説明

幹斜断具

【課題】 誰でも扱い難い従来型ナイフを使用する事無く、簡単な操作方法で生花等の幹や接木の木の接合箇所等の切り口の斜め切りが安全に行え、その切断面も維管束を潰さない綺麗な平面で斜めに切断できる幹斜断具を提供します。
【解決手段】 本体(1)に設けた上側保持部(3)と下側保持部(4)の間に生花等の幹や接木等の草木を通して固定し、握り部を握り閉めて切断刃(2)により生花等の幹や接木等の草木を斜めに綺麗に切断する事が可能なものです。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生け花等の寿命を延ばす為に水中に浸す幹の切り口や、若木の挿木や野菜、苗木等の接木の台木や穂木(以下、単に接木等の草木という)の切り口で、簡単に斜めに切断するために使用される切断具に関するものです。
【背景技術】
【0002】
生花等の幹や接木等の草木の切り口の切断では、切り出しナイフやフローリストナイフ等(以下、単に従来型ナイフという)を用いて切断面を広くする為、一般的な方法として正月飾りの門松の様に切り口を斜めに切断しています。
【0003】
生花等の幹を斜めに切断する訳として、植物の栄養分や水分が通る通道組織の維管束を潰さずに切断面を広くし、繊維組織を壊す事なく切断して生け花の組織の回復を促すものです。その為、剪定鋏の様に両側から挟み込んで切断すると維管束を潰し易く、生け花などでは花の寿命を著しく縮めてしまう事があります。
【0004】
更に、切断面が長く水に浸かっていると水や切断面が腐り易くなり、定期的に水の交換や切断面付近の幹を切って新たな切断面を作成する必要がありますし、接木の一般的な斜め切りでは、従来型ナイフの片刃の研磨部と反対の平面を幹本体に固定しながら一度では無理な切断を数回に分けて平らな面として切り、台木と穂木の切断面の維管束を合わせて接合部を密着させる必要があります。
【0005】
また、特開平07−298782号公報や実開平07−007355号公報の様に鋏の刃部の一部に凹部を設けて果樹の幹を固定し、他の刃部で固定された幹を斜めに切断する方法等が既に一般に知れております。
【0006】
【特許文献1】特開平07−298782号公報
【特許文献2】実開平07−007355号公報
【非特許文献1】金田洋一郎、早川直美著「素敵に飾る四季の切り花・鉢花」永岡書店 2002年
【非特許文献2】山下豊著「失敗しないさし木・とり木・つぎ木」成美堂出版 2002年
【非特許文献3】NHKテレビ「ためしてガッテン・いつまでも美しく!切り花長持ち新作戦」2004年6月30日放送のホームページ。 http://www3.nhk.or.jp/gatten/archive/2004q2/20040630.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、特開平07−298782号公報や実開平07−007355号公報の様に、鋏の刃部の一部に凹部を設け他の刃部で幹を斜めに切断する方法等が考えられておりましたが、凹部が刃部の先端付近で手元より離れ、更に小さい為、幹の固定が不安定で切り口が安定しないために使い難く一般には普及しておりません。その為、従来型ナイフを用いて生花等の幹や接木等の草木を斜めに切断するには、一般の人には慣れないと指を切ったりして大変危険なことがあります。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、棒状の上側保持部(3)と下側保持部(4)を持った本体(1)の側面に任意の距離を移動できる切断刃(2)を設け、上側保持部(3)と下側保持部(4)の内側面に接触させて生花等の幹を固定し、切断刃(2)の移動により生花等の幹を斜めに切断する事ができることを最も主要な特徴とします。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の本発明の幹斜断具によれば、生花等の幹を斜めに切断する際、従来型ナイフを使用しなくても誰でも簡単で安全に、生花等の幹に一定の傾斜角で綺麗に切断できるという利点と、接木の木の切断では切断面が平面の為、維管束を密着させた隙間の無い接木が短時間で出来るという利点があります。
