説明

平面スピーカ

【課題】ダンパーに懸かる荷重を軽減できるとともに、バラツキを吸収して正常動作できる設置角度にエキサイタを保持し、音響性能を重視してダンパーの仕様を設計することができる平面スピーカを提供する。
【解決手段】振動板2の裏面側に接着したエキサイタ3を懸吊部材6によって鉛直方向へ吊り上げる。懸吊部材6をエキサイタ3の上方に配設した支柱9に巻き架け、その一端をエキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上の位置(重心Nを通る鉛直線上の外周部M)に固定し、他端をエキサイタ3の質量と等しい質量の錘10に固定する。これにより、ボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を±2度以内に是正して、エキサイタ3のダンパーに懸かる曲げ応力を軽減させることができ音響性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸吊部材により懸吊されるエキサイタを複数備えた平面スピーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動板の裏面側にエキサイタを複数備え、懸吊部材によりエキサイタを懸吊する構成の平面スピーカは開発されている。例えば、下記特許文献1には、可撓性を有する振動板の裏面側に複数のアクチュエータユニットを配置し、アクチュエータユニットを構成する枠体の略中央部に、枠体から内側に延びた懸吊部材によってアクチュエータを懸吊する平面スピーカが開示されている。この構成によって特許文献1の平面スピーカではアクチュエータ間の相互干渉の発生を防止することができ、低周波数帯域での音響出力を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−164734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の平面スピーカでは、懸吊部材の一端を枠体の上側の側壁に取り付け、他端をアクチェータのヨークに取り付ける構成を採用しているため、振動板に取り付けられたアクチュエータのダンパーに負荷が懸からぬようボイスコイルの中心軸と磁気回路の中心軸とを一致させてアクチュエータを吊り上げることが困難であるという欠点があった。具体的には、アクチュエータのボイスコイルと磁気回路部の傾き角度差がアクチュエータが正常動作する±2度以内(懸吊部材の取付位置でいうと±0.2mm以内の誤差)になるように、アクチュエータの傾きを見ながら懸吊部材の一端をアクチュエータに、他端を枠体に固定する位置の調節作業はきわめて困難であり、また、その調節結果を確認することも困難であった。このため、特許文献1の平面スピーカでは、Hi−Fiスピーカとして商品化することが困難であるという欠点があった。
【0005】
そこで、本願発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、エキサイタのダンパーに懸かる荷重を軽減することができるとともに、寸法上のバラツキを吸収して、正常動作できる設置角度にエキサイタを保持することができ、音響性能を重視してダンパーの仕様を設計することができる平面スピーカの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係る平面スピーカの発明は、振動板の裏面側に固着され、懸吊部材により懸吊されているエキサイタを備える平面スピーカであって、前記懸吊部材は、その中間部が支柱に巻き架けられており、一端が前記エキサイタの重心近傍に固定され、他端がエキサイタの質量と略等しい質量の錘に固定されていることを特徴とする。
【0007】
エキサイタは、鉛直方向に配設された1枚の振動板の裏面側に配置され、該裏面に例えば接着固定される。エキサイタは入力電流が全て等しく流れるように配線接続され、その数はn個直列に接続したものをm個並列に接続したn×m個(n≧2、m≧2)のエキサイタからなる。懸吊部材の中間に支柱(支点)を介し、懸吊部材の一端に取り付け固定した錘によって他端に取り付け固定したエキサイタを懸吊し、懸吊部材によりエキサイタと錘を平衡支持する。これにより、エキサイタの自重を要因としてダンパーに懸かる荷重を軽減するとともに、ボイスコイルに対するヨークの傾きを減少させてエキサイタを正常動作可能な状態にする。
【0008】
また、請求項2に係る平面スピーカは請求項1の発明において、前記懸吊部材の一端は、前記エキサイタの重心を通る鉛直線上の位置に固定されていることを特徴とする。
