着物質は、除去前の付着物質の質量を100質量%としたときに、1質量%以下になるように除去することが好ましい。また、使用済み平版印刷版16に保護紙や包装紙が付着している場合には、これら保護紙や包装紙も除いておくことがより望ましい。
【0059】
次に、再生工場50で製造された再生地金53は、トラック等の運送手段に積まれてアルミ圧延工場54に送られる。アルミ圧延工場54では、再生工場50で製造された再生地金53のアルミニウム純度及び微量金属(例えば、Si,Fe,Cu,Mn)の含有率を分析する。再生地金53の分析は、再生工場50で行って、その再生地金53をアルミ圧延工場54に納品するときに分析データを添付してもよい。また、分析する微量金属は、Si,Fe,Cu,Mnに加えてMg,Zn,Ti,Crについても分析することが一層好ましい。
【0060】
次に、分析された再生地金53の分析値と、予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比してその差を求め、求められた差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金の再生地金53に対する配合割合を決定する。そして、決定された配合割合に応じて再生地金53を圧延前溶解炉(図示せず)に投入すると共に、圧延前溶解炉に別途投入した新地金及び微量金属母合金と混合されるように加熱溶解してアルミニウム溶湯を得る。得られたアルミニウム溶湯は、熱間圧延、冷間圧延によって使用済み平版印刷版を含むアルミニウム板がコイル状に巻回されたロール体56として製造される。製造されたアルミニウム板のロール体56は最初に説明した製造・販売会社10に送られる。これにより、使用済み平版印刷版を再利用するクローズド・ループ・リサイクルの流れが完成する。
【0061】
なお、本実施の形態では、図3〜図7に各種の識別情報の付与の仕方を説明したが、これらを2つ以上組み合わせることもできる。
【0062】
このように、従来の製品では不可能であった、全体販売品16Aとレンタル品16Bとのアルミニウム支持体の回収時識別と判定が、全体販売品16Aとレンタル品16Bのそれぞれのアルミニウム支持体に、偽造されにくい識別情報を付加することで可能となる。安価かつアルミニウムの市況価格の変動に影響されにくい支持体レンタル品のユーザーへの供給と、全体販売品のユーザーへの供給が並存しても、使用済み平版印刷版の回収時に適正な払い戻し価格を支払うことができ、使用済み平版印刷版を再利用するクローズド・ループ・リサイクルが破綻することを防止できる。
【符号の説明】
【0063】
10…平版印刷版の製造・販売会社、12…アルミニウム支持体、14…製版層、16…平版印刷版、16A…全体販売品、16B…レンタル品、17…平版印刷版の帯状原反、18…印刷会社、20…粗面化処理工程、22…陽極酸化処理工程、24…製版層形成工程、26…乾燥工程、32…切欠き、34…凹凸形状、36…凹凸成形機、38…不可視インクのマーキング、40…印字装置、42…RFIDタグ、44…貼付け装置、48…回収業者、50…再生工場、52…溶解炉、54…アルミ圧延工場、56…アルミニウム板のコイル体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム支持体と製版層とが一体物として構成された同一品種の平版印刷版を、前記一体物として販売する全体販売品と、前記製版層のみを販売して前記アルミニウム支持体はレンタルとして回収するレンタル品との2つの販売形態で取引する平版印刷版の取引方法であって、
前記平版印刷版の販売前に、前記平版印刷版に前記2つの販売形態を識別可能で且つ偽造不能な識別情報を付与すると共に、前記全体販売品の単位回収量当たりの回収代金を前記識別情報に関連づけてコンピュータに記録する販売準備工程と、
前記販売して使用された使用済みの平版印刷版の回収時に、前記識別情報を読み取って前記全体販売品と前記レンタル品とを識別し、前記全体販売品とレンタル品とのそれぞれの回収量をコンピュータに記録する識別工程と、
前記コンピュータに記録された前記それぞれの回収量と前記記録された回収代金とに基づいて回収先に支払う支払い料金を算出する支払い料金算出工程と、を備えたことを特徴とする平版印刷版の取引方法。
【請求項2】
前記レンタル品にレンタル保証料を乗せて販売し、前記販売準備工程において単位回収量当たりの払戻し代金を前記識別情報に関連づけて前記コンピュータに記録すると共に、前記支払い料金算出工程においてコンピュータは前記識別工程で識別されたレンタル品の回収量と前記記録された払戻し代金とから回収先に支払う払い戻し料金を算出することを特徴とする請求項1の平版印刷版の取引方法。
【請求項3】
前記レンタル品のアルミニウム支持体の厚みを前記全体販売品よりも薄くする識別情報により前記2つの販売形態を識別することを特徴とする請求項1の平版印刷版の取引方法。
【請求項4】
前記レンタル品のアルミニウム支持体に切欠きを形成する識別情報により前記2つの販売形態を識別することを特徴とする請求項1の平版印刷版の取引方法。
【請求項5】
前記全体販売品と前記レンタル品とのアルミニウム支持体の表面に異なる凹凸形状を形成する識別情報により前記2つの販売形態を識別することを特徴とする請求項1の平版印刷版の取引方法。
【請求項6】
前記全体販売品と前記レンタル品とのアルミニウム支持体の表面に異なる光学反射スペクトルの表面を形成する識別情報により前記2つの販売形態を識別することを特徴とする請求項1の平版印刷版の取引方法。
【請求項7】
前記全体販売品又はレンタル品のアルミニウム支持体の表面に不可視インクによりマーキングを施す識別情報により前記2つの販売形態を識別することを特徴とする請求項1の平版印刷版の取引方法。
【請求項8】
前記不可視インクによるマーキングがバーコードシンボルであることを特徴とする請求項7の平版印刷版の取引方法。
【請求項9】
前記全体販売品及びレンタル品にRFIDタグを付着し、前記RFIDタグに前記識別情報を暗号により記録することを特徴とする請求項1の平版印刷版の取引方法。
【請求項10】
前記回収工程で回収した平版印刷版を前記アルミニウム支持体として再生することにより、クローズド・ループ・リサイクルの流れを形成することを特徴とする請求項1〜9の何れか1に記載の平版印刷版の取引方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−56853(P2011−56853A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210736(P2009−210736)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】