【0010】
請求項2記載の本発明の幹斜断具によれば、樹液等で錆びたり刃毀れした切断刃(2)を移動して新たな切断場所の形成や新しい切断刃(2)へ交換して、最良の切断機能を持つ幹斜断具を利用する事ができるという利点があります。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1の切断刃(2)を固定型とした時の本発明の幹斜断具の実施説明図で説明すると、本体(1)に棒状の上側保持部(3)と下側保持部(4)を持ち、更に本体(1)の側面に任意の距離を移動できる切断刃(2)で構成します。
【0012】
本体(1)の側面に設けられた切断刃(2)の移動の仕方は例えば、図1の様にアーム(5)にネジ付けや溶接等で取り付けた切断刃(2)を支点(6)とその付近に設けたバネ(7)によって本体(1)の側面を弧を描く様に往復移動できる構造とし、通常、アーム(5)はバネ(7)によって最上部に位置しております。尚、切断刃(2)はアーム(5)との一体成形も可能です。
【0013】
また、前項の切断刃(2)を交換型として図5の切断刃(2)を交換型とした時の幹斜断具の実施説明図の様に、前項のアーム(5)を既存のカッターナイフと基本的に同じ構造として切断刃(2)を保持し、支点(6)により前項同様、本体(1)側面の任意の距離を弧を描く様に往復移動できる構造とします。
【0014】
交換型の切断刃(2)は従来のカッターナイフの刃と基本的には同様で、固定ネジ(12)や凹凸部(11)により切断刃保持具(10)内部を一定間隔で移動して任意の箇所に固定でき、更に、切断刃(2)の交換や切断刃(2)の先端付近の任意の切断溝(13)で切断刃(2)の一部を切断できる構造とします。
【実施例1】
【0015】
本例は本願『請求項1』の一例であり、図1の切断刃(2)を固定型とした時の本発明の幹斜断具の実施説明図で説明しますと、切断刃(2)がバネ(7)によって開いた状態でアーム握り部(14)と本体握り部(15)を右手で軽く握り本体(1)を保持します。そして、生け花の幹(9)の上部を左手で持ち、下部の生け花の幹(9)の切断しようとする箇所付近の幹を上側保持部(3)と下側保持部(4)の間に通します。
【0016】
その状態で軽く左手の生け花の幹(9)の上部を上げて上側保持部(3)と下側保持部(4)の間に通した生け花の幹(9)の切断しようとする箇所付近の幹の表皮を図3の様に上側保持部(3)と下側保持部(4)の内側面に接触させ、生け花の幹(9)がズレ動かない様に本体(1)に固定します。
【0017】
そして、やや強く右手に力を入れてバネ(7)を縮める様にアーム握り部(14)と本体握り部(15)を図2の様に握り閉めると、上側保持部(3)と下側保持部(4)の間に通した生け花の幹(9)に切断刃(2)が食い込み、図4の様に切断刃(2)によって生け花の幹(9)を斜めに切断します。
【0018】
切断刃(2)と上側保持部(3)及び下側保持部(4)との距離は極力少なくし切断刃(2)の切断機能を高める構造とします。また、上側保持部(3)や下側保持部(4)を接合させて保持部を枠組み状やリング状とすると保持部の強度が増して薄く製造する事ができ、有る程度自由な形状が作成でき保持部を変形させて切断刃(2)の方へ迫り出す構造とする事も可能です。
【実施例2】
【0019】
本例は本願『請求項2』の一例であり、図5の切断刃(2)を交換型とした時の幹斜断具の実施説明図で説明すると、交換型の切断刃(2)は従来のカッターナイフの刃と同様、固定ネジ(12)を緩めて切断刃保持具(10)より切断刃(2)の先端を出して不要な切断刃(2)の先端を切断溝(13)から折り、再び固定ネジ(12)を閉め付けて切断刃(2)の新たな切断場所を形成します。
【0020】
同様に、固定ネジ(12)を緩めて取り外すと従来のカッターナイフ同様、固定されていた切断刃(2)が外れ、別の新しい切断刃(2)を固定ネジ(12)で固定すると、生け花や若木等の幹の切断で樹液や水分が刃先に付いて錆びたり刃毀れした古い切断刃(2)の交換が誰にでも簡単に行う事ができます。