エキサイタの重心を通る鉛直線上のエキサイタ外周部を懸吊部材によって鉛直方向へ懸吊することにより、エキサイタ、特に、エキサイタの質量の殆んど占める磁気回路部をその向きを変化させる(回転させる)ことなく鉛直方向へ吊り上げることができるので、エキサイタのダンパーに作用する曲げ応力を極小化することができる。懸吊部材の一端をエキサイタの重心を通る鉛直線上の位置に固定した場合には、その他端に取り付ける錘の質量はエキサイタと等しい質量によって平衡懸吊状態になる。
【0009】
また、請求項3に係る平面スピーカは請求項1または2に記載された発明において、前記懸吊部材の支柱へ巻き架けられる部分は、支柱に対して移動可能であることを特徴とする。
懸吊部材が巻き架けられた支柱は、懸吊部材の巻き架け方向に対して鉛直方向へ所定の幅を有している。懸吊部材は支柱の一定の箇所に巻き架けられるのみではなく、前記支柱の幅方向へその巻き架け位置を移動させることができる。これにより、エキサイタの前記支柱の幅方向への取り付け位置のバラツキを吸収することができるので、エキサイタを常に鉛直方向へ懸吊することができダンパーに懸かる応力を軽減させることができる。
【0010】
また、請求項4に係る平面スピーカは請求項1から3のいずれかの発明において、前記支柱は、複数であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る平面スピーカは請求項1から4のいずれかの発明において、前記懸吊部材の支柱は、該支柱に直交する支柱支持枠に形成された凹部に支持されていることを特徴とする。
【0012】
錘の懸吊による平衡(浮動)懸吊式により、平面スピーカを構成する振動板、エキサイタ、枠体の寸法上のバラツキを吸収し、エキサイタが正常動作するボイスコイルに対するヨークの傾き角度差を保持できるので、エキサイタのダンパーに懸かる曲げ応力を減少させ、ダンパーを音響性能重視で設計したエキサイタを使用することができ、エキサイタ後付タイプのスピーカであってもHiFiスピーカを実現できるようになった。また、設置作業は懸吊部材を支柱へ巻き架ける作業だけで完了するため、設置作業の容易化と設置時間の短縮化を図ることができる。また、エキサイタの重心を通る鉛直線上の位置を懸吊することによりエキサイタに生じる曲げ応力を極小化することができるので、振動板とエキサイタの接着強度を下げることができエキサイタの着脱を容易に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の平面スピーカによれば、枠体に支持した支柱に懸吊部材を巻き架け、エキサイタの質量と釣り合う錘によって懸吊する構成を採用したことにより、振動板、エキサイタ、枠対等の寸法上のバラツキを吸収し、ボイスコイルに対するヨークの傾きを減少させてダンパーに懸かる曲げ応力を減少させることができるので、音響性能を重視してダンパーの仕様を設計した平面スピーカを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る平面スピーカの一形態を示す図である。
【図2】(a)は、平面スピーカを構成するエキサイタの懸吊の一形態を示す図である。 (b)は、自重により傾きを生じたエキサイタを示す図である。
【図3】懸吊部材を巻き架ける支柱の一形態を示す図であり、(a)は平面スピーカを構成するエキサイタ、(b)は(a)を右側面から見た図である。
【図4】図3に示す支柱によって取り付けバラツキが吸収される様子を示す図であり、(a)は吸収前、(b)は吸収後の状態を示している。
【図5】(a)は平面スピーカを構成するエキサイタの懸吊の別形態を示す図であり、(b)は(a)を右側面から見た図である。
【図6】図5に示す懸吊方式において、傾斜する振動板に取り付けられたエキサイタを懸吊する形態を示す図である。
【図7】図5に示す懸吊方式において、(a)は水平に配置された振動板に取り付けられたエキサイタを懸吊する形態を示す図であり、(b)は(a)を上側から見た図である。
【図8】(a)は平面スピーカを構成するエキサイタの懸吊の別形態を示す図であり、(b)は懸吊部材の形状とそれに固定された錘を示す図であり、(c)は(a)を右側面から見た図である。
【図9】(a)は平面スピーカを構成するエキサイタの懸吊の別形態を示す図であり、(b)は懸吊部材の形状とそれに固定された錘を示す図であり、(c)は(a)を右側面から見た図である。
【図10】(a)は、平面スピーカを構成するエキサイタの懸吊の別形態を示す図である。 (b)は、(a)に示す形態によって取り付けバラツキが吸収される様子を示す図である。