【0021】
切断刃(2)を交換型とした時の生け花の幹(9)を斜めに切断する工程は実施例1の切断刃(2)を固定型とした時と同じ工程となりますが、カッターナイフ本体(8)がアーム構造と成っており、支点(6)とバネ(7)によって本体(1)の側面を任意の距離で弧を描く様に往復移動できる構造と成ります。
【0022】
カッターナイフ本体(8)がアーム構造となっている為、切断刃(2)と上側保持部(3)や下側保持部(4)との間にカッターナイフ本体(8)の隙間が生じるので、図6の様に上側保持部(3)や下側保持部(4)を切断刃(2)の方向へ近付ける構造とし、切断刃(2)と上側保持部(3)及び下側保持部(4)との間の距離は極力少なくし切断刃(2)の切断機能を高める構造とします。
【0023】
上側保持部(3)と下側保持部(4)の距離を変化させると生け花の幹(9)の傾斜角が変わり、その結果、生け花の幹(9)に食い込む切断刃(2)の入射角が変わるので、上側保持部(3)と下側保持部(4)の距離をコントロールすると生け花の幹(9)の切断面の傾斜角をある程度設定する事ができます。
【0024】
コントロールの仕方は、例えば図5の様に上側保持部(3)を固定型として左右に空回りする調節ネジ(16)を設けます。その調節ネジ(16)にボルト状の螺旋溝(21)を設け、可動型の下側保持部(4)にナット状の螺旋溝を設けて互いを接合し、丁度、ノギスやモンキーレンチの様に調節ネジ(16)を左右に回転させて可動型の下側保持部(4)が上下に移動できる構造とします。
【実施例3】
【0025】
本例は本願『請求項1』の他の実施例であり、図7のスライド型とした幹斜断具の実施説明図で説明しますと、固定型の上側保持部(3)と可動型の下側保持部(4)を持った本体(1)の側面に、切断刃(2)を設けて任意の距離を往復移動できるスライド部(19)を設けた構造とします。
【0026】
本体(1)とスライド部(19)の接合の仕方は、スライド部(19)の任意の箇所に溝を設けて、その溝にピン状の接合具を貫通させて本体(1)と結合させたスライド接合部(17)を設けて任意の距離をスライドしながら往復移動できる構造とし、通常はバネ(7)によって最上部に位置しております。
【0027】
生け花の幹(9)の切断の仕方は例えば、スライド握り部(18)と本体握り部(15)を左手で軽く握り本体(1)を保持します。そして、生け花の幹(9)の上部を右手に持ち、下部の生け花の幹(9)の切断しようとする箇所付近の幹を図8の様に上側保持部(3)と下側保持部(4)の間に通します。
【0028】
その状態で軽く右手の生け花の幹(9)の上部を上げて上側保持部(3)と下側保持部(4)の内側面に接触させ図9の様に生け花の幹(9)がズレ動かない様に本体(1)に固定し、そして、強く左手に力を入れて握り部を握り閉めてスライド部(19)を下方向に移動させ、同時に移動する切断刃(2)により本体(1)に固定した生け花の幹(9)を斜めに切断します。
【0029】
以上の3例により、上側保持部(3)と下側保持部(4)との間で本体(1)に固定された生け花の幹(9)を任意の角度で切断刃(2)を接触させ、握り部を握り閉めて切断刃(2)を移動させながら生け花の幹(9)を斜めに切断します。
【0030】
これは丁度、従来、左手に生花等の幹を持ち右手で従来型ナイフを生花等の幹に斜めに接触させて斜めに切断するのと同様に、上側保持部(3)及び下側保持部(4)と左手によって固定した方法が従来の左手の役目に相当し、移動した切断刃(2)が従来型ナイフと同様に機能して生花等の幹を斜めに切断します。
【0031】
その為、不安定な手によって固定しながら従来型ナイフで生花等の幹を斜めに切断するのに比べ、上側保持部(3)と下側保持部(4)との間で本体(1)に固定した生け花の幹(9)と、切断刃(2)が支点(6)やスライド接合部(17)等により機械的な平行移動による切断の方が平面な切断面と成ります。