【図11】(a)は、平面スピーカを構成するエキサイタの懸吊の別形態を示す図である。 (b)は、(a)の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る平面スピーカの実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示す形態の平面スピーカ1は、該平面スピーカ1を裏面側から見たときのものであり、鉛直方向へ立設される振動板2(例えば、壁スピーカ用の振動板)の裏面側に複数のエキサイタ3(この形態では4行×4列の16個)が配設されている。エキサイタ3は、振動板2の裏面に、例えば接着固定されている。また、入力電流がエキサイタに等しく流れるように全てのエキサイタが配線5で接続されている。振動板2の外周部には、枠体7が取り付けられており、この枠体7には格子状に縦支柱8と横支柱9が支持され各エキサイタは格子毎に区分されている。
各エキサイタ3は、懸吊部材6によって鉛直方向へ懸吊されている。懸吊部材6(例えば、紐、ワイヤ)はその中間部が横支柱9に巻き架けられ、その一端がエキサイタ3に固定され、他端が錘10に固定されてエキサイタ3と錘10との平衡懸吊状態になっている。
【0016】
図2(b)に示すように、エキサイタ3はサブプレートL、ボイスコイルボビンB、ボイスコイルC、ヨークY、マグネットG、ポールピースS、及びダンパーDから概略構成されている。このうちヨークY、マグネットG等からなる磁気回路部の質量の占める割合が大きく、ダンパーDを節とする曲げ応力が発生するため、図2(a)に示される形態では、振動板2に取り付けたエキサイタ3の傾きを調整するために、懸吊部材6の略真ん中の部分を横支柱9に巻き架け、懸吊部材6の一端をエキサイタ3の外周部に固定し、他端を錘10に固定した平衡懸吊式によりエキサイタ3を支持している。錘10の質量はエキサイタ3の質量と略同じ質量であり、懸吊部材6が表面を円滑に摺動可能な支点となる横支柱9を介して平衡懸吊状態になっている。
【0017】
鉛直状に設けられた振動板2に取り付けられたエキサイタ3は、その質量の多くを占める磁気回路部により図2(b)に示すように、右方向に下側へ傾く。この傾きを是正するために懸吊部材6を介して錘10によりエキサイタ3を懸吊する。エキサイタ3が正常動作するためにはボイスコイルボビンBと磁気回路部との傾き角度差が±2度以内であることが必要となる。図2(a)に示す構成によってエキサイタ3を懸吊することにより、ボイスコイルボビンBと磁気回路部との傾き角度差を±2度以内に是正することができ、エキサイタ3のダンパーに懸かる曲げ応力を減少させ、音響性能を重視して設計したダンパーDを用いたエキサイタ3を搭載することができる。したがって、従来のように強い結合が必要であった振動板2とエキサイタ3の接着を、エキサイタの位置決めとルーズコンタクトによるビリツキ防止目的だけの簡易接着(粘着タイプの接着剤だけで硬化タイプの接着剤は不要)とすることができ、接着剤硬化待ち時間の削減とエキサイタ着脱の容易化を実現することができる。また、設置調整や接着に特殊な工具や技能を必要としないため、スピーカの組立設置をスピーカ工場でなくエンドユーザサイドでも行なうことができ、保守の容易化を実現することができる。
【0018】
図3に示される形態では、図2に示された形態と同様に、懸吊部材6が横支柱9に巻き架けられ、懸吊部材6の一端がエキサイタ3の外周部に、他端が錘10に固定されている。図3の形態では錘10から横支柱9までの懸吊部材6bの長さがエキサイタ3から横支柱9までの懸吊部材6aの長さよりも短く設定されているが、懸吊部材6の質量は錘の質量に比べて無視できるほど小さいため、図2の形態と同様にエキサイタ3と略同じ質量の錘10を固定することでボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を±2度以内に是正することができる。また、図2の形態においても図3の形態においても、エキサイタ3の振動板2に対する鉛直方向の取り付け誤差と比較して懸吊部材6の長さは十分に長いため、エキサイタ3の鉛直方向の取り付け位置がばらついても錘10の位置が上下することでそのバラツキを吸収することができ、ボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を±2度以内に是正することができる。
【0019】