【0032】
また、既存の剪定鋏の様に生花等の幹に対して直角に挟み込む切り方よりも、切断刃(2)が斜めに接して切る方が生花等の幹の繊維組織を潰し難くし、その為、生花等の幹の切断面が広くて維管束を潰さない綺麗な平面と成ります。
【0033】
切断刃(2)は基本的に片刃の刃の方が理想的ですが、両刃の刃でも構わず例えば、実施例2の様に従来の両刃のカッターナイフを利用する場合は、両刃の刃先と下側保持部(4)との隙間を極力無くす様に切断刃(2)の刃先を下側保持部(4)に近付く様に若干傾けて片刃の刃の様に接して切断機能を高めます。
【0034】
更に、図10の様に既存の枝切鋏に組み込んだ場合は構造上、既存の鋏と同様に片刃の刃の方が切断刃(2)の切断機能を高めます。また、図4の様に本体握り部(15)の裏面をまな板の様に切断刃(2)の受け具とすると切断機能を高めると同時に、図2の様に本体(1)を保持している指の安全性も高めます。
【産業上の利用可能性】
【0035】
一般家庭の生け花や接木等の草木の切断では、扱い方の難しい従来型ナイフを使用する事なく、安全で簡単に生花等の幹を一定の傾斜角で斜めに切断し、その切断面も維管束を潰さない綺麗な平面とする事が可能です。
【0036】
花屋さん等での大量の花の手入れ作業では、従来より短時間で作業を行う事が可能ですし、農家等で比較的真直ぐで同径の接木では切断面の傾斜角が同じなので、接合部が一直線になる様に切断面の維管束を密着させる事が可能です。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】切断刃(2)を固定型とした時の本発明の幹斜断具の実施説明図。(実施例1)
【図2】固定型とした切断刃(2)のアーム(5)を握り閉じた時の使用説明図。
【図3】上側保持部(3)と下側保持部(4)により生け花の幹(9)を本体(1)に固定した説明側面図。
【図4】アーム(5)を閉じ、生け花の幹(9)切断時の説明側面図。
【図5】切断刃(2)を交換型とした時の幹斜断具の実施説明図。(実施例2)
【図6】カッターナイフ本体(8)を閉じ、生け花の幹(9)切断時の説明側面図。
【図7】スライド型とした幹斜断具の実施説明図。(実施例3)
【図8】スライド型とした幹斜断具の生け花の幹(9)を本体(1)に装着し様とした使用説明図。
【図9】スライド型とした幹斜断具の生け花の幹(9)を本体(1)に固定した説明側面図。
【図10】既存の枝切鋏に組み込んだ幹斜断具の実施説明図。
【符号の説明】
【0038】
1 本体、
2 切断刃、
3 上側保持部、
4 下側保持部、
5 アーム、
6 支点、
7 バネ、
8 カッターナイフ本体、
9 生け花の幹、
10 切断刃保持具、
11 凹凸部、
12 固定ネジ、
13 切断溝、
14 アーム握り部、
15 本体握り部、
16 調節ネジ、
17 スライド接合部、
18 スライド握り部、
19 スライド部、
20 スライド補助具、
21 ボルト状の螺旋溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側保持部(3)と下側保持部(4)を持った本体(1)の側面に任意の距離を移動できる切断刃(2)を設け、該本体(1)の上側保持部(3)と下側保持部(4)の対面する内側面に接触させた生花等の幹を、切断刃(2)を移動させる事によって斜めに切断することを特徴とした幹斜断具。
【請求項2】
本体(1)の側面に設けた切断刃(2)の形状をカッターナイフとして交換、又は、切断箇所の移動ができることを特徴とした請求項1記載の幹斜断具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−174757(P2006−174757A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371099(P2004−371099)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(593082841)