また、図3に示される形態では、図(b)のように横支柱9への巻き架け位置が振動板2の水平方向(図2(a)の紙面前後方向)に所定の幅β内で調整される。このためエキサイタ3の振動板2に対する水平方向の取り付け位置がばらついても、横支柱9の懸吊部材6を巻き架けることができる領域は幅β分設けられているので、懸吊部材6の巻き架け位置を水平方向に移動させることで取り付け位置のバラツキを吸収することができる。図4はそのバラツキの補正前後を表したものである。図4(a)に示されるようにエキサイタ3の取り付け位置が矢印Pで示す水平方向にhだけばらつくと、エキサイタ3から横支柱9までの懸吊部材6aはそのバラツキ分だけ傾いた状態でエキサイタ3を懸吊する。これによりエキサイタ3のダンパーに曲げ応力が懸かり音響性能が低下する。そこで図4(b)に示すように、横支柱9への懸吊部材6の巻き架け位置を矢印Qで示す水平方向(矢印Pと同じ方向)にhだけ移動させる。横支柱の幅βはバラツキhとの関係では、h≦β/2に設定されているため、懸吊部材6の巻き架け位置の移動によりエキサイタ3の水平方向のバラツキを吸収して、懸吊部材6によってエキサイタ3を鉛直方向に懸吊することができるのでダンパーに懸かる曲げ応力を減少させ音響性能を向上させることができる。
【0020】
図5に示される形態では、枠体7に設けられた緩衝座20、21に振動板2が取り付けられ、振動板2の裏面側にエキサイタ3が接着固定されている。また、懸吊部材6が巻き架けられる横支柱9は、横支柱9に直交する枠体(支柱支持枠)7に形成された凹部22、23に支持されている。横支柱9に巻き架けられた懸吊部材6の一端は、エキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上のエキサイタ(磁気回路部11)の外周部Mに固定されている。重心Nを通る鉛直線からずれた位置(磁気回路部11の外周部で重心からずれた位置)を懸吊すると、そのずれた位置に作用する懸吊力と振動板2に接着されている側のボイスコイルボビンの先端部に作用する力との2点支持となり、エキサイタ3に曲げ応力が懸かりダンパーを節としてエキサイタ3は屈曲し、この屈曲は懸吊部材6により懸吊する位置のズレが大きいほど大きく、ボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を±2度以内することが困難になる。そこで、この形態のようにエキサイタ3の重心を通る鉛直線上の位置Mを懸吊することによってボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を容易に±2度以内に是正することができるとともに、エキサイタ3のダンパーに懸かる曲げ応力を極小化することができ、音響性能をさらに向上させることができる。懸吊部材6の他端にはエキサイタ3と同じ質量の錘10を固定して平衡懸吊とする。
【0021】
図6、7に示される形態は、図5の形態と同様にエキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上の位置を懸吊部材6によって懸吊するものであるが、図5の形態が鉛直方向に設置された振動板2に取り付ける壁スピーカを懸吊するものであるのに対して、図6の形態は傾斜して設置された振動板2に取り付ける壁スピーカを懸吊するものであり、図7の形態は水平に設置された振動板2に取り付ける天井スピーカを懸吊するものである。図6は、例えば、図示は省略されているが振動板が45°傾斜して設置されており、該振動板に取り付けられたエキサイタ3を懸吊部材6によって鉛直方向へ吊り上げている。懸吊部材6は横支柱9に巻き架けられ、その一端は、エキサイタ3を振動板の傾斜角と同様に45°傾斜させたとき(ボビン作動軸と重心Nを通る鉛直線との角θが45°のとき)のエキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上のエキサイタ(磁気回路部11)の外周部M’に固定されている。このように、エキサイタ3の重心を通る鉛直線上の位置M’を懸吊することによって、傾斜する振動板に取り付けられたエキサイタ3であってもボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を±2度以内に是正することができ、エキサイタ3のダンパーに懸かる曲げ応力を極小化することができ、音響性能を向上させることができる。
【0022】
図7の形態では、振動板2が水平に設置されており、該振動板2に取り付けられたエキサイタ3を懸吊部材6によって鉛直方向へ吊り上げている(天井スピーカ型)。懸吊部材6は横支柱9’に巻き架けられ、その一端は、水平設置の振動板に接着されたエキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上のエキサイタ(磁気回路部11)の外周部M”に固定されている。横支柱9’は、エキサイタ3の上方に振動板2に平行して配設され、横支柱9’に直交する枠体7に形成された凹部22、23に支持されている。このように、エキサイタ3の重心を通る鉛直線上の位置M”を懸吊することによって、水平に設置された振動板に取り付けられるエキサイタ3であってもボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を±2度以内に是正することができ、エキサイタ3のダンパーに懸かる曲げ応力を極小化することができ、音響性能を向上させることができる。
【0023】
図5、6、7の形態から判るように、振動板2がいかなる角度に設置されたもの(鉛直設置、傾斜設置、水平設置)であろうとも、それぞれの振動板2に取り付けられたエキサイタ3のボビン作動軸に対して振動板2の設置角度と同じ角度(鉛直設置:90°、傾斜設置:傾斜角度、水平設置:0°)を有しそのエキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上のエキサイタ3の外周部の位置を鉛直方向へ吊り上げることにより、ボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を軽減することができダンパーに懸かる曲げ応力を極小化できるので、音響性能優先型のダンパーを使用して低域再生特性にも優れたスピーカを実現することができる。
【0024】
図8に示される形態では、エキサイタ3を懸吊する懸吊部材6の形状に特徴を有している。横支柱9a、9bに巻き架けられた懸吊部材6の一端がエキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上の位置に固定され、該懸吊部材6によってエキサイタ3が鉛直方向へ懸吊される点に関しては図5、6、7の形態と同様である。懸吊部材6は、図8(b)に示されるように、エキサイタ3側の端部がリング状6cに形成されている。この懸吊部材のリング状6cの直径R1は、エキサイタ3の重心Nが位置する部位(例えば、磁気回路部11)の直径R2よりも大きく形成されており、このリング状6c部分がエキサイタ3の磁気回路部11の外周に巻き架けられる。懸吊部材6のリング状6c部は、エキサイタ3の重心Nを通る位置(重心を中心とする同心円)、すなわち、図に示す振動板2から距離cだけ離れた位置に振動板2と平行するように巻き架けられる。このとき、エキサイタ3に巻き架けられたリング状6cの最上部分6dはエキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上の位置に配設され、懸吊部材6によってエキサイタ3を鉛直方向へ懸吊する。懸吊部材6の他端にはエキサイタ3と同じ質量の錘10を取り付けて平衡懸吊状態となる。
【0025】
また、図8のエキサイタ3に巻き架けられたリング状6c部は、エキサイタ3の外周を円滑に移動可能に設けられ、エキサイタ3を懸吊部材6によって常時、鉛直方向に懸吊できるように設定されている。このためリング状6c部がエキサイタ3(磁気回路部11)から外れず、常に重心を中心とした同心円外周に巻き架けられるようにするために、磁気回路部11の外周には懸吊部材ガイド12が形成されている。この懸吊部材ガイド12は、例えば、磁気回路部11の下半円の外周に沿って一条のガイド溝を構成するように形成されている。
【0026】
図9に示される形態では、懸吊部材6は、図9(b)に示されるように、エキサイタ3側に配設される端部が半円弧状6eに形成されている。弧の両端部には引っ掛け部6f、6gが設けられており、この引っ掛け部6f、6gがエキサイタ3の重心Nを中心とした同心円で磁気回路部11の外周両端部に設けられた引っ掛け孔6f’、6g’に遊嵌されている。このため、半円弧状6e部は常に重心Nを中心とした同心円上に配設され、懸吊部材6によってエキサイタ3を鉛直方向へ懸吊する。懸吊部材6の他端にはエキサイタ3と同じ質量の錘10を取り付けて平衡懸吊状態となる。図9の形態は、振動板2が鉛直方向に設置されている壁スピーカに用いられるものであるが、半円弧状6eを有する端部がエキサイタ3に遊嵌される図9(b)の懸吊部材3であれば、壁スピーカに限らず、振動板が水平に設置されている天井スピーカ、あるいは振動板が傾斜して設置されているスピーカに用いられる場合であっても、常にエキサイタ3の重心を通る鉛直線上の位置でエキサイタを鉛直方向へ懸吊することができ、ボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を軽減することができダンパーに懸かる曲げ応力を極小化できるので、音響性能優先型のダンパーを使用して低域再生特性にも優れたスピーカを実現することができる。
【0027】
図5から図9に示されるように、横支柱9又は9a、9bに巻き架けられた懸吊部材6aと6bとが接触しないよう、特に、錘10が懸吊部材6aに接触しないように両懸吊部材6aと6b間にある程度の間隔を持たせることが必要である。そこで図5から図7の形態では、円柱あるいは円筒状の横支柱9の直径R3を、固定される錘10の形状を考慮した大きさに設定して間隔を持たせている。また、図8、図9の形態では、横支柱を複数本(9aと9bの2本)設け、横支柱同士を離してそれぞれ支持し接触しない間隔を持たせている。これにより、エキサイタ3と錘10の平衡懸吊状態を常に維持することができ高い音響性能を保つことができる。
【0028】
図10に示される形態では、エキサイタ3の寸法上の厚みのバラツキを吸収するために横支柱9の支持位置を移動可能に設けている。振動板2からエキサイタ3の重心Nまでの距離をc(mm)とし、エキサイタ3の厚さのバラツキを±αとしたとき、振動板2と平行に支持される横支柱9は、振動板2からc(mm)離れた位置を中心として±α(mm)だけエキサイタ3の厚さ方向(振動板2に近づく/遠ざかる方向)に移動できるように設けられている。これにより、図10(b)に示すように、エキサイタ3の厚さが薄くばらついたとき(c−α:左図)、あるいは厚くばらついたとき(c+α:右図)であっても、それに対応して横支柱9の位置をエキサイタ3の厚さ方向へ移動させることによりエキサイタ3の厚さのバラツキを吸収することができ、懸吊部材6によってエキサイタ3の重心Nの鉛直線上の位置を常に鉛直方向へ懸吊することができるので、ボイスコイルボビンと磁気回路部との傾き角度差を容易に±2度以内に是正することができ、音響性能を向上させることができる。
【0029】
図11に示される形態の平面スピーカは、振動板2が水平方向に配設される天井スピーカである。振動板2の裏側にエキサイタ3が接着固定され、ボビンの作動軸上であって、エキサイタ3の重心Nを通る鉛直線上のエキサイタの外周部(磁気回路部11のボトム)に懸吊部材6の一端が固定されている。懸吊部材6はエキサイタ3の上方に配設されている支柱9’に巻き架けられ、その他端に錘10が固定されることによりエキサイタ3を吊り上げている。エキサイタ3の両側には、両端部を枠体7に固定された支柱31a、31bが設けられ、懸吊部材6が巻き架けられた支柱9’の両端部が支柱31a、31bに形成された凹部32a、32bに支持されている。支柱31a、31bの長さ方向の凹部32a、32bの幅は、支柱9’の直径R4よりも大きく形成されており、支柱9’はこの凹部32a、32bの幅方向へ移動可能に設けられている。これにより、エキサイタ3の取り付け位置が図11(a)(b)において左右方向、すなわち、凹部32a、32bの幅方向へばらついても、支柱9’の位置を移動させることにより、エキサイタ3を懸吊部材6によって常に鉛直方向から吊り上げることができるので、ダンパーに懸かる曲げ応力を減少させることができ高い音響性能を維持することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 平面スピーカ
2 振動板
3 エキサイタ
5 配線
6 懸吊部材
6f、6g 引っ掛け部
6f’、6g’ 引っ掛け孔
7 枠
8 縦支柱
9 横支柱
10 錘
11 磁気回路部
12 懸吊部材ガイド
20、21 緩衝座
N 重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板の裏面側に固着され、懸吊部材により懸吊されているエキサイタを備える平面スピーカであって、
前記懸吊部材は、その中間部が支柱に巻き架けられており、一端が前記エキサイタの重心近傍に固定され、他端がエキサイタの質量と略等しい質量の錘に固定されていることを特徴とする平面スピーカ。
【請求項2】
前記懸吊部材の一端は、前記エキサイタの重心を通る鉛直線上の位置に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の平面スピーカ。
【請求項3】
前記懸吊部材の支柱へ巻き架けられる部分は、支柱に対して移動可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の平面スピーカ。
【請求項4】
前記支柱は、複数であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の平面スピーカ。
【請求項5】
前記懸吊部材の支柱は、該支柱に直交する支柱支持枠に形成された凹部に支持されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の平面スピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−66775(P2011−66775A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217031(P2009−217031)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(509264305)
【Fターム(参考)】